説明

固定用シート

【課題】ディスクの回転に際して発生する上下の振れを低減し、更に共振に係る振動を吸収・低減と、固定用シート上への埃等の付着による高低差の変動の回避とを達成し得る固定用シートを提供する。
【解決手段】ディスク装置70の回転部に設けられて、記憶媒体としてのディスク60が載置されるリング状の固定用シートにおいて、エラストマを原料とし、0.170MPa以下の圧縮荷重による撓み率が少なくとも5%とされた所要厚みの発泡層から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディスク固定用シートに関し、更に詳細には、殊に高速回転性が要求されるディスクドライブ装置(以下、ディスク装置と云う)のターンテーブル上に設置され、該ディスクを載置するリング形状の固定用シートとして好適に使用され、高速回転時に発生するディスクの上下方向の振れを大きく抑制し、これにより該ディスクからのデータの読み込み等を安定して行ない得るようにしたディスク固定用シート(以下、単に固定用シートと云う)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータに代表される小型汎用コンピュータの急速な普及と、該コンピュータで使用される各種データの大容量化とに伴い、大量かつ高速なデータの取り扱いが容易なDVD−ROM等の記録再生コンパクトディスク(以下、単にディスクと云う)が常用されている。このディスクの読み込み等の速度は、技術の進歩に応じて高速化されており、読み込みで50倍速(150キロバイト/秒(1倍速)×50=7500キロバイト/秒)程度の性能が、また書き込みにおいても同じく50倍速程度まで高速化がなされていた。
【0003】
このようにディスクの読み込み等の高速化に伴って速くなる回転速度により、回転時のディスクは振動等によって上下方向に振れて、回転時のディスク縁部における高低差(以下、回転時高低差と云う)が大きくなる。そのためディスクと読み取り部分であるピックアップレーザとの距離が不安定化し、読み込み等の精度および安定性が低下する問題があった。この問題を回避すべく本願出願人は、下記の[特許文献1]に記載の発明「ディスク固定用シートおよびその製造方法」により、従来のようにミラブル系ゴム原料をカレンダー成形によって厚み制御しつつ成形するのではなく、ナイフコータ等の各種コータを使用することで、固定用シート自体の厚みの寸法精度を向上させて回転時高低差を低減し、更に可撓性および摩擦性等の物性をも併有したディスク固定用シートを案出していた。これらの性状は、何れもソリッドである。
【特許文献1】特開2003−317419号公報
【0004】
ところでこれらの固定用シートを採用したディスク60を図6を用いて説明すると、ディスク装置70においてディスク60のターンテーブル71上に配置されたスピンドル72に対して着脱自在に固定される構成となっている。この際スピンドル72には、ディスク60が固定用シート30に密着的となるように一定の押圧力を付勢し、かつスピンドル72に対してディスク60を垂直状態を維持して固定するべく、例えばスピンドル72の円周上の同じ高さに位置し、ディスク60の半径方向外側に向かって一定の応力で突出している複数箇所の係合部73が配設されている。従って図7に示す如く、ディスク60をスピンドル72に対して取り付ける際には、ディスク60の内孔60aが係合部73を押しのける(図7(a)参照)ことで取り付けられ、取付後には係合部73がディスク60の上表面を押さえつつ内孔60aに係合した状態(図7(b)参照)となるため、ディスク60は固定用シート30上に密着的に載置されつつ、スピンドル72に対して垂直に装着・固定されることになる。なお本発明では、固定用シートの大きさとして、外径φ28mm、内径φ22mmのものを使用したとして説明している。
【0005】
この際のスピンドル72の係合によるディスク60の固定力は、1.96〜5.88N(200〜600gf)とされることが一般的である。そしてこの固定力は、本発明においては使用される固定用シート30の表面積を考慮して、圧縮荷重で表示するようにしている。すなわち、固定力が1.96〜5.88Nの範囲にあり、また固定用シート30の表面積が34.54mm(外径12mm×内径10mm)〜628.00mm(外径30mm×内径10mm)の範囲となるため、その圧縮荷重範囲は0.003〜0.170MPaと算出される。なおここで示した固定用シート30の表面積は、最大限広い範囲を想定したもので、実際にはより狭い範囲となっている。この他、スピンドル72がディスク60を上方の水平面に対して押圧するように下方から上昇する構造となっているディスク装置もあるが、何れもディスク60をスピンドル72に取り付けた際には、ディスク60がスピンドル72に対してマグネットやスプリンクによる力の付勢で垂直、すなわちディスク60の回転面が水平な状態を維持して回転し得るように構成されている。またこの際、係合部73と固定用シート30との間の距離はディスク60の厚みに略等しい状態となるようにされている。このようにディスク装置70は、スピンドル72にディスク60を固定することによって、ディスク60の水平状態を保持するように構成されている。これは整備された使用環境下での使用を考えた場合、ディスク60が固定用シート30に密着的に載置されるため、シート単体としての厚み方向の寸法精度の向上は、回転時高低差を小さくすることになっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし実際の使用環境を考えてみると、必ずしもクリーンな状態であるとはいえず、例えば固定用シート30上に粉塵または埃等が付着する場合には、固定用シート30は殆ど撓まないソリッド性状であるため、その回転時高低差は大きく悪化してしまう。すなわちこれまでの固定用シート30の場合、シート単体としての厚み方向の寸法精度を高めることで、回転時高低差を小さくするものであり、実際にディスク60をスピンドル72に固定、すなわちディスク60が固定用シート30に押圧されて密着的に載置された際の、ディスク60上の高低差の低減によって回転時高低差を直接的に小さくする発想ではなかった。
【0007】
また近年においては、記憶容量が大きく増大しているDVDや、今後の普及が予想されるブルーレイディスク等を考慮する必要があり、これらの読み込み・書き込みを考えた場合、回転速度の高速化に加えて、単位時間当りのデータ転送量もその記憶容量の増大に比例して飛躍的に大きくなっており、該データの正確な転送をなし得るディスクの高い回転安定性、すなわち回転時高低差とをより小さくすることが求められている。具体的に回転安定性を達成し得る回転時高低差は、音楽CD等では50μmであるのに対し、書き込みを伴うCD−R/RWや大容量のDVD−ROMでは20〜25μm、回転が40倍速以上と高速なCD−R/RWや、大容量かつ書き込みを伴うDVD+/−R、RWまたはRAMでは10〜15μm程度以下であり、近年主流製品は過去製品の5倍程度以上の高い安定性が求められる。
【0008】
更に固定用シート30は、ディスク60の中心部近傍に取り付けられる部材であり、ディスクの直径は固定用シートの直径の4倍程度(固定用シート30の直径28mmに対し、ディスク60の直径は一般に120mm(4.29倍):図6参照)となるため、そのシート30の表面内における高低差は、ディスク60の高低差の約1/4に抑制しなければならない。すなわち固定用シート30には、少なくとも50μm/4=12.5μm以下、好適には10μm/4=2.5μm程度となる高低差が要求される。経験的にも高速回転の高精度ディスク装置においては固定用シート30の表面内における高低差が3μmを超えると読み込みや書き込みに不具合が発生することが知られている。この他ディスク60においては、固定用シート30の高低差以外に、回転運動により必然的に起こる共振によっても回転時高低差が発生・悪化することも経験的に知られている。しかし、前述の如く、その性状がソリッドである固定用シート30では、共振等の外部応力に対する緩和能は殆ど期待できず、この共振に対する対策は全く施されていない状態であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本発明は、ディスク装置の回転部に設けられて、記憶媒体としてのディスクが載置されるリング状の固定用シートにおいて、
エラストマを原料とし、0.170MPa以下の圧縮荷重による撓み率が少なくとも5%とされた所要厚みの発泡層から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明した如く、本発明に係る固定用シートによれば、0.170MPa以下の圧縮荷重による撓み率が少なくとも5%とされている発泡層を備えるようにしたので、ディスクの回転に際して発生する上下の振れを低減することが可能となった。また発泡体構造の導入により、共振に係る振動を吸収・低減、固定用シート上への埃等の付着による高低差の変動の回避および初期厚み寸法精度についての緩やかな基準の導入が可能となったので、粉塵等が多い劣悪環境下でのドライブ装置の使用や、製造コストの低減といった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明に係る固定用シートにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。なお図6および図7に関して既出の部材等については、同じ符号を付すると共に、その詳細な説明は省略する。本願発明者は、エラストマ原料から得られる発泡層から固定用シートを構成し、この発泡層の採用により0.170MPa以下の圧縮荷重によるを掛けた際に5%以上の撓み率を発現する物性を獲得し、これによりディスクの回転に際して発生する上下の振れおよび共振を低減し得ることを知見したものである。またこの条件の達成により、ディスクを載置した際の発泡層の表面における半径方向外縁に90°の中心角度で等間隔に位置する4点に対応したディスク上の4点間の最大高低差が3μm以下となり、回転時高低差も大きく低減される知見が得られた。なお本発明において測定される最大高低差においては、後述([0021])する実験例で説明される発泡層の表面における半径方向外縁に90°の中心角度で等間隔に位置する4点間において測定されるが、この条件での4点を測定により固定用シート上に載置されたディスク上の全体的な高低差は充分に把握可能であると経験的に知られているためであり、必要に応じて中心角度で等間隔で位置する複数点間での高低差を採用してもよい。
【0012】
本発明の好適な実施例に係る固定用シート10は、図1に示す如く、DVD−ROMに代表されるディスク60からデータの読み込み等を実施するディスク装置70において、ターンテーブル71上に配置されてスピンドル72の回転をディスク60に好適に伝達しつつ、回転による共振、粉塵および埃等により増大する回転時高低差の低減のために使用されるものである。またスピンドル72は、図示しないモータを動力源として制御下に回転されるものである。なおここでは固定用シート10の形状として、所謂リング形状物を例示しているが、殊にこれに限定されるものではなく、例えば一方向に切れ目の入った、所謂Cリング形状物等でもよい。そして固定用シート10は、図2に示す如く、基材である構造強化フィルム12と、この構造強化フィルム12上に所要厚みとなるように付与・積層される発泡層14とからなる。そしてこの発泡層14の表面14aは、発泡体の骨格構造が露出された状態、すなわちスキン層が除去された状態とされている。また固定用シート10をスピンドル72の所要位置に容易に取付できるように、構造強化フィルム12の発泡層14が形成されない側には、剥離材16aにより被覆された粘着層16が形成されている。ここで粘着層16は、固定用シート10をディスク装置70の所要位置に取り付けるために形成されるものである。従って、構造強化フィルム12の発泡層14が形成されない側に、所謂接着シートを積層したり、接着剤を均一に付与することで粘着層16とされる。なおこの場合、スピンドル72に取り付けるまでのハンドリング性を考慮して、例えば粘着層16の外側面に剥離材16aを付与する等の公知手段により粘着層16を保護している。
【0013】
構造強化フィルム12は、後述する厚み等の要件を満足し得る発泡層14の強度を向上させ、引っ張り等より発生する裂け等の物理的損傷の発生を低減させ、形状保持性を高める機能を果たす。またメカニカルフロス法によって発泡層14を形成する場合には、製造時に効率的に発泡層14を形成するため、発泡層14の原料である発泡原料が付与される、所謂基材としての機能も果たしている。これらの機能は、発泡層14自体の強度や製造方法によっては必須とされないものである。そして前述の機能を果たすために構造強化フィルム12については、スピンドル72に対する取付の際等に加えられる力に耐え得る一般的な形状保持性と、取付に際してのアッセンブリー性を確保し得る程度の引張弾性率とが必要とされる。形状保持性については、ポリエチレンテレフタレート(PET)の如き一般的な熱可塑性樹脂を用いれば殊に問題なく、また引張弾性率については、100,000N/cm2以上であれば素材の種類等に関係なく使用可能である。
【0014】
なお構造強化フィルム12の厚みについては、固定用シート10の厚み(初期厚み)の80%を超えないようにされる。例えば、固定用シート10の厚みが0.2mmの場合、構造強化フィルム12の厚みは0.16mm以下とされる。また構造強化フィルム12の厚みは、この値が大きいと、相対的に発泡層14の厚みが減少するため、可撓性等の物性に問題が生じる。また固定用シート10を巻き取りつつ製造する方法においては、構造強化フィルム12の厚みが大きいと生産性が低下する問題もある。そして前述の形状保持性および引張弾性率を達成し得る物質として具体的に、ポリエチレンテレフタレート(PET)の如きポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミドまたはポリアミド等の各種樹脂が挙げられる。殊にPET樹脂が安価であるため、好適に使用されている。なお本実施例において固定用シート10は、構造強化フィルム12を発泡層14に積層した構造となっているが、構造強化フィルム12はディスク60の回転時に発生する上下方向の振れおよび共振の低減には余り関与しないため、発泡層14だけから固定用シート10を構成してもよい。
【0015】
発泡層14は、図3に示す如く、固定用シート10に必要とされる機能、すなわち固定用シート10の範囲内におけるディスク60の回転時高低差を低減させると共に、回転するディスク60の反りおよびうねりによって発生する振動並び共振を吸収・低減し、かつスピンドル72の回転力をディスク60に充分に伝達させるものである。発泡層14には、これらの機能を充分に発揮するべく高い可撓性を発現させるため発泡体構造を採用することで、0.170MPa以下の圧縮荷重による撓み率が少なくとも5%となるようにされている。そしてこの圧縮荷重条件下において、撓み率が5%未満であると、外部応力に対する緩和能が不充分となり共振を抑制し得なくなったり、ディスク60の載置・装着時の撓みが小さく、固定用シート10上に埃が付着したりまたはその厚み寸法の精度が悪い場合に回転・振動時の平行度(高低差)が不安定になってしまう。一方、撓み率の上限については殊に数値的な設定をしていないが、発泡層14が発泡構造物としての挙動を示すことが必要であるため、撓み過ぎて、所謂ソリッド状態(底付き状態)にまで至らないこと、経験的には((1−密度(g/cm))×100)%程度を越えないことが求められる。この値を超える場合も、前述の撓み率が5%未満の場合と同様の問題が発生する。そしてこの撓み率は、本実施例においては発泡層14の硬度を一定値以下とし、かつ厚みを一定以上とすることで達成されている(詳細は後述[0017])。また発泡層14の発泡体構造については、内部空気の流動が容易な連通気泡構造が好ましい。連通気泡構造の場合、荷重時に内部空気が容易に排出されて、低荷重での圧縮可能な発泡層14が得られるためである。
【0016】
なお圧縮荷重条件である0.170MPaは、前述([0005])した固定用シート10の使用範囲条件において算出された上限値である。すなわちこの値で、撓み率5%以上を達成することが、本発明に係る固定用シート10における最低条件であり、0.170MPaを超える圧縮荷重下に少なくとも5%の撓み率を達成しても、柔軟性が低く外部応力に対する緩和能が不充分となって、共振を抑制し得ない。また圧縮荷重値の下限についても、前述([0005])の固定用シート10の使用範囲条件から0.003MPaとされ、それ以下の圧縮荷重値において5%以上の撓み率は要求されない。
【0017】
発泡層14の硬度は、前述の撓み量を達成すべく、アスカーA硬度で50以下にされ、更にその厚みは、0.1〜0.7mmの範囲にされている。アスカーA硬度が50を超える場合、撓み量が少ない場合と同じく、固定用シート10上に埃が付着したりまたはその厚み寸法の精度が悪い場合に高低差が大きくなってしまう。そして厚みが0.1mm未満であると、前述の硬度範囲であっても、ディスク60の回転に伴って発生する共振等の吸収・抑制効果が薄れて、その結果、回転時高低差が3μm以下とならない。一方0.7mmを超えると、固定用シート10の製造時の厚み寸法精度による高低差が大きくなり易く、回転時高低差にも影響を与える。
【0018】
このような硬度および厚みとし得る発泡層14の材質としては、ウレタン系、シリコーン系またはアクリル酸エステル等の熱硬化・熱可塑のポリマーが好適である。殊にディスク装置70にブラシモーターを採用した形式の場合、低分子シロキサンによる接点障害を回避するため、低分子シロキサンを発生するシリコーン系物質以外のポリウレタン系物質等が好ましい。これに対して接点障害を問題としない場合においては、使用環境温度が幅広いシリコーン系物質の採用が好ましい。何れも発泡状態とする製造方法については、密度および細かいセル径を備える発泡体を容易に製造すると共に、ミクロンレンジでの厚み制御が可能である機械的発泡法(以下、メカニカルフロス法と云う)が好適である。殊にセル径を細かくし得るメカニカルフロス法では、同じ密度状態の場合に同一厚みの中に、より多数のセルを均質に備えた発泡体を製造できるため、発泡層14の表面14aの全域において、より均質な撓み率の発現が可能となり、更に回転時高低差を低減し得る効果が期待できる。なお化学的発泡法によって発泡層14を製造する場合、基本的には公知の方法で大きな発泡体を製造し、これにスキ加工およびタチ加工を施して所要の厚みにすればよく、加工精度によっては必要に応じて研削等の公知の方法で更に加工される。
【0019】
更に固定用シート10には、スピンドル72の回転を空回りさせることなくディスク60に伝達し得る摩擦性と、ディスク60をスピンドル72から容易に取り外せる程度に制御された非密着性との両立が必要とされる。発泡層14の表面14aにスキン層が存在し、平滑な場合には密着性が強く発現し、固定用シート10からのディスク60の脱着が困難となったり、更に空気中の微細なゴミが付着することもある。本発明においては、これを発泡層14のアスカーA硬度を50以下とすることで必要な摩擦性(静止摩擦係数)を得て、かつスキン層を除去することでディスク60に対する接触面積を制御して非密着性を得ている。発泡層14の表面14aを骨格が露出した状態とするには、公知のスライスやバフがけ等により、スキン層を除去すればよい。また発泡層14の反応・硬化時に、エンボス表面を有するキャリアの使用や、エンボスロールの押圧による所要の凸凹形状の転写といった公知の方法の採用によっても摩擦性と非密着性とを両立し得る。なおスキン層が存在する表面14aに対して、公知のスクリーン印刷等により所要の凸凹形状をオーバーコートする方法も採用可能である。
【0020】
そして本実施例に係る固定用シート10の製造方法は、公知のメカニカルフロス法によるシート状物の製造方法と略同等であるため、詳細な説明を省略する。概略を説明すると、構造強化フィルム12を移送媒体として使用し、ここに発泡層14の元であるエラストマ原料に所要の造泡用気体を混合して、メカニカルフロス法で調整された発泡原料を付与して所要厚みに制御した後、これに加熱を施して長尺なシート状物とすると共に、表面14aに形成されたスキン層を除去し、最終的に打ち抜き等の後加工を実施すれば最終製品たる固定用シート10が得られる。
【0021】
(実験例)
以下に実施例に係る固定用シートを構成する発泡層等の各物性の変化による回転時高低差等の変化について実験例を示す。使用される固定用シートの寸法は、外径28mm×内径22mmで厚み0.5mmに固定されている。なお本発明は、この実験例に限定されるものではない。
【0022】
原料の配合組成等により、表1に記載した材質、発泡方法、厚み(mm)、スキン層の存在(あり、なし)、硬度(°)、密度(g/cm)およびここから経験的に算出される底付きする撓み率(%)、圧縮荷重0.170MPa時の撓み率(%)となっている実施例1〜5および比較例1〜3に係る発泡層だけからなる固定用シートについて、最大高低差、摩擦性および非密着性を下記する方法により夫々測定・評価した。またこれらの結果を総合して製品としての総合評価を行なった、なお参考例として、従来のCRゴムからなるソリッド体の固定用シートについても同様の測定・評価を実施した。
【0023】
(測定・評価項目および測定・評価方法)
(1)硬度(アスカーA硬度):JIS K6253(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に準拠して、厚みを10mmとして測定した。
(2)密度:JIS K 6401(クッション用軟質ウレタンフォーム)に準拠して測定した。
(3)底付きする撓み率:((1−密度(g/cm))×100)%で算出した。
(4)0.170MPa時における撓み率:JIS K6254(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−低変形における応力・ひずみ特性の求め方)に準拠して測定した。
(5)最大高低差:図4に示す如く、固定用シートを、2枚の平行平面板(材質:鉄、外径30mm、平面度0.1μm、平行度0.2μm、重さ200g)によって挟み込み、表面における半径方向外縁に90°の中心角度で等間隔に位置する4点に対応する平行平面板上の4点を高低差測定器(商品名 ライトマチックVL−50A;ミツトヨ製(測定力:0.01N))で測定した。
(6)摩擦性:図5に示す如く、水平な固定台80上に固定用シートを載置し、その上にディスクを載置後、更にその上方から2.94Nの力を掛け、その状態でディスク端から接線方向に引き出された引張手段82を引張速度300mm/minで引っ張り、ディスクが動き出した際の引張トルク(g・cm)を測定する。そしてこの引張トルクが300g・cm以上:○、未満:×、で評価した。
(7)非密着性:固定用シート上にディスクを載置し、その上から5.88Nの力を掛けて、(A)温度80℃、100時間の条件と、(B)温度65℃、湿度80%RH、100時間の条件とで放置し、時間経過後に荷重を解放してディスク上面を下方に向けて、自重落下:○、自重落下せず:×、で評価した。
(8)総合評価:(5)〜(7)迄の測定結果および評価を考慮し、総合評価を○:適、×:不適、で判断した。
【表1】

【0024】
(結果)
前述した測定方法等に従って得られた各測定結果を表1に併記する。この結果から、本発明の数値範囲内にある発泡層を使用した場合、その最大高低差が低減し、ディスクの回転時に発生する上下方向の振れおよび共振の低減が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好適な実施例に係る固定用シートを使用したディスク装置を示す斜視図である。
【図2】実施例に係る固定用シートの断面図である。
【図3】実施例に係る固定用シートの(最大)高低差を示す概念図である。
【図4】実験例に係る高低差を測定する方法を示す概略図である。
【図5】実験例に係る摩擦性を評価する装置を示す概略図である。
【図6】従来技術に係る固定用シートを使用したディスク装置を示す斜視図である。
【図7】従来技術に係るディスク装置にディスクを固定する際の様子を示す状態図である。
【符号の説明】
【0026】
12 構造強化フィルム
14 発泡層
14a 表面
60 ディスク
70 ディスク装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク装置(70)の回転部に設けられて、記憶媒体としてのディスク(60)が載置されるリング状の固定用シートにおいて、
エラストマを原料とし、0.170MPa以下の圧縮荷重による撓み率が少なくとも5%とされた所要厚みの発泡層(14)から構成されている
ことを特徴とする固定用シート。
【請求項2】
前記発泡層(14)の硬度は、アスカーA硬度で50以下とされている請求項1記載の固定用シート。
【請求項3】
前記発泡層(14)には、基材となる所要厚みの構造強化フィルム(12)が積層されている請求項1または2記載の固定用シート。
【請求項4】
前記発泡層(14)における表面(14a)は、その骨格構造が露出した状態となっており、ディスク(60)に対する接触面積が低減されている請求項1〜3の何れかに記載の固定用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−134446(P2006−134446A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321092(P2004−321092)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(593139123)株式会社ロジャースイノアック (13)
【Fターム(参考)】