説明

圧入装置

【課題】小さな荷重で圧入を行うことができる安価かつ小型の圧入装置を提供する。
【解決手段】周期的に変化する磁界に応じて周期的に伸縮変形して、圧入すべき部品Pを起振する超磁歪素子を内蔵した起振体3と、起振された部品Pを、起振体3を介して押圧して、部品Pを被圧入部材Rに圧入するエアシリンダ2と、周期的に変化する磁界を超磁歪素子に作用させて当該超磁歪素子を伸縮変形させる駆動回路51とを備え、かつ駆動回路51は圧入過程において、上記磁界変化の周波数および/又は強度を漸次変更するように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧入装置に関し、特に、振動を利用して圧入を行う圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダヘッドのポート開口内にバルブシートを圧入する圧入装置等においては、従来、油圧シリンダで圧入ヘッドを作動させて1〜2t程度の大きな荷重をバルブシートに印加することにより圧入している。なお、特許文献1には超音波を印加しながら圧入する方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭50−36343
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の圧入装置は、圧入に大きな荷重を要するために装置が大型化するという問題があった。
【0004】
そこで本発明はこのような課題を解決するもので、小さな荷重で圧入を行うことができる安価かつ小型の圧入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本第1発明では、周期的に変化する磁界に応じて周期的に伸縮変形して、圧入すべき部品(P)を起振する超磁歪素子(32)と、起振された部品(P)を、超磁歪素子(32)を介して押圧して、部品(P)を被圧入部材(R)に圧入する押圧手段(2)と、周期的に変化する磁界を超磁歪素子(32)に作用させて当該超磁歪素子(32)を伸縮変形させる駆動手段(51)とを備え、かつ駆動手段(51)は圧入過程において、上記磁界変化の周波数および/又は強度を漸次変更するように設定されている。
【0006】
本第1発明においては、磁界の作用により伸縮変形させられる超磁歪素子で圧入すべき部品を起振しつつ圧入しているから、小さな荷重で圧入を行うことができる。そして、圧入時には磁界変化の周波数および/又は強度を漸次変更して、超磁歪素子による部品の起振周波数と起振量を最適なものにするから、圧入がよりスムーズになされる。
【0007】
本第2発明では、圧入荷重に応じた上記超磁歪素子(32)の透磁率変化を検出してこれに応じた検出信号を発する検出手段(34,52)をさらに設ける。
【0008】
本第2発明において、超磁歪素子はこれに印加される荷重(すなわち圧入荷重)に応じてその透磁率が変化する。したがって、圧入荷重を検出するためのロードセル等を使用することなく、上記検出手段により圧入荷重の変化を簡易かつ安価に検出することができる。そして、検出された圧入荷重の変化より、圧入の可否を判定することもできる。
【0009】
本第3発明では、複数の上記部品(P)について、各部品(P)を圧入する際の上記磁界変化の周波数および/又は強度の変更過程を記憶しておく記憶手段と、圧入される各部品(P)に応じて、記憶された上記変更過程の一つを選択して駆動手段(51)に実行させる選択手段とをさらに設ける。
【0010】
本第3発明においては、圧入する部品が変更されても、これに最適な圧入条件が即座に選択されてスムーズな圧入がなされる。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、小さな荷重で圧入を行うことができ、圧入装置を安価で小型のものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に圧入装置の構成を示す。図1において、架台STに支持されて圧入器1が設けられており、当該圧入器1はエアシリンダ2と、エアシリンダ2の下面に固定された起振体3と、当該起振体3の下面に固定されてエアシリンダ2によって上下に移動させられる圧入ヘッド4とを備えている。
【0014】
図2に起振体3の詳細を示す。起振体3にはハウジング31の中心に棒状の超磁歪素子32が配設されており、その周囲には検出用コイル33と駆動用コイル34が重ね巻きされている。駆動用コイル34は駆動回路51に接続されており、駆動回路51は駆動用の交流電力を駆動コイル34へ供給する。駆動回路51は定電流源(実効値)で、圧入工程において駆動用コイル34への供給電流の周波数と振幅を後述のように変更することができる。検出用コイル33はコンピュータ等で構成される検出回路52に接続されている。検出回路52は定電圧源(実効値)で、例えば周波数100Hzで電圧200Vを検出回路52から検出用コイル33に印加して、図3に示すように超磁歪素子32への印加荷重を変化させると、これに応じてほぼ直線的に検出コイル33の電流が変化する。この電流値を検出することで、エアシリンダ31から超磁歪素子32への印加荷重(すなわち圧入荷重)を正確に知ることができる。
【0015】
図2において、駆動用コイル34の周囲には、超磁歪素子32の線形変形範囲を拡大するためのバイアス磁界を生成する永久磁石35が配設されている。超磁歪素子32の下面にはプッシュロッド35の基端が当接し、その先端はハウジング31外へ突出して、ここに圧入ヘッド4(図1)が結合されている。プッシュロッド36とハウジング31内壁との間には皿バネ37が設けられて、超磁歪素子32に予荷重を付与している。
【0016】
表1には、駆動回路51から駆動用コイル34へ供給される電流値(A)と周波数(Hz)によって超磁歪素子32の振幅(μm)がどのように変化するのか、その一例を示す。これによると、周波数が高くなると全体として振幅は小さくなり、また、電流値が大きくなると全体として振幅は大きくなる。なお、括弧内の数字は駆動回路51の電源容量による限界電流であり、実際の出力電流はこの限界電流に抑えられている。
【0017】
【表1】

【0018】
このような圧入装置で部品P(図1)を被圧入部材R内に圧入する場合には、エアシリンダ2を下方へ伸長させて圧入ヘッド4の先端を部品Pに当て、この状態で圧入荷重を次第に上げて当該荷重が所定値に達した後に、駆動用コイル34に通電して周期的な交番磁界を生じさせる。超磁歪素子32は交番磁界によって周期的に伸縮変形させられて圧入ヘッド4を起振し、この状態で圧入工程が進行させられる。検出回路52では検出用コイル34の電流から圧入荷重を検出して、その変化より圧入の各工程を判定する。
【0019】
すなわち、図4には正常な圧入工程における荷重変化の一例を示し、図のa点、b点、c点、d点はそれぞれ、圧入ヘッド4が部品Pに当接した点、超磁歪素子32による起振が開始された点、圧入が開始された点、圧入が終了した点である。これによると、圧入の開始(c点)から圧入荷重は次第に低下していき、圧入が完了すると(d点)、いわゆる底付きによって圧入荷重は急増する。このような圧入荷重の変化より正常な圧入か否かや、圧入の開始・完了を検出することができる。
【0020】
また、図5には各周波数において超磁歪素子32の振動が規制される荷重(BF)の一例を示す。これによると、超磁歪素子32の800Hz程度までの振動を保障するにはエアシリンダ2による圧入荷重は200Kgf程度までにしておく必要がある。
【実施例】
【0021】
表2には、円形開口内にリング体を圧入した場合の実験結果を示す。圧入代が30μmの時に、エアシリンダによる圧入荷重を200Kgfにすると、超磁歪素子を振動させなくても圧入を完了させることができる。ここで、圧入荷重を軽減して100Kgfとし、超磁歪素子を駆動電流1A、450Hzで振動させると、15mmの圧入ストロークのうち3mm程度しか圧入が進行しない。これに対して、圧入荷重を100Kgfにしても、超磁歪素子の駆動電流の周波数を450Hzから600Hzの間で漸次変化させると、特に500Hz付近で圧入が大きく進行して全ストロークの圧入が完了する。
【0022】
圧入代が70μmの時に、圧入荷重を200Kgfにして超磁歪素子を駆動電流1A、450Hzで振動させても、15mmの圧入ストロークのうち3mm程度しか圧入が進行しない。これに対して同一圧入荷重で、超磁歪素子の駆動電流の周波数を450Hzから800Hzの間で漸次変化させると、特に500Hz付近で圧入が大きく進行して全ストロークの圧入が完了する。
【0023】
圧入代が90μmの時に、圧入荷重を250Kgfにして超磁歪素子を駆動電流1A、550Hzで起振しても、15mmの圧入ストロークのうち6mm程度しか圧入が進行しない。これに対して同一圧入荷重で、超磁歪素子の駆動電流の周波数を450Hzから700Hzの間で漸次変化させると、特に550Hz付近で圧入が大きく進行して全ストロークの圧入が完了する。
【0024】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態における圧入装置の全体構成を示す図である。
【図2】起振体の縦断面図である。
【図3】圧入荷重と検出用コイル電流の関係を示すグラフである。
【図4】圧入工程での圧入荷重の変化を示すグラフである。
【図5】駆動電流の周波数とBFの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1…圧入器、2…エアシリンダ(押圧手段)、3…起振体、32…超磁歪素子、33…検出用コイル(検出手段)、34…駆動用コイル(駆動手段)、4…圧入ヘッド、51…駆動回路(駆動手段)、52…検出回路(検出手段)、P…部品、R…被圧入部材7。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変化する磁界に応じて周期的に伸縮変形して、圧入すべき部品を起振する超磁歪素子と、起振された部品を、前記超磁歪素子を介して押圧して、前記部品を前記被圧入部材に圧入する押圧手段と、周期的に変化する磁界を前記超磁歪素子に作用させて当該超磁歪素子を伸縮変形させる駆動手段とを備え、かつ前記駆動手段は圧入過程において、前記磁界変化の周波数および/又は強度を漸次変更するように設定されていることを特徴とする圧入装置。
【請求項2】
圧入荷重に応じた前記超磁歪素子の透磁率変化を検出してこれに応じた検出信号を発する検出手段をさらに設けた請求項1に記載の圧入装置。
【請求項3】
前記複数の部品について、各部品を圧入する際の前記磁界変化の周波数および/又は強度の変更過程を記憶しておく記憶手段と、圧入される各部品に応じて、記憶された前記変更過程の一つを選択して前記駆動手段に実行させる選択手段とをさらに設けた請求項1又は2に記載の圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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