説明

土砂処理剤および土砂の処理方法

【課題】土砂から発生する粉塵を防止するとともに、長期にわたって臭気を抑制することができる土壌処理剤を提供する。
【解決手段】セドレン、ベンズアルデヒド、セドロール、ツヨプセン、プレゴンおよびα−テルピネオールを含む植物精油並びに水系樹脂を含有する土壌処理剤である。前記植物精油が、セドレン100重量部に対し、ベンズアルデヒド65〜85重量部、セドロール55〜75重量部、ツヨプセン50〜70重量部、プレゴン35〜55重量部およびα−テルピネオール25〜45重量部を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂処理剤に関するものである。詳細には、特に、掘削や浚渫により生じた土砂などに対して、優れた粉塵防止効果と消臭効果を示す土砂処理剤およびそれを用いた土砂の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設現場で発生する掘削土砂や、河川、湖沼および港湾で発生する浚渫土砂は、乾燥すると多量の粉塵が発生する。また、これらの土砂のうち、有機化合物を含む土砂は、微生物分解により臭気を発生するため、作業環境および周辺環境への影響を最小限にする方法が求められている。
【0003】
このような方法の1つとして、従来より、土砂表面をシートなどで覆うことが行われている。しかしながら、この方法は、ごく限られた範囲であれば対応可能であるが、土砂の量が多く、広範囲にわたる場合には、現実的な方法であるとはいえない。また、表面を覆うだけでは、臭気の発生を抑制することはできない。
【0004】
また、特許文献1には、高分子化合物を土砂に散布することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−42741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、粉塵の発生を抑制することはできるが、臭気が発生する土砂に対する消臭効果はほとんど得られない。また、土砂に消臭剤を散布することにより消臭効果が得られるが、その効果は一時的であり、頻繁に消臭剤を散布しなければ継続的に臭気を抑制することはできない。
【0007】
そこで、本発明の課題は、土砂から発生する粉塵を防止するとともに、長期にわたって臭気を抑制することができる土砂処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、セドレン、ベンズアルデヒド、セドロール、ツヨプセン、プレゴンおよびα−テルピネオールを含む植物精油並びに水系樹脂を含有する土砂処理剤に関する。
【0009】
前記植物精油が、セドレン100重量部に対し、ベンズアルデヒド65〜85重量部、セドロール55〜75重量部、ツヨプセン50〜70重量部、プレゴン35〜55重量部およびα−テルピネオール25〜45重量部を含むことが好ましい。
【0010】
前記水系樹脂が、水系ウレタン樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記土砂処理剤を用いる、土砂の処理方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の土砂処理剤によれば、特定の植物精油と水系樹脂とを含有するので、土砂から発生する粉塵を防止するとともに、長期にわたって臭気を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の土砂処理剤は、セドレン、ベンズアルデヒド、セドロール、ツヨプセン、プレゴンおよびα−テルピネオールを含む植物精油並びに水系樹脂を含んでいる。
【0014】
植物精油とは、植物の枝葉、根茎、木皮、果実、つぼみおよび樹脂などから、水蒸気蒸留法、圧搾法または溶剤抽出法などにより抽出されるものであり、芳香と揮発性とを有している。このようにして得られる植物精油は、一般に多数の化合物からなる混合物であり、植物によって構成する成分に差異がある。
【0015】
使用される植物およびその部位としては、例えば、バラ、ジャスミンおよびオレンジなどの花またはつぼみ、オレンジ、ゼラニウムおよびユーカリなどの葉、オレンジ、レモン、ライムおよびベルガモットなどの柑橘類の果皮、コショウおよびバニラなどの果実または種子、ビャクダン、マツ、ヒノキおよびシナモンなどの木皮、ベチバーおよびアヤメなどの根茎、ラベンダー、バジルおよびミントなどのハーブ類があげられる。
【0016】
現在、植物精油として、1500に及ぶ種類が知られているが、本発明においては、それらのなかでも、セドレン、ベンズアルデヒド、セドロール、ツヨプセン、プレゴンおよびα−テルピネオールを含む植物精油を使用する。含まれる成分の種類および量が、植物精油の特性に影響するが、これら6成分が含まれることにより、含窒素化合物または含硫黄化合物などによる腐敗臭、これらを含んだ試薬などの刺激臭、およびこれらが複合した悪臭を臭気中和する効果がある。なお、臭気中和とは、悪臭と植物精油の香りが混合されることにより、それぞれの臭気が相殺され、臭気レベルが低減されるという原理である。これら6成分を含む植物精油は、マツ、ヒノキ、クスノキまたはシソなどから抽出される。
【0017】
本発明で使用される植物精油において、ベンズアルデヒドは、セドレン100重量部に対して65〜85重量部含有されることが好ましく、70〜80重量部であることがより好ましい。ベンズアルデヒドの含有量を上記範囲内とすることにより、アンモニアに対する臭気中和効果がより優れたものとなる。
【0018】
本発明で使用される植物精油において、セドロールは、セドレン100重量部に対して55〜75重量部含有されることが好ましく、60〜70重量部であることがより好ましい。セドロールの含有量を上記範囲内とすることにより、硫化水素に対する臭気中和効果がより優れたものとなる。
【0019】
本発明で使用される植物精油において、ツヨプセンは、セドレン100重量部に対して50〜70重量部含有されることが好ましく、55〜65重量部であることがより好ましい。ツヨプセンの含有量を上記範囲内とすることにより、硫化水素に対する臭気中和効果がより優れたものとなる。
【0020】
本発明で使用される植物精油において、プレゴンは、セドレン100重量部に対して35〜55重量部含有されることが好ましく、40〜50重量部であることがより好ましい。プレゴンの含有量を上記範囲内とすることにより、腐敗臭およびカビ臭に対する臭気中和効果がより優れたものとなる。
【0021】
さらに、本発明で使用される植物精油において、α−テルピネオールは、セドレン100重量部に対して25〜45重量部含有されることが好ましく、30〜40重量部であることがより好ましい。α−テルピネオールの含有量を上記範囲内とすることにより、腐敗臭およびカビ臭に対する臭気中和効果がより優れたものとなる。
【0022】
水系樹脂としては、水系ウレタン樹脂、水系アクリル樹脂、水系アミド樹脂、水系アクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂など、樹脂が水に溶解または分散しているものが挙げられる。
【0023】
これらのうち、雨などの水に対する影響が少なく、より長期にわたって臭気を抑制できることから、水系ウレタン樹脂が好ましい。
【0024】
このような水系ウレタン樹脂としては、
(1)平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有ポリヒドロキシ化合物または前記ポリヒドロキシ化合物と平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有多価アミン化合物の併用、有機ポリイソシアネート、並びにNCO基と反応性の活性水素原子および塩形成基を有する化合物から合成される塩形成基を有するウレタン樹脂を、塩形成剤を使用することにより、公知の方法で水中に混合乳化させたアニオン性、またはカチオン性水系ウレタン樹脂、
(2)平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有ポリヒドロキシ化合物または前記ポリヒドロキシ化合物と平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有多価アミン化合物の併用、有機ポリイソシアネート、並びにモノアルコールまたは多価アルコールのエチレンオキサイド単独もしくはエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加物から合成されるノニオン性水系ウレタン樹脂、
(3)平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素含有ポリヒドロキシ化合物または前記ポリヒドロキシ化合物と平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有多価アミン化合物の併用並びに有機ポリイソシアネートから合成されるウレタン樹脂を、アニオン、カチオン、ノニオン性などの界面活性剤を添加した水中で強制的に乳化させた水系ウレタン樹脂などがあげられる。
【0025】
かかる前記(1)、(2)および(3)項において、平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有ポリヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、前記多価アルコールにアルキレンオキシドを付加したポリエーテルポリオール、前記多価アルコールと多価カルボン酸とを反応させてなるポリエステルポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオールなどのポリオール化合物などがあげられる。
【0026】
また、平均分子量50〜100,000で2個以上の活性水素原子含有多価アミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの低分子量多価アミン;エポキシアミンアダクト体またはポリアミド樹脂などの高分子量多価アミン化合物があげられる。
【0027】
次に有機ポリイソシアネートとしてはナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどあらゆる芳香族、脂肪族、脂環族系のイソシアネート類の単独もしくは混合物があげられる。
【0028】
次にNCO基と反応性の活性水素原子および塩形成基を有する化合物およびそれに対応する塩形成剤としては、
1)塩形成性のカルボン酸またはスルホン酸基をもつ化合物および対応する塩形成剤、
2)酸で中和可能な第4級または第3級基になり得る基をもつ化合物および対応する塩形成剤、
3 ) 第4級化反応を起こすハロゲン原子または相当する強酸のエステルを含有する化合物および対応する塩形成剤
などがあげられる。
【0029】
塩形成性のカルボン酸またはスルホン酸基をもつ化合物としては、例えばグリコール酸、リンゴ酸、グリシン、アミノ安息香酸、アラニン、ジメチロールプロピオン酸などのヒドロキシ酸、アミノカルボン酸、多価ヒドロキシ酸類やタウリン、2−ヒドロキシエタンスルホン酸などのアミノスルホン酸、ヒドロキシスルホン酸類などが、それに対応する塩形成剤としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどの1価の金属水酸化物やアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの3級アミン化合物などがあげられる。
【0030】
酸で中和可能な第4級または第3級基になり得る基をもつ化合物としては、例えばN −メチルジエタノールアミンなどのアルコキシル化アミン類やN−メチル−N−(3−アミノプロピル)−エタノールアミン、N,N−ジメチルヒドラジンなどのアミノアルコール類やアミン類などが、それに対応する塩形成剤としては例えば塩類、硝酸、蟻酸、酢酸、メチルクロライド、ベンジルクロライドなどの有機および無機酸類並びに反応性ハロゲン原子を有する化合物があげられる。
【0031】
第4級化反応を起こすハロゲン原子または相当する強酸のエステルを含有する化合物としては例えば、2−クロロエタノール、2−ブロムメタノールなどが、それに対応する塩形成剤としては、例えば3級アミン、スルフィド類、ホスフィン類などがあげられる。
【0032】
次にモノアルコールまたは多価アルコールのエチレンオキサイド単独もしくはエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加物におけるモノアルコールとしては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ラウリルアルコールなどが、多価アルコールとしては、前記多価アルコールなどがそれぞれあげられる。
【0033】
次にアニオン、カチオン、ノニオン性などの界面活性剤としては、通常、界面活性剤の分野で使用されているものがあげられる。
【0034】
本発明の土砂処理剤は、水系樹脂に含まれる樹脂100重量部に対して、前記植物精油を1〜30重量部含有することが好ましく、3〜10重量部含有することがより好ましい。植物精油の含有量を上記範囲内とすることにより、消臭効果と防塵効果がより優れたものとなる。
【0035】
また、本発明の土砂処理剤は、さらに、ノニオン性界面活性剤を含有することができる。
【0036】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルがより好ましい。
【0037】
ノニオン性界面活性剤の含有量は、植物精油100重量部に対して50〜300重量部であることが好ましく、70〜200重量部であることがより好ましい。ノニオン性界面活性剤の含有量を上記範囲内とすることにより、植物精油を水に可溶化しやすくなるとともに、水系樹脂の乳化分散安定化という効果を奏する。
【0038】
さらに、本発明の土砂処理剤は、本発明の効果を損なわない程度に、殺菌剤や殺虫剤などの添加剤を含有することができる。
【0039】
本発明の土砂の処理方法は、前記土砂処理剤を、トリガー式噴霧器、スプレーノズルなどを用いてスプレー噴霧する方法、高圧洗浄機などにより、土砂に散布する方法である。
前記土砂処理剤の使用量は、植物精油と水系樹脂の合計量が土砂1mあたり10〜40gであることが好ましく、15〜30gであることがより好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
<使用原料>
(植物精油)
表1に示す構成比からなるA−1〜A−5を用いた。
【0042】
【表1】

【0043】
(水系樹脂)
B−1:ポリエステル系アニオン性水系ウレタン樹脂(樹脂含有量:約30%)
(商品名:スーパーフレックス820、第一工業製薬社製)
B−2:ポリエステル系ノニオン性水系ウレタン樹脂(樹脂含有量:約45%)
(商品名:スーパーフレックス500M、第一工業製薬社製)
B−3:ポリカーボネート系アニオン性水系ウレタン樹脂(樹脂含有量:約30%)
(商品名:スーパーフレックス420、第一工業製薬社製)
【0044】
(ノニオン性界面活性剤)
C−1:ポリオキシエチレンラウリルエーテル
(商品名:ノイゲンET135、第一工業製薬社製)
【0045】
(実施例1)
植物精油(A−1)3重量部、ノニオン性界面活性剤(C−1)2重量部および水95重量部とを混合し、さらに、水系樹脂(B−1)100重量部を混合することにより、本発明の土砂処理剤を得た。
【0046】
(実施例2〜5、比較例1〜5)
表2に示す原料および配合量とした以外は、実施例1と同様にして、土砂処理剤を得た。
【0047】
【表2】

【0048】
(評価試験)
表3に示す土砂150gを直径10cmのシャーレ(断面積78.5cm)に投入し、表面を平らにした。実施例1〜5および比較例1〜5の土砂処理剤を水で5倍に希釈し、これをトリガー式噴霧器を用いて、土砂1mあたり22.5gとなるように散布し、25℃で24時間風乾させることにより、評価用サンプルを作製した。
【0049】
【表3】

【0050】
作製した評価用サンプルを用いて、下記2種類の評価を行った。結果を表6に示す。
【0051】
(粉塵防止試験)
評価用サンプルを45度に傾けた状態で10秒間静止したときの土砂の状態を評価した。
○:土砂は全く崩れない。
×:土砂の一部または全部が崩れ落ちる。
【0052】
(消臭試験)
作製直後、作製3日後、作製6日後の評価用サンプルについて、臭気強度および快不快度を測定した。測定は、6名のパネラーが表4および表5に示す評価基準し基づき、官能評価を行い、その平均値を求めた。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
表6から明らかなように、本発明の土砂処理剤は、粉塵防止効果に優れるとともに、長期にわたって臭気を低減できることがわかる。一方、比較例1〜3のように、植物精油が本発明の構成ではない、または植物精油を使用しない場合には、消臭効果が低く、試験期間の後期において、消臭性能が大きく低下していることがわかる。また、比較例4のように、本発明の水系樹脂を使用しない場合は、粉塵防止効果が得られないばかりでなく、消臭効果も大きく劣ることがわかる。なお、比較例5は水を散布しただけであるため、粉塵防止効果、消臭効果ともに全く得られないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の土砂処理剤は、土砂から発生する粉塵を防止するとともに、長期にわたって臭気を抑制することができる

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セドレン、ベンズアルデヒド、セドロール、ツヨプセン、プレゴンおよびα−テルピネオールを含む植物精油並びに水系樹脂を含有する土砂処理剤。
【請求項2】
前記植物精油が、セドレン100重量部に対し、ベンズアルデヒド65〜85重量部、セドロール55〜75重量部、ツヨプセン50〜70重量部、プレゴン35〜55重量部およびα−テルピネオール25〜45重量部を含む請求項1記載の土砂処理剤。
【請求項3】
前記水系樹脂が、水系ウレタン樹脂である請求項1または2記載の土砂処理剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の土砂処理剤を用いてなる土砂の処理方法。




【公開番号】特開2013−66821(P2013−66821A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205384(P2011−205384)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】