説明

土壌及び/又は地下水の浄化方法

【課題】生物的塩素化反応の促進効果の持続性が高く且つ浸透性の高い栄養剤を用いることにより、土壌及び/又は地下水を効率的に浄化することができる方法を提供する。
【解決手段】有機塩素系化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に有機炭素源を含む栄養剤を添加することにより、該土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、該有機炭素源が乳化された非水溶性有機物であることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。有機炭素源が非水溶性有機物であるため、生物的脱塩素化反応の促進効果の持続性が高い。この非水溶性有機物が乳化されているので、土壌への浸透性が高くなる。これにより、有機炭素源を土壌に添加する頻度を少なくして、効率的に土壌等を浄化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素系化合物で汚染された土壌や地下水を浄化する方法に関し、特に土壌及び/又は地下水に有機炭素源を添加して浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物により汚染された土壌や地下水等の汚染物を浄化する方法として、脱ハロゲン化触媒を用いた化学的処理方法、バイオレメディエーション技術の一種である嫌気性バイオ法等が知られている。
【0003】
I. 化学的処理方法の一例としては、汚染土壌等に鉄粉等の固体還元剤を注入し、有機塩素化合物を固体還元剤と反応させて無機化して無害化処理することが知られている。これにより、土壌中の有機塩素化合物が100mg/L程度の高濃度であっても、該有機塩素化合物を浄化することができる。しかし、この方法によると、土壌中の一部において有機塩素化合物と固体還元剤とが十分に接触せず、未反応の有機塩素化合物が微量に残存することがある。この問題は、特に固体還元剤の浸透性が低い土質、例えば粘土質のような土壌の場合に生じる。
【0004】
II. 嫌気性バイオ法は、汚染された土壌等に有機塩素化合物を分解する微生物の栄養源となる物質を添加して、微生物の働きにより有機塩素化合物を還元的に分解させる生物的処理法である。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2002−1304号公報)には微生物の栄養剤として、クエン酸および/またはその塩のような有機酸および/またはその塩を添加して生物分解を促進させる嫌気性バイオ法が提案されている。クエン酸および/またはその塩は、安全性が高く入手が容易であり、中性域でのpH緩衝能を有するためpH調整剤を添加することなく、微生物の活動に好適な環境を調整できる。このため、特許文献1に記載された方法によれば、安全性が高く、処理効率の高い生物的処理を低コストで行うことができる。但し、この方法においては、土壌等中における有機塩素化合物の濃度が10mg/L以上の高濃度になると、有機塩素化合物が生物的脱塩素化反応を阻害する。そのため、この方法は、有機塩素化合物が低濃度の場合に好適に適用される。
【0006】
III. また、特許文献2(特許第3401191号)には、化学的処理と生物的処理を組み合わせた方法として、ハロゲン化有機化合物により汚染された汚染物に、還元鉄等の還元剤と水溶性有機炭素源からなる栄養源との混合物を添加する処理法が開示されている。この方法によると、汚染土壌中の高濃度のハロゲン化有機化合物が還元剤で浄化されると共に、還元剤と反応せずに土壌中に微量に残存するハロゲン化有機化合物が生物的脱塩素化反応によって浄化される。
【0007】
IV. 米国特許5411664には、小麦ワラやムラサキウマゴヤシ(豆科の牧草)などの植物片と鉄粉とを土壌と混合して土壌中のハロゲン化有機物を分解することが記載されている。この方法で用いている小麦ワラ等の植物片は、土壌中に注入することはできず、原位置浄化法には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−1304号公報
【特許文献2】特許第3401191号
【特許文献3】米国特許5411664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
汚染土壌等を生物的脱塩素化処理によって浄化する場合、土壌中の微生物の増殖に半年から1年程度を要することが知られている。特許文献1や特許文献2のように、栄養剤としてクエン酸等の水溶性有機炭素源を用いる場合、かかる水溶性有機炭素源は数ヶ月で消費されてしまう。そのため、この水溶性有機炭素源にあっては、有機塩素系化合物の生物的脱塩素化反応の促進効果を、微生物が十分に増殖するまで維持することが困難であり、年に数回の頻度で水溶性有機炭素源を土壌中に追加注入する必要が生じるという問題がある。
【0010】
本発明は、生物的塩素化反応の促進効果の持続性が高く且つ浸透性の高い栄養剤を用いることにより、土壌及び/又は地下水を効率的に浄化することができる方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、特許文献2のように、汚染土壌に固体還元剤と水溶性有機炭素源の両方を添加する場合にあっても、土壌及び/又は地下水を効率的に浄化することができない。
【0012】
即ち、上記の通り、水溶性有機炭素源は、生物的塩素化反応を促進させる効果の持続性が低い。そのため、この水溶性有機炭素源を固体還元剤と同時又は固体還元剤よりも前に添加する場合、固体還元剤による化学的脱塩素化反応によって有機塩素系化合物が生物的脱塩素化反応を阻害しない濃度にまで低減したときには、既にこの水溶性有機炭素源の反応促進効果が低くなっている。従って、土壌及び/又は地下水を良好に浄化することができない。
【0013】
また、先ず固体還元剤を添加して、生物的脱塩素化反応を阻害しない濃度にまで有機塩素系化合物を低減した後に、水溶性有機炭素源を添加することが考えられる。しかし、固体還元剤を一度添加すると、土壌の隙間が該固体還元剤によって閉塞するので、その後に水溶性有機炭素源を添加しても土壌中に十分に浸透しない。その結果、固体還元剤と反応することなく残存している有機塩素化合物を十分に浄化することができない。
【0014】
本発明は、生物的塩素化反応の促進効果の持続性の高い栄養剤を固体還元剤と併用することにより、高濃度の有機塩素系化合物で汚染された土壌及び/又は地下水であっても、十分に浄化することができる方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明(請求項1)の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、有機塩素系化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に有機炭素源を含む栄養剤を添加することにより、該土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、該有機炭素源が乳化された非水溶性有機物であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項2の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1において、前記土壌及び/又は地下水に、還元剤を添加することを特徴とする。
【0017】
請求項3の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項2において、該還元剤が鉄粉よりなることを特徴とする。
【0018】
請求項4の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項3において、該鉄粉をスラリーとして前記土壌及び/又は地下水に添加することを特徴とする。
【0019】
請求項5の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項2ないし4のいずれか1項において、前記土壌及び/又は地下水に対し、栄養剤を添加した後に還元剤を添加するか、又は、栄養剤と還元剤とを同時に添加することを特徴とする。
【0020】
請求項6の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、該非水溶性有機物が、植物油、鉱物油及び生分解性ポリマーの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0021】
請求項7の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記土壌及び/又は地下水に、リン酸、リン酸水素塩、硫酸、硫酸水素塩、炭酸、炭酸水素塩、及び酸解離定数が8.0以下の有機酸の少なくとも1種を添加し、該土壌及び/又は地下水をpH6.0〜8.0の範囲に保持する工程を有することを特徴とする。
【0022】
請求項8の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし7のいずれか1項において、該有機塩素系化合物が、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス1,2−ジクロロエチレン、トランス1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、塩化ビニルモノマー、1,1,1−トリクロロエタン及び1,1−ジクロロエタンの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0023】
請求項9の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、浄化前の該土壌及び/又は地下水中における該有機塩素系化合物の濃度が10mg/L以上かつ水に対する飽和濃度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明にあっては、有機炭素源が非水溶性有機物であるため、クエン酸等の水溶性有機物と比べて、生物的脱塩素化反応の促進効果の持続性が高い。そのため、有機炭素源を土壌に添加する頻度を少なくし、効率的に土壌及び/又は地下水を浄化することができる。
【0025】
また、本発明にあっては、この非水溶性有機物が乳化されているので、乳化されていない場合と比べて、土壌への浸透性が高くなる。これにより、土壌及び/又は地下水の中の有機塩素系化合物を良好に浄化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明の土壌及び/又は地下水の浄化方法は、有機塩素系化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に有機炭素源を含む栄養剤を添加することにより、該土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、該有機炭素源が乳化された非水溶性有機物であることを特徴とするものである。
【0028】
本発明にあっては、有機炭素源が非水溶性有機物であるため、クエン酸等の水溶性有機物と比べて、生物的脱塩素化反応の促進効果の持続性が高い。そのため、有機炭素源を土壌に添加する頻度を少なくして、効率的に土壌及び/又は地下水を浄化することができる。
【0029】
また、本発明にあっては、この非水溶性有機物が乳化されているので、非水溶性有機物を乳化せずに土壌に添加する場合と比べて、土壌への浸透性が高くなる。これにより、土壌及び/又は地下水の中の有機塩素系化合物を残存させることなく良好に浄化することができる。
【0030】
本発明において、土壌及び/又は地下水の有機塩素系化合物濃度が、生物的脱塩素化反応を阻害する程度に高濃度である場合等にあっては、有機炭素源と共に還元剤を添加するのが好ましい。この場合、還元剤による化学的脱塩素化反応によって、有機塩素系化合物が生物的脱塩素化反応を阻害しない濃度にまで低減される。また、上記の通り非水溶性有機物は反応促進効果の持続性が高いので、この化学的脱塩素化反応によって有機塩素系化合物の濃度が低減した後においても、この非水溶性有機物の生物的脱塩素化反応の促進効果は維持される。これにより、生物的脱塩素化反応が促進され、土壌及び/又は地下水が良好に浄化される。なお、このように非水溶性有機物は反応促進効果の持続性が高いので、該非水溶性有機物を還元剤と同時又は還元剤よりも前に添加することができる。即ち、土壌の間隙が還元剤の添加によって閉塞するよりも前に、水溶性有機物を添加することができる。これにより、該非水溶性有機物は土壌に良好に浸透し、有機塩素系化合物を良好に浄化することができる。
【0031】
本発明で処理される「土壌及び/又は地下水」(以下、土壌等と称することがある。)とは、環境基準値を超える有機塩素系化合物を含む土壌、底泥、地表水および地下水を意味する。本発明は特に、土壌等の掘削および/または地下水の揚水を伴わずに汚染された土壌等を原位置で浄化する、いわゆる原位置浄化法に好適に用いることができる。しかし本発明は、土壌等を掘削して別の場所で浄化する掘削除去法等での処理に用いることもでき、この場合は掘削した土壌等を処理槽に導入し、生物的処理を単独で又は化学的処理と併せて実施して土壌等を浄化する。
【0032】
本発明で添加する栄養剤は、脱塩素化菌および水素生成菌のいずれか一方を増殖させる栄養剤であってもよく、両方を増殖させる栄養剤であってもよい。ここで、水素生成菌とは、有機酸を分解して水素を生成する嫌気性微生物を指す。脱塩素化菌による脱塩素反応は、この水素生成菌が生成した水素を利用して起こるため、水素生成菌を増殖させることにより、脱塩素化菌による脱塩素反応を促進することができる。
【0033】
栄養剤は、汚染土壌等の処理方式や汚染土壌等に存在する微生物相に応じて、1種または2種以上を単独または組み合わせて用いることができる。
【0034】
栄養剤に含まれる有機炭素源としては、乳化された非水溶性有機物が用いられる。
【0035】
この非水溶性有機物としては、植物油、鉱物油及び生分解性ポリマーの少なくとも1種類以上が用いられる。植物油としては、大豆油、オリーブ油、パーム油等が用いられる。鉱物油としては、ミネラルオイル、ワセリン、パラフィン等が用いられる。生分解ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等が用いられる。
【0036】
この非水溶性有機物を乳化する方法としては、非水溶性有機物に界面活性剤、レシチン、サポニン等の乳化剤を添加する方法がある。界面活性剤としては、Tween80、Tween85、レシチン等が好適に用いられる。この乳化された非水溶性有機物よりなるエマルションの平均粒径は、顕微鏡法による面積平均径が1〜100μm特に1〜2μmであることが好ましい。HLB値(乳化剤の水と油への親和性の程度)が8〜16程度、特に13〜16程度であることが好ましい。
【0037】
この乳化された非水溶性有機物にあっては、生物的脱塩素化反応の促進効果の持続期間は3〜24ヶ月程度である。
【0038】
栄養剤は、土壌等中の濃度が0.1wt%以上、特に0.1〜10wt%とりわけ0.1〜1.0wt%となるように添加するのが好ましい。
【0039】
本発明において、土壌等中の有機塩素系化合物濃度が、生物的脱塩素化反応を阻害しない程度の低濃度である場合には、栄養剤のみを用いてもよい。
【0040】
また、土壌等中の有機塩素系化合物濃度が、生物的脱塩素化反応を阻害する程度の高濃度である場合には、栄養剤と還元剤とを併用するのが好ましい。
【0041】
還元剤を添加することにより、土壌及び/又は地下水の有機塩素系化合物が化学的脱塩素化反応によって分解される。脱塩素化に細菌による生物的脱塩素化反応と化学的脱塩素化反応とにより、有機塩素系化合物濃度を環境基準値以下にまで低下させることができる。
【0042】
なお、栄養剤と還元剤とを併用する場合、栄養剤を還元剤と同時又は還元剤よりも前に添加するのが好ましい。この場合、土壌の間隙が還元剤で閉塞していないときに栄養剤を添加されることになるで、栄養剤が土壌中に良好に浸透する。また、この非水溶性有機物は反応促進効果の持続性が高いので、還元剤の添加によって土壌等中の有機塩素系化合物濃度が低減した後においても、この非水溶性有機物の生物的脱塩素化反応の促進効果が維持されるため、土壌等が生物液脱塩素化反応によって良好に浄化される。
【0043】
栄養剤の添加後に還元剤を添加する場合には、栄養剤の生物的脱塩素化反応の促進効果が維持されている間、例えば2年以内特に6〜12か月以内に添加する。
【0044】
本発明は、浄化前の該土壌及び/又は地下水中における該有機塩素系化合物の濃度が、10mg/L以上かつ水に対する飽和濃度以下の高濃度である場合に好適に適用される。なお、土壌における有機塩素系化合物の濃度とは、土壌を該土壌の10倍重量の水中で4時間撹拌したときに水中に溶出する有機塩素系化合物の濃度のことである(平成15年環境省告示18号に基づく溶出試験)。
【0045】
土壌等の有機塩素系化合物濃度が10mg/L以上、特に50〜500mg/Lの土壌等の場合には、栄養剤と還元剤を併用するのが好ましく、それよりも低濃度の場合には、栄養剤を単独で用いるのが好ましい。
【0046】
還元剤としては、鉄、チタン、マンガン、アルミニウム、亜鉛、マンガン、ニッケル、およびコバルトといった遷移金属の単体またはその合金(例えば鉄・シリコン合金)、並びにマグネシウム、カルシウム、およびバナジウムといった典型金属の合金を利用でき、特に鉄が好適である。還元剤はスラリーの形態にて土壌又は地下水に注入されるのが好ましい。スラリーとしては濃度0.1〜10wt%特に1〜2wt%程度のものが好適である。
【0047】
還元剤として鉄粉を用いる場合、この鉄粉の総量における粒径500μm以下の微細鉄粉の割合が90重量%以上である微細鉄粉が好ましい。この微細鉄粉は、反応性が高く有機塩素系化合物の分解が迅速に行われる。また、微細鉄粉は土壌中への浸透性も良好である。
【0048】
還元剤の添加量は土壌の帯水層体積当たりの量として10〜50v/v%とするのが好ましく、特に30〜40v/v%とするのが好ましい。
【0049】
本発明では、土壌又は地下水のpHが9以上である場合、生物反応が阻害されるため、中和剤を添加して土壌等をpH6.0〜8.0の範囲に保持し、脱塩素化菌や水素生成菌等の微生物の増殖および酵素生成活性を促進するのが好ましい。
【0050】
この中和剤としては、リン酸、リン酸水素塩、硫酸、硫酸水素塩、炭酸、炭酸水素塩、及び酸解離定数が8.0以下の有機酸の少なくとも1種類以上が好適に用いられる。中和剤は、還元剤よりも前に添加してもよく、還元剤と同時に添加してもよい。
【0051】
土壌等を原位置浄化法で処理する場合において、栄養剤や還元剤、中和剤等の薬剤を土壌等に添加する方法としては、これらの薬剤を土壌表面に散布する方法や、汚染された土壌や地下水の層まで延びる注入管を設置してこの注入管から薬剤を注入する方法等が挙げられる。注入管を用いて薬剤を注入する方法の具体例としては、井戸注入方法、二重管ダブルパッカー工法、二重管ストレーナ工法、GEMOL注入工法、ジオプローブ(Geoprobe)注入工法等がある。添加時の圧力、流量等は工法や土質などによって適宜選択されるが、例えば二重管ストレーナ工法であれば、圧力10kgf/m以上、流量5〜20L/min程度が好ましい。また、添加が困難な土質の場合には、原位置で撹拌混合してもよい。
【0052】
掘削等した土壌等に栄養剤や還元剤、中和剤等の薬剤を添加する方法としては、掘削等した土壌等に薬剤を順次に混合する方法が挙げられる。また、掘削した土壌を略筒状の処理槽に入れて濾床として、この濾床に液状の薬剤を順次、通液してもよい。
【0053】
本発明で処理される有機塩素系化合物は、テトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス1,2−ジクロロエチレン、トランス1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、塩化ビニルモノマー、1,1,1−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエタン等であるが、本発明で処理される有機塩素系化合物は上記物質に限定されず、例えば、ダイオキシン類を含むポリクロロビフェニル(PCB)も本発明方法により処理することができる。
【0054】
なお、土壌等中の有機塩素化物がPCE、TCE、シス1,2−ジクロロエチレン、トランス1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、および塩化ビニルモノマーであれば、これら物質の濃度が10mg/L以上特に50mg/L以上のときに、還元剤を用いるのが好ましい。また、土壌等中の有機塩素系化合物が、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、および1,1−ジクロロエタンであれば、これら物質の濃度が50mg/L以上特に100mg/L以上のときに、還元剤を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実験例及び実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0056】
1. 栄養剤の浸透性試験
[実験例1、大豆油乳化液の浸透性]
直径3cm、高さ50cmのガラスカラム内に、純水を高さ25cmの位置まで入れ、次いで、該ガラスカラムを振動させながら豊浦珪砂を少量ずつ高さ50cmの位置まで充填し、模擬的な飽和土壌とした。
【0057】
また、純水1Lに対して、大豆油乳化液の原液としてTerra System社製「SRS(登録商標)」を0.1wt%となるように添加することにより、大豆油乳化液(CODcr濃度:3000mg−CODcr/L)を調製した。
【0058】
このガラスカラムの下端側から飽和土壌内に、この大豆油乳化液を1L/minの一定流量で通液した。
【0059】
このガラスカラムの上端側から流出するカラム流出液を断続的に2mL程度採取し、CODcr濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
[実験例2]
大豆油乳化液に代えて、純水1Lに対して非水溶性有機物として大豆油1gを添加して分散させて調製した大豆油分散液(大豆油の全量が純水に溶解した場合のCODcr濃度:3000mg−CODcr/L)を用いたこと以外は実験例1と同様にして実験を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
[実験例3]
大豆油乳化液に代えて、純水1Lに対して水溶性有機物として乳酸ナトリウム1gを添加して得た水溶液(TOC濃度:400mg−TOC/L)を用いたこと以外は実験例1と同様にして実験を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
[結果]
大豆油分散液は飽和土壌に対してほとんど浸透性を有しないが、大豆油乳化液は、水溶性の乳酸ナトリウムと同程度の浸透性を有することが確認された。
【0064】
2. 地下水中の栄養剤の持続性試験(嫌気分解試験)
[実験例4]
地下水1Lに対して、大豆油乳化液の原液としてTerra System社製「SRS(登録商標)」を0.1wt%となるように添加することにより、大豆油乳化液を調製した。
【0065】
この大豆油乳化液100mLをバイアル瓶(容積:155mL)に入れ、NとCOとを7:3の体積割合で含む混合ガスでパージした。これにブチルゴム栓をすると共にアルミキャップでシールし、さらに硫化ナトリウムの水和物0.05gを添加して嫌気条件として30℃で静置培養した。バイアル瓶からは定期的に内容物をサンプリングして、ガスクロマトグラフを用いて内容物中の溶解性TOC濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0066】
[実験例5]
大豆油乳化液に代えて、純水1Lに対して水溶性有機物として乳酸ナトリウム1gを添加して得た水溶液(TOC濃度:400mg−TOC/L)を用いたこと以外は実験例4と同様にして実験を行った。その結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
[結果]
実験例4,5に示すように、大豆油乳化液を添加した実験例4では、3ヶ月を経過しても溶解性TOC成分が残存するのに対し、乳酸ナトリウムを添加した実験例5では、1ヶ月後に溶解性TOC成分は約10mg/Lにまで低下し、3ヶ月後には検出下限値以下になることが確認された。
【0069】
[実施例1]
トリクロロエチレン(TCE)で汚染されている汚染サイト(面積6×5m)に、栄養剤としてTerra System社製の大豆油乳化液「SRS(登録商標)」(濃度90wt%)を添加し、その後30日経過してから、還元剤として平均粒径8.3μmの0価の還元鉄を水に懸濁した固形分濃度18%のコロイド溶液を水で10倍に希釈した微細鉄粉の懸濁液を添加する浄化処理を行なった。汚染サイトは、地表面下0〜4mが不飽和層、4〜6mが濃度120mg/LのTCEで汚染された地下水が流れる帯水層となっている。この汚染サイトに直径20cmの注入管を25本、ほぼ等間隔で6mの深さとなるように設置した。大豆油乳化液は、各注入管からGEMOL注入工法により地下水に注入した。還元剤は、二重管ダブルパッカー法により地下水に注入した。
【0070】
大豆油乳化液の添加量は0.1v/v%(帯水層の体積当りの体積)とした。還元剤の添加量は30v/v%(帯水層の体積あたりの体積)とした。今回用いた還元剤はpHが11程度であったため、微細鉄粉の懸濁液を水で1/10に希釈した後、重炭酸ナトリウムを100kg/m溶解させ、直ちに注入を行った。また、注入管からは15日ごとに地下水を採取し、ガスクロマトグラフィーによりcis−DCEおよび塩化ビニルモノマー(VC)の濃度を測定した。
【0071】
実験開始から200日後、TCE濃度が0.03mg/L以下となった。
【0072】
[実施例2]
大豆油乳化液と還元剤とを同時に添加したこと以外は実施例1と同条件にて実験を行った。その結果、実験開始から150日後、TCE濃度が0.03mg/L以下となった。
【0073】
[比較例1]
大豆油乳化液の代わりに濃度10wt%の乳酸水溶液を1v/v%(帯水層の体積当りの体積)添加したこと以外は実施例1と同条件にて実験を行った。
【0074】
この比較例1では、200日経過しても地下水のTCE濃度は90mg/Lであった。
【0075】
[考察]
以上の実施例及び比較例より、本発明によると有機塩素系化合物で高濃度に汚染された土壌及び/又は地下水であっても十分に脱塩素処理できることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素系化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に有機炭素源を含む栄養剤を添加することにより、該土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、
該有機炭素源が乳化された非水溶性有機物であることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、前記土壌及び/又は地下水に、還元剤を添加することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項3】
請求項2において、該還元剤が鉄粉よりなることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項4】
請求項3において、該鉄粉をスラリーとして前記土壌及び/又は地下水に添加することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、前記土壌及び/又は地下水に対し、栄養剤を添加した後に還元剤を添加するか、又は、栄養剤と還元剤とを同時に添加することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該非水溶性有機物が、植物油、鉱物油及び生分解性ポリマーの少なくとも1種であることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記土壌及び/又は地下水に、リン酸、リン酸水素塩、硫酸、硫酸水素塩、炭酸、炭酸水素塩、及び酸解離定数が8.0以下の有機酸の少なくとも1種を添加し、該土壌及び/又は地下水をpH6.0〜8.0の範囲に保持する工程を有することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、該有機塩素系化合物が、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、シス1,2−ジクロロエチレン、トランス1,2−ジクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、塩化ビニルモノマー、1,1,1−トリクロロエタン及び1,1−ジクロロエタンの少なくとも1種であることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、浄化前の該土壌及び/又は地下水中における該有機塩素系化合物の濃度が10mg/L以上かつ水に対する飽和濃度以下であることを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法。

【公開番号】特開2010−221184(P2010−221184A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73766(P2009−73766)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】