説明

圧入材

【課題】圧入の作業性が良好でありながら、圧入後に被補修部位から漏れ出すことを防止でき、かつ次回の圧入時に前回の圧入材が障害物となりにくい圧入材を提供する。
【解決手段】本発明の圧入材は、耐火性骨材とタールとを含む圧入材において、膨潤炭を添加することにより、気密状態で70℃に3時間保持したときの粘度が5000mPa・s以下、かつ気密状態で200℃に96時間保持したときの粘度が10000〜100000mPa・sとなるように粘度の温度依存性を調整したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、熱風炉、石油工業における反応塔、加熱炉等の各種炉又は高温容器の鉄皮と内張り耐火物との間に生じた空隙に充填される圧入材に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉を例に挙げて説明すると、高炉炉底部の炉壁は、鉄皮と、その内側に配置されたステーブクーラと、その内側に配置された内張りれんがとを有する。出銑と出銑待機との繰り返しによって炉壁は温度変化を受ける。炉壁が温度変化を受けた際に、例えばステーブクーラと内張りれんがとの間の熱膨張量の差により、両者間に空隙が生じることがある。この空隙では熱伝導率が小さいため、ステーブクーラによる内張りれんがの冷却効果が損なわれ、炉壁の寿命低下を招く。そこで、炉外から炉壁に上記空隙に達する穴を形成し、その穴を通じて上記空隙にペースト状の耐火物である圧入材を充填することが行われている。圧入材としては、従来、以下のものが知られている。
【0003】
特許文献1には、耐火性骨材と、タールと、流動性付与材としての重油とからなる圧入材が開示されている。特許文献1によると、この圧入材は、流動性付与剤に水を使用した従来の水系圧入材に比べると、水蒸気の発生に起因する種々の問題を回避することができるものであり、タールが炉熱で軟化し、耐火性骨材を含んだ状態で被補修部位に付着することができると説明されている。
【0004】
特許文献2には、耐火性骨材と、タール及びフェノールレジンを特定の割合で混合したバインダとを含み、施工時の粘度を10000mPa・s以下、硬化開始時の粘度を1000mPa・s以上に調整した圧入材が開示されている。
【特許文献1】特公昭55−35355号公報
【特許文献2】特開2001−98310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の圧入材は、タールをバインダとしているため粘度が小さく、空隙への圧入は容易であるが、圧入後に熱を受けても硬化しにくいため、被充填部位に施工体として留まらず、漏れ出してしまうことがある。なお、タールを増粘する物質として、硫化物や酸類等の添加も考えられるが、その場合、圧入材の組織に亀裂や発泡空隙が生じやすくなるため、硫化物や酸類等はできるだけ添加しないことが望まれる。
【0006】
特許文献2の圧入材は、施工時の粘度が10000mPa・s以下であるため空隙への圧入が容易であり、また硬化開始時の粘度が1000mPa・s以上であるためフェノールレジンの溶剤の発泡による空隙の形成を防止できるが、フェノールレジンの硬化剤(ヘキサミン)を含んでいるため、硬化後の粘度が大きくなりすぎる場合がある。
【0007】
硬化後の圧入材の粘度が大きすぎると、例えば数日後に新たに圧入材を圧入しようとする場合、既に硬化した前回の圧入材が障害物となるため、圧入が困難となる。圧入用の穴から前回の圧入材を除去すれば再度の圧入が可能となるが、その除去作業は非常に煩雑である。
【0008】
本発明の目的は、圧入の作業性が良好でありながら、圧入後に被補修部位から漏れ出すことを防止でき、かつ次回の圧入時に前回の圧入材が障害物となりにくい圧入材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、耐火性骨材とタールとを含む圧入材において、膨潤炭を添加することにより、気密状態で70℃に3時間保持したときの粘度が5000mPa・s以下、かつ気密状態で200℃に96時間保持したときの粘度が10000〜100000mPa・sとなるように粘度の温度依存性を調整したことを特徴とする圧入材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
膨潤炭がタールと反応し、圧入材の粘度を上昇させる。膨潤炭によるこの増粘効果は、温度に依存するため、圧入材の粘度の温度依存性を容易に調整できる。
【0011】
70℃に3時間保持したときの粘度は、圧入時の粘度を反映する。この温度では膨潤炭がタールと殆ど反応しないため、この温度での粘度を5000mPa・s以下とすることを容易に実現できる。このため、圧入の作業性は良好であり、通常の圧入機を用いて容易に圧入することができる。また、狭い空隙への充填も可能となる。
【0012】
200℃に96時間保持したときの粘度は、圧入後の粘度を反映する。この温度では膨潤炭による増粘効果が発揮され、圧入材の粘度を10000mPa・s以上とすることができる。このため、圧入材が圧入後に容積安定性を維持することができ、かつ被補修部位から漏れ出すことを防止できる。また、次回の圧入時に前回の圧入材が被補修部位から押し出されてしまうことを防止できる。一方、膨潤炭による増粘は適度なものであり、この温度での粘度を100000mPa・s以下に抑えることができるため、例えば数日後に新たに圧入材を圧入する際に前回の圧入材が障害物となりにくい。また、圧入材が内張り耐火物の膨張と収縮に追随でき、圧入後に再び空隙が生じるという事態が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
耐火性骨材としては、被補修部位の母材に応じて材質を選択することができ、慣用の材料、例えば、仮焼無煙炭やカーボンブラック等の黒鉛粉末、炭化珪素、コークス、ピッチ粉、カーボンれんが屑、電極粉、焼結アルミナ、電融アルミナ、仮焼アルミナ、ロー石、シャモット、陶石、粘土、カオリン、ベントナイト、ボーキサイト、バン土頁岩、及びシリカフラワーから選ばれる一種以上を用いることができる。但し、本明細書において、膨潤炭は耐火性骨材の概念から除かれる。
【0014】
耐火性骨材は、粒径125μm超のものを粗粒、粒径125μm以下で75μm超のものを中粒、粒径75μm以下のものを微粒としたとき、粗粒:中粒:微粒の質量比が20〜40:30〜40:30〜40となるように粒度調整することが好ましい。これにより圧入時の流動性を確保しやすくなる。
【0015】
圧入材が狭い空隙にも行き渡ることができるようにするためには、耐火性骨材の最大粒径は、充填する空隙の最小幅の60〜70%とすることが好ましい。例えば、空隙の最小幅が1mm程度であれば、耐火性骨材の最大粒径は700μm以下であることが好ましい。また、空隙の最小幅が0.5mm程度であれば、耐火性骨材の最大粒径は300μm以下であることが好ましい
【0016】
なお、本明細書において、粒子の粒径がdμm以下とは、その粒子がJIS−Z8801に規定する目開きdμmの標準ふるいを通過する粒度域に属することをいう。粒子の粒径がdμm超とは、その粒子がJIS−Z8801に規定する目開きdμmの標準ふるい上に残る粒度域に属することをいう。
【0017】
タールとしては、例えば、コールタール、特に無水コールタール、コールタールの蒸留残渣であるピッチ(メルトピッチ)、又はそのピッチをクレオソート油、アントラセン油、軽油、若しくは吸収油等の溶剤で溶解したカットバックタール等を使用することができる。圧入材の組織の緻密性を高めることと、圧入時の作業性を高めることとの兼ね合いを考慮すると、タールの添加量は、耐火性骨材100質量%に対する外掛けで80〜180質量%であることが好ましく、150〜170質量%であることがより好ましい。
【0018】
膨潤炭は、瀝青炭にタール等を加えて熱処理し、瀝青炭を膨潤解重合して得られる瀝青材である。膨潤炭自体は、例えばタール工業便覧に定義されているように知られているが、従来、これをタール系圧入材に適用した例はない。
【0019】
膨潤炭はタールと反応し、圧入材の粘度を上昇させる。膨潤炭によるこの増粘効果は100℃以上で発揮されるため、圧入材が100℃以下の圧入時には、例えばグラウトポンプ等の通常の圧入機を用いて容易に圧入可能な作業性を発揮することができながら、圧入材が100℃以上となる圧入後においては、被補修部位からの漏出は防止できる一方、次回の圧入時に前回の圧入材が障害物とならないような適度の粘度を示すことができる。かかる効果は、膨潤炭をタール系圧入材に適用した場合の特有の効果である。
【0020】
具体的には、膨潤炭を用いることにより、圧入材が、気密状態で70℃に3時間保持したときに5000mPa・s以下の粘度を示し、かつ気密状態で200℃に96時間保持したときに10000〜100000mPa・sの粘度を示すように、圧入材の粘度の温度依存性を調整することができる。なお、本明細書において、粘度はB型粘度計による測定値をいう。
【0021】
気密状態で70℃に3時間保持したときの粘度は、2000mPa・s以下であることが好ましく、1000mPa・s以下であることがより好ましい。また、気密状態で200℃に96時間保持したときの粘度は、10000〜80000mPa・sであることが好ましく、20000〜70000mPa・sであることがより好ましい。
【0022】
なお、膨潤炭による増粘効果は、膨潤炭がタール中の軽質成分を吸着して体積増加を生じ、圧入材の粘度を上昇させるとともに、膨潤炭によるタールの吸収が温度の上昇に伴って促進することによると推定される。但し、これはメカニズムの推定であり、本発明の解釈を拘束するものではない。
【0023】
上述のように圧入材の粘度の温度依存性を調整するためには、膨潤炭の添加量は耐火性骨材100質量%に対する外掛けで2〜8質量%であることが好ましい。2質量%以上であることにより、圧入材の粘度が低くなりすぎることを防止できる。8質量%以下であることにより、圧入材が硬くなりすぎることを防止できる。両者の兼ね合いを考慮すると、膨潤炭の添加量は、耐火性骨材100質量%に対する外掛けで4〜7質量%であることがより好ましい。
【0024】
また、膨潤炭による増粘効果を生じやすくさせるためには、膨潤炭は、粒径75μm以下の粒度を80質量%以上有するように粒度調整されていることが好ましい。
【実施例】
【0025】
表1に圧入材の配合の具体例を示す。表1に示す各配合割合で、耐火性骨材としての黒鉛粉末と膨潤炭とをコールタールでペースト状に錬り込み、例A〜Lの圧入材を得た。
【0026】
膨潤炭には、粒径75μm以下の石炭微粉末に、コールタールとアントラセン油を加えて200℃以上に加熱しながら攪拌して得た生成物をジェットミル粉砕により粉末化したものを用いた。膨潤炭は、粒径150μm以下で粒径75μm超のもの10質量%、粒径75μm以下で粒径45μm超のもの30質量%、粒径45μm以下のもの60質量%よりなるように粒度調整されてなる。
【0027】
70℃における粘度は、各圧入材を内径50mm、高さ200mmの中空円筒に充填して密封し、70℃の乾燥炉中に3時間置いたのち、中空円筒から取り出してB型粘度計で測定した。200℃における粘度も同様、各圧入材を同じ中空円筒に充填して密封し、200℃の乾燥炉中に96時間置いたのち、中空円筒から取り出してB型粘度計で測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
例A及びBの圧入材は、膨潤炭の添加量が少なすぎるため、気密状態で200℃に96時間保持したときの粘度が小さすぎ、圧入後に被補修部位から漏れ出す懸念がある。
【0030】
例I及びJの圧入材は、膨潤炭の添加量が多すぎるため、200℃で96時間保持したときの粘度が高すぎ、次回の圧入時にこれらの圧入材が障害物となって圧入作業に支障をきたす懸念がある。
【0031】
例Lの圧入材は、200℃で96時間保持したときに、粘度の測定が不可能な程度に硬化した。
【0032】
例Kの圧入材は、200℃で96時間保持したときの粘度が本発明の規定を満たすが、これは偶発的なものであると考えられる。即ち、膨潤炭の添加量が8.0質量%よりも多い場合、200℃で96時間保持したときの粘度が、例I及びJではほぼ同じ値を示して飽和し、例Kでは逆に低下し、例Lでは硬化していることから分かるように不安定な挙動を示す。但し、例Kの圧入材は実機使用は可能である。
【0033】
例C〜Hの圧入材は、粘度の温度依存性が本発明の規定を満たしていることから、本実施例の条件においては、膨潤炭の添加量は、耐火性骨材100質量%に対する外掛けで、2.0〜8.0質量%であることが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の圧入材は、例えば高炉、熱風炉、石油工業における反応塔、加熱炉等の各種炉又は高温容器の鉄皮と内張り耐火物との間に生じた空隙の充填に利用することができる。特に、高炉の炉底部には常時1450〜1550℃の溶銑が溜まっており、炉壁に熱的歪が生じやすいので、本発明の圧入材を適用して好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性骨材とタールとを含む圧入材において、膨潤炭を添加することにより、気密状態で70℃に3時間保持したときの粘度が5000mPa・s以下、かつ気密状態で200℃に96時間保持したときの粘度が10000〜100000mPa・sとなるように粘度の温度依存性を調整したことを特徴とする圧入材。
【請求項2】
タールの添加量が、耐火性骨材100質量%に対する外掛けで80〜180質量%であり、膨潤炭の添加量が、耐火性骨材100質量%に対する外掛けで2〜8質量%である請求項1に記載の圧入材。
【請求項3】
膨潤炭が、その80質量%以上が粒径75μm以下の粒度域に属するように粒度調整されている請求項1又は2に記載の圧入材。

【公開番号】特開2009−96659(P2009−96659A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268774(P2007−268774)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】