説明

固相抽出材の製造方法及びカラム

【課題】耐酸、耐アルカリ性を有し、親水性の高い有機物質を効率よく回収することが可能な固相抽出材の製造方法及びこれにより得られる固相抽出材が充填されたカラムを提供する。
【解決手段】(a)一般式(I)で示される基を1分子中に少なくとも2個有する化合物および(b)化学式(II)で表される化合物を、(b)/〔(a)+(b)〕がモル比で0.02〜0.6の範囲となるように水性媒体に配合し、水性懸濁重合する、固相抽出材の製造方法。
【化1】


(式中、RはH又はCHを表わす)
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出材の製造方法及びこれにより得られる固相抽出材が充填されたカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固相抽出の一分離様式として、試料の疎水性の相違による保持の強弱に基づく分離や濃縮をする逆相固相抽出材が知られている。逆相固相抽出材で一般的に用いられる固相抽出材としては、例えば、シリカゲルの表面をアルキル基等を有するシランカップリング剤で化学修飾した化学結合型シリカゲル(非特許文献1)、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体粒子(非特許文献2)、長鎖アルキル鎖を持つメタクリル酸エステル系又はアクリル酸系の共重合粒子(特許文献1、2)などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、シリカゲルを用いる固相抽出材は、アルカリに弱く、溶離液のpHが2〜8の範囲に制限され、全てのpH範囲で用いることができないという欠点があり、さらに、シリカ表面の全てのシラノール基にカップリング剤を化学修飾させることは難しく、未反応のシラノールが残存していることから、塩基性の試料が吸着されるという問題がある。
【0004】
また、スチレン−ジビニルベンゼン系の共重合体粒子による固相抽出材は、シリカゲルに関する上記問題は解決しているものの、疎水性が強いため親水性化合物の濃縮が困難であるという問題がある。さらに、長鎖アルキル鎖を持つメタクリル酸エステル系又はアクリル酸系の共重合粒子による固相抽出材は、各種溶媒間での膨潤・収縮も少なく、カラム内の溶離液を種々変えて測定を行うことも容易であるが、疎水性が強いため親水性化合物の濃縮が困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開昭62−90533号公報
【特許文献2】特開平2−130810号公報
【非特許文献1】ジェイ・ジェイ・カークランド、ジェイ・ジェイ・デステファノ著、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー・サイエンス(Journal of Chromatography Science)第8巻、309頁、1970年
【非特許文献2】エム・ディ−・グリ−サ−、ディ−・ジエイ・ピ−トザック著、アナリティカル・ケミストリ−(AnalyticalChemistry)第45巻、1383頁、1973年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐酸、耐アルカリ性を有し、親水性の高い有機物質を効率よく回収することが可能な固相抽出材の製造方法及びこれにより得られる固相抽出材が充填されたカラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記(1)〜(4)に記載の事項をその特徴とするものである。
【0007】
(1)(a)一般式(I)で示される基を1分子中に少なくとも2個有する化合物および(b)化学式(II)で表される化合物を、(b)/〔(a)+(b)〕がモル比で0.02〜0.6の範囲となるように水性媒体に配合し、水性懸濁重合する、固相抽出材の製造方法。
【化1】

(式中、RはH又はCHを表わす)
【化2】

【0008】
(2)(c)化学式(III)で表される化合物を前記水性媒体にさらに配合する、上記(1)に記載の固相抽出材の製造方法。
【化3】

【0009】
(3)前記化合物(a)、(b)および(c)を、(b)/〔(a)+(b)+(c)〕がモル比で0.02〜0.6の範囲、(c)/〔(a)+(b)+(c)〕がモル比で0.6以下となるように前記水性媒体に配合する、上記(2)に記載の固相抽出材の製造方法。
【0010】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の固相抽出材の製造方法により製造された固相抽出材を充填してなるカラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐酸、耐アルカリ性を有し、親水性の高い有機物質を効率よく回収することが可能な固相抽出材の製造方法及びこれにより得られる固相抽出材が充填されたカラムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いられる(a)一般式(I)で示される基を1分子中に少なくとも2個有する化合物としては、既に公知のものを用いることができる。それらの中でも多価アルコールのポリアクリル酸エステル又は多価アルコールのポリメタクリル酸エステル(以下、多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステル)が好ましい。
【0013】
上記多価アルコールのポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のようなアルキレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリンのジアクリレート又はトリアクリレート、グリセリンのジメタクリレート又はトリメタクリレート、トリメチロールプロパンのジアクリレート又はトリアクリレート、トリメチロールプロパンのジメタクリレート又はトリメタクリレート、テトラメチロールメタンのジアクリレート、トリアクリレート又はテトラアクリレート、テトラメチロールメタンのジメタクリレート、トリメタクリレート又はテトラメタクリレートなどが挙げられるが、反応性及び生成した固相抽出材の耐摩耗性を考慮すると、多価アルコールのポリメタクリル酸エステルが好ましい。その中でも、エチレングリコールジメタクリレート、テトラメチロールメタンのジメタクリレート、トリメタクリレート又はテトラメタクリレートがより好ましい。これらの(a)成分の化合物は、1種でも2種以上でも使用できる。
【0014】
本発明に用いられる(b)化学式(II)(グリセリンのモノメタクリレート)および(c)化学式(III)(グリセリンのジメタクリレート)で示される化合物は固相抽出材に親水性を付与するために必要であるが(b)のみを使用してもよい。
【0015】
本発明において、上記(a)、(b)及び(c)成分の使用比率は、(b)成分が少なすぎると親水性が損なわれ、分離能が悪くなる傾向にあるため、(b)/〔(a)+(b)+(c)〕で表されるモル比率が、0.02〜0.6であることが好ましく、0.1〜0.4であることがより好ましい。また、(c)/〔(a)+(b)+(c)〕で表されるモル比率は、0.6以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましい。なお、上記(c)成分は、上記(a)成分にもあてはまる化合物であるため、これを用いる場合には、上記各使用比率を算出する際、(c)成分の使用モル量を上記各式の(a)および(c)のそれぞれに加算する。また、(c)成分を用いない場合において、(b)成分の使用比率、すなわち(b)/〔(a)+(b)〕で表されるモル比率は、0.02〜0.6であることが好ましく、0.1〜0.4であることがより好ましい。
【0016】
本発明により得られる固相抽出材は、上記(a)成分および(b)成分、必要に応じて添加される(c)成分を所定条件下、水性懸濁重合することで生成する架橋重合体粒子である。重合反応は、通常、60〜90℃の温度範囲で、5〜10時間進行させる。また、得られた架橋重合体粒子は、必要に応じて分級し、好ましくは1〜200μm、より好ましくは20〜50μmの略球状粒子とする。また、上記水性懸濁重合は、水性媒体中で懸濁重合を行うものであり、この水性媒体としては、通常、水を使用するが、懸濁系の安定性を阻害しない範囲で水溶性有機溶媒を含む水を使用してもよい。なお、水性媒体は、(a)、(b)、(c)成分及び有機溶媒の総量に対して1〜50重量倍使用するのが好ましい。
【0017】
また、上記水性媒体に、水に不溶性又は難溶性の有機溶媒を添加してもよく、これにより、生成する架橋重合体粒子(固相抽出材)を多孔性にすることができる。本発明で用いられる水に不溶性又は難溶性の有機溶媒としては、25℃で水100gに対する溶解量が15g以下のものが好ましく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ヘプタノール、イソアミルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等の脂肪族又は芳香族エステル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、ヘキサン、オクタン、デカン等、公知のものが使用できる。これらの有機溶媒は、得られる重合体の元となる単量体の種類によって適宜使い分けられ、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これら水に不溶性又は難溶性の有機溶媒の配合割合は、多孔性を付与する観点から、(a)、(b)及び(c)成分の総重量((a)+(b)+(c))に対して、好ましくは5〜300重量%、より好ましくは20〜200重量%、特に好ましくは50〜100重量%である。この配合割合が5重量%未満であったり、300重量%を超えると所望の多孔性が得られにくくなる。
【0018】
また、上記水性懸濁重合は、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。
【0019】
上記重合開始剤としては、特に限定されないが、過酸化物系ラジカル開始剤、アゾ系ラジカル開始剤が好ましく、具体的には、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸2−エチルヘキシル、過酸化アセチル、過酸化イソブチリル、過酸化オクタノイル、過酸化ラウロイル、過酸化ジtert−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、4,4,6−トリメチルシクロヘキサノンジtert−ブチルペルオキシケタール、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、シクロヘキサノンジ−tert−ブチルペルオキシケタール、アセトンジ−tert−ブチルペルオキシケタール、ジイソプロピルヒドロペルオキシド等の過酸化物系ラジカル重合開始剤、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカーボニトリル)、2−(カーバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパン)等のアゾ系重合開始剤を使用することができる。また、これら重合開始剤は、1種又は2種以上使用することができる。
【0020】
また、上記重合開始剤の使用量は、単量体の種類や量などにより適宜決められるものであり、特に限定されないが、上記(a)、(b)及び(c)成分の総重量((a)+(b)+(c))に対して0.05〜10重量%使用することが好ましく、0.1〜4.0重量%使用することがより好ましい。この使用量が0.05重量%未満では重合時間が長くなり、また未反応の単量体が重合体微粒子中に残存する傾向にある。一方、使用量が10重量%を超える場合は重合開始剤が無駄であるばかりでなく、重合中の発熱制御が難しく、分子鎖長が不十分等の問題が発生する傾向にある。
【0021】
また、上記水性懸濁重合は、分散剤の存在下で行うことが好ましい。
【0022】
上記分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース等の水溶性セルロース誘導体、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高分子保護コロイドが挙げられる。分散剤は、水性媒体中の水に対して0.001〜3重量%の範囲で使用することが好ましい。
【0023】
また、水性懸濁重合により得られた架橋重合体粒子の粒径調節のために、必要に応じて分散助剤として陰イオン系界面活性剤を重合系に添加してもよく、また、水に不溶性又は難溶性の有機溶媒や単量体の水への溶解性を防ぐために、水溶性無機塩を重合系に添加してもよい。
【0024】
また、本発明において、上記(a)成分、(b)成分の化合物、及び必要に応じて用いられる(c)成分の化合物、分散剤、重合開始剤、分散助剤、有機溶媒等は、これらを予め混合して、または各々を水性媒体に添加して分散させる。この場合、よく分散させるためにホモミキサー等により高速攪拌(1,000〜2,000rpm)することが好ましく、この高速攪拌は、重合初期まで行うことができる。なお、その後の重合では、プロペラ攪拌機等を用いて通常の攪拌下(10〜500rpm)で行うことが望ましい。
【0025】
本発明で得られた固相抽出材は、ステンレス製又は樹脂製などのカラムに充填し、例えば、逆相クロマトグラフィカラムとして使用することができる。また、このようなカラムを用いて固相抽出を行う場合に用いる溶離液としては、例えば、アセトニトリル、水/アセトニトリル、メタノール、水/メタノール、エタノール、水/エタノール、酸又はアルカリ水溶液等が挙げられる。従来のポリマ系固相抽出材では、溶媒間での膨潤・収縮が大きく、溶離液の変更でカラム性能が著しく低下し、特に、シリカ系固相抽出材は、アルカリ溶離液の使用が不可能であったが、本固相抽出材を充填したカラムは、溶離液互換性に優れているため、従来のような不具合は生じない。
【実施例】
【0026】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
<固相抽出材の製造>
本発明における(a)成分の化合物としてエチレングリコールジメタクリレート40.0g、(b)成分の化合物としてグリセリンモノメタクリレート160.0g、((b)/〔(a)+(b)〕=0.2(モル比))、および水に不溶性又は難溶性の有機溶媒として酢酸n−ブチル75gとイソアミルアルコール125gの混合物を1%ポリビニルアルコール水溶液2.0リットル中に懸濁させ、ホモミキサ−を使用して高速攪拌下(1200rpm)、室温(25℃)で約10分間攪拌し、油滴の粒径を20〜50μmに調整した。その後、普通のプロペラ攪拌装置に移して攪拌しながら(200rpm)80℃で6時間反応させて架橋重合体球状粒子を得た。
【0028】
この粒子をろ過してイオン交換水2リットル、次いで、メタノール2リットルで洗浄後、真空乾燥し、平均粒径45μmに分級することで、固相抽出材を得た。
【0029】
<農薬回収率>
上記で得られた固相抽出材を6mLシリンジに250mg充填してなるカラムと、アセトニトリルにオキシン銅およびアシュラムをそれぞれ溶解し、濃度を0.4mg/lに調整した標準試料100mlとを準備した後、「JISK0128「用水・排水中の農薬試験方法」、7.3高速液体クロマトグラフ法」に従い、上記カラムによるオキシン銅およびアシュラムの回収率を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
(比較例1)
上記で得られた固相抽出材の代わりにスチレン−ジビニルベンゼンの固相抽出材を用いた以外は、実施例1と同様にして、オキシン銅およびアシュラムの回収率を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

(単位:重量%)
【0032】
表1に示すとおり、本発明(実施例1)の固相抽出材を用いたカラムは、耐酸、耐アルカリ性を有し、親水性の高い有機物質であるオキシン銅およびアシュラムを効率的に回収できることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式(I)で示される基を1分子中に少なくとも2個有する化合物および(b)化学式(II)で表される化合物を、(b)/〔(a)+(b)〕がモル比で0.02〜0.6の範囲となるように水性媒体に配合し、水性懸濁重合する、固相抽出材の製造方法。
【化1】

(式中、RはH又はCHを表わす)
【化2】

【請求項2】
(c)化学式(III)で表される化合物を前記水性媒体にさらに配合する、請求項1に記載の固相抽出材の製造方法。
【化3】

【請求項3】
前記化合物(a)、(b)および(c)を、(b)/〔(a)+(b)+(c)〕がモル比で0.02〜0.6の範囲、(c)/〔(a)+(b)+(c)〕がモル比で0.6以下となるように前記水性媒体に配合する、請求項2に記載の固相抽出材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固相抽出材の製造方法により製造された固相抽出材を充填してなるカラム。



【公開番号】特開2007−316047(P2007−316047A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237695(P2006−237695)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】