説明

固定具

【課題】プロテクタのコンパクト化の要請に応じつつ、プロテクタに対する電線の固定を、小さい作業負担で簡易に行うことができる技術を提供する。
【解決手段】固定具22は、電線束1の枝線部を挿通させる溝を形成する本体部材221と、ヒンジ部223を介して本体部材221と連結された蓋部材222とを備える。固定具22には、その内部空間の延在方向に沿って交互に配置された本体側リブ41および蓋側リブ42と、内部空間の開口端面において電線束1を両側から挟み込む一対の挟持部311,311とをさらに備える。筒体の内部空間の延在方向からみて、蓋側リブ42の縁が、2個の山部を有する波形状とされており、2個の山部のうちヒンジ部223の側に形成された山部が他方の山部よりも低く形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の周囲を覆うプロテクタの電線引き出し口において、プロテクタに対して電線を固定する固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスには、電線を保護するためのプロテクタが装着されることがある。プロテクタは、一般に、電線(あるいは、複数の電線を束ねた電線束)の周囲を覆う筒状の部材により構成される。電線は、プロテクタで覆われることによって、振動又は可動部の動きに応じて周囲の部材と接触することがなくなり、耐久性が高まる。
【0003】
ところで、電線にプロテクタを取り付ける場合、電線は、プロテクタの引き出し口からの引き出し寸法が厳密に管理された状態で、プロテクタに対して固定されていなければならない。電線の引き出し寸法が定められた寸法からずれてしまうと、ワイヤハーネスが車体内に配索された状態において、ある位置でワイヤハーネスの不要なたるみが生じたり、また、別の位置でワイヤハーネスの余長が足りなくなったり、といった事態が生じるおそれがあるからである。
【0004】
プロテクタの引き出し口における電線の固定態様として、例えば、特許文献1,2には、プロテクタ内部に形成されたリブで電線を挟み込んで、プロテクタ内で電線を蛇行挿通させることによって、電線をプロテクタに対して固定する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−166454号公報
【特許文献2】実開平3−80620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば車両に搭載されるワイヤハーネスは、車両の小型化に応じるべく、できるだけコンパクトに形成することが要請される。例えば、本体部材と蓋部材とのそれぞれに形成されたリブで電線を挟み込んで電線を蛇行挿通させる固定態様において、本体部材と蓋部材とをヒンジ連結した場合、本体部材と蓋部材とを小型化しようとすると、蓋部材を回動させて本体部材にかぶせる際に電線の噛み込みが発生しやすく、蓋部材を本体部材にかぶせる際の作業における作業負担が大きくなるという問題がある。
【0007】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、プロテクタのコンパクト化の要請に応じつつ、プロテクタに対する電線の固定を、小さい作業負担で簡易に行うことができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る発明は、電線の周囲を覆うプロテクタの電線引き出し口において、前記プロテクタに対して前記電線を固定する固定具であって、前記電線を挿通させる溝を形成する本体部材と、ヒンジ部を介して前記本体部材と連結され、前記ヒンジ部を中心に回動することにより前記本体部材の溝を開閉可能な蓋部材と、前記本体部材に形成され、前記溝の延在方向に沿う開口端において、前記溝に挿通された電線を両側から挟み込む一対の挟持部と、前記蓋部材が前記本体部材の溝を覆うことにより形成される筒体の内部空間の延在方向に沿って交互に配置された本体側リブ、および、蓋側リブと、を備え、前記本体側リブが、前記本体部材の溝の内側面に突設され、前記内部空間の延在方向と交差する方向に沿って延在し、前記蓋側リブが、前記蓋部材における前記本体部材の溝と対向される側の面に突設され、前記内部空間の延在方向と交差する方向に沿って延在し、前記内部空間の延在方向からみて、前記蓋側リブの縁が、2個の山部を有する波形状とされており、前記2個の山部のうち前記ヒンジ部の側に形成された山部が他方の山部よりも低く形成される。
【0009】
第2の態様に係る発明は、第1の態様に係る固定具であって、前記本体側リブの形成位置において、前記内部空間の延在方向に直交する前記内部空間の断面積が、前記内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされる。
【0010】
第3の態様に係る発明は、第1または第2の態様に係る固定具であって、前記蓋側リブの形成位置において、前記内部空間の延在方向に直交する前記内部空間の断面積が、前記内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされる。
【0011】
第4の態様に係る発明は、第1から第3のいずれかの態様に係る固定具であって、前記本体側リブおよび前記蓋側リブが、その延在方向および突設方向と直交する方向の厚みが均一とされる。
【0012】
第5の態様に係る発明は、第1から第4のいずれかの態様に係る固定具であって、前記本体部材が、その外壁面から突出した本体側腕部、を備え、前記蓋部材が、その外壁面から突出した蓋側腕部、を備え、前記ヒンジ部が屈曲部を挟んだ両端部のうちの一方の端部において前記本体側腕部を介して前記本体部材に連なり、他方の端部において前記蓋側腕部を介して前記蓋部材に連なる。
【発明の効果】
【0013】
第1の態様に係る発明によると、本体部材を蓋部材が覆うと、本体部材の溝に挿通された電線は、本体側リブおよび蓋側リブに挟まれることによって筒体の内部空間を蛇行挿通されることになり、これによって固定具に対して固定される。ここで、蓋側リブの先端が、内部空間の延在方向からみて、2個の山部を有する波形状とされており、ヒンジ部の側に形成された山部が他方の山部よりも低く形成されているので、蓋部材を本体部材にかぶせる際に電線の噛み込みが発生しにくい。つまり、この構成によると、固定具を大型化することなく、電線の固定に係る作業負担を低減することができる。
【0014】
第2の態様に係る発明によると、本体側リブの形成位置において、内部空間の延在方向に直交する内部空間の断面積が、内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされるので、作業者は、蓋部材を本体部材にかぶせる際に大きな負荷をかける必要がなく、難なく蓋部材をかぶせることができる。
【0015】
第3の態様に係る発明によると、蓋側リブの形成位置において、内部空間の延在方向に直交する内部空間の断面積が、内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされるので、作業者は、蓋部材を本体部材にかぶせる際に大きな負荷をかける必要がなく、難なく蓋部材をかぶせることができる。
【0016】
第4の態様に係る発明によると、本体側リブおよび蓋側リブが、その延在方向と直交する方向の厚みが均一とされる。この構成によると、本体側リブおよび蓋側リブが電線を保持する際の保持力が高まり、固定具において電線を確実に固定することができる。
【0017】
第5の態様に係る発明によると、ヒンジ部が、本体側腕部を介して本体部材に連なるとともに、蓋側腕部を介して蓋部材に連なる。この構成によると、ヒンジ回動の支点が本体部材および蓋部材の外壁面から腕部の長さ分だけ離れた位置にくるので、電線の噛み込みの発生を抑制しつつ、蓋部材を本体部材にスムースにかぶせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ワイヤハーネスの構成を示す図である。
【図2】固定具の正面図である。
【図3】固定具の上面図である。
【図4】開蓋状態の固定具の上面図である。
【図5】固定具の断面図である。
【図6】固定具の断面図である。
【図7】固定具の断面図である。
【図8】蓋かぶせ作業において、蓋側リブが本体部材の溝に挿通された電線束にはじめて接触した状態の様子を模式的に示す図である。
【図9】ヒンジ部の形成位置付近を拡大して示す図である。
【図10】腕部が形成される場合、されない場合のそれぞれにおける爪部の軌跡を模式的に示す図である。
【図11】固定具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。本発明の実施形態に係るワイヤハーネスは、例えば、自動車などの車両に搭載され、バッテリ又はインバータ回路などの電力供給源と電装機器との間、又は複数の電装機器相互間を接続する。
【0020】
<1.ワイヤハーネス>
まず、図1を参照しつつ、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス100について説明する。図1は、ワイヤハーネス100の構成を示す図である。ワイヤハーネス100は、電線束1と、電線束1を内部に挿通させるプロテクタ2とを備える。
【0021】
<1−1.電線束1>
電線束1は、複数本の電線が束ねられて、外装部材(例えば、塩化ビニル等から成形されたチューブ)により覆われたものである。電線束1は、幹線から強制屈曲された枝線が延びる分岐構造を有している。幹線、枝線の各端部にはコネクタ、端子等(図示省略)が設けられる。電線束1は、その分岐構造を含む部分の周囲にプロテクタ2が取り付けられることにより、周囲に存在する物体との接触による破損が防がれる。
【0022】
<1−2.プロテクタ2>
プロテクタ2は、電線束1の周囲を覆う用具であり、例えば、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)又はABS樹脂などの樹脂から成形される。
【0023】
プロテクタ2は、電線束1を収容する電線収容部21と、プロテクタ2の電線引き出し口(この実施形態においては、枝線部の引き出し口)において、プロテクタ2に対して電線束1を固定する固定具22とを備える。
【0024】
電線収容部21は、電線束1を内部に挿通させる筒状の部材であり、例えば、内側に電線束1が挿入される溝を形成する半筒状の部材に、当該溝の開口を覆う溝部材がかぶせられることにより形成される。電線収容部21の側壁には、電線収容部21の内部に挿通された電線束1の枝線部を挿通させるための貫通孔が形成されている。
【0025】
固定具22は、内部に電線束1の枝線部を挿通させる筒状の部材であり、その一端(具体的には、本体部材221の一端)において電線収容部21の外壁に着設される。ただし、固定具22は、その着設側の筒端面で、電線収容部21の側壁に形成された貫通孔の周囲を取り囲むように配置されており、これによって、固定具22の筒内部に形成される空間(電線挿通空間V)が、電線収容部21の側壁に形成された貫通孔を介して、電線収容部21の筒内部と連通することになる。
【0026】
固定具22は、内側に電線束1(具体的には、電線束1の枝線部)が挿入される溝を形成する半筒状の部材である本体部材221を備える。本体部材221の溝の延在方向に沿う一方の端部は、電線収容部21の外壁に着設されている。また、本体部材221は、その溝の幅方向に沿う一方の端部において、ヒンジ部223を介して蓋部材222と連結されている。
【0027】
蓋部材222は、ヒンジ部223を介して本体部材221連結され、ヒンジ部223を中心に回動されることにより本体部材221の溝を開閉可能な部材である。つまり、蓋部材222が、ヒンジ部223を中心にして本体部材221に対して回動されることによって、固定具22は、本体部材221の溝の上側の開口面が開放された状態(開蓋状態)(図4に示す状態)と、本体部材221の溝の上側の開口面を蓋部材222が覆った状態(閉蓋状態)(図1等に示す状態)とをとることができる。
【0028】
蓋部材222が本体部材221の溝を覆った状態で本体部材221に対して固定されると、固定具22は筒体となり、当該筒体の内部が、電線束1の枝線部を挿通させる電線挿通空間Vを形成する。本体部材221に対する蓋部材222の固定は、例えば、蓋部材222に形成された爪部224が、本体部材221に形成された爪受け部225に抜け防止状態で挿入されることによって(具体的には、閉じた枠状に形成される爪受け部225の枠内部に爪部224が挿通されるとともに、爪部224の先端に形成された突起部が爪受け部225に引っ掛かることによって)実現される。
【0029】
<2.ワイヤハーネス100の製造方法>
ワイヤハーネス100は、電線束1にプロテクタ2を装着することによって製造される。電線束1にプロテクタ2を装着する場合、作業者は、まず、プロテクタ2の電線収容部21に電線束1が挿通された状態とし、さらに電線束1の枝線部を屈曲させて、枝線部が、開蓋状態の固定具22の本体部材221の溝に沿って挿通された状態とする。
【0030】
続いて、作業者は、開蓋状態の固定具22を閉蓋状態とする。具体的には、ヒンジ部223を中心に蓋部材222を回動させて蓋部材222を本体部材221の溝の開口にかぶせて、爪部224を爪受け部225に抜け防止状態で挿入する(以下、この作業を「蓋かぶせ作業」という)。これによって、電線束1にプロテクタ2が装着されることになる。
【0031】
<3.固定具22>
次に、固定具22の構成について詳細に説明する。
【0032】
<3−1.仮保持構造>
固定具22が備える本体部材221には、溝に挿通された電線束1を溝の延在方向に沿う開口端部において保持する構造(仮保持構造)が形成されている。仮保持構造について、図2を参照しながら説明する。図2は、閉蓋状態の固定具22の正面図である。
【0033】
仮保持構造は、溝を形成する樋状の部材である本体部材221の端面(電線収容部21と着設された側と反対側の端面)に着設された挟持板31により形成される。
【0034】
挟持板31は、平行に延びる一対の脚部(挟持部)311,311が連結部312を介して連結されたU字状の平板部材であり、一対の挟持部311,311の長尺方向を本体部材221の側壁に沿わせるとともに、連結部312を本体部材221の底部に沿わせるようにして、本体部材221の端面に着設される。なお、連結部312は、本体部材221の底部の厚みと略同一に形成されており、溝の開口面に突き出ないように形成される。
【0035】
各挟持部311は、その先端が、本体部材221にかぶせられる蓋部材222の上端面と面一になる位置まで延びている。ただし、挟持部311の先端から連結部312の上面までの長さd311は、溝に挿通される電線束1の直径よりも大きく形成される。
【0036】
また、各挟持部311は、その幅(挟持部311の延在方向と直交する方向についての長さ)が、本体部材221の側壁の厚みよりも大きく形成されており、各挟持部311は本体部材221の開口端面(溝の延在方向に沿う開口端面)に両側から張り出した格好となっている。ただし、挟持部311と挟持部311との間に形成される隙間の幅d312は、溝に挿通される電線束1の直径よりも小さく形成される。
【0037】
本体部材221の溝に電線束1が挿通された状態とされると、電線束1は、溝の延在方向に沿う開口端において、一対の挟持部311,311によって左右から挟み込まれる。これによって、電線束1が本体部材221に対して固定保持される。この構成によると、本体部材221の溝に挿入された電線束1の枝線部は、その引き出し寸法がずれない状態で固定されることになるので、作業者が、適切な引き出し寸法で本体部材221溝に電線束1を挿通させておけば、その後の蓋かぶせ作業の際に、電線束1の引き出し寸法がずれるといった事態が生じない。また、電線束1の枝線部は、幹線の延在方向から強制屈曲された状態で本体部材221の溝に沿って挿通されることになるので、挟持部311,311が形成されない場合は、枝線が幹線の延在方向に沿う方向に弾性復帰して溝の外側に脱落しやすいところ、上記の構成によると、一対の挟持部311,311が、電線束1を挟み込んで固定保持するので、枝線が本体部材221の溝から脱落しにくくなり、作業者はスムースに蓋かぶせ作業を行うことができる。
【0038】
<3−2.固定構造>
固定具22には、電線挿通空間Vに挿通された電線束1を電線挿通空間Vの延在方向に沿って動かないように固定するための構造(固定構造)が形成されている。固定構造について、図2〜図7を参照しながら説明する。図3は、閉蓋状態の固定具22の上面図である。図4は、開蓋状態の固定具22の上面図である。図5は、固定具22を図3の矢印K1方向から見た断面図である。図6は、固定具22を図3の矢印K2方向から見た断面図である。図7は、固定具22を図3の矢印K3方向から見た断面図である。
【0039】
固定構造は、具体的には、本体部材221に形成された本体側リブ41と、蓋部材222に形成された蓋側リブ42とから形成される。本体側リブ41と蓋側リブ42とは、電線挿通空間Vの延在方向に沿って、間隔をあけて(例えば、等間隔で)、交互に配置される。この実施形態においては、電線挿通空間Vの開口端から順に、本体側リブ41、蓋側リブ42、本体側リブ41の計3個のリブが配置され、これら3個のリブ41,42,41により固定構造が形成される。
【0040】
<3−2−1.本体側リブ41>
本体側リブ41の構成について、図6を参照しながら説明する。本体側リブ41は、本体部材221の溝の内側面に突設され、電線挿通空間Vの延在方向と交差(ここでは、直交)する方向に沿って(すなわち、溝を横切るように)延在する。
【0041】
本体側リブ41は、より具体的には、溝の両側壁に沿って立設された部分が溝の底面に沿って立設された部分に連なる形状とされ、電線挿通空間Vの延在方向からみてU字状とされる。ただし、電線挿通空間Vの延在方向からみて、本体側リブ41の縁は、電線挿通空間Vの中心線(電線挿通空間Vの断面の中心を通り、電線挿通空間Vの延在方向に沿う中心線)を中心にした円弧に近似した形状とされることが好ましく、この実施形態では、溝の側壁に沿う縁部分から溝の底面に沿う縁部分にかけて緩やかなカーブを描く曲線状とされている。
【0042】
<3−2−2.蓋側リブ42>
蓋側リブ42の構成について、図7を参照しながら説明する。蓋側リブ42は、蓋部材222の内側面(閉蓋状態において本体部材221の溝と対向される側の面)に突設され、電線挿通空間Vの延在方向と交差(ここでは、直交)する方向に沿って延在する。
【0043】
電線挿通空間Vの延在方向からみて、蓋側リブ42の縁は、2個の山部421,422を有する波形状とされている。各山部421,422およびそれらの間に挟まれる谷部は、緩やかな曲線によって滑らかに連ねられており、各山部421,422の頂点の間は、電線挿通空間Vの中心線を中心にした円弧に近似した形状となっている。
【0044】
ただし、2個の山部421,422のうちヒンジ部223の側に形成された山部(ヒンジ側山部)421は、他方の山部(爪側山部)422よりも低く形成される。すなわち、蓋部材222の内側面からヒンジ側山部421の頂点までの離間距離d421は、蓋部材222の内側面から爪側山部422の頂点までの離間距離d422よりも小さく形成される。特に好ましくは、ヒンジ側山部421の山の高さ(d421)は、爪側山部422の山の高さ(d422)の0.9倍以下とされる。
【0045】
なお、ヒンジ側山部421の頂点は、できるだけヒンジ部223に近い位置に形成されることが好ましく、爪側山部422の頂点は、できるだけ爪部224に近い位置に形成されることが好ましい。具体的には、ヒンジ側山部421の頂点は、蓋側リブ42を延在方向について4個に等分割した場合の最もヒンジ部223側の区分領域内に位置するように形成することが特に好ましい。また、爪側山部422の頂点は、蓋側リブ42を延在方向について4個に等分割した場合の最も爪部224側の区分領域内に位置するように形成することが特に好ましい。
【0046】
<3−2−3.固定態様>
電線挿通空間Vに挿通された電線束1は、電線挿通空間Vの延在方向に沿って交互に配置された本体側リブ41と蓋側リブ42とによって上下から挟み込まれることによって、電線挿通空間V内を蛇行挿通される。これによって、電線束1が固定具22に対して固定される。
【0047】
ここで、上述した通り、各リブ41,42は、電線挿通空間Vの延在方向からみて、その縁が、電線挿通空間Vの中心線を中心にした円弧に近似した形状とされている。この構成によると、蓋部材222が本体部材221にかぶせられる際に、各リブ41,42の形成位置において、電線束1が電線挿通空間Vの中心線に向けて押し込まれる形となる。したがって、蓋かぶせ作業の際および閉蓋状態において電線束1に外傷が生じにくい。
【0048】
また、上述した通り、電線挿通空間Vの延在方向からみて、蓋側リブ42の縁は、ヒンジ部223側に配置され、高さが相対的に低いヒンジ側山部421と、爪部224側に配置され、高さが相対的に高い爪側山部422とを有する形状とされる。この構成によると、蓋かぶせ作業において、爪側山部422により電線束1が押し出されにくくなり、電線束1の噛み込み(例えば、電線束1を覆うチューブの噛み込み等)が発生しにくくなる。この点について、図8を参照しながら説明する。図8には、蓋かぶせ作業において、回動される蓋部材222の蓋側リブ42が本体部材221の溝に挿通された電線束1にはじめて接触した状態の様子が模式的に示されている。上記の構成によると、蓋側リブ42が電線束1にはじめて接触するタイミングにおいて、爪側山部422の頂点の進行方向AR422が、本体部材221の溝の開口面に対して立ち上がったもの(開口面の法線方向に近い方向)となるため、爪側山部422が電線束1の側面(爪部224側の側面)を上側から下側に向けて押し込む格好となる。したがって、蓋側リブ42により電線束1が爪部224側に押し出されにくくなり、電線束1の噛み込みが発生しにくくなる。また一方で、ヒンジ側山部421が電線束1に接触するタイミングが遅れるので、ヒンジ側山部421による電線束1の押し出しも生じにくくなる。なお、ヒンジ側山部421と爪側山部422との高さの差が大きくなるほど、また、ヒンジ側山部421の頂点がヒンジ部223に近い位置にくるほど、また、爪側山部422の頂点が爪部224に近い位置にくるほど、電線束1は、噛み込まれにくくなる。
【0049】
<3−3.断面積>
上述したとおり、本体部材221に本体側リブ41が形成されることにより、電線挿通空間Vは、本体側リブ41の形成位置において、他の延在部分に比べて狭まった状態となる。同様に、蓋部材222に蓋側リブ42が形成されることにより、電線挿通空間Vは、蓋側リブ42の形成位置において、他の延在部分に比べて狭まった状態となる。また、本体部材221に挟持板31が形成されることにより、本体部材221の溝は、その開口端において、他の延在部分に比べて幅狭の形状となる。すなわち、閉蓋状態において、電線挿通空間Vの開口端面の断面積は挟持部311,311の張り出し幅だけ小さくなる。
【0050】
ここで、本体側リブ41の形成位置における電線挿通空間Vの断面積、蓋側リブ42の形成位置における電線挿通空間Vの断面積、および、電線挿通空間Vの開口端面の面積は、いずれも、電線挿通空間Vに挿通される電線束1の断面積よりも大きいものとされる。ただし、ここでいう「電線挿通空間Vの断面積」とは、具体的には、電線挿通空間Vの延在方向と直交する断面の断面積を指す。
【0051】
この構成によると、蓋かぶせ作業の際に、蓋部材222で電線束1を押しつぶさなくとも蓋部材222を本体部材221にかぶせることができる。したがって、作業者は、蓋部材222を本体部材221にかぶせてロックする際に大きな負荷をかける必要がなく、難なく蓋部材222をかぶせることができる。また、蓋かぶせ作業の際に、電線束1の噛み込みも発生しにくい。
【0052】
<3−4.厚み>
上述したとおり、固定具22においては、電線束1は、電線挿通空間Vの延在方向に沿って交互に配置された本体側リブ41と蓋側リブ42とによって上下から挟み込まれて電線挿通空間V内を蛇行挿通されることにより、固定具22に対して固定される。
【0053】
ここで、本体側リブ41および蓋側リブ42のそれぞれは、その延在方向および突設方向と直交する方向の長さ(厚み)が均一とされる。つまり、各リブ41,42は、図5に示されるように、電線挿通空間Vの延在方向に沿って切断した断面が長方形状となる。ただし、当該断面における先端角は、電線束1を傷つけないように、角丸に成形されることが好ましい。
【0054】
この構成によると、例えば、各リブ41,42がテーパ状に形成される場合と比べて、各リブ41,42が電線束1に対して接触する接触面積を大きく確保することができる。したがって、各リブ41,42によって電線束1を挟み込んで保持する際の保持力(ひいては、固定構造における電線束1の固定力)が強くなるので、固定具22において電線束1を確実に固定することができる。また、個々のリブ41,42の保持力が高くなるので、少ない個数のリブ41,42で電線束1を固定することができる。これによって、固定具22の小型化が実現される。
【0055】
<3−5.ヒンジ部223>
本体部材221と蓋部材222とを連結するヒンジ部223の構成について、図2および図9、図10を参照しながら説明する。図9は、ヒンジ部223の形成位置付近を拡大して示す図である。図10は、腕部51,52が形成される場合、されない場合のそれぞれにおける爪部224の軌跡を模式的に示す図である。
【0056】
本体部材221には、その外壁面(具体的には、ヒンジ部223と連結される側の外壁面)から、当該外壁面の法線方向に突出した腕部(本体側腕部)51が形成される。一方、蓋部材222には、その外壁面(具体的には、ヒンジ部223と連結される側の外壁面)から、当該外壁面の法線方向に突出した腕部(蓋側腕部)52が形成される。ただし、本体側腕部51の突出長さd51と、蓋側腕部52の突出長さd52とは、等しく形成されている。
【0057】
ヒンジ部223は、中央部にいくにつれて肉薄に形成されており、最も肉薄となる中央部において屈曲自在に形成される。ヒンジ部223において、中央部(屈曲部)を挟む両端部のうちの一方の端部は、本体側腕部51の突設側の端部に着設される。また、他方の端部は蓋側腕部52の突設側の端部に着設される。つまり、ヒンジ部223は、屈曲部を挟んだ両端部のうちの一方の端部において、本体側腕部51を介して本体部材221に連なり、他方の端部において、蓋側腕部52を介して蓋部材222に連なる。
【0058】
ヒンジ部223が、本体部材221および蓋部材222に直接着設されるのではなく、腕部51,52のそれぞれを介して各部221,222に着設される構成によると、図10に示されるように、蓋部材222が本体部材221に対して回動される際の支点Qが、腕部51,52の長さd51(=d52)の分だけ本体部材221および蓋部材222の外壁面よりも外側にくることになり、爪部224の軌跡が描く円の半径が大きくなる。すると、爪受け部225に挿入される際の爪部224の傾斜角度が大きくなるため、爪部224が爪受け部225に引っ掛かることなくスムースに爪受け部225の開口に挿入される。また、支点Qが本体部材221および蓋部材222の外壁面から離れると、蓋部材222が、電線束1のヒンジ部223側の側面からではなく上方面に近い位置から当接するため、蓋部材222により電線束1が押し出されにくくなり、電線束1の噛み込みが発生しにくくなる。
【0059】
<4.効果>
上記の実施形態に係る固定具22によると、固定具22の大型化を招くことなく、蓋かぶせ作業における電線束1の噛み込みの発生を抑制することができる。また、適切な引き出し寸法で枝線を固定することができるようにも担保されている。また、蓋かぶせ作業に要する負荷が小さいものとなるように担保されている。つまり、上記の実施形態においては、固定具22を大型化することなく、電線束1の固定に係る作業負担を低減することができる。
【0060】
<5.変形例>
上記の実施形態においては、電線挿通空間Vの開口端から順に、本体側リブ41、蓋側リブ42、本体側リブ41の計3個のリブが配置され、これら3個のリブ41,42,41により固定構造が形成されるものとしたが、固定構造を形成するリブの態様はこれに限らない。例えば、3個以上のリブが配置されてもよい。また、開口端から順に蓋側リブ42、本体側リブ41、蓋側リブ42、といった具合に交互にリブが形成されてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態において、固定具22は電線収容部21の端部に設けられてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態においては、電線束1は複数本の電線と、これらを束ねた状態で被覆する外装部材とを備える構成としたが、電線束1は、必ずしも外装部材に被覆されていなくともよい。また、ワイヤハーネス100は、1本の電線と、これを内部に挿通させるプロテクタ2とを備える構成であってもよい。
【0063】
<6.実施例>
上記の実施の形態に係る固定具22を具体的に示した実施例について説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0064】
実施例に係る固定具22の寸法について、図11を参照しながら説明する。図11は、実施例に係る固定具22の斜視図である。こここでは、固定具22に挿通される電線束1の枝線部は、内径が6mm、外径が7mmのチューブで覆われた電線束であるとする。したがって、電線束1の断面積は、約38.5mm2となる。
【0065】
固定具22の幅L1は「11.5mm」とされる。また、固定具22の高さL2は「10mm」とされる。また、固定具22の奥行きL3は「11.5mm」とされる。
【0066】
また、挟持部311の先端から連結部312の上面までの長さL4は、チューブの外径よりも大きい「8.5mm」とされる。また、挟持部311と挟持部311との間に形成される隙間の幅L5は、チューブの外径よりも小さい「6mm」とされる。
【0067】
また、ヒンジ部223と本体部材221との間に設けられる本体側腕部51の長さL6、および、ヒンジ部223と蓋部材222との間に設けられる蓋側腕部52の長さL6は、いずれも「1.5mm」とされる。
【0068】
また、本体側リブ41の形成位置における電線挿通空間Vの断面積は、チューブの断面積より大きい「39.0mm2」とされる。また、蓋側リブ42の形成位置における電線挿通空間Vの断面積は、チューブの断面積より大きい「39.1mm2」とされる。
【符号の説明】
【0069】
1 電線束
2 プロテクタ
22 固定具
221 本体部材
222 蓋部材
223 ヒンジ部
31 挟持板
311 挟持部
41 本体側リブ
42 蓋側リブ
51,52 腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の周囲を覆うプロテクタの電線引き出し口において、前記プロテクタに対して前記電線を固定する固定具であって、
前記電線を挿通させる溝を形成する本体部材と、
ヒンジ部を介して前記本体部材と連結され、前記ヒンジ部を中心に回動することにより前記本体部材の溝を開閉可能な蓋部材と、
前記本体部材に形成され、前記溝の延在方向に沿う開口端において、前記溝に挿通された電線を両側から挟み込む一対の挟持部と、
前記蓋部材が前記本体部材の溝を覆うことにより形成される筒体の内部空間の延在方向に沿って交互に配置された本体側リブ、および、蓋側リブと、
を備え、
前記本体側リブが、前記本体部材の溝の内側面に突設され、前記内部空間の延在方向と交差する方向に沿って延在し、
前記蓋側リブが、前記蓋部材における前記本体部材の溝と対向される側の面に突設され、前記内部空間の延在方向と交差する方向に沿って延在し、
前記内部空間の延在方向からみて、前記蓋側リブの縁が、2個の山部を有する波形状とされており、前記2個の山部のうち前記ヒンジ部の側に形成された山部が他方の山部よりも低く形成される、固定具。
【請求項2】
請求項1に記載の固定具であって、
前記本体側リブの形成位置において、前記内部空間の延在方向に直交する前記内部空間の断面積が、前記内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされる、固定具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固定具であって、
前記蓋側リブの形成位置において、前記内部空間の延在方向に直交する前記内部空間の断面積が、前記内部空間に挿通される電線の断面積よりも大きいものとされる、固定具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の固定具であって、
前記本体側リブおよび前記蓋側リブが、その延在方向および突設方向と直交する方向の厚みが均一とされる、固定具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の固定具であって、
前記本体部材が、その外壁面から突出した本体側腕部、
を備え、
前記蓋部材が、その外壁面から突出した蓋側腕部、
を備え、
前記ヒンジ部が屈曲部を挟んだ両端部のうちの一方の端部において前記本体側腕部を介して前記本体部材に連なり、他方の端部において前記蓋側腕部を介して前記蓋部材に連なる、固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−239291(P2012−239291A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106304(P2011−106304)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】