説明

固形状絵具

【課題】書き味が滑らかで、色調が新鮮であり、定着性が良好でしかも長期間にわたる色相の変化のない固形状絵具を提供する。
【解決手段】少なくとも体質材と着色顔料あるいはさらに湿潤剤からなり、かつ前記素材の他にシリコーンを配合することを特徴とし、シリコーンとしてはポリエーテル変性シリコーンが好ましく、1〜20重量%の範囲内で好適に用いられ、また湿潤剤としては分子量1000以下のポリエチレングリコールが好ましく、5〜20重量%の範囲で好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パステルやコンテなどに代表される固形状絵具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来パステルやコンテなどの固形状絵具は、ワックスやゲル化剤などの形成材を含まずに、体質顔料および着色顔料を水と共に混練し、押出成形後乾燥して作製されており、水を含まずに体質顔料と着色顔料とから構成されているが、これだけでは描画後の絵具組成物が温度や湿度など外的環境の影響を受けて色相が変化するという問題が生じ、また書き味自体も好ましいものではなく、画面への定着性も十分なものではない。これを解決する方策として、樹脂を配合して定着性を向上させたり、色相の変化を防止する方法が挙げられるが、この場合には顔料の持つ本来の新鮮な色調が失われるという問題がある。そこで、体質顔料と着色顔料以外に湿潤剤を配合して前記問題を解決する方法が知られている(特許文献1参照)。湿潤剤を用いることにより、画面への定着性が良好となると共に、顔料粒子を外的環境の影響から保護して、色相の変化を防止するなどの特徴が得られるのである。
【特許文献1】特開平9−78024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1のようにグリセリン、エチレングリコールなどの湿潤剤を用いても、長期間の色相変化の防止には十分ではなく、色調も劣化してしまう。この理由としては、湿潤剤と体質顔料および着色顔料とが分離し易く、分散性が劣るためと考えられ、これが原因で色調も劣り、書き味も好ましいものではなくなるのである。分散性を向上させる方法として界面活性剤の添加が考えられるが、界面活性剤自体が物理的、化学的に安定したものではないため、結局外的環境により変化してしまうという問題は避けられない。そこで、本願発明は上記問題を解決すべく検討した。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、色相の変化がなく新鮮な色調を保持し、かつ書き味および定着性に優れた固形状絵具に関するものであり、少なくとも体質材と着色顔料とからなり、かつ前記素材の他にシリコーンを配合することを第1の要旨とする。
【0005】
また、少なくとも体質材と着色顔料および湿潤剤とからなり、かつ前記素材の他にシリコーンを配合することを第2の要旨とする。
【0006】
さらに、シリコーンがポリエーテル変性シリコーンであることを第3の要旨とする。
【0007】
さらに、湿潤剤がポリエチレングリコールであることを第4の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の固形状絵具は、描画面での色相が長期間損なわれず、顔料自体の持つ新鮮な色調が得られ、かつ定着性よく書き味も良好となるという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の固形状絵具は、少なくとも体質材と着色顔料あるいはさらに湿潤剤の他に、シリコーンを配合することにより、色相の安定性を確保するという目的を実現した。
【0010】
次に、本発明の固形状絵具について具体的に説明する。体質材としては、従来公知のものであればいずれも用いることができ、例えばタルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、窒化硼素、チタン酸カリウム、ガラスフレーク、でんぷんなどが挙げられ、特に成形性の点からタルク、炭酸カルシウムが好適である。体質材の配合量は任意であるが、固形状絵具全量に対し、10〜85重量%程度が好ましい。10重量%未満では成形性が劣化し、85重量%を越えると発色が弱くなり、定着性に劣る。
【0011】
着色顔料としては、従来公知の顔料であればいずれも用いることができ、例えば無機顔料、有機顔料、白色顔料、パール顔料、金属顔料、蛍光顔料などが挙げられ、単独又は組み合わせて用いるが、発色性の点から有機顔料が最も好ましい。具体的には、無機顔料としてカーボンブラック、鉄黒、群青、弁柄などが、また有機顔料としてはアゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料などが挙げられる。白色顔料としては酸化チタン、酸化亜鉛などが、また蛍光顔料としては昼光蛍光顔料や蓄光顔料などが挙げられる。着色顔料の配合量は任意であるが、固形状絵具全量に対し1〜40重量%が好ましい。1重量%未満であると発色が十分でなくなり、40重量%を越えると固形状に成形し難く、また書き味が劣化する。
【0012】
湿潤剤としては、保水性を有する成分であれば何でもよく、例えばグリセリン、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリエタノールアミン、ポリグリセリンなどが挙げられ、特には平均分子量1000以下の液状またはペースト状のポリエチレングリコールが好適である。湿潤剤を添加することにより、湿度などによる色相の変化がより以上に防止され、描画面に対する定着性もさらに良好なものとなる。また、湿潤剤には造粒作用があり、成形性も良好となる。この湿潤剤の配合量は、固形状絵具全量に対して5〜20重量%の範囲が好ましい。5重量%未満では定着性が劣化すると共に造粒作用に劣り、20重量%を越えると書き味が劣化してしまう。
【0013】
本発明に用いるシリコーンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなどの直鎖型シリコーンや、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部が有機官能基によって置換された変性シリコーンなどが挙げられ、いずれを用いてもよいが、好ましくは変性シリコーンが好適で、さらに有機官能基としてアミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、アルコキシ基、ポリエーテル基、アルキル基、メチルスチリル基、トリフルオロアルキル基などが挙げられるが、特にはポリエーテル変性シリコーンが親水性であるという点で最も好ましい。またシリコーンの粘度は、25℃で10〜2000cStが好ましい。10cSt未満だと揮発性が高くなって本発明の目的が達成できず、2000cStを越えると筆記感が重くなる。シリコーンの配合量は、固形状絵具全量に対し1〜20重量%が好適である。1重量%未満では書き味が劣ると共に色相の変化が防止できず、20重量%を越えると色調の新鮮さが劣化してくる。
【0014】
体質材と着色顔料あるいはさらに湿潤剤の他に、シリコーンを配合することにより性能が向上する理由は定かではないが、体質材と着色顔料からなる粒子の外周にシリコーンが皮膜を形成し、均一に分散させていることと、さらに湿潤剤を添加することで、湿潤剤の造粒作用により粒状の粒子が形成され易く、より一層均一な粒子がばらつきなく分散されるためではないかと考えられる。つまり、物理的、化学的に安定した性状を有するシリコーンが、体質材と着色顔料あるいはさらに湿潤剤との組み合わせによる好ましい特性を保護している構成となり、これが色調の新鮮さや色相の変化などにおいて安定した性状をもたらす理由とも考えられる。なお、シリコーン自体が滑らかさを有しているため、書き味も必然的に好ましいものになると思われる。
【0015】
ここで、上述したシリコーンは一般的に疎水性であるため、水溶性である湿潤剤を添加する際には当初混合させるために界面活性剤の添加が好ましいが、ポリエーテル変性シリコーンの場合は親油性でしかも親水性でもあるため、体質材および着色顔料と湿潤剤とを分離させることなく混合、分散させる界面活性効果も有していることから特に好ましい素材となる。
【0016】
上記成分以外に、必要に応じて粘度調整剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤、香料などを添加してもよい。また、上述したように成分どうしの相溶化のために非イオン性、陽イオン性、陰イオン性などの界面活性剤を必要に応じて添加してもよい。
【0017】
本発明の固形状絵具の製造方法として、まず着色顔料と体質材を水中に入れて、粉砕しながら混合したのち水を蒸発させ、次にこの粉砕物をシリコーンと湿潤剤が混入された水中に加えて混合させたのち、水を蒸発させ、容器に入れて成形し固形状絵具とする。ここで、溶媒として水を用いたが、有機溶剤を使用してもよい。また、所定の容器に入れて成形したあとの形状としては、固形状であればどのような形でもよく、例えば棒状、角状などが挙げられる。次に、本発明の実施例を述べる。なお、「部」は「重量部」である。
【実施例1】
【0018】
シリコーン 15部
(ポリエーテル変性シリコーン)
(粘度:25℃で100cSt)
着色顔料(有機顔料:赤色) 10部
体質材(タルク) 75部
水 100部
上記材料を用い、まず有機顔料とタルクを水50部中に入れて、よく粉砕しながら混合したのち水を蒸発させる。次に、シリコーンが混入された水50部中に、前記粉砕物を加えて混合し、水を蒸発させたのち、所定の容器に充填して成形、固形化して、赤色の固形状絵具を得た。
【実施例2】
【0019】
シリコーン 3部
(ポリエーテル変性シリコーン)
(粘度:25℃で100cSt)
ポリエチレングリコール(分子量1000) 10部
着色顔料(有機顔料:赤色) 17部
体質材(タルク) 70部
水 100部
上記材料を用い、まず有機顔料とタルクを水50部中に入れて、よく粉砕しながら混合したのち水を蒸発させる。次に、シリコーンとポリエチレングリコールが混入された水50部中に、前記粉砕物を加えて混合し、水を蒸発させたのち、所定の容器に充填して成形、固形化して、赤色の固形状絵具を得た。
【実施例3】
【0020】
シリコーン 7.5部
(ポリジメチルシロキサン)
(粘度:25℃で20cSt)
グリセリン 10部
着色顔料(有機顔料:赤色) 10部
体質材(タルク) 72部
界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム) 0.5部
水 100部
上記材料を用い、まず有機顔料とタルクを水50部中に入れて、よく粉砕しながら混合したのち水を蒸発させる。次に、シリコーンとグリセリンおよび界面活性剤が混入された水50部中に、前記粉砕物を加えて混合し、水を蒸発させたのち、所定の容器に充填して成形、固形化して、赤色の固形状絵具を得た。
【0021】
(比較例1)
実施例1において、シリコーンを除いた他の材料を用い、エタノール中に有機顔料とタルクを入れて、よく粉砕しながら混合し、エタノールを蒸発させたのち、所定の容器に充填して成形、固形化して赤色の固形状絵具を得た。
【0022】
(比較例2)
実施例2において、シリコーンを除いた他の材料を用いて、実施例2と同様の工程にて赤色の固形状絵具を得た。
【0023】
(比較例3)
実施例2のシリコーンの代わりに流動パラフィンを用いて、実施例2と同様の工程にて赤色の固形状絵具を得た。
【0024】
上記実施例1、2、3および比較例1、2、3について色相の変化、定着性、描画性(書き味)、色調の比較を行った。なお色相の変化は、紙面に描画して1ヵ月後の色相についてその変化の程度を目視で観察した。定着性、描画性は実際に描画したときの官能試験、色調は目視で観察したものである。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、本発明の固形状絵具は長期間経過しても色相の変化がなく、しかも新鮮な色調を有し、さらに書き味も滑らかで安定した性能を有するなど優れた特徴を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
書き味、色調に優れ、色相の変化がないため安定した使用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも体質材と着色顔料とからなり、かつ前記素材の他にシリコーンを配合することを特徴とする固形状絵具。
【請求項2】
少なくとも体質材と着色顔料および湿潤剤とからなり、かつ前記素材の他にシリコーンを配合することを特徴とする固形状絵具。
【請求項3】
シリコーンがポリエーテル変性シリコーンであることを特徴とする請求項1又は2記載の固形状絵具。
【請求項4】
湿潤剤がポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項2又は3記載の固形状絵具。

【公開番号】特開2006−316141(P2006−316141A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138674(P2005−138674)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000111904)パイロットプレシジョン株式会社 (42)
【Fターム(参考)】