説明

固形製剤の印刷前処理方法及び印刷前処理方法が施された固形製剤

本発明は、固形製剤の表面に印刷を施す前に、該表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することにより、該表面に施される印刷の印刷性及び耐摩耗性を改善することを要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、固形製剤表面に施される印刷の印刷性および耐摩耗性を改善するための該製剤の処理方法、および当該処理により得られる、印刷性または印刷の耐摩耗性が改善された固形製剤に関する。
【背景技術】
錠剤やカプセル剤は種類が多く、大きさ・色調・形状が類似したものがあるため、識別のために、社名、社章、製品名、成分含量などをコード化して個々の製剤に直接標示を行うことが多い。標示の手段としては刻印と印刷とがある。刻印は、コーティングがされていない素錠や一部のフィルムコーティング錠などに用いられるが、多くのフィルムコーティング錠や、糖衣錠、カプセル剤などには印刷が用いられている。
錠剤やカプセル剤では、光沢のある外観による商品価値の向上、多湿な環境からの製剤の保護、着色剤による汚れの防止、印刷・検査・包装などの以後の操作におけるハンドリングを良くするためのすべり性の改善などを目的として、ロウ(本明細書においては、狭義の「ロウ」、即ち高級アルコールの脂肪酸エステルを意味するものとする;例:カルナウバロウ、蜜ロウなど)を用いたつや出し処理(polishing)が行われることが多い(例えば、ポーター(Porter),外2名著,「パンコーティング・オヴ・タブレッツ・アンド・グラニュールズ(Pan Coating of Tablets and Granules)」,ヘルベルト・A・リーベルマン(Herbert A.Lieberman),外1名編,「ファーマシューティカル・ドーセージ・フォームズ(Pharmaceutical Dosage Forms)タブレッツ(Tablets)第3巻」,(米国),マーセル・デッカー・インク(Marcel Dekker Inc.),1982年,p.92を参照)。ロウは、クロロホルム/アセトンなどの有機溶媒に溶解もしくはアルコールなどの分散媒に懸濁して用いるか、あるいは微細な粉末として直接製剤表面に適用することができるが、有機溶媒の使用は、残留溶媒による安全性の問題や、事故・環境汚染の防止用に大規模な設備を必要とするなどの点から避けることが好ましく、また、懸濁液や粉末として用いる場合にはコーティングが不均一となり、不都合を生じる可能性がある。
さらに、印刷前にロウを用いてつや出し処理を行うと、印刷が容易にかすれて製剤自体および容器に汚れが生じ、識別機能が失われるだけでなく外観不良から商品価値を損なうことにもなる。また、用いるロウの種類によってはつやが出過ぎて印刷不良を引き起こす場合があり、製品の歩留まりが悪くなるといった問題もある(例えば、米国特許第4,456,629号明細書(第1欄,第34−39行)を参照)。
【発明の開示】
したがって、本発明の目的は、有機溶媒を使用しない固形製剤のつや出し処理方法であって、固形製剤における印刷性および印刷の耐摩耗性を改善し得る方法を提供することであり、以って、印刷性および/または印刷の耐摩耗性が改善された固形製剤を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、固形製剤の表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理した後に印刷を行うと、意外にも、ロウでつや出しを行った従来の錠剤に比べて印刷時の印刷性および印刷後の印刷の耐摩耗性が顕著に改善されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1]固形製剤の表面に施される印刷の印刷性および/または耐摩耗性を改善するための処理方法であって、印刷前に該表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することを含む方法、
[2]ポリエチレングリコールの平均分子量が約1,000以上である上記[1]記載の方法、
[3]ポリエチレングリコールの平均分子量が約3,000〜約9,000である上記[1]記載の方法、
[4]処理により添加されるポリエチレングリコール量が最終製剤に対する重量比で約0.01%〜約1.0%である上記[1]記載の方法、
[5]固形製剤がフィルムコーティング錠である上記[1]記載の方法、
[6]表面に印刷がされた固形製剤の製造方法であって、固形製剤の表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理した後に該表面に印刷を施すことを含む方法、
[7]ポリエチレングリコールの平均分子量が約1,000以上である上記[6]記載の方法、
[8]ポリエチレングリコールの平均分子量が約3,000〜約9,000である上記[6]記載の方法、
[9]処理により添加されるポリエチレングリコール量が最終製剤に対する重量比で約0.01%〜約1.0%である上記[6]記載の方法、
[10]固形製剤がフィルムコーティング錠である上記[6]記載の方法、
[11]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法により処理された、固形製剤、
[12]上記[6]〜[10]のいずれかに記載の方法により得られうる、表面に印刷がされた固形製剤、
[13]ポリエチレングリコールを含有し且つ蜜ロウおよびカルナウバロウを含有しない被膜を表面に有し、さらに該被膜を有する表面に印刷がされた固形製剤、および
[14]ポリエチレングリコールを含有し且つ蜜ロウおよびカルナウバロウを含有しないコーティングを表面に有し、さらに該コーティングの表面に印刷がされた固形製剤、
を提供する。
発明の詳細な説明
本発明は固形製剤の表面に施される印刷の耐摩耗性を改善するための該製剤の処理方法を提供する。ここで「印刷の耐摩耗性を改善する」とは、例えば後記実施例にて詳述されるような印刷摩耗性試験において、固形製剤に施された印刷の摩耗の度合が、当該処理を行わない場合と比較して有意に低減されるようにすることをいう。
本発明の処理方法を適用することができる固形製剤は、その表面に印刷を施し得るものであれば剤形に特に制限はなく、例えば、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、丸剤、坐剤などが挙げられるが、印刷による標示の必要性からいえば、錠剤およびカプセル剤において特に好ましく用いられる。
尚、本明細書において「製剤」とは、医薬品のみならず、動物薬、農薬、肥料、衛生用品等としてある剤形に製せられた組成物をすべて包含する意味で用いることとする。
固形製剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β−レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質など)、洗浄作用を有する物質、香料、肥料、消臭作用を有する物質、動物・害虫駆除物質、殺虫作用を有する物質、除草作用を有する物質、植物生長調節物質等を含むが、それらに限定されない。
本発明における固形製剤は、必要に応じて、活性成分とともに、その用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医薬製剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
賦形剤の例としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、麦芽糖、トウモロコシデンプン、小麦粉デンプン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、デキストリン、カルボキシメチルデンプン、ゼラチン、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
滑沢剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ワックス類、DL−ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、エアロジル(帯電防止剤としても可能)などが挙げられるが、これらに限定されない。
結合剤の例としては、ゼラチン、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、アラビアゴム、デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)、デンプン糊などが挙げられるが、これらに限定されない。
崩壊剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、架橋ポリビニルピロリドン、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、陽イオン交換樹脂、部分α化デンプン、トウモロコシデンプンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
増粘剤の例としては、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
防腐剤の例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
抗酸化剤の例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
着色剤の例としては、医薬品に適用可能な合成着色剤(例えば、サンセットイエロー等及びそれらのアルミニウムレーキなど)、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、リボフラビン、リボフラビン有機酸エステル(例えば、リボフラビン酪酸エステル)、リン酸リボフラビンあるいはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、フェノールフタレイン、酸化チタンなどが挙げられるが、これらに限定されない。遮光剤としては酸化チタンなどが挙げられる。
甘味剤の例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明における固形製剤は、上記の活性成分および適当な担体を、自体公知の手段に従い、例えば、錠剤、カプセル剤などの経口投与または坐剤などの非経口投与に適した剤形に製剤化することができるが、これらに限定されるものではない。
錠剤に関しては、臭いまたは味のマスキング、成分の安定化あるいは薬効の持続性などの目的で、自体公知の方法によりコーティングすることができる。コーティングの種類は糖衣とフィルムコーティング(腸溶性コーティングなどを含む)とに大別される。
糖衣用コーティング剤としては、通常、白糖が使用される。また、糖衣層の結合性を高め、機械的強度を増すために、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウムなどを配合することができる。さらに、賦形剤、粘着防止剤としてタルク、沈降炭酸カルシウム、カオリンなどが、色のマスキング、遮光の目的で酸化チタンなどの隠蔽剤がそれぞれ用いられる。
フィルムコーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ツイーン80、および酸化チタン、ベンガラ(例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄)等の色素が用いられる。また、隠蔽剤などを添加して光安定性などを向上させることができる。これらのフィルムコーティング処方中には、さらに必要に応じて、タルクやその他医薬品に適用可能な賦形剤を含有させてもよい。フィルムコーティング剤としては、味の隠蔽や光安定性の向上あるいは外観を向上させるためのもの以外にも、腸溶性や放出制御を付与する基剤を用いてもよい。フィルムコーティング基剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、酢酸フタル酸セルロース、メタアクリル酸コポリマー類(例えば、メタクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体(Eudragit L100 or S100、Rohm社製)、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体(Eudragit L100−55,L30D−55)、メタクリル酸・アクリル酸メチル・メタクリル酸メチル共重合体(Eudragit FS30D、Rohm社製))、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP−55,HP−50、信越化学(株)製)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC、フロイント産業(株)製)、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS、信越化学(株)製)、ポリビニルアセテートフタレート、シェラックなどが用いられる。これらは単独で、あるいは少なくとも2種以上のポリマーを組み合わせて、または少なくとも2種以上のポリマーを順次コーティングしてもよい。
このうち、活性成分の放出をpH依存的に制御するためのコーティング物質としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP−55,HP−50、信越化学(株)製)、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC、フロイント産業(株)製)、メタクリル酸メチル・メタクリル酸共重合体(Eudragit L100 or S100、Rohm社製)、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体(Eudragit L100−55,L30D−55)、メタクリル酸・アクリル酸メチル・メタクリル酸メチル共重合体(Eudragit FS30D、Rohm社製)、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS、信越化学(株)製)、ポリビニルアセテートフタレート、シェラックなどが用いられる。
コーティング剤は単独であるいは必要により組み合わせて用いてもよい。さらにコーティングには、必要に応じてポリエチレングリコール、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、トリアセチン、クエン酸トリエチル、コポリビドンなどの可塑剤、安定化剤などを用いてもよい。
コーティングは、自体公知の方法、例えば、通気式コーティング装置(例、ハイコーター(登録商標);フロイント産業)などのコーティングパンを用いたパンコーティング法、あるいは流動造粒コーティング装置(例、フローコーター(登録商標);フロイント産業)を用いた流動コーティング法などにより行われる。
カプセル剤は、上記活性成分の粉末や、活性成分と上記担体との混合末あるいはそれを練合・造粒して得られる細粒もしくは顆粒などを、適当なカプセルに充填することにより製造することができる。充填物(特に細粒もしくは顆粒)には、必要に応じて、錠剤に関して上記したと同様のフィルムコーティングを施すこともできる。
カプセルとしては、ゼラチンにグリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールもしくはマンニトール、ソルビット等の糖類が可塑剤として配合され、適当に成型されたものが挙げられる。また、カプセルには、必要に応じて、上記と同様の着色剤や防腐剤をさらに配合することもできる。
本発明の処理方法をカプセル剤に適用するにあたっては、活性成分等の充填物を充填した後に行ってもよいし、あらかじめ空のカプセルに本発明の処理方法を実施し、さらに印刷を施した後で、該カプセルに充填物を充填して最終製剤とすることもできる。
本発明の処理方法はまた、上記の固形製剤だけでなく、食品(例、糖衣コーティングされたチョコレート、ガム、サプリメントなど)等の、表面に印刷を施すことが意図される任意の固形組成物、特にすべり性や光沢を良くするための処理が必要もしくは望ましい固形組成物に適用することもできる。
本発明の処理方法は、印刷前に固形製剤表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することを特徴とする。ここで「処理する」とは、所謂「アプライ(apply)する」の意であり、処理後の固形製剤の表面にポリエチレングリコールが残存するように、該表面にポリエチレングリコール含有水溶液を接触させることをいう。
本発明に用いられるポリエチレングリコールは、他の理由による制限(例えば、固形製剤が医薬製剤の場合は医薬添加物として許容される範囲)がない限り特に限定されないが、印刷の耐久性を改善するという本発明の目的を考慮すれば、固形製剤が保管される環境の温度(例えば0〜40℃、10〜30℃、15〜25℃)において固体として存在するものであることが望ましく、例えば平均分子量が約1,000以上のもの、より好ましくは平均分子量約3,000〜約9,000のものが挙げられる。また、平均分子量の異なる2種以上のポリエチレングリコールを混合して用いることもできる。
ポリエチレングリコールの平均分子量は、第14改正日本薬局方(以下、単に日局と略称する場合がある。)のマクロゴール4000の平均分子量の測定方法に準じた方法で測定される。
ポリエチレングリコール含有水溶液中のポリエチレングリコールの濃度は、処理後の固形製剤表面に残存するポリエチレングリコール量が該表面に施される印刷の耐摩耗性を改善するのに十分な程度となるような濃度であれば特に制限はないが、例えば約1〜約20重量%、好ましくは約5〜約15重量%が挙げられる。
ポリエチレングリコール含有水溶液は、固形製剤表面に施される印刷の性能に悪影響を及ぼさない範囲で、ポリエチレングリコール以外の成分を含むことができる。ここで「印刷の性能」とは、印刷後の耐摩耗性の他、印刷キレ、印刷汚れなどの発生率(=印刷不良率)や印刷不良の程度といった印刷時における量的および質的特性をも含めた意味での性能を意味する。例えば、本発明の処理方法を素錠に適用する場合、上記の通りポリエチレングリコール含有水溶液はフィルムコーティング液としても機能するので、該溶液はフィルムコーティング剤を含有する。フィルムコーティング剤としては、例えば、上記したもののうち水溶性もしくは水溶液に分散し得るものが挙げられる。
また、ポリエチレングリコール含有水溶液には、必要に応じて、さらに安定化剤、滑沢剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を含有させることができる。安定化剤の例としては、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。滑沢剤の例としては、タルク、酸化チタン、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。防腐剤の例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤の例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。着色剤の例としては、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラ)などが挙げられる。甘味剤の例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
フィルムコーティング液には、上述のように、コーティング剤の軟化温度を調整するために可塑剤を含有させることができるが、ポリエチレングリコール含有水溶液がフィルムコーティング液である場合、ポリエチレングリコール自体が可塑剤として機能し得る。固形製剤表面に施される印刷の耐摩耗性を改善するのに必要な濃度のポリエチレングリコール含有水溶液は、可塑剤としての機能を発揮するのにも十分であるが、所望により別の可塑剤、例えば、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、ヒマシ油、ジアセチル化モノグリセリド、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、グリセリン、モノ及びジアセチル化モノグリセリド、プロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリエチル等をさらに配合してもよい。
ポリエチレングリコール含有水溶液がポリエチレングリコール以外の成分を含有する場合、成分全体(水を除く)に占めるポリエチレングリコールの割合は、約1〜約30重量%、好ましくは約10〜約20重量%である。
固形製剤の表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理する方法としては、製剤分野で通常使用されている各種コーティング方法を適用することができる。好ましくは、コーティングパンや流動コーティング装置などを用いて噴霧コーティングにより行われる。
糖衣錠の場合、例えば、糖衣コーティングの各工程(即ち、防水コーティング、下掛け、中掛け、着色、仕上げ)終了後に布製のつや出しパンに錠剤を移し、パンを回転させながら、所定量のポリエチレングリコール含有水溶液を噴霧または注加するか、あるいは予め定められたコーティング重量になるまでポリエチレングリコール含有水溶液を1ないし数回噴霧もしくは注加することにより行うことができる。
フィルムコーティング錠の場合、例えば、フィルムコーティングに用いたコーティングパンにおいてパンを回転させながら、スプレーガンにより圧搾空気とともにポリエチレングリコール含有水溶液を噴霧し、温風を送って表面を乾燥させることにより行うことができる。あるいはフィルムコーティングに用いた流動コーティング装置において空気流により錠剤を浮遊・流動化させながら、スプレーノズルよりポリエチレングリコール含有水溶液を噴霧し、該空気流により表面を乾燥させることにより行うこともできる。ポリエチレングリコール含有水溶液の噴霧は、所定量を噴霧するか、あるいは予め定められた被膜重量になるまで上記操作を繰り返す。
素錠の場合、即ちポリエチレングリコール含有水溶液がフィルムコーティング液としても機能する場合、通常のフィルムコーティングに使用される方法をそのまま用いることができる。例えば、上記フィルムコーティング錠の場合と同様の方法が挙げられる。
カプセル剤の場合も、通常のフィルムコーティングに使用される方法を同様に用いることができる。活性成分などの充填物を充填後に本処理を行う場合は、充填時にカプセル表面に付着した充填物の粉末を、慣用のカプセル剤つや出し機を用いて除去してから行うことが好ましい。
本発明の処理方法により形成される被膜の重量は、処理後の固形製剤表面に残存するポリエチレングリコール量が該表面に施される印刷の耐摩耗性を改善するのに十分な量であれば特に制限はないが、好ましくは、本処理により添加されるポリエチレングリコール量の最終製剤に対する重量比が約0.01〜約1.0%、より好ましくは約0.05〜約0.7%となるような範囲内で適宜選択することができる。
本発明の処理方法は、固形製剤の表面に施される印刷の耐摩耗性を改善するだけでなく、印刷時における印刷キレや印刷汚れなどの印刷不良の頻度(即ち、印刷不良率)を低減することもでき、全体としての印刷性能を向上させ得るというさらなる利点を有する。
従って、本発明はまた、固形製剤の表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理した後に該表面に印刷を施すことを含む、表面に印刷がされた固形製剤の製造方法に関する。ポリエチレングリコール含有水溶液処理は上述の通り実施することができる。
印刷は、当該技術分野で通常使用されている方法により行うことができる。印刷機の固形製剤搬送機構としては、スラット式、ドラム式、リンク式などいかなる方式のものも使用可能であり、製造規模などに応じて適宜選択することができる。印刷方式も特に制限されるものではないが、一般にはグラビア・オフセット印刷方式が多く使用される。即ち、識別コードや記号などを写真製版で彫刻したグラビアロールがインクタンク内で回転してインクを付着し、余分なインクはブレード(薄刃)で掻き取られる。彫刻内(凹部)に残ったインクはゴム製のオフセットロールに転写され、更に印刷部で固形製剤に転写されて印刷が完成する。錠(カプセル)剤印刷機は、マーケム社、ハートネット社、松岡機械工作所、シオノギクオリカプス等より市販されているものを用いることができる。
印刷に使用されるインクは無害のものであれば特に制限はないが、速乾性であること、乾燥後の耐摩耗性が良好であることが望ましい。通常、色素としては酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、タール色素(例、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号の(1)、赤色105号の(1)、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色5号、青色1号、および青色2号等の酸性染料)などが使用され、また、基剤としてシェラックなどが、溶媒としてはエタノール、n−ブタノール、イソプロパノールなどが使用される。
上記の方法により製造される、表面に印刷がされた固形製剤は、有機溶媒に溶解したロウ溶液または粉末状のロウもしくはロウ状物質を用いて印刷前につや出し処理を行うことにより得られる従来の製剤に比べて、顕著に改善された印刷耐摩耗性という新規かつ有用な特性を具備している。従って、本発明はまた、上記の方法により得られうる、表面に印刷がされた固形製剤を提供する。
本発明の固形製剤は、表面にポリエチレングリコールを含有する被膜を有することにより、該表面に施された印刷の耐摩耗性に優れるという望ましい特性を付与され得る。「被膜」は、少なくとも印刷がされる部分においてポリエチレングリコールが実質的に均一に存在している限り、固形製剤の表面を完全に被覆している必要はない。例えば、「被膜」は、多数の微小な膜が固形製剤の表面に付着している状態であってもよい。ここで「実質的に均一」とは、印刷の耐摩耗性を改善するのに十分な程度に均一であることをいう。従って、かかる表面構造を有し、優れた印刷耐摩耗性を有する限り、本発明の固形製剤は上記の方法に限定されず、いかなる手段によって製造されたものであってもよい。
好ましくは、本発明の固形製剤は、ポリエチレングリコールを含有する被膜中に蜜ロウおよびカルナウバロウを含有しないものである。
本発明の固形製剤は、通常の固形製剤と同様の方法で対象に投与すればよい。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
参考例 フィルムコーティング錠の製造
処方(単位:mg)
素錠(主薬4mg含有) 130.0
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5;登録商標) 3.74(74.8%)
コポリビドン 0.75(15.0%)
酸化チタン 0.5(10.0%)
黄色三二酸化鉄 0.01(0.2%)
合計 135.0
素錠をコーティング機(ドリアコーター(パウレック)またはハイコーター(フロイント産業))に入れ、パンを回転させながら、TC−5、コポリビドン、酸化チタンおよび黄色三二酸化鉄を上記重量比で含有するフィルムコーティング液をスプレーガンにより噴霧し、温風を送って乾燥させた。上記コーティング重量に達するまでこの操作を繰り返した。
【実施例2】
ポリエチレングリコール含有水溶液による印刷前処理
処方(単位:mg)
製剤例1 製剤例2 比較例
フィルムコーティング錠(参考例) 135.0 135.0 135.0
マクロゴール4000(日局) 0.1
マクロゴール6000(日局) 0.1
水 (0.9) (0.9)
カルナウバロウ 0.008
モノオレイン酸ソルビタン 0.04
n−ヘキサン (0.9625)
上記参考例で得られたフィルムコーティング錠6,000錠(810g)をハイコーター(フロイント産業)に入れ、パンを回転させながら、10重量%のマクロゴール4000(日局;分子量2,600−3,800)(製剤例1)もしくはマクロゴール6000(日局;分子量7,300−9,300)(製剤例2)水溶液を計6.0g、または0.79重量%のカルナウバロウn−ヘキサン溶液(比較例)を計6.063g、スプレーガンにより噴霧して、上記処方の錠剤をそれぞれ得た。
有機溶媒系インク(Colorcon社製)を用い、錠剤印刷検査機(松岡機械工作所)にて、常法に従い上記各錠剤に印刷を施した。
【実施例3】
試験例 印刷耐摩耗性および印刷不良率の検査
上記実施例2で得られた3種の錠剤各500錠について、目視により印字不良を調べるとともに、各100錠を3Kガラス瓶に入れ、レシプロシェイカーSR−IIw(日本医化器械製作所)を用いて振幅40mm、振とう速度250回/分で振とうし、印字の摩耗度合いを経時的に観察した。結果を表1に示す。


表1より明らかなように、ポリエチレングリコール含有水溶液で前処理すると、カルナウバロウを用いた場合に比べて、印刷の耐摩耗性が顕著に改善された。また、印刷不良率も低い傾向にあることが示された。耐摩耗性、印刷不良率ともマクロゴール6000を用いた方がよりよい結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
本発明の処理方法によれば、固形製剤表面に施される印刷の印刷性および耐摩耗性を改善することができるので、固形製剤の識別機能が長期間維持され、また外観上も美観を損なうことがないので商品価値の高い固形製剤を提供することができる。
本発明の固形製剤の処理方法は、印刷前に固形製剤表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することにより、該製剤における印刷性、および耐摩耗性を顕著に改善するという効果を奏する。
本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正および変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本明細書において単数形で記載されているものは、文脈および本発明に明らかに矛盾しない限り、複数であってもよい。
刊行物、特許文献等を含む、本明細書に引用されたすべての参考文献は、引用により、それらが個々に具体的に参考として援用されかつその内容全体が具体的に記載されているのと同程度まで、本明細書に援用される。
本出願は、日本で出願された特願2003−401691を基礎としておりその内容は本明細書にすべて包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形製剤の表面に施される印刷の印刷性および耐摩耗性を改善するための処理方法であって、印刷前に該表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理することを含む方法。
【請求項2】
ポリエチレングリコールの平均分子量が約1,000以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ポリエチレングリコールの平均分子量が約3,000〜約9,000である請求項1記載の方法。
【請求項4】
処理により添加されるポリエチレングリコール量が最終製剤に対する重量比で約0.01%〜約1.0%である請求項1記載の方法。
【請求項5】
固形製剤がフィルムコーティング錠である請求項1記載の方法。
【請求項6】
表面に印刷がされた固形製剤の製造方法であって、固形製剤の表面をポリエチレングリコール含有水溶液で処理した後に該表面に印刷を施すことを含む方法。
【請求項7】
ポリエチレングリコールの平均分子量が約1,000以上である請求項6記載の方法。
【請求項8】
ポリエチレングリコールの平均分子量が約3,000〜約9,000である請求項6記載の方法。
【請求項9】
処理により添加されるポリエチレングリコール量が最終製剤に対する重量比で約0.01%〜約1.0%である請求項6記載の方法。
【請求項10】
固形製剤がフィルムコーティング錠である請求項6記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により処理された、固形製剤。
【請求項12】
請求項6〜10のいずれかに記載の方法により得られうる、表面に印刷がされた固形製剤。
【請求項13】
ポリエチレングリコールを含有し且つ蜜ロウおよびカルナウバロウを含有しない被膜を表面に有し、さらに該被膜を有する表面に印刷がされた固形製剤。

【国際公開番号】WO2005/053599
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【発行日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516013(P2005−516013)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018112
【国際出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】