説明

土圧密方法及びそのための組成物

本発明は、土圧密方法に関し、これによれば石灰化細菌と脱窒細菌との組み合わせが使用される。本発明はまた、前記方法の実施のための組成物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土圧密方法及び前記方法を実行するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細土もしくは液状化土は、10−5m/sのオーダーの非常に低い浸透性を有する。こうした土の圧密またはその不浸透性化には、その含む粒子の最大サイズが1ミクロン未満でなければならない溶液の注入が含まれる。これを考慮して、一方では自らの土への浸透及びアンモニアまたは硝酸塩などの汚染相の放出を制限する短い硬化時間を有する鉱物溶液が開発されている。
【0003】
さらにまた、塗型材料の革新における石灰化細菌の使用が、欧州特許出願第388404号及び仏国特許出願第2734261号に記載されている。
【0004】
石灰化細菌の価値は、その含まれる培地を介して土に深く浸透することができ、栄養を与えられる限りそこで生存し、且つ土の粒子表面上での炭酸塩の成長を引き起こして必要に応じて開放気孔率を維持する点である。
【0005】
この点について、土を「セメント接合する」ために細菌を使用するという思想がオーストラリアにおける研究の主題を成している(www.innovation.wa.gov.au/Innovation/News/2002/07)。しかしながら、出願人の知る限り、この研究は依然具体的な出願の主題を形成してはいない。
【0006】
この分野におけるその研究の中で、出願人は、石灰化細菌が、周囲媒体に放散される窒素化合物を発生することを見いだした。この欠点は、例えば、圧密しようとする土が給水栓接続の近傍に位置する場合などに、環境及び/または健康に有害な影響をもたらしうる。
【特許文献1】欧州特許出願第388404号
【特許文献2】仏国特許出願第2734261号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的の1つは、環境及び/または健康を尊重する土の圧密方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、「セメント」圧密が凝結現象を呈さない方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、従来の方法よりも少ない制約をもって実行される方法を提供することである。
【0010】
これらの目的は、石灰化細菌溶液と脱窒細菌溶液との組み合わせを使用することによって本発明に従って達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
然るに、第一の特徴に従えば、本発明は、下記の工程:
a)石灰化細菌の1つ以上の溶液を土に導入する工程;
b)土中で前記溶液を循環させる工程;
c)石灰化細菌のための1つ以上の栄養溶液を土に導入し、次いで土中で前記溶液を循環させる工程;並びに
d)脱窒細菌の1つ以上の溶液を土に導入し、次いで土中で前記溶液を循環させる工程;
を含む土圧密方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
「石灰化細菌」とは、炭酸塩を成長させるかまたはその成長を引き起こす細菌を意味するものと理解される。これら細菌はまた、炭酸塩発生性細菌(特に仏国特許出願第2734261号)としても知られる。
【0013】
下記の科に属する細菌を、本発明の方法において使用可能な石灰化細菌の例として挙げてよい:
・Bacillaceae(好ましくはBacillus属のもの、例えばBacillus cereus、Bacillus pasteurii等)、
・Pseudomonadaceae(好ましくはPseudomonas属のもの、例えばPseudomonas stutzerii等)、
・Enterobacteriaceae(好ましくはProteus属のもの、例えばProteus mirabilis等)、
・Myxococcales(好ましくはMyxococcus属のもの、例えばMyxococcus xanthus等)。
【0014】
下記の細菌は、本発明の方法において使用可能な脱窒細菌の例として挙げてよい:
・Pseudomonas denitrificans、
・Azospirillum brasilense、
・Pseudoxanthomonas broegbernesis、
・Luteimonas mephitis、
・Stenotrophomonas nitritireducens、
・Thermomonas brevisまたはThermomonas fusca、
・Nitratireductor aquibiodomus。
【0015】
「細菌の溶液」(もしくは細菌溶液)は、細菌が約10乃至約10細胞/mlの量で適当な培地中の溶液であることを意味すると理解される。
【0016】
石灰化細菌及び脱窒細菌のための培地の例を、例示のために以下に示す:
・石灰化細菌のための培地
−0.01Mのリン酸緩衝液(pH6.5)
−1%(w/v)のカジトン
−0.1%(w/v)のMgSO・7H
・脱窒細菌のための培地
−1000mlの蒸留水
−5gのペプトン
−3gの肉抽出物。
【0017】
各培地を、オートクレーブ中で20分間に亘り121℃にて滅菌する。冷却後、これに前記細菌を接種する。
【0018】
本発明による方法の第一工程は、石灰化細菌の1つ以上の溶液を、圧密しようとする土に導入することである。
【0019】
処理しようとする箇所に、予め下記を準備するようにする:
・一方で、好ましくは圧密しようとする領域の周囲に位置する、供給ボーリング、
・他方では、好ましくは圧密しようとする領域の中心に位置する、くみ上げもしくは回収ボーリング(例えばウェルポイント)。
【0020】
供給及び回収のボーリングの、このネットワーク(これ以後は「ブラストプラン」とも呼称)は、処理しようとする土の堆積ちょうどまでに流体の流れを制限できるように設計される。一般則としては、供給及び回収のボーリングの数及び位置は、圧密しようとする領域内の(もともと土中に存在する)水の総体積を置換するために必要な時間が、その培地中の細菌の実質寿命の半分を超えないように決定される。
【0021】
従って石灰化細菌は、重力により、供給ボーリングを通って土に注入される。その後、回収ボーリング(例えばウェルポイント)を用いて、処理しようとする領域中に減圧をもたらす。典型的には、回収系は、最高圧力が0.7barまでの真空中で稼働する。このように確立される減圧の効果は、処理しようとする領域中で細菌溶液を循環させ、また土中に存在する水を排出させ、これによって前記土を「溶脱」する。明らかに、細菌溶液の循環の速度は、土の浸透性によって左右されるが、これ自体が前記溶液の注入速度を左右する。循環は、細菌溶液が所望のレベルに充填されるまで継続される。このレベルは、回収系を経て回収される水中の細菌溶液の割合を分析することにより決定される。
【0022】
その後、石灰化細菌に、土を炭酸化し、よって所望の圧密を確実にするために必要な栄養を与える。栄養溶液を供給ボーリングから(これも重力により)土に注入し、その後
上述の原理に従って圧密しようとする領域中に循環させ、その一方では石灰化細菌を循環させるために作り出した減圧を維持する。処理しようとする土の性質及び体積により、また所望の圧密の程度により、この工程を一度以上繰り返す必要があることがわかる。(栄養の支給を経て)十分なレベルの炭酸化を得るための所要時間の長さは、30乃至45日のオーダーである。
【0023】
栄養溶液は、当業者には周知の標準溶液である。これは石灰化細菌の有機炭素源であり、且つその生理学的機能に必須の他の元素源である。数タイプの石灰化細菌が私用される場合には、各タイプの細菌の必要性を満たすために異なる栄養溶液を用いる必要が出てくることが明確に理解される。
【0024】
石灰化細菌による炭酸塩の生成のための栄養溶液の例を、例示のために以下に示す。
−0.01Mのリン酸緩衝液(pH8)
−1%(w/v)のカジトン
−1%(w/v)のCa(CHCOO)・4H
−0.02%(w/v)のKCO・1/2H
【0025】
この溶液を、オートクレーブ中、121℃にて20分間に亘り滅菌し、その後使用前に冷却する。
【0026】
栄養溶液の注入を止めると、石灰化細菌は死に、炭酸化された本来の土のみが残る。
【0027】
上述のように、炭酸化が起こると石灰化細菌は窒素化合物を生成し、これは周辺培地中に放散される。従って、脱窒細菌は廃棄物を「中和」するために使用される。
【0028】
この方法の価値は、脱窒細菌が石灰化細菌の分解生成物を自身の代謝のための栄養として利用し、これにより該方法を完全に環境保全性にしているという事実にある。
【0029】
脱窒細菌の溶液を、またしても供給ボーリングから土に注入し、その後圧密しようとする領域中で、石灰化細菌及び栄養溶液を循環させるために作り出した減圧を利用して循環させる。
【0030】
本発明のある特段の実施態様においては、脱窒細菌の溶液は工程a)において、石灰化細菌の溶液の注入と同時またはその後に注入される。
【0031】
本発明による方法は、処理の進行を観察する手段、例えば:
・くみ上げ生成物及び放出ガスを分析する手段、
・適切な地質工学的試験または地球物理学的試験、
を用いることによって適合するように最適化可能である。
【0032】
したがって、炭酸化の程度における変化は、好ましくは地質工学的方法、例えば供給ボーリングとくみ出しもしくは回収ボーリングとの間の地中における剪断波の速度における変化を測定することによって評価される。
【0033】
細菌及び/または石灰化細菌の分解生成物の、回収系から回収された水中の割合もまた分析する。この分析により窒素化合物、例えば硝酸塩の存在が明らかになれば、上述の脱窒細菌の溶液で回収した水を処理することができる。処理した水は、その後、土中、例えば地下水中に再注入することができる。
【0034】
微生物のタイプにより、本発明による方法は土の多孔性を保持することを可能にするが、これは幾つかの場合(地下循環を維持する、万一の地震の際の土が液状化する特定の場合)には好ましく、あるいは孔を封鎖するためには逆に好ましくない。
【0035】
例えば、細菌Myxococcus xanthusは、下記の利点を有する。
・これは孔のある壁表面に、前記孔を閉塞させることなくCaCOの層を堆積させることができ、
・方解石の堆積が、既存の土の粒子に強く結合しており、
・このように生成する方解石の新たな結晶がもともとの該物質よりも強靱であり、
・細菌の生産性及びその堆積物の性質を、その培地を修正することによって調節することができる。
【0036】
土を圧密するための細菌溶液は、従来のスラリーを使用する場合と比較して下記の利点を提供する。
・これらは水と類似のレオロジー特性を有し、すなわち土に浸透する非常に優れた性能を有する。
・これらは凝結現象を呈さず、大きな行動半径を利用可能にする。従って、ボーリングには従来の注入処理に要したよりもずっと広い空間をとることができる。
【0037】
これら2つの特性により、「ブラストプラン」の設計に高度の柔軟性を持たせることができ、これはまた処理中に調節することもできる。
【0038】
上記の特性に関連する別の利点は、当該方法の遂行には特段の装置を要さず、また従来の注入よりも制限が少ないことである(生成物の貯蔵、調製−混合の装置、高圧での操作、清浄化制限など)。
【0039】
第二の特徴によれば、本発明は上述の方法の実行のための組成物に関する。この組成物は、(i)石灰化細菌、(ii)脱窒細菌、及び(iii)石灰化細菌のための1つ以上の任意の栄養溶液を別々に含む。石灰化細菌であろうと脱窒素細菌であろうと、細菌は凍結乾燥された株または適当な培地に溶解させた株から現場にて培養される。該組成物は、2部品もしくは3部品のキットの形態を取りうるが、各部品は石灰化細菌及び脱窒素細菌の適当量並びに必要ならば栄養溶液を含む。
【0040】
本発明を、純粋に例示のために記載する、下記の実施例の助けを借りて、ここに詳細に説明する。
【実施例】
【0041】
(実施例:建物の下層土の圧密)
第一段階においては、供給ボーリングに石灰化細菌溶液を供給するが、この場合、これは下記:
−0.01Mのリン酸緩衝液(pH6.5)
−1%(w/v)のカジトン
−0.1%(w/v)のMgSO・7H
を含む培地中の細菌Myxococcus xanthusの溶液である。
【0042】
処理しようとする領域の中央に位置するウェルポイントを、減圧下におき、処理しようとする領域内を細菌溶液が循環できるようにする。ウェルポイントから回収される水中の細菌溶液の割合の適切な分析により、前記溶液が所望のレベルまで満たされた瞬間を確定する。
【0043】
その後、細菌による炭酸化を促進するために栄養溶液を導入しつつ操作を続けるが、前記溶液は下記:
−0.01Mのリン酸緩衝液(pH8)
−1%(w/v)のカジトン
−1%(w/v)のCa(CHCOO)・4H
−0.02%(w/v)のKCO・1/2H
の組成を有する。
【0044】
この期間の間にウェルポイントから回収される水を分析し、この分析によって石灰化細菌によって生じる廃棄生成物の存在が明らかになり次第、脱窒細菌で処理する。
【0045】
炭酸化相の後にウェルポイントから回収される水は、閉回路中を循環し、達するレベルが実施中の標準と一致するまで脱窒細菌で処理される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】図1Aは、既存の建物の下の土を処理するための本発明の方法の実施をダイアグラムに表したものである。図1Aは、本発明の方法で使用される「ブラストプラン」(供給のネットワーク及び回収ボーリング)の鳥瞰図である。より詳細には、該ブラストプランには、処理しようとする領域の周辺に位置する18の供給ボーリング1、並びに処理しようとする領域の中心に位置する5つのウェルポイント2が含まれる。
【図1B】図1Bは、既存の建物の下の土を処理するための本発明の方法の実施をダイアグラムに表したものである。図1Bは、建物の下で実行される処理の破断図である。陰影を付けた領域3は、圧密しようとする区域を表す。
【符号の説明】
【0047】
1 供給ボーリング
2 ウェルポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
a)石灰化細菌の1つ以上の溶液を土に導入する工程;
b)土中で前記溶液を循環させる工程;
c)石灰化細菌のための1つ以上の栄養溶液を土に導入し、次いで土中で前記溶液を循環させる工程;並びに
d)脱窒細菌の1つ以上の溶液を土に導入し、次いで土中で前記溶液を循環させる工程;
を含む土圧密方法。
【請求項2】
前記細菌及び栄養溶液を、供給ボーリングのネットワークを用いて導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記供給ボーリングが、圧密しようとする領域の周囲に位置する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記の様々な溶液を、くみ上げもしくは回収ボーリングのネットワークを用いて土中を循環させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記くみ上げもしくは回収ボーリングが、圧密しようとする領域の中心に位置する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
土圧密の進行の観察及び/またはくみ上げもしくは回収ボーリングから回収される水の分析を更に含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記石灰化細菌が、Bacillaceae、Pseudomonadaceae、Enterobacteriaceae、及びMyxococcales科から選択される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(i)石灰化細菌、(ii)脱窒細菌、及び(iii)石灰化細菌のための1つ以上の任意の栄養溶液を別々に含む、土圧密のための組成物。
【請求項9】
前記石灰化細菌が、Bacillaceae、Pseudomonadaceae、Enterobacteriaceae、及びMyxococcales科から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記細菌が、凍結乾燥株またはその培地中の株の溶液の形態である、請求項8または9に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2008−508450(P2008−508450A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523132(P2007−523132)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050619
【国際公開番号】WO2006/131611
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(507028756)
【Fターム(参考)】