説明

固定化酵素の製造方法

【課題】 微生物培養物等、夾雑物を含んだ酵素溶液を用いて、物理的吸着法により、該酵素溶液中の酵素を高い効率で担体に固定化する方法を提供する。
【解決手段】 夾雑物を含んだ酵素溶液と、物理的吸着により酵素を固定化する担体とを接触させる酵素固定化工程を複数回行うことにより、酵素溶液中の酵素を担体に固定化する固定化酵素の製造方法であって、複数回の酵素固定化工程の間に、水溶性有機溶剤またはその水溶液で、少なくとも1回担体を洗浄する担体洗浄工程を有することを特徴とする固定化酵素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物培養物等、夾雑物を含有した酵素溶液中の酵素を担体に固定化する固定化酵素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体触媒である酵素を利用した反応は、酵素の高い基質特異性を利用した反応であることから目的物を効率よく製造でき、コスト低減に有利である。また、温和な条件下での反応であるため、消費するエネルギーが少なく、環境負荷を低くすることができるなど優れた方法である。
そのため、酵素反応は、工業的に多くの分野でその利用法が研究されているが、酵素と基質を溶液中で撹拌して反応させる方法では、酵素と反応生成物とを分離することが困難であり、酵素を効率的に回収することができないため、特に、高価な酵素を用いる場合は、酵素反応の工業化は経済的に困難であった。
【0003】
このため、酵素を共有結合、イオン結合、物理的吸着、生化学的親和力等により、不溶性の担体に固定化した、担体結合法による固定化酵素の作製法が永年に亘り研究されている。
【0004】
なかでも、物理的吸着法による酵素の固定化は、酵素を修飾することなしに担体に固定化できるため、固定化酵素作製にあたって、その作製工程が簡便で低コストであり、また酵素が失活する可能性が低い。したがって、工業的利用に大きな利点を持つものである
(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
物理的吸着法による酵素の固定化法として、例えば、有機溶剤を含有したタンパク質溶液を用いて担体に固定化し、その固定化担体を有機溶剤が含まれないか又はタンパク質を変性させない程度の低濃度有機溶剤を含む緩衝液等で洗浄する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、該固定化法は、例えば、クチナーゼ等の疎水性酵素のように、酵素の種類によっては固定化工程で溶媒中に有機溶剤が含まれていると酵素が溶解したままの状態となり、酵素の固定化量が落ちてしまうことがあった。
【非特許文献1】バイオリアクターの世界−実践者のためのその基礎と応用−、pp25−pp61、1992
【特許文献1】特開平11−174055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、物理的吸着力による酵素の固定化は、一般的に酵素と担体間の結合が弱いため、固定化酵素の作製において、固定化温度や固定化時の共存物質などの影響を考慮する必要がある。
特に、微生物培養物等は、種々のタンパク質あるいは多糖類等の多くの微生物由来の夾雑物を含んでおり、このような培養物を固定化用の酵素試料として用いる場合、含まれる夾雑物による固定化阻害により、一層酵素の固定化量が低下してしまう。そのため、用いる酵素試料は、可能な限り高純度なものとする必要があるが、このような高純度の酵素の作製には、複雑で多くの精製工程を経なければならず、コスト的にも不利であるいう問題点があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、微生物培養物等、夾雑物を含んだ酵素溶液を用いて、物理的吸着法により、該酵素溶液中の酵素を高い効率で担体に固定化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、夾雑物を含んだ酵素溶液と、物理的吸着法によって酵素を固定化可能な固定化用担体を用いて、これらを接触させて、前記酵素溶液中の酵素を担体に固定化する工程中で、水溶性有機溶剤またはその水溶液で、この固定化担体を洗浄することにより、酵素の担体への固定化量を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、夾雑物を含んだ酵素溶液と、物理的吸着により酵素を固定化する担体とを接触させる酵素固定化工程を複数回行うことにより、酵素溶液中の酵素を担体に固定化する固定化酵素の製造方法であって、複数回の酵素固定化工程の間に、水溶性有機溶剤またはその水溶液で、少なくとも1回担体を洗浄する担体洗浄工程を有することを特徴とする固定化酵素の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微生物培養物等の夾雑物を含有した酵素溶液を用いて、該溶液中の酵素を高い効率で担体に固定化した、固定化酵素を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。
(酵素)
本発明において、担体への固定化に用いる酵素としては、特に制限はないが、リパーゼ,エステラーゼ及びクチナーゼを好ましい例として挙げることができる。なかでも、リパーゼおよびクチナーゼが特に好ましい。
通常、酵素試料は、それを生産する微生物を培養することで入手できる。しかし、微生物培養においては、目的とする酵素以外にも夾雑物として糖や他のタンパク質も同時に生産される。これら夾雑物は、微生物が生育する時に細胞内で生産された後、細胞外に分泌されたものであり、このような夾雑物としては、例えば、糖であれば、グルコース、ガラクトース等の単糖が結合して高分子量化した多糖類等が挙げられ、他のタンパク質であれば、微生物の増殖に必要な各種の酵素類等が挙げられ、その他にも、前記糖が脂質やタンパク質等と複合体を形成したもの等、多数のものが挙げられる。
【0012】
本発明で用いる、夾雑物を多く含有した酵素溶液として、例えば、酵母の一種であるクリプトコッカス エスピー エス−2(Cryptococcus sp S−2;FERM P−15155、以下、クリプトコッカス エスピー エス−2と略記)が生産するクチナーゼを含んだ培養液を、好ましいものとして挙げることができる。
クチナーゼは、例えば、以下の方法により入手できる。すなわち、クチナーゼを生産する酵母の一種であるクリプトコッカス エスピー エス−2を、常法に従って生育に最適な培養条件にて培養した後、その培養液から遠心分離法にて菌体を分離し、クチナーゼを含む培養上清液を得る。この上清液を、例えば、限外濾過膜を用いて濾過し、クチナーゼ酵素液を得る。このクチナーゼ酵素液は、その酵素活性を長期に亘り維持するため、凍結乾燥処理により乾燥粉末としたクチナーゼ酵素乾燥粉末とすることが好ましいが、乾燥粉末を得るための上記操作を省略し、微生物培養液をそのまま、担体への固定化に供することもできる。
通常、酵素を担体に固定化する場合は、固定化効率を上げるために、複雑で多くの精製工程を経た高純度の酵素試料を用いる必要があるが、種々の夾雑物を含むこれら微生物培養液あるいは凍結乾燥粉末等に対して、本発明は特に有効であり、前記のような複雑で多くの精製を行うことなく、高い効率で目的とする酵素を担体に固定化することができる。
【0013】
(担体)
本発明で用いる酵素固定化用担体は、物理的吸着法で酵素を固定化できる担体であり、材質に関しては、有機質、無機質のいずれでも良く、担体に固定化した酵素の活性が失われず、取り扱い上、物理的および化学的に安定であれば、特に制限されない。
無機質の固定化用担体としては、例えば、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、モレキュラーシーブ、多孔質ガラス、セラミック等を挙げることができ、有機質の固定化用担体としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、イオン交換樹脂、セルロースパウダー等を挙げることができる。
【0014】
本発明においては、前記のような材質からなり、酵素分子と近似のサイズである細孔を有する酵素固定化用担体を用いることが望ましく、固定化する酵素の種類に応じて、適宜選定すれば良い。
また、ここで言う物理的吸着とは、ファンデルワールス力、疎水結合等、分子間引力によって、酵素が担体に固定化されることを指す。
【0015】
例えば、固定化する酵素が、酵母の一種であるクリプトコッカス エスピー エス−2が生産するクチナーゼである場合は、クチナーゼの分子サイズが3〜5nmと推定されるため、好ましく用いることができる固定化用担体として、レバチット VP OC 1600(バイエル社製、平均細孔径15nm)、レバチット VP OC 1064MD(バイエル社製、平均細孔径5〜10nm)、レバチット VP OC 1163(バイエル社製、平均細孔径0.5〜10nm)デュオライトA−568(ローム・アンド・ハース社製、細孔径15〜25nm)、デュオライトA−7(ローム・アンド・ハース社製、細孔径15〜30nm)等を挙げることができる。なかでも、レバチット VP OC 1600を用いることが特に好ましい。
【0016】
(水溶性有機溶剤)
本発明で用いる水溶性有機溶剤としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール、イソプロパノールなど、水に可溶な低級アルコールが好ましく、なかでも、メタノールが特に好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、水と混合することなく用いることもできるが、水との混合溶媒として用いることが好ましい。また、水溶性有機溶剤は、1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0017】
上記の溶剤は、固定化した酵素を担体から脱離させにくく、他の夾雑物等を酵素固定化担体から脱離させることができるため、複数ある酵素固定化工程の間に、これらの溶剤を用いて担体を洗浄することにより、酵素を高い効率で担体に固定化でき、酵素の固定化量を向上できると考えられる。
しかしながら、固定化する酵素によっては、その酵素活性を失活させる作用を有する水溶性有機溶剤もあるので、酵素の種類に応じて酵素活性を損なうことがない水溶性有機溶剤を選択することが重要である。
【0018】
また、本発明において、水溶性有機溶剤を水との混合溶媒として用いる場合には、水溶性有機溶剤と水との混合比率は特に重要である。混合比率は特定の濃度域に限定されるものではなく、目的の酵素の性状に応じて混合比率を設定する必要がある。固定化担体の洗浄に用いる水溶性有機溶剤は、使用する有機溶剤と酵素の組み合わせによって、その酵素活性を失活させる有機溶剤の濃度が異なる為、目的の酵素に応じて酵素活性を損なうことがない濃度を、予備実験等を行いその結果をもとに決定することが重要である。
【0019】
例えば、固定化に用いる酵素溶液中で、クチナーゼあるいはリパーゼは、疎水性タンパク質として存在しており、水に溶解しにくい。一方、共存する多糖類や夾雑タンパク質は多種に渡る。目的とする酵素以外の夾雑タンパク質あるいは多糖類のうち、親水性を有するものや担体の細孔径よりも大きな分子サイズのものは、水による洗浄工程で除去できる。しかしながら、疎水的な夾雑タンパク質等は、水だけによる洗浄工程だけでは必ずしも効率的に除去できない。そこで、水よりも疎水的な有機溶剤の水溶液を、担体に固定化した酵素が溶解しない溶剤濃度域に調製してこれを用いて洗浄することで、疎水的な夾雑タンパク質を除去できる。例えば、クチナーゼあるいはリパーゼを固定化した担体を洗浄する場合には、1〜50%メタノール水溶液が好ましく、10〜30%メタノール水溶液が特に好ましい。このような濃度のメタノール水溶液による洗浄で、効果的にこれら酵素を失活させることなく、かつ担体から脱離させることなく、他の夾雑物等を固定化担体から脱離させることができる。これにより、クチナーゼあるいはリパーゼを高い効率で固定化した固定化酵素を作製できる。
【0020】
(固定化方法)
以下に本発明の酵素固定化の方法を説明する。
(酵素溶液)
本発明においては、酵素溶液として、多糖類あるいは該酵素以外の夾雑タンパク質等が多く含まれたものを、固定化酵素の製造に好適に用いることができる。
酵素溶液は、酵素の長期安定性を考慮して、酵素乾燥粉末を緩衝液に溶解したものを用いることが好ましいが、微生物培養液をそのまま用いることもできる。また、酵素溶液中の酵素濃度は、固定化を高い効率で行うために、酵素の溶解度以下でかつ高めの濃度とすることが好ましい。
さらに、酵素溶液中には水溶性有機溶媒を含まないか、水溶性有機溶媒を含むとしても、後の洗浄工程で用いる水溶性有機溶媒の濃度よりも低濃度の水溶性有機溶媒とすることが重要である。例えば、固定化に用いる酵素溶液中で、クチナーゼあるいはリパーゼは、有機溶媒に溶解しやすいため、固定化工程では有機溶媒が存在すると酵素が溶解した状態となり固定化量が低下するためである。
【0021】
また、酵素乾燥粉末を溶解する緩衝液は、特に限定されないが、酵素固定化時に酵素活性を失わせることがないよう、pHや濃度を酵素の特性にあわせて選択すればよい。例えば、クチナーゼあるいはリパーゼ溶液を調製する場合には、pHを6〜7に、濃度を5〜500mMに調製した緩衝液を用いることが好ましく、なかでも10〜100mM リン酸緩衝液(pH6.0)が特に好ましい。
【0022】
(固定化工程)
酵素溶液と酵素固定化用担体を接触させる酵素固定化方法は、特に限定されず、常法に従って行うことができる。
例えば、酵素溶液と担体をプラスチックやガラス製の容器内で撹拌させるバッチ方式や、担体をカラムに詰めて酵素溶液を流す連続方式でも良いが、酵素分子と酵素固定化担体が頻繁に接触でき、担体が破損されることがないよう、酵素・担体混合溶液を撹拌や振とう,流動させることが重要である。
【0023】
酵素の固定化を行う温度は、酵素が熱により失活を起こさない温度条件であれば特に限定されないが、例えば、クチナーゼあるいはリパーゼの場合、5〜30℃が好ましい。
また、1回の固定化を行う時間は、特に限定されないが、酵素の固定化反応が平衡状態に達するまでの時間をかけて行うことが好ましく、例えば、クチナーゼあるいはリパーゼの固定化の場合は、5〜40時間かけて行うことが好ましく、10〜24時間かけて行うことがより好ましい。
一方、本発明において、酵素固定化は複数回、好ましくは3回以上行うが、用いる酵素、担体、夾雑物の種類や量により適正回数は種々異なるため、各工程後の固定化酵素量を測定し、固定化酵素量が飽和に達する回数を適宜選択することがより好ましい。
【0024】
(洗浄工程)
本発明においては、複数回ある酵素固定化工程の間で、水溶性有機溶剤またはその水溶液で、少なくとも1回担体を洗浄するが、夾雑物を効率よく除去するためには、水溶性有機溶剤またはその水溶液で毎回洗浄することが好ましい。また、各洗浄工程は、水溶性有機溶剤またはその水溶液による1回の洗浄でもよいが、水(蒸留水)による洗浄と水溶性有機溶剤またはその水溶液による洗浄とを、複数回組み合わせて一つの洗浄工程としてもよく、用いる酵素溶液あるいは担体の種類を考慮して、適宜最適な方法を選択すれば良い。
また、前記水溶性有機溶剤またはその水溶液は、25%メタノール水溶液であることが好ましい。
【0025】
また、洗浄方法は、特に限定されないが、担体が破損することなく、十分な洗浄効果を得るために、洗浄液を反転、撹拌、振とう、流動等させる方法を用いると良い。
この時の洗浄温度は、酵素が熱により失活を起こさない温度であれば特に限定されないが、クチナーゼあるいはリパーゼの場合は、5〜30℃であることが好ましい。
一方、洗浄時間は、酵素を担体から脱離させることなく、他の夾雑物等を固定化担体から脱離させる十分な効果があれば特に限定されないが、例えばクチナーゼあるいはリパーゼの場合は、水溶性有機溶剤またはその水溶液による洗浄は、1〜24時間であることが好ましく、3〜12時間であることがより好ましい。
【0026】
(後処理工程)
酵素を固定化させた担体は、洗浄工程を経た後、該固定化担体の使用目的に応じて、後処理を行うと良く、例えば、酵素活性を損なわない乾燥方法により乾燥することが好ましい。そのような乾燥法として、例えば、30℃以下の冷風乾燥や減圧乾燥等を挙げることができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて、さらに本説明を詳細に説明する。ただし、本発明は、下記実施例の内容に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
◎酵素溶液の調製
酵母の一種であるクリプトコッカス エスピー エス−2を培養して得られる、本酵母が生産するクチナーゼと、該酵母由来の多糖類を含有したクチナーゼ凍結乾燥試料を作製した。
この酵素凍結乾燥試料を50mMリン酸緩衝液(pH6.0)にて試料濃度100mg/mLとなるように溶解して、固定化用の酵素溶液を調製した。
【0028】
◎第1回酵素固定化工程
クチナーゼの分子サイズと近似のサイズである細孔を有する担体として、レバチット VP OC 1600(バイエル社製)約134mgと、先に調製したクチナーゼ酵素溶液 500μLを、2mL容量の蓋付プラスチックチューブ内にて混ぜ合わせ、15℃で一昼夜撹拌して酵素を担体に固定化した。固定化終了後、遠心分離処理することで、酵素固定化担体と固定化に供した酵素溶液とを分離した。
【0029】
◎第1回洗浄工程;水/メタノール水溶液/水
次に、酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄し、25%メタノール水溶液500μLを加え、15℃で12時間撹拌した。撹拌後、1500rpmで5分間遠心分離処理することで、洗浄に供した25%メタノール水溶液の遠心上清を除去した。さらに、分離した酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄した。
【0030】
◎第2回酵素固定化工程
蒸留水による酵素固定化担体の洗浄後、先に調製した酵素溶液を再度加え、前記酵素固定化担体と酵素溶液とを接触させる酵素固定化工程を、15℃で一昼夜撹拌することにより行った。
最後に、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により、酵素固定化担体を5回洗浄した後、15℃で乾燥させ、固定化酵素を得た。固定化された酵素の量を、下記の方法により測定した(以下同様)結果、担体1gあたり21.1mgであった。結果を表1に示す。
【0031】
固定化されたクチナーゼの量の測定:
酵素固定化前後の酵素溶液を採取し、各酵素溶液中に含まれるタンパク質量を、バイオラッド社製プロテインアッセイキットにて測定した。得られた測定値より、以下の式から固定化酵素量(mg)を算出した。
固定化酵素量(mg)=(酵素固定化前の溶液中のタンパク質量)−(酵素固定化後の溶液中のタンパク質量)
【0032】
(実施例2)
◎第2回洗浄工程;水/メタノール水溶液/水
実施例1と同様の方法で2回酵素の固定化を行った担体を、さらに、下記のように洗浄した。
すなわち、酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄し、25%メタノール水溶液 500μLを加え15℃にて7時間撹拌した。撹拌後、1500rpmで5分間遠心分離処理することで、酵素固定化担体から25%メタノール水溶液を除去し、さらに、得られた酵素固定化担体を蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄した。
【0033】
◎第3回酵素固定化工程
蒸留水による酵素固定化担体の洗浄後、先に調製した酵素溶液を再度加え、酵素固定化を2回行った前記酵素固定化担体と酵素溶液を接触させる酵素固定化工程を、15℃で一昼夜撹拌することにより行った。
最後に、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により酵素固定化担体を5回洗浄した後、15℃で乾燥させ、固定化酵素を得た。固定化された酵素の量を測定した結果、担体1gあたり30.6mgであった。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1)
◎1回酵素固定化
実施例1と同じ手順で、クチナーゼ凍結乾燥試料を作製した。この酵素凍結乾燥試料を、試料濃度100mg/mLとなるように、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解して、固定化用の酵素溶液を調製した。
【0035】
酵素固定化用樹脂であるレバチット VP OC 1600(バイエル社製)約135mgと、先に調製したクチナーゼ酵素溶液 500μLを、2mL容量の蓋付プラスチックチューブ内にて混ぜ合わせ、酵素と固定化用担体を接触させる酵素固定化工程を、15℃で一昼夜撹拌することにより1回行った。
【0036】
固定化終了後、遠心分離処理により、酵素固定化担体から、固定化に供した酵素溶液を分離除去した。
次に、酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄した後、15℃で乾燥させ、固定化酵素を得た。固定化された酵素の量を測定した結果、担体1gあたり10.7mgであった。結果を表1に示す。
【0037】
(比較例2)
◎洗浄なし、3回酵素固定化
蒸留水/25%メタノール水溶液による洗浄工程を挿入しない以外は、実施例2と同様の方法で3回の酵素固定化工程を行った。
最後に、酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄した後、15℃で乾燥させ、固定化酵素を得た。固定化された酵素の量を測定した結果、担体1gあたり27.4mgであった。結果を表1に示す。
【0038】
(比較例3)
◎水洗浄、3回酵素固定化
酵素固定化工程間における洗浄を、25%メタノール水溶液ではなく、蒸留水500μLで行った以外は、実施例2と同様の方法で3回酵素固定化工程を行った。
最後に、酵素固定化担体を、蒸留水500μLで室温にて反転・撹拌法により5回洗浄した後、15℃で乾燥させ、固定化酵素を得た。固定化された酵素の量を測定した結果、担体1gあたり25.6mgであった。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、夾雑物を含んだ酵素溶液と担体を用い、複数回酵素を担体に固定化するに際して、酵素固定化工程間で、25%メタノール水溶液による担体の洗浄を行うことにより、酵素固定化が1回の場合よりも多くの酵素を担体に固定化できること、さらに、酵素固定化工程を2回、3回と繰り返すことにより、その回数に比例して、より多くの量の酵素を担体に固定化できることが確認された。
【0041】
一方、比較例2のように洗浄工程を挿入しない場合や、比較例3のように洗浄工程が水による洗浄だけの場合には、酵素の固定化量が、25%メタノール水溶液洗浄を行った場合と比較して、大きく下がることが確認された。
【0042】
以上、本発明の固定化酵素の製造方法により、固定化に用いる酵素試料として、多糖類あるいは固定化する酵素以外のタンパク質等、多くの微生物由来の夾雑物を含む培養液を用いても、酵素の担体への固定化量を向上できることが確認された。
また、本発明は、前記のように、酵素試料として微生物培養物等を用いることができるため、酵素の精製等、複雑かつ多くの工程を省略でき、簡便な製造工程で多くの固定化酵素を提供できるため、コスト的にも優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法により得られた固定化酵素は、工業的な各種酵素反応に供することができる。また、担体への酵素固定化量が多いため、基質の反応点近傍の酵素濃度が高く、さらに容易に生成物と分離、回収、再利用をすることができるので、酵素反応を経済的かつ工業的に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
夾雑物を含んだ酵素溶液と、物理的吸着により酵素を固定化する担体とを接触させる酵素固定化工程を複数回行うことにより、酵素溶液中の酵素を担体に固定化する固定化酵素の製造方法であって、
複数回の酵素固定化工程の間に、水溶性有機溶剤またはその水溶液で、少なくとも1回担体を洗浄する担体洗浄工程を有することを特徴とする固定化酵素の製造方法。
【請求項2】
前記夾雑物が、多糖である請求項1に記載の固定化酵素の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤が、アルコールである請求項1または2に記載の固定化酵素の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、メタノールである請求項3に記載の固定化酵素の製造方法。
【請求項5】
前記酵素が、リパーゼまたはクチナーゼである請求項1〜4のいずれか一項に記載の固定化酵素の製造方法。


【公開番号】特開2007−6717(P2007−6717A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188230(P2005−188230)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【Fターム(参考)】