説明

固定式等速自在継手

【課題】高効率で高作動角を取ることができ、強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手の提供。
【解決手段】外側継手部材のトラック溝は、奥側の第1のトラック溝部7aと、開口側の第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aは、オフセットのない曲率中心をもつ円弧状の軌道中心線Xaを有し、軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面が軸線N−Nに対して傾斜し、傾斜方向は隣り合う第1のトラック溝部7aで互いに反対方向であり、第2のトラック溝部7bの軌道中心線Xbは平面上に投影したとき直線部分を有し、直線部分は開口側ほど軸線N−Nに接近し、第1のトラック溝部7aの軌道中心線Xaの開口側端部に接続され、内側継手部材のトラック溝の軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材の対となるトラック溝の軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定式等速自在継手に関し、詳しくは、自動車や各種産業機械の動力伝達系において使用されるもので、駆動側と従動側の二軸間で角度変位のみを許容する固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のフロント用ドライブシャフトには、通常、インボード側(デフ側)に、最大作動角は比較的小さいが作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が組み込まれ、アウトボード側(車輪側)は、車輪が操舵されるので、大きな作動角が取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が組み込まれる。
【0003】
アウトボード側に使用されている固定式等速自在継手の一例として、図21にツェッパ型等速自在継手101を示す。図21(a)は、作動角0°の状態における縦断面図であり、図21(b)は、最大作動角を取った状態を示す概要図である。図21(a)に示すように、この等速自在継手101は、外側継手部材102、内側継手部材103、ボール104および保持器105を主な構成とする。外側継手部材102の球状内周面106には8本のトラック溝107が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材103の球状外周面108には、外側継手部材102のトラック溝107と対向するトラック溝109が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材102のトラック溝107と内側継手部材103のトラック溝109との間にトルクを伝達する8個のボール104が介在されている。外側継手部材102の球状内周面106と内側継手部材103の球状外周面108の間に、ボール104を保持する保持器105が配置されている。外側継手部材102の外周と、内側継手部材103に連結されたシャフトの外周とをブーツで覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている(図示省略)。
【0004】
図21(a)に示すように、外側継手部材102の球状内周面106と嵌合する保持器105の球状外周面112、および内側継手部材103の球状外周面108と嵌合する保持器105の球状内周面113の曲率中心は、いずれも、継手中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材102のトラック溝107のボール軌道中心線xの曲率中心Ooと、内側継手部材103のトラック溝109のボール軌道中心線yの曲率中心Oiとは、継手中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材102と内側継手部材103の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール104が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0005】
図21(b)に示すように、固定式等速自在継手101の主要機能である最大作動角θmaxは、外側継手部材102の開口端に設けられる入口チャンファ110とシャフト111とが干渉する角度に依存する。シャフト111の軸径dは、許容伝達トルクを確保するためにジョイントサイズ毎に決められている。入口チャンファ110を大きくとると、ボール104が当接する外側継手部材102のトラック溝107の長さ(以下、有効トラック長さという)が不足し、ボール104がトラック溝107から脱落して回転トルクが伝達できなくなる。このため、外側継手部材102の有効トラック長さを確保しつつ、入口チャンファ110を如何に設定するかが、作動角を確保する上で重要なファクターとなる。ツェッパ型等速自在継手101では、外側継手部材102のトラック溝107のボール軌道中心線xの曲率中心Ooが開口側にオフセットされているので、最大作動角の面で有利であるが、最大作動角θmaxは47°程度である。
【0006】
また、8個ボールタイプのツェッパ型等速自在継手101は、従来の6個ボールの等速自在継手に比べて、トラックオフセット量を小さくし、ボールの個数を増やし、かつ直径を小さくしたことにより、軽量・コンパクトで、トルク損失の少ない高効率な等速自在継手を実現している。しかし、作動角0°の状態で、外側継手部材102と内側継手部材103の対向するトラック溝107、109の間に形成される各くさび角が、外側継手部材102の開口側に向けて開いているので、トラック溝107、109からボールに作用する軸方向の力により、外側継手部材102と保持器105との球面接触部106、112および内側継手部材103と保持器105の球面接触部108、113に作用する荷重が一定方向に向かって発生する構造であるため、更なる高効率化や低発熱化には限度がある。
【0007】
前述した8個ボールタイプのツェッパ型等速自在継手101よりも更に高効率化、低発熱化を狙って、トラック溝交差タイプの固定式等速自在継手が提案されている(特許文献1)。この等速自在継手を図22および図23に示す。図22は、作動角0°の状態における縦断面図であり、図23は、高作動角を取った状態を示す図である。図22に示すように、この等速自在継手121は、外側継手部材122、内側継手部材123、ボール124および保持器125を主な構成とする。この等速自在継手121は、トラック溝交差タイプであり、図示は省略するが、外側継手部材122の8本のトラック溝127のボール軌道中心線xを含む平面が継手の軸線n−nに対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝127で互いに反対方向に形成されている。そして、内側継手部材123のトラック溝129のボール軌道中心線yは、作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材122の対となるトラック溝127のボール軌道中心線xと鏡像対象に形成されている。
【0008】
図22に示す縦断面では、外側継手部材122の球状内周面126に形成されたトラック溝127が軸方向に沿って円弧状に延び、その曲率中心は継手中心Oに位置する。内側継手部材123の球状外周面128には、外側継手部材122のトラック溝127と対向するトラック溝129が軸方向に沿って円弧状に延び、その曲率中心は継手中心Oに位置する。外側継手部材122のトラック溝127と内側継手部材123のトラック溝129との交差部にトルクを伝達する8個のボール124が介在されている。外側継手部材122の球状内周面126と内側継手部材123の球状外周面128の間に、ボール124を保持する保持器125が配置されている。外側継手部材122の球状内周面126と嵌合する保持器125の球状外周面132、および内側継手部材123の球状外周面128と嵌合する保持器125の球状内周面133の曲率中心は、いずれも、継手中心Oに形成されている。この等速自在継手121では、外側継手部材122および内側継手部材123のトラック溝127、129のボール軌道中心線x、yの曲率中心は継手中心Oに対して軸方向にオフセットされていないが、傾斜した対向するトラック溝127、129が交差し、この交差部にボール124が介在することにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材122と内側継手部材123の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール124が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0009】
上記のトラック溝交差タイプの固定式等速自在継手121では、外側継手部材122および内側継手部材123のトラック溝127、129は、それぞれが、周方向に隣り合うトラック溝で傾斜方向が互いに反対方向に形成されているので、保持器125の周方向に隣り合うポケット部125aにボール124から相反する方向の力が作用する。この相反する方向の力により保持器125は継手中心O位置で安定する。このため、保持器125の球状外周面132と外側継手部材122の球状内周面126との接触力、および保持器125の球状内周面133と内側継手部材123の球状外周面128との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0010】
上記の固定式等速自在継手121は低発熱ジョイントとしては優れているものの、次のような問題があり、詳細を図23により説明する。図23(a)に上記の等速自在継手が高作動角を取った状態を示し、図23(b)に外側継手部材122のトラック溝127とボール124を拡大して、その位置関係を示す。図23(a)に示すように継手が高作動角θを取ると、作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してボール124の中心Obはθ/2の位置に移動する。ボール124とトラック溝127は、接触角を持ったアンギュラコンタクトとなっているので、ボール124とトラック溝127の接触点は、図23(b)に示す破線上に位置する。そして、ボール124とトラック溝127の接触点の軸方向の位置は、ボール124の中心Obを通って、ボール軌道中心線xに対して直角な平面t上に位置することになるが、上記の固定式等速自在継手121では、外側継手部材122の入口チャンファ130を大きくすると、高作動角θ時に入口チャンファ130を越えて外側に位置し、ボール124がトラック溝127から脱落することになる。この理由は、円弧状トラック溝127の曲率中心と継手中心Oが一致しているため、ボール124の中心Obと接触点sとの間の軸方向の距離wが大きいので、トラック有効長さが不足するためである。したがって、高作動角化が図れないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−250365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した従来技術の問題に鑑みて、発明者らは、特許文献1のトラック溝交差タイプの固定式等速自在継手において高角度化を図るために、継手中心Oから開口側のトラック溝を直線状にすることを検討した。この等速自在継手が図19に示すものであり、図19(a)は縦断面を示し、図19(b)は図19(a)の右側面を示す。図19(a)に示すように、この等速自在継手141では、外側継手部材142および内側継手部材143のトラック溝147、149が交差タイプで、外側継手部材142のトラック溝147は、継手中心Oから奥側は継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線xaを有するトラック溝部147aと、継手中心Oから開口側は直線状のボール軌道中心線xbを有するトラック溝部147bとからなる。一方、内側継手部材143のトラック溝149は、継手中心Oから奥側は直線状のボール軌道中心線ybを有するトラック溝部149bと、継手中心Oから開口側は継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線yaを有するトラック溝部149aとからなる。
【0013】
そして、図19(b)に示すように、トラック溝147、149は、それぞれ、継手の軸線に対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝147A、147Bおよび149A、149Bで傾斜方向が反対方向に形成されている。そして、外側継手部材142および内側継手部材143の対となるトラック溝147A、149Aおよび147B、149Bの各交差部にボール144が配置されている。したがって、図示のような作動角0°の状態でトルク伝達時、トラック溝147A、149Aの間に形成されるくさび角の開く方向と、147B、149Bの間に形成されるくさび角の開く方向とが互いに反対方向となり、保持器145の周方向に隣り合うポケット部145aにボール144から相反する方向の力が作用する。この相反する方向の力により保持器145は継手中心O位置で安定する。このため、保持器145の球状外周面152と外側継手部材142の球状内周面146との接触力、および保持器145の球状内周面153と内側継手部材143の球状外周面148との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0014】
上記のように、トラック溝交差タイプで、外側継手部材142のトラック溝147の継手中心Oから開口側に直線状のトラック溝部147bを形成することにより、有効トラック長さを増加させることができるが、使用頻度の多い作動角を取ったとき、継手のトルク損失や発熱の抑制という面で問題があることが判明した。この理由を図20に基づいて説明する。トラック溝147、149とボール144は、通常、接触角(30°〜45°程度)をもって接触しているので、トラック溝147、149とボール144とは、図20に示すようにトラック溝147、149の溝底より少し離れたトラック溝147、149の側面側の破線で示す位置で接触している。継手が作動角を取った際に、各ボール144には、トラック溝147、149の交差によるくさび角成分(図示省略)と、トラック溝147、149の溝底間の継手半径方向の拡がりによるくさび角成分αの両方が作用する。そのうち、トラック溝147、149の交差によるくさび角成分については、トラック溝147、149の傾斜方向が交互に反対方向なっているので、ボール144から保持器145のポケット部145aに相反する方向の力が作用するので、打消し合い、力がバランスする。
【0015】
ところが、図20に示すように、トラック溝147、149の溝底間の継手半径方向の拡がりによるくさび角成分αについては、図19(b)において、0°〜90°および270°〜360°の位相範囲にあるボール144は直線状のトラック溝部147b、149bに位置し、この位相範囲のボール144には開口側に向けて開いたくさび角成分α1により開口側への力が作用する。一方、90°〜270°の位相範囲にあるボール144は円弧状のトラック溝部147a、149aに位置するので、この位相範囲のボールには継手の半径方向の拡がりにより発生するくさび角成分α2が0であり、ボール144の押出力は発生しない。したがって、各ボール144に対して、トラック溝147、149の交差によるくさび角成分と、トラック溝147、149の溝底間の継手半径方向の拡がりによるくさび角成分αとを合わせると、保持器145の各ポケット部145aにボール144から作用する力が釣り合わず、保持器145と外側継手部材142との球面接触部152、146および保持器145と内側継手部材143との球面接触部153、148の接触力を低減させることができないという問題が生じる。特に、作動角が常用角を含む使用頻度の多い作動角の範囲では、トルク損失や発熱の抑制という面で大きな問題があることが判明した。
【0016】
さらに、図19および図20に示す等速自在継手141では、ボール軌道中心線xと継手中心Oを含む平面に継手の軸線n−nを投影したとき、この投影した継手の軸線に対して直線状のトラック溝部147bが平行に形成されており、一方、ボール軌道中心線yと継手中心Oを含む平面に継手の軸線n−nを投影したとき、この投影した継手の軸線に対して直線状のトラック溝部149bが平行に形成されている。このため、継手が高作動角を取ったとき、直線状のトラック溝部147b、149bとの間で形成されるくさび角が大きくなる。その結果、直線状のトラック溝部147b、149bに挟まれたボール144に開口側に飛び出そうとする力が大きくなりなる。これが原因で、保持器145のポケット荷重が大きくなり、高作動角時における保持器145の強度が問題であることが判明した。
【0017】
以上の問題に鑑み、本発明は、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、トルク損失および発熱が少なく高効率化を図るためにトラック溝が周方向に交差し、かつ継手中心に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状のボール軌道中心線を有する第1のトラック溝部により使用頻度の多い作動角の範囲をカバーすると共に、最大作動角に対する有効トラック長さを増加させるために直線状部分を有する第2のトラック溝部により使用頻度の低い高作動角の範囲をカバーするという新規な着想に至った。これに加えて、高作動角時における第2のトラック溝部のくさび角の大きさを抑制するという着想に至った。
【0019】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、このボールを保持し、前記外側継手部材の球状内周面と内側継手部材の球状外周面とに嵌合する球状外周面と球状内周面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、前記外側継手部材のトラック溝は、奥側に位置する第1のトラック溝部7aと、開口側に位置する第2のトラック溝部7bとからなり、前記第1のトラック溝部7aは、継手中心Oに対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状のボール軌道中心線Xaを有し、少なくともボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mが継手の軸線N−Nに対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部7aで互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbを前記平面M上に投影したとき、ボール軌道中心線Xbが直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線N−Nに接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの端部Aが前記継手中心Oより軸方向に開口側に位置し、この端部Aに前記第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されていることを特徴とする。ここで、上記の継手の軸線とは、継手の回転中心となる長手方向の軸線を意味し、後述する実施形態における継手の軸線N−Nを指す。特許請求の範囲に記載の継手の軸線も同じとする。
【0020】
上記の構成により、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を実現することができる。特に、第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbを平面M上に投影したとき、ボール軌道中心線Xbの直線状部分が開口側に行くにつれて継手の軸線N−Nに接近するように形成されているので、高作動角時における直線状のトラック溝7b、9bのくさび角の大きさを抑制することができるので、保持器5の強度を確保することができる。
【0021】
具体的には、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線Lが、作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度をβとし、この角度βを使用状態に応じて、適宜設定することができる。βの角度は、自動車用等速自在継手の常用作動角度範囲を考慮すると、3〜10°に設定にすることで種々の車種に汎用することができる。ただし、ここで、角度βは直線Lが平面P上の直線となす角の中で最小のものと定義する。そして、実施形態および特許請求の範囲においても同じとする。
【0022】
上記の第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの曲率中心を、継手の軸線N−N上に配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができる。また、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの曲率中心を、継手の軸線N−Nより半径方向にオフセットさせることにより、継手の奥側のトラック溝深さを調整することができ、最適なトラック溝深さを確保することができる。
【0023】
上記の保持器の球状外周面と球状内周面とが、継手中心Oに対して軸方向にオフセットした曲率中心を有することにより、開口側に向かって保持器の肉厚が厚くなり、特に高作動角時の保持器の強度を確保することができる。
【0024】
上記の第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbの全域を直線状とし、第1のトラック溝部7aの円弧状のボール軌道中心線Xaに接線として形成することができる。これにより、第1のトラック溝部7aと第2のトラック溝部7bがシンプルな形態に形成できるので、加工が容易となり製造コストを低減することができる。
【0025】
上記の第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが、第1のトラック溝部7aの円弧状ボール軌道中心線Xaの曲率半径とは異なる曲率半径の円弧状部分を含んでおり、この円弧状部分が第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの端部Aに接続されている。これにより、第2のトラック溝部のくさび角の大きさを調整することができる。
【0026】
上記の第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbの傾斜角γを、開口側に向けて徐々に減少することができる。また、第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbの直線状部分を継手の軸線N−Nに平行に形成することができる。これにより、周方向に隣り合う第2のトラック溝部7bの接近した側の間隔は拡がり、離反した側の間隔は狭まるため、周方向で各間隔の差を小さくすることができる。その結果、外側継手部材の各球状内周面の開口側の接触面積の差および内側継手部材の各球状外周面の奥側の接触面積の差を小さくすることができるので、保持器と外側継手部材、内側継手部材の球面接触部がバランスよく配置でき、さらなる作動の円滑化を図ることができる。
【0027】
上記のトルク伝達ボールの個数を8個又は10個とすることにより、軽量コンパクトで、高効率で、高作動角が取れる固定式等速自在継手、ひいては自動車のドライブシャフトを実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を実現することができる。特に、高作動角時における直線状のトラック溝のくさび角の大きさを抑制することができるので、保持器の強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る固定式等速自在継手の部分縦断面図および側面図である。
【図2】上記の固定式等速自在継手の外側継手部材の部分縦断面図および側面図である。
【図3】上記の固定式等速自在継手の内側継手部材の外周面および側面を示す図である。
【図4】外側継手部材のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。
【図5】内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。
【図6】継手が最大作動角を取った状態を示す概要図である。
【図7】継手が最大作動角を取ったときのボールとトラック溝との接触状態を示す図である。
【図8】継手が最大作動角を取った状態のくさび角を示す図である。
【図9】外側継手部材と内側継手部材の斜視図である。
【図10】上記の固定式等速自在継手を自動車のドライブシャフトに使用した状態を示す図である
【図11】本発明の第2の実施形態に係る固定式等速自在継手の外側継手部材の縦断面図である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る固定式等速自在継手の外側継手部材の縦断面図である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る固定式等速自在継手の部分縦断面図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る固定式等速自在継手の部分縦断面図である。
【図15】上記の固定式等速自在継手の外側継手部材の縦断面図である。
【図16】上記の固定式等速自在継手の内側継手部材の縦断面図である。
【図17】上記の固定式等速自在継手の外側継手部材の内周形状を示す部分縦断面図である。
【図18】上記の固定式等速自在継手の内側継手部材の外周形状を示す図である。
【図19】本発明に至る過程における技術的知見を説明する図である。
【図20】本発明に至る過程における技術的知見を説明する図である。
【図21】従来技術の固定式等速自在継手の縦断面図である。
【図22】従来技術の固定式等速自在継手の縦断面図である。
【図23】従来技術の固定式等速自在継手の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態を図1〜図18に基づいて説明する。
【0031】
本発明の第1の実施形態を図1〜図10に示す。図1は、第1の実施形態に係る固定式等速自在継手を示し、図1(a)は部分縦断面図であり、図1(b)は図1(a)の右側面図である。この等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とする。図1(b)、図2および図3に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bの各交差部に8個のボール4が配置されている。トラック溝7、9の詳細は後述する。
【0032】
継手の縦断面を図1(a)に示す。軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、ボール軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、ボール軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。したがって、トラック溝の傾斜状態は、ボール軌道中心線の傾斜状態と同じであり、また、トラック溝の円弧状、あるいは直線状の状態は、ボール軌道中心線の円弧状、あるいは直線状の状態と同じである。
【0033】
図1(a)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。一方、内側継手部材3のトラック溝9はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。第1のトラック溝部7a、9aのボール軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手中心O、すなわち継手の軸線N−N上に配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°〜45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0034】
図2に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。図2(a)は外側継手部材2の部分縦断面を示し、図2(b)は外側継手部材2の右側面を示す。外側継手部材2のトラック溝7は、その傾斜方向の違いから、トラック溝7A、7Bの符号を付す。図2(a)に示すように、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝7Aに周方向に隣り合うトラック溝7Bは、図示は省略するが、トラック溝7Bのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝7Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。本実施形態では、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xの全域、すなわち、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaおよび第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbの両方が平面M上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaのみが平面Mに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mが継手の軸線N−Nに対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部7aで互いに反対方向に形成されていればよい。
【0035】
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材2のトラック溝全体を指す場合は符号7を付し、その第1のトラック溝部に符号7a、第2のトラック溝部に符号7bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号7A、7Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号7Aa、7Ba、第2のトラック溝部に符号7Ab、7Bbを付す。後述する内側継手部材3のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
【0036】
次に、図3に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。図3(b)は内側継手部材3の外周面を示し、図3(a)は内側継手部材3の左側面を、図3(c)は右側面を示す。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。図3(b)に示すように、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N−Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°〜12°にすることが好ましい。また、前述した外側継手部材と同様、本実施形態では、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yの全域、すなわち、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaおよび第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybの両方が平面Q上に形成されている。しかし、これに限られるものではなく、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaのみが平面Qに含まれている形態も実施することができる。したがって、少なくとも第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Qが継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う第1のトラック溝部9aで互いに反対方向に形成されていればよい。内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。
【0037】
図4に基づいて、外側継手部材2の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。図4の部分縦断面は、前述した図2(a)のトラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図4には、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。外側継手部材2の球状内周面6にはトラック溝7Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝7Aはボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7Aaと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abとからなる。そして、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて、第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Aが第1のトラック溝部7Aaと第2のトラック溝7Abとの接続点である。端部Aは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて接線として接続される第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N−N(図1(a)参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0038】
図4に示すように、端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線をLとする。トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M(図2(a)参照)上に投影された継手の軸線N’−N’は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’−N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線Lとがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、本発明でいう直線Lが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0039】
同様に、図5に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。図5の縦断面は、前述した図3(b)のトラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、図4と同様に、厳密には、継手の軸線N−Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図5には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝9Aはボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部9Abのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Bが第1のトラック溝部9Aaと第2のトラック溝9Abとの接続点である。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状のボール軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N−N(図1(a)参照)に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0040】
図5に示すように、端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線をRとする。トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q(図3(b)参照)上に投影された継手の軸線N’−N’は継手の軸線N−Nに対しγだけ傾斜し、軸線N’−N’の継手中心Oにおける垂線Kと直線Rとがなす角度をβ’とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面P上にある。したがって、直線Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ’×cosγの関係になる。
【0041】
次に、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材2および内側継手部材3の継手中心Oを含む平面Pに対して、ボール4がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール4が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い作動角について定義する。まず、継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°〜15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。そして、使用頻度の多い作動角とは、上記の自動車が、例えば、交差点の右折・左折時などに生じる高作動角ではなく、連続走行する曲線道路などで固定式等速自在継手に生じる作動角をいい、これも車種ごとの設計条件に応じて決定される。使用頻度の多い作動角は最大20°を目処とする。これにより、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してなす角度βを3°〜10°と設定する。ただし、角度βは3°〜10°に限定されるものではなく、車種の設計条件に応じて適宜設定することができる。角度βを3°〜10°に設定することで種々の車種に汎用することができる。
【0042】
上記の角度βにより、図4において、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの端部Aは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も開口側に移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材3では、図5において、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、使用頻度が多い作動角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7Aa、9Aaと、傾斜方向が反対の7Ba、9Ba(図2、図3参照)に位置するので、保持器5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、保持器5は継手中心Oの位置で安定する(図1参照)。このため、保持器5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、および保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0043】
本実施形態の等速自在継手においては、保持器5のポケット部5aとボール4との嵌め合いをすきま設定にしてもよい。この場合、前記すきまは0〜40μm程度に設定することが好ましい。すきま設定にすることにより、保持器5のポケット部5aに保持されたボール4をスムーズに作動させることができ、更なるトルク損失の低減を図ることができる。
【0044】
本実施形態の等速自在継手が最大作動角を取った状態を図6に示す。外側継手部材2のトラック溝7Aは、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abが開口側に形成されている。コンパクト設計の中で、この第2のトラック溝部7Abの存在により、最大作動角時における有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。そのため、図示のように、最大作動角θmaxを47°程度の高角にしても、必要十分な入口チャンファ10を設けた状態でボール4がトラック溝7Abと接触状態を確保することができ、かつ、くさび角が大きくならないように抑えることができる。
【0045】
尚、高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール4が第1のトラック溝部7Aa、9Aa(7Ba、9Ba、図2(a)および図3(b)参照)と第2のトラック溝部7Ab、9Ab(7Bb、9Bb、図2(a)および図3(b)参照)に一時的に分かれて位置する。これに伴い、保持器5の各ポケット部5aにボール4から作用する力が釣り合わず、保持器5と外側継手部材2との球面接触部12、6および保持器5と内側継手部材3との球面接触部13、8の接触力が発生するが、高作動角の範囲は使用頻度が少ないため、本実施形態の等速自在継手1は、総合的にみるとトルク損失や発熱を抑制できる。したがって、トルク損失および発熱が少なく高効率で、高作動角を取ることができ、高作動角時の強度や耐久性にも優れたコンパクトな固定式等速自在継手を実現することができる。
【0046】
さらに、本実施形態の等速自在継手の最大作動角時におけるトラック溝とボールの接触状態を図7に基づいて詳細に説明する。図7(a)は、等速自在継手1の縦断面図であり、図7(b)は外側継手部材2のトラック溝7Aとボール4との接触状態を示す拡大図である。この図においても、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。図7(a)に示すように継手が最大作動角θmaxを取ると、作動角0°の状態の継手中心Oを含む平面Pに対してボール4の中心Obはθmax/2の位置に移動する。このとき、ボール4と第2のトラック溝部7Abとの接触点Sが入口チャンファ10に最も近づく。第2のトラック溝7Abの直線状ボール軌道中心線Xbは、第1のトラック溝部7Aaの円弧状ボール軌道中心線Xaの端部Aにおいて、接線として接続されているので、図7(a)の縦断面において、外側継手部材2の開口側に行くにつれて継手の軸線N−Nに接近する方向に傾斜している。図7(b)に拡大して示すように、ボール4とトラック溝7Abの接触点Sは、ボール4の中心Obを通って、ボール軌道中心線Xbに対して直角な平面T上に位置する。ボール軌道中心線Xbが直線状であるので、ボール4の中心Obと接触点Sとの間の軸方向の距離Wは、図23(b)に示す従来の等速自在継手よりも小さくなっており、その分、有効トラック長さが増加している。そのため、本実施形態では、最大作動角をとった状態で、入口チャンファ10のエッジ部と接触点Sとの間にトラック余裕量Uを確保することができ、ボール4がトラック溝部7Abと十分な接触状態を確保することができる。
【0047】
次に、本実施形態の等速自在継手の大きな特徴である最大作動角時におけるくさび角の状態について図8に基づいて説明する。図8(a)は、等速自在継手1の縦断面図であり、図8(b)は外側継手部材2のトラック溝7A(7Ab)と内側継手部材3のトラック溝9A(9Ab)のくさび角の状態を示す拡大図である。この図においても、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。本実施形態の等速自在継手1では、トラック溝7A、9Aとボール4は接触角をもったアンギュラコンタクトとなっており、かつ、トラック溝7A、9Aのボール軌道中心線X、Yがそれぞれ傾斜角γ(図2(a)および図3(b)参照)を有しているので、本明細書においては、トラック溝のくさび角とはボールとトラック溝の接触点における実際のくさび角を意味する。しかしながら、図示方法としては、トラック溝7A、9Aの溝底を用いて、くさび角を簡便的に表示する。図8(a)に示すように、本実施形態の等速自在継手1が最大作動角時θmaxにおけるトラック溝7A、9Aのくさび角αは、回転方向の位相角が300°〜360°(図19(b)参照)において最も大きくなる。外側継手部材2の第2のトラック溝部7Abの直線状ボール軌道中心線Xbは、第1のトラック溝部7Aaの円弧状ボール軌道中心線Xaの端部Aにおいて、接線として接続されているので、作動角が0°の状態で、図示縦断面において、外側継手部材2の開口側に行くにつれて継手の軸線N−Nに接近する方向に傾斜しており、一方、内側継手部材3の第2のトラック溝部9Abの直線状ボール軌道中心線Ybは、外側継手部材2の直線状ボール軌道中心線Xbとは反対方向に傾斜している。したがって、第2のトラック溝部7Ab、9Abは、作動角が0°の状態では、開口側に狭まるように形成されている。そのため、最大作動角時におけるくさび角αを減少させることができる。その結果、直線状の第2のトラック溝部7Ab、9Abに挟まれたボール4が開口側に飛び出そうとする力が減少し、保持器5のポケット荷重が減少し、高作動角時における保持器5の強度を確保することができる。
【0048】
最大作動角時におけるくさび角αを減少させることができる理由について、図8(b)により具体的に説明する。図8(b)には、本実施形態の等速自在継手1の外側継手部材2および内側継手部材3の第2のトラック溝部を7Ab、9Abで示す。そして、検討した比較例1の第2のトラック溝部を7Ab’、9Ab’で示し、比較例2の第2のトラック溝部を7Ab”、9Ab”で示す。本実施形態の等速自在継手1では、前述したように、第2のトラック溝部7Ab、9Abは、作動角が0°の状態では、開口側に狭まるように形成されているので、その分、最大作動角時のくさび角は減少しαとなる。これに対して、比較例1は、作動角0°の状態で、図8(b)の断面で見て、第2のトラック溝部7Ab’、9Ab’の溝底が平行に形成されているので、最大作動角時のくさび角はα’と大きくなり、さらに比較例2では、第2のトラック溝部7Ab”、9Ab”の溝底が、外側継手部材2の開口側に行くにつれて離隔するように形成されているので、最大作動角時のくさび角はα”とさらに大きくなる。このように、本実施形態の等速自在継手1では、最大作動角時のくさび角αを、比較例1および比較例2に比べて、小さくすることができる。上記のように有効トラック長さでは比較例1および比較例2の方が増加するが、実用上の固定式等速自在継手としては、最大作動角時における有効トラック長さの確保とくさび角の抑制とを両立できる本実施形態が好ましい。
【0049】
図9に、本実施形態の等速自在継手の外側継手部材2と内側継手部材3の斜視図を示す。この斜視図は、これまでに説明したトラック溝を立体的に示している。図9(a)に示すように、外側継手部材2の球状内周面6に、継手の軸線N−N(図示省略)に対して周方向に傾斜したトラック溝7A、7Bが交互に形成され、その傾斜方向は交互に反対方向に形成されている。トラック溝7A、7Bは、それぞれ第1のトラック溝部7Aa、7Baと第2のトラック溝部7Ab、7Bbとからなる。外側継手部材2の開口端に入口チャンファ10が設けられている。また、図9(b)に示すように、内側継手部材3の球状外周面8には、継手の軸線N−N(図示省略)に対して周方向に傾斜したトラック溝9A、9Bが交互に形成され、その傾斜方向は交互に反対方向に形成されている。トラック溝9A、9Bは、それぞれ第1のトラック溝部9Aa、9Baと第2のトラック溝部9Ab、9Bbとからなる。
【0050】
図10は、本実施形態の固定式等速自在継手1を適用した自動車のフロント用ドライブシャフト20を示す。固定式等速自在継手1は中間シャフト11の一端に連結され、他端には摺動式トリポード型等速自在継手15が連結されている。固定式等速自在継手1の外周面とシャフト11の外周面との間、および摺動式トリポード型等速自在継手15の外周面とシャフト11の外周面との間に、それぞれ蛇腹状ブーツ16a、16bがブーツバンド18a、18b、18c、18dにより取り付け固定されている。継手内部には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。本実施形態の固定式等速自在継手1を使用したので、トルク損失や発熱が小さく高効率で、かつ高作動角が取れ、軽量・コンパクトな自動車用ドライブシャフト20が実現される。
【0051】
次に、本発明の第2の実施形態に係る固定式等速自在継手を図11に基づいて説明する。図11は本実施形態の固定式等速自在継手の外側継手部材のみを示し、図4と同様、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である(図2(a)参照。以降の実施形態の対応図においても同様とする。)。また、外側継手部材の軸線から半径方向の上半分を示したものである。この固定式等速自在継手は、前述した第1の実施形態の固定式等速自在継手と比較して、第2のトラック溝部が円弧状部分と直線状部分からなる点が異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明は省略する。
【0052】
外側継手部材2の第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aは第1の実施形態と同じである。第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbは、円弧状ボール軌道中心線Xb1と直線状ボール軌道中心線Xb2からなり、円弧状ボール軌道中心線Xb1が第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aに接続されている。円弧状ボール軌道中心線Xb1の曲率半径は、第1のトラック溝7aのボール軌道中心線Xaの曲率半径よりも小さく、円弧状ボール軌道中心線Xb1の開口側の端部Eにおいて直線状ボール軌道中心線Xb2が接線として接続されている。図示は省略するが、内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。円弧状ボール軌道中心線Xb1の曲率半径や角度範囲Fを適宜設定することにより、第2のトラック溝7bの直線状ボール軌道中心線Xb2が、開口側に行くにつれて継手の軸線N−Nに接近する方向の傾斜角を変更することが可能であり、最大作動角時におけるくさび角αを適宜調整することができる。図11に示すように、本実施形態では、軸線N−Nに接近する方向の傾斜角を第1の実施形態に比較して角度λだけ大きくしている。外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9の継手の軸線N−Nに対する周方向の傾斜状態、保持器5の構成や継手の作用については、第1の実施形態の固定式等速自在継手と同様であるので、重複説明は省略する。
【0053】
本発明の第3の実施形態に係る固定式等速自在継手を図12に基づいて説明する。図12においても固定式等速自在継手の外側継手部材のみを示す。この固定式等速自在継手は、前述した第1の実施形態の固定式等速自在継手と比較して、第1のトラック溝部の円弧状ボール軌道中心線の曲率中心を、継手の軸線N−Nに対して半径方向にオフセットさせ、これに対応して第2のトラック溝部の直線状ボール軌道中心線の構成を調整したところが異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同じである。本実施形態においても第1の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明は省略する。以降の実施形態についても同様とする。
【0054】
外側継手部材2の第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aは第1の実施形態と同じである。しかし、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの曲率中心Oo3は、継手中心Oに対して軸方向オフセットはないが、継手の軸線に対して半径方向にf2だけオフセットしている。これに伴い、第2のトラック溝部7bの直線状のボール軌道中心線Xbは、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側端部Aに接線として接続するよう調整されている。この構成により、継手の奥側のトラック溝深さを調整することができる。本実施形態の固定式等速自在継手においても、図示は省略するが、内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9の継手の軸線N−Nに対する周方向の傾斜状態、保持器5の構成や継手の作用については、第1の実施形態の固定式等速自在継手と同様であるので、重複説明は省略する。
【0055】
本発明の第4の実施形態に係る固定式等速自在継手を図13に基づいて説明する。この実施形態の固定式等速自在継手は、第1の実施形態の固定式等速自在継手と比較して、保持器の球状外周面および球状内周面の曲率中心を継手中心Oに対して軸方向にオフセットさせた点が異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同じである。
【0056】
図13(a)は固定式等速自在継手の部分縦断面を示し、図13(b)は保持器の縦断面を示す。保持器5の球状外周面12の曲率中心Oc1と球状内周面13の曲率中心Oc2は継手中心Oに対してf3だけ軸方向にオフセットされている。このオフセットの構成により、開口側に向かって保持器5の肉厚が厚くなり、特に高作動角時の保持器5の強度を向上することができる。前述したように、高作動角の範囲では、周方向に配置されたボール4が第1のトラック溝部7Aa、9Aa(7Ba、9Ba、図2(a)および図3(b)参照)と第2のトラック溝部7Ab、9Ab(7Bb、9Bb、図2(a)および図3(b)参照)に一時的に分かれて位置する。この場合に、第2のトラック溝部7Ab、9Ab(7Bb、9Bb)に位置するボール4から保持器5のポケット部5aに開口側に押圧する力が作用するが、開口側に向かって保持器5の肉厚が厚くなっているので、保持器5の強度を向上することができる。また、奥側のトラック溝7a、9bのトラック溝深さを増加させることができる。この実施形態においても、外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9の継手の軸線N−Nに対する周方向の傾斜状態、保持器5の構成や継手の作用については、第1の実施形態の固定式等速自在継手と同様であるので、重複説明は省略する。
【0057】
本発明の第5の実施形態に係る固定式等速自在継手を図14〜図18に基づいて説明する。この実施形態の固定式等速自在継手は、第1の実施形態の固定式等速自在継手と比較して、第2のトラック溝部の構成が異なり、その他の構成は、第1の実施形態と同じである。
【0058】
図14に示すように、本実施形態の固定式等速自在継手の縦断面では、第2のトラック溝部の形状を含めて、第1の実施形態とほぼ同様の形状である。すなわち、外側継手部材2のトラック溝7はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、第1のトラック溝7aのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面M(図17参照)上に投影したとき、直線状をなすボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。一方、内側継手部材3のトラック溝9はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Q(図18参照)上に投影したとき、直線状をなすボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。
【0059】
図15に示すように、外側継手部材2の第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aまでの形状は、第1の実施形態と同じである。しかし、第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbは第1の実施形態と異なる。本実施形態の外側継手部材2の第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbは、第1のトラック溝7aのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面M(図17参照))上に投影したときは、直線状を呈するが、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aに滑らかに接続後、開口側に向かって徐々に傾斜角γが小さくなるようになだらかに湾曲し、開口端部付近では傾斜角γが0°となるように形成されている。図16に示す内側継手部材3の第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybも同様であり、内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含む平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対象に形成されている。
【0060】
図17に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を説明する。外側継手部材2の第1のトラック溝7Aaのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、第1のトラック溝部7Aaに周方向に隣り合う第1のトラック溝部7Baは、図示は省略するが、第1のトラック溝部7Baのボール軌道中心線Xaと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N−Nに対して、第1のトラック溝部7Aaの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。上記のように本実施形態では、第1のトラック溝部7Aa、7Baのみが平面M上に形成されている。また、本実施形態では、第2のトラック溝部7Abのボール軌道中心線Xbは、前述したように、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aと滑らかに接続した後、開口側に向かって徐々に傾斜角γが小さくなるようになだらかに湾曲し、開口端部付近では傾斜角γが0°となるように形成されている。傾斜方向が反対になる第2のトラック溝部7Bbのボール軌道中心線Xbも同様に形成されている。
【0061】
図18に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N−Nに対して周方向に傾斜している状態を説明する。内側継手部材3の第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N−Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、第1のトラック溝部9Aaに周方向に隣り合う第1のトラック溝部9Baは、図示は省略するが、第1のトラック溝部9Baのボール軌道中心線Yaと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N−Nに対して、第1のトラック溝部9Aaの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。前述した外側継手部材2のトラック溝と同様に、内側継手部材3の第2のトラック溝部9Abのボール軌道中心線Ybは、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bと滑らかに接続した後、奥側に向かって徐々に傾斜角γが小さくなるようになだらかに湾曲し、奥側端部付近では傾斜角γが0°となるように形成されている。なお、傾斜方向が反対になる第2のトラック溝部9Bbのボール軌道中心線Ybも同様に形成されている。
【0062】
上記のように、外側継手部材2および内側継手部材3の第2のトラック溝部7Ab、9Abおよび7Bb、9Bbが形成されているので、周方向に隣り合う第2のトラック溝部7Abと7Bbおよび9Abと9Bbの接近した側の間隔が拡がり、周方向で各間隔の差を小さくすることができる。これにより、外側継手部材2の各球状内周面6の開口側の接触面積の差および内側継手部材3の各球状外周面8の奥側の接触面積の差を小さくすることができるので、保持器5と外側継手部材2、内側継手部材3の球面接触部がバランスよく配置でき、さらなる作動の円滑化を図ることができる。
【0063】
上記の第5の実施形態では、外側継手部材2の第2のトラック溝部7Ab、7Bbのボール軌道中心線Xbを、第1のトラック溝部7Aa、7Baのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aと滑らかに接続した後、開口側に向かって徐々に傾斜角γが小さくなるようになだらかに湾曲し、開口端部付近では傾斜角γが0°となるように形成し、一方、内側継手部材3の第2のトラック溝部9Ab、9Bbのボール軌道中心線Ybを、第1のトラック溝部9Aa、9Baのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bと滑らかに接続した後、奥側に向かって徐々に傾斜角γが小さくなるようになだらかに湾曲し、奥側端部付近では傾斜角γが0°となるように形成したものを示したが、これに限定されない。すなわち、外側継手部材2の第2のトラック溝部7Ab、7Bbのボール軌道中心線Xbを、第1のトラック溝部7Aa、7Baのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aに比較的小さな曲率半径の円弧で接続した後、開口側は傾斜角γが0°で形成し、同様に、内側継手部材3の第2のトラック溝部9Ab、9Bbのボール軌道中心線Ybを、第1のトラック溝部9Aa、9Baのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bに比較的小さな曲率半径の円弧で接続した後、奥側は傾斜角γが0°で形成してもよい。
【0064】
以上の実施形態の固定式等速自在継手では、ボール4の個数を8個のもので説明したが、これに限られるものではない。ボールの個数は10個のものも好ましく、さらにボールの個数が12個のものも適宜実施することができる。
【0065】
また、以上の実施形態の固定式等速自在継手では、第1のトラック溝部は、単一の円弧に限られず、トラック溝深さなどを考慮して複数の円弧で形成してもよい。さらに、トラック溝は周方向に等ピッチで配置したものを示したが、不等ピッチで配置してもよい。また、継手の軸線N−Nに対する第1のトラック溝の傾斜角度γが、すべてのトラック溝において等しいものを示したが、これに限られず、傾斜角度γを外側継手部材と内側継手部材の対となる第1のトラック溝と他の対となる第1のトラック溝とで不等角度に形成してもよい。要は、保持器の周方向すべてのポケット部に作用するボールの軸方向の力が、全体として釣合うように各傾斜角度が設定されておればよい。加えて、トラック溝とボールとが接触角をもって接触するアンギュラコンタクトの実施形態を示したが、これに限られず、トラック溝の横断面形状を円形状に形成したサーキュラコンタクトにしてもよい。
【0066】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0067】
1 固定式等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 ボール
5 保持器
6 球状内周面
7 トラック溝
7a 第1のトラック溝部
7b 第2のトラック溝部
8 球状外周面
9 トラック溝
9a 第1のトラック溝
9b 第2のトラック溝
11 シャフト
12 球状外周面
13 球状内周面
20 ドライブシャフト
A 端部
B 端部
f2 オフセット量
f3 オフセット量
K 垂線
L 直線
M ボール軌道中心線を含む平面
N 継手の軸線
O 継手中心
P 継手中心平面
Q ボール軌道中心線を含む平面
Oc1 曲率中心
Oc2 曲率中心
Oo3 曲率中心
R 直線
X ボール軌道中心線
Y ボール軌道中心線
γ 傾斜角
β 角度
θ 作動角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材のトラック溝と対をなす複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、このボールを保持し、前記外側継手部材の球状内周面と内側継手部材の球状外周面とに嵌合する球状外周面と球状内周面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材のトラック溝は、奥側に位置する第1のトラック溝部(7a)と、開口側に位置する第2のトラック溝部(7b)とからなり、前記第1のトラック溝部(7a)は、継手中心(O)に対して軸方向にオフセットのない曲率中心をもつ円弧状のボール軌道中心線(Xa)を有し、少なくともボール軌道中心線(Xa)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N−N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部(7a)で互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)を前記平面(M)上に投影したとき、ボール軌道中心線(Xb)が直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線(N−N)に接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)が前記継手中心(O)より開口側に位置し、この端部(A)に前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含む平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線(X)と鏡像対象に形成されていることを特徴とする固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の開口側の端部(A)と継手中心(O)とを結ぶ直線(L)が、前記継手中心(O)を含む平面(P)に対してなす角(β)を3°〜10°に設定したことを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の曲率中心を、継手の軸線(N−N)上に配置したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定式等速自在継手。
【請求項4】
前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の曲率中心を、継手の軸線(N−N)より半径方向にオフセットさせたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定式等速自在継手。
【請求項5】
前記保持器の球状外周面と球状内周面とが、継手中心(O)に対して軸方向にオフセットされた曲率中心を有することを特徴とする請求項1に記載の固定式等速自在継手。
【請求項6】
前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)の全域が直線状であり、前記第1のトラック溝部(7a)の円弧状のボール軌道中心線(Xa)に接線として形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
【請求項7】
前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が、第1のトラック溝部7aの円弧状ボール軌道中心線Xaの曲率半径とは異なる曲率半径の円弧状部分を含んでおり、この円弧状部分が前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)に接続されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
【請求項8】
前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)の傾斜角(γ)が、開口側に向けて徐々に減少することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
【請求項9】
前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)の直線状部分が、継手の軸線(N−N)に平行に形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。
【請求項10】
前記トルク伝達ボールの個数を8個としたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の固定式等速自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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