説明

土壌の蒸気消毒装置

【課題】蒸気供給時における覆いシートの膨らみを短時間で行わせることにより、蒸気消毒の立ち上がりを早めて消費エネルギーを低減するとともに、覆いシートの熱損傷を防止る。
【解決手段】ボイラの蒸気供給ホース(4)と蒸気噴出ホース(2)とを接続する接続管(5)を設け、該接続管(5)の外側方に両端が開口したエジェクター管(7)を配置するとともに、該エジェクター管(7)を、外部から土壌(1)を被覆する覆いシート(10)内に挿通し、前記接続管(5)とエジェクター管(7)とを小径の吐出管(8)により接続するとともに、該吐出管(8)の吐出口(8b)を前記エジェクター管(7)の軸心部にて前記覆いシート(10)内方向に向ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌を蒸気により加熱して園芸作物の病原菌を死滅させる土壌の蒸気消毒装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、消毒すべき土壌の表面に多数の噴出孔を有する蒸気噴出ホースを延長させて載置し、蒸気噴出ホースを含む土壌の表面を覆いシートで被覆し、ボイラから前記蒸気噴出ホースに蒸気を供給してその噴出孔から蒸気を噴出させ、覆いシートをドーム状に膨らませて該覆いシートにより覆われた土壌表面の全域から土壌表層部に蒸気を浸透させ、該表層部を加熱して園芸作物の病原菌を死滅させるようにしたものがあった。
【0003】
前記従来のものは、蒸気噴出ホースの噴出孔から噴出する蒸気のみによって覆いシートを膨らませるようにしていたので、覆いシートがドーム状に膨らむまでに時間を要し、蒸気噴出ホース付近の土壌表層部とそれ以外の土壌表層部とでは昇温に大きなムラが発生することになる。このため、昇温の遅い箇所を病原菌の死滅温度になるまで加熱させると、昇温の早い箇所は高温状態が必要以上に維持され、燃料費が嵩むことになる。エネルギー高騰の近年においては、その改善が強く求められている。
【0004】
また、蒸気加熱による熱効率を高めるために覆いシートの上面を断熱性の保温シートで覆うことがある。この場合、前記覆いシートはポリエチレン製が一般的であるため、覆いシートがドーム状に膨らむまでの時間が長くなると、蒸気噴出ホース付近の覆いシートが蒸気の熱で溶解することがあった。
【特許文献1】特開2003−111550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、蒸気供給時における覆いシートの膨らみを短時間で行わせることにより、蒸気消毒の立ち上がりを早めて消費エネルギーを低減するとともに、覆いシートの熱損傷を防止した新規な土壌の蒸気消毒装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するために、以下の如く構成したものである。即ち、請求項1に係る発明は、多数の噴出孔を有する蒸気噴出ホースを延長させて消毒すべき土壌の表面に載置し、蒸気噴出ホースを含む土壌の表面を覆いシートで被覆し、前記蒸気噴出ホースにボイラから蒸気を供給してなる土壌の蒸気消毒装置において、ボイラの蒸気供給ホースと前記蒸気噴出ホースとを接続する接続管を設け、該接続管の外側方に両端が開口したエジェクター管を配置するとともに、該エジェクター管を外部から前記覆いシート内に挿通し、前記接続管とエジェクター管とを小径の吐出管により接続するとともに、該吐出管の吐出口を前記エジェクター管の軸心部にて前記覆いシート内方向に向ける構成にしたものである。
請求項2に係る発明は、前記吐出管の流入口を接続管の軸心部にて蒸気の反流動側に向けたものである。
請求項3に係る発明は、前記覆いシートの上面を断熱性の保温シートで覆うようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の請求項1に係る発明は、ボイラから蒸気が吐出されると、該蒸気が蒸気供給ホース、接続管を介して蒸気噴出ホースに供給され、蒸気噴出ホースの噴出孔から覆いシート内に向かって噴出する。これと並行して前記接続管内を流通する蒸気の一部が吐出管を介してエジェクター管内に噴射され、外気がエジェクター管内を流通して前記覆いシート内に流入する。これにより、前記覆いシートが迅速にドーム状に膨らみ、蒸気が覆いシート内の全域から土壌表層部に浸透し始める時期が早まり、覆いシートで被覆された土壌がムラなく略均等に加熱されることになる。また、土壌の消毒時間が短縮して燃料の消費量が低減することになる。さらに、覆いシートが迅速にドーム状に膨らむので、蒸気噴出ホース付近の覆いシートは蒸気に触れる時間が短縮し、蒸気による熱損傷が防止されることになる。
【0008】
請求項2に係る発明は、接続管内を流通する蒸気の一部が動圧の状態で吐出管に流入し、この蒸気がエジェクター管内に勢いよく噴射され、エジェクター効果が高くなってエジェクター管から覆いシート内に流入する外気が増大することになる。また、請求項3に係る発明は、保温シートによって覆いシートから外部への放熱が抑制され、蒸気による土壌の加熱効率が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明を図に基づいて説明する。図において、図1は本発明の実施例を示す平面図、図2は図1のII-II線による拡大断面図、図3は接続管部の拡大断面図、図4は土壌の昇温特性図である。
【0010】
図1、図2において、1は消毒を対象とする土壌であり、その面積は長さ約50m、幅約6mとし、本例では、作物の植えられる部分が列状に平行して盛り上げた畝1bとなっている。前記畝1bの頂部に蒸気噴出ホース2を長手方向全長に亘って載置する。蒸気噴出ホース2は耐熱性の軟質プラスチックシートを二重にしてその両側を溶着することにより、折り畳みの容易な筒状に形成され、外周に多数の噴出孔3が長手方向に所定ピッチで形成されている。なお、前記消毒を対象とする土壌の面積は温室ハウス、あるいは地形等によって適宜変更する。また、土壌の面形状は、作物の種類等によって平坦面、あるいは溝形となる場合がある。
【0011】
前記蒸気噴出ホース2を含む土壌1の表面1aをポリエチレンシート又はビニールシートからなる非通気性の覆いシート10により覆い、該覆いシート10の周縁部および該覆いシート10の畝1bの両側部に位置する部分に錘11を載置する。該錘11は本例ではダクト内に水を充填してなる。なお、前記覆いシート10の上面全面を軽量の保温シート12により覆うようにしてもよい。
【0012】
前記蒸気噴出ホース2は金属製の接続管5を介して蒸気供給ホース4に接続される。該蒸気供給ホース4はボイラに接続され、該ボイラから約120℃の蒸気が0.02Mpa〜0.03Mpaの圧力で供給される。前記接続管5に金属製のエジェクター装置6を取り付ける。即ち、図1、図2に示すように、接続管5の外側方に両端が開口したエジェクター管7を蒸気噴出ホース2の延長方向に向けて配置し、該エジェクター管(サクション管)7と前記接続管5とを小径の吐出管8により接続する。
【0013】
本例では、接続管5の内径を65mmにするとともに、蒸気噴出ホース2に接続される先端部5aが前方に屈曲するエルボ管とする。エジェクター管7は内径32mm、長さ200〜300mmの直管とし、前記接続管5の先端部5aと平行に配置する。吐出管8は内径を15mmとし、その上流側端部を接続管5の屈曲部に挿通して該接続管5に溶接固定し、その流入口8aを接続管5の軸心部にて蒸気の反流動側(上流側)に対面させる。また、前記接続管5の下流端部は前記エジェクター管7の長手方向中間部に挿通して該エジェクター管7に溶接固定し、挿通した端部を前方(蒸気噴出ホース2の延長方向)に屈曲させ、その吐出口8bをエジェクター管7の軸心部にて開口させる。
【0014】
前記エジェクター管7は、図1に示すように、吐出側(前部)7aを覆いシート10内に挿通し、後部7bは覆いシート10から外部に露出させる。また、前記覆いシート10に被覆された土壌1の内部に複数の温度計9を差し込む。本例では、蒸気噴出ホース2の上流端側となる覆いシート10の前端から約100cm奥側の位置に前部温度計9aを、蒸気噴出ホース2の下流端側となる覆いシート10の後端から約100cm奥側の位置に後部温度計9bをそれぞれ深さ約10cmの温度が計測できるように差し込む。なお、前記温度計9の差し込み深さは、本例では実験用のため通常(20〜30cm)よりも浅くしている。
【0015】
この状態で本願発明と従来とを比較実験した土壌の昇温特性を図4に示す。図4において、E1は本願発明による前部温度計9aの土壌昇温特性線、E2は本願発明による後部温度計9bの土壌昇温特性線、F1は従来による前部温度計9aの土壌昇温特性線、F2は従来による後部温度計9bの土壌昇温特性線である。
【0016】
図4によると、深さ約10cmの土壌温度が病原菌の死滅する55℃以上、例えば70℃に至るまでの時間を見ると、特性線E1は約32分(A点)、特性線E2は約55分(B点)、特性線F1は約97分(C点)、特性線F2は約113分(D点)となっている。即ち、深さ約10cmの土壌温度が70℃に至るまでの時間を比較すると、蒸気噴出ホース2の上流端側においては、本願発明(A点)が従来(C点)に対して65分短縮し、蒸気噴出ホース2の下流端側においては、本願発明(B点)が従来(D点)に対して57分短縮していることになる。
【0017】
これは、ボイラから蒸気が供給されると、該蒸気が蒸気噴出ホース2の噴出孔3から覆いシート10内に向かって噴出するとともに、接続管5内を流通する蒸気の一部が吐出管8を介してエジェクター管7内に噴射され、エジェクター効果によって外気がエジェクター管7内を流通して前記覆いシート10内に流入することになるため、前記覆いシート10内への気体流入量が増大し、該覆いシート10が迅速にドーム状に膨らみ、土壌への蒸気浸透時期が早まるためと思われる。
【0018】
また、覆いシート10がドーム状に膨らむと、蒸気が覆いシート10内の全域から土壌表層部に略均等に浸透して土壌をムラなく加熱することになる。この結果、送風機等の機器を使用することなく、土壌の消毒時間が短縮して燃料の消費が低減することになる。さらに、覆いシート10が迅速にドーム状に膨らむので、覆いシート10の上面を保温シート12で覆うようにしても、蒸気噴出ホース2付近の覆いシート10は蒸気に触れる時間が短縮し、蒸気による熱損傷が防止されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例を示す平面図である。
【図2】図1のII-II線による拡大断面図である。
【図3】接続管部の拡大断面図である。
【図4】土壌の昇温特性図である。
【符号の説明】
【0020】
1 土壌
1a 表面
1b 畝
2 蒸気噴出ホース
3 噴出孔
4 蒸気供給ホース
5 接続管
5a 先端部
6 エジェクター装置
7 エジェクター管
8 吐出管
8a 流入口
8b 吐出口
9 温度計
9a 前部温度計
9b 後部温度計
10 覆いシート
11 錘
12 保温シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の噴出孔(3)を有する蒸気噴出ホース(2)を延長させて消毒すべき土壌(1)の表面に載置し、蒸気噴出ホース(2)を含む土壌(1)の表面を覆いシート(10)で被覆し、前記蒸気噴出ホース(2)にボイラから蒸気を供給してなる土壌の蒸気消毒装置において、ボイラの蒸気供給ホース(4)と前記蒸気噴出ホース(2)とを接続する接続管(5)を設け、該接続管(5)の外側方に両端が開口したエジェクター管(7)を配置するとともに、該エジェクター管(7)を外部から前記覆いシート(10)内に挿通し、前記接続管(5)とエジェクター管(7)とを小径の吐出管(8)により接続するとともに、該吐出管(8)の吐出口(8b)を前記エジェクター管(7)の軸心部にて前記覆いシート(10)内方向に向けたことを特徴とする土壌の蒸気消毒装置。
【請求項2】
吐出管(8)の流入口(8a)を接続管(5)の軸心部にて蒸気の反流動側に向けたことを特徴とする請求項1記載の土壌の蒸気消毒装置。
【請求項3】
覆いシート(10)の上面を断熱性の保温シート(12)で覆ったことを特徴とする請求項1または2記載の土壌の蒸気消毒装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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