説明

土木工事用袋体

【課題】従来の石油系由来のポリマーだけからなる合成繊維では無く、バイオマス由来ポリマーを少なくとも一部に含有し、二酸化炭素発生量を低減するなど環境に優しく、かつ石油由来ポリマーと比較してバイオマス由来ポリマーが劣る耐摩耗性などの欠点を補うことができる繊維を用いた土木工事用袋体を提供する。
【解決手段】複合繊維にて構成される編地によって形成された土木工事用袋体である。複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈していて、鞘部が石油系由来の汎用ポリマーにて形成されるとともに、芯部がバイオマス由来のポリマーにて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土木工事用袋体に関し、特に、割栗石や塊などを投入されて使用される根固め工法用袋体や、浚渫汚泥などの脱水に使用される袋体や、大型土のう袋体などに適用される、土木工事用袋体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としているが、近年、化石資源は、その資源不足が懸念されるだけでなく、二酸化炭素発生量についても社会に大きな影響を与えている。二酸化炭素固定化は地球温暖化防止に効果があることが期待され、特に二酸化炭素削減目標値を課した京都議定書に対し、二酸化炭素固定化物質は非常に注目度が高く、バイオマス由来物質は積極的な使用が望まれている。バイオマス由来の合成繊維や合成樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。
【0003】
しかしながら、バイオマス由来の合成繊維の多くは、耐摩耗性が従来の汎用合成繊維よりも劣っている。
また、例えば原糸においては、芯鞘型の複合糸であって、ポリ乳酸系重合体を芯部に配するとともに芳香族ポリエステル系樹脂を鞘部に配した複合糸が、特許文献1などにおいて開示されている。しかし、特許文献1では、この原糸の具体的な用途についての記載はない。
【0004】
上記した土木工事用袋体については、従来から、例えば特許文献2などにおいて、その形態や縫製方法については知られている。しかし、従来のものでは一般的に合成繊維が使用されており、環境を配慮したものではない。
【0005】
特許文献3においては、バイオマス系の繊維を用いて土木工事用袋体を作製することが記載されている。しかし特許文献3のものは、その実施例においてポリ乳酸系繊維を用いたものが記載されているだけであり、その記載だけでは耐磨耗性が不明である。
【0006】
すなわち、従来においては、環境に配慮しかつ対磨耗性にも優れた土木工事用袋体は未だ提案されていない。
【特許文献1】特開2004−353161号公報
【特許文献2】特開平11-050428号公報
【特許文献3】特開2004−183173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な現状に鑑みてなされたもので、従来の石油系由来のポリマーだけからなる合成繊維では無く、バイオマス由来ポリマーを少なくとも一部に含有し、二酸化炭素発生量を低減するなど環境に優しく、かつ石油由来ポリマーと比較してバイオマス由来ポリマーが劣る耐摩耗性などの欠点を補うことができる繊維を用いた土木工事用袋体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、横断面が芯鞘形状を呈しており、鞘部が石油系由来の汎用ポリマー、芯部がバイオマス由来のポリマーから構成される複合繊維を用いてなる編地を用いて構成される土木工事用袋体は、耐摩耗性が優れるという事実を見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)複合繊維にて構成される編地によって形成された袋体であり、前記複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈していて、鞘部が石油系由来の汎用ポリマーにて形成されるとともに、芯部がバイオマス由来のポリマーにて形成されていることを特徴とする土木工事用袋体と、
【0010】
(2)編地の強力が400N以上であることを特徴とする(1)の土木工事用袋体と、
【0011】
(3)鞘部がポリエチレンテレフタレートにて形成されていることを特徴とする(1)または(2)の土木工事用袋体と、
【0012】
(4)芯部がポリ乳酸にて形成されていることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの土木工事用袋体と、
【0013】
(5)複合繊維は、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型複合繊維であることを特徴とする(1)から(4)までのいずれかの土木工事用袋体と、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の石油系由来のポリマーやバイオマス由来のポリマーだけからなる繊維を用いた編地構成の土木工事用袋体では無く、バイオマス由来ポリマーを少なくとも一部に含有し、このため環境に優しく、且つ石油由来ポリマーと比較してバイオマス由来ポリマーが劣る耐摩耗性などの欠点を補うことができる土木工事用袋体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の土木工事用袋体を構成する複合繊維の鞘部に用いる石油系由来のポリマーは、溶融紡糸が可能であるものであれば良く、特に制限するものではない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステルや;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11及びナイロン12に代表されるポリアミドや;ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィンや;ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマーや;ポリ4フッ化エチレンならびにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系樹脂などが挙げられる。なかでも、低コストであるポリエステルやポリアミド系のポリマーが好ましい。また、後述するバイオマス系ポリマーでは脂肪族ポリエステル系ポリマーが多いことから、相溶性の面から、ポリエステル系のポリマーがより好ましい。ポリエステル系のものとしては、コスト面や取扱い性から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0016】
なお、ポリエステル系ポリマーには、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みて、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や;アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸や;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや;グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸や;ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0017】
本発明の土木工事用袋体を構成する複合繊維の芯部に用いるバイオマス由来のポリマーについても、溶融紡糸が可能であるものであれば良く、特に制限するものではない。具体的には、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートなどの、バイオマスモノマーを化学的に重合してなるポリマー類や;ポリヒドロキシ酪酸等の、ポリヒドロキシアルカノエートなどの微生物生産系のものを挙げることができる。なかでも、安定した耐熱性を示し、比較的量産化されてきているポリ乳酸が好ましい。
【0018】
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体が好ましい。そして、ポリ乳酸は、上記のようにL−乳酸やD−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは両者が併用されているものであるが、なかでも、融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であるものが好ましい。
【0019】
ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くなるという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなりやすくなったりする。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸及びD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)、すなわちL/D又はD/Lが、82以上/18以下であるものが好ましい。より好ましくは90以上/10以下であり、さらに好ましくは95以上/5以下である。
【0020】
また、ポリ乳酸の中でも、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、土木工事用袋体として用いたときに摩擦熱などの影響を受けにくく、特に好ましい。
【0021】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合において、ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。なかでも、ヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸を用いることが、コスト面から好ましい。
【0022】
ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0023】
このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0024】
ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられる、ASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重21.2N(2160g)で測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。
【0025】
ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に、脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0026】
上記した石油系由来の汎用ポリマー、バイオマス由来のポリマーには、必要に応じて、各種充填剤、増粘剤、結晶核剤として効果を示す公知の添加剤を添加することができる。具体的には、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素及びケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩、ガラス繊維、ウィスカー等があげられる。これらの物質は、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとして必要な処理を施した後に、添加することもできる。価格性能や良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤の配合が好ましい。
【0027】
さらに、必要に応じて、顔料、染料などの着色剤;活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤;バニリン、デキストリン等の香料;酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤;滑剤;離型剤;撥水剤;抗菌剤その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0028】
石油系由来の汎用ポリマー、バイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤を併用することも可能である。可塑剤を使用することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させ、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能であり、場合によっては結晶化速度の向上も期待でき、さらに伸び性などを付与することができる。可塑剤としては、特に限定は無いが、以下のものが例示できる。すなわち、本発明の土木工事用袋体のための複合繊維を形成するポリマーが脂肪族ポリエステル系生分解性ポリエステルである場合には、そのための可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点からエーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。また、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸として、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができ、脂肪族アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記ポリエーテルとポリエステルの2種以上の組み合わせからなる共重合体、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーなど、またはこれらのホモポリマー、コポリマー等から選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。さらにエステル化されたヒドロキシカルボン酸等も挙げられる。上記可塑剤は、少なくとも1種用いることができる。
【0029】
本発明の土木工事用袋体を構成する複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈していて、鞘部が上記した石油系由来の汎用ポリマーにて形成されるとともに、芯部が上記したバイオマス由来のポリマーにて形成されていることが必要である。このような複合繊維とすることで、バイオマス由来ポリマーを少なくとも一部すなわち芯部に含有し、このため環境に優しく、また芯部を石油系由来の汎用ポリマーにて形成される鞘部で囲んだ構成であるため、石油由来ポリマーと比較してバイオマス由来ポリマーが劣る耐摩耗性などの欠点を補うことができる土木工事用袋体を提供することができる。このような芯鞘構造の複合繊維は、公知の方法によって製造することができる。
【0030】
上記した複合繊維は、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型複合繊維であることが好ましい。このような構成とすることで、石油系由来の汎用ポリマーを芯部の周囲に均一に配することができる。同心円状でない偏心状であると、鞘部の汎用ポリマー層に薄い箇所が生じ、その箇所では耐磨耗性が不良となるおそれがある。
【0031】
本発明の土木工事用袋体は、上記の複合繊維を用いた編地によって形成されている。編地であることにより柔軟性を付与することができる。また、柔軟性を有することで、施工現場が不陸状態であっても、この不陸部分に追従して敷設することができる。
【0032】
この編地の種類等については、特に限定するものではなく、産業資材用に使用される編組織をとることができる。より具体的には、ラッセル編、無結節編、有結節編などを挙げることができる。編組織の選択については、原糸や、土木工事用袋体として使用される状況などによって適宜行うことが可能である。なかでも、結節部に応力が集中する有結節編以外の、ラッセル編や無結節編による編地がより好ましい。袋体に直線強力が求められる場合は、無結節編が好ましい。これに対し、使用される状況が過酷で袋体の一部が破損されやすいような場合や、原糸の直線強力は比較的弱くても差支えないが結節強力が良好であることが必要な場合などは、ループで構成されるラッセル編を適用する方が好ましい。
【0033】
土木工事用袋体として使用するための編地の強力については、編地のための各強力測定方法を用いて測定した場合に、400N以上であることが好ましい。強力測定方法として、具体的には、ラッセル編では、編構成トータル繊度5,000dtex未満の場合は、JIS L 1043の6.11の6.11.1(a)法に準じて、また5,000dtex以上の場合は、JIS L1043の6.11の6.11.1(b)法に準じて、それぞれ200mm/minの引張速度で測定を行う。一方、無結節編地では、原糸(直線)方向に即して他方向の編糸を切断し(他方向の編糸長は1cmに切断する)、1節1脚法で300mm/minの引張速度で測定を行う。
【0034】
編地の張力が400N未満であると、土木工事用袋体としての仕様に耐えることが困難であり、袋体が破損しやすくなる。また特に根固め工法用に使用される袋体の場合は、石や塊などが激しく衝突するため、より破損しやすくなる。また近年、海浜護岸用の袋体も開発されてきており、その場合は3,000N以上の強力値を有する編地が求められることがある。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例中の各物性値の測定法及び評価法は次のとおりである。
【0036】
(1)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
【0037】
(2)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液との等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
【0038】
(3)繊維繊度(dtex)
JIS L−10153正量繊度に準じて測定した。
【0039】
(4)強度(繊維)(cN/dtex)、切断伸度(%)
JIS L−1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。
【0040】
(5)強力(編地)(N)
ラッセル編の編地については、編構成トータル繊度5,000dtex未満の編地はJIS L 1043の6.11の6.11.1(a)法に準じて、5,000dtex以上の編地はJIS L1043の6.11の6.11.1(b)法に準じて、それぞれ200mm/minの引張速度で測定を行った。
【0041】
無結節編地については、原糸(直線)方向に即して他方向の編糸を切断し(他方向の編糸は1cm長に切断する)、1節1脚法で300mm/minの引張速度で測定した。
【0042】
(6)耐摩耗性(摩耗試験後の残存強力(N))
JIS D−4604の耐摩耗性試験に準じて試験を行った。すなわち、試料の一端に編地の強力値の1.25%の荷重を吊るし、他端を丸やすりの上に渡した後、振動ドラムに固定した。次に振動ドラムをクランク及びクランクアームによって往復運動させ、繰り返し回数毎分30±1回として試料を5,000回往復運動させた後に、試料の外観を観察し、判定した。
【0043】
(7)実施試験
3.0×2.0mに仕立てた袋体の場合は2t分の人頭大の割栗石を投入し、また4.7×3.2mに仕立てた袋体の場合は8t分の人頭大の割栗石を投入した。そして、それぞれを、1mの高さから、砂利等が存在している通常の地面に向けて2回落下させ、袋体の破損状況を観察した。
【0044】
実施例1
ポリ乳酸(以下、「PLA」と略称する)として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5(モル比)のものを用いた。芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称する)を用いた。そして、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、PLAが芯部となるように配し、複合比(質量比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。
【0045】
得られた複合繊維は、繊度1430dtex210フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強力は4.3cN/dtex、切断伸度は28.9%であった。この原糸を用いて、9Gのラッセル編機で、編の構成が13本格になるように編地を作製した(1辺25mm)。この編地を3.0m×4.0mに裁断したものを2枚重ねにして、約3.0×2.0mになるように2つ折りにし、2つ折り部に対向する辺を開口部として残して側部の2辺を縫合し、巾着袋になるように束ねて結縛した。次に、開口部の全周に沿って、開口端より3目下部の編目に、口縛りロープとして太さ6mmのナイロンロープ(引張強力0.75t)を挿通した。また、同様に開口部の全周に沿って、開口端から5目下部の編目に、吊りロープとして太さ22mmのポリエステルロープ(引張強力:6.3t)を挿通して配設し、実施例1の土木工事用袋体を得た。
【0046】
実施例2
実施例1で使用した原糸を用いて、9Gのラッセル編機で、編の構成が103本格になるように編地を作製した(1辺75mm)。この編地を4.7m×6.4mに裁断したものを2枚重ねにして、約4.7×3.2mになるように2つ折りにし、2つ折り部に対向する辺を開口部として残して側部の2辺を縫合し、巾着袋になるように束ねて結縛した。次に、開口部の全周に沿って、開口端より3目下部の編目に、口縛りロープとして太さ6mmのナイロンロープ(引張強力:0.75t)を挿通した。また、同様に開口部の全周に沿って、開口部から5目下部の編目に、吊りロープとして太さ30mmのポリエステルロープ(引張強力:12.0t)を挿通して配設し、実施例2の土木工事用袋体を得た。
【0047】
実施例3
実施例1で使用した原糸を用いて、無結節編機により10本を撚り合わせた無結節編地を作製した(1辺25mm)。この編地を3.0m×4.0mに裁断したものを2枚重ねにして、約3.0×2.0mになるように2つ折りにし、2つ折り部に対向する辺を開口部として残して側部の2辺を縫合し、巾着袋になるように束ねて結縛した。次に、開口部の全周に沿って、開口部より3目下部の編目に、口縛りロープとして太さ6mmのナイロンロープ(引張強力:0.75t)を挿通した。また、同様に開口部の全周に沿って、開口部から5目下部の編目に、吊りロープとして太さ22mmのポリエステルロープ(引張強力:6.3t)を挿通して配設し、実施例3の土木工事用袋体を得た。
【0048】
比較例1
PLAとして、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5(モル比)のものを用いた。これを減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られたポリ乳酸繊維は、繊度1430dtexの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度は30.9%であった。この原糸を用いて実施例1と同様に製編・縫製したものを比較例1の袋体とした。
【0049】
比較例2
比較例1で使用した原糸を実施例2と同様に製編・縫製したものを、比較例2の袋体とした。
【0050】
比較例3
比較例1で使用した原糸を実施例3と同様に製編・縫製したものを、比較例3の袋体とした。
【0051】
比較例4
芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%を共重合したPETを用いた。これを減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度1430dtexの丸断面形状のものであり、引張強力は4.5cN/dtex、切断伸度は27.8%であった。この原糸を用いて実施例1と同様に製編・縫製したものを、比較例4の袋体とした。
【0052】
比較例5
比較例4で使用した原糸を実施例2と同様に製編・縫製したものを、比較例5の袋体とした。
【0053】
比較例6
比較例4で使用した原糸を実施例3と同様に製編・縫製したものを、比較例6の袋体とした。
【0054】
参考例1
実施例1で使用した原糸を用いて、9Gのラッセル編機で、編の構成が5本格になるように編地を作製した(1辺25mm)。そして、それ以外は実施例1と同様にして作製したものを、参考例1の袋体とした。
【0055】
各実施例、比較例、参考例の袋体について物性測定した結果を、表1に示す。
【表1】

表1に示すように、実施例1、2、3及び比較例4、5、6は、試験を行った全ての項目について満足するものであった。特に、実施例1、2、3は、バイオマス由来のポリマーを使用しているものの、これを芯部に配し、この芯部を鞘部の石油系由来のポリマーで覆う構成としたため、優れた耐磨耗性を示した。
【0056】
バイオマス由来のポリマーを使用した実施例1、2、3は環境にも優しい素材であったが、これに対し石油系由来のポリマーである共重合PETをのみを用いた比較例4、5、6は、そうではなかった。
【0057】
バイオマス由来のポリマーであるPLAのみを用いた比較例1、2、3は、耐摩耗性が不良であり、実用上、土木工事の用途に耐え得るものではなかった。
【0058】
参考例1は、編地の強力値が低かったため、土木工事用袋体としては実用性に懸念が残るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合繊維にて構成される編地によって形成された袋体であり、前記複合繊維は、横断面が芯鞘形状を呈していて、鞘部が石油系由来の汎用ポリマーにて形成されるとともに、芯部がバイオマス由来のポリマーにて形成されていることを特徴とする土木工事用袋体。
【請求項2】
編地の強力が400N以上であることを特徴とする請求項1記載の土木工事用袋体。
【請求項3】
鞘部がポリエチレンテレフタレートにて形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の土木工事用袋体。
【請求項4】
芯部がポリ乳酸にて形成されていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の土木工事用袋体。
【請求項5】
複合繊維は、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘型複合繊維であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の土木工事用袋体。

【公開番号】特開2008−75398(P2008−75398A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258157(P2006−258157)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】