説明

固液ハイブリッド電解質層

【課題】良好なイオン伝導性を保ちつつ、液漏れの発生を効果的に抑制することができ、安全性の高い電解質層の提供。
【解決手段】本発明の固液ハイブリッド電解質層は、多孔質樹脂硬化物(A)、液体を含むイオン伝導体(B)より構成され、前記多孔質樹脂硬化物(A)は孔径0.1μm〜100μmの孔を有し、前記イオン伝導体(B)は前記孔内に配されていることを特徴とする。前記イオン伝導体(B)は、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)、および液体電解質(B2)を含んでなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水溶性溶媒を使用した二次電池、キャパシタ、電気化学デバイスに使用される固液ハイブリッド電解質層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器用電源、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源等として、リチウムイオン電池等の二次電池が注目されている。リチウムイオン二次電池の多くには、常温で液状を呈する非水溶性溶媒を使用した電解質が使用されており、この非水溶性電解質はイオン伝導性に優れるという特徴を持つ反面、液状であるため、液漏れ・膨れなどが起こりやすく、安全性に問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決し、二次電池の安全性を高めるべく様々な研究開発が精力的に行われており、例えば、難燃性を高めたイオン液体(例えば、特許文献1参照。)や、高分子材料を用いた固体電解質(例えば、特許文献2参照。)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−141489号公報
【特許文献2】特開2008−130529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、イオン液体の難燃性が向上しているため、液漏れしても火災等が発生しにくいという効果を奏するが、外部短絡の危険性や安全性の観点から、液漏れの発生自体が起こらない電解質が求められていた。
また、特許文献2に記載の技術では、固体電解質であるので液漏れの心配は無くなったものの、固体高分子中のイオン伝導性は液体電解質に比べると大きく低下してしまうという問題があった。そのため、二次電池の出力特性や高速充放電などの特性に関して、大きく低下し、電池としての実用化が困難であった。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、良好なイオン伝導性を保ちつつ、液漏れの発生を効果的に抑制することができ、安全性の高い電解質層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の固液ハイブリッド電解質層は、多孔質樹脂硬化物(A)、液体を含むイオン伝導体(B)より構成され、前記多孔質樹脂硬化物(A)は孔径0.1μm〜100μmの孔を有し、前記イオン伝導体(B)は前記孔内に配されていることを特徴とする。
本発明において、前記イオン伝導体(B)が、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)、および液体電解質(B2)を含んでなることが好ましい。
また、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、前記多孔質樹脂硬化物(A)が、光重合性モノマー(A1)、光重合性モノマー(A1)とは非相溶の有機化合物(A2)又は水、光重合性モノマー(A1)と有機化合物(A2)とに相溶する共通溶媒(A3)および光重合開始剤(A4)を必須成分とする樹脂組成物を光硬化した後、含有される有機化合物(A2)又は水、および共通溶媒(A3)を除去して得られることが好ましい。
さらに、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、前記双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が、下記式(1)または下記式(2)で表されることが好ましい。
【0008】
【化1】

[式(1)中および式(2)中、Xは、Cl、Br、I、F、BF、PF、CFSOまたは(CFSOを表し、XはLiを表し、−Yは−Nを表し、−Yは−SOまたは−COOを表し、R、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよく、また、重合性官能基を有していてもよい炭素数6〜22のアルキル基を表し、Rは、−(CH−および−CONHCHCH−を表し、mは1〜5の整数を表し、R、R、Rは、同一でも異なっていても良く、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基を表す。]
【0009】
本発明において、前記液体電解質(B2)が、イオン液体または電解液であることが好ましい。
また、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、前記双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が、イオンチャネルを形成することが好ましい。
さらに、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、フィルム状とすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固液ハイブリッド電解質層は、イオン伝導体(B)が、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配された構造であるため、高いイオン伝導度を保ちつつ、これまでの液体電解質とセパレーターを用いたものと比較して液漏れの発生を効果的に抑制することができ、高い安全性を有する。
また、電解液とセパレーターの機能を両方兼ね備えるため、よりコストや生産工程を少なくすることができる。
さらに、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、シート状に加工することも可能であり、リチウムイオン電池用電解質として、特に有用である。加えて、シート状に加工した場合においても、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内にイオン伝導体(B)が保持された構造となっているため、フィルム強度が良好な固液ハイブリッド電解質層となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の固液ハイブリッド電解質層は、多孔質樹脂硬化物(A)、液体を含むイオン伝導体(B)より構成され、前記多孔質樹脂硬化物(A)は孔径0.1μm〜100μmの孔を有し、前記イオン伝導体(B)は前記孔内に配されていることを特徴とする。
【0012】
[多孔質樹脂硬化物(A)]
本発明における多孔質樹脂硬化物(A)は、孔径0.1μm〜100μmの孔を有する樹脂硬化物であり、光重合性モノマー(A1)、光重合性モノマー(A1)とは非相溶の有機化合物(A2)又は水、光重合性モノマー(A1)と有機化合物(A2)とに相溶する共通溶媒(A3)および光重合開始剤(A4)を必須成分とする樹脂組成物を光硬化した後、含有される有機化合物(A2)および共通溶媒(A3)を除去して得られるものを好ましいものとして挙げることができる。以下、多孔質樹脂硬化物(A)を形成するこれらの成分および形成方法について説明する。
【0013】
<光重合性モノマー(A1)>
多孔質樹脂硬化物(A)を形成する樹脂組成物に使用される光重合性モノマー(A1)は、分子末端に1個以上の不飽和結合を有し、光によるラジカル重合可能なモノマー類のことである。即ち、末端基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニル基、アリル基、メタリル基(2−メチルアリル基)などの光重合性不飽和基を有するモノマー類のことである。
【0014】
これらの光重合性モノマー(A1)のうち、光硬化性が良好で、汎用性が高く、また、硬化後の多孔質樹脂硬化物(A)が後述する液体電解質(B2)へ高い膨潤性を有するものが好ましい。例えば、(メタ)アクリロイル基(メタクリロイル基)を有する化合物の使用が好適であり、さらに、(メタ)アクリロイル基(アクリロイル基とメタアクリロイル基の両者を表す。以下の表記も同じである。)を2個以上有する化合物がより好適である。
【0015】
(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物としては、具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、などの脂肪族系、脂環族系、芳香族系、1価(メタ)アクリレート化合物を例示できる。また、これらのモノマー化合物より選択される2種以上のコポリマーおよびコンポジットを使用することもできる。
【0016】
(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物としては、具体的には、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレンオキサイド4モル付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エタンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物(アクリル酸またはメタクリル酸の付加反応物を表す。以下の表記も同じである。)、1,2−プロパンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、トリ−1,2−プロパンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸2モル付加物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(メタ)アクリル酸3モル付加物などの脂肪族系、脂環族系および芳香族系の多価(メタ)アクリレート化合物を例示できる。また、これらのモノマー化合物より選択される2種以上のコポリマーおよびコンポジットを使用することもできる。
【0017】
本発明においては、多価(メタ)アクリレート化合物として、プレポリマー系多価(メタ)アクリレート化合物も使用できる。ここで言うプレポリマーとは重合度2〜20、好ましくは2〜10の低分子量ポリマー又はオリゴマーであり、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどのプレポリマーのことである。プレポリマー系多価(メタ)アクリレート化合物とは、プレポリマーの末端に、少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
【0018】
プレポリマー系多価(メタ)アクリレート化合物としては、具体的には、(アジピン酸/1,6−ヘキサンジオール)ジ(メタ)アクリレート(nはアジピン酸と1,6−ヘキサンジオールから得られる低分子量ポリエステルの重合度を表し、この重合体がプレポリマーである。このプレポリマーの両末端のヒドロキシル基が(メタ)アクリレート化されている化合物を表しており、nは2〜20である。以下の表記も同じである。)、(オルソフタル酸/1,2−プロパンジオール)ジ(メタ)アクリレート、(2,4−トリレンジイソシアネート/1,6−ヘキサンジオール)ジ(メタ)アクリレート、(イソホロンジイソシアネート/ジエチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート)、ポリ(プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(ジグリシジルビスフェノールA)ジ(メタ)アクリレート、(トリメリット酸/ジエチレングリコール)トリ(メタ)アクリレートなどのポリエステル・プレポリマー系、ポリウレタン・プレポリマー系およびポリエーテル・プレポリマー系の多価(メタ)アクリレート化合物を例示できる。本発明においては、上記した多価(メタ)アクリレート化合物とプレポリマー系多価(メタ)アクリレート化合物の中から選択して1種類を単独に、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
本発明においては、多価(メタ)アクリレート化合物とプレポリマー系多価(メタ)アクリレート化合物の配合比は特に制限されず、例えば、100:0〜40:60(質量%)の範囲とすれば良い。
【0020】
また、本発明において、光重合性モノマー(A1)としては、フッ素原子あるいはケイ素原子を含有するモノマーを選択することもできる。フッ素原子を含有するモノマーとしては、フッ素原子を含有する脂肪族系および脂環族系モノマーがあり、いずれのモノマーも本発明に使用することができる。ケイ素原子を含有するモノマーとしては、シラン系モノマーとシロキサン系モノマーがある。フッ素原子あるいはケイ素原子を含有するモノマーの末端不飽和基としては、光硬化性が良好なことから、(メタ)アクリロイル基やビニル基が好適である。
【0021】
フッ素原子を含有するモノマーとしては、例えば、フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等のフルオロオレフィン類、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、α−トリフルオロメタクリル酸メチル、α−トリフルオロメタクリル酸エチルのような、分子中にフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物、分子中に、フッ素原子を少なくとも3個持つ炭素数1〜14のフルオロアルキル基、フルオロシクロアルキル基またはフルオロアルキレン基と、少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物等を挙げることができる。また、これらのモノマー化合物より選択される2種以上のコポリマーおよびコンポジットを使用することもできる。
【0022】
シラン系モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランなどのシラン系(メタ)アクリレート化合物、およびビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのシラン系ビニル化合物が、好ましいシラン系モノマーとして例示できる。さらに、本発明においては、これらのモノマーに対し、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの低分子シラン系モノマーを添加することもできる。
【0023】
シロキサン系モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、ビス((メタ)アクリロイルオキシプロピル)テトラメチルジシロキサン、ビス((メタ)アクリロイルオキシプロピル)ドデカメチルヘキサシロキサンなどのシロキサン系(メタ)アクリレート化合物、およびビニルペンタメチルジシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサン、ジビニルドデカメチルヘキサシロキサンなどのシロキサン系ビニル化合物が、好ましいシロキサン系モノマーとして例示できる。さらに、本発明においては、これらのモノマーに対し、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの低分子シラン系モノマーを添加することもできる。
【0024】
本発明においては、上記した光重合性モノマー(A1)のうち、1種を単独で使用または2種以上を併用することが可能である。
【0025】
<有機化合物(A2)>
有機化合物(A2)は、光重合性モノマー(A1)とは非相溶であり、光重合性モノマー(A1)とは室温付近で混合しても相溶せず、仮に混合攪拌しても、放置すると相分離する有機化合物のことである。ここで、「室温」とは15〜30℃の温度範囲を意味する。このような有機化合物(A2)は、例えば、水酸基、アミノ基、ケトン結合、サルファイド結合、スルホキサイド結合および環式アミド結合などの群より選ばれた1種類以上の基または/および結合を有する分子会合し易い有機化合物である。
【0026】
有機化合物(A2)としては、具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ベンジルアルコール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ベンジルアミン、キノリン、メチルフェニルケトン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2,2’−チオジエタノール、ジメチルスルホキサイド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。特に好ましい有機化合物(A2)の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの低級脂肪族アミノアルコール類と2,2’−チオジエタノールが例示できる。本発明では、このような有機化合物の1種類を単独で使用するか、あるいは2種類以上を併用することができる。
【0027】
本発明においては、有機化合物ではないが、本発明の有機化合物(A2)の代わりに、水も、(A2)成分として使用することができる。水は、上記した特に好ましい有機化合物(A2)と併用することも可能であり、その併用比率は任意である。
【0028】
<共通溶媒(A3)>
共通溶媒(A3)は、室温付近で光重合性モノマー(A1)と有機化合物(A2)または水と混合すると完全に両者と相溶する有機溶剤のことである。ここで、「室温」とは15〜30℃の温度範囲を意味する。このような有機溶剤(A3)としては、例えば、芳香族あるいは脂環族炭化水素系溶剤、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、エーテルアルコール、カーボネートなどの酸素含有系溶剤、およびアミン、アミドなどの窒素含有系溶剤が挙げられる。
【0029】
有機溶剤(A3)としては、具体的にはトルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、デカリンなどの芳香族あるいは脂環族炭化水素系溶剤、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、1−デカノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤、テトラヒドロフラン、エチルフェニルエーテル、アニソール、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、酢酸シクロヘキシル、安息香酸メチルなどのエステル系溶剤、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、1,2−エタンジオールモノメチルエーテル、1,2−エタンジオールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤のような酸素含有系溶剤、およびピペリジン、シクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどの窒素含有系溶剤、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、時メチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート系溶剤を例示できる。
【0030】
上記した本発明における有機溶剤(A3)は、単独で使用してもよく、または同一系の溶剤を2種類以上組み合わせて、あるいは異なる系の溶剤を2種類以上組み合わせて使用してもよい。本発明における有機溶剤(A3)の単独使用での、あるいは併用での、常圧における沸点としては50〜250℃の範囲が好ましく、より好ましくは、70〜200℃の範囲である。沸点が前記温度範囲の有機溶剤(A3)を使用することにより、取り扱い性が良好であるため樹脂組成物中の配合量の制御がしやすく、また、多孔質樹脂硬化物(A)の形成性も良好となる。
【0031】
本発明において、光重合性モノマー(A1)、有機化合物(A2)又は水、および共通溶媒(A3)の配合比は、使用する各成分の分子量や沸点などにより異なった比率となるが、通常、(A1):〔(A2)+(A3)〕=80:20〜10:90(質量%)である(ここで、(A2)は、「有機化合物(A2)を使用する場合」、「有機化合物(A2)を使用せずに水を使用する場合」、「有機化合物(A2)と水を併用する場合」の各場合における、有機化合物(A2)と水との合計量を表わす。)。(A1)の配合比を10〜80質量%とすることにより、良好な多孔質樹脂硬化物(A)を形成することができる。また、(A2)と(A3)との配合比は、通常、良好な物性を有する多孔質樹脂硬化物(A)を形成することができるため、(A2):(A3)=80:20〜20:80(質量%)であることが好ましく、(A1)の配合量に応じて、適宜比率を調整して混合することができる。
【0032】
<光重合開始剤(A4)>
光重合開始剤(A4)は、光照射により本発明の光硬化型液状樹脂組成物を硬化させて、本発明の多孔質樹脂硬化物(A)を形成するための必須成分である。
【0033】
光重合開始剤(A4)としては、一般的に使用されている光重合開始剤、即ち、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ジアセチル類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、ヒドロキシフェニルケトン類、アミノフェニルケトン類などのカルボニル化合物系光重合開始剤、チラウムサルファイド類、チオキサントン類などの有機硫黄化合物系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド類、アシルホスフィン酸エステル類などの有機燐化合物系光重合開始剤などがすべて使用できる。本発明ではこのような多種類の光重合開始剤の中から選択して、1種類を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、光重合開始剤(A4)の添加量は少量でよく、光重合性モノマー(A1)、すなわち光重合性モノマー全量に対して、0.1〜3.0質量%の添加量が一般的であるが、0.5〜1.5質量%でも硬化性は良好である。
【0034】
本発明の多孔質樹脂硬化物(A)の形成に使用される樹脂組成成物の調製方法としては、まず、光重合開始剤(A4)を光重合性モノマー(A1)に溶解したのち、他の必須成分である(A2)成分又は水、および(A3)成分を混合溶解して、均一な透明溶液とするのが一般的である。
【0035】
本発明の多孔質樹脂硬化物(A)を形成するために使用される基材としては、ガラス、セラミック、プラスチック、紙などの基材が使用できる
【0036】
本発明の多孔質樹脂硬化物(A)の形成方法としては、本発明の樹脂組成物を直接基材上に、所定の厚さの塗布膜としたのち、光硬化させる方法が例示できる。本発明の樹脂組成物を基材上に一定の厚さに塗布する方法としては、滴下法、バーコート法、ナイフコート法、スピンコート法などが採用される。柔軟性のあるフィルムや紙などの基材の場合には、ダイレクト・ロールコート法、リバース・ロールコート法、グラビア・ロールコート法などの各種のロールコート法が採用できる。塗布膜の厚さは、特に制限されないが、1〜200μmの範囲とすることにより、多孔質樹脂硬化物(A)をシート状とし、これを用いて構成される本発明の固液ハイブリッド電解質層をシート状にすることができるため好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物の光硬化の光源としては、紫外線を発生する光源が最も適している。紫外線照射により光硬化させるには、一般に、紫外線硬化型樹脂に用いられる超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライド灯、カーボンアーク灯、キセノン灯などの紫外線を照射することによって行う。波長365nmを中心とした紫外線が比較的多い高圧水銀灯あるいはメタルハライド灯を使用するのが好ましい。紫外線の照射量は、一般的に、500mJ/cm以上であり、1000〜2000mJ/cmがより好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、前記した基材に塗布したのち、上記した紫外線光源からの紫外線を照射して、組成物中に含有される光重合性モノマー(A1)を光硬化させ、樹脂硬化物の微小粒子が三次元的に連なった構造の多孔質樹脂硬化物を形成させる。この紫外線照射は、塗布したままの状態で照射してもよいが、塗布膜の硬化性の安定化や、多孔質樹脂硬化物の表面平滑性と形成された多孔質樹脂硬化物を保持するためには、ガラス板や透明なプラスチック・フィルムで塗布膜表面を被覆して紫外線を照射するのが好ましい。
【0039】
光硬化して形成された多孔質樹脂硬化物には有機化合物(A2)又は水、および共通溶媒(A3)が含有されており、微小空孔を有する樹脂硬化物とするためには、これらを除去する必要がある。これらを除去する方法としては、常圧または減圧下での加熱気化法、熱風気化法、メタノール、エタノール、アセトンのような低沸点溶剤による溶剤溶出法などがあり、含有される有機化合物(A2)又は水の沸点や溶解性、若しくは共通溶媒(A3)の沸点や溶解性に応じて最適の方法を採用すればよい。加熱気化法と熱風気化法では、使用した基材の耐熱性を考慮した温度で行う必要がある。
このように樹脂硬化物中の有機化合物(A2)又は水、および共通溶媒(A3)を除去するこよにより、空孔を有する多孔質樹脂硬化物(A)を形成することができる。
【0040】
本発明の多孔質樹脂硬化物(A)に含有される孔は、樹脂硬化物の微細粒子が三次元的に連なった構造で囲まれており、隣接する孔同士はその一部では一体化しており、連続的な構造となっている。
また、本発明の多孔質樹脂硬化物(A)に含有される孔の径(孔径)は、樹脂組成物中の各成分の配合量および硬化度を変更することにより調整することができ、0.1μm〜100μmの範囲とされ、0.1μm〜50μmの範囲とすることがより好ましい。また、孔の空孔率も同様に調整できるが、10〜80%の範囲とすることが好ましい。このような範囲の孔径および空孔率とすることにより、後述の如くイオン伝導体(B)を保持させた場合、液体電解質(B2)の液漏れを一層抑制しつつ、良好なイオン伝導性を発現することができる。さらに、シート状に形成した際の引張強度も良好となる。
【0041】
本発明における多孔質樹脂硬化物(A)は、後述するイオン伝導体(B)を保持させることにより、その孔内にイオン伝導体(B)が充填された状態で、本発明の固液ハイブリッド電解質層を構成する。この保持工程の際に、多孔質樹脂硬化物(A)はイオン伝導体(B)に含まれる液体電解質(B2)への膨潤性を有していることが好ましい。このように多孔質樹脂硬化物(A)が液体電解質(B2)への膨潤性を有することにより、本発明の固液ハイブリッド電解層において、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配されたイオン伝導体(B)のみでなく、各イオン導電体(B)を仕切る多孔質樹脂硬化物(A)においてもイオンを伝導させることができ、全体としてイオン伝導性が向上するため好ましい。
【0042】
[イオン伝導体(B)]
本発明における液体を含むイオン伝導体(B)は、1nm〜1μmの空間を有する化合物又はその塩、および液体電解質(B2)を含んでなることが好ましい。1nm〜1μmの空間内に液体電解質(B2)を存在させることにより、液体電解質(B2)を構成する液体分子間での相互作用が少なく、凝固点が低下するなどの特性が表れ、低温における液体電解質(B2)の拡散係数に優れる。そのため、低温におけるイオン伝導体(B)のイオン伝導性が良好になる。上記1nm〜1μmの空間を有する化合物又はその塩としては、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が挙げられる。
すなわち、本発明における液体を含むイオン伝導体(B)は、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)、および液体電解質(B2)を含んでなるものが好ましい。
<双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)>
本発明の双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)としては、下記式(1)または下記式(2)で表されるものを挙げることができる。
【0043】
【化2】

[式(1)中および式(2)中、Xは、Cl、Br、I、F、BF、PF、CFSOまたは(CFSOを表し、XはLiを表し、−Yは−Nを表し、−Yは−SOまたは−COOを表し、R、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよく、また、重合性官能基を有していてもよい炭素数6〜22のアルキル基を表し、Rは、−(CH−および−CONHCHCH−を表し、mは1〜5の整数を表し、R、R、Rは、同一でも異なっていても良く、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基を表す。]
【0044】
式(1)中、Xは、Cl、Br、I、F、BF、PF、CFSOまたは(CFSOを表す。
式(1)中、−Yは、−Nを表し、R、R、Rは、同一でも異なっていても良く、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基を表す。
−YにおけるR、R、Rである炭素数1〜18のアルキル基は、置換基を有していてもよく、例えば、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていてもよく、炭素原子の一部が酸素原子で置換されていてもよい。
式(2)中、XはLiを表し、−Yは−SOを表す。
式(1)および式(2)中、R、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよく、また、重合性官能基を有していてもよい炭素数6〜22のアルキル基を表す。R、R、Rである炭素数6〜22のアルキル基は、置換基を有していてもよく、例えば、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよく、鎖中に−O−C(=O)−、−COO−などの酸素原子を含む基を有していてもよく、末端にビニル基、シラニル基などの重合性官能基を有していてもよい。
式(1)および式(2)中、Rは、−(CH−および−CONHCHCH−を表し、mは1〜5の整数を表す。
【0045】
<液体電解質(B2)>
本発明における液体電解質(B2)としては、イオン液体や電解液を挙げることができる。
液体電解質(B2)であるイオン液体としては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスに一般的に使用されているものを挙げることができ、融点が室温(25℃)以下であり、室温で液状の外観を呈する塩であるものが好ましい。イオン液体の組成については特に制限はなく、例えば、カチオンとして、アンモニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピロリウム、オキサゾリウム、オキサゾリニウム、イミダゾリウム、ホスホニウム、スルホニウムが挙げられる。また、アニオンとしては、N(SOF)、N(SOCF、N(SO、BF、PF、CFSO又はCFCOが挙げられ、これらのカチオンとアニオンを組み合わせたイオン液体を用いることができる。上記イオン液体は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。これらのアニオンの中でも、特に疎水性のアニオンであるN(SOF)、N(SOCF、N(SO、CFSO又はCFCOが好適に用いられる。疎水性のアニオンを用いることにより、それによって構成されるイオン液体の取り扱い性、特に空気雰囲気での取り扱い性が良好になる。
【0046】
液体電解質(B2)である電解液としては、蓄電デバイスの作動電圧範囲で安定なものであれば、特に限定されるものではない。具体例としては、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、グリコールエーテル類(エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等)などの鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキサン等の環状エーテル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサゾリン−2−オン等のラクトン類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等のアミド類;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、スチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;またはこれらの各種有機溶媒の水素原子やアルキル基がフルオロアルキル基に置換されたフッ素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いることも、2種以上混合して用いることもできる。
【0047】
中でも、誘電率が大きく、電気化学的安定範囲および使用温度範囲が広く、かつ、安全性に優れるものが好ましく、例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートを主成分として含む混合溶媒や、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フッ素化プロピレンカーボネート、およびフッ素化γ−ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いることが好ましい。
【0048】
また、液体電解質(B2)である電解液は、リチウム塩を含んでいることも好ましい。リチウム塩としては、前記有機溶媒に溶解可能であり、溶媒中で解離してLiイオンを形成し、電池として使用される電圧範囲での分解等の副反応を起こさないものであれば特に制限されない。例えば、電解液にした時のイオン伝導度が高い、あるいは電池の利用電位範囲で電気化学的に安定である等の理由から、主にLiPF、LiClO、LiBF、LiN(CFSO等を用いることができる。液体電解質(B2)がリチウム塩を含有する場合、リチウム塩の液体電解質(B2)中の濃度は、0.1〜2mol/Lとすることが好ましく、0.5〜1.5mol/Lとすることが更に好ましい。
【0049】
液体電解質(B2)において、イオン液体および電解液は、どちらか一方を使用してもよく、併用してもよい。
イオン液体と電解液を併用する場合、液体電解質(B2)におけるイオン液体の含有量は、5〜90質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましい。イオン液体の含有量を前記範囲とすることにより、良好なイオン伝導性とすることができる。
【0050】
イオン伝導体(B)においては、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)と液体電解質(B2)との総量に占める、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)の含有量を30〜90質量%とすることが好ましく、40〜90質量%とすることが更に好ましい。双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)の含有量を前記範囲とすることにより、良好なイオン伝導性とすることができる。
【0051】
本発明のイオン伝導体(B)は、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が極性の高い部分と極性の低い部分とを分子内に併せ持っている。双連続キュービック液晶構造内では、極性の高い部分が連続的に配置されることによってイオンチャンネルを形成し、極性の低い部分が連続的に配置されることによって、イオンチャンネル以外の部分を形成している。このようなイオンチャネルを有する(B1)成分を用いることにより、イオン伝導体(B)およびこれを備える本発明の固液ハイブリッド電解質層のイオン伝導性を高めることができる。
【0052】
本発明の固液ハイブリッド電解質層は、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内にイオン伝導体(B)が配されている。
本発明における多孔質樹脂硬化物(A)に含有される孔は、樹脂硬化物の微細粒子が三次元的に連なった構造で囲まれており、隣接する孔同士はその一部では一体化しており、連続的な構造となっている。従って、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配されたイオン導電体(B)も連続構造となっており、良好なイオン伝導性を発現できる。また、本発明においては、多孔質樹脂硬化物(A)がイオン伝導体(B)中の液体電解質(B2)への膨潤性を有することが好ましく、この場合、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配されたイオン伝導体(B)のみでなく、イオン伝導体(B)を保持する多孔質樹脂硬化物(A)においてもイオンを伝導させることができ、固液ハイブリッド電解質層のイオン伝導性をより向上させることができる。
【0053】
また、上記の如く、本発明の多孔質樹脂硬化物(A)の空孔率は、10〜80%の範囲とすることが好ましく、このような範囲の孔径および空孔率とすることにより、イオン伝導体(B)を保持させた場合、液体電解質(B2)の液漏れを一層抑制しつつ、良好なイオン伝導性を発現することができる。さらに、シート状に形成した際の引張強度も良好となる。なお、上記の範囲の空孔率である多孔質樹脂硬化物(A)にイオン伝導体(B)を保持させる場合、多孔質樹脂硬化物(A)の重量に対して、イオン伝導体(B)を保持させた後の多孔質樹脂硬化物(A)の重量(すなわち、固液ハイブリッド電解液層の重量)が20〜1000%増加していることが好ましい。このような増加量となるように、イオン伝導体(B)を多孔質樹脂硬化物(A)に保持させることにより、液漏れを防止しつつ、良好なイオン伝導度とすることができる。
【0054】
次に、本発明の固液ハイブリッド電解質層の製造方法について説明する。
まず、上述した手順により多孔質樹脂硬化物(A)を形成する。この際、樹脂組成物中の光重合性モノマー(A1)と、有機化合物(A2)又は水と、共通溶媒(A3)との配合比および重合度を調整することにより、多孔質樹脂硬化物(A)の空孔の孔径および空孔率を上述した好ましい範囲に調整することができる。
また、この際、硬化前の樹脂組成物の形状を調整することにより、所望の形状の多孔質樹脂硬化物(A)を得ることができ、フィルム状となるように塗布、硬化させることがリチウムイオン電池用電解質などの用途には好ましい。
【0055】
次に、多孔質樹脂硬化物(A)に、イオン伝導体(B)を保持させる。保持させる方法は、特に限定されるものではなく、イオン伝導体(B)を多孔質樹脂硬化物(A)に厚めに塗布して、多孔質樹脂硬化物(A)の空孔を埋めてもよいし、イオン伝導体(B)の溶液中に多孔質樹脂組成物(A)を浸漬してもよく、また、2枚のガラス板などの基材で多孔質樹脂組成物(A)を挟みこんだ状態で、イオン伝導体(B)を基材間に注入してもよい。保持工程における温度や時間は適宜変更することができ、例えば、温度10〜100℃、時間1〜48時間程度とすることができる。
【0056】
その後、イオン伝導体(B)を保持させた多孔質樹脂硬化物(A)を乾燥させることにより、イオン伝導体(B)が多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配された固液ハイブリッド電解質層を得ることができる。乾燥工程における温度や時間は適宜変更可能であり、例えば、10〜100℃、時間1〜48時間程度とすることができる。また、乾燥工程は常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。なお、ここで、「乾燥」とは、形成される固液ハイブリッド電解質層の使用条件に応じて、所定の温度における重量がほぼ変化しなくなった状態を意味する。
【0057】
本発明の固液ハイブリッド電解質層は、イオン伝導体(B)が、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内に配された構造であるため、イオン伝導度を保ちつつ、これまでの液体電解質とセパレーターを用いたものと比較して液漏れの発生を効果的に抑制することができ、高い安全性を有する。また、従来の高分子材料を用いた固体電解質よりもイオン伝導性が良好である。さらに、電解液とセパレーターの機能を両方兼ね備えるため、よりコストや生産工程を少なくすることができる。また、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、有機材料より構成されるので生産工程における加工性が良好であるため、シート状に加工することも可能であり、リチウムイオン電池用電解質としては非常に有用である。さらに、シート状に加工した場合にも、多孔質樹脂硬化物(A)の孔内にイオン伝導体(B)が保持された構造となっているため、良好なフィルム強度の電解質層となる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例および比較例における特性値の測定は、次に示す測定方法により行った。
(平均孔径と空孔率の測定)
ガラス基板上に形成された微小空孔を有する多孔質樹脂硬化物を剥離し、オートポアIV(島津−マイクロメリティックス社製:9520型)を用いて、水銀圧入法により測定した。平均孔径の測定は、孔を円筒状と仮定し、孔半径は水銀に加える圧力に逆比例の関係で算出する方法によった。空孔率の測定は、約0.005μmから約70μmまでの孔径(r:A)分布と空孔容積率(dVp/dlogr:ml/g)を測定し、孔容積率の総和を比重換算して空孔率(%:cm/cm×100%)とした。
【0060】
(イオン伝導度の測定)
固液ハイブリッド電解質層を、HSセル(宝泉株式会社製)にセットし、電気化学測定装置(ソーラトロン社製SI−1260)を用いて複素インピーダンス法で測定を行った。
【0061】
[多孔質樹脂硬化物の作製]
光重合性モノマー(A1)として、パーフルオロオクチルエチルアクリレート20重量部と、トリメチロールプロパントリアクリレート20重量部と、ポリテトラメチレングリコール(重合度=約3)ジアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートPTMGA−250)20重量部とを混合し、これに光重合開始剤(A4)として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:ダロキュア1173)0.5重量部を混合し、よく攪拌して溶解させた。
【0062】
次に、光重合性モノマー(A1)とは相溶性のない有機化合物(A2)として、トリエタノールアミン80重量部と、光重合性モノマー(A4)と有機化合物(A2)とに共通して相溶性のある共通溶媒(A3)として、イソプロピルアルコール160重量部とを混合し、透明になるまでよく攪拌して、樹脂組成物を調製した。
【0063】
この樹脂組成物をガラス基板上に、スキマゲージとバーコーター塗布装置を用いて均一に塗布し、ガラス板で被覆したのち、直ちに高圧水銀灯により紫外線を1200mJ/cmとなるまで照射したところ、不透明に変化した樹脂硬化物(厚さ=約10μm)が形成された。
続いて、被覆したガラス板を取り除き、得られた樹脂硬化物をアセトンを用いてよく洗浄し、樹脂硬化物中の有機化合物(A2)であるトリエタノールアミンと、共通溶媒(A3)であるイソプロピルアルコールを除去したのち、風乾し、微小空孔を有する多孔質樹脂硬化物(A)(厚さ=約30μm)を得た。得られた多孔質樹脂硬化物(A)をSEM(走査型電子顕微鏡)でで観察したところ、空孔を有する多孔質構造となっていた。
この微小空孔を有する多孔質樹脂硬化物(A)の平均孔径、空孔率および接触角を測定したところ、平均孔径=0.21μm、空孔率=77%であった。
【0064】
[双連続キュービック液晶構造を有する化合物の合成]
下記化合物(b1−1)2g(2.94mmol)、トリエチルアミン1.49g(14.7mmol)、トルエン2mLの混合溶液を90℃で10時間攪拌した。その後、反応溶液をクロロホルムで抽出して、5%塩酸水溶液で洗い、有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、有機層から硫酸マグネシウムを除去し、有機層の溶媒を留去した。残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:クロロホルム/メタノール=10/1)により分離精製することにより、下記化合物(b1−2)1.98gを白色固体として得た。
化合物(b1−2)の同定は、H−NMR(400MHz)により行った。H−NMR(400MHz):δ=6.75(s、2H)、4.73(s、2H)、3.98(m、6H)、3.49(q、6H)、1.82−1.70(m、6H)、1.47−1.26(m、63H)、0.88(t、9H)。
【0065】
アルゴン雰囲気下で、化合物(b1−2)0.3g(0.384mmol)をメタノール3mLに溶解させた溶液に、AgBF0.082g(0.423mmol)をメタノール2mLに溶解させた溶液を、室温にて攪拌しながら加えて、さらに室温にて2時間攪拌した。析出した塩化銀をろ別して除き、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮した。次いで、残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:ジクロロメタン/メタノール=10/1)により分離精製することにより、下記化合物(b1)0.278gを白色固体として得た。
化合物(b1)の同定は、H−NMR(400MHz)により行った。H−NMR(400MHz):δ=6.61(s、2H)、4.34(s、2H)、3.97(m、6H)、3.28(q、6H)、1.82−1.70(m、6H)、1.57−1.26(m、63H)、0.88(t、9H)。
【0066】
【化3】

【0067】
[固液ハイブリッド電解質層の作製]
液体電解質(B2)である1MのLiClOを溶解させたプロピレンカーボネート溶液と、上記で合成した化合物(b1)を、化合物(b1)と液体電解質(B2)が質量比で20:80になるよう混合してイオン導電体(B)溶液を作製した。
次に、上記で作製した多孔質樹脂硬化物(A)にイオン導電体(B)溶液を5時間、40℃にて含浸させた。その後、常温(25℃)にて2時間減圧乾燥することにより、厚さ30μmの固液ハイブリッド電解質層を得た。得られた固液ハイブリッド電解質層の重量は、イオン伝導体(B)を含浸させる前の多孔質樹脂硬化物(A)の重さに比べて、約400%増加していた。
【0068】
[評価]
<観察>
得られた固液ハイブリッド電解質層をAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、多孔質樹脂硬化物(A)の空孔内に、イオン伝導体(B)が含浸されていることが確認された。
また、この固液ハイブリッド電解質層をAs One社製の小型熱プレスAH−1TCを用い、室温において3cm×3cm辺のサンプルに1MPaの圧力をかけたところ、目視で液漏れは確認されず、イオン伝導体(B)が多孔質樹脂硬化物(A)により層中に保持されていることが確認できた。この結果より、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、液漏れの発生を効果的に抑制することができるので、安全性が高いことが確認された。
<イオン伝導度>
作製した固液ハイブリッド電解質層のイオン伝導度を測定したところ、2.0mS/cmであった。これに対し、ポリエチレンオキサイド系の有機固体電解質について、同様の手法によりイオン伝導度を測定したところ、8×10−3mS/cmであった。この結果より、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、従来の有機固体電解質に比べてイオン伝導度が高いことが確認された。
<フィルム強度>
作製した固液ハイブリッド電解質層より縦1cm×横10cm×厚さ30μm短冊状のサンプルを作成し、このサンプルのフィルム強度を引っ張り測定(島津製作所社製、ねぎ式一軸試験機AGS−J100N、速度5mm/分、チャック間距離60mm、JIS P8113準拠)により測定した。その結果、200kg/cmであった。これに対し、ポリエチレンオキサイド系の有機固体電解質(縦1cm×横10cm×厚さ30μm)について、同様の手法によりフィルム強度を測定したところ、50kg/cmであった。この結果より、本発明の固液ハイブリッド電解質層は、従来の有機固体電解質に比べてフィルム強度が良好であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質樹脂硬化物(A)、液体を含むイオン伝導体(B)より構成され、前記多孔質樹脂硬化物(A)は孔径0.1μm〜100μmの孔を有し、前記イオン伝導体(B)は前記孔内に配されていることを特徴とする固液ハイブリッド電解質層。
【請求項2】
前記イオン伝導体(B)が、双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)、および液体電解質(B2)を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の固液ハイブリッド電解質層。
【請求項3】
前記多孔質樹脂硬化物(A)が、光重合性モノマー(A1)、光重合性モノマー(A1)とは非相溶の有機化合物(A2)又は水、光重合性モノマー(A1)と有機化合物(A2)とに相溶する共通溶媒(A3)および光重合開始剤(A4)を必須成分とする樹脂組成物を光硬化した後、含有される有機化合物(A2)又は水、および共通溶媒(A3)を除去して得られることを特徴とする請求項1または2に記載の固液ハイブリッド電解質層。
【請求項4】
前記双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が、下記式(1)または下記式(2)で表されることを特徴とする請求項2または3に記載の固液ハイブリッド電解質層。
【化1】

[式(1)中および式(2)中、Xは、Cl、Br、I、F、BF、PF、CFSOまたは(CFSOを表し、XはLiを表し、−Yは−Nを表し、−Yは−SOまたは−COOを表し、R、R、Rは、同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよく、また、重合性官能基を有していてもよい炭素数6〜22のアルキル基を表し、Rは、−(CH−および−CONHCHCH−を表し、mは1〜5の整数を表し、R、R、Rは、同一でも異なっていても良く、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基を表す。]
【請求項5】
前記液体電解質(B2)が、イオン液体または電解液であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の固液ハイブリッド電解質層。
【請求項6】
前記双連続キュービック液晶構造を有する化合物又はその塩(B1)が、イオンチャネルを形成することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の固液ハイブリッド電解質層。
【請求項7】
フィルム状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の固液ハイブリッド電解質層。

【公開番号】特開2011−192611(P2011−192611A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59852(P2010−59852)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】