説明

固相抽出カートリッジおよび固相抽出方法

【課題】酸性からアルカリ性にわたる幅広いpH領域の媒体中においても安定に、対象物質を効率よく、迅速かつ簡便に、分取、精製、濃縮等できる固相抽出カートリッジ、ならびに該固相抽出カートリッジを用いて、迅速かつ簡便に、再現性よく、分取対象となる物質を分取、精製、濃縮等できる分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、多孔質炭化珪素系充填剤が、カートリッジ内部に充填されている固相抽出カートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出カートリッジ、ならびにこれを用いた分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法に関する。より詳しくは、多孔質炭化珪素系充填剤を充填した固相抽出カートリッジならびにこれを用いた分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体中からの有機物の抽出には液体吸収法が、液体中からの有機物や重金属の抽出には液−液抽出法が多く用いられてきたが、作業が繁雑で時間と経験を要すること、有機溶媒を多量に使用することなどの問題があった。
【0003】
これに対して、固相抽出法は、作業が簡単なうえに短時間ですみ、しかも有機溶媒の使用量が少ないという特長を持っている。そのため、多数の検体を短期間に処理しなければならない場合に非常に有利であり、自動化も容易である。
【0004】
固相抽出法の用途としては、たとえば、河川などの環境水、土壌や大気に含まれる汚染物質の測定がある。特に、環境水に含まれる農薬や農薬分解物などの測定については、試料からの測定対象物質の分離について、固相抽出法を用いることが法令により定められている場合が多い。
【0005】
固相抽出法に用いられる充填剤には、無機系のものと有機系のものがあるが、無機系充填剤の基材としては、シリカゲルまたはシリカゲルの表面を化学修飾した化学結合型シリカゲルが、有機系充填剤の基材としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に代表される合成高分子系及びこれらの表面を化学修飾させたものが用いられている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0006】
しかし、シリカゲル系充填剤は強酸やpHが約8以上のアルカリに弱く、特にその多孔質体は酸性媒体中やアルカリ性媒体中で機械的応力を受けると容易に崩壊するため、該充填剤を充填した固相抽出カートリッジは、酸性媒体中あるいはアルカリ性媒体中でのみ安定な物質を試料中から分取、精製、濃縮等するには不適当であった。
【0007】
たとえば、体液関連媒体中のマトリックスにおいて除タンパクするには基本的にはC18
固相(ODS)を使うが、pHを極端に酸性、アルカリ性側にずらすことで精製または濃縮で
きる場合がある。つまり、酸性化合物は酸性に、塩基性化合物はアルカリ性にするとより解離が抑えられて抽出が容易になる。このような場合にはシリカ系充填剤の使用は不向きである。
【0008】
したがって、酸性からアルカリ性にわたる幅広いpH領域の媒体中において、試料から、分取対象物質の分取、精製、濃縮ができる固相抽出カートリッジ、除去対象物を除去し試料の浄化ができる固相抽出カートリッジ、回収対象物の回収ができる固相抽出カートリッジなどの開発が望まれていた。
【0009】
ところで、炭化珪素(SiC)は、酸性からアルカリ性にわたる広いpH領域の媒体中において、その構造を安定に維持する化合物である。この炭化珪素の多孔質体については、吸着剤、液体クロマトグラフィー用担体や触媒担体としての利用が報告されている(特許文献3、特許文献4、非特許文献1)。しかし、固相抽出カートリッジへの使用は検討されていない。
【特許文献1】特開昭59−147606号公報
【特許文献2】特開平4−334546号公報
【特許文献3】特開平2−191542号公報
【特許文献4】特開平6−294788号公報
【非特許文献1】竹内雍、「多孔質体の性質とその応用技術」、初版、株式会社フジ・テクノシシステム、1999年、p62-67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、上述の従来技術の欠点を解消することが可能な固相抽出カートリッジならびにこの固相抽出カートリッジを用いた分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法を提供することを課題としている。
【0011】
すなわち、本発明は、酸性からアルカリ性にわたる幅広いpH領域の媒体中においても安定に、対象となる物質を効率よく、迅速かつ簡便に、分取、精製、濃縮等できる固相抽出カートリッジを提供することを課題としている。
【0012】
また、本発明は、該固相抽出カートリッジを用いて、迅速かつ簡便に、再現性よく、分取対象となる物質を分取、精製、濃縮等できる分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも、多孔質炭化珪素系充填剤がカートリッジ内に充填されている固相抽出カートリッジによれば、酸性あるいはアルカリ性媒体中においてのみ安定な化合物であっても、効率よく確実に分取、精製、濃縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
(1) 少なくとも、多孔質炭化珪素系充填剤が、カートリッジ内に充填されていることを特徴とする固相抽出カートリッジ。
【0015】
(2) 前記多孔質炭化珪素系充填剤が粒子状であり、その数平均粒子径が10μm以上1000μm以下の範囲であり、かつBET法による比表面積が10m2/g以上であ
ることを特徴とする上記(1)に記載の固相抽出カートリッジ。
【0016】
(3) 前記多孔質炭化珪素系充填剤が、炭化珪素の多孔質体焼成ブロックを破砕して得られた破砕型粒子であることを特徴とする上記(2)に記載の固相抽出カートリッジ。
(4) 分取対象物質および共存物質を含有する試料を、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させて、該分取対象物質を該固相抽出カートリッジ内の多孔質炭化珪素系充填剤に吸着させた後、該固相抽出カートリッジに溶離液を流通させて該分取対象物質を溶出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【0017】
(5) 分取対象物質および共存物質を含有する試料を、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該共存物質を該固相抽出カートリッジ内の多孔質炭化珪素系充填剤に吸着させるとともに該分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【0018】
(6) 前記分取対象物質が、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする上記(4
)または(5)に記載の分取対象物質の分取方法。
【0019】
(7) 除去対象物質および共存物質を含有する試料を、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該試料から該除去対象物質を除去することを特徴とする試料の浄化方法。
【0020】
(8) 回収対象物質および共存物質を含有する試料を、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該試料から該回収対象物質を回収することを特徴とする回収対象物質の回収方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の固相抽出カートリッジによれば、酸性からアルカリ性にわたる幅広いpH領域の媒体中においても安定に、対象となる物質を効率よく、迅速かつ簡便に、分取、精製、濃縮等できる。
【0022】
また、本発明の分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法によれば、迅速かつ簡便に、再現性よく、対象となる物質を分取、回収あるいは除去し、分取対象物あるいは試料を、精製、濃縮等できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<固相抽出カートリッジ>
まず、本発明を適用した固相抽出カートリッジについて、必要に応じて図面を参照して詳細に説明する。なお、該図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0024】
本発明を適用した固相抽出カートリッジは、例えば、図1の固相抽出カートリッジ10のように、略円筒状に形成されたカートリッジ本体10aを備えており、このカートリッジ本体10aの長手方向の両端部には、それぞれノズル10b、10cが設けられている。固相抽出カートリッジ10は、このようなカートリッジ本体10aの内部に、充填剤11と、この充填剤11を長手方向から挟み込むように配置された一対のフィルター12a、12bとを備えている。なお、このカートリッジ本体10aは、内部に充填剤11およびフィルター12a、12bを収容するため、ノズル10bが設けられた蓋部と、ノズル10cが設けられた容器部の間で分割可能となっている。
【0025】
カートリッジ本体10aの材質については、使用する溶媒に不溶で試料の分取、精製、濃縮作業中に充填剤11が漏れ出たりしないものであればよく、とくに制限されない。具体的には、たとえば、ガラス製、ステンレス製、樹脂製(たとえばポリプロピレン、ポリエチレン)のものが好ましく挙げられる。
【0026】
またカートリッジ本体10aの形状には特に制限はなく、円筒型、注射筒型(シリンジ型)、バレル型であっても、ディスク状であっても良い。カートリッジ本体10aのサイズは、使用する試料量に対応して適切な大きさのものを選択できるが、通常は容積0.1〜500ml、好ましくは2〜100ml、より好ましくは3〜6ml程度のものがハンドリングの面で好適である。
【0027】
充填剤11は、カートリッジ本体10aの内部に充填されるとともに、カートリッジ本体10aのノズル10b、10cから外部に漏れでないように、一対のフィルター12a、12bによって保持されている。
【0028】
本発明の固相抽出カートリッジでは、充填剤11としては、少なくとも多孔質炭化珪素系充填剤が用いられる。この多孔質炭化珪素系充填剤は、炭化珪素の多孔質体そのものであってもよく、炭化珪素の多孔質体にその表面の吸着性を制御するための有機化合物が修飾(コーティング)されたものでもよい。
【0029】
本発明に用いることのできる多孔質炭化珪素系充填剤を構成する炭化珪素の多孔質体は、公知の方法で製造することができ、その方法はとくに制限されない。すなわち、得ようとする多孔質炭化珪素系充填剤の形状、大きさ、比表面積などに応じて、商業的に入手できる炭化珪素の多孔質体を使用してもよく、また公知の製造方法を適宜採用して製造してもよい。なお、該多孔質炭化珪素系充填剤に含まれる炭化珪素は、α−SiCであってもよく、β−SiCであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0030】
具体的には、例えば、アチソン法;シリカ炭素還元法;シリコン・炭素直接反応法;ゾル・ゲルシリカ炭素還元法;気相反応法(CVD法);CH3SiCl3やポリカルボシランなどを熱分解する熱分解法などの公知の製造方法によって製造され、商業的に入手可能な炭化珪素が多孔質体の場合には、そのまま、あるいは必要に応じて粉砕して多孔質炭化珪素系充填剤として使用してもよい。
【0031】
また、特許文献4に記載されているように、ポリカルボシラン、カーボンブラック、溶媒を混合してスラリーを得て、得られたスラリーを造粒した後、不活性雰囲気下、1450〜1650℃で焼成することにより、得られた炭化珪素を多孔質炭化珪素系充填剤として使用しても良い。
【0032】
また、商業的に入手可能な炭化珪素あるいは上記公知の方法で製造した炭化珪素を必要に応じて粉砕した後、バインダーポリマー、分散剤などとともに、水などの分散媒に分散させてスラリーを得て、得られたスラリーをポリウレタンフォームなどの有機発泡成形体に含浸させ、乾燥した後、常圧、不活性雰囲気下で2000℃前後に2〜3時間加熱し、炭化珪素を焼結させるとともに有機発泡成形体を焼失させることにより、ブロック状の炭化珪素の多孔質体を得ることも可能である。得られたブロック状の炭化珪素の多孔質体は、得ようとする多孔質炭化珪素系充填剤の形状、大きさ、比表面積などに応じて、そのまま多孔質炭化珪素系充填剤として使用してもよく、適宜、研削処理を施したり、適宜粉砕したりした後で多孔質炭化珪素系充填剤として使用してもよい。
【0033】
このようにして得られた炭化珪素の多孔質体は、そのまま多孔質炭化珪素系充填剤として用いてもよいが、表面の吸着特性を変更したい場合には該多孔質体の表面に有機化合物をコーティング(修飾)することが好ましい。
【0034】
このコーティング方法としては、モノマー吸着重合法(モノマーを炭化珪素多孔質体の表面上で重合させる方法)、カップリング反応などが挙げられるが、炭化珪素と化学反応が可能な化合物ならば特に制限はない。
【0035】
また充填剤11、とくに多孔質炭化珪素系充填剤の形状は、ロッド状(充填剤が一つの塊としてカートリッジ本体内部とほぼ同じサイズとなっている)、バルク状(1mm〜5cm程度の塊)、粒子状、繊維状のいずれでもよいが、ロッド状あるいは粒子状であることが好ましく、容器に充填する際に隙間がより少なく充填できる点からは、粒子状であることがより好ましい。
【0036】
粒子状とする場合の数平均粒子径は、10μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、30μm以上700μm以下の範囲がより好ましく、50μm以上500μm以下の範
囲が最も好ましい。平均粒子径が10μm未満になると、固相抽出カートリッジ10に流通させる液体または気体等の試料の流速を上げた場合に、充填剤11からなる充填剤層の前後の静圧の差(圧力損失)が大きくなり、高流速で試料を流すことができない。また平均粒子径が1000μmを越えると、対象物質の吸着効率が悪くなる。
【0037】
なお、充填剤11、とくに多孔質炭化珪素系充填剤の平均粒子径は、JIS Z 8801に定める試験用ふるいを用いて、JIS Z8815ふるいわけ試験方法通則に準拠して測定する。
【0038】
さらに、充填剤11の比表面積、とくに上述した多孔質炭化珪素系充填剤の比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上がより好ましい。比表面積が10m2/g未満だと対象物質の吸着効率が悪くなる。なお、比表面積はBET法により
測定されたものである。
【0039】
また、充填剤11、とくに多孔質炭化珪素系充填剤として、上記の形状のものを組み合わせて使用することもできる。例えば、バルク状充填剤の隙間に粒子状または繊維状の充填剤を詰めて使用することも可能である。
【0040】
さらに、必要に応じて、上述した多孔質炭化珪素系充填剤に加えて、別の充填剤、すなわち、他の有機または無機の多孔質材料を混合して充填剤11として使用してもよく、また、多孔質炭化珪素系充填剤と他の充填剤もしくは基材とで多層構造を形成するようにカートリッジ本体10aの内部に充填してもよい。
【0041】
充填剤11として、多孔質炭化珪素系充填剤のほかに使用可能な、他の多孔質材料または他の充填剤としては、たとえば、ポリスチレンビーズ、ODS、アルミナビーズなどが挙げられる。
【0042】
<固相抽出方法;分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法>
次に、上述した本発明を適用した固相抽出カートリッジを用いた固相抽出方法、すなわち、該固相抽出カートリッジを用いた、分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法および回収対象物質の回収方法について説明する。
【0043】
本発明では、上述した固相抽出カートリッジに気体または液体等の試料を流し、この試料に含まれる対象物質を充填剤にいったん吸着させてから溶出させるか、あるいは共存物質を充填剤に吸着させ、対象物質を流出させることにより、対象物質を分取、回収させることができる。また試料の浄化を行なうこともできる。ここで、「対象物質」とは、分取、回収などの対象となる化学物質を意味する。
【0044】
以下、対象物質の分取方法を例にあげて、必要に応じて図を参照しながら説明する。
図2および図3中、固相抽出カートリッジ10は、図1の固相抽出カートリッジ10と同じであり、これを簡略化して示した断面模式図である。したがって、同じ部品には同じ参照番号を付してその説明を省略する。なお、図2および図3では、図1の固相抽出カートリッジ10を簡略化して説明するために、上部ノズル10bが設けられた蓋部やフィルター12a、12bなどは図示せず省略している。
【0045】
図2に示すように、充填剤11を充填した固相抽出カートリッジ10を用意し、この固相抽出カートリッジ10に対して試料20を流下させる。この試料20には、分取対象物質15および分取非対象の共存物質17が含有されている。試料20を流下させると、分取対象物質15が充填剤11に吸着され、分取非対象の共存物質17は吸着されずにその
まま流下する。その後、溶離液を流下させて分取対象物質15を充填剤11から脱着させ、溶出させる。
【0046】
溶離液としては、分取する対象物質に合わせて、任意の有機溶媒を使用することができる。具体的には例えば、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、n−ヘキサンなどが挙げられる。
【0047】
このようにして試料20に含まれる分取対象物質15を分取することができる。
また、図3に固相抽出カートリッジ10を用いた対象物質の分取方法の他の例を示す。
図3に示すように、充填剤11を充填した固相抽出カートリッジ10を用意し、この固相抽出カートリッジ10に対して試料20を流下させる。試料20を流下させると、図3の例では、分取非対象の共存物質17が充填剤11に吸着され、分取対象物質15は吸着されずにそのまま流下する。流下させた溶液においては共存物質17の量が大幅に低減される一方、分取対象物質15がほとんどそのまま流出する。このようにして試料20に含まれる分取対象物質15を分取することができる。
【0048】
ここで、対象物質15を充填剤11に吸着させたり吸着させなかったりするには、例えば、充填剤11、とくに多孔質炭化珪素系充填剤の表面にコーティングする有機化合物を適当に選択することが好ましく挙げられる。
【0049】
以上、対象物質の分取方法について説明したが、本発明では試料から除去対象物質を除去する方法や、回収対象物質を回収する方法に上記の分取方法をそのまま適用することができる。
【0050】
上述した固相抽出方法の具体的な対象物質としては、焼却炉排気ガス、各種製造設備排気ガス、幹線道路上空捕集大気のような環境大気、室内大気、工場排水、河川水、湖沼水、人体や家畜の排泄物などから選ばれる試料に含まれる微量物質などの、高度な濃縮を必要とするものが挙げられ、本発明の固相抽出カートリッジはこれら試料の前処理として好適に使用されうるが、特に限定されるものではない。
【0051】
上記微量物質としては、人体や家畜に蓄積され有害性を引き起こす化合物、人体や家畜の尿中に排泄される化合物およびその代謝物、もしくは人体や家畜に有用な化合物、環境汚染物質、毒物、生理活性物質が挙げられる。
【0052】
具体的には、ダイオキシン類;ポリ塩化ビフェニル類;ジスルフィド類などの農薬類または農薬分解物;環境ホルモン;石油化学誘導体;栄養成分;微生物による生成物;毒素;重金属;ならびにこれらの代謝物等が挙げられる。
【0053】
これらの化合物の例としては、ダイオキシン、ジベンゾフラン、多環芳香族炭化水素(PAHs、ベンゾ(a)ピレンを含む)、ポリ塩化ビフェニル、ポリ臭化ビフェニル、テトラメチルチウラムジスルフィド、DDT、クロルピリホス、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、マイレックス、トキサフェン(カンフェクロル)、ヘキサクロロシクロヘキサン(リンデン(γ−HCH)など)、クロルデコン(ケポン)、オクタクロロスチレン(OCS)、アシュラム、シマジン、1,4−ジオキサン、ノニルフェノール、界面活性剤、女性ホルモン、男性ホルモン、その他のホルモン、ポリフェノール類、抗生物質、抗菌剤、タンパク質、ペプチド、脂質、糖類、核酸関連物質、ビタミン類、神経伝達物質、マイコトキシンやマリントキシンに代表される自然毒、ヒ素、セレンおよびこれらの代謝物などがあげられる。
【0054】
これらのうち、酸性またはアルカリ性媒体中でのみ安定な化合物を対象物質とする場合、あるいは該化合物を含有する試料中から共存物質などを除去する場合には、本発明の効果がより大きく発揮されるため、本発明をこれらの分取、精製、濃縮、回収などに適用することが好ましいが、特にこれらに限定されるものではない
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、本発明の実施形態である固相抽出カートリッジの一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態である固相抽出カートリッジを用いた固相抽出法の一例を説明する断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態である固相抽出カートリッジを用いた固相抽出法の他の一例を説明する断面模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 :固相抽出カートリッジ
10a :カートリッジ本体
10b、10c :ノズル
11 :充填剤
12a、12b:フィルター
15 :分取対象物質
17 :分取非対象物質(共存物質)
20 :試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、多孔質炭化珪素系充填剤が、カートリッジ内に充填されていることを特徴とする固相抽出カートリッジ。
【請求項2】
前記多孔質炭化珪素系充填剤が粒子状であり、その数平均粒子径が10μm以上1000μm以下の範囲であり、かつBET法による比表面積が10m2/g以上であることを
特徴とする請求項1に記載の固相抽出カートリッジ。
【請求項3】
前記多孔質炭化珪素系充填剤が、炭化珪素の多孔質体焼成ブロックを破砕して得られた破砕型粒子であることを特徴とする請求項2に記載の固相抽出カートリッジ。
【請求項4】
分取対象物質および共存物質を含有する試料を、請求項1〜3のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させて、該分取対象物質を該固相抽出カートリッジ内の多孔質炭化珪素系充填剤に吸着させた後、該固相抽出カートリッジに溶離液を流通させて該分取対象物質を溶出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【請求項5】
分取対象物質および共存物質を含有する試料を、請求項1〜3のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該共存物質を該固相抽出カートリッジ内の多孔質炭化珪素系充填剤に吸着させるとともに該分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【請求項6】
前記分取対象物質が、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質から選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の分取対象物質の分取方法。
【請求項7】
除去対象物質および共存物質を含有する試料を、請求項1〜3のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該試料から該除去対象物質を除去することを特徴とする試料の浄化方法。
【請求項8】
回収対象物質および共存物質を含有する試料を、請求項1〜3のいずれかに記載の固相抽出カートリッジに流通させることにより、該試料から該回収対象物質を回収することを特徴とする回収対象物質の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−167815(P2007−167815A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372578(P2005−372578)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】