説明

土木用網体及びこれを用いた盛土構造

【課題】縦糸と横糸との交点部分における横糸の歪みやズレに起因する光ファイバーセンサの歪みをなくして、盛土崩壊の危険性についての誤った予測を防止できるようにした土木用網体と、この土木用網体を用いた盛土構造を提供する。
【解決手段】合成樹脂製の縦糸1と横糸2を互いに交差させて各交点部分4を固着した網体Nであって、少なくとも1本の縦糸1(1a)上に光ファイバーセンサ3が配置されて網体Nに固定され、光ファイバーセンサ3と網体Nとの非固定部7が縦糸1(1a)と横糸2との交点部分4(4a)に位置して形成された土木用網体Nとする。交点部分4(4a)に非固定部7を形成することで、横糸2の歪みやズレに起因する光ファイバーセンサ3の歪みをなくす。盛土構造は、盛土の法面に埋設した土留め部材に土木用網体Nを連結して盛土中に略水平に埋設し、光ファイバーセンサ3の端末を法面から外部へ引き出した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土を補強するために盛土中に埋設され、盛土崩壊の危険性を予測することができる光ファイバーセンサ付きの土木用網体と、この土木用網体を用いた盛土構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、造成地などの盛土を補強して崩壊を防止するために、合成樹脂製の縦糸と横糸を互いに交差させて各交点部分を固着した土木用網体が盛土中に埋設されている。かかる土木用網体は、大きい引張り強度を有する目崩れしにくい網体であるが、大量の降雨や予想以上の力が土木用網体に作用し、盛土が不安定な状態になって崩壊の危険性が生じた場合でも、それを予測する手段がないため、防止対策を講じるのが遅れて被害を出す虞れがあった。
【0003】
そのため、合成樹脂製の縦糸と横糸を互いに交差させて各交点部分を固着した網体であって、少なくとも一本の縦糸に光ファイバーセンサを設けた土木用網体が既に提案されている(特許文献1)。この土木用網体は、具体的には、縦糸及び横糸として、一軸延伸したオレフィン系樹脂よりなる芯テープの周囲を熱可塑性樹脂の被覆膜で被覆した被覆テープを使用し、縦糸と横糸の各交点部分を高周波溶着したものであって、少なくとも一本の縦糸の芯テープの片側、又は、芯テープと芯テープの間に光ファイバーセンサを設けて被覆膜で一体に被覆したものである。
【0004】
このような土木用網体を盛土中に略水平に埋設して盛土を補強すれば、光ファイバーセンサの一端からパルス光を入射してブリルアン散乱光の後方散乱光を検出し、その周波数シフト分布から光ファイバーセンサの歪み分布と歪み量を測定することによって、盛土崩壊の危険性を予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−70015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の土木用網体のように、光ファイバーセンサを縦糸の被覆膜の内側に一体的に設けると、光ファイバーセンサの配線の自由度が制限されるので、例えば、土木用網体の後端部で光ファイバーセンサをU状に折り返して往復の配線経路を形成することが困難になる。
【0007】
そこで、本発明者らは、図1に示すように、土木用網体Nの縦糸1の上に光ファイバーセンサ3を配置して土木用網体Nに固定することを着想した。このようにすると、光ファイバーセンサ3の配線の自由度が得られるので、光ファイバーセンサ3をU状に折り返して往復の配線経路を容易に形成することができる。
【0008】
けれども、図8に示すように、光ファイバーセンサ3が、縦糸1と横糸2の各交点部分4において縦糸1又は横糸2に固定され、且つ、交点部分4,4の相互間において縦糸1に固定されていると、交点部分4において横糸2が縦糸方向に歪みを生じた場合、光ファイバーセンサ3が横糸2に固定されている交点部分4aでは、光ファイバーセンサ3が横糸2の歪みに起因して歪むことになるため、本来、光ファイバーセンサ3は縦糸1の歪みを検出して盛土崩壊の危険性を予測するものであるにも拘わらず、横糸2の歪みを誤って検出してしまうことになる。特に、盛土構造に影響を与えない局所的な力が横糸2のみに作用し、交点部分4において万一、横糸2が縦糸1から剥離して縦糸方向にズレを生じるような想定外のことがあった場合には、縦糸1に歪みが実質的に生じていなくても、光ファイバーセンサ3が横糸2に固定されている交点部分4aでは横糸2のズレに起因して光ファイバーセンサ3が大きく歪むことになるので、盛土崩壊の危険性を誤って予測する可能性が高くなる。
【0009】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、光ファイバーセンサの配線の自由度を維持しつつ、網体の縦糸と横糸との交点部分における横糸の歪みやズレに起因する光ファイバーセンサの歪みをなくして、盛土崩壊の危険性についての誤った予測を防止できるようにした土木用網体と、この土木用網体を用いて補強した盛土構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る土木用網体は、合成樹脂製の縦糸と横糸を互いに交差させて各交点部分を固着した網体であって、少なくとも1本の縦糸上に光ファイバーセンサが配置されて網体に固定されており、光ファイバーセンサと網体との非固定部が縦糸と横糸との交点部分に位置して形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の土木用網体においては、光ファイバーセンサと網体との非固定部が、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分に形成されていることが好ましい。さらに、光ファイバーセンサと網体との非固定部が、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って形成されていることが一層好ましい。そして、光ファイバーセンサが合成樹脂の被覆材で被覆され、この被覆材が網体に融着して、光ファイバーセンサが網体に固定されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る盛土構造は、縦横の金属棒を結合して形成した土留め立面体と底面体とを備えた土留め部材が盛土の法面沿いに埋設されており、盛土中に略水平に埋設された本発明の土木用網体の法面側端縁が上記土留め部材の底面体に連結されていると共に、上記土木用網体に固定された光ファイバーセンサの端末が盛土の法面から外部に引き出されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の土木用網体のように、少なくとも1本の縦糸上に光ファイバーセンサが配置されて網体に固定され、光ファイバーセンサと網体との非固定部が縦糸と横糸との交点部分に位置して形成されていると、盛土中に埋設された状態で、盛土構造には影響を与えることのない力が横糸のみに局所的に作用することにより、一部の交点部分において万一、横糸が縦糸方向(縦糸の長さ方向)に歪みやズレを生じるような想定外のことがあったとしても、光ファイバーセンサは交点部分では固定されていないため、横糸の歪みやズレに起因して光ファイバーセンサが歪みを生じることはなく、縦糸に歪みが生じた場合にのみ光ファイバーセンサが歪みを生じることになる。従って、縦糸に生じる歪みを精度良く検出でき、交点部分における横糸のみの歪みやズレを縦糸の歪みと誤って検出することはないので、盛土崩壊の危険性についての誤った予測を防止することができる。
また、本発明の土木用網体のように、光ファイバーセンサを縦糸上に配置して網体に固定するものは、光ファイバーセンサの配線の自由度を有するので、例えば、光ファイバーセンサをU状に折り返して往復の配線経路を容易に形成することもできる。
【0014】
本発明の土木用網体においては、光ファイバーセンサと網体との非固定部を、光ファイバーセンサが配置される縦糸と横糸との全ての交点部分に位置して形成しても勿論よいが、横糸が縦糸の下側に重なって交差する交点部分では、光ファイバーセンサは縦糸に固定されることになるので、横糸の歪みやズレの影響を直接的に受けることがない。これに対し、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分では、光ファイバーセンサが横糸に直接固定されることになるので、横糸の歪みやズレの影響を直に受けることになる。従って、光ファイバーセンサと網体との非固定部は、縦糸の上に横糸が重なる交点部分を選択して形成し、縦糸の下に横糸が重なる交点部分には非固定部を形成しないことが好ましい。このようにすると、横糸の歪みやズレの影響を効果的に低減でき、しかも、光ファイバーセンサの網体に対する固定強度を高めることができる。
【0015】
さらに、光ファイバーセンサと網体との非固定部を、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って形成したものは、横糸にのみ局所的な想定外の大きな力が負荷されることにより、交点部分で横糸が縦糸から万一剥離してズレを生じるようなことがあったとしても、横糸のズレが交点部分から近傍部分まで形成された非固定部に吸収されて、光ファイバーセンサに影響を及ぼすことがないので、縦糸の歪みを精度良く検出できる。また、非固定部を交点部分から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って形成すると、縦糸に対する光ファイバーセンサの溶着などの固定作業もし易くなる。
【0016】
そして、光ファイバーセンサが合成樹脂の被覆材で被覆され、この被覆材が網体に融着して、光ファイバーセンサが網体に固定されているものは、光ファイバーセンサの網体に対する固定強度が大きく、しかも、熱風溶着、高周波溶着、超音波溶着などの手段で効率良く固定作業を行うことができる。
【0017】
また、本発明の盛土構造体は、上述した本発明の土木用網体を盛土中に略水平に埋設し、法面の土留め部材に連結して盛土を補強しているため、盛土の崩壊を防止することができる。そして、盛土の法面から光ファイバーセンサの端末が外部に引き出されているので、この端末を光歪み測定器に接続して光ファイバーセンサの歪み分布と歪み量を測定することにより、土木用網体の交点部分における横糸の歪み等の影響を受けることなく縦糸の歪みを精度良く検出して、盛土崩壊の危険性の有無を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る土木用網体の平面図である。
【図2】同土木用網体の一部を拡大した部分断面図である。
【図3】(A)は同土木用網体の縦糸及び横糸の拡大断面図、(b)は光ファイバーセンサの拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る盛土構造の概略断面図である。
【図5】同盛土構造に用いる土留め部材の斜視図である。
【図6】土留め部材と土木用網体との連結構造を示す部分断面図である。
【図7】光ファイバーセンサの端末部分の一処理形態を示す平面図である。
【図8】縦糸上に配置した光ファイバーセンサを、縦糸と横糸の各交点において縦糸又は横糸に固定すると共に、交点相互間において縦糸に固定した土木用網体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1,図2に示す土木用網体Nは、縦長の長方形の網目を形成するように合成樹脂製の縦糸1と横糸2を所定間隔をあけて互いに直角に交差させ、平織のように交点部分4において縦糸1と横糸2の上下関係を交互に逆転させて重ね合わせ、各交点部分4を溶着して強固に固定したものである。この土木用網体Nの縦糸1のうち中央寄りの2本の縦糸1a,1aの上には、網体Nの後端部(図1では上端部)でU状に折り返された光ファイバーセンサ3が配置され、後述するように、縦糸1(1a)の上に横糸2が溶着された交点部分4(4a)を除いて網体Nに溶着、固定されている。
【0020】
この土木用網体Nを構成する縦糸1及び横糸2は、図3(A)に示すように、一軸延伸したオレフィン系樹脂よりなる芯テープ5の周囲を熱可塑性樹脂の被覆膜6で被覆した被覆テープである。好ましい芯テープ5としては、ポリプロピレンや超高分子量ポリエチレンを帯状に溶融押出成形し、これを90〜140℃の温度域で5〜20倍(好ましくは7〜10倍)に一軸延伸して得られる、厚さ0.2〜1.0mm、幅5〜20mmの延伸テープが使用される。延伸倍率が5倍以上の芯テープは、延伸による分子配向が充分であるため引張強度が大きく、延伸倍率が20倍以下の芯テープは、フィブリル化による強度低下が生じ難いという利点がある。また、厚さ0.2mm以上、幅5mm以上の芯テープは強度が大きく、厚さ1mm以下、幅20mm以下の芯テープは、剛性が高くないので巻回性や取扱い性が良いという利点がある。
【0021】
芯テープ6を被覆する被覆膜6は、従来公知の種々の熱可塑性樹脂を用いて形成できるが、その中でも、誘電率の高い塩化ビニル樹脂(PVC)やエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)で形成した被覆膜6は特に好適である。かかる被覆膜6は高周波溶着性が良好であるため、穏やかな条件下に芯テープ5を傷めることなく高周波溶着を行って、縦糸1と横糸2の交点部分4を強固に固定でき、また、熱風溶着性も良好であるため、後述するように網体Nの縦糸1と光ファイバーセンサ3を容易かつ強固に熱風溶着できる。尚、誘電率の低い熱可塑性樹脂で被覆膜6を形成する場合は、超音波溶着その他の加熱手段で縦糸1と横糸2の交点部分4を溶着すればよい。
【0022】
この被覆膜6の厚さは0.1mm以上、好ましくは0.5〜1mm程度であり、0.1mm以上の厚さがあると、縦糸1と横糸2の交点部分4の溶着強度が不足することはないので、網体Nに大きい引掛力が作用することで交点部分4の溶着部にせん断応力が負荷されても交点部分4が剥離し難くなる。尚、この被覆膜6の表面には、被覆テープの縦裂けを防止し且つ溶着性を向上させるための凹凸皺6aを形成することが好ましい。
【0023】
この土木用網体Nの長方形の網目の寸法は特に制限されないが、網目の縦寸法(隣り合う横糸2,2の芯線から芯線までの寸法)については2〜20cm程度に設定することが適当であり、また、網目の横寸法(隣り合う縦糸1,1の芯線から芯線までの寸法)については、縦寸法の1/3〜2/3程度に設定することが適当である。網目の縦寸法及び横寸法が上記範囲内であると、引張強度(特に縦方向の引張強度)の大きい網体Nが得られることに加えて、網目内に充分な太さの土の柱が形成されるため、網体Nによる剪断抵抗が大きくなって盛土の崩壊を有効に防止できるようになる。
【0024】
一方、前記光ファイバーセンサ3は、図3(B)に示すように、並列する複数本(図では4本)の光ファイバー3aとその両側の補強糸3bを、ポリエチレン(PE)などの熱可塑性樹脂からなる内側被覆材3cと、前記被覆膜6と同様のPVCやEVAなどの熱可塑性樹脂からなる外側被覆材3dとによって二重被覆したものである。
【0025】
この光ファイバーセンサ3は、網体Nの縦糸1に重ねて強固に溶着できるように、外側被覆材3dの横断面の輪郭形状を横長の長方形として溶着面積を大きくとり、外側被覆材3dの樹脂として縦糸1の被覆膜6と同じPVCやEVAなどの熱可塑性樹脂を使用している。そして、外側被覆材3dの厚さを0.1mm以上、好ましくは0.5〜1.5mm程度に設定し、大きい溶着強度と被覆保護効果が得られるようにしている。この光ファイバーセンサ3の幅寸法や高さ寸法は特に制限されないが、強度や網体Nの縦糸1への溶着作業性等を考慮すると、幅寸法を5〜8mm程度、高さ寸法を3〜5mm程度にするのが適当である。
【0026】
なお、図3(B)に示す光ファイバーセンサ3は、4本の光ファイバー3aを有する4心タイプであるが、2本の光ファイバー3aを有する2心タイプのものを使用しても勿論よい。
【0027】
上記光ファイバーセンサ3は、図1に示すように、土木用網体Nの後端部でU状に折り返されて網体Nの2本の縦糸1(1a)の上に配置され、図2に示すように、縦糸1(1a)の上に横糸2が重なって交差する交点部分4(4a)とその近傍部分を除いて、網体Nの縦糸1(1a)に溶着固定されている。即ち、この光ファイバーセンサ3は、縦糸1(1a)の下に横糸2が重なって交差する交点部分4と、縦糸1(1a)の長さ方向に隣り合う交点部分4,4(4a)相互間においては、縦糸1(1a)に溶着固定されているが、縦糸1(1a)の上に横糸2が重なって交差する交点部分4(4a)から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘る領域においては、光ファイバーセンサ3が横糸2にも縦糸1(1a)にも溶着固定されてなく、光ファイバーセンサ3と網体Nとの非固定部7が形成されている。
【0028】
光ファイバーセンサ3と網体Nの縦糸1(1a)との溶着は、高周波溶着装置や超音波溶着装置を用いて行ってもよいが、簡便なハンディタイプの熱風機を用いるなどして熱風溶着すると溶着作業性が良いので好ましい。このように溶着すると、光ファイバーセンサ3が縦糸1(1a)に確実に固定され、縦糸1(1a)に追従して光ファイバーセンサ3に縦糸1(1a)の歪みが反映するようになる。
【0029】
上記のように、光ファイバーセンサ3が溶着された土木用網体Nを盛土中に略水平に埋設し、光ファイバーセンサ3の一端からパルス光を入射してブリルアン周波数シフト分布から光ファイバーセンサ3の歪み分布と歪み量を測定すると、土木用網体Nの縦糸1(1a)に生じた歪みが判るので、盛土崩壊の危険性の有無を予測することができる。その場合、この土木用網体Nのように、光ファイバーセンサ3と網体Nの非固定部7が、縦糸1(1a)の上に横糸2が重なって交差する交点部分4(4a)から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って形成されていると、大きい力が横糸2のみに作用して、その近くの交点部分4(4a)で横糸2が縦糸の長さ方向に歪みを生じたり、或いは、横糸2が縦糸1(1a)から万一剥離して縦糸の長さ方向にズレを生じたりするような想定外のことがあったとしても、光ファイバーセンサ3は横糸2に固定されていないため、横糸2の歪みやズレに起因して光ファイバーセンサ3に歪みを生じることはなく、また、横糸2のズレは、交点部分4(4a)の近傍部分まで形成された非固定部7に吸収されるので、光ファイバーセンサ3に影響を及ぼすことがない。従って、光ファイバーセンサ3は、横糸2の歪みやズレの影響を受けないで縦糸1(1a)に生じる歪みを精度良く検出でき、交点部分1(1a)における横糸2の歪みやズレを縦糸1(1a)の歪みと誤って検出することがないので、盛土崩壊の危険性の有無についての誤った予測を防止することができる。
【0030】
また、この土木用網体Nのように、光ファイバーセンサ3をU状に折り返し、網体Nの2本の縦糸1(1a)に溶着、固定して往復の配線経路を形成すると、万一、光ファイバー3aが断線しても、測定できなくなった範囲については配線経路の反対側端末からパルス光を入射して測定できる利点がある。
【0031】
なお、この土木用網体Nでは、1本の光ファイバーセンサ3をU状に折り返して溶着固定しているが、網体Nの幅方向に適当な間隔を開けて複数本の光ファイバーセンサ3をU状に折り返して溶着固定してもよい。また、1本の直状の光ファイバーセンサ3を溶着固定して単線経路を形成してもよいし、網体Nの幅方向に適当な間隔を開けて複数本の直状の光ファイバーセンサ3を溶着固定して複数の単線経路を形成してもよい。
【0032】
光ファイバーセンサ3と網体Nとの非固定部7は、光ファイバーセンサ3が溶着される縦糸1(1a)と横糸2との全ての交点部分4に位置して形成しても勿論よいが、横糸2が縦糸1(1a)の下側に重なって交差する交点部分4では、光ファイバーセンサ3は縦糸1(1a)に固定されることになるので、横糸2の歪みやズレの影響を直接的に受けることはない。これに対し、縦糸1(1a)の上に横糸2が重なって交差する交点部分4(4a)では、光ファイバーセンサ3が横糸2に直接固定されることになり、上記のように横糸2の歪みやズレの影響を直に受けることになるので、光ファイバーセンサ3と網体Nとの非固定部7は、縦糸1(1a)の上に横糸2が重なる交点部分4(4a)を選択して形成し、縦糸1(1a)の下に横糸2が重なる交点部分4には非固定部7を形成しないことが好ましい。このようにすると、横糸2の歪みやズレの影響を効果的に排除でき、しかも、網体Nの縦糸1(1a)に対する光ファイバーセンサ3の固定強度を高めることができる利点がある。
【0033】
特に、この土木用網体Nのように、上記交点部分4(4a)から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って非固定部7が形成されていると、前述したように交点部分4(4a)において、万一、横糸2が縦糸1(1a)から剥離して縦糸の長さ方向にズレを生じるような想定外のことがあったとしても、横糸2のズレが非固定部7に吸収されて、光ファイバーセンサ3に影響を及ぼすことがないので、縦糸1(1a)の歪みを精度良く検出するのに極めて有効である。非固定部7を交点部分4(4a)から縦糸の長さ方向両側に形成する範囲については、光ファイバーセンサ3の溶着作業性も考慮して、2〜20mm程度とするのが好適である。
【0034】
次に、前述した土木用網体Nを埋設して補強した本発明の盛土構造について、図4〜図8を参照しながら説明する。
【0035】
即ち、図4に示す盛土構造は、盛土8の法面に土留め部材9を上下に接続して埋設すると共に、それぞれの土留め部材9に、盛土8中に略水平に埋設した前記土木用網体Nの法面側端縁を連結し、それぞれの土木用網体Nに固定された光ファイバーセンサ3の端末を法面から外部に引き出してB−OTDR光歪測定器10に接続している。
【0036】
土留め部材9は、図5に示すように、鋭角のL状に曲げ加工された縦の金属棒9aと水平な横の金属棒9bを溶接などにより結合して、水平な底面体9cと、この底面体9cの前端から斜め後方に立ち上がる土留め立面体9dとを一体に形成したものであって、土留め立面体9dが土圧によって斜め前方に傾斜しないように、土留め立面体9dと底面体9cが複数本(図5では2本)の連結棒9eで連結されている。この土留め部材9の土留め立面体9dの背後には、図4に示すように植生マット11を添設し、法面の緑化を促進することが好ましい。
【0037】
この土留め部材9の底面体9dには、土木用網体Nの法面側端縁が図6に示すような簡易な連結構造で離脱しないように連結されている。即ち、土留め部材9の底面体9aの後端部には、楔となる横棒9fが横架されており、この横棒9fに土木用網体Nの法面側端縁が下方から巻き掛けられて、底面体9aの後端の横の金属棒9bの下側から後方へ引き出されて土木用網体Nの上に重ねられている。そして、この横棒9fに巻き掛けられた土木用網体Nの端縁が横棒9fと金属棒9bとの間に挟まれると共に、金属棒9bと土木用網体Nとの間に挟まれて、土留め部材9の底面体9dから離脱しないように連結されている。この連結構造は簡易な構造であるが、土留め部材の底面体9dと土木用網体Nを引き離そうとする力が強く作用するほど、土木用網体Nの端縁が横棒9fと金属棒9bによって強く挟持され、且つ、金属棒9bと土木用網体Nによっても強く挟持される構造であるため、離脱しないように確実に連結できるものである。
【0038】
土木用網体Nの光ファイバーセンサ3の引出部分は、図4,図7に示すように耐蝕性の金属管12に通して法面まで引き出し、更に、法面に沿って配設された樹脂製などのフレキシブル管13に通してB−OTDR光歪測定器10まで導くことが好ましい。このようにすると、盛土施工時の砂礫との衝突や、紫外線などから光ファイバーセンサ3を保護できる利点がある。なお、金属管12は耐蝕性の金具12aや針金で土木用網体Nの縦糸1又は横糸2に固定し、フレキシブル管13は針金などで土留め部材9の土留め立面体9dの縦横の金属棒9a,9bに固定することが好ましい。
【0039】
以上のような盛土構造体は、土木用網体Nを盛土8中に略水平に埋設し、法面の土留め部材9に連結して盛土8を補強しているため、盛土8の崩壊を防止することができる。そして、盛土8の法面から引き出された光ファイバーセンサ3の端末にパルス光を入射し、B−OTDR光歪測定器10で光ファイバーセンサの歪み分布と歪み量を測定すると、土木用網体Nの交点部分4(4a)における横糸2の歪み等の影響を受けることなく縦糸2の歪みを精度良く検出できるので、盛土崩壊の危険性の有無を正確に予測することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 縦糸
1a 光ファイバーセンサが固定される縦糸
2 横糸
3 光ファイバーセンサ
3d 合成樹脂の被覆材(外側被覆材)
4 交点部分
4a 縦糸の上に横糸が重なって交差した交点部分
7 光ファイバーセンサと網体との非固定部
8 盛土
9 土留め部材
9a 縦の金属棒
9b 横の金属棒
9c 底面体
9d 土留立面体
N 土木用網体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の縦糸と横糸を互いに交差させて各交点部分を固着した網体であって、少なくとも1本の縦糸上に光ファイバーセンサが配置されて網体に固定されており、光ファイバーセンサと網体との非固定部が縦糸と横糸との交点部分に位置して形成されていることを特徴とする土木用網体。
【請求項2】
光ファイバーセンサと網体との非固定部が、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の土木用網体。
【請求項3】
光ファイバーセンサと網体との非固定部が、縦糸の上に横糸が重なって交差する交点部分から縦糸の長さ方向両側の近傍部分に亘って形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の土木用網体。
【請求項4】
光ファイバーセンサが合成樹脂の被覆材で被覆され、この被覆材が網体に融着して、光ファイバーセンサが網体に固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の土木用網体。
【請求項5】
縦横の金属棒を結合して形成した土留め立面体と底面体とを備えた土留め部材が盛土の法面沿いに埋設されており、盛土中に略水平に埋設された請求項1ないし請求項4のいずれかの土木用網体の法面側端縁が上記土留め部材の底面体に連結されていると共に、上記土木用網体に固定された光ファイバーセンサの端末が盛土の法面から外部に引き出されていることを特徴とする盛土構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−102465(P2012−102465A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249312(P2010−249312)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(509260891)タキロンプロテック株式会社 (2)
【出願人】(591041196)旭化成ジオテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】