説明

土の引張強度測定装置および土の引張強度測定方法

【課題】土試料の引張強度をより実際の地盤の状態に近似させて測定することができ、また成形および固定に耐えることのできない、軟弱、あるいは脆い状態の土試料であっても試料として供することができ、且つ、現地土壌での直接の測定ではなく、実験室等の任意の場所において測定可能な、土の引張強度測定装置およびその方法を提供する
【解決手段】引張強度の測定が求められる土試料を、枠体に充填するとともに、該充填された土試料の間に、板面に孔を有する有孔板を挟んで、該土試料を上部と下部に分け、当該孔部分でのみ上下部の土試料を連続させておき、上記有孔板を、上部の土試料をのせた状態で上方に引き上げることによって、上部と下部の土試料を孔部分において分断させるとともに、引き上げに要した引き上げ荷重を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土の状態が飽和、非飽和を問わず、土の引張強度を適切に測定するための土の引張強度測定装置および土の引張強度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土の引張強度は、圃場などからの土砂の流出、盛土の斜面崩壊、あるいはフィルダムの水圧破壊などを考察する上で、重要なファクターの1つとして、その計測が試みられてきた。また土の引張強度を適切に測定することは、地盤構造物の安全性を評価する上でも重要であるため、より正確な測定が求められてきた。
【0003】
従来から知られる土の引張強度試験としては、主として間接法と直接法とに大別される、土の引張強度測定方法が知られている。上記間接法としては、割裂試験が代表的である。割裂試験とは、円筒供試体を横置して直径方向に圧縮したときに発生する載荷軸直角方向の力を弾性理論に基づいて引張応力として計算により求めるものである。
一方、直接法は、供試体を整形して両端を固定し、該供試体の両端を引っ張ることにより土の引張強度を求める方法である。
【0004】
また、上述する直接法とは異なるが、引張り試験装置本体と、被測定土壌片を上方に引っ張る手段と、引張破壊力測定手段とを有する引張り試験装置に被測定土壌片を成形する整形枠と、被測定土壌片を固定する固定爪を有する固定部材と、前記土壌の被破壊面の水平面の面積を求める手段とを具え、測定する地点における土壌のそれぞれについて整形枠を用いて凸状の被測定土壌片を作り、引張り試験装置によって引張り破壊力を測定し、被破壊面の水平面の面積を求める手段によって被測定土壌片の被破壊面の水平面積を測定し、引張り破壊力をその水平面積で除してそれぞれの被測定土壌の引張り破壊応力を求めることを特徴とする土壌の引張り破壊応力測定装置の発明が、下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−259067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述する間接法、直接法、および特許文献1に開示される装置には、それぞれ土の引張強度を測定するための問題点を有していた。
【0007】
即ち、上記間接法では、コンクリートなどの硬質材料に採用する場合には、望ましい測定方法といえるが、土試料にこの方法を用いると、変形量が大きいため圧縮時には引張り力だけでなく、部分的な一軸圧縮状態、もしくは相対する半円筒供試体の曲げ圧縮により反力が作用するために、引張強度を過大に評価してしまうという欠点があった。また土試料を円筒形状に成形し横置しなければならないので、成形に耐え得る程度の硬質な状態にある土壌しか測定することができず、飽和あるいは飽和に近い状態の土を用いることが困難であるという問題があった。
【0008】
また上記直接法は、土試料の引張力を直接測定するために、上記間接法と比較すれば、測定誤差を減らすことができると考えられるが、土試料を適切な形状に成形し、且つ、両端を固定する必要があるため、成形および固定に耐え得るだけの硬さが土試料に要求される。したがって、測定される土試料の状態が軟弱である場合には測定が困難であるという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献1に開示される装置では、土壌において成形枠を用いて凸状の被測定土壌片を作っているため、上記直接法と比較した場合には、やや軟質な土試料にも適用可能であり、また土試料の引張強度を直接的に測定する点で、上記間接法と比較すると測定誤差が小さくなることが予想される。
しかしながら、特許文献1に開示される装置においても、成形枠が使用されるものの、該成形枠に凸状の土試料に収めるためには、まず、測定地における土壌において、凸状の土試料を残して、周囲を掘削しなければならない。したがって、土試料には、凸状に成形された状態で自立して起立できる程度の硬質さが求められ、所謂、軟弱状態にある土試料の引張強度を求めることは困難であるという問題があった。
また、上記土壌片の一部に何本かの固定爪を突き刺し、該固定爪で土壌片を支持した状態で鉛直方向に引っ張り上げるため、土壌片を構成する土が軟弱な場合、あるいは圧密度合いが小さい場合には、上記土壌片が固定爪の突き刺しだけでは完全に持ち上げられず、該固定爪の部分でこそげてしまう虞がある。
加えて、特許文献1に開示される装置は、測定地の土壌において、直接に測定する必要があるので、装置の運搬や現場での作業などの手間がかかり、また測定環境についても制限されてしまい、測定の汎用性の面で問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、成形および固定に耐えることのできない、軟弱、あるいは脆い状態の土試料であっても試料として供することができ、且つ、現地土壌で直接に測定するのではなく、実験室等の任意の場所において、実際の地盤の状態に近似させて引張強度を測定することが可能な、土の引張強度測定装置およびその方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、引張強度の測定が求められる土試料を、底面体を有する枠体に充填するとともに、該充填された土試料の間に、板面に孔を有する有孔板を挟んで、該土試料を上部と下部とに分け、当該孔部分でのみ上下部の土試料を連続させておき、上記有孔板を、上部の土試料をのせた状態で上方に引き上げることによって、上部と下部との土試料を孔部分において分断させることによれば、土試料を何ら成形することなく、孔部分において、土試料同士が引張合い、次いで分断するまでの状態を適切に再現することができ、分断に要した荷重からデッド荷重を差し引き、且つ、孔の開口総面積値で除することによって土の引張強度を適切に測定することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち本発明は、
(1)両端が開口し、両端を結ぶ軸線に対して垂直方向に切断した際の断面面積が略均一な枠体と、上記枠体の開口する一端側を閉じる底面体と、上記底面体を下側にして上記枠体に土試料を充填した際に該土試料中において、上記底面体と平行な姿勢で設置可能な引き上げ用有孔板と、上記底面体を下側にして上記引き上げ用有孔板を上方向に略垂直に引き上げることが可能な引き上げ機構と、上記引き上げ用有孔板の下面に接して設置される透水可能な透水性有孔板と、上記透水性有孔板の下面に接して設置される下部有孔板と、上記引き上げ機構により上記引き上げ用有孔板が上方向に略垂直に引き上げられる際に発生する荷重を測定するための引き上げ荷重測定装置と、を備えることを特徴とする土の引張強度測定装置、
(2)上記枠体が、分離可能な上部枠体と下部枠体とを組み合わせることにより構成されており、且つ、上部枠体の内壁面最下部全周と、上記引き上げ用有孔板の外縁全周とが接合されており、上記引き上げ機構によって、上記引き上げ用有孔板が上方向に略垂直に引き上げられる際に、上記上部枠体も一緒に引き上げられるよう構成されていることを特徴とする上記(1)に記載の土の引張強度測定装置、
(3)上記枠体に土試料を充填した際に、該土試料の上面に載荷されるための載荷板を備え、上記底面体の下面と上記載荷板の上面とから圧力をかけるか、あるいは、上記底面体を固定し、且つ、上記載荷板の上面から圧力をかけるか、あるいは上記載荷板を固定し、上記底面体の下面から圧力をかけることによって、上記型枠に充填される土試料の圧密状態を調整するための圧密調整機構が設けられており、且つ、上記上部型枠と上記下部型枠との境界面における任意の箇所に、型枠の内側と外側とに連続する通水口が形成されていることを特徴とする上記(2)に記載の土の引張強度測定装置、
(4)給水口、排水口、気体注入口、および気体排出口が少なくとも設けられた密閉容器内に、上記枠体が収納されていることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の土の引張強度測定装置、
(5)両端が開口し、両端を結ぶ軸線に対して垂直方向に切断した際の断面面積が略均一な枠体と、上記枠体の一端側の開口部を閉じる底面体と、からなる容器を該底面体を下側にして設置し、土試料を上記枠体の途中領域まで充填し、上面を略水平にならした後、上記土試料の上面に、引き上げ機構と連結する引き上げ用有孔板を設置し、さらに上記引き上げ用有孔板の上面側に土試料を充填し、上記引き上げ用有孔板の下部に位置する下部土試料と上部に位置する上部土試料とを、上記引き上げ用有孔板の板面に設けられる孔部分において連続させ、次いで下部土試料と上部土試料とを、上記孔部分において分断させるまで、上記引き上げ用有孔板を、上記引き上げ機構によって上方向に略垂直に引き上げ、且つ、引き上げ時における、引き上げ荷重を測定し、土試料の引張強度Fcを下記式1により求めることを特徴する土の引張強度測定方法、
Fc=(Pm−Wd−Wsu)/A (式1)
ただし、
Pmは、引き上げ荷重の最大値
Wdは、引き上げ荷重に含まれる装置自体の荷重
Wsuは、有孔板の上面側に充填される土試料の荷重
Aは、引き上げ用有孔板の板面に設けられる孔の開口領域の総面積
である、
(6)透水可能な透水性有孔板と、下部有孔板とをさらに用い、下側から、下部有孔板、透水性有孔板、引き上げ用有孔板の順であって、且つ、3枚の有孔板に設けられたそれぞれの孔が連通するよう接して重ねた状態で土試料中に設置し、上記3枚の有孔板の下部に位置する土試料と上部に位置する土試料とを、上記3枚の有孔板の連通する孔部分において連続させた後、上記引き上げ機構により、上記引き上げ用有孔板を上方向に略垂直に引き上げ、上記3枚の有孔板の下部に位置する土試料と上部に位置する土試料とを、上記3枚の有孔板の連通する孔部分において分断させ、且つ、上記式におけるAが、3枚の有孔板の連通する孔部分の開口領域の総面積であることを特徴とする上記(5)に記載の土の引張強度測定方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の土の引張強度測定装置および土の引張強度測定方法(以下、単に「本発明の装置」、「本発明の方法」ともいう)は、底面体を備える枠体に土試料を充填し、該充填された土試料の間に上記底面体と略平行な姿勢で引き上げ用有孔板を設置したうえで、該有孔板を垂直方向に引き上げ、このときの引き上げ荷重を測定することを可能とするものである。
【0014】
したがって、本発明の装置および方法では、土試料を枠体内に充填し、必要に応じて、余分な部分を削除するだけでよく、従来技術のように、土試料を定型の形に成形する必要がないため、従来の土の引張強度測定方法あるいは装置では測定不可能であった軟弱な状態の土試料、飽和状態の土試料であっても、適切に引張強度を測定することができる。
【0015】
しかも、本発明の装置は、上記引き上げ用有孔板の下面に接して、透水性有孔板が設置され、さらに該透水性有孔板の下面に接して下部有孔板が設置される。これら3枚は、それぞれ板面に孔を有しており、それぞれの孔が連通するよう3枚の有孔板を重ね合わせることにより、これら3枚の有孔板の下部土試料と上部土試料とを孔部分において連続させることができる。このように有孔板を3枚構成で用いることにより、引き上げ時における有孔板と土試料との引張の吊り合いを適切な状態とし、且つ、引き上げ用有孔板と下部有孔板との間に発生する負圧を良好に解消することができる。
【0016】
さらに、上記枠体が、分離可能な上部枠体と下部枠体とを組み合わせることにより構成されており、且つ、上部枠体の内壁面最下部全周と、上記引き上げ用有孔板の外縁全周とが接合された態様の本発明の装置であれば、充填される土試料の外側面が、枠体の内側面と接触する状態になるよう、枠体内に隙間なく土試料を充填することができる。したがって硬質な状態の土試料から、有孔板の孔部分から流れ落ちない程度に軟弱な状態の土試料まで、非常に広範な状態の土試料の引張強度を測定することができる。
【0017】
しかも、土試料の圧密機構をさらに備える本発明の装置であれば、型枠に充填した土試料を任意の圧密状態に調整することができるため、想定される地盤状態に近似する状態で引張強度を測定することができる。たとえば、フィルダムのコア材料である土試料の引張強度を測定する場合に、ダムに水が100%貯水されているときの土試料と、水が20%しか貯水されていないときの土試料とでは、測定されるコア材料の地盤深度が同じであったとしても、その圧密状態は異なるものである。したがって、このように採取した土試料を、測定が予想される土の圧密状態と近似させることを可能とすることによって、想定される地盤に近い状態を再現することができるため、本発明の汎用性がさらに拡大され、実測に近い土の引張強度の値を提供することができる。
【0018】
また、給水口、排水口が設けられた密閉容器内に、上記枠体が収納されている態様の本発明の装置によれば、型枠周囲に水等の液体を充満させることによって、引き上げ用有孔板を引き上げる際に発生する負圧を特に良好に解消することができる。
また、気体注入口と気体排出口をさらに上記密閉容器に備える本発明の装置によれば、注入されるガスによって、密閉容器内の圧力を調整することができるため、予想される地下の水圧と密閉容器内の圧力が同程度となるよう調整し、その中で土の引張強度を測定することができる。これにより、地盤深度の深い土試料の引張強度を求めたい場合にも、静水圧を加味することができ、実施の地盤の状態に近似させて土試料の引張強度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の装置の一実施態様を示す概略断面図である。
【図2】本発明に用いられる3枚の有孔板の一実施態様を示す斜視図である。
【図3】3Aおよび3Bは、それぞれ、本発明に用いられる引き上げ有孔板の実施態様を示す上面図である。
【図4】本発明の装置の一実施態様を示す概略断面図である。
【図5】5Aは、本発明に用いられる上部型枠と下部型枠とが組み合わされた状態を示す斜視図であり、5Bは、本発明に用いられる上部型枠と下部型枠とを個別に示す斜視図である。
【図6】6Aは、図5AにおけるX−X断面の一部を示す断面図であり、6Bは、図5AにおけるY−Y断面の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を用いて本発明の土の引張強度測定装置を実施するための形態について説明し、あわせて本発明の土の引張強度測定方法を説明する。尚、本発明、および本明細書において示す上下方向は、特に断りがない限り、本発明の装置を実施するために略水平な面に本発明の装置を設置した際の上下方向を指す。
図1は、本発明の装置の一実施態様を示す縦断面概略図である。図1に示す本発明の装置1は、台座2の上面に両端開口の円筒形の枠体3と、枠体の底面を塞ぐ底面体4とが設置されている。また枠体3内には土試料13が充填されており、下部有孔板5、透水性有孔板6および引き上げ用有孔板7(以下、これらの有孔板をまとめて「3枚の有孔板」という場合がある)が、この順で互いに面で接して重ねられた状態で土試料13の間に略水平な姿勢で設置されている。したがって、土試料13は、3枚の有孔板の上下において、下部土試料14と上部土試料15とに仕切られ、後述する3枚の有孔板における孔部分において連続した状態となっている。尚、図1および後述する図4に示す本発明の態様では、いずれも両端開口の円筒形の枠体を用いているが、本発明における枠体は、円筒形に限定されるものではなく、両端が開口し、両端を結ぶ軸線に対して垂直方向に切断した際の断面面積が略均一な枠体であればよい。また、本発明において、枠体の一方側の開口端面は、底面体で閉じられ、水分を含んだ土試料が充填されても底側から漏れ出ないように構成される。したがって、側面と底面とからなる容器であって、底面と開口する上面とを結ぶ軸線に対し垂直に切断される断面の面積が略均一な容器であれば、本発明における枠体および底面体として使用することが可能である。
【0021】
装置1には、引き上げ用有孔板7を引き上げるための引き上げ機構が備えられている。該引き上げ機構は、引き上げ用有孔板7の中央において端部が接合する引き上げロッド8、引き上げロッド8を略垂直方向に動作させるための引き上げガイド9を有し、引き上げロッド8および引き上げガイド9は、支持体10によって支持されている。支持体10は、その下端が台座2に接合されて尚、引き上げガイド9を動作させるための動力は引き上げロッド8の上方に設置される動力源より伝達されるが、該動力源については図示省略する。この動力によって引き上げロッド8が上方向に引き上げられ、これと連動して、引き上げ用有孔板7が上方向に略垂直に引き上げられる仕組みとなっている。また、引き上げガイド9を下方向に作動させることによって、引き上げロッド8を下方向に略垂直に下げることができ、これに連動して、引き上げ用有孔板7を下方向に下げることができる。したがってかかる引き上げ機構によって両端矢印dとして示すように上下方向に略垂直に引き上げ用有孔板7を動作させることができる。しかしなら、上述は、本発明における引き上げ機構の一例に過ぎず、少なくとも、引き上げ用有孔板7を、上面に上部土試料15が存在する状態で、上方向に略垂直に動作させることができる仕組みであれば、本発明の引き上げ機構として採用することができる。
【0022】
加えて、引き上げロッド8と引き上げ用ガイド9との間には、引き上げ荷重測定装置18が設けられており、引き上げ機構を作動させることによって、引き上げ用有孔板7を上方向に略垂直に引き上げる際に生じる引き上げ荷重を測定することができる。尚、装置1において、枠体3の内径は6cmであり、下部土試料14の高さ2cm、上部土試料15の高さ1cmとなるよう充填した。
【0023】
次に、図2を用いて、3枚の有孔板について説明する。引き上げ用有孔板7は、厚み1mm、直径6cmの金属製円板であって、板面に直径14mmの孔19が4ケ、均等な配置で形成されている。そして板面中央に引き上げロッド8の端部を接合するための接合用穴23が設けられている。また、下部有孔板5は、接合用穴23が設けられていないこと以外は、引き上げ用有孔板7と同様に形成されたものである。本発明における引き上げ用有孔板7および下部有孔板5は、土試料との接触状態をなるべく近似させるという趣旨から、同じ素材で形成されることが望ましいが、形成材料は金属に限定されず、引き上げ用有孔板7上に充填された上部土試料15が存在する状態で上方向に引き上げた際に、破損しない程度の強度を発揮できる材料で形成すればよい。
【0024】
一方、透水性有孔板6は、円板の直径および孔19の形状、数および形成位置については、引き上げ用有孔板7と同様であるが、透水性を付与するために、板面全体に微細孔22が多数設けられている。より詳しくは、透水性有孔板6は、適当な径の金属粒子を準備し、加熱して表面を溶融させ、金属粒子間が完全に埋まらない状態で金属粒子間を接合させて、板状にしたものであって、孔19を引き上げ用有孔板7と同様に設けて形成されたものである。金属粒子間を完全に埋めないことによって、微細孔22を多数形成し、透水性有孔板6に透水性を付与するものである。尚、引き上げ用有孔板7および下部有孔板5は、孔19の領域以外は、実質的に透水係数はゼロである。
一般的に細粒分を10%以上含有する土の透水係数は、10−5〜10−6cm/s程度であることが知られており、透水性有孔板6の透水係数は、これより小さくなるよう、微細孔22の径および数を調整する必要がある。特には、本発明に用いられる透水性有孔板は、その透水係数が、10−2〜10−4cm/s程度であることが望ましく、10−3cm/sのオーダーであることがより望ましい。かかる望ましい透水係数を示し、且つ引き上げ用有孔板と下部有孔板に対応する孔が設けられていれば、透水性有孔板は、上述に説明するよう金属粒子を用いた板に限定されず、従来公知の材料を適宜選択して使用してよく、たとえば樹脂性であって、微細孔が多数板面に形成されているものや、本発明において望ましい透水係数を示す、厚めのろ紙などを用いてもよい。
【0025】
装置1に用いられている3枚の有孔板は、図2に示すように、それぞれの板面に、同形状の孔19が4ケ、同配置で設けられており、これら3枚の有孔板の各孔19をそれぞれ一致させた状態で、枠体3内に充填された土試料13間に、設置されている。4つの孔19の総面積は、Acmであり、したがって、下部土試料14と上部土試料15とにおいて連続している領域の総面積は約Acmである。上述するように、本発明における3枚の有孔板は、それぞれの板面に、互いに同形状の孔を同配置で形成されており、これらを一致させた状態で3枚を重ね合わせることが望ましいが、かかる態様に限定されるものではない。少なくとも、3枚の有孔板それぞれに孔が設けられており、3枚の有孔板を重ね合わせたときに、各有孔板の孔が連通することにより開口状態の部分が形成され、上記開口状態の部分において下部土試料と上部土試料とが連続可能であり、且つ、開口状態にある部分の総面積を確認することができればよい。
【0026】
尚、本発明に用いられる引き上げ用有孔板に設けられる孔の形状および数、あるいは配置は特に限定されず、たとえば図3Aに示す引き上げ用有孔板7’のように、図2に比べてより径の小さい孔20を複数、均等な配置で設けてもよいし、あるいは図3Bに示す引き上げ用有孔板7’’のように、孔径の異なる孔20、および孔21がそれぞれ複数設けられていてもよい。また本明細書では、孔の形状は、いずれも円形の態様を示すが、形状は円形に限定されず、四角形、あるいは楕円形などの任意の形状であってよく、また孔の配置についても、均等な配置に限らずにランダムな配置であってもよい。透水性有孔板6、および下部有孔板5についても、孔の径、形状、配置などについて、上述する引き上げ用有孔板7と同様に任意に設計することができる。孔の大きさの目安は、孔が円形である場合には、測定に供せられる土試料を構成する土壌粒子の最大粒径の5〜6倍程度の孔径を目途として決定することが好ましい。
【0027】
以下に、装置1を用いて土試料の引張強度を測定する方法について説明する。まず、装置1における枠体3内の中間位置まで、下部土試料14を充填する。そして充填された下部土試料14の上面を略水平にならした後、下部土試料14の上面に下部有孔板5、および透水性有孔板6を設置し、最後に、引き上げ機構と連動可能な引き上げ用有孔板7を透水性有孔板6の上面に重ねる。このとき3枚の有孔板は、図2に示すとおり、4つの孔19がずれなく重なるようにした。そのあと、さらに枠体3に土試料を充填する。充填時は、引き上げ用有孔板7を覆って、枠体3の内壁面に接触するよう土試料を充填してもよいが、次いで、後から充填した土試料のうち、引き上げ用有孔板上面に存在しない土試料については削除する。装置1では、上部土試料15の側面が略45度となるよう周囲の土試料を削除した(ただし、この角度は任意である)。したがって、下部有孔板5の下方には、枠体3内いっぱいに充填された下部土試料14が、引き上げ用有孔板7の上面には上部土試料15が、下部土試料14の上面であって、3枚の有孔板が存在しない領域には、空間17が存在する。尚、枠体3内に充填される土試料は、枠体の容積に対する、充填される土試料の荷重から、その密度を調整することができる。
【0028】
次に、引き上げ機構を作動させることによって、引き上げ用有孔板7を上方向に略垂直に引き上げる。引き上げることによって、引き上げ用有孔板7と透水性有孔板6とが離間し、これによって、孔19部分において連続する下部土試料14と上部土試料15とが分断される。上記引き上げにおいて発生する荷重は、引き上げ荷重測定装置18によって測定される。引き上げ荷重は、引き上げ開始前はゼロで、引き上げ開始とともに増加し、孔19部分において連続する下部土試料14と上部土試料15とが分断された際に最大値を示し、そのあと減少し、最終的に収束値Xを示す。上述のとおり測定された引き上げ荷重の最大値を用いて、以下のとおり、土試料13の引張強度を求めることができる。
【0029】
即ち、引き上げ荷重の最大値をPm(gf)、引き上げ荷重に含まれる装置自体の荷重Wd(gf)、有孔板の上面側に充填される土試料の荷重Wsu(gf)、有孔板における孔の開口領域の総面積がA(cm)である場合に、土試料13の引張強度Fc(Pa)は、下記式1から求められる。
Fc=(Pm−Wd−Wsu)/A (式1)
【0030】
尚、引き上げ荷重に含まれる装置自体の荷重Wd、有孔板の上面側に充填される土試料の荷重Wsuは、引き上げ荷重におけるデッド荷重であって、測定前、あるいは測定後において、個別に測定し、その重量を調べておく必要があるが、引き上げ荷重測定装置18において示される荷重の収束値Xが、略、引き上げ荷重に含まれる装置自体の荷重Wdおよび有孔板の上面側に充填される土試料の荷重Wsuの和に相当するため、簡易的には、収束値Xを、WdおよびWsuの代替値として用いてもよい。
【0031】
以上のとおり、本発明は、孔19部分において連続する上部土試料15と下部土試料14とを、引き上げ用有孔板7を引き上げることによって分断させ、その際の荷重を測定することによって土試料13の引張強度を求めることを趣旨とする。図1に示す装置1は、土試料13を枠体3に充填し、一部を削除するだけなので、特に土試料の成形を必要とせず、引き上げ用有孔板5を上方向に引き上げる際に、上部土試料15が孔19部分から下方向に流れ抜けてしまわない程度の硬ささえ有していれば、土の引張強度を測定することができる。
ここで装置1に示すとおり、有孔板として、引き上げ用有孔板7だけではなく、透水性有孔板6および下部有孔板5を用いることによって、以下の効果が発揮され、実際の地盤の状態に近似させて土試料の引張強度を求めることができることを説明する。
【0032】
第一の効果としては、下部有孔板5を用いることによって、引き上げ用有孔板7が引き上げられた際の、上部土試料15と下部土試料14との引張の吊り合いのメカニズムを近似させることができる。即ち、引き上げ用有孔板7を上方向に引き上げ、上部土試料15と下部土試料14とが分断されるまで、両者は、孔19において互いに引張あうとともに、上部土試料15には、孔19部分を中心に上方向に凸のせん断力が発生し、一方、下部土試料14には、孔19部分を中心に下方向に凸のせん断力が発生すると考えられる。このように示される吊り合いのメカニズムにおいて、上部土試料15と有孔板上面との接触状態と、下部土試料14と有孔板下面との接触状態をなるべく近似させ、土自体の引張強度とせん断力以外の物理的な力が付加されないようにし、吊り合いのメカニズムを土試料本来におけるメカニズムに近いものにするために、下部有孔板5を設けるものである。これによって測定環境を、実施の地盤の環境と近い状態にすることができるため、測定誤差を小さくすることができる。
【0033】
第二の効果としては、引き上げ時に発生する負圧の解消が挙げられる。即ち、仮に、引き上げ用有孔板7および下部有孔板5の2枚の構成で引き上げ用有孔板7の引き上げを実施すると、2枚の有孔板同士が引き合い、土の引張強度とは異なる圧力が発生する(本明細書においては、この圧力を「負圧」ともいう)。したがって、上記式1によって示されるFcには、この負圧も含まれた引張強度が示されることになり、実際の土の引張強度の値より大きな値が示される虞がある。これに対し、本発明者らは、透水性有孔板6を、引き上げ用有孔板7と下部有孔板5との間に設置することによれば、引き上げ用有孔板7が引き上げられる際に、透水性有孔板6の微細孔22に、枠体3周囲に存在する空気などの気体、あるいは水などの液体がスムーズに入り込み、これによって上記負圧を解消することができることを見出した。尚、微細孔22に水が入り込む態様については、本発明に別の態様を用いて後述する。
【0034】
次に、型枠が密閉容器内に収納される、本発明の異なる態様の装置を、図4を用いて説明する。図4において示される本発明の装置30は、下部枠体31と上部枠体32とからなる両端開口の円筒形状の枠体33と、枠体33の底部に位置する底面体35、枠体33に充填された土試料13の上面に設置される載荷板37とが、密閉容器51内に収納されて構成される。底面体35は、後述する圧力ピストンの動力によって土試料13が漏れ出ない程度に密閉を保ったまま、上方向に移動可能である。尚、本発明において枠体が密閉容器内に収納されているというときは、上述のとおり、枠体の底部に位置する底面体と、枠体に充填された土試料の上面に設置される載荷板も同様に密閉容器内に収容されることを意味する。
【0035】
枠体33内に設置される引き上げ用有孔板7、透水性有孔板6、下部有孔板5は、いずれも直径が、枠体33の内径と略等しく、且つ、引き上げ用有孔板7の外縁全周と、上部枠体32の内壁面最下部全周とが接合されていること以外は、孔19を4つ有し、これらが互いに重なりあうよう設置されている点等、装置1において用いられた3枚の有孔板と同様である。また枠体33内に充填される土試料13が、3枚の有孔板を境界として、下部土試料14と上部土試料15とに分けられ、3枚の有孔板における孔19において連続する点も装置1と同様である。
【0036】
引き上げ用有孔板7に連結される引き上げロッド8は、密閉容器51の上面を貫通し、引き上げ荷重測定装置18の底部に設けられた吊り具37により吊り下げられている。そして、引き上げ荷重測定装置18の上面に連結して引き上げ機構38が設けられており、引き上げ荷重測定装置18以下の構成を、両端矢印dで示すとおり上下方向に、動作させることができる。したがって、上方向に動作させた場合には、引き上げ荷重測定装置において、引き上げ荷重が測定される。このようにして測定された引き上げ荷重最大値Pmを用いて上述する式1により土試料13の引張強度を求める方法は、装置1において説明した方法と同様であるためここでは割愛する。尚、引き上げ機構38は、梁を支持体10として、支持されており、支持体10の上面側に、引き上げのための動力源が設置されるが、該動力源については図示省略する。
【0037】
装置30に用いる枠体33を図5に示す。図5Aは、下部枠体31と上部枠体32を組み合わせた状態であり、図5Bは、これらを分離させた状態を示している。本発明において、下部枠体31と上部枠体32とは、組み合わせた際に、組み合わせた状態がずれず、且つ、通水孔34を除く部分において枠体33内外間で水もれしない程度に、組み合わせた状態が維持されることを要し、たとえば、互いに当接する面が凹凸構造となっていることにより上記状態が示されることが望ましい。尚、装置30において上部枠体32の内壁面最下部には、引き上げ用有孔板7の外縁が接合され、両者は一体となっているが、図示簡略のために、図5および図6では、引き上げ用有孔板7の図示は省略する。
【0038】
図5Bに示すとおり、装置30に用いられる下部枠体31は、円周方向に対して垂直な断面を観察した際に、上面において、両端に平坦面を残してV字の溝が設けられた凹状上面62となっており、この凹状上面62が全周において連続している。また、下部枠体31の上面には、任意の間隔で、下部枠体31の内側面から外側面方向に横断する横断溝39が設けられており、下部枠体31と上部枠体32を組み合わせた際に、この横断溝39と上部枠体32の下面により、枠体33の通水口34が形成される。上記横断溝39の深さは、凹状上面62に設けられたV字の溝の最深部以下の深さであることが好ましい。
一方、上部枠体32は、周方向に対して垂直な断面を観察した際に、底面において、両端に、下部枠体31における平坦面と同等の幅の平坦面を残して、側面テーパー状であって、且つ、先端が平坦に形成された凸部が設けられた凸状底面61となっており、この凸状底面61が全周において連続している。
【0039】
図6Aに、図5AにおけるX−X断面を、図6Bに、図5AにおけるY−Y断面を、示す。図6Aに示すとおり、通水口34の存在する断面においては、凹状上面62に横断溝39が設けられたことによって、凹状上面62と凸状底面61とは離間しており、これによって枠体33内外に通水可能な通水口34が構成されている。一方、図6Bに示すとおり、通水口34の存在しない断面においては、凹状上面62と凸状底面61とは互いに接しており、組み合わされた状態がずれず、且つ、水もれしない程度に、両者が組み合わされている。また、凸状底面61における凸部をV字ではなく、その先端を平坦に形成したことにより、両者が組み合わされると、凹状上面62におけるV字の溝と、凸状底面61における凸部との間には空間が形成され、上部枠体32及び下部枠体31の接合面内部に環状通水路63を形成する結果となっている。本発明における枠体には、このように環状通水路63を設ける態様に限定されるものではないが、環状通水路63を設けることによって、通水口34を介して、枠体33内外における通水をよりスムーズにすることができという点で好ましい。
【0040】
枠体33を、上部枠体32と下部枠体31とから構成し、且つ、上部枠体32と引き上げ用有孔板7とを一体的に接合したことにより、上部土試料15は、上部枠体32に充填し、上部枠体32の内壁面に上部土試料が接した状態で、上部枠体32ごと上方に引き上げることで、引き上げ荷重を測定することができる。したがって、装置1に示したように上部土試料の余分な部分を削除する手間がないこと、および、装置1において測定可能な土試料よりもさらに軟弱な状態の土壌でも、引張強度を測定することが可能な点で、望ましい。
【0041】
次に、装置30に設けられた圧密調整機構について説明する。上記圧密調整機構は、枠体33に充填された土試料13の圧密状態を調整するためのものである。具体的には、底面体35の下面に設置される圧力ピストン43を設置し、エアジャッキ調整用バルブ42よりエアを流し込み、エアジャッキ41をジャッキアップさせることによって、圧力ピストン43を上方向に動作させる。これによって底面体35が上方向に動作する。一方、載荷板37は、反力ボルト40の底面を載荷板37の上面に当てることによって上方向に移動しないよう固定し、これによって、枠体33内に充填されている土試料13の圧密状態を調整する。またこのように土試料13の圧密状態を調整した場合に、土試料13に含有される水分は、通水口34を介して枠体33外に排出される。さらに圧密調整時における水分の排出をスムーズにするために、任意で土試料13の下面に透水シート36を敷き、且つ、底面体35の側面の一部に第2通水口44を設け、あるいは、土試料13の上面に透水シート36を敷き、且つ、載荷板37の任意の箇所に第3通水口45を設けてもよい。
尚、図示しないが、本発明における圧密機構は、枠体内に充填される土の圧密を調整することを目的とするものであるため、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、当該目的を達成されるのであれば、上記構成に限定されない。たとえば、底面体を固定し、載荷板上面から土試料側に圧力をかける態様であってもよいし、あるいは底面体の下面および載荷板上面の両方から土試料側に圧力をかける構成であってもよい。
【0042】
上記圧密調整機構を備える本発明の装置30によれば、枠体33内に充填された土試料13の圧密状態を適切に調整することができる。これによって、本発明の装置により引張強度を測定するために現地の地盤から採取してきた土試料を枠体に充填し、圧密調整機構により圧力をかけて、該土試料が現地の地盤を構成していた際の圧密状態と同程度の圧密状態となるまで調整することができる。そして、その圧密状態を維持したまま、上述する方法で引張強度を測定することにより、現地地盤を構成する土の引張強度に対して誤差のない、あるいは非常に誤差の小さい引張強度を求めることが可能である。また土試料を採取する現地地盤が、天候や、その他の条件によって圧密状態が異なる場合には、測定ごとに、種々の環境ごとに想定される圧密状態に土試料を調整した上で、引張強度を測定することによって、環境や条件の違いよる引張強度の変化を知ることができる。たとえば、ダム壁を構成するコア材料は、ダムの貯水量によって圧密状態が異なるが、圧密調整機構を備える本発明の装置であれば、貯水量の変化にあわせて、コア材料の引張強度の変化を求めることが可能である。
【0043】
また装置30における密閉容器51には、密閉容器51内を水などの液体で充満させるために、給水口54および排水口55が備えられている。このように密閉容器51内を水などの液体で充満させることが可能な構成とすることにより、以下の2つの効果が発揮される。尚、非水浸状態で土試料の引張強度を測定したい場合、あるいは不飽和の土試料の引張強度を測定したい場合には、密閉容器内に水を充満させる必要はない。したがって、装置30では、密閉容器51内に水を充満させるか否かを選択することによって、土試料の飽和、不飽和、水浸、非水浸を問わず引張強度の測定を実施することができる。
第一の効果としては、土試料13が地盤に存在する状態に近似した環境下で土の引張強度を測定することができ、これによって測定誤差をより小さくすることができる。即ち、通常、地盤における土は、飽和しているか否かの差異はあるが、土粒子間に水分(地下水)が存在するため、通水口34を介して、土試料13の周囲に水を充満させることで、より自然に近い(採取前の地盤に近い)状態を再現することができる。
第二の効果としては、負圧の解消が挙げられる。上述のとおり、引き上げ用有孔板7を上方向に引き上げる際に、引き上げ用有孔板7と下部有孔板5との間には、負圧が生じる。この負圧の発生によって、引き上げ時に測定される引き上げ荷重が、見掛け上、重くなり、上述式1から土試料13の引張強度を求めた場合に、実際の土試料13の引張強度よりも大きい値が算出される虞がある。これに対し、装置30では、枠体33の周囲が水で満たされており、且つ、枠体33に通水口34が設けられているため、引き上げ用有孔板7の引き上げ開始とともに通水口34を介して枠体33内に水が入り込み、透水性有孔板6の微細孔22に水が浸透することによって下部有孔板5と引き上げ用有孔板7との間に発生する負圧を解消することできる。装置1のように、密閉容器を有さず、周囲に水のない状態であっても、引き上げ用有孔板7と下部有孔板5との間に、透水性有孔板6を用いることによって負圧の解消に好適に作用するが、装置30ように周囲に水があり、透水性有孔板6の微細孔22に水が浸透することによれば、より良好に負圧を解消することができる。
【0044】
次に、装置30に設けられた空気圧調整用バルブ52について説明する。装置30は、上述のとおり密閉容器51内に水を充満させた状態、あるいは水を充満させない状態のいずれにおいても、さらに空気圧調整用バルブ52により、内部の圧力を調整することができる。また、測定後は、空気抜きバルブ53から、圧を抜くことができる。
【0045】
空気圧調整用バルブ52を設けた理由は以下のとおりである。即ち、一般的な地盤では、土粒子間に水(地下水)が存在する。そして、この水の重さによって、深度が増すほど、地盤には大きな圧力(以下、「静水圧」ともいう)がかかっている。したがって、実際の地盤深度において示される土の引張強度に、より近似した引張強度を実験室レベルで求めるためには、上記静水圧を加味することが望ましい。そこで、装置30において静水圧を加味することを可能とするために、空気圧調整装置用バルブ52を設けたものである。
【0046】
地盤表面における土試料や、深度が浅い地盤における土試料の引張強度を測定する際、または簡易的に土の引張強度を求めたい場合には、特に密閉容器内の圧力を調整せずに、土の引張強度を求めてもよい。
しかしながら、想定される地盤深度における地下水位に応じた静水圧と同等の圧力を密閉容器内に付加して土の引張強度を測定することにより、より実際の地盤の状態に近似した土試料の引張強度を求めることができる。例えば、ダム壁の形成に用いられるコア材料が、想定されるダムの貯水量に対して、どのくらいの土の引張強度を示すかを求めたい場合などにも、装置30のように、密閉容器内の圧力を調整することによって、より実際の地盤の状態に近似したコア材料の引張強度を求めることができる。
【符号の説明】
【0047】
1、30 本発明の装置
2 台座
3、33 枠体
4、35 底面体
5 下部有孔板
6 透水性有孔板
7、7’、7’’ 引き上げ用有孔板
8 引き上げロッド
9 引き上げガイド
10 支持体
13 土試料
14 下部土試料
15 上部土試料
17 空間
18 引き上げ荷重測定装置
19、20、21 孔
22 微細孔
23 接合用穴
31 下部型枠
32 上部型枠
34 通水口
36 透水シート
37 吊り具
38 引き上げ機構
39 横断溝
40 反力ボルト
41 エアジャッキ
42 エアジャック調整用バルブ
43 圧力ピストン
44 第2通水口
45 第3通水口
51 密閉容器
52 空気圧調整用バルブ
53 空気抜きバルブ
54 給水口
55 排水口
61 凸状底面
62 凹状上面
63 環状通水路
d 上下方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口し、両端を結ぶ軸線に対して垂直方向に切断した際の断面面積が略均一な枠体と、
上記枠体の開口する一端側を閉じる底面体と、
上記底面体を下側にして上記枠体に土試料を充填した際に該土試料中において、上記底面体と平行な姿勢で設置可能な引き上げ用有孔板と、
上記底面体を下側にして上記引き上げ用有孔板を上方向に略垂直に引き上げることが可能な引き上げ機構と、
上記引き上げ用有孔板の下面に接して設置される透水可能な透水性有孔板と、
上記透水性有孔板の下面に接して設置される下部有孔板と、
上記引き上げ機構により上記引き上げ用有孔板が上方向に略垂直に引き上げられる際に発生する荷重を測定するための引き上げ荷重測定装置と、
を備えることを特徴とする土の引張強度測定装置。
【請求項2】
上記枠体が、分離可能な上部枠体と下部枠体とを組み合わせることにより構成されており、且つ、
上部枠体の内壁面最下部全周と、上記引き上げ用有孔板の外縁全周とが接合されており、
上記引き上げ機構によって、上記引き上げ用有孔板が上方向に略垂直に引き上げられる際に、上記上部枠体も一緒に引き上げられるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の土の引張強度測定装置。
【請求項3】
上記枠体に土試料を充填した際に、該土試料の上面に載荷されるための載荷板を備え、
上記底面体の下面と上記載荷板の上面とから圧力をかけるか、あるいは、上記底面体を固定し、且つ、上記載荷板の上面から圧力をかけるか、あるいは上記載荷板を固定し、上記底面体の下面から圧力をかけることによって、上記型枠に充填される土試料の圧密状態を調整するための圧密調整機構が設けられており、且つ、
上記上部型枠と上記下部型枠との境界面における任意の箇所に、型枠の内側と外側とに連続する通水口が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の土の引張強度測定装置。
【請求項4】
給水口、排水口、気体注入口、および気体排出口が少なくとも設けられた密閉容器内に、上記枠体が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の土の引張強度測定装置。
【請求項5】
両端が開口し、両端を結ぶ軸線に対して垂直方向に切断した際の断面面積が略均一な枠体と、
上記枠体の一端側の開口部を閉じる底面体と、からなる容器を該底面体を下側にして設置し、
土試料を上記枠体の途中領域まで充填し、上面を略水平にならした後、
上記土試料の上面に、引き上げ機構と連結する引き上げ用有孔板を設置し、
さらに上記引き上げ用有孔板の上面側に土試料を充填し、上記引き上げ用有孔板の下部に位置する下部土試料と上部に位置する上部土試料とを、上記引き上げ用有孔板の板面に設けられる孔部分において連続させ、
次いで下部土試料と上部土試料とを、上記孔部分において分断させるまで、上記引き上げ用有孔板を、上記引き上げ機構によって上方向に略垂直に引き上げ、且つ、引き上げ時における、引き上げ荷重を測定し、土試料の引張強度Fcを下記式1により求めることを特徴する土の引張強度測定方法。
Fc=(Pm−Wd−Wsu)/A (式1)
ただし、
Pmは、引き上げ荷重の最大値
Wdは、引き上げ荷重に含まれる装置自体の荷重
Wsuは、有孔板の上面側に充填される土試料の荷重
Aは、引き上げ用有孔板の板面に設けられる孔の開口領域の総面積
である。
【請求項6】
透水可能な透水性有孔板と、下部有孔板とをさらに用い、
下側から、下部有孔板、透水性有孔板、引き上げ用有孔板の順であって、且つ、3枚の有孔板に設けられたそれぞれの孔が連通するよう接して重ねた状態で土試料中に設置し、
上記3枚の有孔板の下部に位置する土試料と上部に位置する土試料とを、上記3枚の有孔板の連通する孔部分において連続させた後、
上記引き上げ機構により、上記引き上げ用有孔板を上方向に略垂直に引き上げ、
上記3枚の有孔板の下部に位置する土試料と上部に位置する土試料とを、上記3枚の有孔板の連通する孔部分において分断させ、且つ、
上記式におけるAが、3枚の有孔板の連通する孔部分の開口領域の総面積であることを特徴とする請求項5に記載の土の引張強度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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