説明

圧入部品の製造方法

【課題】薄肉円筒部材からなり、被圧入部品に圧入される圧入部品の製造方法であって、圧入後の圧入部品に関する内周面の真円度を、該内周面の全ての領域に渡って効率的、且つ経済的に保証することが可能な圧入部品の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】断面視円形状の孔部からなる内周部を有する被圧入部品2に圧入される、圧入部品1の製造方法であって、圧入部品1は、薄肉円筒部材から形成され、被圧入部品2の内周部における真円度の公差を規定する規格値T2と、圧入部品1の肉厚寸法差(ΔD)の公差を規定する規格値T3と、を予め設定し、規格値T2に基づいて、被圧入部品2の内周部の内周面2aを加工するとともに、規格値T3に基づいて、圧入部品1の内周面1aおよび外周面1bを加工した後、圧入部品1を、被圧入部品2の内周部の形状に即して変形させつつ、被圧入部品2の内周部に圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉円筒部材からなり、被圧入部品に圧入される圧入部品の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄肉円筒部材からなる圧入部品においては、圧入後の内周面の真円度を保証する(真円度を所定の公差内におさめる。以下同じ。)ため、従来から様々な対策が行われており、その一つとして、被圧入部品に圧入部品を圧入する際の、該圧入部品の変形量を可能な限り小さくする方法が知られている。
具体的には、圧入部品および被圧入部品に関する各々の製造工程において、圧入部品では、その内周面の真円度(以下、「内径真円度」と記す)、およびその外周面の真円度(以下、「外径真円度」と記す)を予め精度よく管理しておき、また、被圧入部品では、その内周面の真円度(以下、「内径真円度」と記す)を予め精度よく管理しておくことで、被圧入部品に圧入する際の、圧入部品の変形量を極力小さくするのである。
【0003】
ここで一般的に、圧入部品の製造工程は、内周面を所定の寸法に加工する第一加工工程と、該第一加工工程の終了後、前記内周面を基準として外周面を所定の寸法に加工する第二加工工程とを有して構成される。そして、前記第一加工工程および第二加工工程は、クランプ装置などによって、常に圧入部品をクランプしつつ固定保持しながら行われる。
このようなことから、薄肉円筒部材からなる圧入部品においては、前記第一加工工程および第二加工工程を行う際に、前記クランプ装置によるクランプ圧によって歪みが生じやすく、適度なクランプ圧によって圧入部品をクランプしつつ、前記圧入部品の「内径真円度」および「外径真円度」を精度よく管理することは困難であった。
また、例えば、焼結部材あるいは最終的に熱処理が施される部材からなる滑り軸受や、遊星歯車における内歯車の歯部などを、圧入部品として製造する場合においては、前記第一加工工程にて、圧入部品の「内径真円度」を精度よく管理することが難しく、これに伴い、第二加工工程にて、前記内周面を基準としつつ、圧入部品の「外径真円度」を精度よく管理することも困難であった。
従って、これらの結果、従来の薄肉円筒部材からなる圧入部品の製造方法においては、圧入後の圧入部品の「内径真円度」を、効率的、且つ経済的に保証することは困難であり、また、高度な加工技術が必要となることから製造コストも嵩張ることとなっていた。
【0004】
そこで、これらの問題点を解決するための技術が、「特許文献1」および「特許文献2」に開示されている。
即ち、「特許文献1」においては、軸受の製造方法に関するものであって、内径が一定な軸受円筒穴を有する筒状の軸受部材(圧入部品)を、両端部近傍のみを軸受部材(圧入部品)の外周径よりも小さい穴径とした外周部材(被圧入部品)内に圧入し、外周部材(被圧入部品)と軸受部材(圧入部品)とが両端部で圧入されるように構成して、軸受部材(圧入部品)の軸受円筒穴の両端部内径のみが弾性変形して小径となるようにしたことを特徴とする技術が開示されている。
また、「特許文献2」においては、軸受装置に関するものであって、軸受ホルダー(被圧入部品)に軸受部材(圧入部品)を圧入するにあたって、軸受部材(圧入部品)のうちの固定部のみを圧入固定させて、本来的な軸受機能を有する軸受部を圧入固定させることがないように、当該軸受部を固定部から分離して配置することを特徴とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−272544号公報
【特許文献2】特開2001−248644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記「特許文献1」および「特許文献2」に開示される技術を用いれば、薄肉円筒部材からなる圧入部品において、圧入後の圧入部品に関する「内径真円度」を、効率的、且つ経済的に保証することが可能になる。
しかし、これらの技術は構造上、何れも軸心方向両端部の内周面にしか、「内径真円度」を保証することができず、例えば、内周面の全ての領域に渡って、「内径真円度」を保証しなければならない圧入部品など、様々な仕様の圧入部品に対して対応することができない。
【0007】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、薄肉円筒部材からなり、被圧入部品に圧入される圧入部品の製造方法であって、圧入後の圧入部品に関する内周面の真円度(「内径真円度」)を、該内周面の全ての領域に渡って効率的、且つ経済的に保証する(真円度を所定の公差内におさめる。)ことが可能な圧入部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、断面視円形状の孔部を有する被圧入部品に圧入される、圧入部品の製造方法であって、前記圧入部品は、薄肉円筒部材から形成され、前記被圧入部品の孔部における真円度の公差を規定する第一規格値と、前記圧入部品の肉厚寸法差の公差を規定する第二規格値と、を予め設定し、前記第一規格値に基づいて、前記被圧入部品の孔部の内周面を加工するとともに、前記第二規格値に基づいて、前記圧入部品の内周面および外周面を加工した後、前記圧入部品を、前記被圧入部品の孔部の形状に即して変形させつつ、前記被圧入部品の孔部に圧入するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における圧入部品の製造方法によれば、薄肉円筒部材からなり、被圧入部品に圧入される圧入部品において、圧入後の内周面に関する真円度(「内径真円度」)を、該内周面の全ての領域に渡って効率的、且つ経済的に保証する(真円度を所定の公差内におさめる。)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】厚みの均一な圧入部品、および精度よく管理された「内径真円度」を有した被圧入部品の構成を示した模式図。
【図2】厚みの不均一な圧入部品、および精度よく管理された「内径真円度」を有した被圧入部品の構成を示した模式図。
【図3】本発明の一実施例に係る圧入部品の製造方法において、圧入部品および被圧入部品に関する各々の規格値を設定する際の手順を示したフローチャート。
【図4】本発明の一実施例に係る圧入部品の製造方法において、製造工程の流れに関する概略を示した工程図。
【図5】各製造工程における圧入部品、あるいは圧入部品と被圧入部品の状態を示した図であって、(a)は本実施例の製造方法によって製造される場合を示した状態図、(b)は従来の製造方法によって製造される場合を示した状態図。
【図6】本発明の一実施例に係る圧入部品の製造方法において、各製造工程における圧入部品の状態を示した状態図。
【図7】内張り治具によって圧入部品を固定保持する際における、圧入部品の「内径真円度」と、内張り治具の「内張り圧力」との関係を、ドットによって示した関係図。
【図8】圧入部品より内張り治具を離脱した際における、圧入部品の「XY平均径」の変化量と、内張り治具の「内張り圧力」との関係を、ドットおよび連続線によって示した関係図。
【図9】被圧入部品に圧入部品を圧入する際における、圧入荷重と、圧入部品の「XY平均径」との関係を、ドットおよび連続線によって示した関係図。
【図10】従来の製造方法によって製造された、圧入部品および被圧入部品の構成を示した模式図。
【図11】従来の製造方法において、圧入部品および被圧入部品に関する各々の規格値を設定する際の手順を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0013】
[概要]
先ず、本実施例における圧入部品の製造方法の概要について、図1、図2および図10を用いて説明する。
本実施例における圧入部品の製造方法は、主に薄肉円筒部材からなる圧入部品を製造するための方法であって、圧入部品の被圧入部品への圧入時に、圧入部品が被圧入部品の内周面の形状に即して変形することを利用して、圧入後の圧入部品に関する内周面の真円度(以下、「内径真円度」と記載する)を、効率的、且つ経済的に保証する(真円度を所定の公差内におさめる。以下同じ。)ことを特徴とする。
【0014】
即ち、図1の上段に示すように、例えば、断面視楕円形状の薄肉円筒部材からなる圧入部品1が、被圧入部品2に形成される断面視円形状の孔部からなる内周部(内周面2aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に圧入される際、圧入部品1は、その外周面1b上の長軸側(外周面1bにおいて、圧入部品1の楕円形状における長軸と交差する側。以下同じ。)近傍部にて、内周面2aより外力を加えられ、軸心方向(図2における矢印Aの方向)に向かって押し込まれるようにして変形される。
この際、圧入部品1内の長軸側近傍部には、内部応力(より具体的には、周方向に沿った圧縮応力)が発生する。
【0015】
一方、圧入部品1が被圧入部品2の内周部に圧入される際、圧入部品1の外周面1b上の短軸側(外周面1bにおいて、圧入部品1の楕円形状における短軸と交差する側。以下同じ。)近傍部と内周面2aとの間には間隙部3・3が形成されるとともに、前記内部応力は、圧入部品1内の長軸側近傍部から短軸側近傍部へと伝達される。
そして、間隙部3・3内において、外周面1b上の短軸側近傍部は、前記内部応力によって、半径方向外側(図2における矢印Bの方向)に向かって押し出されるようにして変形されるとともに、前記内部応力は、圧入部品1を変形させることで略開放(略消滅)される。
【0016】
こうして、図1の下段に示すように、圧入部品1は、長軸側近傍部および短軸側近傍部の変形を経た後、その外周面1bの全領域にわたって、被圧入部品2の内周面2aと密接された状態となり、被圧入部品2への圧入が完了する。
つまり、圧入部品1は、被圧入部品2への圧入時、被圧入部品2の内周面2aの形状に即して変形するのである。
【0017】
また、前述の通り、被圧入部品2の内周面2aから外力が加えられることで圧入部品1内の長軸側近傍部に発生した内部応力は、外周面1bの短軸側近傍部を変形させることで略開放(略消滅)されるため、被圧入部品2への圧入後において、前記内部応力が依然として圧入部品1内に残留することは少ない。
従って、前記内部応力による圧縮作用によって、圧入部品1における一部の箇所の肉厚が増加することも殆どなく、被圧入部品2への圧入前後を通じて、圧入部品1の肉厚寸法は略変化することなく維持されるのである。
【0018】
ここで、図2の上段に示すように、被圧入部品102の内周部(内周面102aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に、未だ圧入部品101が圧入されていない状態において、例えば、圧入部品101の肉厚寸法が略均一でない場合、より詳しくは、短軸側近傍部における肉厚寸法D1が、長軸側近傍部における肉厚寸法D2に比べて大きく(D1>D2)、圧入部品101の内周部(内周面101aによって囲まれた空間部。以下同じ。)の断面形状が、該圧入部品101の外周面101bの楕円形状と異なる形状を有しているような場合、圧入後の圧入部品101の「内径真円度」を、効率的、且つ経済的に保証することは困難となる。
【0019】
即ち、前述したように、圧入部品101は、圧入部品101の被圧入部品102への圧入時には、被圧入部品102の内周面102aの形状に即して変形するとともに、被圧入部品102への圧入前後を通じて、その肉厚寸法が略変化することなく維持される。
つまり、圧入後の圧入部品101においては、その外周面101bは、前記肉厚寸法D1・D2を保持しつつ、被圧入部品102の内周面102aに即して変形することとなる。
【0020】
その結果、図2の下段に示すように、圧入後の圧入部品101の外周面101bが被圧入部品102の内周面102aに倣った円形状となっているにもかかわらず、圧入部品101の内周部は楕円形状からなる断面形状を維持することとなり、圧入後の圧入部品101の「内径真円度」について、所定の規格値(公差)を保証する(「内径真円度」を所定の公差内におさめる)には、別途、仕上げ加工などの工程が必要となる。
よって、圧入後の圧入部品101の「内径真円度」を、効率的、且つ経済的に保証することは困難なのである。
【0021】
以上のことから、本発明者は、被圧入部品2(図1を参照)の内周部に、未だ圧入部品1が圧入されていない状態において、少なくとも、圧入部品1の肉厚寸法と、被圧入部品2における「内径真円度」との精度を管理することで、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」を保証することが可能であることを見出し、本発明を具現化する圧入部品の製造方法を構築するに至ったのである。
【0022】
ところで、図10の上段に示すように、従来の圧入部品の製造方法においては、圧入部品201が被圧入部品202の内周部(内周面202aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に未だ圧入されていない状態において、圧入部品201の「内径真円度」と、圧入部品201に関する外周面201bの真円度(以下、「外径真円度」と記載する)、および被圧入部品202の「内径真円度」の精度を個別に管理することで、圧入後の圧入部品201の「内径真円度」を保証することとしていた。
【0023】
即ち、「内径真円度」および「外径真円度」に関して、予め精度よく管理された圧入部品201を、被圧入部品202の内周部に圧入する場合、該内周部の「内径真円度」が精度よく管理されていれば、圧入時における圧入部品201の変形量は少なくなる。
その結果、図10の下段に示すように、被圧入部品202への圧入前後を通じて、圧入部品201の「内径真円度」は略変化することなく維持されることとなり、圧入後の圧入部品201の「内径真円度」を保証することができるのである。
このように、従来の圧入部品の製造方法においては、被圧入部品202に圧入する際における、圧入部品201の変形を極力抑えることで、圧入後の圧入部品201の「内径真円度」を保証することとしていた。
【0024】
しかし、このような従来の圧入部品の製造方法においては、圧入部品201が薄肉円筒部材からなるため、例えば、既知のクランプ装置によってクランプしながら加工し、圧入部品201の「内径真円度」および「外径真円度」の精度を管理するためには、高度な加工技術が必要となる。
また、例えば、焼結部材あるいは最終的に熱処理が施される部材からなる滑り軸受や、遊星歯車における内歯車の歯部などを、圧入部品201として製造する場合においては、圧入部品201の「内径真円度」の精度を管理することは難しく、これに伴い、内周面201aを基準として形成される外周面201bに対して、「外径真円度」の精度を管理するのも困難であり、圧入部品201を加工するには、高度な加工技術が必要となる。
【0025】
これらのことから、従来の圧入部品の製造方法において、圧入後の圧入部品201の「内径真円度」を保証することは技術的に難しく、また、高度な加工技術が必要となることから製造コストも嵩張ることとなっていた。
【0026】
これに対して、本実施例における圧入部品の製造方法においては、圧入部品1を被圧入部品2(図1を参照)に圧入する際における、圧入部品1の変形をあえて許容し、圧入部品1が被圧入部品2の内周面2aの形状に即して変形することを利用することとしている。
【0027】
よって、本実施例における圧入部品の製造方法によれば、圧入部品1において、その「内径真円度」および「外径真円度」の精度を管理する必要はなく、その肉厚寸法の精度のみを管理するだけでよく、従来の製造方法のような高度な加工技術を必要とせず、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」を効率的、且つ経済的に保証することができるのである。
【0028】
[圧入部品の製造方法]
次に、本実施例における圧入部品の製造方法について、図3乃至図11を用いて詳述する。
本実施例における圧入部品の製造方法は、主に、規格値設定工程100(図3を参照)と、該規格値設定工程100の終了後に行われる製造工程300(図5(a)を参照)とを有して構成される。
【0029】
[規格値設定工程100]
先ず初めに、規格値設定工程100について、図3および図11を用いて説明する。
規格値設定工程100は、後述する製造工程300が行われる際の、圧入部品1に関する各規格値を、被圧入部品2に関する規格値とともに、予め設定するための工程である。
なお、規格値設定工程100を構成する各ステップ(ステップS101乃至S106)は、製造工程300を行う既知のNC旋盤などの制御装置内にて動作することとしてもよく、あるいは、前記NC旋盤に対して別途設けられるパーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)などによって動作することとしてもよい。
【0030】
ここで、規格値設定工程100によって設定される規格値としては、圧入後の圧入部品1における「内径真円度」の公差を示す規格値T1と、加工後の(圧入前の)被圧入部品2における「内径真円度」の公差を示す規格値T2と、加工後の(圧入前の)圧入部品1における肉厚寸法差の公差を示す規格値T3とが挙げられる。
【0031】
以下、図3を用いて、規格値設定工程100を構成する各ステップ(ステップS101乃至S106)の流れについて詳述する。
規格値設定工程100が開始すると、先ず、ステップS101において、圧入後の圧入部品1における「内径真円度」の公差が、規格値T1(図1の下段を参照)として仮に設定される。
つまり、圧入部品1が被圧入部品2の内周部に対して完全に圧入された状態において、前記圧入部品1の「内径真円度」として最終的に保証することとなる公差が、規格値T1として仮に設定される。
【0032】
ステップS101が終了すると、続いて、加工後の被圧入部品2における「内径真円度」の公差が、規格値T2(図1の上段左側を参照)として仮に設定される(ステップS102)。
つまり、被圧入部品2の内周面2aを加工する際において、被圧入部品2の「内径真円度」として最終的に保証することとなる公差が、規格値T2として仮に設定される。
【0033】
その後、ステップS103において、これら規格値T1および規格値T2に関する比較演算が実行され、その結果、規格値T1が規格値T2以上(T1≧T2)であれば、これら規格値T1および規格値T2の値は、「現時点の段階においては適正な値である」と判断され、次のステップS104に移ることとなる。
【0034】
一方、規格値T1が規格値T2未満(T1<T2)であれば、これら規格値T1および規格値T2の値は、「現時点の段階においては不適正な値である」と判断され、再び、前記ステップS101、および前記ステップS102に戻って、これら規格値T1および規格値T2の値を再び設定しなおすこととなる。
【0035】
より具体的には、ステップS101においては、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」に対して最終的に保証しなければならない公差の許容範囲に基づいて、規格値T1の値を可能な限り大きくする(規格緩和する)ように再び設定しなおすこととなり、また、ステップS102においては、被圧入部品2の内周面2aを加工する加工装置(例えば、既知のNC旋盤など)の加工精度に基づいて、規格値T2の値を可能な限り小さくする(被圧入部品2の「内径真円度」が向上する)ように再び設定しなおすこととなる。
【0036】
そして、これら規格値T1および規格値T2の値の再設定が終了すると、再びステップS103が行われる。つまり、ステップS101乃至S103は、規格値T1が規格値T2以上となるまで繰り返し行われる。
【0037】
なお、規格値T1が規格値T2未満である場合、これら規格値T1および規格値T2の値を再び仮に設定しなおすのは、以下の理由による。
即ち、本実施例における圧入部品の製造方法は、前述したように、薄肉円筒部材からなる圧入部品1が、被圧入部品2への圧入時、被圧入部品2の内周面2aの形状に即して変形することを利用し、少なくとも、圧入部品1の肉厚寸法と、被圧入部品2の「内径真円度」とに関する精度を管理することで、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」を最終的に保証することを目的としている。
【0038】
従って、これら圧入部品1および被圧入部品2の加工が各々完了した段階において、規格値T2に基づいて形成された被圧入部品2の「内径真円度」が、規格値T1を超えている場合には、圧入部品1に関する肉厚寸法の公差を如何に精度よく管理することができても、もはや、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」を保証することができないため、ステップS103において、規格値T1が規格値T2未満である場合には、これら規格値T1および規格値T2の値を再び設定しなおすのである。
【0039】
ステップS103が終了し、規格値T1および規格値T2の値が、ともに「現時点の段階においては適正な値である」と判断されると、加工後の圧入部品1における肉厚寸法差(ΔD)が、規格値T3(図1の上段右側を参照)として仮に設定される(ステップS104)。
つまり、圧入部品1の内周面1aおよび外周面1bを加工する際において、最も肉厚が厚い箇所における肉厚寸法Dmaxと、最も肉厚が薄い箇所における肉厚寸法Dminとの寸法差(ΔD=Dmax−Dmin)として、最終的に保証することとなる公差が、規格値T3として仮に設定される。
【0040】
その後、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3については、ステップS105において、比較演算が実行される。
より具体的には、規格値T1と、規格値T2に規格値T3を加算した演算結果(T2+T3)とに関する比較演算が実行される。
【0041】
その結果、規格値T1が前記演算結果以上(T1≧T2+T3)であれば、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3の値は、「最終的に適正な値である」と判断され、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3の値は最終的に設定されるとともに(ステップS106)、規格値設定工程100が終了する。
【0042】
一方、規格値T1が前記演算結果未満(T1<T2+T3)であれば、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3の値は、「最終的に不適正な値である」と判断され、再び、ステップS101、ステップS102、およびステップS104に戻って、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3の値を再び設定しなおすこととなる。
【0043】
より具体的には、前述したように、ステップS101においては、規格値T1の値を可能な限り大きくする(規格緩和する)ように再び設定しなおすこととなり、また、ステップS102においては、規格値T2の値を可能な限り小さくする(被圧入部品2の「内径真円度」が向上する)ように再び設定しなおすこととなる。
また、ステップS104においては、圧入部品1の内周面1aおよび外周面1bを加工する加工装置の加工精度に基づいて、規格値T3の値を可能な限り小さくする(圧入部品1の肉厚が均等になる)ように再び設定しなおすこととなる。
【0044】
そして、これら規格値T1、規格値T2、および規格値T3の値の再設定が終了すると、再びステップS103やステップS105が行われる。つまり、ステップS101乃至S105は、規格値T1が前記演算結果以上となるまで繰り返し行われる。
【0045】
なお、規格値T1が前記演算結果未満である場合、これら規格値T1および規格値T2の値を再び設定しなおすのは、前記ステップS103において示した理由のとおりである。
また、規格値T1が前記演算結果未満である場合、規格値T3の値を再び設定しなおすのは、以下の理由による。
即ち、被圧入部品2への圧入前後において、圧入部品1の肉厚寸法は、大きく変化することなく略維持されるため、圧入部品1および被圧入部品2の加工が各々完了した段階において、規格値T2に基づいて形成された被圧入部品2の「内径真円度」と、規格値T3に基づいて形成された圧入部品1の肉厚寸法差(ΔD)との合算した値が、規格値T1の範囲内におさまるように、予め設定しておく必要があるためである。
【0046】
ところで、従来の圧入部品の製造方法においては、規格値設定工程200(図11を参照)によって、圧入後の圧入部品201における「内径真円度」の公差、加工後の(圧入前の)被圧入部品202における「内径真円度」の公差、および加工後の(圧入前の)圧入部品1における「内径真円度」と「外径真円度」の公差が、規格値T21、規格値T22、規格値T23、および規格値T24として各々設定されていた。
【0047】
即ち、図11に示すように、規格値設定工程200が開始されると、先ず、ステップS201において、圧入後の圧入部品201における「内径真円度」の公差が、規格値T21(図10の下段を参照)として仮に設定され、その後、加工後の被圧入部品202における「内径真円度」の公差が、規格値T22(図10の上段左側を参照)として仮に仮設定される(ステップS202)。
【0048】
そして、ステップS203において、これら規格値T21および規格値T22に関する比較演算が実行され、その結果、規格値T21が規格値T22以上(T21≧T22)であれば、これら規格値T21および規格値22の値は、「現時点の段階においては適正な値である」と判断され、次のステップS204に移ることとなる。
【0049】
一方、規格値T21が規格値T22未満(T21<T22)であれば、これら規格値T21および規格値22の値は、「現時点の段階においては不適正な値である」と判断され、再び、前記ステップS201、および前記ステップS202に戻って、これら規格値T21および規格値T22の値を再び設定しなおすこととなる。
【0050】
ステップS203が終了し、規格値T21および規格値22の値が、ともに「現時点の段階においては適正な値である」と判断されると、加工後の圧入部品201における「内径真円度」および「外径真円度」の公差が、規格値T23および規格値T24(図10の上段右側を参照)として仮に各々設定される(ステップS204)。
【0051】
その後、ステップS205において、規格値T21と、規格値T22乃至規格値T24を加算した演算結果(T22+T23+T24)とに関する比較演算が実行され、規格値T21が前記演算結果以上(T21≧T22+T23+T24)であれば、これら規格値T21乃至規格値T24の値は、「最終的に適正な値である」と判断され、これら規格値T21乃至規格値T24の値は最終的に設定されるとともに(ステップS206)、規格値設定工程200が終了する。
【0052】
一方、規格値T21が前記演算結果未満(T21<T22+T23+T24)であれば、これら規格値T21乃至規格値T24の値は、「最終的に不適正な値である」と判断され、再び、前記ステップS201、前記ステップS202、および前記ステップS204に戻って、これら規格値T21乃至規格値T24の値を再び設定しなおすこととなっていた。
【0053】
このように、従来の規格値設定工程200を構成するステップ数(ステップS201乃至S206)は、本実施例における規格値設定工程100を構成するステップ数(ステップS101乃至S106)と同程度であるとともに、従来の規格値設定工程200は、本実施例における規格値設定工程100に対して、加工後の圧入部品1(図1を参照)における肉厚寸法差の公差に替わって、圧入部品201の「内径真円度」および「外径真円度」の公差について、適切な規格値を設定する(ステップS204・S205)点についてのみ相異する。
【0054】
従って、例えば、従来の圧入部品の製造方法より、本実施例における圧入部品の製造方法に変更する場合などにおいては、変更前の作業時間に比べて、変更後の作業時間が長くなる、あるいは、変更後の作業手順に比べて、変更後の作業手順が複雑になるなどの問題を、新たに引き起こすこともない。
【0055】
[製造工程300]
次に、製造工程300の概要について、図4を用いて説明する。
製造工程300は、規格値設定工程100によって設定された、規格値T1、規格値T2、および規格値T3に基づいて、被圧入部品52(図5(a)を参照)に圧入される圧入部品51を、実際に製造するための工程である。
なお、製造工程300は、例えば既知のNC旋盤やプレス装置などによって行われる。
【0056】
製造工程300は、主に被圧入部品加工工程S301と、圧入部品加工工程S302と、圧入工程S303とを有して構成される。
【0057】
被圧入部品加工工程S301は、被圧入部品52の内周面52aを、所定の寸法となるように加工する工程である。
この際、被圧入部品52の「内径真円度」の精度は、規格値設定工程100によって設定された所定の公差(規格値T2)内におさまるように管理される。
【0058】
圧入部品加工工程S302は、被圧入部品加工工程S301の終了後に行われ、圧入部品51の内周面51aおよび外周面51bを、各々所定の寸法になるように加工する工程である。
この際、圧入部品51の肉厚寸法差の精度は、規格値設定工程100によって設定された規格値T3内におさまるように管理される。また、後述するように、本工程においては、圧入部品51の外周面51bの形状が、予め定められた「XY平均径」となるように管理される。
【0059】
圧入工程S303は、圧入部品加工工程S302の終了後に行われ、被圧入部品52の内周部(内周面52aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に、圧入部品51を圧入する工程である。
【0060】
このように、各工程S301乃至S303からなる製造工程300によって、被圧入部品52の内周面52a、および圧入部品51の内周面51aと外周面51bが、各々所定の精度を管理されつつ加工された後、圧入部品51は、被圧入部品52の内周部に圧入されるのである。
【0061】
次に、前述した圧入部品加工工程S302および圧入工程S303の内容について、図5乃至図9を用いて詳述する。
なお、以下の説明においては、例えば、遊星歯車における内歯車の歯部などを、圧入部品51として製造する場合について記載する。
【0062】
図5(a)に示すように、圧入部品加工工程S302は、主に第一加工工程S302Aと第二加工工程S302Bとを有して構成される。また、圧入工程S303は、主に離脱工程S303Aと挿嵌工程S303Bとを有して構成される。
【0063】
第一加工工程S302Aは、圧入部品51の内周面51aを加工(研削)する工程である。
本実施例においては、粗材となる薄肉円筒部材の内周面に、所定の歯形状が形成される。
なお、第一加工工程S302Aの終了時点においては、圧入部品51の外周面51bの加工(研削)は行われておらず、該圧入部品51の肉厚寸法差は、未だ所定の公差(規格値T3)内におさまっていない。
【0064】
第一加工工程S302Aが終了すると、第二加工工程S302Bが開始する。
第二加工工程S302Bは、圧入部品51の外周面51bを加工(研削)する工程である。
第二加工工程S302Bは、以下の手順によって行われる。
【0065】
先ず、内張り治具53(図6を参照)を介して、圧入部品51が所定の姿勢に固定保持される。
即ち、前記内張り治具53は、例えば既知の油圧式マンドレルなどによって構成され、圧入部品51の内周部(内周面51aによって囲まれた空間部。以下同じ。)に挿入された後、所定の圧力(以下、「内張り圧力」と記載する)を有して拡径される。
その結果、圧入部品51は、内周面51a(本実施例においては、内周面51aに形成された歯部の歯先面)の形状が真円に近似された状態によって、所定の姿勢に固定保持される。
【0066】
ここで、前記「内張り圧力」は、以下のようにして適切な圧力に設定される。
即ち、図7は、縦軸に圧入部品51の「内径真円度」(単位[μm])を表し、横軸に内張り治具53の「内張り圧力」(単位[Pa])を表すこととして、内張り治具53によって圧入部品51を固定保持する際の両者の関係を、ドットによって表した関係図である。
【0067】
本図に示すように、内張り治具53の「内張り圧力」が小さな値となる場合(即ち、「内張り圧力」が本図向かって左側の領域にある場合)、圧入部品51の「内径真円度」の値は大きくばらつくこととなる。
【0068】
そして、内張り治具53の「内張り圧力」が大きな値になるにつれて、圧入部品51の「内径真円度」の値は徐々に収束するとともに、前記「内張り圧力」が、ある一定の値(P1[Pa])を超えると、前記「内径真円度」は、もはや大きく変化することなく、略一定の値(C1[μm])に落ち着くこととなる。
つまり、内張り治具53の「内張り圧力」が、一定の値(P1[Pa])を超える場合、圧入部品51の内周面51aは、内張り治具53の真円度に倣って、「内径真円度」の精度が確保されることとなり、その後、前記「内張り圧力」が、如何に大きな値となっても、内周面51aは拡径されるだけで、「内径真円度」の精度が向上することはない。
【0069】
このようなことから、内張り治具53の「内張り圧力」の値は、P1[Pa]を超える範囲において、適当な値に設定されるのである。
【0070】
圧入部品51が所定の姿勢に固定保持されると、外周面51bの加工(研削)が行われる。
そして、研削代51cが除去されて、圧入部品51の肉厚寸法が所定の値(図5(a)における寸法D11)となり、且つ圧入部品51に関する肉厚寸法差(本実施例においては、歯部の歯先面を含む内周面51aの半径寸法と、外周面51bの半径寸法との差)の公差が、所定の公差(規格値T3)内に到達すると、加工(研削)は停止し、第二加工工程S302Bが終了する。
つまり、第二加工工程S302Bにおいて、圧入部品51は、内張り治具53の真円度を基準として、「外径真円度」を確保するように加工(研削)される。
【0071】
ここで、前記肉厚寸法に関する所定の値(寸法D11)は、以下のようにして適切な値に設定される。
即ち、図8は、縦軸に圧入部品51における「XY平均径」の変化量(単位[μm])を表し、横軸に内張り治具53の「内張り圧力」(単位[Pa])を表すこととして、内張り治具53の離脱前後における両者の関係を、ドットおよび曲線によって表した関係図である。
【0072】
なお、「XY平均径」とは、周長を変化させることなく、楕円形状の図形を、円形状に変形させた場合における、該円形状の半径を意味し、本図においては、加工(研削)を行う前の、圧入部品51の外周面51bにおける「XY平均径」が示されている。
【0073】
本図に示すように、内張り治具53の離脱前後における、圧入部品51の「XY平均径」の変化量は、「内張り圧力」が増加するに従って、二次関数的(図8における曲線L1)に増加する。
このようなことから、本図に基づいて、例えば、内張り治具53の「内張り圧力」の値が、P1[Pa]に設定されている場合、圧入部品51の「XY平均径」の変化量は、d1[μm]となることが導き出される。
【0074】
一方、圧入部品51は、被圧入部品52の内周部に対して、嵌合されつつ圧入される。
よって、第二加工工程S302Bが終了した直後において、圧入部品51の外周面51bの半径(より具体的には、「XY平均径」)は、被圧入部品52の内周面52aの半径に比べて大きな値となっている必要があり、これら外周面51bの半径と、内周面52aの半径との寸法差(以下、「圧入代(d2)」と記載する)については、例えば製造条件などによって任意の値に設定される。
【0075】
そして、これら圧入部品51の「XY平均径」の変化量(d1)、および「圧入代(d2)」に基づいて、圧入部品51の肉厚寸法(D11)は、最終的に設定される。
即ち、圧入部品51については、被圧入部品52の内周部への圧入後において、最終的に確保されるべき肉厚寸法(図5(a)における寸法D12)が予め設定されており、該肉厚寸法に「圧入代(d2)」を加算した値(D12+d2)によって、圧入部品51の肉厚寸法(D11=D12+d2)は、最終的に設定される。
換言すれば、圧入部品51の「XY平均径」の変化量(d1)に応じて、肉厚寸法(D11)を変更することで、「圧入代(d2)」を任意に変更することができるのである。
【0076】
こうして、第二加工工程S302Bによる圧入部品51の外周面51bの加工(研削)が終了し、圧入部品加工工程S302が完了すると、図5(a)に示すように、圧入工程S303が開始する。
圧入工程303においては、先ず離脱工程S303Aが行われる。
離脱工程S303Aは、圧入部品51より内張り治具53を離脱する工程である。
なお、内張り治具53が離脱されると、圧入部品51の形状は、再び楕円形状に復帰される。
【0077】
離脱工程S303Aが終了すると、挿嵌工程303Bが開始する。
挿嵌工程S303Bは、被圧入部品52の内周部に圧入部品51を挿嵌(圧入)する工程である。
挿嵌工程S303Bは、以下の手順によって行われる。
【0078】
先ず、図示せぬプレス装置内において、圧入部品51および被圧入部品52は、互いに同軸上に配設される。
その後、予め定められたプレス荷重(以下、「圧入荷重」と記載する)を用いて、前記プレス装置が、これら圧入部品51および被圧入部品52を挟持しつつ圧縮することで、圧入部品51は、被圧入部品52の内周部に圧入されるのである。
【0079】
ここで、前記「圧入荷重」は、以下のようにして適切な圧力に設定される。
即ち、図9は、縦軸に「圧入荷重」(単位[Pa])を表し、横軸に圧入部品51に関する「XY平均径」(単位[μm])を表すこととして、被圧入部品52の内周部に圧入部品51を圧入する際における両者の関係を、ドットおよび連続線によって表した関係図である。
【0080】
本図に示すように、被圧入部品52の内周部に、圧入部品51を圧入するために必要となる「圧入荷重」は、該圧入部品51の「XY平均径」の値が大きくなるに従って、一次関数的(図9における直線L2)に増加する。
このようなことから、本図に基づいて、例えば、圧入部品51の「XY平均径」の値が、d11[μm]に設定されている場合、必要となる「圧入荷重」は、P11[Pa]であることが導き出され、被圧入部品52の内周部に、圧入部品51を圧入する際の「圧入荷重」は、P11[Pa]に設定されるのである。
【0081】
なお、本図に示すように、例えば、圧入部品51に関する「外径真円度」の公差が、5[μm]以下であるような高い精度によって管理される場合(図9において、円形状のドットによって示す)、これら「圧入荷重」と「XY平均径」との関係については、略直線L2上に位置することとなる。
一方、例えば、圧入部品51に関する「外径真円度」の公差が、20[μm]以下であるような低い精度によって管理される場合(図9において、円形状のドットによって示す)、これら「圧入荷重」と「XY平均径」との関係については、直線L2上に位置することなく、該直線L2の近傍付近へと、僅かにばらつくこととなる。
【0082】
このようなことから、前述した第二加工工程S302Bによって、圧入部品51の外周面51bを加工(研削)する際においては、「外径真円度」の公差が、5[μm]以下になるような、高い精度によって管理することが望ましい。
【0083】
こうして、挿嵌工程S303Bによって、圧入部品51が被圧入部品52の内周部に圧入され、圧入工程S303が終了すると、製造工程300は終了する。
そして、被圧入部品52への圧入が終了した状態において、圧入部品51に関する「内径真円度」の精度は、所定の公差(規格値T1)内におさまるようになっている。
【0084】
ところで、図5(b)に示すように、従来の圧入部品の製造方法においては、以下の構成からなる製造工程400によって、被圧入部品252に圧入される圧入部品251を製造することとしていた。
【0085】
即ち、従来の製造工程400は、主に、被圧入部品加工工程S401(図示せず)と、該被圧入部品加工工程S401の終了後に行われる圧入部品加工工程S402と、該圧入部品加工工程S402の終了後に行われる圧入工程S403とを有して構成される。
また、被圧入部品加工工程S401においては、本実施例における被圧入部品加工工程S301と同じく、被圧入部品252の内周面252aが、所定の寸法となるように加工される。
なお、被圧入部品加工工程S401の終了時においては、被圧入部品252に関する「内径真円度」の精度は、規格値設定工程200(図11を参照)によって設定された所定の公差(規格値T22)内におさまるように仕上げられる。
【0086】
また、圧入部品加工工程S402は、さらに、圧入部品251の内周面251aおよび外周面251bを、各々加工(研削)する第一加工工程S402Aおよび第二加工工程S402Bによって構成され、これら各ステップS402A・S402Bが順に行われることにより、圧入部品251は、その「内径真円度」および「外径真円度」の各精度が、各々規格値設定工程200によって設定された所定の公差(規格値T23および規格値T24)内におさまるように仕上げられる。
つまり、圧入部品251は、第一加工工程S402Aにおいて、その「内径真円度」の精度を所定の公差(規格値T24)内に仕上げられ、その後、第二加工工程S402Bにおいて、内張り治具(図示せず)によって加工姿勢に保持された後、加工による変形を伴うことなく、前記「内径真円度」を基準にしつつ、その「外径真円度」の精度が所定の公差(規格値T25)内に仕上げられる。
【0087】
また、圧入工程S403は、さらに、圧入部品251より内張り治具(図示せず)を離脱する離脱工程S403Aと、被圧入部品252の内周部に圧入部品251を挿嵌(圧入)する挿嵌工程S403Bとによって構成され、これら各ステップS403A・S403Bが順に行われることにより、圧入部品251は、圧入部品加工工程S402の終了直後における形状を略維持しつつ、被圧入部品252の内周部に圧入される。
【0088】
このように、従来の製造工程400においては、圧入部品加工工程S402を構成する第一加工工程S402Aおよび第二加工工程S402Bを順に行うことで、圧入部品251における「内径真円度」および「外径真円度」の精度を所定の公差(規格値T25および規格値T24)内に仕上げるとともに、圧入工程S403を構成する挿嵌工程S403Bにおいて、被圧入部品252に圧入する際における、圧入部品251の変形を極力抑えることで、圧入後の圧入部品201に関する「内径真円度」の精度を、所定の公差(規格値T21)内におさめるようになっていた。
そして、このような内張り治具によって加工姿勢を保持しつつ、「外径真円度」の精度が所定の公差(規格値T24)内におさまるように、圧入部品251の外周面251bを加工することは困難であり、高度な加工技術を必要としていた。
【0089】
これに対して、図6に示すように、本実施例における製造工程300においては、先ず、第一加工工程S302Aによって、圧入部品51の内周面51aが加工(研削)され、続いて、第二加工工程S302Bによって、圧入部品51の内周部に内張り治具53を挿入して、所定の「内張り圧力」をもって拡径した後、外周面51bを加工(研削)する。
そのため、圧入部品51は、「内径真円度」の精度が高度に維持されつつ、外周部51bの加工が施されることとなり、第一加工工程S302Aの終了後における、該圧入部品51に関する肉厚寸法差の公差は、容易に所定の公差(規格値T3)内に仕上げられる。
【0090】
そして、離脱工程S303Aにおいて、内張り治具53が離脱されると、圧入部品51の形状は、再び楕円形状に復帰されるが、その後、挿嵌工程S303B(図5(a)を参照)によって、被圧入部品52に圧入される際、圧入部品51は、前記肉厚寸法を維持しつつ、該被圧入部品52の内周面52aの形状に即して変形されるため、圧入後の圧入部品51に関する「内径真円度」の精度は、所定の公差(規格値T1)内に容易におさめることができるのである。
【0091】
このように、本実施例における製造工程300によれば、従来の製造工程400では困難であった、内張り治具によって加工姿勢を保持しつつ、「外径真円度」の精度が所定の公差(規格値T24)内におさまるように、圧入部品251の外周面251bを加工する必要もなくなり、圧入部品51の加工全体として容易になる。
【0092】
また、従来の製造工程300においては、被圧入部品252に圧入する際における、圧入部品251の変形を極力抑えることで、圧入後の圧入部品201に関する「内径真円度」の精度を、所定の公差(規格値T21)内におさめるため、例えば、内張り治具の離脱後に、圧入部品251の形状が再び楕円形状に復帰すると、もはや、被圧入部品252に圧入部品251を圧入し、圧入後の圧入部品251に関する「内径真円度」の精度を、所定の公差(規格値T21)内に容易におさめることは不可能であった。
【0093】
これに対して、本実施例における製造工程300においては、被圧入部品52への圧入時、圧入部品51が被圧入部品52の内周面52aの形状に即して変形することを利用して、圧入後の圧入部品51における「内径真円度」の精度を、所定の公差(規格値T1)内におさめるため、内張り治具53の離脱後に、圧入部品51の形状が再び楕円形状に復帰しても、被圧入部前記「内径真円度」の精度を、所定の公差(規格値T1)内に容易におさめることは可能なのである。
【0094】
以上のように、本発明を具現化する圧入部品の製造方法は、断面視円形状の孔部からなる内周部(内周面2aによって囲まれた空間部。以下同じ。)を有する被圧入部品2に圧入される、圧入部品1の製造方法であって、前記圧入部品1は、薄肉円筒部材から形成され、前記被圧入部品2の内周部(孔部)における真円度(「内径真円度」)の公差を規定する規格値T2(第一規格値)と、前記圧入部品1の肉厚寸法差(ΔD)の公差を規定する規格値T3(第二規格値)と、を予め設定し、前記規格値T2(第一規格値)に基づいて、前記被圧入部品2の内周部(孔部)の内周面2aを加工するとともに、前記規格値T3(第二規格値)に基づいて、前記圧入部品1の内周面1aおよび外周面1bを加工した後、前記圧入部品1を、前記被圧入部品2の内周部(孔部)の形状に即して変形させつつ、前記被圧入部品2の内周部(孔部)に圧入することとしている。
【0095】
このような構成を有する圧入部品の製造方法によれば、薄肉円筒部材からなり、被圧入部品2に圧入される圧入部品1において、圧入後の内周面1aに関する真円度(「内径真円度」)を、該内周面1aの全ての領域に渡って効率的、且つ経済的に保証する(真円度を所定の公差内におさめる。)ことができる。
【0096】
即ち、薄肉円筒部材からなる圧入部品1は、被圧入部品2への圧入の際、被圧入部品2の内周面2aの形状に即して変形させた後、その外周面1bの全領域にわたって、被圧入部品2の内周面2aと密接された状態となって、被圧入部品2に圧入される。また、被圧入部品2への圧入前後を通じて、圧入部品1の肉厚寸法が略変化することなく維持される。
このようなことから、本実施例における圧入部品の製造方法においては、被圧入部品2(図1を参照)に圧入する際における、圧入部品1の変形をあえて許容し、圧入部品1が被圧入部品2の内周面2aの形状に即して変形することを利用することとしている。
よって、本実施例における圧入部品の製造方法によれば、圧入部品1において、その「内径真円度」および「外径真円度」に関する精度を管理する必要はなく、その肉厚寸法に関する精度のみを管理するだけでよく、従来の製造方法のような高度な加工技術を必要とせず、圧入後の圧入部品1の「内径真円度」を効率的、且つ経済的に保証することができるのである。
【符号の説明】
【0097】
1 圧入部品
1a 内周面
1b 外周面
2 被圧入部品
2a 内周面
T2 規格値(第一規格値)
T3 規格値(第二規格値)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面視円形状の孔部を有する被圧入部品に圧入される、圧入部品の製造方法であって、
前記圧入部品は、薄肉円筒部材から形成され、
前記被圧入部品の孔部における真円度の公差を規定する第一規格値と、
前記圧入部品の肉厚寸法差の公差を規定する第二規格値と、
を予め設定し、
前記第一規格値に基づいて、前記被圧入部品の孔部の内周面を加工するとともに、
前記第二規格値に基づいて、前記圧入部品の内周面および外周面を加工した後、
前記圧入部品を、前記被圧入部品の孔部の形状に即して変形させつつ、前記被圧入部品の孔部に圧入する、
ことを特徴とする圧入部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−187670(P2012−187670A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53579(P2011−53579)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】