説明

土壌微生物を格納したバイオセンサーおよびその利用

多様な現場の土壌について、環境測定技術などに利用されている微生物センサーを、環境中の成分検出や濃度測定に使用するのではなく、目的とする土壌微生物の多様な現場土壌環境に対する環境適応能力を評価する手段として使用し、比較検討を行った。その結果、本発明者らは、該微生物センサーにより、生態系における一般土壌微生物と病原微生物の増殖能力を調べる事により、土壌生態系のバランスを見る事ができ、さらに、病害発生の危険性や一般土壌微生物の生物防除効果の判定を行なうことができる事を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌微生物を利用したバイオセンサー、並びに、該バイオセンサーを利用した、土壌微生物の増殖能力の評価、土壌病害発生の危険性の評価、および生物防除効果の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野で、特にガンなどの難病は、発見が遅れれば遅れるほど治療が難しくなる事から、「早期発見・早期防除」に向けた各種手法の開発が求められているが、農業分野でも同様のことが言われてきた。特に、土壌病害に関しては、「早期発見・早期防除」の手法を開発する事が重要と考えられてきた。
【0003】
農業では、一般には作物を連作すると病害の発生頻度が高まる事が知られているものの、生産効率と作業性を考慮すると連作が継続される事が多い。その後、発病が確認されてから対策が検討されるが、発病後の修復は非常に困難であり、一般に病害は拡大し、ひどい場合には産地が崩壊する事もある。従って、病害発生についてより早期の発生予測、病害の軽減対策および周辺への拡大防除が必要とされている。病害の発生には、土壌微生物、特に直接的な要因となる土壌伝染性植物病原微生物、および拮抗微生物などを含む一般土壌微生物が関わっている。また、これらの土壌微生物を取りまく環境要因によっても病害の発生は影響される。
【0004】
土壌微生物、特に土壌伝染性植物病原微生物および一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)は、その菌数および種類が膨大であり、すべてを調査することは困難である。現状は、選択培地を用いた土壌中の菌数測定、顕微鏡を用いた直接または間接顕鏡法、抗体を用いた検出方法、DNAプローブを用いた検出方法などが行われているが、これらの方法では、供試土壌においてサンプリングした時点に目的の微生物がいるかどうかの確認、またはその菌数までの情報しか得られなかった。また、土壌微生物の検出においては、数日から数週間の培養時間が必要であったり、技術を習熟するまでに相当な時間を要したり、面倒な前処理が必要であったりする等の問題があった。
【0005】
現場圃場は、(1)土壌の種類が砂質、粘土質、重粘土質、火山培土、沖積土など多岐にわたる、(2)気象条件が変動するだけでなく、緯度、地形などの地形要因も含めて考えなければならない、(3)栽培する作物履歴が稲、麦などの穀物類、トマト、ナスなどの果菜類、ブロッコリー、キャベツ、レタスなどの葉菜類、ダイコン、ニンジンなどの根菜類、花卉など多岐にわたる、(4)肥料、農薬、堆肥、その他資材の使用履歴が現場によって様々である、などの特徴を有する。この様な複雑系である現場圃場において、発病予測の一般解を求める事は困難である。
【0006】
従って、仮に一つの土壌に絞って発病予測の調査を行う事にした場合、膨大な経費と時間を費やして現状のあらゆる理化学分析を行い、窒素、燐酸、カリ、その他の微量要素、pH、EC、三相分布、透水性、排水性、微生物の菌数・種類などを調べ上げたとしても、数ヶ月から数年の時間が必要であり、結果が出た時には、すでに現場の土壌環境は変化してしまっている。また、現状の科学技術では解析できない未知の要因(unknown factor)の問題が残されている。
【0007】
近年、複雑系の科学という分野が開けてきて、従来のように因子を個別に分けて分析するのではなく、複雑系を分解せずにトータルの系として考察する手法が発達してきている。例えば、土壌に関して酵素活性や呼吸活性を測定する手法が出てきたが、これらの結果について何が言えるのかまだ明確とはなっていない。土壌微生物については、資化性パターン、DNAパターン、脂肪酸組成パターンなどのパターン分類から多様性について評価する手法が提案され、土壌微生物の多様性が高い土壌の方が、病害に対して抵抗性があるという報告もある。しかしながら、これだけで発病予測を行うには充分とはいえない。
【0008】
一般的な発病予測の方法は、過去数年間の発病度調査結果などから増加傾向にあるか、減少傾向にあるかを推定する事が行われてきた。しかしながら、昨年まで全く発病しなかった土壌で、突然、発病が確認されたり、昨年まで病害で困っていた圃場で突然発病しなくなったりする事例は多く、気象条件が変化した為であるとか、新たに加えた資材の効果であるとか説明される事があるが、あくまで推測の域を出ないし、予測を行うまでに数年間の調査が必要であった。
【0009】
発病予測について十分な結果は出ないものの、現場生産者からの要請にこたえる形で、様々な土壌病害防除に関する試験が行われている。一般には、病害発生圃場を用いて、作型変更、輪作、品種改良、農薬、肥料、微生物資材を含む土壌改良資材、土壌消毒などの試験が行われている。しかしながら、これには広い試験圃場が必要であり、限られた試験圃場において数多くの試験を一度に行うことは無理があり、しかも環境変動により再現性が難しい事を考えると、数年に渡り再現性を見なければならないなど、時間は掛かり、しかも試験点数は稼げないという事で、非常に効率が悪かった。
【0010】
また、土壌病害に困っている現場生産者は、多くの拮抗微生物を含む微生物資材を試みているが、その効果は、非常に不安定で現場生産者の声も様々である。その原因は、多くの場合、土壌条件によって投入した拮抗微生物がうまく土壌および植物根圏に定着できなかった、あるいは病原微生物の菌密度が高すぎて微生物資材の投入量が少なかったなどと説明されるが、投入した微生物が現場土壌にうまく定着できるかどうかについては、土壌中は複雑なブラックボックスであり、実施してみなければ判らないし、拮抗微生物と病原微生物の動態については、ほとんど調査は行われていない。わずかに、薬剤耐性などの遺伝的マーカーを付与してその後の微生物の動態を調査する試験が行われているが、マーカー付与した微生物は広く一般に使用できるものではないし、また、この試験は結果を予測するのではなく、結果を調査するレベルに留まっている。
【0011】
バイオセンサー(非特許文献1〜3) は、主に、環境測定技術として生物化学的酸素要求量(BOD)測定(特許文献1〜3)や、シアン(特許文献4、5)、水銀(特許文献6)、アルコール(特許文献7、8)、界面活性剤(特許文献9)、リン酸(特許文献10、11)、アンモニアなど(特許文献12)の環境中に含まれる有害成分や栄養分などの検出または濃度測定の為のセンサーとして開発されてきた。さらに、この技術の応用として、食品中の成分の簡易検出や、医療診断用の血液中の血糖値、尿中の尿素濃度などの測定への応用(非特許文献4、5)が考えられてきている。すなわち、これまでのバイオセンサー技術の目的は、検体中の成分の検出や濃度測定であった。
従って、土壌微生物、土壌病害、植物病理に関するバイオセンサーの開発は全く行われていなかった。
【特許文献1】特公昭58-30537
【特許文献2】特開平7-167824
【特許文献3】特開平5-137597
【特許文献4】特開平8-211011
【特許文献5】特開平9-297105
【特許文献6】特開平5-023198
【特許文献7】特開平5-041999
【特許文献8】特公平6-041928
【特許文献9】特開平8-196295
【特許文献10】特開平5-093692
【特許文献11】特公平8-020401
【特許文献12】特開平11-125600
【特許文献13】特開平2-193059
【特許文献14】特開昭53-137198
【特許文献15】特公平1-22898
【特許文献16】特開昭55-16203
【特許文献17】特開昭59-27255
【特許文献18】特公昭57-15696
【特許文献19】特公昭57-54742
【特許文献20】特公昭61-7258
【特許文献21】特開昭57-173745
【特許文献22】特開昭59-133454
【特許文献23】特開平5-252994
【特許文献24】特公昭58-36736
【非特許文献1】Biosensors&Bioelectronics, 16 (2001) 337-353
【非特許文献2】Journal of Biotechnology, 15 (1990) 255-266
【非特許文献3】Journal of Biotechnology, 15 (1990) 267-282
【非特許文献4】Methods in Enzymology, 137 (1988) 131-138
【非特許文献5】Biosensors&Bioelectronics, 16 (2001) 337-353
【非特許文献6】Microbial. Ecol., 45(3) (2003) 226-236
【非特許文献7】Soil. Sci. Soc. Am. J., 66(2) (2002) 498-506
【非特許文献8】Analyst, 127(1) (2002) 5-7
【非特許文献9】Biosensors&Bioelectronics, 16 (2001) 667-674
【非特許文献10】Environ Pollut 113 (2001) 19-26
【非特許文献11】Field Anal. Chem. Tech., 4(5) (2000) 239-245
【非特許文献12】Soil Biol. Biochem., 32(5) (2000) 639-646
【非特許文献13】Soil Biol. Biochem., 32(3) (2000) 383-388
【非特許文献14】Appl.Environ.Microbiol., 69(6) (2003) 3333-3343
【非特許文献15】Appl.Environ.Microbiol., 60(8) (1994) 2869-2875
【非特許文献16】Can. J. Microbiol., 47 (2001) 302-308
【非特許文献17】Appl.Environ.Microbiol.,67(3) (2001) 1308-1317
【発明の開示】
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単に短期間に、土壌微生物の増殖能力を測定しうる方法を提供することにある。さらに、この方法の利用態様として、簡単かつ短期間に、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価する方法、および土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価する方法を提供することも本発明の目的である。
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、多様な現場の土壌について、環境測定技術などに利用されている微生物センサーを、環境中の成分検出や濃度測定に使用するのではなく、目的とする土壌微生物の多様な現場土壌環境に対する環境適応能力を評価する手段として使用し、比較検討を行った。その結果、本発明者らは、該微生物センサーにより、生態系における一般土壌微生物と病原微生物の増殖能力を調べる事により、土壌生態系のバランスを見る事ができ、さらに、病害発生の危険性や一般土壌微生物の生物防除効果の判定を行なうことができる事を見出した。
【0014】
特に、土壌伝染性植物病原微生物を収納したセンサーユニットと一般土壌微生物を収納したセンサーユニットを用いて計測された一般土壌微生物/病原微生物の電極応答比は、この判定のための有効な指標となった。
【0015】
すなわち、該電極応答比が高ければ、病原微生物の増殖よりも一般土壌微生物の増殖が上回る為に、土壌生態系のバランスは、一般土壌微生物の方が病原微生物よりもより多く存在する方向に向かう事が予想され、病害の発生もしくは拡大の危険性は低く、また、土壌における該一般土壌微生物の生物防除効果が高いと予想しうる。
【0016】
一方、該電極応答比が低ければ、病原微生物の増殖速度がその他の一般土壌微生物の増殖を上回る事が予想され、土壌生態系のバランスは、病原微生物の方が一般土壌微生物より多く存在する方向に向かう事が予想され、病害の発生もしくは拡大の危険性は高いと予想される。また、土壌における該一般土壌微生物の生物防除効果が低いと予想しうる。
さらに、現状分析により、病原菌と一般土壌微生物の数量および圃場の発病状況を含めて判断すれば、病害発生の危険性についての予測は、より精度を高める事ができる。
この技術は、特に病害未発生圃場における病害発生の可能性について、早期土壌診断が可能となる点で非常に有用である。
【0017】
即ち、本願は、より具体的には、下記発明を提供するものである。
〔1〕 土壌における土壌微生物の増殖能力を測定する方法であって、
(a)それぞれ酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数のセンサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度の差異を計測する、ことを含む方法。
〔2〕 土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価する方法であって、
(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことを含み、
一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合に、測定する土壌における、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性が少ないと判定される方法。
〔3〕 土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価する方法であって、
(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことを含み、
一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合に、測定する土壌における、該土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対し、該一般土壌微生物が防除効果を有すると判定される方法。
〔4〕 それぞれ酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数のセンサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを含む、上記〔1〕に記載の方法に用いるためのキット。
〔5〕 酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを含む、上記〔2〕または〔3〕に記載の方法に用いるためのキット。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】基質(PD broth)添加によるフザリウム(Fusarium)属菌を収納した微生物センサーの応答性を示す図である。縦軸は微生物センサーの電流値(nA)を、横軸はPD broth添加量を示す。
【図2】根こぶ病菌を収納した微生物センサーの酵母エキスに対する応答を示す図である。縦軸は微生物センサーの電流値(nA)を、横軸は固定化菌体量(ml)を示す。
【図3】土壌病害発生予測用微生物センサーの構造を示す図である。
【図4】微生物センサーユニットの構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、土壌における土壌微生物の増殖能力を測定する方法を提供する。該方法は、(a)それぞれの酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数のセンサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度の差異を計測する、ことを含む。
【0020】
本発明において用いられる土壌微生物の種類については特別な制限はなく、従来技術により分離・培養可能な微生物であればよい。また、根こぶ病菌のような培養できない微生物についても植物体を利用した増殖方法を利用して増殖し単離すれば、使用することができる。
【0021】
土壌微生物の種類としては、好ましくは下記に記載の微生物が挙げられる。
まず、本発明の土壌伝染性植物病原微生物としては、細菌類、放線菌類、糸状菌類に分けられる。
【0022】
土壌伝染性植物病原性細菌としては、青枯病菌(Ralstonia solanacearum)、軟腐病菌(Erwinia属、Pseudomonas属)、根頭がんしゅ病菌(Agrobacterium属)などが挙げられる。
【0023】
土壌伝染性植物病原性放線菌としては、そうか病菌(Streptomyces属)が挙げられる。
【0024】
土壌伝染性植物病原性糸状菌類としては、苗立枯病菌(Pythium属、Rhizoctonia属など)、根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)、疫病菌(Phytophutora属、Verticillium属、Fusarium属、Rhizoctonia属)、紋羽病菌(Helicobasidium属、Rosellinia属)、白絹病菌(Corticium属)、褐色根腐病菌(Pyrenochaeta属)、条斑病菌(Cephalosporium属)、乾腐病菌(Cylindrocarpon属)などが挙げられる。
【0025】
また、本発明の一般土壌微生物としては、拮抗性細菌類、拮抗性糸状菌類、(以上、拮抗微生物類)、一般土壌細菌類、一般土壌放線菌類、一般土壌糸状菌類などに分けられる (土と微生物、(1981)土壌微生物研究会編 博友社)。
【0026】
拮抗性細菌類としては、例えばバチルス(Bacillus)属、非病原性アグロバクテリウム(Agurobacterium)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、キサントモナス(Xanthomonas)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、非病原性エルビニア(Erwinia)属、パスツリア(Pasteuria)属、などが挙げられる。
【0027】
拮抗性糸状菌類としては、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、非病原性フザリウム(Fusarium)属、グリオクラディウム(Gliocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ピシウム(Pythium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、フォーマ(Phoma)属、タラロマイセス(Talaromyces)属などが挙げられる。
【0028】
一般土壌細菌類としては、アセトバクター(Acetobacter)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バチルス(Bacillus)属、バークフォルデリア(Burkholderia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、グルコノバクター(Gluconobacter)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、マイコバクテリウム(Micobacterium)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、プロテウス(Proteus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、リゾビウム(Rhizobium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ザイモモナス(Zymomonas)属などが挙げられる。
【0029】
一般土壌放線菌類としては、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、アクチノマデュラ(Actinomadura)属、グリコマイセス(Glycomyces)属、ノカルディア(Nocardia)属、サッカロモノスポラ(Saccharomonospora)属、ストレプトバーティシリウム(Streptoverticillium)属などが挙げられる。
【0030】
一般土壌糸状菌類としては、アファノマイセス(Aphanomyces)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、キャンディダ(Candida)属、クラドスポリウム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フィトフィトラ(Phytophthora)属、リゾプス(Rhizopus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、トルラ(Torula)属などが挙げられる。
【0031】
本発明の一般的な微生物の培養条件に関しては、実験書(新編 土壌微生物実験法、 (1997) 土壌微生物研究会編、養賢堂)等に記載されている条件を用いることができる。培地は、例えば、肉エキス培地、LB培地、ポテトデキストロース培地(PD培地)などを用い、培養方法は、例えば、シャーレ、試験管、フラスコ、ジャーファメンターなどの容器内で、静置、振とう、攪拌などの条件で行えば良く、特殊な培養条件で行う必要はない。また、培養できない微生物であっても、根こぶなどの植物の特定の部位にて増殖させ、大量に単離できれば、これを利用する事も可能である。
【0032】
本発明に用いられるバイオセンサーの酸素電極としては、一般に使用されている酸素電極であれば良く、ガルバニック型、ポーラロ型いずれでも良く市販のものを使用することができる。
【0033】
バイオセンサーを構成する微生物収納部については、微生物が収納部からできる限り漏れ出さない事が望ましく、水や水に溶けている酸素などの揮発性物質や、微生物の呼吸活性に影響を及ぼす有機物質や、呼吸活性を阻害する物質など(水に溶解している物質および微生物よりも微細な粒子)を透過するサイズの網目を持つ膜であり、微生物を保持する為の充分な強度を持っている材料であれば良い。例えば、0.45μmのニトロセルロース膜やアセチルセルロース膜などが使用される。
【0034】
微生物を収納する方法としては、微生物の懸濁液をニトロセルロース、アセチルセルロース、ナイロン膜などに滴下し、下から吸引するまたは、上部より加圧する事により、水および水溶性物質を吸引または加圧除去し、微生物をフィルター上に吸着固定化する方法や、微生物をアルギン酸カルシウムなどのゲルに固定化した後、薄膜切片を作成する方法などがある。
【0035】
バイオセンサーを構成する固定具としては、微生物収納部を、電極にできるだけ密着して固定する事ができ、かつ土壌懸濁液からの酸素などの揮発性物質および微生物の呼吸活性に及ぼす有機物質や阻害物質などが固定化した微生物および電極への拡散を妨げない固定具であれば特に制限はない。例えば、微生物の固定化した膜の下の部分は、ナイロンネットや金網などで作成する事により、水溶性の物質や微細な粒状物質などを透過でき、固定具の側面はプラスティックなどで作成し、ネジ込み式にしたり、O-リング、チューブなどを用いて電極に固定化する。
【0036】
バイオセンサーに接触させる土壌懸濁液は、現場圃場より適量(例えば、10g〜1,000g)の土壌を採取し、適量(例えば、土壌試料1に対して、1〜100倍量)の水、溶媒または緩衝液を加えて良く攪拌して、混合した後、遠心分離またはろ過などを行なうことにより取得した上清液が好ましい。
【0037】
出力電流の検出においては、微生物を収納した微生物センサーに適量(例えば、0.01〜1,000ml) の土壌懸濁液を接触させ、攪拌しながら出力電流の減少量または減少速度を計測する。その結果、出力電流の減少量または減少速度が大きいほど、該土壌微生物の呼吸活性が高く、酸素消費量が多い事、すなわちその土壌において該微生物の増殖能力が高いこと(該微生物の増殖に好適な土壌環境であること)が判る。出力電流の減少量又は減少速度が小さい場合には、該土壌微生物の呼吸活性は低く、酸素消費量が少ない事を意味し、該土壌微生物の餌となる有機物含量が少ないか、または該土壌微生物の呼吸活性を阻害する物質が含まれるなど、その土壌において該微生物の増殖能力が低いこと(該微生物の増殖にとって好ましくない土壌環境であること)が判る。
【0038】
複数の微生物をそれぞれ別個の微生物センサーに収納して、同様な調査を行う事により、現場土壌においてどんな種類の微生物が相対的に増殖能力が高いか(優先的に増殖することができるか)を判定することができる。また、拮抗微生物を土壌に投入する場合に、拮抗微生物が、現場土壌環境に適応できるかどうかを判定することができる。また、堆肥の発酵過程における複数の微生物の動態調査を行なうことも可能である。
【0039】
上述した土壌微生物の増殖能力を測定する方法において、異なる微生物として、一般土壌微生物および土壌伝染性植物病原微生物を利用すれば、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価することも可能である。
【0040】
即ち、本発明は、(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことを含む、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価する方法をも提供する。
【0041】
この方法においては、一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合には、測定する土壌における、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性が少ないと判定される。一方、一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に低い場合には、測定する土壌における、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性が大きいと判定される。
【0042】
また、同様に、(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、特定の土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことにより、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価することも可能である。即ち、本発明は、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価する方法をも提供する。
【0043】
この方法においては、一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合に、測定する土壌における、該土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対し、該一般土壌微生物が防除効果を有すると判定される。一方、一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に低い場合に、測定する土壌における、該土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対し、該一般土壌微生物が防除効果を有しないと判定される。
【0044】
一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度と、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度との比較は、電極応答比 (一般土壌微生物/病原微生物)として評価することが可能である。例えば、病原微生物を収納した微生物センサーと比較して、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)を収納した微生物センサーの電極応答が有意に高ければ、病原微生物に比べて一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の増殖が速く、今後の病害発生の危険性は軽減する方向に向かう事が予想できる。この場合、該一般土壌微生物は、その土壌において防除効果があると判定することができる。
【0045】
ここで「病原微生物を収納した微生物センサーと比較して、一般土壌微生物を収納した微生物センサーの電極応答が有意に高い」とは、通常、電極応答比が0.4以上、好ましくは0.6以上、さらに好ましくは2.0以上であることを意味する。この数値は、後述するように現状の発病度、病原菌と一般土壌微生物の菌密度または存在比率の測定結果に基づく補正により、より信頼性を高めることができる。
【0046】
病原微生物を収納した微生物センサーと比較して、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)を収納した微生物センサーの電極応答に違いがなければ、病原微生物と一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)は、ほぼ同様な増殖を示す事が予測され、今後の病害発生の危険性は、現状と変わらない事が予想される。この場合、該一般土壌微生物の、その土壌においての防除効果は、不明と判定することができる。
【0047】
もしくは、病原微生物を収納した微生物センサーと比較して、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)を収納した微生物センサーの電極応答が著しく小さい場合には、病原微生物の増殖速度が速く、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の増殖速度が遅い為に、病原微生物を抑える事は難しく、今後、病害の発生の危険性は、さらに増大する方向に向かう事が予測できる。この場合、該一般土壌微生物は、その土壌において防除効果が少ないと判定することができる。
【0048】
現状の発病度、病原菌と一般土壌微生物の菌密度または存在比率の測定結果から、現状を把握した後にバイオセンサーを用いた電極応答比の結果を判断すれば、発病の危険性についての予測精度を、より向上させることが可能である。例えば、病原菌が一般土壌微生物に対して、菌密度または存在比率が著しく高い場合には、防除効果は相対的に少なくなる(表29参照)。また、発病程度が高い場合には防除価が低く出る傾向が認められる(表24、表25、表27の各2回の試験(1)と(2)の発病度と防除価を参照のこと)。例えば、発病度90%以上の激発生条件下では、電極応答比が有為に高くとも短期間では病害軽減効果を発現させる事は難しい(実施例12より)。
【0049】
現場の土壌における発病度は、実施例11や12に示したように、作物を作付けして、病害発生状況を調査することにより評価することができる。また、土壌における病原微生物および一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の菌数は、選択培地を用いた一般的な希釈平板法または、直接顕鏡法、抗体法、DNAプローブを用いた方法などで各目的の微生物の土壌中における存在比率を把握する事ができる。また、希釈平板法で得られたコロニーから病原微生物や優先種を選別して単離し、本発明の微生物センサーに固定化することができる。また、圃場に投入する予定の拮抗微生物の菌数は、資材によっては菌密度が記載されているものもあるが、一般的な希釈平板法などで容易に測定できる。
また、本発明を応用すれば、以下に示すような、病害軽減対策に関する、土壌改善提案(処方箋)の作成を行うことができる。
【0050】
現場土壌をポットに詰めて、肥料、農薬、土壌改良資材などの投入や、土壌pH、有機物含量などの調整、透水性、保水性、通気性、生物性などの土壌改良を行い、土壌の化学性、物理性、生物性を改良する事ができるが、これに伴い、同時に病原微生物および一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の増殖速度も変化する。どの資材をどの程度投入した場合に、病原微生物の増殖速度が小さくなるかを病原微生物を収納したセンサーを用いる事により、容易に判断する事ができる。同様に、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の増殖速度が大きくなるかについて、一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)を収納した微生物センサーを用いる事により、容易に判断する事ができる。
【0051】
上記の結果から、両微生物センサーの電極応答比(一般微生物/病原微生物)が最も大きくなる条件、すなわち、病原微生物の酸素消費速度が小さく、かつ拮抗微生物の酸素消費速度が大きくなる土壌改良の最適化(目標値)を明確にでき、現場土壌環境に合わせた改善提案(処方箋)を作成する事ができる。
【0052】
また、本発明は、上記本発明の方法に用いるためのキットを提供する。例えば、土壌微生物の増殖能力を測定する方法に用いるキットにおいては、それぞれ酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数センサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを含む。
【0053】
また、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価する方法、あるいは、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価する方法に用いるキットにおいては、酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを含む。
これらキットにおいては、使用説明書などをさらに含んでいてもよい。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕 フザリウム(Fusarium)属菌を収納した微生物センサーの作成とその応答性
植物病原微生物の代表として、レタス根腐病菌(Fusarium oxysporum f. sp. Lactucum)SN3B株を用いた。
SN3B株は、長野県洗馬地区にて分離され、長野野菜花卉試においてnit-の遺伝子欠損マーカーを導入された株であり、長野県中信農業試験場より分譲して戴いた。
フザリウム属菌をポテトデキストロース液体(PD broth) 培地にて25℃、1週間培養した。ガーゼろ過により菌糸を除去した後、遠心分離により胞子を集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH 7.0)にて2回洗浄した。この時の菌濃度は、OD660=1.33であった。血球計数盤にて胞子数を計数した結果、胞子数は、1.0 x 106個 / mlであった。
【0056】
培養液2mlの菌体を0.45 μmのニトロセルロースフィルター上に吸引・固定化し、微生物センサーユニットに収納した。(収納した胞子数2.0 x 106個 / filter)
50mlの20mMリン酸緩衝液(pH 7.0)をビーカーに入れ、ウォーターバスで水温を30℃とした。フザリウム属菌を収納した微生物センサーを挿入し、スターラーにて緩やかに攪拌した。注)(攪拌速度により空気中からの酸素供給速度が変化する為、スターラーの回転数は固定して実験を行った(回転数:約100〜200 rpm))。
微生物電極の膜に発生する電流値(nA)を計測した。
【0057】
まず最初に、ベースラインが安定したところで、各種有機物を添加しフザリウム属菌を収納した微生物センサーの応答性を確認した。結果を表1および図1に示す。
結果は、グルコース、フラクトースのような単一糖類を添加するよりも、実際に培養する培地PD broth等を用いるほうが良く応答した。また、PD brothの添加量としては、500μl / 50 mlが最も高い応答を示した。
【0058】
【表1】

【0059】
次に、各種土壌および堆肥のサンプルに20 mM燐酸緩衝液(pH 7.0)を加え、よく混合後、室温でインキュベートした後、遠心分離を行い、上清液を採取した。結果を表2に示した。30℃に保温した20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)50 mlにフザリウム属菌を収納した微生物センサーを挿入し、ベースラインが安定している事を確認した後、各種土壌・堆肥サンプルの上清液5 mlを加え、フザリウム属菌を収納した微生物センサーの応答性を調べた。
【0060】
表2の結果から、フザリウム属菌を収納した微生物センサーが、各種土壌サンプル、堆肥サンプルに対してよく反応する事がわかる。黒土の場合、インキュベーションが短時間(2時間程度)であれば、フザリウム属菌が利用できる有機物が少量存在するものの、2日も置くと電極の応答は見られなかった。このことは、フザリウム属菌が容易に消費できる有機物が少なくなった場合と、フザリウム属菌の生育や呼吸を阻害を引き起こすような土壌の静菌作用(unknown factor)によるものの2つの場合が考えられるが、肉眼観察の結果から上清液の色は2日置いたものの方が明らかに濃く、有機物含量は高いと判断された。従って、この結果は、黒土由来の静菌作用物質(unknown factor)が2日インキュベーションにより出てきた可能性が高いと考えられる。また、有機物含量の明らかに少ない赤玉土では非常に小さな値となった。完熟堆肥(鶏糞)や薬草堆肥、腐葉土などの有機物の豊富なサンプルでは、明らかにフザリウム属菌の初期の酸素消費が高くなる傾向が認められた。長後農場の様な一般の土壌サンプルにおいてもフザリウム属菌を収納した微生物センサーは、充分に応答する事が確かめられた。
また、土壌および堆肥サンプルからの抽出については、振とうせずに2日間静置してもあまり効果なく、むしろ2時間でもよく振とうした方が良いことが判った。
【0061】
【表2】

【0062】
〔実施例2〕バチルス(Bacillus)属菌を収納した微生物センサーの作成とその応答性
拮抗微生物の代表として、バチルス セレウス(Bacillus cereus K12N)株を用いた。
バチルス属菌をL broth培地に植菌し、30℃で24時間培養した。遠心分離により集菌し、20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)で2回洗浄した。菌濃度は、OD660 = 0.19であった。生菌数は、約6.0 x 106 cfu / mlと算出された。
培養液2 ml相当量を0.45 μmのニトロセルロースフィルター上に吸引して固定化し、微生物センサーユニットへ収納した(収納した菌体量は1.2 x 107 cfu / filter)。
50 mlの20 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)をビーカーに入れ、ウォーターバスで水温を30℃とした。バチルス属菌を収納した微生物センサーを挿入し、スターラーにて緩やかに攪拌した。
微生物電極の膜に発生する電流値(nA)を計測した。
【0063】
まず最初に、ベースラインが安定したところで、各種有機物を添加しバチルス属菌を収納した微生物センサーの応答性を確認した(表3)。
結果は、アルブミンを除き、バチルス属菌を収納した微生物センサーは応答する事がわかった。アルブミンは、水に充分溶解できなかった為、応答しなかったと考えられた。また、グルコースよりも実際にバチルス属菌の培養に使われるアミノ酸・タンパク質などを豊富に含む基質である酵母エキス、トリプトン、ペプトンなどの方がバチルス属菌を収納した微生物センサーの応答性が良かった。
【0064】
【表3】

【0065】
次に、各種土壌および堆肥のサンプルに20mM燐酸緩衝液(pH7.0)を加え、よく混合後、室温でインキュベートした後、遠心分離を行い、上清液を採取した。30℃に保温した20mMリン酸緩衝液(pH7.0)50mlにバチルス属菌を収納した微生物センサーを挿入し、ベースラインが安定している事を確認した後、各種土壌・堆肥サンプルの上清液5mlを加え、バチルス属菌を収納した微生物センサーの応答性を調べた。結果を表4に示した。
結果は、有機物を豊富に含む完熟堆肥(鶏糞)(商品名:バイテクバイオエース 販売会社(株)サカタのタネ)および腐葉土(商品名:バイオエースソフト 販売会社(株)サカタのタネ)、薬草堆肥(商品名:ツムランド ツムラ社製)および黒土(市販品)では、バチルス属菌を収納した微生物センサーの応答が確認された。また、現場の土壌サンプルである長後農場ハウスおよび長後農場の露地の土壌サンプルにおいても応答性が確認された。一方、有機物含量の少ない赤玉土(市販品)では、応答しなかった。
【0066】
【表4】

【0067】
〔実施例3〕バチルス属菌を収納した微生物センサーとフザリウム属菌を収納した微生物センサーの応答性の比較
実施例1および実施例2と同様に培養した対数増殖期のバチルス(Bacillus) 属菌の菌体およびフザリウム属菌の胞子懸濁液を集菌、洗浄後、660nmの吸光度を測定した。各菌濃度はバチルス属菌:0.43、フザリウム属菌:0.1だった。それぞれの菌1.0 mlずつをニトロセルロースフィルター上に吸引して固定化した後、微生物センサーユニットに収納した。
別途、希釈平板法により、生菌数を測定し、センサーユニットに収納したバチルス属菌は、1.4 x 107 cfu / filter、フザリウム属菌は1.0 x 105 cfu / filterと算出された。
通常の土壌において一般のバチルス属菌の菌密度は105〜106 cfu / g 土壌、一般のフザリウム属菌は102〜103 cfu / g 土壌である事から、収納した菌体量は、バチルス属菌で約14〜140g 土壌中の菌量に相当する。また、フザリウム属菌では、約100〜1000g 土壌中の菌量に相当する。
各種基質に対する応答性を調べた結果を、表5に示した。表5の結果から明らかなように、バチルス属菌の方が、フザリウム属菌よりも酵母エキス、L broth、完熟堆肥「バイテクバイオエース」に対する電極の応答性が良い事が判った。
【0068】
【表5】

【0069】
〔実施例4〕微生物センサーの応答性に対する土壌または堆肥の抽出時間の影響
実施例1のフザリウム属菌の胞子懸濁液をニトロセルロースフィルターに吸引、固定化し、微生物センサーユニットに収納した(OD660 = 1.45の胞子懸濁液を0.35 ml収納:約5 x 105 cfu / filiter)。
堆肥サンプルとしては、市販の鶏糞完熟堆肥である「バイテクバイオエース」を用いた。土壌サンプルとしては、市販の「黒土」を用いた。各試料サンプル10 gに対して10 mM 燐酸緩衝液 (pH 7.0) 40 mlを添加し、3時間、1日、2日、3日振とうし、遠心分離機にて3,000 rpm、30分遠心し、上澄み液を得た。微生物センサーの応答性について、酵母エキスを基質として問題ないことを確認後、堆肥および土壌サンプルの抽出液を用いて応答性を調べた。
結果を表6に示した。
【0070】
【表6】

【0071】
表6の結果より、堆肥および土壌からの抽出に関しては、1日〜2日間振とうして抽出する方法が、データの振れも少なく安定した結果が得られる事がわかった。
【0072】
〔実施例5〕各種生物農薬、微生物資材および土壌微生物を収納した微生物センサーの作成とその応答性
【0073】
【表7】

【0074】
各種微生物をL brothにて25℃、1夜振とう培養する事により微生物を活性化した。吸光度計で、660 nmの吸光度を測定して、菌密度を算出した。その後、集菌、洗浄、フィルターに吸引、固定化し、センサーユニットへ収納した。
各種基質を用いて、各種微生物を収納した微生物センサーの応答性を調べた。結果を表8〜10に示した。
【0075】
表8および表9から判るように、L brothまたは酵母エキスを基質とした場合には、微生物センサーに収納した微生物の種類により応答に強弱はあるものの、いずれの微生物も応答する事がわかった。
表10および表11から判るように完熟堆肥(鶏糞)や黒土などの堆肥サンプルや土壌サンプルに対してもいずれの微生物センサーも、応答する事が確かめられた。
【0076】
【表8】

【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
【表11】

【0080】
〔実施例6〕アブラナ科根こぶ病菌を収納した微生物センサーの作成とその応答性
アブラナ科根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)は、培養できない微生物である為、根こぶ病の発生している圃場より、ハクサイの根部に発生した根こぶを採取し、ミキサーで粉砕し、集菌・洗浄を行う事により、胞子懸濁液を調整した。胞子密度は、血球計数盤で計測し、2.8 x 109 胞子 / mlであった。
上記胞子懸濁液を100倍に希釈し、ニトロセルロースフィルター上に200 μl、1.0 ml、3.0 mlを滴下し、吸引、固定化して、センサーユニットへ収納した。酵母エキスを基質として作成した根こぶ病菌を収納した微生物センサーの応答性を確認した。結果を表12および図2に示した。収納した胞子数と酵母エキスに対する微生物センサーの応答には、高い正の相関が認められた。
【0081】
【表12】

【0082】
〔実施例7〕健全土壌と発病土壌における微生物センサーの応答性
健全土壌としては、岩手県西根町のY氏ハウスと、I氏ハウスの土壌サンプルを用いた。発病土壌としては、長野県の中信農業試験場の根こぶ病発病土壌、根腐病発病土壌、長野県川上村の根腐病発病土壌サンプルを用いた。
収納する植物病原性微生物としては、アブラナ科根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)、レタス根腐病菌(Fusarium oxysporum f. sp. Lactucum) SN3B株を用いた。また、収納する拮抗微生物としては、バチルス セレウス(Bacillus cereus) K12N株を用いた。
収納する菌体量は、植物病原性微生物については、一般的な発病土壌における菌密度の約10〜100倍とし、拮抗微生物については、一般的な土壌における土壌中の菌密度の約10〜100倍とした。
結果を表13および表14に示した。
【0083】
【表13】

【0084】
【表14】

【0085】
表13の結果から、拮抗微生物/根こぶ病菌の電極応答比が、発病土壌においては低く(0.18)、健全土壌では高い(3.33, 1.09)事が判った。
表14の結果から、拮抗微生物/根腐病微生物の電極応答比が、発病土壌においては低く(0.39, 1.46)、健全土壌では高い(1.95, 1.84)事が判った。
これらの結果から、拮抗微生物/植物病原性微生物の電極応答比が、発病土壌では低く、健全土壌では高い傾向を示す事が判った。
【0086】
〔実施例8〕土壌の滅菌処理の効果と微生物センサーの応答性について
中信農業試験場およびその周辺地区はアブラナ科の根こぶ病の発生が多く、クロルピクリンなどの土壌消毒を行っても一時的な効果に留まり、直ぐに根こぶ病の再発が認められるようになる。この特徴は、一般的な連作障害土壌といえる。
【0087】
ところが、中信農業試験場においてレタス根腐病の人工汚染土壌作成を行ったところ、接種後1作目は発病するものの、2作目には発病しなくなり、根腐病発病土壌の作成には毎年病原菌を人工接種する必要があった、この特徴は、発病抑止型土壌(suppressive soil)の特徴といえる。
【0088】
また、川上村地域は,30年以上のレタス連作地域もあり、近年レタス根腐病菌の発生が確認され,年々発生の拡大が報告されている。また、土壌消毒などの対策が講じられているものの、有効な手段は見出されていない。
【0089】
上記の発病土壌ではあるものの、薬剤処理などにより容易に回復しやすい土壌(中信地区・根腐病人工発病土 = 抑止型土壌)および、薬剤処理を行っても、病害が再発しやすい土壌(中信地区・根こぶ病自然発病土、および川上村・根腐病自然発病土 = 連作障害土壌)について、土壌の滅菌処理が微生物菌を収納した微生物センサーの応答性に及ぼす影響について調査した。
【0090】
【表15】

【0091】
表15の結果から、人工接種によって発病させても薬剤処理などにより容易に回復しやすい中信地区・根腐病発病土の場合には、拮抗微生物/病原微生物の電極応答比が滅菌処理により5.07と高くなっており、この事は、滅菌処理後の土壌では、拮抗微生物の呼吸活性が病原微生物の呼吸活性よりも相対的に高くなっていることを示している。すなわち、滅菌処理後に両微生物が土壌中に侵入してきた場合に拮抗微生物の方が、病原微生物(根腐病菌)よりも増殖しやすい環境であり、病害再発の危険性が低い事が予想された。この結果は、人工的に病原菌を接種しても2作目には病害が消失するという抑止型土壌の特徴を裏付ける結果となった。
【0092】
一方、発病後,土壌消毒などの対策が一時的なものとなりやすい中信地区・根こぶ病自然発病土や川上村・根腐病自然発病土では、滅菌処理土壌の拮抗微生物/病原微生物の電極応答比はそれぞれ0.32と0.66と低く、拮抗微生物の呼吸活性よりも病原微生物の呼吸活性が高くなっていることが判った。すなわち、滅菌処理後に両微生物が土壌中に侵入してきた場合に拮抗微生物よりも病原微生物の方が増殖しやすい環境であり、病害の再発の危険性が高いことが予想された。この結果は、現場で土壌消毒などを行っても、効果が出にくい、また再発しやすいという結果を裏付ける結果となった。
【0093】
これらの結果から、拮抗微生物/病原微生物の電極応答比が高い程、病害発生の危険性が低く、拮抗微生物/病原微生物の電極応答比が低いほど、病害の発生の危険性が高いことが予測された。
【0094】
〔実施例9〕一般土壌微生物の単離と微生物センサーへの固定化とその応答性の確認
健全土壌としては、岩手県西根町のI氏ハウスの土壌サンプルを用いた。発病土壌としては、長野県の中信農業試験場の根こぶ病発病土壌、長野県川上村の根腐病発病土壌サンプルを用いた。各土壌サンプルより、希釈平板法により土壌微生物を分離した。培地は、細菌用としてアルブミン寒天培地を、糸状菌用としてローズベンガル寒天培地を用いた。培地上に出現したコロニーについて、コロニーの色、輪郭、表面の状態、大きさにより分類を試みた。細菌は、色4種類*輪郭2種類*表面の状態4種類*大きさ3種類に分類され、計96パターンに分類できた。糸状菌は、色7種類*輪郭2種類*表面の状態4種類*大きさ3種類に分類され、168パターンに分類できた。結果を表16に示した。
【0095】
【表16】

【0096】
パターン分類により分類した後、各土壌における優先種(1種)を単離して培養し、微生物センサーの作成に使用した。尚、単離した微生物は、未同定である。
【0097】
次に、微生物センサーユニットへ収納した各土壌微生物の酵母エキスに対する応答性を調べた。結果を表17に示した。
【0098】
【表17】

【0099】
表17の結果から、いずれの土壌微生物を固定化した酸素電極も酵母エキスに対して良く応答する事がわかった。
【0100】
〔実施例10〕発病土壌と健全土壌に対する病原微生物を収納した微生物センサーと一般土壌微生物を収納した微生物センサーの応答性の比較
病原微生物としては、根こぶ病菌と根腐病菌を用いた。一般土壌微生物としては、実施例9で単離した微生物(各土壌サンプルの優先種:6菌株)を用いた。各微生物を培養後、各微生物センサーユニットへ収納した。尚、一部の微生物について培養した菌量が充分量確保できなかった為、酵母エキスに対する応答性を100とした場合の相対値で現した。結果を表18および表19に示した。
【0101】
【表18】

【0102】
表18の結果から、中信地区の根こぶ病発病土(発病度:100%)では、病原微生物(根こぶ病菌)の菌密度が106〜7 cfu / g 土壌と高いだけでなく、一般細菌または、一般糸状菌を収納した微生物センサーの根こぶ病菌(病原菌)を収納した微生物センサーに対する電極応答比は低かった(0.029, 0.753)。この事は、病原微生物の呼吸活性が相対的に高く、一般土壌微生物の呼吸活性が相対的に低いことを意味しており、さらに病害が拡大する方向に傾いている事が予測できた。事実、中信地区の汚染圃場では、根こぶ病の発生は激発の状態が続いている。
【0103】
一方、西根地区の健全土壌では、病原微生物(根こぶ病菌)は検出されず、かつ電極応答比は、中信地区の根こぶ病発病土に比べて高い(0.659, 0.945)事から、病害に対する抵抗性が高く、仮に根こぶ病菌が侵入してきた場合でも、中信地区の根こぶ発病土よりも病害の拡大速度は遅くなる事が予測できた。事実、現在まで現場土壌において、根こぶ病の発生は確認されていない。
【0104】
【表19】

【0105】
表19の結果から、川上村根腐れ病発病土(発病度:40%)では、病原微生物(根腐れ病菌)の菌密度が103〜4 cfu / g 土壌と高いだけでなく、病原微生物の呼吸活性が相対的に高く、一般土壌微生物の呼吸活性は相対的に低く、一般細菌、一般糸状菌の病原菌に対する電極応答比は、それぞれ0.059, 0.490と低かった。このことから、さらに病害が拡大する方向に傾いている事が予測できた。事実、川上村地区では、レタス根腐病の発生面積は、年々拡大している。
【0106】
一方、西根地区の健全土壌では、病原微生物(レタス根腐病菌)は検出されず、かつ電極応答比は、1.769, 2.537と川上村根腐病発病土に比べて有為に高い事から、病害に対する抵抗性が高く、仮に根腐病菌が侵入した場合でも、川上村根腐病発病土よりも病害発生の危険性は低い事が予測できた。事実、現在まで、現場土壌において根腐病の発生は確認されていない。
【0107】
実施例7、8、10の電極応答比の結果(表13、14、15、18、19)をまとめて表20、21に示した。
【0108】
【表20】

【0109】
【表21】

【0110】
これらの結果から、土壌微生物として拮抗微生物または、現場土壌から単離した優先種(一般土壌細菌および一般土壌糸状菌)を用い、病原菌との電極応答比(一般土壌微生物/病原微生物)を調べる事により、土壌環境が発病の危険性が高い状態にあるか、発病の危険性が低い状態にあるかを予測する事が可能となった。これらの予測結果は、現場における病害の発生状況に関する調査結果と良く一致した。
【0111】
〔実施例11〕ピシウム菌によるトマト青枯病防除と微生物センサーによる予測
2003年5月29日、育苗培土(モジュラーシード William Sinclair Holdings plc社製)にピシウム オリガンドラム(Pythium oligandrum)MMR2株各種資材を添加し、128穴セルトレーに詰め、トマト(品種:麗夏)の種子を播種した。6月11日にセルトレーより5cm連結ポットに鉢上げし(培土:スーパーミックスA 販売会社(株)サカタのタネ)、トマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum)を人工接種した。1ヶ月栽培後、発病度、発病株率を調査した(表22)。
【0112】
【表22】

【0113】
ピシウム オリガンドラム(Pythium oligandrum)MMR2株は、菌寄生性と抵抗性誘導を持つ拮抗微生物であるが、この菌を投与する事により、発病度は46.3、発病株率は50.0と低下し、防除価は22.9とトマト青枯れ病菌に対して防除効果を示した。
なお、投入した両微生物の菌数は、トマト青枯病菌が7 x 107 cfu / g土壌、ピシウム属菌が1 x 104 cfu / g土壌であった。
【0114】
トマト青枯れ病菌は、TTC寒天培地のシャーレ上で30℃、1〜2日培養し、ピシウム属菌は、V8ジュース培地を入れた三角フラスコにて、25℃、1ヶ月振とう培養した。両菌株を集菌後、それぞれ微生物センサーユニットに収納した。
両微生物を固定化した電極について酵母エキスに対する応答を確認した。(トマト青枯れ病菌:196 nA、ピシウム属菌:23 nA)。
培土に対する両微生物菌を収納した微生物センサーの応答を調べた。結果を表23に示した。
【0115】
【表23】

【0116】
表23の結果より、育苗培土および鉢上げ培土において接種したピシウム属菌は、トマト青枯病菌よりも、この土壌環境に適応してよく増殖する事が予測される。この結果、トマト青枯病の発病が軽減できたと考えられる。
すなわち、本発明の微生物センサーによる予測結果と実際の防除試験結果が、よく一致することがわかった。
【0117】
〔実施例12〕各種微生物資材施用が土壌病害に及ぼす影響と微生物センサーによる病害軽減の予測
2003年5月29日と8月26日、各種微生物資材を培土(メトロミックス(Scotts-Sierra Horticultural Products Company製)またはモジュラーシード)に添加し、128穴セルトレーに詰め、トマト(品種:麗夏)、レタス(品種:レッドウェーブおよびサリナス)、コマツナ(品種:きよすみ)、ホウレンソウ(品種:プラトン)を播種した。トマト、レタス、ホウレンソウは、6月11日と9月9日にセルトレーから、20穴または24穴連結ポットに鉢上げした。鉢上げ培土はスーパーミックスAを用いた。コマツナは、40穴連結ポットに鉢上げした。鉢上げ培土は、長野中信農試の根こぶ病発病土にスーパーミックスAと稲育苗培土を2:1:1で混合したものを用いた。
【0118】
植物病原微生物を接種し、経時的に発病状況を観察した。
微生物資材および植物病原微生物の接種菌密度は、土壌に接種する前の菌濃度から算出した。
なお、微生物資材のうちバイオ21(販売会社(株)サカタのタネ)は、バチルス属菌であり、MMR3は、独立行政法人北海道農業試験場より分譲していただいた菌寄生性と抵抗性誘導を持つピシウム属菌である。
【0119】
トマト青枯病に関しては、7月4日と9月18日に発病調査を実施した。発病度の判定基準は、0:発病なし、1:葉の一部に萎凋または黄化が認められる(軽発生)、2:葉の萎凋が約50%以下認められる(中発生)、3:葉の萎凋が50%以上あり、葉の一部が枯死している(激発生)、4:枯死、の5段階で判定し、発病度、発病株率、防除価を算出した。結果を表24に示した。
【0120】
レタス根腐病については、7月11日と10月6日に導幹部を切断して発病度を判定した。発病度の判定は、0:導幹部に褐変が認められない、1:導幹部にわずかに褐変が認められる(軽発生)、2:導幹部に褐変が認められる(中発生)、3:導幹部の褐変が著しく、地上部の葉の黄化、萎凋が認められる(激発生)、4:枯死、の5段階で判定し、発病度、発病株率、防除価を算出した。結果を表25に示した。
【0121】
ホウレンソウの萎凋病については、10月6日に導幹部を切断して発病度を判定した。発病度の判定は、レタスの場合と同様の基準で行った。結果を表26に示した。
【0122】
コマツナ根こぶ病については、7月11日と10月6日に根部を洗浄して根こぶの着生程度で発病度を判定した。発病度の判定は、0:根こぶの着生が認められない。1:毛細根にわずかに根こぶの着生が認められる(軽発生)、2:側根または主根に小さなこぶの着生が認められる(中発生)、3:大きなこぶの着生が認められる(激発生)、4:枯死、の5段階で判定し、発病度、発病株率、防除価を算出した。結果を表27に示した。
【0123】
【表24】

【0124】
【表25】

【0125】
【表26】

【0126】
【表27】

【0127】
各種微生物資材および植物病原微生物を収納した微生物センサーを作成する為に、細菌類は、培地Lbrothを用い、30℃、12日振とう培養し、糸状菌類は、PD broth培地を用いて25℃、7日振とう培養した。
集菌、洗浄後、ニトロセルロースフィルターへ固定化し、センサーユニットへ収納した。
鉢上げ培土に対する各微生物センサーの応答性および拮抗微生物/病原微生物の電極応答比を求めた結果を表28に示した。
【0128】
【表28】

【0129】
微生物資材の投入量は、原則として各資材メーカーまたは開発関係者の薦めている方法に従って行ったが、結果として、拮抗微生物として投入した微生物菌量と、病原微生物の接種量に非常に差がある場合があった。
土壌微生物においては、菌密度の差が10倍程度ではあまり問題にならないことが多いが、100倍以上の差があるとこれを考慮する必要がある。
電極応答比の結果に菌密度の補正を考慮した下記の表に従って、病害軽減効果を判定することとした。
【0130】
【表29】

【0131】
表29に従って、微生物資材の効果を予測し、実際の防除効果の結果と比較した。
なお、防除価10.0以上を防除効果ありとした。結果を表30に示した。
【0132】
【表30】

防除価10以上を効果ありと評価する。
電極応答比は、拮抗微生物/病原微生物の両微生物センサーの電極応答比
菌密度補正<<または>>は、100倍以上の菌数差がある場合に行なった。
【0133】
【表31】

【0134】
また、表24、表25、表27の各2回の試験(1)と(2)の発病度と防除価を比較すると、明らかに、発病程度が高い場合には防除価が低く出る傾向が認められた(表27のマイコストップ以外の全データにおいて)。 特に発病度90以上の激発生条件下では、防除効果がマスクされてしまう事がある。例えば、トマト青枯れ病菌に対するHAI00377株の電極応答比は、2.90と有意に高く(表28)防除効果はあると判定されるが、表24(2)の発病度は100.0、(無処理区も99.0)と激発条件であった為、結果として防除価は-1.1となり、防除効果はマスクされてしまったと考えられる。このような場合には、発病度90%以下の条件で、再度試験を行うのが望ましい。
【0135】
バイオセンサーを用いた予想結果と、実際の防除試験結果の相関性を見ると24の試験のうち22の予測が的中していた。すなわち、予測的中率は、91.7%と高率であり、信頼性は高いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の土壌微生物動態予測用微生物センサーを用いる事により、土壌微生物の動態解析、特に土壌伝染性植物病原微生物および一般土壌微生物(拮抗微生物を含む)の現場土壌における動態予測が可能となる。さらに、現場土壌の病害発生の危険性について早期予測が可能となり、早期防除対策につなげる事が可能となる。病害が既に発生している現場圃場において、発病予測ができるだけでなく、病害の未発生圃場においても将来の病害発生の危険性について予測する事ができる。また、この予測結果に基づいて、土壌改善提案につなげる事が可能となる。
【0137】
多様な現場の土壌検体をそのまま水などの溶媒に懸濁し、その上清液を本発明のバイオセンサーに適用すれば、特別な処理、技術の必要はなく、誰でも簡単かつ短期間で目的の土壌微生物がその土壌環境に適応して増殖する可能性があるかどうかの判定が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌における土壌微生物の増殖能力を測定する方法であって、
(a)それぞれ酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数のセンサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度の差異を計測する、ことを含む方法。
【請求項2】
土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性を評価する方法であって、
(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことを含み、
一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合に、測定する土壌における、土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害の発生または拡大の危険性が少ないと判定される方法。
【請求項3】
土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対する一般土壌微生物の防除効果を評価する方法であって、
(a)酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを、測定する土壌の土壌懸濁液に接触させ、
(b)それぞれのセンサーの出力電流の減少量または減少速度を計測する、ことを含み、
一般土壌微生物における出力電流の減少量または減少速度が、土壌伝染性植物病原微生物における出力電流の減少量または減少速度より有意に高い場合に、測定する土壌における、該土壌伝染性植物病原微生物による土壌病害に対し、該一般土壌微生物が防除効果を有すると判定される方法。
【請求項4】
それぞれ酸素電極と土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有する複数のセンサーであって、それぞれのセンサーの収納部に異なる土壌微生物が収納されている複数のセンサーを含む、請求項1に記載の方法に用いるためのキット。
【請求項5】
酸素電極と一般土壌微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーおよび酸素電極と土壌伝染性植物病原微生物を収納した収納部と固定部材からなるユニットを有するセンサーを含む、請求項2または3に記載の方法に用いるためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/049854
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515577(P2005−515577)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016422
【国際出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(591042403)株式会社サカタのタネ (10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】