説明

圧入装置

【課題】加振によって圧入嵌合部品の圧入推力が損なわれないようにし、ポアソン効果による圧入嵌合代の縮小時に圧入部位の圧入ストロークを確保可能な圧入装置を提供する。
【解決手段】圧入部品31を被圧入部品32に圧入するよう一方の圧入部品31を圧入方向に押圧する圧入推力を加える加圧ヘッド14と、圧入部品31を圧入方向に振動させる振動推力を加える加振ヘッド13と、を備え、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位33に対し、加圧ヘッド14からの圧入推力と加振ヘッド13からの振動推力とを互いに独立した伝達経路で加えるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入装置に関し、特に圧入嵌合部位に振動を加えつつ圧入を行うようにした圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部品のような高剛性の部品同士を圧入嵌合(圧力ばめ)させる場合に、その圧入嵌合部位に振動を加えることで、圧入荷重(推力)の低減やバリの防止を図るようにした圧入装置が知られている。
【0003】
例えば、圧入部品に圧入推力を加える圧入ポンチに対して超音波振動を付与する超音波振動子を設けるとともに、その圧入ポンチを圧入方向に往復直線運動可能に案内するスライドガイド機構を設けることで、圧入ポンチから圧入部品に加えられる圧入推力に超音波振動の加振力を重ねるとともに、圧入部品に対する圧入ポンチの作用点の位置ずれを防止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、圧入時の超音波振動子への投入電力と、エアシリンダによる圧入荷重および圧入ストロークとをそれぞれモニタし、これらのうち少なくとも一つが良好な圧入の場合の基準変化域から外れると圧入不良と判定するようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、圧入ヘッドの先端部に、圧入部品への突当て面から突出して圧入部品に挿入される保持部と、その保持部の外周に装着されて圧入部品の内周壁に弾性接触する接触部とを設けて、圧入ヘッドから圧入部品にガタツキなく超音波振動を確実に伝達させるようにしたものも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−296615号公報
【特許文献2】特開2006−315112号公報
【特許文献3】特開2007−237365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような圧入装置にあっては、圧入部品への圧入推力の伝達経路中に直列に超音波振動子等の振動推力発生部を挿入する構成となっていた。そのため、振動推力によるハンマリング効果によって圧入推力(平均値)を小さく抑えることができるものの、圧入部品のポアソン効果によって圧入部位における圧入嵌合代(締め代)が小さくなる時点において十分な圧入(押込み)ストロークを確保できず、ポアソン効果を十分に活かせていなかった。
【0008】
すなわち、圧入部品は、圧入ヘッドからの圧入推力および超音波加振力を受けるとき、ハンマリング効果による比較的大きな縦歪みを生じて圧入方向に高速に伸縮するとともにポアソン効果による径方向の寸法変化をも生じるので、圧入部位における圧入嵌合代が周期的に変化する。しかし、圧入部品への圧入推力の伝達経路中に直列に超音波振動子等が挿されていたため、圧入ヘッドからの振動推力、圧入部品の軸方向の伸縮およびポアソン効果による圧入嵌合代の変化の間に位相のずれが生じ得る加工条件下で、圧入嵌合代の縮小時に圧入ヘッドが圧入部品から遊離し易くなり、圧入嵌合代を低減させるポアソン効果を圧入ストロークの増加に十分に活用できていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、ハンマリング効果を発揮するための加振によって圧入嵌合部品の安定した圧入推力を得るための加圧状態が損なわれないようにして、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークを十分に確保することができる圧入装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る圧入装置は、上記課題解決のため、(1)一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入するよう前記一方の圧入嵌合部品を圧入方向に押圧する圧入推力を加える加圧ヘッドと、前記一方の圧入嵌合部品または前記他方の圧入嵌合部品を前記圧入方向に振動させる振動推力を加える加振ヘッドと、を備え、前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位に対する前記加圧ヘッドからの前記圧入推力の伝達経路と、該嵌合部位に対する前記加振ヘッドからの前記振動推力の伝達経路とが、互いに独立した伝達経路で構成されていることを特徴とする。
【0011】
これにより、加圧ヘッドから一方の圧入嵌合部品に圧入推力が加わる圧入時には、一方または他方の圧入嵌合部品に加振ヘッドからの振動推力が伝達され、その圧入嵌合部品に圧入方向の伸縮が生じたとしても、嵌合部位に対する加圧ヘッドからの圧入推力の伝達経路と加振ヘッドからの振動推力の伝達経路とは互いに独立していることから、加圧ヘッドから一方の圧入嵌合部品に圧入推力を加える状態は常に維持される。したがって、一方の圧入嵌合部材に対する加圧ヘッドの加圧状態が安定保持可能となり、ハンマリング効果を発揮するための加振によって圧入嵌合部品の加圧状態が損なわれ難くなる。その結果、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークを十分に確保可能となる。
【0012】
本発明の圧入装置においては、(2)前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品に前記圧入推力を加えるとともに、前記加振ヘッドが、前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力の伝達経路とは並列する他の伝達経路で、前記一方の圧入嵌合部品に前記振動推力を伝達することが好ましい。
【0013】
この場合、一方の圧入嵌合部品に対する加圧ヘッドからの圧入推力の伝達経路と加振ヘッドからの振動推力の伝達経路とが並列するので、装置を大型化することなく、両ヘッドから一方の圧入嵌合部品への確実に独立した伝達経路を形成することができる。
【0014】
上記(2)の構成を有する圧入装置においては、(3)前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の軸方向一端面に対し該軸方向一端面の径方向両側で前記圧入推力を加え、前記加振ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の前記軸方向一端面に対し前記径方向中心側の加振領域内で前記振動推力を加えることが好ましい。
【0015】
この場合、一方の圧入嵌合部品の圧入姿勢が加振ヘッドからの振動推力によって損なわれ難いことに加え、加圧ヘッドからの圧入推力によって一方の圧入嵌合部品の圧入姿勢が安定することになり、圧入時のかじり等の発生を有効に抑制できる。
【0016】
本発明の圧入装置においては、(4)前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力が、前記加振ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記振動推力の変動範囲より狭い一定範囲内に保持されることが好ましい。これにより、圧入時には、ハンマリング効果を発揮するための振動推力によって圧入嵌合部位に圧入方向の伸縮が生じる一方で、圧入推力を加える加圧ヘッドの加圧状態が保持され、加振ヘッドが一方の圧入嵌合部品に対し間欠的な振動推力を加える状態となる。したがって、一定範囲内の所要の圧入推力が確保されるとともに、加振ヘッドからの振動推力によるハンマリング効果が得られ、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークも確保可能となる。
【0017】
上記(4)の構成を有する圧入装置においては、(5)前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力が、一定の推力値に保持されることがより好ましい。この場合、圧入時には、加振ヘッドが一方の圧入嵌合部品に対し間欠的な振動推力を加える状態となる一方で、一定の圧入推力が確保されるから、効果的なハンマリング効果が得られるとともに、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークを十分に確保できることになる。
【0018】
上記(3)ないし(5)のいずれかの構成を有する圧入装置においては、(6)前記一方の圧入嵌合部品が前記他方の圧入嵌合部品に圧入される間、前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の軸方向一端面に対し前記圧入推力を加え続け、前記加振ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の前記軸方向一端面に対し接触と遊離を繰り返すことが好ましい。この場合、加振ヘッドが一方の圧入嵌合部品の軸方向一端面に接触するときの振幅や位相を適宜設定して、より効果的なハンマリング効果を得ることができる。
【0019】
本発明の圧入装置においては、(7)前記加振ヘッドが、前記振動推力によって、前記一方の圧入嵌合部品または前記他方の圧入嵌合部品を前記圧入方向に超音波振動させることがより好ましい。この場合、圧入推力の低減効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、一方および他方の圧入嵌合部品の嵌合部位に対し、加圧ヘッドからの圧入推力と加振ヘッドからの振動推力とが独立した伝達経路で加わるようにして、加圧ヘッドによる圧入嵌合部品の加圧状態がハンマリング効果を得るための加振ヘッドからの加振によって損なわれないようにしているので、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークを十分に確保可能な圧入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る圧入装置の概略正面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る圧入装置の要部の構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る圧入装置の動作説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る圧入装置の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(一実施形態)
図1ないし図4は、本発明の一実施形態を示している。なお、本実施形態は、本発明に係る圧入装置を超音波圧入装置に適用したものであるが、超音波振動以外(可聴周波数域内)の振動推力を用いるものであってもよい。
【0024】
図1および図2に示すように、本実施形態の圧入装置10は、圧入用推力発生機構11と、超音波振動ユニット12、加振ヘッド13、加圧ヘッド14および保持部材15からなる圧入ヘッドユニット16と、その圧入ヘッドユニット16の下方にワーク配置部17を有する架台18と、を備えている。
【0025】
また、圧入装置10は、有底円筒状の圧入部品31(一方の圧入嵌合部品)を環状の被圧入部品32(他方の圧入嵌合部品)の圧入穴32hの内部に圧入嵌合させるものであり、圧入部品31を圧入ヘッドユニット16側で保持し、被圧入部品32を架台18のワーク配置部17上に配置した状態で、圧入用推力発生機構11によって圧入ヘッドユニット16を下降させて、その圧入作業を行うようになっている。
【0026】
圧入用推力発生機構11は、詳細を図示しないが、直動出力が可能な公知のアクチュエータ類、例えば流体圧(液圧または空気圧)作動シリンダよって構成される。ただし、圧入用推力発生機構11は、加圧ヘッド14に圧入方向への押圧力である圧入推力を発生させるとともに加圧ヘッド14の位置を制御できる機構であればよく、例えばボールねじ等の運動変換機構(回転運動と直線運動の変換が可能な機構)と電動モータその他のモータとの組合せで構成されてもよいし、ロボットによって構成されてもよい。
【0027】
超音波振動ユニット12は、例えば圧電素子を用いて超音波振動を励起する振動子を内蔵しており、加振ヘッド13の上端部に固着されるとともに、圧入用推力発生機構11により支持されている。この超音波振動ユニット12は、加振ヘッド13を圧入方向に超音波振動させることができる。ここでの超音波振動は、圧入部品31や被圧入部品32の材質、嵌合部位の大きさや形状等に応じて適宜設定され、例えば振動周波数が20kHz以上で、その振動振幅が数10μm程度になるように調整される。
【0028】
超音波振動ユニット12による発振の周波数や振幅、発振の有無等は、超音波発振制御回路21により制御されるようになっている。
【0029】
この超音波発振制御回路21は、例えば超音波振動ユニット12の超音波振動子を所定の周波数および振幅で振動させるよう、印加電圧の変動周波数制御や電力増幅、昇圧等を実行することができる。また、超音波発振制御回路21には、超音波振動ユニット12の超音波振動振幅を設定値に保つよう、圧入負荷に応じて供給電力を増大させる定振幅化回路等が設けられている。
【0030】
なお、超音波振動ユニット12は、圧電素子でなく、超磁歪素子と駆動コイルを用いて超音波振動を励起するものであってもよい。その場合、超音波発振制御回路21でなく、駆動コイルに対する電流制御によって超磁歪素子に対する磁界を変化させ、超磁歪素子を軸方向に伸縮変形させることで加振ヘッド13を圧入方向に超音波振動させる駆動回路が用いられることになる。
【0031】
加振ヘッド13は、圧入方向において、例えば超音波の波長の整数倍の長さを有し、超音波振動ユニット12の発振周波数で共振振動できるようになっている。
【0032】
この加振ヘッド13は、圧入部品31および被圧入部品32のうちいずれかに対し、その圧入嵌合部品を圧入方向に振動させる超音波の振動推力を加えるようになっている。
【0033】
また、加振ヘッド13は、例えば図2に示すように、圧入方向に伸びるハンマ状の本体部13aと、この本体部13aを軸方向変位可能に支持する支持板部13bと、この支持板部13bを支持するとともに超音波振動ユニット12を収納する筒状部13cとによって構成されている。
【0034】
加圧ヘッド14は、圧入部品31および被圧入部品32のうち任意の一方、例えば圧入部品31を他方の被圧入部品32に圧入するよう、圧入推力を加えるものである。
【0035】
この加圧ヘッド14は、加振ヘッド13の本体部13aを取り囲む筒状の加圧部(あるいは、加振ヘッド13の本体部13aの周りに等間隔に平行配置された複数の分割筒状の加圧部)14aと、加圧部14aを支持する段付きの筒状部14bとによって構成されている。
【0036】
ここで、加振ヘッド13の本体部13aの先端面13dの直径および加圧ヘッド14の加圧部14aの外径は、これらに接触する圧入部品31の軸方向一端面31dの直径(ここでは、中心穴付きであるので、外径と内径)に応じて、所要の加振や加圧が可能な接触面積が得られるように設定される。
【0037】
加圧ヘッド14の押圧範囲は、圧入部品31が軸方向一端面31d側に段付き形状や面取り形状等を有する場合には、軸方向一端面31dの周囲のそのような段差面やチャンファ面等に及んでもよい。また、加圧ヘッド14は、圧入部品31の軸方向一端面31dの近傍で圧入部品31の外周面にゴム弾性体等を介して係合し、圧入部品31を圧入姿勢に保持するものであってもよい。
【0038】
加振ヘッド13の筒状部13cおよび加圧ヘッド14の筒状部14bは、互いに同軸に配置されるとともに、圧入用推力発生機構11の先端部に装着された保持部材15にそれぞれ着脱可能に保持されている。
【0039】
これら加振ヘッド13、加圧ヘッド14および保持部材15は、超音波振動ユニット12と共に、全体として、圧入用推力発生機構11に着脱可能に支持される圧入ヘッドユニット16を構成している。
【0040】
そして、この圧入ヘッドユニット16は、加振ヘッド13から圧入部品31の軸方向一端面31dに対して、その軸方向一端面31dの径方向中心側の加振領域(符号無し)内で振動推力を加える第1の推力伝達経路P1と、加圧ヘッド14から圧入部品31の軸方向一端面31dに対して、その軸方向一端面31dの径方向両外側で圧入推力を加える第2の推力伝達経路P2とを、互いに並列に形成している。
【0041】
すなわち、この圧入ヘッドユニット16は、圧入部品31の一部でもある圧入部品31と被圧入部品32との嵌合部位33に対して、加振ヘッド13からの振動推力と加圧ヘッド14からの圧入推力とを互いに独立した第1、第2の推力伝達経路P1,P2で加えることができるように構成されている。
【0042】
一方、圧入ヘッドユニット16の下方に配置された架台18のワーク配置部17には、圧入部品31が圧入される被圧入部品32の圧入穴32hより大径の逃げ穴17aと、被圧入部品32を支持する受け面17bとが形成されている。
【0043】
ところで、圧入部品31が被圧入部品32に圧入される圧入作業中、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力は、加振ヘッド13から圧入部品31への振動推力の変動範囲より狭い一定範囲内に保持されるようになっている。具体的には、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力は、例えば一定の推力値に保持されるようになっている。
【0044】
また、圧入部品31が被圧入部品32に圧入される間、加圧ヘッド14は、圧入部品31の軸方向一端面31dに対し図1中で下向きの圧入推力を加え続ける一方、加振ヘッド13は、超音波振動ユニット12からの超音波振動の振動推力によって、圧入部品31の軸方向一端面31dに対し接触と遊離を繰り返すとともに、圧入部品31に対して間欠的な振動推力を、ハンマリング効果を生じる衝撃荷重として加えるようになっている。
【0045】
加振ヘッド13を超音波振動させる超音波振動ユニット12は、超音波発振制御回路21によって制御されるようになっている。この超音波発振制御回路21は、圧入作業全体を制御する圧入制御回路22から超音波振動ユニット12の駆動または停止の指令、駆動周波数、振幅等の指令値をそれぞれ入力し、それらの指令値に従って超音波振動ユニット12の超音波発振制御を実行するようになっている。
【0046】
また、圧入制御回路22は、圧入ヘッドユニット16から圧入部品31に加わる圧入推力を、例えば加圧ヘッド14の筒状部14bの基端側に配置された推力センサ23によって検出し、その圧入推力を一定範囲内に、例えば一定値に維持するように、圧入用推力発生機構11の推力および先端位置(保持部材15を支持する高さ)を制御する推力制御回路24に検出推力をフィードバックするようになっている。あるいは、圧入制御回路22は、予め圧入ストローク毎に設定された設定圧入荷重となるように、圧入用推力発生機構11の推力および先端位置を特定する指令信号を出力するようになっている。そのような推力や位置の制御自体は公知であり、ここでは詳述しない。
【0047】
圧入部材31は、その有底円筒状の外周側の一部を互いに平行な面を有するように対称に切り欠いた一対の切欠き部31aと、それら一対の切欠き部31aの中央部に形成された半径方向の連通孔31bと、軸線方向に延びる有底の中心孔31cとを有している。
【0048】
また、被圧入部品32は、その圧入穴32hから外周面32eまで半径方向に貫通する一対の通路孔32aを有している。そして、圧入部材31が被圧入部品32の圧入穴32hに所定深さまで圧入されると、圧入部材31の中心孔31cと被圧入部品32の一対の通路孔32aとが一対の連通孔31bを介して連通するようになっている。
【0049】
次に、作用について説明する。
【0050】
上述のように構成された本実施形態の圧入装置10においては、圧入時には、加圧ヘッド14から圧入部品31に予め設定された一定範囲内の圧入推力が加わるように、圧入用推力発生機構11の作動が制御される。
【0051】
そして、図3に示すように、超音波振動ユニット12と共に超音波振動する加振ヘッド13が、圧入部品31の軸方向一端面31dに対し接触と遊離を繰り返すとともに、圧入部品31に対して間欠的な振動推力を、ハンマリング効果を生じる衝撃荷重として伝達する。
【0052】
このとき、図4に示すように、圧入部品31には、その弾性範囲内で、圧入方向に圧縮されるとともにポアソン効果によって径寸法に膨張する状態(図4中の状態A)と、圧入方向に伸長するよう弾性回復するとともにポアソン効果によって径寸法に収縮する状態(図4中の状態B)とを、交互に繰り返すことになる。
【0053】
しかし、圧入部品31にそのような圧入方向の伸縮が生じても、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力の伝達経路P2は、加振ヘッド13から圧入部品31への振動推力の伝達経路P1からは独立しているので、直接的に振動推力の影響を受けることはない。したがって、圧入部品31に対する加圧ヘッド14の加圧状態が安定保持可能となる。
【0054】
よって、加圧ヘッド14による圧入部品31の加圧状態は、ハンマリング効果を発揮するための加振ヘッド13から圧入部品31への加振入力によって損なわれ難くなり、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時、例えば図4中の状態Aのような状態下においても、加圧ヘッド14からの圧入推力によって圧入部品31の圧入ストロークを十分に確保できることとなる。
【0055】
また、本実施形態においては、加振ヘッド13から圧入部品31への振動推力の伝達経路P1が加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力の伝達経路P2に対して並列になっていることから、圧入ヘッドユニット16等を大型化することなく、両ヘッド13、14から圧入部品31への確実に独立した伝達経路P1,P2を形成することができる。
【0056】
しかも、加圧ヘッド14が圧入部品31の軸方向一端面31dの径方向両外側(中心に対し両側)に圧入推力を、加振ヘッド13がその径方向中心側の加振領域内に振動推力を、それぞれ加えるので、圧入部品31の圧入姿勢が加振ヘッド13からの振動推力によって損なわれ難いことに加え、加圧ヘッド14からの圧入推力によって圧入部品31の圧入姿勢が安定することになり、圧入時のかじり等の発生を有効に抑制できることになる。
【0057】
さらに、本実施形態では、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力が、加振ヘッド13から圧入部品31への振動推力の変動範囲(ゼロから衝撃荷重のピーク値までの範囲)より狭い一定範囲(圧入推力の許容変動範囲)内に保持される。したがって、所要の圧入推力が確保されるとともに、加振ヘッド13からの間欠的な振動推力による十分なハンマリング効果が得られ、しかも、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入ストロークが確保可能となる。加えて、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力が、一定の推力値に保持されることから、その効果がより確実に得られることになる。
【0058】
上記に加えて、本実施形態の圧入装置10においては、圧入部品31が被圧入部品32に圧入される間、加圧ヘッド14が、圧入部品31の軸方向一端面31dに対し圧入推力を加え続ける一方で、加振ヘッド13が、圧入部品31の軸方向一端面に対し接触と遊離を繰り返す。したがって、超音波発振制御回路21および圧入制御回路22によって、加振ヘッド13が圧入部品31の軸方向一端面31dに接触するときの振幅や位相を適宜設定することで、より効果的なハンマリング効果を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、加振ヘッド13が、圧入部品31を圧入方向に超音波振動させるので、圧入推力の低減効果を高めることができるとともに、圧入作業時の騒音を抑えることができる。
【0060】
このように、本実施形態においては、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位に対し、加圧ヘッド14からの圧入推力と加振ヘッド13からの振動推力とを独立した伝達経路で加えることにより、加圧ヘッド14による圧入部品31の加圧状態がハンマリング効果を得るための加振ヘッド13からの加振によって損なわれないようにしている。その結果、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入部品31の十分な圧入ストロークを確保することができる。
【0061】
なお、上述の一実施形態においては、加振ヘッド13が、超音波振動ユニット12からの超音波振動の振動推力によって、圧入部品31を圧入方向に超音波振動させる構成となっていたが、被圧入部品32を圧入方向に超音波振動させる構成を採用し得ることはいうまでもない。
【0062】
また、上述の一実施形態においては、加圧ヘッド14を加振ヘッド13と同一の保持部材15に支持させる構成としていたが、圧入用推力発生機構11に支持される加圧ヘッド14とは別に、加振ヘッド13を加圧ヘッド14の圧入方向の変位に追従して移動させることができる移動機構に支持させることもできる。
【0063】
さらに、加圧ヘッド14は、架台18側に支持され、推力センサ23のような圧入荷重センサの検知情報に基づいて高さ位置制御される昇降台等に支持されてもよく、被圧入部品32を圧入方向に移動させるとともに加圧するものとして構成されてもよい。その場合、被圧入部品32が本発明にいう一方の圧入嵌合部品となり、圧入部品31が他方の圧入嵌合部品となる。
【0064】
圧入ヘッドユニット16において、加圧ヘッド14の筒状部14bと保持部材15との間に微振動の遮断に有効なゴム弾性体等を介在させてもよい。
【0065】
また、加圧ヘッド14から圧入部品31への圧入推力を、加振ヘッド13からの振動推力の変動幅より狭い変動幅内で積極的に変化させ、圧入部品31の伸縮による推力変化をより小さく抑えるようなことも考えられる。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る圧入装置は、圧入部品31および被圧入部品32の嵌合部位に対し、加圧ヘッド14からの圧入推力と加振ヘッド13からの振動推力とを、互いに独立した伝達経路で加えるようにしている。したがって、加圧ヘッド14による圧入部品31の加圧状態がハンマリング効果を得るための加振ヘッド13からの加振によって損なわれないで済み、ポアソン効果による圧入部位の圧入嵌合代の縮小時における圧入部品31の圧入ストロークを十分に確保可能な圧入装置を提供することができる。このような本発明は、圧入嵌合部位に振動を加えつつ圧入を行うようにした圧入装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 圧入装置
11 圧入用推力発生機構
12 超音波振動ユニット
13 加振ヘッド
13a 本体部
13b 支持板部
13c 筒状部
13d 先端面
14 加圧ヘッド
14a 加圧部
14b 筒状部
15 保持部材
16 圧入ヘッドユニット
17 ワーク配置部
18 架台
21 超音波発振制御回路
22 圧入制御回路
23 推力センサ
24 推力制御回路
31 圧入部品(圧入嵌合部品)
31d 軸方向一端面
32 被圧入部品(圧入嵌合部品)
32h 圧入穴
33 嵌合部位
P1 第1の推力伝達経路(伝達経路)
P2 第2の推力伝達経路(伝達経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の圧入嵌合部品を他方の圧入嵌合部品に圧入するよう前記一方の圧入嵌合部品を圧入方向に押圧する圧入推力を加える加圧ヘッドと、
前記一方の圧入嵌合部品または前記他方の圧入嵌合部品を前記圧入方向に振動させる振動推力を加える加振ヘッドと、を備え、
前記一方の圧入嵌合部品および前記他方の圧入嵌合部品の嵌合部位に対する前記加圧ヘッドからの前記圧入推力の伝達経路と、該嵌合部位に対する前記加振ヘッドからの前記振動推力の伝達経路とが、互いに独立した伝達経路で構成されていることを特徴とする圧入装置。
【請求項2】
前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品に前記圧入推力を加えるとともに、
前記加振ヘッドが、前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力の伝達経路とは並列する他の伝達経路で、前記一方の圧入嵌合部品に前記振動推力を伝達することを特徴とする請求項1に記載の圧入装置。
【請求項3】
前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の軸方向一端面に対し該軸方向一端面の径方向両側で前記圧入推力を加え、
前記加振ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の前記軸方向一端面に対し前記径方向中心側の加振領域内で前記振動推力を加えることを特徴とする請求項2に記載の圧入装置。
【請求項4】
前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力が、前記加振ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記振動推力の変動範囲より狭い一定範囲内に保持されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1の請求項に記載の圧入装置。
【請求項5】
前記加圧ヘッドから前記一方の圧入嵌合部品への前記圧入推力が、一定の推力値に保持されることを特徴とする請求項4に記載の圧入装置。
【請求項6】
前記一方の圧入嵌合部品が前記他方の圧入嵌合部品に圧入される間、前記加圧ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の軸方向一端面に対し前記圧入推力を加え続け、
前記加振ヘッドが、前記一方の圧入嵌合部品の前記軸方向一端面に対し接触と遊離を繰り返すことを特徴とする請求項3ないし請求項5のうちいずれか1の請求項に記載の圧入装置。
【請求項7】
前記加振ヘッドが、前記振動推力によって、前記一方の圧入嵌合部品または前記他方の圧入嵌合部品を前記圧入方向に超音波振動させることを特徴とする請求項1ないし請求項6のうちいずれか1の請求項に記載の圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111675(P2013−111675A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257913(P2011−257913)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】