説明

固体高分子電解質膜、およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜−電極接合体、燃料電池

【課題】 プロトン伝導性に優れ、熱水中での寸法安定性が高い固体高分子電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜−電極接合体、燃料電池を提供することにある。
【解決手段】 重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有する固体高分子電解質膜であって、前記重合体(A)、および前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)とから選ばれる少なくとも一種の重合体はスルホン酸基を有し、前記重合体(A)および前記重合体(B)は特定の構造単位を有する、固体高分子電解質膜およびその製造方法、ならびにそれを用いた膜−電極接合体、燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規固体高分子電解質膜とその製造方法、及び該固体高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素ガスや各種の炭化水素系燃料(天然ガス,メタンなど)を改質して得られる水素と、空気中の酸素とを電気化学的に反応させて直接電気を取り出す発電装置であり、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに高効率で直接変換できる無公害な発電方式として注目を集めている。
【0003】
このような燃料電池は、触媒を担持した一対の電極膜(アノード極とカソード極)と該電極膜に挟持されたプロトン伝導性の固体高分子電解質膜(以下、プロトン伝導膜ともいう)とから構成される。アノード極の触媒によって、水素イオンと電子に分けられ、水素イオンは固体高分子電解質膜を通って、空気極で酸素と反応して水になる仕組みになっている。
【0004】
固体高分子電解質膜としては、Nafion(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成工業(株)社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)社製)の商品名で市販されているスルホン酸基を有する全フッ化炭素系高分子電解質膜、芳香族炭化水素系重合体系、ポリエーテルエーテルケトン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリイミド系、ポリベンザゾール系の芳香環を主鎖骨格に有し、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系高分子電解質膜等が提案されている。
例えば、米国特許第5,403,675号公報(特許文献1)には、スルホン化された剛直ポリフェニレンからなる固体高分子電解質が開示されている。このポリマーは、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られるポリマーを主成分とし、これをスルホン化剤と反応させてスルホン酸基を導入している。このポリマーからなる電解質膜は、熱変形温度が180℃以上であり、高温でのクリープ耐性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,403,675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの電解質膜は、プロトン伝導性および熱水中での寸法安定性が十分ではなく、固体高分子型燃料電池に利用する電解質膜としては、まだ不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況のもと、本発明者ら、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)、および前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)とが特定の構造単位を有することで固体高分子電解質膜のプロトン伝導性および熱水中での寸法安定性を改良できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成は以下の通りである。
[1] 重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有する固体高分子電解質膜であって、
前記重合体(A)、および前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)とから選ばれる少なくとも一種の重合体はスルホン酸基を有し、
前記重合体(A)および前記重合体(B)は下記式(2)で表される構造単位を有する、固体高分子電解質膜。
【0008】
【化1】

(上記式(2)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環または含窒素複素環の構造を有する2価の基を示す。
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部またはすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
A、Dは、それぞれ独立に、単結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−またはS−を示し、Bは−O−または−S−であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。)
[2] 前記重合体(B)がスルホン酸基を有する重合体である、前記[1]に記載の固体高分子電解質膜。
[3] 前記重合体(B)が下記式(1)で表される構造単位を含む、前記[2]に記載の固体高分子電解質膜。
【0009】
【化2】

(上記式(1)中、Ar11は、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する基を示し、Ar12は、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+2)価の基を示し、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+1)価の基を示す。Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−,−COO−、−(CF−(uは1〜10の整数である)、−C(CF−、または単結合を示す。
Zは、−O−、−S−、単結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、または−C(CH−を示す。
11は、単結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−または−(CF−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、酸素を含む複素環基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12およびR13のうち少なくとも1個は水素原子である。
は、0〜4の整数を示し、xは、1〜5の整数を示し、aは、0〜1の整数を示し、bは、0〜3の整数を示す。)
[4] 前記重合体(A)がスルホン酸基を有する重合体である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
[5] 前記重合体(A)が上記式(1)で表される構造単位を含む、前記[4]に記載の固体高分子電解質膜。
[6] 前記重合体(B)がスルホン酸基を含まない重合体である、前記[1]に記載の固体高分子電解質膜。
[7] 前記重合体(A)がスルホン酸基を含まない重合体である、前記[1]に記載の固体高分子電解質膜。
[8] 前記重合体(A)を含む液状組成物を前記多孔質基材(C)に塗布して、膜を形成する工程を含む、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に接して、触媒層とガス拡散層とを有することを特徴とする膜−電極接合体。
[10] 前記[9]に記載の膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体高分子電解質膜は、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)、および前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)とが特定の構造単位を有することでプロトン伝導性に優れ、熱水中での寸法安定性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[固体高分子電解質膜の構成]
本実施形態の固体高分子電解質膜は、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)および前記重合体(B)から選ばれる少なくとも一種の重合体は、スルホン酸基を有し、前記重合体(B)は下記式(2)で表される構造単位を有する。
【0012】
【化3】

上記式(2)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環または含窒素複素環の構造を有する2価の基を示す。
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部またはすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアルキル基、水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアリル基若しくは水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
A、Dは、それぞれ独立に、単結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−またはS−を示し、Bは−O−または−S−であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
また、上記式(2)中、構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構造単位との接続を意味する。
本実施形態の固体高分子電解質膜は、具体的には、前記多孔質基材(C)の孔内は、重合体(A)で充填されてなる。なお、「充填」とは、孔内の全ての領域が重合体(A)で満たされておらず一部空隙が生じているものも含む概念である。
また、本発明の固体高分子電解質膜は、孔内が重合体(A)で充填された前記多孔質基材(C)の片面または両面に1層以上の高分子電解質膜がさらに設けられた積層体構造をとることもできる。孔内が重合体(A)で充填された前記多孔質基材(C)の片面または両面にさらに設けられた前記高分子電解質膜には、スルホン酸基を有する重合体を含み、重合体(A)がスルホン酸基を有する重合体である場合、通常、重合体(A)を含む。
本発明の方法により得られる固体高分子電解質膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【0013】
本発明の固体高分子電解質膜としては、具体的には、下記の固体高分子電解質膜を挙げることができる。
【0014】
[本発明の実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜]
本発明の実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜は、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)がスルホン酸基を有し、かつ下記式(2)で表される構造単位を有する重合体であり、前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)がスルホン酸基を有し、かつ下記式(2)で表される構造単位を有する重合体である。本実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜は、優れた熱水耐性と特に優れたプロトン伝導性が得られる観点から好ましい。
【0015】
(i)重合体(A)
重合体(A)は、具体的には、スルホン酸基を有する構造単位および上記式(2)で表される構造単位を有する。
[スルホン酸基を有する構造単位]
スルホン酸基を有する構造単位は、例えば、下記式(1)で表される構造単位を挙げることができる。
【0016】
【化4】

上記式(1)中、Ar11は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する基を示し、Ar12、は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+2)価の基を示し、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+1)価の基を示す。Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−,−COO−、−(CF−(uは1〜10の整数である)、−C(CF−、または単結合を示す。
上記式(1)中、Zは、−O−、−S−、単結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、または−C(CH−を示す。
上記式(1)中、R11は、単結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−または−(CF−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基、脂環基、酸素を含む複素環基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12およびR13のうち少なくとも1個は水素原子である。
上記式(1)中、xは0〜4の整数を示し、xは1〜5の整数を示し、aは0〜1の整数を示し、bは0〜3の整数を示す。
なお、Ar11は、a=1の場合、3価の基を示し、a=0の場合、(x+2)価の基を示す。
【0017】
前記スルホン酸基を有する構造単位は、さらに下記式(1−1)で表されるものが好ましい。
【0018】
【化5】

スルホン酸基を有する構造単位の具体的構造としては、下記を挙げることができる。
【0019】
【化6】

【0020】
上記重合体(A)において、上記式(1)で表される構造単位が、優れたプロトン伝導性と熱水耐性が得られる観点から、熱水中で少なくとも2個以上連続していることが好ましく、少なくとも3個以上連続していることがより好ましく、少なくとも5個以上連続していることがさらに好ましく、少なくとも10個以上連続していることが特に好ましい。
上記重合体(A)がこのようなスルホン酸基を有する構造単位を有することで、良好なプロトン伝導性が得られる。
【0021】
[下記式(2)で表される構造単位]
さらに、重合体(A)は、下記式(2)で表される構造単位を有する。
重合体(A)が、下記式(2)で表される構造単位を含有していると、重合体(A)の疎水性が著しく向上する。このため、従来と同様のプロトン伝導性を具備しながら、熱水中での膨潤を抑制し、耐熱性を付与することができるため好ましい。
【0022】
【化7】

ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部またはすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。構造単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構造単位との接続を意味する。
上記式(2)中、A、Dは、それぞれ独立に、単結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は、それぞれ独立に、1価の炭化水素基、またはハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−またはS−を示し、
Bは、それぞれ独立に、−O−または−S−であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
上記式(2)で表される構造単位は、さらに、下記式(2−1)で表されるものが好ましい。
【0023】
【化8】

Bは、それぞれ独立に、−O−または−S−であり、
〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
このような構造単位として具体的には、以下のものが例示される。
【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
以上のような構造単位を含有していると、共重合体の疎水性が著しく向上する。このため、従来と同様のプロトン伝導性を具備しながら、優れた熱水耐性を付与することができる。
【0027】
[含窒素複素環基を有する構造単位]
本発明では、下記式(3)で表される含窒素複素環基を有する構造単位を含んでいてもよい。
【0028】
【化11】

上記式(3)中、Vは、好ましくは、単結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−または−SO−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
上記式(3)中、Rは、単結合、または特に限定されない、任意の二価の有機基である。二価の有機基としては、炭素数1〜20炭化水素基であればよく、具体的には、メチレン基、エチレン基などのアルキレン基、フェニレン基などの芳香族環があげられる。また、Rとして、−W−Ar−(Wは、単結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−または−SO−を示し、Arは、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。)で示される基でもよい。
上記式(3)中、eは、0〜4の整数を示し、fは、1〜5の整数を示す。
上記式(3)中、Rは、含窒素複素環基を示し、窒素を含む5員環、6員環構造が挙げられる。また、複素環内の窒素原子の数は、1個以上あれば特に制限されない、また複素環内には、窒素以外に、酸素や硫黄を含んでいても良い。
【0029】
を構成する含窒素複素環基として、具体的には、ピロール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、1,3,5−トリアジン、ピリミジン、ピリタジン、ピラジン、インドール、キノリン、イソキノリン、ブリン、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、カルバゾール、アクリジン、キノキサリン、キナゾリンからなる含窒素複素環化合物およびこれらの誘導体の炭素または窒素に結合する水素原子が引き抜かれてなる構造の基である。
【0030】
これらの含窒素複素環基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等のアリール基、シアノ基、フッ素原子などがあげられる。
含窒素複素環基を有する構造は、上記重合体(A)中に、好ましくは下記式(3−1)で表される構造を有している。
【0031】
【化12】

また、上記式(3)における、Vは−CO−か−SO−であることが好ましい。−CO−はピリジン環と組合わせると、共役による安定化効果により熱的に安定な構造となりやすい。また、−SO−は電子密度を下げて窒素の塩基性度がより抑制され、これによって、低湿度領域でのプロトン伝導性を特に高めることができる。
【0032】
主鎖の芳香環と電子吸引性基Vは、単結合しているのが安定性の面から好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の2価の基(すなわちR)が介在しても良い。ここで介在構造としては、炭素数1〜20の二価の有機基であれば特に限定されない。
【0033】
含窒素複素環基を有する構造単位を含むことにより、塩基性が付与され、プロトン伝導性を損なうことなく、高温下で高いスルホン酸の安定性を有する固体高分子電解質膜を得ることができる。
【0034】
[重合体(A)の構造]
本発明で使用される重合体(A)は、例えば、下記式(4)で表される。
【0035】
【化13】

【0036】
本発明で用いられる重合体(A)1モルが有する式(1)で表される構造単位のモル数を(x)、式(3)で表される構造単位のモル数を(y)、式(2)で表される構造単位のモル数を(z)とするとき、(x)/{(x)+(y)+(z)}×100の値は、好ましくは0.05〜100であり、さらに好ましくは0.5〜99.9であり、特に好ましくは1〜90である。
【0037】
また、式(3)で表される構造単位は任意成分であるため、(y)は0であってもよい。また、式(3)で表される構造単位を含む場合、((y)/{(x)+(y)+(z)}×100の値は、好ましくは0.05〜99.95であり、さらに好ましくは0.1〜99であり、特に好ましくは0.5〜90である。
重合体(A)中の式(3)で表される構造単位のモル数を(y)がこのような量で含まれると、該スルホン酸基を有する重合体(A)から得られる高分子電解質は、熱水条件下における膨潤抑制、面積変化抑制に優れ、高温条件下における架橋耐性に優れるため好ましい。
また、式(3)で表される構造単位と式(1)で表される構造単位の比率(y)/(x)は、0.01〜20、好ましくは0.1〜15、より好ましくは0.5〜10であることが好ましい。式(3)で表される構造単位と式(1)で表される構造単位の比率が上記範囲にあると、共重合体は、プロトン伝導度を低下させることなく、熱水中での膨潤を抑制し、耐熱性を向上させることができるため好ましい。
【0038】
また、(z)/{(x)+(y)+(z)}×100の値は、好ましくは0〜99.5であり、さらに好ましくは0.01〜99であり、特に好ましくは0.1〜98である。
【0039】
本発明で使用される重合体(A)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万、さらに好ましくは5万〜30万である。
重合体(A)のイオン交換容量は0.5〜4.0meq/g、好ましくは0.5〜3.5meq/g、さらに好ましくは0.8〜3.2meq/gであることが望ましい。イオン交換容量が、0.5meq/g以上であれば、プロトン伝導度が高く、かつ発電性能の高い高分子電解質を得ることができるため好ましい。一方、3.5meq/g以下であれば、充分に高い耐水性を具備できるため好ましい。
【0040】
上記のイオン交換容量は、各構造単位の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。したがって、重合時に構造単位を誘導する前駆体(モノマー・オリゴマー)の仕込み量比、種類を変えれば調整することができる。
該してスルホン酸基を含む構造単位が重合体中に多くなると、イオン交換容量が増えプロトン伝導性が高くなるが、耐水性が低下する傾向にあり、一方、これらの構造単位が少なくなると、イオン交換容量が小さくなり、耐水性が高まるが、プロトン伝導性が低下する傾向にある。
【0041】
本発明で使用されるスルホン酸基を有する重合体(A)は、例えば、特開2004−137444号公報に記載の方法で、スルホン酸基を有する構造単位となるスルホン酸エステルと、含窒素芳香族環構造を有する構造単位となるモノマー、芳香族構造を有する構造単位となるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
また、例えば、特開2001−342241号公報に記載の方法で、スルホン酸基を有する構造単位となるが、スルホン酸基が導入されていないモノマーと、含窒素芳香族環構造を有する構造単位となるモノマー、芳香族構造を有する構造単位となるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、この重合体を、スルホン化剤を用いて、スルホン化することにより合成することもできる。
【0042】
式(1)においてR11−SO13、式(1−1)においてArが、−O(CHSOHまたは−O(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基である場合には、例えば、特願2003−295974号(特開2005−60625号公報)に記載の方法で、スルホン酸基を有する構造単位となるが、スルホン酸基が導入されていないモノマーと、含窒素芳香族環構造を有する構造単位となるモノマー、芳香族構造を有する構造単位となるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、この重合体と、プロパンスルトン、ブタンスルトンなどを反応させることでアルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法で合成することもできる。
【0043】
(ii)多孔質基材(C)
また、本発明の実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜に用いる多孔質基材(C)は、スルホン酸基を有し、上記式(2)で表される構造単位を含む重合体(B)から構成される。
重合体(B)としては、上述した重合体(A)と同様の重合体を挙げることができる。
また、多孔質基材(C)とは、厚さ方向に対して貫通する多数の細孔又は空隙を有するものであれば特に制限されるものではなく、織布、不織布などを挙げることができる。
多孔質基材(C)の平均孔径は、0.005〜5μm、好ましくは、0.01〜3μm、さらに好ましくは、0.1〜1μmの範囲にあるものが望ましく、空孔率が40〜95%、好ましくは60〜90%、さらに好ましくは70〜90%であるものが望ましい。このような特性を有するものであれば、適度なスルホン酸基を有する重合体(A)を充填することが可能であり、かつ、固体高分子電解質膜の強度や耐久性、耐熱性を高めることが可能となる。ここで、平均孔径は、バブルポイント法(ASTM F316−03、JIS K 3832)により測定する。透気度(sec/100cc)は、ガーレー試験機法(JIS P8117)により測定する。空孔率(%)は、(1−密度2/密度1)×100で表される。ここで、密度1は、多孔質基材(C)を構成する材料(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質基材の場合のポリテトラフルオロエチレン、高分子量ポリエチレン製多孔質基材の場合の高分子量ポリエチレンをいう。)の密度であり、密度2は、多孔質フィルムの空隙部分を含む多孔質フィルム全体の密度である。
また、多孔質基材(C)の密度2(目付)は、0.1〜50g/mであることが好ましく、0.5〜20g/mであることがより好ましい。
また、多孔質基材(C)が繊維の集合体から構成される場合、平均繊維径は30nm〜1000nmであることが好ましく、50nm〜500nmであることがより好ましい。平均繊維径が30nm未満であると、製造が困難になることがあり、1000nmを超えるとプロトン伝導性および熱水耐性が向上する効果が小さくなることがある。なお、平均繊維径は、繊維集合体に白金パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡を用いて観察したSEM画像から任意の20本の繊維を選び、繊維直径を測定し、その測定した20本の繊維直径の平均値を算出することで求めることができる。
また、多孔質基材(C)の厚みは、通常10〜100μmであり、好ましくは20〜80μmである。
【0044】
重合体(B)から構成される多孔質基材(C)を得る方法としては、例えば、静電紡糸法などの溶液紡糸法、メルトブロー法などの溶融紡糸法を挙げることができ、繊維径の小さい多孔質基材(C)を得る観点から、溶液紡糸法を用いることが好ましく、静電紡糸法を用いることがより好ましい。静電紡糸法は、従来公知の方法であり、具体的には、ノズル等から紡糸空間へ重合体溶液を供給し、紡糸空間へ供給した重合体溶液に対して電界を作用させることにより、重合体を繊維化する方法である。
重合体溶液に電解を作用させる際に印加する電圧は、3〜100kVであることが好ましく、5〜70kVであることがより好ましく、5〜50kVであることがさらに好ましい。なお、印加する電圧の極性はプラスとマイナスのいずれであってもよく特に限定されるものではない。
静電紡糸を行う際の雰囲気としては、一般的には空気中で行うが、二酸化炭素などの空気よりも放電開始電圧の高い気体中で静電紡糸を行うことで、低電圧での紡糸が可能となり、コロナ放電などの以上放電を防止することができる。
【0045】
また、本発明にかかる固体高分子電解質膜は、金属化合物または金属イオンを含むこともできる。金属化合物または金属イオンとしては、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、セリウム(Ce)、バナジウム(V)、ネオジウム(Nd)、プラセオジウム(Pr)、サマリウム(Sm)、コバルト(Co)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、及び、エルビウム(Er)等の金属化合物またはこれらの金属イオンが挙げられる。
【0046】
[本発明の実施の形態(2)に係る固体高分子電解質膜]
本発明の実施の形態(2)に係る固体高分子電解質膜は、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)が上記式(2)で表される構造単位を有し、かつスルホン酸基を含まない重合体であり、前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)がスルホン酸基を有し、上記式(2)で表される構造単位を有する重合体である。本実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜は、優れた熱水耐性と特に優れたプロトン伝導性が得られる観点から好ましい。
【0047】
実施の形態(2)において用いる重合体(A)としては、上記式(2)で表される構造単位を有し、かつスルホン酸基を含まない重合体であり、例えば、次のような反応により合成することができる。
まず、下記式(2−2)で表されるビスフェノール類またはビスチオフェノール類をアルカリ金属塩とする。
【0048】
【化14】

【0049】
このとき、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒に溶解した後、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で使用する。このとき、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、反応の進行を促進させることが好ましい。
【0050】
次いで、上記ビスフェノール類のアルカリ金属塩を下記式(2−3)で表されるジハロゲン化物と反応させる。
【0051】
【化15】

上記式(2−3)中、Ar21、Ar22、D、sは、上記式(2)中のAr21、Ar22、D、sと同様であり、Zはハロゲン原子を示し、特にフッ素原子または塩素原子が好ましい。
【0052】
式(2−2)で表されるビスフェノール類として、例えば、1,3−ビス[1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(Bis−M)、1,4−ビス[1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1,3−(4−ヒドロキシベンゾイルベンゼン)、1,4−(4−ヒドロキシベンゾイルベンゼン)、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、4,4'−イソプロピリデンビフェノール(Bis−A)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Bis−AF)、4,4'−ビスヒドロキシベンゾフェノン(4,4'−DHBP)、4,4'−ビスヒドロキシジフェニルスルホン(4,4'−DHDS)、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシビフェニル(4,4'−DHBP)、ビス(4―ヒドロキシフェニル)メタン、レゾルシノール(RES)、ヒドロキノン(HQ)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPFL)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCFL)、4,4'−イソプロピリデンビス(2−フェニルフェノール)、4,4'−シクロヘキシリデンビス(2−シクロヘキシルフェノール)、1,5−ジヒドロキシナフタレン(1,5−NAP)、1,6−ジヒドロキシナフタレン(1,6−NAP)、1,7−ジヒドロキシナフタレン(1,7−NAP)、2,6−ジヒドロキシナフタレン(2,6−NAP)、2,7−ジヒドロキシナフタレン(2,7−NAP)、2,3−ジヒドロキシナフタレン(2,3−NAP)などが挙げられる。なかでも1,3−ビス[1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(Bis−M)、1,4−ビス[1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Bis−AF)、レゾルシノール(RES)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPFL)が好ましい。これらのビスフェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
また、式(2−2)で表されるビスチオフェノール類として、例えば、1,3−ビス[1−メチル−1−(4−メルカプトフェニル)エチル]ベンゼン(Bis−M)、1,4−ビス[1−メチル−1−(4−メルカプトフェニル)エチル]ベンゼン、1,3−(4−メルカプトベンゾイルベンゼン)、1,4−(4−メルカプトベンゾイルベンゼン)、1,3−ビス(4−メルカプトフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−メルカプトフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−メルカプトフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−メルカプトフェニル)ベンゼン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ビスメルカプトベンゾフェノン、4,4'−ビスメルカプトジフェニルスルホン、4,4'−ジメルカプトジフェニルエーテル、4,4'−ジメルカプトビフェニル、ビス(4―メルカプトフェニル)メタン、9,9−ビス(4−メルカプトフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−メルカプト−3−メチルフェニル)フルオレン、1,5−ジメルカプトナフタレン、1,6−ジメルカプトナフタレン、1,7−ジメルカプトナフタレン、2,6−ジメルカプトナフタレン、2,7−ジメルカプトナフタレン、2,3−ジメルカプトナフタレンなどが挙げられる。これらのビスチオフェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0053】
式(2−3)で表されるジハロゲン化物として、例えば、4,4'−ジクロロベンゾフェノン(4,4'−DCBP)、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン(4,4'−DFBP)、4−クロロ−4'−フルオロベンゾフェノン、2−クロロ−4'−フルオロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン(4,4'−DCDS)、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン(4,4'−DFDS)、2,6−ジニトロベンゾニトリル、2,5−ジニトロベンゾニトリル、2,4−ジニトロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル(2,6−DCBN)、2,5−ジクロロベンゾニトリル(2,5−DCBN)、2,4−ジクロロベンゾニトリル(2,4−DBN)、2,6−ジフルオロベンゾニトリル(2,6−DFBN)、2,5−ジフルオロベンゾニトリル(2,5−DFBN)、2,4−ジフルオロベンゾニトリル(2,4−DFBN)などが挙げられる。
これらのビスフェノール類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0054】
上記ジハロゲン化物は、ビスフェノール類またはビスチオフェノール類に対し1.0001〜3倍モル、好ましくは1.001〜2倍モルの量で用いられる。また両末端が塩素原子となるように、反応終了後に、例えば、ジクロロ化合物を過剰に加えてさらに反応させてもよい。ジフルオロ化合物やジニトロ化合物を用いた場合には、両末端が塩素原子となるよう、反応後半時にジクロロ化合物を添加する方法などを用いる工夫が必要である。
【0055】
これらの反応は、反応温度が60℃〜300℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で、反応時間が15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲で行われる。
得られた化合物はオリゴマーないしポリマーであるが、これらはポリマーの一般的な精製方法、例えば、溶解−沈殿の操作によって精製することができる。分子量の調整は、過剰の芳香族ジクロライドとビスフェノールとの反応モル比によって行う。芳香族ジクロライドが過剰にあるため、得られる化合物の分子末端は、芳香族クロライドになっている。
【0056】
本実施の形態(2)で使用される重合体(A)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、好ましくは1万〜100万、より好ましくは2万〜80万、さらに好ましくは5万〜30万である。
【0057】
また、多孔質基材(C)としては、上記実施の形態(1)において用いた多孔質基材(C)と同様のものを挙げることができる。
【0058】
[本発明の実施の形態(3)に係る固体高分子電解質膜]
本発明の実施の形態(3)に係る固体高分子電解質膜は、重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有し、前記重合体(A)がスルホン酸基を有し、下記式(2)で表される構造単位を有する重合体であり、また、前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)が下記式(2)で表される構造単位を有し、かつスルホン酸基を含まない重合体である。本実施の形態(1)に係る固体高分子電解質膜は、優れたプロトン伝導性と特に優れた熱水耐性が得られる観点から好ましい。
【0059】
なお、重合体(A)としては、上記実施の形態(1)において用いたスルホン酸基を有し、上記式(2)で表される構造単位を有する重合体と同様のものを挙げることができる。
【0060】
また、多孔質基材(C)としては、重合体(B)として、上記実施の形態(2)において用いた上記式(2)で表される構造単位を有し、スルホン酸基を含まない重合体を用いる以外は上記実施の形態(1)で用いた多孔質基材(C)と同様のものを用いることができる。
【0061】
[固体高分子電解質膜の製造方法]
本発明の実施の形態(1)〜(3)にかかる固体高分子電解質膜は、前記重合体(A)を含む液状組成物と多孔質基材(C)を用いて作製することができ、具体的には、次の方法を挙げることができる。
第一の態様としては、前記スルホン酸基を有する重合体(A)を含む液状組成物を非多孔性の基材上に塗布して、膜を形成する工程と、前記工程において得られた非多孔性の基材上の膜に多孔質基材(C)を接触させる工程とからなる方法が挙げられる。この場合、非多孔性の基材上に形成した膜と多孔質基材(C)の厚みとを適宜調整することで、孔内が前記重合体(A)で充填された前記多孔質基材(C)の少なくとも一面に1層以上の高分子電解質膜が設けられた積層構造とすることができる。
また、第二の態様としては、前記スルホン酸基を有する重合体(A)を含む液状組成物を多孔質基材(C)に塗布して、重合体(A)で孔内が充填された多孔質基材(C)を得る方法(第二の態様)を挙げることができる。塗布する液状組成物の濃度および量、ならびに多孔質基材(C)の厚みを適宜調整することで、孔内が前記スルホン酸基を有する重合体(A)で充填された前記多孔質基材(C)の少なくとも一面に1層以上の高分子電解質膜が設けられた積層構造とすることができる。
固体高分子電解質膜の製造法において、上記各態様は組み合わせて用いることもできる。具体的には、第一の態様を行った後に、第二の態様を行う方法や、第二の態様を行った後に第一の態様を行う方法が挙げられ、第一の態様を行った後に、第二の態様を行う方法が好適に用いられる。
なお、第一の態様と第二の態様を組み合わせて行う場合には、少なくとも一つの層を形成する際に、重合体(A)を含む上記液状組成物を用いればよい。このため、すでに形成された膜に重合体(A)が含まれている場合、積層のために塗布ないし熱プレスに供されるスルホン酸基を有する重合体を含む組成物には、重合体(A)が含まれていなくともよい。また、形成された膜に重合体(A)が含まれていない場合、積層のために塗布ないし熱プレスに供される組成物として、本発明にかかる重合体(A)を含む液状組成物を使用してもよい。
【0062】
また、第一の態様において非多孔性の基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0063】
前記重合体(A)を含む液状組成物は、具体的には、重合体(A)および溶媒を含む。
溶媒としては、前記重合体(A)を溶解する溶媒や膨潤させる溶媒であれば良く、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリルなどの非プロトン系極性溶剤や、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類などの溶剤が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう。)が好ましい。
【0064】
また、上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25質量%、好ましくは90〜25質量%、他の溶剤が5〜75質量%、好ましくは10〜75質量%(但し、合計は100質量%)である。他の溶剤の量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。この場合の非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールが好ましい。
【0065】
本発明にかかる液状組成物は、重合体(A)が溶解するものであっても、少なくとも一方が溶解せずに分散したものであっても、溶解物と分散物との混合物であってもよい。
液状組成物中の上記重合体(A)濃度は、分子量にもよるが、通常、5〜40質量%、好ましくは7〜25質量%である。5質量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40質量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0066】
なお、溶液粘度は、上記重合体(A)の分子量や、ポリマー濃度や、添加剤の濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。粘度が低いと、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、粘度が高すぎると、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
本発明にかかる液状組成物は、前記溶媒中で重合体(A)を前記溶媒中に溶解又は分散させることによって調製する方法が挙げられる。
液状組成物には、上記重合体(A)以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、リン酸ガラス、タングステン酸、リン酸塩水和物、β−アルミナプロトン置換体、プロトン導入酸化物等の無機プロトン伝導体粒子、カルボン酸を含む有機酸、スルホン酸を含む有機酸、ホスホン酸を含む有機酸、適量の水などを併用しても良い。
【0067】
液状組成物の塗布方法としては、公知の方法を採用可能であり、スプレーコート、ナイフコート、ロールコート、スピンコート、グラビアコートなどが挙げられる。この方法では、多孔質基材(C)の一方の面と他方の面にそれぞれ異なるポリマー溶液を塗布することも可能であり、また、塗布量を調節して、ポリマー層の厚さを調製してもよく、例えば一方のポリマー層を厚く、他方を薄くしてもよい。
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られる固体高分子電解質膜中の残留溶媒量を低減することができる。
【0068】
なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
製膜後、さらに、スルホン酸基を有する重合体を含む液状組成物を塗布して、固体高分子電解質膜を多層構造にしてもよい。
【0069】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5質量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1質量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルム1重量部に対する水の使用量が50重量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0070】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間、真空乾燥することにより、膜を得ることができる。
本発明の方法により得られる固体高分子電解質膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【0071】
[膜−電極接合体]
本発明にかかる膜−電極接合体は、前記固体高分子電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層とを備えた膜−電極接合体である。典型的には、前記固体高分子電解質膜を挟んで一方にはカソード電極用の触媒層と他方にはアノード電極用の触媒層が設けられており、さらにカソード側およびアノード側の各触媒層の固体高分子電解質膜と反対側に接して、カソード側およびアノード側にそれぞれガス拡散層が設けられている。
ガス拡散層、触媒層として、公知のものを特に制限なく使用可能である。
【0072】
具体的にガス拡散層は、多孔性基材又は多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる。ガス拡散層が多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる場合には、微多孔層が触媒層に接して設けられる。カソード側およびアノード側のガス拡散層は、撥水性を付与するために含フッ素重合体を含んでいることが好ましい。
触媒層は、触媒、イオン交換樹脂電解質から構成される。触媒としては、白金、パラジウム、金、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属触媒が好ましく用いられる。また、貴金属触媒は、合金や混合物などのように、2種以上の元素が含まれるものであってもよい。このような貴金属触媒は、通常、高比表面積カーボン微粒子に担持したものを用いることができる。
【0073】
イオン交換樹脂電解質は、前記触媒を担持したカーボンを結着させるバインダー成分として働くとともに、アノード極では触媒上の反応によって発生したイオンを固体高分子電解質膜へ効率的に供給し、また、カソード極では固体高分子電解質膜から供給されたイオンを触媒へ効率的に供給する。
【0074】
本発明で用いられる触媒層のイオン交換樹脂としては、触媒層内のプロトン伝導性を向上させるためにプロトン交換基を有するポリマーが好ましい。このようなポリマーに含まれるプロトン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などがあるが特に限定されるものではない。また、このようなプロトン交換基を有するポリマーも、特に限定されることなく選ばれるが、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるプロトン交換基を有するポリマーや、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体などが好ましく用いられる。また、上記の固体高分子電解質膜を構成するスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体をイオン交換性樹脂として使用してもよく、さらにプロトン交換基を有するフッ素原子を含むポリマーや、エチレンやスチレンなどから得られる他のポリマー、これらの共重合体やブレンドであっても構わない。このようなイオン交換樹脂電解質は、公知のものを特に制限なく使用可能であり、たとえばNafion(DuPont社、登録商標)やスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系重合体等を特に制限なく使用できる。
【0075】
本発明で用いられる触媒層に必要に応じてさらに、炭素繊維、イオン交換基を有しない樹脂を用いてもよい。これらの樹脂としては撥水性の高い樹脂であることが好ましい。例えば含フッ素共重合体、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ワックス、ポリホスファゼンなどを挙げることができるが、好ましくは含フッ素共重合体である。
【0076】
[燃料電池]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、前記膜−電極接合体を含むことを特徴としている。具体的には、少なくとも一つ以上の膜−電極接合体及びその両側に位置するセパレータを含む少なくとも一つの電気発生部;燃料を前記電気発生部に供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記電気発生部に供給する酸化剤供給部を含む型燃料電池であって、膜−電極接合体が上記記載のものであることを特徴とする。
【0077】
本発明の電池に用いられるセパレータとしては、通常の燃料電池に用いられるものを用いることができる。具体的にはカーボンタイプのもの、金属タイプのものなどを用いることができる。
【0078】
また、燃料電池を構成する部材としては、公知のものを特に制限なく使用することが可能である。本発明の電池は単セルで用いることもできるし、複数の単セルを直列に繋いだスタックとして用いることもできる。スタックの方法としては公知のものを用いることができる。具体的には単セルを平面状に並べた平面スタッキング、及び燃料または酸化剤の流路がセパレータの裏表面にそれぞれ形成されているセパレータを介して単セルを積み重ねるバイポーラースタッキングを用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは
ない。本実施例での評価は以下のようにして行なった。
【0080】
<スルホン酸当量>
以下、合成例1、2で得られたスルホン酸基を有する構造単位を含む重合体を、1N塩酸水で洗浄後、フリーに残存している酸を除去するため水洗水が中性になるまでイオン交換水で充分に洗浄し、乾燥後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解したフェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点から、スルホン酸当量を求めた。
【0081】
<分子量の測定>
合成例で得られた重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)または数平均分子量(以下、「Mn」ともいう。)を、臭化リチウム7.83gとリン酸3.3mlと溶媒からなる混合溶液を溶離液として用い、GPCを用い、ポリスチレン換算の重量平均分子量または数平均分子量を求めた。
【0082】
<平均繊維径>
平均繊維径は、下記作製例で得られた多孔質基材に白金パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡を用いて観察したSEM画像から任意の20本の繊維を選び、繊維直径を測定した。そして、測定した20本の繊維直径の平均値を算出し、平均繊維径とした。
【0083】
<プロトン伝導度の測定>
実施例および比較例で得られた固体高分子電解質膜を5mm幅の短冊状膜試料に加工し、かかる試料表面に、白金線(直径0.5mm)を押し当て、恒温恒湿装置中に試料を保持し、白金線間の交流インピーダンス測定から交流抵抗を求めた。すなわち、80℃、相対湿度85%、35%の環境下で交流10kHzにおけるインピーダンスを測定した。抵抗測定装置として、(株)NF回路設計ブロック製のケミカルインピーダンス測定システムを用い、恒温恒湿装置には、(株)ヤマト科学製のJW241を使用した。白金線は、5mm間隔に5本押し当てて、線間距離を5〜20mmに変化させ、交流インピーダンスを測定した。交流インピーダンスから、各抵抗線間勾配を測定し、線間距離と抵抗線間勾配から膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数および膜厚から、プロトン伝導度を算出した。
比抵抗R(Ω・cm)=0.5(cm)×膜厚(cm)×抵抗線間勾配(Ω/cm)
【0084】
<熱水耐性評価>
実施例および比較例で得られた固体高分子電解質膜を縦2cm×横3cmに加工し、約900ccの純水の入った1Lのテフロン(登録商標)製容器に入れる。この容器を恒温槽に入れ、93℃×24hの条件で熱水耐性試験を実施した。熱水中での寸法変化率を次式から算出した。
熱水中での寸法変化率(%)=(熱水から取り出し直後の縦寸法(cm)/2 + 熱水から取り出し直後の横寸法(cm)/3)/2 × 100 − 100
【0085】
[合成例1] スルホン酸基を有する構造単位と上記式(2)で表される構造単位を含む重合体(P−1)の合成
(1)疎水性ユニットの合成
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26モル)、炭酸カリウム47.3g(0.34モル)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346ml、トルエン173mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072モル)を加え、さらに5時間反応した。
得られた反応液を放冷後、トルエン100mlを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mlに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、目的の化合物107gを得た。
得られた目的の化合物のGPC(溶媒:テトラヒドロフラン)で求めたポリスチレン換算の数平均分子量は7,300であった。得られた化合物は下記構造式で表されるオリゴマーであった。
【0086】
【化16】

【0087】
(2)親水性ユニットの合成
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸233.0g(2モル)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン100.4g(400ミリモル)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷1000gにゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリドを得た。粗結晶は精製せず、そのまま次工程に用いた。
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)38.8g(440ミリモル)をピリジン300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000ml中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、下記構造式で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0088】
【化17】

【0089】
(3)塩基性ユニットの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの3口フラスコに、フルオロベンゼン240.2g(2.50モル)を取り、氷浴で10℃まで冷却し、2,5−ジクロロ安息香酸クロライド134.6g(0.50モル)、塩化アルミニウム86.7g(0.65モル)を反応温度が40℃を超えないように徐々に添加した。添加後、40℃で8時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより原料の消失を確認した後、氷水に滴下し、酢酸エチルから抽出を行った。5%重曹水により中和した後、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムにより乾燥させた後、エバポレーターにより溶媒を留去した。メタノールから再結晶を行うことにより、中間体の2,5−ジクロロ−4'−フルオロベンゾフェノンを130g、収率97%で得た。
【0090】
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた2Lの3口フラスコに、上記2,5−ジクロロ−4'−フルオロベンゾフェノン130.5g(0.49モル)、2−ヒドロキシピリジン46.1g(0.49モル)、炭酸カリウム73.7g(0.53モル)、を取り、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)500mL、トルエン100mLを加え、オイルバス中、窒素雰囲気下で加熱、撹拌下130℃で反応させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。その後、大部分のトルエンを除去し、130℃で10時間反応を続けた。得られた反応液を放冷後、濾液を2Lの水/メタノール(9/1)中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥した。撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた2Lの3口フラスコに乾燥物を取り、トルエン1L中で100℃で撹拌し、残留した水分を留去し溶解させた。放冷後、結晶化物を濾過することにより下記構造式で表される淡黄色の2,5−ジクロロ−4'−(ピリジン−2−イル)ベンゾフェノンを142g、収率83%で得た。
【0091】
【化18】

【0092】
(4)重合体(P−1)の合成
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1Lの3口フラスコに、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)166mLを(1)で合成したオリゴマー13.4g(1.8ミリモル)、(2)で合成した3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 37.6g(93.7ミリモル)、(3)で合成した2,5−ジクロロ−4'−(ピリジン−2−イル)ベンゾフェノン 1.61g(4.7ミリモル)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0ミリモル)、トリフェニルホスフィン10.5g(40.1ミリモル)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0ミリモル)、亜鉛15.7g(240.5ミリモル)の混合物中に窒素下で加えた。
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。重合反応溶液をDMAc175mLで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。撹拌機を取り付けた1Lの3つ口で、この濾液に臭化リチウム24.4g(281ミリモル)を1/3ずつ3回に分け1時間間隔で加え、内温120℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的の塩基性ユニットが導入されたスルホン酸基を有する重合体38.0gを得た。この脱保護後のスルホン酸基を有する重合体のGPC(溶媒:N−メチル−2−ピロリドン)で測定したポリスチレン換算の分子量は、Mn=63000、Mw=194000であった。この重合体のイオン交換容量は2.33meq/gであった。得られた重合体は、下記構造式で表される化合物(重合体(P−1))である。
【0093】
【化19】

【0094】
[合成例2] スルホン酸基を有する構造単位と上記式(2)で表される構造単位を含む重合体(P−2)の合成
(1)親水性ユニットの合成
2,2−ジメチルプロパノール44.9g(510.2ミリモル)をピリジン147mlに溶解させた。これに、0℃で、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸クロリド100g(405.6ミリモル)を加え、室温で、1時間攪拌、反応させた。反応混合物に、酢酸エチル740mL及び2mol%塩酸740mLを加え、30分間撹拌した後、静置し、有機層を分離した。分離した有機層を水740mL、10重量%炭酸カリウム水溶液740mL、飽和食塩水740mLで順次洗浄した後、減圧条件下で、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム溶媒)で精製した。得られた溶出液から溶媒を、減圧条件下で留去した。残渣を、65℃でヘキサン970mLに溶解させた後、室温まで冷却した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、下記構造式で表される2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)の白色固体を99.4g、収率82.1%で得た。
【0095】
【化20】

【0096】
(2)重合体(P−2)の合成
無水塩化ニッケル1.62g(12.5ミリモル)とジメチルスルホキシド(DMSO)15mLとを混合し、内温70℃ に調整した。これに、2,2’−ビピリジン2.15g(13.8モル)を加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。(1)で合成した2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.49g(5.0ミリモル)と下記構造式で示されるスミカエクセルPES5200P(住友化学社製、Mn=40000、Mw=94000)0.50g(0.013ミリモル)とをジメチルスルホキシド(DMSO)5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛1.23g(18.8ミリモル)を加え、70℃に調整した。
【0097】
【化21】

【0098】
これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の重合中間体を1.62g得た。得られた重合中間体1.62gを、臭化リチウム1.13g(13.0ミリモル)とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)56mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸560mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の目的のスルホン酸基を有する重合体0.42gを得た。この脱保護後のスルホン酸基を有する重合体のGPC(溶媒:N−メチル−2ピロリドン)で測定したポリスチレン換算の分子量は、M n=75000、Mw=173000であった。この重合体のイオン交換容量は1.95meq/gであった。得られたスルホン酸基を有する重合体は、下記構造式で表される化合物(重合体(P−2))である。
【0099】
【化22】

【0100】
[合成例3] 上記式(2)で表される構造単位を含み、スルホン酸基を有する構造単位を含まない重合体(P−3)の合成
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル68.8g(0.4モル)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン134.5g(0.4モル)、炭酸カリウム71.9g(0.52モル)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン480ml、トルエン240mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル20.6g(0.12モル)を加え、さらに5時間反応した。反応液を放冷後、反応液を放冷後、メタノール/4wt%(5/1(体積比))硫酸溶液1920mL中に凝固した。沈殿した生成物を濾過し、水1880mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、再度水1880mL中、55℃で1時間攪拌した。濾過後、メタノール1880mL中、55℃で1時間攪拌した後、濾過し、再度メタノール1880mL中、55℃で1時間攪拌し濾過した。風乾後、80℃で真空乾燥し目的物157g(収率90%)を得た。GPCで測定したMnは213,000であった。得られた重合体は下記構造式で表される化合物(重合体(P−3))ことを確認した。
【0101】
【化23】

【0102】
[作製例1] 重合体(P−1)から構成される多孔質基材の作製
合成例1で得られた重合体(P−1)をN,N−ジメチルホルムアミドに、10wt%の濃度となるように溶解させた紡糸液を、静電紡糸法により紡糸し、合成例1で得られた重合体(P−1)からなる繊維が均一に分散した不織布を作製した。続いて温度150℃で10分間乾燥して、溶剤を除去し、不織布状の多孔質基材(S−1)を得た。得られた多孔質基材の目付は4.8g/m、平均繊維径は0.3μm、厚みは19μmであった。なお、静電紡糸条件は次の通りである。
ノズル:内径0.4mmのステンレス製注射針、捕集体の中心軸方向に20cmの幅で揺動
捕集体:ステンレスドラム(接地)、15回転/min.
吐出量:1g/時間
ノズル先端と捕集体との距離:10cm
印加電圧:13.5kV
温湿度:26℃/23%RH
【0103】
[作製例2] 重合体(P−2)から構成される多孔質基材の作製
合成例2で得られた重合体(P−2)をN,N−ジメチルホルムアミドに、10wt%の濃度となるように溶解させた紡糸液を、静電紡糸法により紡糸し、合成例2で得られた重合体(P−2)からなる繊維が均一に分散した不織布を作製した。続いて温度150℃で10分間乾燥して、溶剤を除去し、不織布状の多孔質基材(S−2)を作製した。得られた多孔質基材の目付は4.5g/m、平均繊維径は0.32μm、厚みは17μmであった。なお、静電紡糸条件は次の通りである。
ノズル:内径0.4mmのステンレス製注射針、捕集体の中心軸方向に20cmの幅で揺動
捕集体:ステンレスドラム(接地)、15回転/min.
吐出量:1g/時間
ノズル先端と捕集体との距離:10cm
印加電圧:13.5kV
温湿度:26℃/23%RH
【0104】
[作製例3] 重合体(P−3)から構成される多孔質基材の作製
合成例2で得られた重合体(P−3)をN,N−ジメチルホルムアミドに、10wt%の濃度となるように溶解させた紡糸液を、静電紡糸法により紡糸し、合成例3で得られた重合体(P−3)からなる繊維が均一に分散した不織布を作製した。続いて温度150℃で10分間乾燥して、溶剤を除去し、不織布状の多孔質基材(S−3)を作製した。得られた多孔質基材の目付は4.8g/m、平均繊維径は0.35μm、厚みは17μmであった。なお、静電紡糸条件は次の通りである。
ノズル:内径0.4mmのステンレス製注射針、捕集体の中心軸方向に20cmの幅で揺動
捕集体:ステンレスドラム(接地)、15回転/min.
吐出量:1g/時間
ノズル先端と捕集体との距離:10cm
印加電圧:13.5kV
温湿度:26℃/23%RH
【0105】
[実施例1]
合成例1で得られた重合体(P−1)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/2−ブタノン(MEK)/メタノール(MeOH)=25/10/65の混合溶媒144gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、作製例1で得られた多孔質基材(S−1)を接触させた。さらに多孔質基材(S−1)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−1)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0106】
[実施例2]
合成例2で得られた重合体(P−2)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/2−ブタノン(MEK)/メタノール(MeOH)=25/10/65の混合溶媒144gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、作製例1で得られた多孔質基材(S−2)を接触させた。さらに多孔質基材(S−2)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−2)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0107】
[実施例3]
合成例3で得られた重合体(P−3)16gを2−ブタノン(MEK)の溶媒64gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、上記で作製した多孔質基材(S−1)を接触させた。さらに多孔質基材(S−1)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−1)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存溶剤を希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚18μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0108】
[実施例4]
合成例3で得られた重合体(P−3)16gを2−ブタノン(MEK)の溶媒64gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、作製例2で得られた多孔質基材(S−2)を接触させた。さらに多孔質基材(S−2)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−2)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存溶剤を希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚16μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0109】
[実施例5]
合成例1で得られた重合体(P−1)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/2−ブタノン(MEK)/メタノール(MeOH)=25/10/65の混合溶媒144gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、作製例3で得られた多孔質基材(S−3)を接触させた。さらに多孔質基材(S−3)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−3)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0110】
[実施例6]
合成例2で得られた重合体(P−2)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/2−ブタノン(MEK)/メタノール(MeOH)=25/10/65の混合溶媒144gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。この塗工液の上に、作製例3で得られた多孔質基材(S−3)を接触させた。さらに多孔質基材(S−3)の上から再度上記溶液をキャスト塗工し、多孔質基材(S−3)の両面から塗工液を含浸させた。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0111】
[比較例1]
合成例1で得られた重合体(P−1)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/メタノール(MeOH)=60/40の混合溶媒84gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0112】
[比較例2]
合成例2で得られた重合体(P−3)16gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)/メタノール(MeOH)=60/40の混合溶媒84gに溶解した溶液をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存NMPを希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0113】
〔比較例3〕
Nafion(登録商標)DE2020CS(固形分濃度:20%、溶剤組成:水/1−プロパノール(NPA)=45/55(wt%))をPETフィルムの上にダイコータにてキャスト塗工した。次いで、80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。これを大量の蒸留水に一晩浸漬し、膜中の残存溶剤を希釈により取り除いた後、風乾し、膜厚20μmの固体高分子電解質膜を得た。得られた固体高分子電解質膜を用いて、プロトン伝導性評価、熱水耐性評価を行った結果を表1に示す。
【0114】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)と、多孔質基材(C)とを有する固体高分子電解質膜であって、
前記重合体(A)、および前記多孔質基材(C)を構成する重合体(B)とから選ばれる少なくとも一種の重合体はスルホン酸基を有し、
前記重合体(A)および前記重合体(B)は下記式(2)で表される構造単位を有する、固体高分子電解質膜。
【化1】

(上記式(2)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環または含窒素複素環の構造を有する2価の基を示す。
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部またはすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部またはすべてがハロゲン置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
A、Dは、それぞれ独立に、単結合または、−CO−、−COO−、−CONH−、−SO−、−SO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−CR’−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−またはS−を示し、Bは−O−または−S−であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。)
【請求項2】
前記重合体(B)がスルホン酸基を有する重合体である、請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
前記重合体(B)が下記式(1)で表される構造単位を含む、請求項2に記載の固体高分子電解質膜。
【化2】

(上記式(1)中、Ar11は、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する基を示し、Ar12は、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+2)価の基を示し、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有する(x+1)価の基を示す。Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−,−COO−、−(CF−(uは1〜10の整数である)、−C(CF−、または単結合を示す。
Zは、−O−、−S−、単結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CH−(lは1〜10の整数である)、または−C(CH−を示す。
11は、単結合、−O(CH−、−O(CF−、−(CH−または−(CF−を示す(pは、1〜12の整数を示す)。R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、酸素を含む複素環基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12およびR13のうち少なくとも1個は水素原子である。
は、0〜4の整数を示し、xは、1〜5の整数を示し、aは、0〜1の整数を示し、bは、0〜3の整数を示す。)
【請求項4】
前記重合体(A)がスルホン酸基を有する重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子電解質膜。
【請求項5】
前記重合体(A)が上記式(1)で表される構造単位を含む、請求項4に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項6】
前記重合体(B)がスルホン酸基を含まない重合体である、請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項7】
前記重合体(A)がスルホン酸基を含まない重合体である、請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項8】
前記重合体(A)を含む液状組成物を前記多孔質基材(C)に塗布して、膜を形成する工程を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜の両側に接して、触媒層とガス拡散層とを有することを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜−電極接合体を有する固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2012−114049(P2012−114049A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264343(P2010−264343)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】