説明

固体高分子電解質膜、膜電極接合体

【課題】低コストで、高イオン伝導、低膨潤の電解質膜を提供すること。
【解決手段】スルホン酸基を含有する親水性セグメントとスルホン酸基を含有しない疎水性セグメントからなり、疎水性セグメントのガラス転移温度(Tg1)と親水性セグメントのガラス転移温度Tg2の関係がTg1>Tg2にあるブロック共重合体からなることを特徴とする燃料電池用の固体高分子電解質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで、膨潤度が低く、イオン伝導度が向上した高分子電解質膜、膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は膜/電極接合体の一般的な構成を示す断面図で、1は高分子電解質膜、2はアノード電極、3はカソード電極である。本発明はこの膜/電極接合体に適用される。
【0003】
燃料電池の高分子電解質膜としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などの高いイオン伝導性を有するフッ素系電解質膜が知られているが、フッ素系電解質膜は非常に高価である。また、廃棄時に焼却するとフッ酸が発生する。さらに、100℃異常ではイオン伝導度が低下する為、100℃以上では使用できないといった課題がある。また、直接メタノール型燃料電池(以下、DMFC)の電解質膜として使用し場合、メタノールクロスオーバーにより電圧低下や発電効率低下などの課題がある。
【0004】
燃料電池の高分子電解質膜としては、フッ素系電解質の他にイオン交換基を有する芳香族炭化水素系電解質膜などの非フッ素系電解質も使用されている。
【0005】
また、特許文献1や2には、スルホン基を有するポリエーテルスルホン系ブロックとスルホン酸基を有しないポリエーテルスルホン系ブロックからなるブロック共重合体やスルホン酸基を有するポリエーテルケトン系ブロックとスルホン酸基を有しないポリエーテルケトン系ブロックからなるブロック共重合体が開示されている。しかしながら、スルホン酸基を有しないポリエーテルスルホン系ブロックを疎水性セグメントとして用いた場合、水溶性となったり、吸水時に強度低下を引き起こすといった問題があった。また、膨潤が大きい電解質膜をDMFCに用いた場合、メタノール透過が大きいという問題があった。
【0006】
一方、スルホン酸基を有するポリエーテルケトン系ブロックを親水性セグメントに用いた場合、水溶性となったり、吸水時に強度低下を引き起こすといった問題があった。
【0007】
特許文献1には、燃料電池のプロトン伝導膜として、酸基が導入されたセグメントと、酸基が実質的に導入されていないセグメントとのブロック共重合体が、成膜性、耐酸化性、耐ラジカル性、耐加水分解性などの化学的安定性、膜の機械的強度、耐水性、プロトン伝導性に優れていると開示されている。
【0008】
特許文献3に記載の共重合体の疎水性部位が親水性部位よりもガラス転移点が高いという点で本発明の共重合体と異なる。また、特許文献3においてはポリイミドについては具体的に言及していない。
【0009】
【特許文献1】特開2003−031232号公報
【特許文献2】特開2006−512428号公報
【特許文献3】特開2004−190002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、低コストで、更に膨潤度が低く、かつイオン伝導度が向上した高分子電解質膜、膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の状況に鑑み、本発明者は非フッ素系電解質膜において、電解質膜の膨潤が小さいために電解質膜中のスルホン酸基濃度が高くでき、同時に高イオン伝導度を有する電解質膜の開発を行った。
【0012】
本発明の1つの観点においては、主鎖又は側鎖にスルホン酸基を含有する親水性セグメントと、主鎖及び側鎖にスルホン酸基を含有しないかスルホン酸基数が前記親水性セグメントのスルホン酸基数よりも少ない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であって、前記疎水性セグメントのガラス転移温度(Tg1)と前記親水性セグメントのガラス転移温度Tg2の関係がTg1>Tg2であることを特徴とする燃料電池用の固体高分子電解質を提供するものである。
【0013】
また、本発明の他の観点においては、前記親水性セグメントと、前記疎水性セグメントからなるブロック共重合体であって、前記疎水性セグメントのX線回折において最大ピークの半値幅β1と前記親水性セグメントのX線回折において最大ピークの半値幅β2の関係がβ1>β2であることを特徴とする燃料電池用固体高分子電解質を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高イオン伝導度、低膨潤性の電解質膜が得られ、これを利用することにより燃料電池の出力を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、疎水性セグメントのガラス転移温度が親水性セグメントのガラス転移温度よりも高いブロック共重合体または、疎水性セグメントのX線回折における最大ピークの半値幅が親水性セグメントの最大ピークの半値幅よりも小さいブロック共重合体を用いることにより、高イオン伝導で低膨潤性の電解質膜を作製することができ、本発明に至った。ここで言うブロック共重合体とは、相互に直接的もしくは間接的に共有結合された少なくとも1種類の親水性セグメントと少なくとも1種類の疎水性セグメントを含有する共重合体である。
【0016】
好ましい態様においては、疎水性セグメントと親水性セグメントは予め別々に反応させることによって、疎水性セグメントと親水性セグメントを形成させ、これらのセグメントをその後で重合させてブロック共重合体を得る。ブロック共重合体の合成法は限定されるものではない。例えば、疎水性―疎水性ブロック共重合体を合成した後に、疎水性部位の片方のみを硫酸やクロロ硫酸等により親水化する方法でもよい。
【0017】
低膨潤である理由としては、疎水性セグメントの分子間相互作用が大きいためと考えられる。高イオン伝導度は、分子間相互作用の小さい親水性セグメント中では水の自由度が保たれる為に達成されると考えられる。膨潤度が小さい電解質膜であるため、DMFCに用いた際のメタノール透過は小さい。
【0018】
本発明において用いられる高分子電解質は、親水性セグメントと疎水性セグメントとを構造単位として含む共重合体である。親水性セグメントは相対的にスルホン酸基を多く含む構造単位を有し、疎水性セグメントは親水性セグメントよりもスルホン酸基の数が少ない構造単位を有する。
【0019】
主鎖又は側鎖にスルホン酸基を多く含む親水性セグメントは、下記式(1)で示すことができる。
【0020】
【化1】

【0021】
また、主鎖及び側鎖にスルホン酸基数が親水性セグメントよりも少ないか実質的に含まない疎水性セグメントは、下記式(2)又は式(3)で示すことができる。
【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
式(3)の中で、Arが式(6)で示されるものがもっとも好ましい。従って、式(1)で示される親水性セグメントと式(3)の中でArが式(6)で示される疎水性セグメントの構造単位からなる共重合体が高分子電解質として本発明において特に好ましい。
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明では、ブロック共重合体において疎水性セグメントのガラス転移温度が親水性セグメントのガラス転移温度よりも高ければ、発明の範囲内である。
【0027】
ガラス転移温度は、熱機械分析(TMA)、示差走査熱分析(DSC)、粘弾性測定(DMA)等により測定が可能である。
【0028】
また、本発明では、X線回折の最大ピークにおいて疎水性セグメントの半値幅が親水性セグメントよりも大きければ、発明の範囲内である。疎水性セグメントや親水性セグメントの具体例については後述する。ここで言うX線回折は、走査角度が15〜80度で行う場合を意図している。
【0029】
本発明で用いられる疎水性セグメントとしては、ポリイミド系共重合体、ポリベンゾイミダゾール系共重合体、ポリキノリン系共重合体、ポリスルホン系共重合体、ポリエーテルスルホン系共重合体、ポリエーテルエーテルケトン系共重合体、ポリエーテルケトン系共重合体、ポリフェニレンスルフィッド系共重合体、ポリエーテルイミド系共重合体等の芳香族炭化水素系高分子がある。
【0030】
ここで言う疎水性セグメントとは、イオン交換基当量重量が1200g/mol以上である共重合体を言う。なお、本発明のイオン交換基当量とは、導入されたイオン交換基単位当量あたりのポリマーの分子量を表し、値が小さいほどイオン交換基の導入度が大きいことを示す。イオン交換基当量重量は、H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、特公平1−52866号公報に記載の酸塩基滴定、非水酸塩基滴定(規定液はカリウムメトキシドのベンゼン・メタノール溶液)等により測定が可能である。
【0031】
本発明で用いられる親水性セグメントとしては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマー、スルホン化ポリスルフィッド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化芳香族炭化水素系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィッド、スルホアルキル化ポリフェニレン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキルエーテル化ポリフェニレン等の芳香族炭化水素系電解質等が挙げられる。
【0032】
ここで言う親水性セグメントとは、イオン交換基当量重量が200〜1500g/molであり、疎水性セグメントよりもイオン交換基当量重量が小さい共重合体を言う。
【0033】
本発明の高分子電解質を構成するブロック共重合体の数平均分子量は、その分子量が、GPC法によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して10000〜250000g/molである。好ましくは20000〜220000g/molであり、さらに好ましくは25000〜200000g/molである。10000g/mplより小さいと電解質膜の強度が低下し、200000g/molを超えると出力性能が低下することがありそれぞれ好ましくない。
【0034】
また、本発明のブロック共重合体のイオン交換基当量重量は200〜2000g/molである。好ましくは350〜1500g/molである。
【0035】
本発明で用いられる電解質膜とは、本発明の高分子電解質を溶媒に溶解した後に製膜したものであり、電解質膜中に補強材、酸化防止剤、カーボン担持Pt触媒やカーボン担持Pt−Ru触媒を含んでいてもかまわない。
【0036】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の趣旨とするところはここに開示した実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
(1)ポリマーa(疎水性セグメント)の作製
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、0.150molの4,4−ジフルオロベンゾフェノンと0.156molの4,4−ビフェノール、0.174molの炭酸カリウム、溶媒としてトルエン40ml、ジメチルスルホキシド(DMSO)100mlを用いて合成を行った。合成後の溶液を濾過した後にメタノールで再沈することでポリマーaを得る。ポリマーaをDMSOに溶解した溶液をガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜aを作製した。その高分子膜aについてDMAによりガラス転移温度を測定し、X線回折についても調べた。
【0038】
(2)ポリマーb(親水性セグメント)の作製
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、0.150molのスルホン化4,4−ジフルオロジフェニルスルホンと0.156molの4,4−ビフェノール、0.174molの炭酸カリウム、共沸材としてトルエン40mlを入れ、溶媒として100mlのジメチルアセトアミドを用いて170℃で10h合成を行った。合成後の溶液を濾過後にメタノールで再沈することでポリマーbを得る。
【0039】
ポリマーbをジメチルアセトアミドに溶解した溶液をガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜bを作製した。その高分子膜bについてDMAによりガラス転移温度を測定し、X線回折についても調べた。その結果、高分子膜bのガラス転移温度は高分子膜aのガラス転移温度よりも低く、X線回折による最大ピークの半値幅は、高分子膜bの半値幅が高分子膜aの半値幅よりも大きくなる。
【0040】
(3)ブロック共重合体1の作製
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、(1)で合成したポリマーaを含有する溶液と(2)で合成したポリマーbを含有する溶液、スルホン化4,4−ジフルオロジフェニルスルホン、炭酸カリウム、共沸材としてトルエン40mlを入れ、溶媒として100mlのDMSOを用いて170℃で10h合成を行い、合成後の溶液を濾過後にメタノールで再沈することでブロック共重合体1を得る。
【0041】
ポリマーaとポリマーb、スルホン化4,4−ジフルオロジフェニルスルホンの配合比は、イオン交換基当量重量が600g/molになるように調合した。得られたブロック共重合体の数平均分子量Mnは4×10以上であり、NMRにより測定したイオン交換基当量重量は620g/molである。これをブロック共重合体1とする。
【0042】
得られたブロック共重合体1の構造式は式(4)のとおりである。
【0043】
【化4】

【0044】
(4)高分子電解質膜1の作製とその特性
前記(3)で得られたブロック共重合体1を20重量%の濃度になるようにDMSOに溶解した。この溶液をガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで硫酸および水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子電解質膜1を得る。この高分子電解質膜1の40℃、水中におけるイオン伝導率は、0.13S/cmである。又、80℃の水に24h浸漬した後、電解質膜の乾燥状態からの面積変化を測定したところ16%程度の面積増加である。ここで言う乾燥状態とは、120℃で2h乾燥させた状態である。
【0045】
(5)膜電極接合体(MEA)1の作製
炭素担体上に白金とルテニウムの原子比が1/1の白金/ルテニウム合金微粒子を50wt%分散担持した触媒粉末と30wt%のポリパーフルオロスルホン酸の1−プロパノール、2−プロパノールとメトキシエタノールの混合溶媒のスラリーを調整してスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に厚さ約125μm、幅30mm、長さ30mmのアノ−ド電極を作製した。
【0046】
次に、炭素担体上に30wt%の白金微粒子を担持した触媒粉末とポリパーフルオロスルホン酸の1−プロパノール、2−プロパノールとメトキシエタノールの混合溶媒をバインダとして水/アルコール混合溶媒のスラリーを調整してスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に厚さ約20μm、幅30mm、長さ30mmのカソ−ド電極を作製した。
【0047】
前記(4)で作製した高分子電解質膜1の両面をアノード電極及びカソード電極ではさみ、100℃、10MPaでホットプレスすることにより、高分子電解質膜1の両面にアノード、カソード電極を形成した膜電極接合体(MEA)1を作製した。アノード電極とカソード電極は、互いに重なるように位置を合わせて接合した。
【0048】
炭素粉末に焼成後の重量で40wt%となるように撥水剤ポリテトラフロロエチレン(PTFE)微粒子の水性分散液(デイスパージョンD−1:ダイキン工業製)を添加して混練してペースト状になったものを、厚さ約350μm、空隙率87%のカーボンクロスの片面に塗布し、室温で乾燥した後270℃で3h焼成して炭素シートを形成した。PTFE量はカーボンクロス布に対して5〜20wt%となるようにした。得られたシートを上記MEAの電極サイズと同じ形状に切り出してカソード拡散層とした。厚さ約350μm、空隙率87%のカーボンクロスを発煙硫酸(濃度60%)に浸たし、窒素気流下2日間60℃の温度に保持した。次いで、フラスコの温度を室温迄冷却した。
【0049】
発煙硫酸を除去し、カーボンクロスを蒸留水が中性になるまでよく洗浄した。次いで、メタノールで浸漬、乾燥した。得られたカーボンクロスの赤外線分光吸収スペクトルの1225cm−1及び1413cm−1に−OSOH基に基づく吸収が認められた。又、1049cm−1に−OH基に基づく吸収が認められた。このことから、カーボンクロスの表面に−OSOH基や−OH基が導入され、発煙硫酸処理されていないカーボンクロスとメタノール水溶液との接触角81°より小さく、親水性である。又、導電性にも優れていた。これを上記MEA1の電極サイズと同じ形状に切り出してアノード拡散層とした。
【0050】
(6)燃料電池(DMFC)の発電性能
図2に示す固体高分子形燃料電池発電装置単セルを用いて前記拡散層付MEA1を組み込んで電池性能を測定した。図2において、1は高分子電解質膜、2はアノード電極、3はカソード電極、4はアノード拡散層、5はカソード拡散層、6はアノード集電体、7はカソード集電体、8は燃料、9は空気、10はアノード端子、11はカソード端子、12はアノード端板、13はカソード端板、14はガスケット、15はO−リング、16はボルト/ナットである。燃料としてアノードに5wt%のメタノール水溶液を循環させ、カソードに空気を供給した。50mA/cmの負荷をかけながら30℃で連続運転した。MEA1を用いたDMFCはいずれも500h稼動後に0.30V以上の出力を示し、安定である。MEA1用いたDMFCを実施例1とする。
【0051】
(実施例2)
(1)ポリマーc(疎水性セグメント)の作製
窒素パージ下で、還流管を付した100mLの四ロフラスコに、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二水和物(0.15mol)(以下s−BPDA)とジアミノジフェニルエーテル(0.156mol)(以下DDE)を加えて、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いて室温で10h攪拌、反応させて、ポリマーcを含有する溶液を作製した。この溶液を濾過後にガラス上に流延塗布し、120℃で乾燥、次いで水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜cを作製した。その高分子膜cについてDMAによりガラス転移温度を測定し、X線回折についても調べた。
【0052】
(2)ポリマーd(親水性セグメント)の重合
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、0.150molのスルホン化4,4−ジフルオロジフェニルスルホンと0.150molの4,4−ビフェノール、0.012mmolのp−アミノフェノール、0.174molの炭酸カリウム、共沸材としてトルエン40mlを入れ、溶媒として100mlのNMPを用いて180℃で合成を行った。合成後の溶液を濾過後にメタノールで再沈することでポリマーdを得た。ポリマーdをジメチルアセトアミドに溶解した溶液をガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜dを作製した。その高分子膜dについてDMAによりガラス転移温度を測定し、X線回折についても調べた。その結果、高分子膜dのガラス転移温度は高分子膜cのガラス転移温度よりも低くなり、X線回折による最大ピークの半値幅は、高分子膜dの半値幅が高分子膜cの半値幅よりも大きくなった。
【0053】
(3)ブロック共重合体2の作製
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、実施例2の(1)で合成したポリマーcを含有する溶液と前記実施例2の(2)で合成したポリマーdを含有する溶液を入れ、室温で攪拌し合成した。ポリマーcとポリマーdの配合比は、イオン交換基当量重量が600g/molになるように調合した。得られたブロック共重合体の数平均分子量Mnは4×10以上であり、NMRにより測定したイオン交換基当量重量は640g/molである。
【0054】
得られたブロック共重合体に構造式は、式(5)のとおりである。
【0055】
【化5】

【0056】
(4)高分子電解質膜2の作製とその特性
前記実施例2の(3)で得られたブロック共重合体2を含む溶液を濾過後にガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで200℃で加熱乾燥およびイミド化した後、水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜を作製した。この高分子電解質膜2の40℃、水中におけるイオン伝導率は、0.12S/cmである。又、高分子電解質膜を80℃の水に24h浸漬した後、電解質膜の乾燥状態からの面積変化を測定した。その結果、15%程度の面積増加が見られた。
【0057】
(5)膜電極接合体(MEA)の作製
前記実施例1の(5)に記載の高分子電解質膜を前記実施例2の(3)で作製した高分子電解質膜2に置き換えらほかは同様の条件にてMEA2を作製した。
【0058】
(6)燃料電池(DMFC)の発電性能
前記実施例1の(6)に記載のMEA1を前記実施例2の(4)で作製したMEA2に置き換えた他は同様の条件にて発電したDMFCはいずれも500時間稼動後に0.33V以上の出力を示し、安定である。
【0059】
(比較例1)
(1)ポリマーe(疎水性セグメント)の重合
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、0.150molの4,4−ジフルオロジフェニルスルホンと0.156molの4,4−ビフェノール、0.174molの炭酸カリウム、共沸材としてトルエン40mlを入れ、溶媒として100mlのNMPを用いて、170℃で10h合成を行った。合成後の溶液をメタノールで再沈することでポリマーeを得た。ポリマーeの数平均分子量Mnは2×10以上であり、ポリマーeをNMPに溶解した溶液をガラス上に流延塗布し、80℃で真空乾燥、次いで水に浸漬、乾燥して膜厚45μmの高分子膜eを作製した。その高分子膜eについてDMAによりガラス転移温度を測定し、X線回折についても調べた。その結果、高分子膜eと高分子膜bでは、ガラス転移温度、X線回折による最大ピークの半値幅ともに有意差は確認できなかった。
【0060】
(2)ブロック共重合体3の作製
撹拌機、温度計、塩化カルシウム管を接続した還流冷却器をつけた300mlの四つ口丸底フラスコの内部を窒素置換した後、前期比較例1の(1)で合成したポリマーeを含む溶液と前記実施例10の(2)で合成したポリマーbを含む溶液、スルホン化4−4ジクロロジフェニルスルホン、炭酸カリウム、共沸材としてトルエン40mlを入れ、溶媒として100mlのジメチルアセトアミドを用いて170℃で10h合成を行い、合成後の溶液を濾過後にメタノールで再沈することでブロック共重合体3を得た。ポリマーeとポリマーb、スルホン化4−4ジクロロジフェニルスルホンの配合比は、イオン交換基当量重量が600g/molになるように調合した。得られたブロック共重合体の数平均分子量Mnは4×10以上であり、NMRにより測定したイオン交換基当量重量は610g/molである。
【0061】
(3)高分子電解質膜の作製とその特性
前記比較例5の(2)で得られたブロック共重合体3を10重量%の濃度になるようにジメチルアセトアミドに溶解した。この溶液を濾過後にガラス上に流延塗布し、風乾した後、80℃で真空乾燥、次いで硫酸および水に浸漬、乾燥して作製した膜厚45 μmの高分子膜を高分子電解質膜3とした。この高分子電解質膜の室温におけるイオン伝導率は0.14S/cmである。高分子電解質膜を80℃の水に24h浸漬した後、電解質膜の乾燥状態からの面積変化を測定した。その結果、38%程度の面積増加が見られ、実施例1、2と比較して膨潤が非常に大きかった。
【0062】
(4)膜電極接合体(MEA)の作製
前記実施例10の(5)に記載の電解質および電解質膜を前記比較例1の(3)で作製したものに置き換えらほかは同様の条件にてMEA3を作製した。
【0063】
(5)燃料電池(DMFC)の発電性能
前記比較例1の(4)で作製したMEAを用いたDMFCは500h稼動後に0.32V以下の出力であり、MEA3ではフラッディングの影響により出力が不安定であった。
【0064】
(実施例3)
図3に示す水素を燃料とする小型単電池セルを用いて実施例1で作製した電解質膜から作製した拡散層付MEA4を組み込んで電池性能を測定した。図4において、1は高分子電解質膜、2はアノード電極、3はカソード電極、4はアノード拡散層、5はカソード拡散層、17は極室分離と電極へのガス供給通路の役割を兼ねた導電性のセパレータ(バイポーラプレート)の燃料流路、18は極室分離と電極へのガス供給通路の役割を兼ねた導電性のセパレータ(バイポーラプレート)の空気用流路、19は燃料の水素と水、20は水素、21は水、22は空気、23は空気と水である。小型単電池セルを恒温槽に設置し、セパレータ内に挿入した熱電対(図示していない)による温度が70℃になるよう恒温槽の温度を制御した。アノード及びカソードの加湿は外部加湿器を用い、加湿器出口付近の露点が70℃になるように加湿器の温度を70〜73℃の間で制御した。露点は露点計による計測の他、加湿水の消費量を常時計測し、反応ガスの流量、温度、圧力から求められる露点が所定の値であることを確認している。負荷電流密度を250mA/cmとし、水素利用率を70%、空気利用率を40%とし、約8h/day発電し、残りをホットキープ運転した。3000時間経過後でも初期電圧の80%以上の出力があり、本発明の膜電極接合体は水素を燃料としても耐久性が優れていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例による膜電極接合体の断面図。
【図2】本発明の実施例による単位燃料電池の構成を示す断面図。
【図3】本発明の燃料電池の構成を示す展開斜視図。
【符号の説明】
【0066】
1…高分子電解質膜、2…アノ−ド電極、3…カソード電極、4…アノード拡散層、5…カソ−ド拡散層、6…アノード集電体、7…カソード集電体、8…燃料、9…空気、10…アノード端子、11…カソード端子、12…アノード端板、13…カソード端板、14…ガスケット、15…O−リング、16…ボルト/ナット、17…セパレータの燃料導路、18…セパレータの空気導路、19…水素+水、20…水素、21…水、22…空気、23…空気+水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖又は側鎖にスルホン酸基を含有する親水性セグメントと、主鎖及び側鎖にスルホン酸基を含有しないかスルホン酸基数が親水性セグメントのスルホン酸基数よりも少ない疎水性セグメントとからなるブロック共重合体であって、前記疎水性セグメントのガラス転移温度(Tg1)と前記親水性セグメントのガラス転移温度Tg2の関係がTg1>Tg2にあることを特徴とする高分子電解質。
【請求項2】
主鎖又は側鎖にスルホン酸基を含有する親水性セグメントと、主鎖及び側鎖にスルホン酸基を含有しないかスルホン酸基数が親水性セグメントのスルホン酸基数よりも少ない疎水性セグメントとからなるブロック共重合体であって、前記疎水性セグメントのX線回折において最大ピークの半値幅β1と前記親水性セグメントのX線回折において最大ピークの半値幅β2の関係がβ1>β2にあることを特徴とする高分子電解質。
【請求項3】
前記親水性セグメントが水溶性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
前記親水性セグメントが下記化学式(1)で示される構造単位からなる請求項1又は2に記載の高分子電解質。
【化1】

【請求項5】
前記疎水性セグメントが下記化学式(2)または(3)で示される構造単位からなる請求項1又は2に記載の高分子電解質。
【化2】

【化3】

【請求項6】
前記化学式(3)においてArが前記化学式(6)で示されるものである請求項4又は5に記載の高分子電解質。
【請求項7】
前記化学式(3)で示される前記疎水性セグメントのArが前記化学式(6)で示され、前記化学式(2)で示される構造単位を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の高分子電解質。
【請求項8】
下記化学式(1)で示され、主鎖又は側鎖にスルホン酸基を含有する親水性セグメントと、下記化学式(2)または(3)で示され、主鎖及び側鎖にスルホン酸基を含有しないかスルホン酸基数が前記親水性セグメントのスルホン酸基数よりも少ない疎水性セグメントとのブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質。
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項9】
前記化学式(3)で示される前記疎水性セグメントのArが化学式(6)で示され、前記化学式(2)で示される構造単位を有することを特徴とする請求項8に記載の高分子電解質。
【請求項10】
請求項1又は2記載の固体高分子電解質を成膜してなる高分子電解質膜。
【請求項11】
電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟むカソード電極及びアノード電極とを有し、前記カソード電極及びアノード電極が、少なくともカーボン、前記カーボンに担持された電極触媒と高分子電解質を含む膜電極接合体において、前記高分子電解質膜が請求項10記載の高分子電解質膜であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項12】
請求項11記載の膜電極接合体を用いたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−270009(P2008−270009A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112778(P2007−112778)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】