説明

圧力スイング式ガス発生装置の運転方法

【課題】停電や瞬低により原料ガスの供給が停止したとしても、原料ガスの供給が再開したときに、いち早く圧力スイング式ガス発生装置(PSA装置)の運転を再開できる運転方法を提供する。
【解決手段】第1吸着槽3aで製品ガスを回収すると共に第2吸着槽3bの吸着ガスを脱着させる第1の吸着/脱着工程と、第1の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程と、均圧工程終了後、第2吸着槽3bで製品ガスを回収すると共に第1吸着槽3aの吸着ガスを脱着させる第2の吸着/脱着工程と、第2の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程とを順次繰り返すPSA装置の運転方法において、原料ガスの供給が停止しても均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程から次工程には移行せず、原料ガスの供給が再開した後、均圧工程から次工程に移行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力スイング式ガス発生装置(以下「PSA装置」という。)の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PSA装置は、吸着剤を使用して原料ガスから製品ガスを回収する装置である。例えば空気から窒素を回収するPSA装置では、吸着剤として一般的にカーボンモレキュラシーブ(CMS)を使用する。空気中の酸素の分子径は窒素より小さいので、CMSの微細孔にいち早く拡散し、吸着される。したがって、CMSを充填した吸着槽に空気を通せば、製品ガスとして窒素を回収することができる。また、同じ原理にて吸着剤の細孔径や、分子と吸着剤の親和性の差によって、空気中の水分もしくは酸素を吸着することもできる。
【0003】
図1は、PSA装置の一般的な装置構成を示す。図1に示すPSA装置は、原料ガスを加圧する圧縮機1と、圧縮機1によって圧縮された原料ガスを貯留する原料ガス槽2と、原料ガス槽2からの原料ガスを通過させる2つの吸着槽(第1吸着槽3a及び第2吸着槽3b)と、第1吸着槽3a及び第2吸着槽3bの出側に接続された製品ガス槽4と、それぞれの槽の入口及び出口に自動切替式の弁(6a,6b,7a,7b,8a,8b,9,10)を備える。
【0004】
そして、このPSA装置の運転は、(1)原料ガスを第1吸着槽3aに供給し製品ガスを回収すると共に、第1吸着槽3aで回収した製品ガスの一部を第2吸着槽3bに供給し第2吸着槽3bに吸着されている吸着ガスを脱着させる第1の吸着/脱着工程と、(2)第1の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする均圧工程と、(3)均圧工程終了後、原料ガスを第2吸着槽3bに供給し製品ガスを回収すると共に、第2吸着槽3bで回収した製品ガスの一部を第1吸着槽3aに供給し第1吸着槽3aに吸着されている吸着ガスを脱着させる第2の吸着/脱着工程と、(4)第2の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする均圧工程とを順次繰り返す。このうち、第1の吸着/脱着工程と第2の吸着/脱着工程はそれぞれ50秒程度、各均圧工程はそれぞれ15秒程度であり、上記(1)〜(4)の1サイクルは130秒程度である。
【0005】
このようなPSA装置の運転において、停電や瞬低(瞬時電圧低下)が発生した場合、圧縮機1が停止し、原料ガスの供給が停止する。通常は、約1分で原料ガスの供給を再開できる状態になるが、従来は、運転を継続していて均圧工程終了のタイミングがあった場合、製品ガス槽4の運転圧力が下がり、製品ガスの供給が不可能となる。さらに原料ガスの供給が再開されるタイミングでは、吸着槽との圧力差が通常よりも大きくなるため、吸着剤への負荷が過大となり、製品ガスの純度不良を招く。一旦、純度不良になると、純度確保のために長い時間を要する。また、その対策として、均圧工程終了のタイミングで次の吸着/脱着工程に移行せず、均圧工程を原料ガスの供給再開まで保持した場合、その間に吸着槽内のガス濃度分布に乱れが生じて所定の吸着能力を発揮できなくなると考えられていたため、一旦、原料ガスの供給が停止すると、PSA装置の停止操作を行い、その後再起動するようにしていた(図3参照)。このPSA装置の停止操作及び再起動には約8分必要であり、その間、定格能力で製品ガスを供給するために、大容量の製品ガスのバックアップ供給装置5(図1参照)が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−294613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、停電や瞬低により原料ガスの供給が停止したとしても、原料ガスの供給が再開したときに、いち早くPSA装置の運転を再開できるPSA装置の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のとおり、停電や瞬低により原料ガスの供給が停止したとしても、通常約1分で原料ガスの供給を再開することができる。従来は、運転を継続していて均圧工程終了のタイミングがあった場合、製品ガス槽の運転圧力が下がり、製品ガスの供給が不可能となる。さらに原料ガスの供給が再開されるタイミングでは、吸着槽との圧力差が通常よりも大きくなるため、吸着剤への負荷が過大となり、製品ガスの純度不良を招く。一旦、純度不良になると、純度確保のために長い時間を要する。また、その対策として、均圧工程終了のタイミングで次の吸着/脱着工程に移行せず、均圧工程を原料ガスの供給再開まで保持した場合、その間に吸着槽内のガス濃度分布に乱れが生じて所定の吸着能力を発揮できなくなると考えられていたため、PSA装置の停止操作を行い、その後再起動するようにしていた。
【0009】
これに対して、本発明者は、原料ガスの供給が約1分停止し、均圧工程を約1分間継続したとしても吸着槽内のガス濃度分布への影響は少なく、その結果、運転再開後の製品ガスの純度はあまり低下しないのではないかと考え、種々の実験を行ったところ、約1分の原料ガスの供給停止であれば、吸着/脱着工程における純度低下はほとんど影響ないことと、均圧工程終了のタイミングがある場合でも均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程から次工程に移行しないようにすれば、再開後の製品ガスの純度低下は微少であり、かつ製品ガスの圧力の低下もなく、短時間で原料ガス供給前の状態にすることが可能であることがわかり、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、原料ガスを第1吸着槽に供給し製品ガスを回収すると共に、第1吸着槽で回収した製品ガスの一部を第2吸着槽に供給し第2吸着槽に吸着されている吸着ガスを脱着させる第1の吸着/脱着工程と、第1の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽を連通させて第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程と、均圧工程終了後、原料ガスを第2吸着槽に供給し製品ガスを回収すると共に、第2吸着槽で回収した製品ガスの一部を第1吸着槽に供給し第1吸着槽に吸着されている吸着ガスを脱着させる第2の吸着/脱着工程と、第2の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽を連通させて第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程とを順次繰り返すPSA装置の運転方法において、原料ガスの供給が停止しても均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程から次工程には移行せず、原料ガスの供給が再開した後、均圧工程から次工程に移行することを特徴とする。
【0011】
このように本発明では、原料ガスの供給が停止しても均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程終了後、その状態を保持するので、原料ガスの供給が再開されれば直ちに次工程に移行できる。したがって、従来よりもPSA装置の運転を早く再開できる。すなわち、従来の運転方法では、PSA装置の停止及び再起動に約8分を要し、その間PSA装置の運転を停止していたが、本発明では原料ガスの供給停止から供給再開までの約1分の停止で済む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、停電や瞬低により原料ガスの供給が停止したとしても、原料ガスの供給が再開したときに、いち早くPSA装置の運転を再開できる。かつ、製品ガスのバックアップ装置をコンパクトにできる。また、原料ガスの供給停止時に製品ガスの供給を継続したとしても、製品ガスの純度低下は限定的であり、用途によってはバックアップ装置が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】PSA装置の一般的な装置構成を示す。
【図2】本発明の瞬低発生時の運転方法を示す。
【図3】従来の瞬低発生時の運転方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
PSA装置は先に図1に示したように、原料ガスを加圧する圧縮機1と、圧縮機1によって圧縮された原料ガスを貯留する原料ガス槽2と、原料ガス槽2からの原料ガスを通過させる2つの吸着槽(第1吸着槽3a及び第2吸着槽3b)と、第1吸着槽3a及び第2吸着槽3bの出側に接続された製品ガス槽4とを備える。
【0016】
そして、このPSA装置の運転は、(1)原料ガスを第1吸着槽3aに供給し製品ガスを回収すると共に、第1吸着槽3aで回収した製品ガスの一部を第2吸着槽3bに供給し第2吸着槽3bに吸着されている吸着ガスを脱着させる第1の吸着/脱着工程と、(2)第1の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする均圧工程と、(3)均圧工程終了後、原料ガスを第2吸着槽3bに供給し製品ガスを回収すると共に、第2吸着槽3bで回収した製品ガスの一部を第1吸着槽3aに供給し第1吸着槽3aに吸着されている吸着ガスを脱着させる第2の吸着/脱着工程と、(4)第2の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする均圧工程とを順次繰り返す。このうち、第1の吸着/脱着工程と第2の吸着/脱着工程はそれぞれ50秒程度、各均圧工程はそれぞれ15秒程度であり、上記(1)〜(4)の1サイクルは130秒程度である。
【0017】
各工程についてより具体的に説明すると、第1の吸着/脱着工程では、弁6a及び弁7aを開け、原料ガス槽2から0.69MPaに加圧された原料ガスを第1吸着槽3aに供給し第1吸着槽3aを通過させることで、製品ガスを回収する。これと並行して、第1吸着槽3aで回収した製品ガスの一部を第2吸着槽3bに供給し第2吸着槽3bに吸着されている吸着ガスを脱着させる。具体的には弁9を小開すると共に弁8bを開け、脱着したガスを大気に放出する。この第1の吸着/脱着工程では、図1において上述した弁6a,7a,8b,9以外の弁は、弁11を除いて閉じておく。
【0018】
第1の吸着/脱着工程終了後の均圧工程では、第1の吸着/脱着工程の状態から弁6a,7a,8bを閉じると共に弁9,10を開け、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする。これにより第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力は、均圧工程前の第1吸着槽3aの半分となる。
【0019】
この均圧工程後の第2の吸着/脱着工程では、均圧工程の状態から弁10を閉じると共に、弁6b及び弁7bを開け、原料ガス槽2から0.69MPaに加圧された原料ガスを第2吸着槽3bに供給し第2吸着槽3bを通過させることで、製品ガスを回収する。これと並行して、第2吸着槽3bで回収した製品ガスの一部を第1吸着槽3aに供給し第1吸着槽3aに吸着されている吸着ガスを脱着させる。具体的には弁9を小開すると共に弁8aを開け、脱着したガスを大気に放出する。この第2の吸着/脱着工程では、図1において上述した弁6b,7b,8a,9以外の弁は、弁11を除いて閉じておく。
【0020】
第2の吸着/脱着工程終了後の均圧工程では、第2の吸着/脱着工程の状態から弁6b,7b,8aを閉じると共に弁9,10を開け、第1吸着槽3aと第2吸着槽3bを連通させて第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力を均一にする。これにより第1吸着槽3aと第2吸着槽3bの圧力は、均圧工程前の第2吸着槽3bの半分となる。
【0021】
この均圧工程後は上記の第1の吸着/脱着工程に移行する。通常の運転状態では、このように順次各工程を繰り返すことで、連続的に製品ガスを回収する。回収された製品ガスは、製品ガス槽4に貯留された後、ユーザへ供給される。
【0022】
この連続運転の最中に停電や瞬低により原料ガスの供給が停止した場合、本発明では、従来のようにPSA装置を停止操作に移行するのではなく、均圧工程になるまでは運転を継続する。そして、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程から次工程には移行せず、原料ガスの供給が再開したら均圧工程から次工程に移行する。
【0023】
このように本発明では、原料ガスの供給が停止しても均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程終了後、その状態を保持するので、原料ガスの供給が再開されれば直ちに次工程に移行できる。したがって、従来よりもPSA装置の運転を早く再開できる(図2参照)。
【0024】
ここで、原料ガスの供給が停止してから再開するまでの時間は、上述のとおり通常約1分である。したがって本発明では、均圧工程終了後、最大約1分、その状態が維持されることになる。そこで、均圧工程終了後、原料ガス(空気)の供給を停止し、その後の製品ガス(窒素)の純度の変化を調査したところ、表1の結果となった。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、定格純度99.9%の装置を用いた試験結果では、約1分の保持であれば定格純度以上を確保できた。
【0027】
また、吸着/脱着工程中に原料ガスの供給が停止した場合を想定し、吸着/脱着工程の切り替わり直後に原料ガスの供給を停止した。この場合、本発明ではそのまま運転を継続し、50秒の吸着/脱着工程後、均圧工程に移行する。原料ガスの供給を停止してから1分後に原料ガスの供給を再開し、原料ガスの供給停止前と供給再開後の製品ガスの純度を比較した。その結果、供給停止前が99.96%、供給再開後が99.93%で、純度は0.03%しか低下せず、許容範囲であった。
【0028】
このように約1分、原料ガスの供給が停止したとしても本発明の方法に従えば、PSA装置を停止することなく、原料ガスの供給が再開したらすぐに運転を再開できる。そして、運転再開直後の純度低下も許容範囲内に抑えることができる。
【0029】
また、本発明おいて、原料ガスの供給が停止している間もユーザへの製品ガスの供給を継続した場合の純度低下は限定的であり(99.85%)、用途によっては図1に示すバックアップ装置5は不要になる(表1参照)。逆に純度を確保するためには、図1の製品ガス槽4の容量を、従来の容量に対して約1分の製品ガス供給に見合う容量だけ大きくすれば、図1に示すバックアップ装置5を設ける必要はない。また、バックアップ装置5を設けるとしても、約1分の製品ガス供給に見合う容量であれば良いので、約8分の製品ガス供給に見合う容量が必要であった従来のものに比べ、大幅に容量を小さくできる。
【符号の説明】
【0030】
1 圧縮機
2 原料ガス槽
3a 第1吸着槽
3b 第2吸着槽
4 製品ガス槽
5 パックアップ装置
6a,6b,7a,7b,8a,8b,9,10,11 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスを第1吸着槽に供給し製品ガスを回収すると共に、第1吸着槽で回収した製品ガスの一部を第2吸着槽に供給し第2吸着槽に吸着されている吸着ガスを脱着させる第1の吸着/脱着工程と、
第1の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽を連通させて第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程と、
均圧工程終了後、原料ガスを第2吸着槽に供給し製品ガスを回収すると共に、第2吸着槽で回収した製品ガスの一部を第1吸着槽に供給し第1吸着槽に吸着されている吸着ガスを脱着させる第2の吸着/脱着工程と、
第2の吸着/脱着工程が終了後、第1吸着槽と第2吸着槽を連通させて第1吸着槽と第2吸着槽の圧力を均一にする均圧工程とを順次繰り返す圧力スイング式ガス発生装置の運転方法において、
原料ガスの供給が停止しても均圧工程になるまでは運転を継続し、原料ガスの供給が再開されるまでは均圧工程から次工程には移行せず、原料ガスの供給が再開した後、均圧工程から次工程に移行することを特徴とする圧力スイング式ガス発生装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−78859(P2011−78859A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230710(P2009−230710)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】