説明

土壌洗浄剤組成物

【課題】軽油等の油が染みこんだ土壌に対する洗浄力が高く、また洗浄液から油の回収が容易な土壌洗浄剤組成物の提供。
【解決手段】アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤(A)0.1〜5質量%と、下記式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)との共重合体の中和塩であって、(b1)と(b2)のモル比〔(b1):(b2)〕が7:3〜3:7であり、かつ重量平均分子量が5,000〜100,000である共重合体の中和塩(B)0.1〜5質量%と、水(C)90〜99.8質量%とからなり、(A)成分と(B)成分の質量比〔(A)/(B)〕が1/1〜20/1である土壌洗浄剤組成物。


(式中R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1〜18のアルキル基、アルコキシル基、フェニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油等の油が染みこんだ土壌に対する洗浄力が高く、また洗浄液から油の回収が容易な土壌洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン、軽油、重油、潤滑油等の油を取扱っていた工場、製油所、ガソリンスタンドでは、貯蔵タンク等の施設の破損によって土壌に油が染みこんでいるケースがある。油を含む土壌によって、油臭や油膜による生活環境保全上の支障が生じる。
【0003】
油が染みこんだ土壌の対策として、高温加熱による焼却処理、微生物による分解処理、洗浄剤による浄化処理が挙げられる。処理にかかる時間、費用の面から、洗浄剤による浄化処理が有利である。具体的にはβ−アラニン型両性界面活性剤を使用する土壌洗浄剤(特許文献1)が知られている。しかしながら油が染みこんだ土壌に対する洗浄力を満足するものには至っていない。また非イオン性界面活性剤とポリカルボン酸系重合体を使用する土壌洗浄剤(特許文献2)が知られている。しかしながら洗浄後の洗浄液が乳化してしまい、洗浄液からの油の回収が困難であり、満足するものには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−17955号公報
【特許文献2】特開2003−119495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、その目的は、軽油等の油が染みこんだ土壌に対する洗浄力が高く、また洗浄液から油の回収が容易な土壌洗浄剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤と、特定のポリカルボン酸系共重合体の中和塩を所定の質量比で含有する土壌洗浄剤組成物が、軽油等の油が染みこんだ土壌に対する洗浄力が高く、また洗浄液から油の回収が容易であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤(A)0.1〜5質量%と、
下記式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)との共重合体の中和塩であって、(b1)と(b2)のモル比〔(b1):(b2)〕が7:3〜3:7であり、かつ重量平均分子量が5,000〜100,000である共重合体の中和塩(B)0.1〜5質量%と、
水(C)90〜99.8質量%とからなり、
(A)成分と(B)成分の質量比〔(A)/(B)〕が1/1〜20/1である土壌洗浄剤組成物。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1〜18のアルキル基、アルコキシル基、フェニル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、軽油等の油が染みこんだ土壌に対する洗浄力が高く、洗浄液から油の回収が容易であるから、満足できる洗浄効果および効率良い油回収効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の土壌洗浄剤組成物は、(A)成分の界面活性剤、(B)成分の共重合体の中和塩、および(C)成分の水を含有する。まず、(A)成分について説明する。
【0012】
〔界面活性剤(A)〕
本発明に用いる(A)成分は、アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤である。
アシルタウリン型陰イオン界面活性剤は、N−アルキルタウリンのアミノ基の水素がアシル基で置換されたアミド結合体と、対イオンを形成し得る化合物とを混合して塩とすることによって得られる。上記アシル基は、炭素数が12〜18であり、好ましくは16〜18である。上記アシル基は、直鎖構造および分岐構造のいずれでもよく、飽和アシル基および不飽和アシル基のいずれでもよい。
【0013】
上記対イオンを形成し得る化合物は、対イオンを形成し得る原子または基を有する化合物であり、例えば、アルカリ金属、アンモニウム、有機アンモニウムが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好ましくは、ナトリウム、カリウムである。有機アンモニウムとなり得る有機アミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンが挙げられる。
【0014】
アシルタウリン型陰イオン界面活性剤の具体例としては、例えば、ヤシ油脂肪酸アシルメチルタウリンナトリウム、オレオイルメチルタウリンナトリウム、牛脂脂肪酸アシルメチルタウリンナトリウムなどが挙げられる。
【0015】
アシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤としては、例えば、アシルグルタメート型陰イオン界面活性剤、アシルアスパラゲート型陰イオン界面活性剤、アシルグリシネート型陰イオン界面活性剤、アシルザルコシネート型陰イオン界面活性剤、アシル−β−アラニネート型陰イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、いずれもアミノ酸のアミノ基の水素がアシル基で置換された形態のアミド化合物と、対イオンを形成し得る化合物とを混合して塩とすることによって得られる。上記アシル基は、炭素数が12〜18であり、好ましくは16〜18である。上記アシル基は、直鎖構造および分岐構造のいずれでもよく、飽和アシル基および不飽和アシル基のいずれでもよい。また、対イオンを形成し得る化合物としては、上記に例示した対イオンが挙げられる。
【0016】
アシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤の具体例としては、例えば、オレオイルグルタミン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アシルアスパラギン酸カリウム、ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム、ラウロイルザルコシンナトリウム、ラウロイル−β−アラニンナトリウムなどが挙げられる。
【0017】
(A)成分は、上述のとおり、アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤であるが、アシルタウリン型陰イオン界面活性剤を少なくとも用いることが好ましい。
【0018】
(A)成分の組成物中の配合量は、0.1〜5質量%の範囲であり、好ましくは0.5〜〜5質量%の範囲である。(A)成分が0.1質量%未満では十分な洗浄力を得ることができないことがあり、5質量%を超えても配合量に見合った効果が得られず経済的でないことがある。
【0019】
〔共重合体の中和塩(B)〕
本発明に用いる(B)成分は、上記式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)との共重合体の中和塩である。
【0020】
上記式(1)において、式中R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜18のアルキル基、アルコキシル基、フェニル基である。
式(1)のモノマー(b1)は、炭素数3〜20の直鎖または分岐鎖のα−オレフィン、スチレン系モノマー、アルキルビニルエーテルである。具体的には、1−プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセンなどの直鎖α−オレフィン;イソブチレン、2−メチルペンテン、ジイソブチレンなどの分岐鎖α−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、ヘプチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ノニルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、ウンデシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、トリデシルビニルエーテル、テトラデシルビニルエーテル、ペンタデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、ヘプタデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、ノナデシルビニルエーテル、エイコシルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテルが挙げられ、低温安定性の点から分岐鎖α−オレフィンが好ましく、特にジイソブチレンが特に好ましい。
【0021】
(B)成分の中和塩は、前記共重合体のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、または有機アンモニウム塩である。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好ましくは、ナトリウム、カリウムである。有機アンモニウムとなり得る有機アミンとしては、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンが挙げられる。なお、(B)成分はモノ塩またはジ塩のいずれでも構わない。
【0022】
(B)成分の中和塩は、式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)とを重合した後、中和することにより得られる。例えば、炭素数3〜20の直鎖または分岐鎖のα−オレフィン、スチレン系モノマー、アルキルビニルエーテル等のモノマー(b1)と、無水マレイン酸(b2)とを原料として、有機溶媒中で重合開始剤を用いて重合した後、アルカリ金属、アンモニウム、有機アンモニウム等の塩基性化合物の水溶液で中和することにより得られる。
【0023】
(B)成分の共重合体は、式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)とをモル比〔(b1):(b2)〕7:3〜3:7で、好ましくは5:5で重合させたものである。
【0024】
(B)成分である共重合体の中和塩の重量平均分子量は、5,000〜100,000であり、好ましくは7,000〜70,000である。重量平均分子量が5,000より低い場合は十分な洗浄力が得ることができない。
【0025】
(B)成分の組成物中の配合量は、0.1〜5質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。(B)成分が0.1質量%未満では十分な洗浄力を得ることができず、5質量%を超えても配合量に見合った効果が得られず経済的でない。
【0026】
(A)成分と(B)成分の質量比〔(A)/(B)〕は、1/1〜20/1の範囲であり、好ましくは2/1〜10/1の範囲である。(A)/(B)の質量比が1未満および20を超える場合では十分な洗浄力を得ることができない。
【0027】
〔水(C)〕
本発明に用いる(C)成分は水であり、組成物中の配合量は90〜99.8質量%の範囲である。(C)成分が99.8質量%を越えると十分な洗浄力を得ることができない。なお、(A)成分と(B)成分と(C)成分の総量は100質量%である。
【0028】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、回分式での土壌洗浄剤や原位置での土壌洗浄剤として使用可能である。また、環境への影響を考慮すると、本発明の土壌洗浄剤組成物のpHは、通常5〜9であり、特に6〜8であることが望ましい。
【0029】
本発明の土壌洗浄剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、添加剤を含有し得る。添加剤としては、洗浄剤に常用されている添加剤であり、例えば、低級アルコール、多価アルコール、(A)成分以外の陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、水溶性高分子、有機または無機塩類、pH調整剤、殺菌剤、キレート剤などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
実施例および比較例に供した表1の共重合体1〜9は、表1に示す式(1)のモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)とを原料として、有機溶媒中で重合開始剤を用いて重合し、さらに塩基性化合物の水溶液で中和して得られた、表1に示す中和塩である。なお、重量平均分子量については、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより求めた。
【0031】
【表1】

【0032】
〔実施例1〜12および比較例1〜8〕
表2および表3に示す各成分を配合して、実施例1〜12および比較例1〜8の土壌洗浄剤組成物を調製し、以下の試験に供した。結果を表2および表3に示す。なお、表中の%は質量%を表す。また、試験(2):洗浄液からの油の回収テストにおいて、「○」の評価の組成物を合格とした。
【0033】
<土壌洗浄剤試験>
撹拌棒を付けた3Lフラスコに105℃、2時間乾燥させた真砂土(粒径1mm以上:59.4%、1mm〜45μm:37.6%、45μm以下:3.0%含有)1.0kgとA重油(密度0.8655g/cm3)30g(含有量2.9%)を入れ、撹拌速度60rpm、撹拌時間15分間混合して、油が染みこんだ土壌を調製した。
【0034】
(1)洗浄力テスト
撹拌棒を付けた2Lフラスコに、油が染みこんだ土壌100g、及び土壌洗浄剤組成物を1000g入れ、撹拌速度30rpm、洗浄時間5分間、温度25℃で撹拌して洗浄した。6時間静置後、デカンテーションにより液体成分を分離し、さらに水を1000g加え撹拌、6時間静置後、液体部分をデカンテーションにより分離した。この操作をもう一度繰り返し洗浄土を得た。洗浄土を40℃で1時間乾燥を行った後、石油エーテル抽出により油残存量を測定し、洗浄性を評価した。
【0035】
(2)洗浄液からの油の回収テスト
上記(1)の洗浄力テストでデカンテーションにより分離した液体成分の外観を確認し、分層による油の回収のし易さを以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:洗浄液上部に油が分離しており、分層により油の回収が可能である。下層は透明である。
△:洗浄液上部に油がやや分離しており、分層により油の回収が一部可能である。下層はやや濁っている。
×:洗浄液全体が白濁し乳化しており、分層できなかった。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
実施例1〜12の土壌洗浄剤組成物では、洗浄力テストにおいて油残存量が0.1%以下であり、洗浄力が高いと言える。また、洗浄液からの油の回収テストにおいても、いずれも合格であった。
【0039】
一方、(A)成分を含有しない比較例1、(B)成分を含有しない比較例2、(A)成分を他の界面活性剤に変更した比較例4〜8の土壌洗浄剤組成物では、洗浄力テストにおいて油残存量が多く、また洗浄液からの油の回収テストにおいて不合格のものがあった。また、(A)成分と(B)成分を含有していても、(A)/(B)の質量比が本発明の規定の範囲外である比較例3の土壌洗浄剤組成物では、洗浄力テストにおいて油残存量が多かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシルタウリン型陰イオン界面活性剤およびアシルアミノ酸型陰イオン界面活性剤から選ばれる1種以上である界面活性剤(A)0.1〜5質量%と、
下記式(1)で示されるモノマー(b1)と無水マレイン酸(b2)との共重合体の中和塩であって、(b1)と(b2)のモル比〔(b1):(b2)〕が7:3〜3:7であり、かつ重量平均分子量が5,000〜100,000である共重合体の中和塩(B)0.1〜5質量%と、
水(C)90〜99.8質量%とからなり、
(A)成分と(B)成分の質量比〔(A)/(B)〕が1/1〜20/1である土壌洗浄剤組成物。
【化1】

(式中R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1〜18のアルキル基、アルコキシル基、フェニル基である。)

【公開番号】特開2012−201854(P2012−201854A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69786(P2011−69786)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】