説明

圧力損失推定方法、圧力損失推定プログラム、および該プログラムを記録した記録媒体

【課題】 複数の粒子群を混合してなる粒子充填層における流体の圧力損失を精度良く推定する。
【解決手段】 まず、粒子充填層を構成する粒子群を決定し、決定した各粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κを取得する(S10)。次に、粒子充填層を透過する流体の粘度μおよび空塔速度uを取得する(S11)。次に、粒子充填層における高さHおよび空隙率εと、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nとを取得する(S12)。そして、取得した数値を式に代入して圧力損失ΔPを算出する(S13)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粒子群を混合して成る粒子充填層の間隙を流れる流体の圧力損失を推定する圧力損失推定方法、圧力損失推定プログラム、および該プログラムを記録した記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粒子充填層(固定層)の間隙を、液体、気体などの流体が透過する現象は、工業的には種々の装置で発生する。これらの装置の例としては、固液を分離する濾過装置、集塵のためのバグフィルタ、触媒粒子層にガスを通して反応させる触媒反応装置、および、湿った粉体を通気乾燥させる粉体乾燥装置が挙げられる。
【0003】
上記現象が発生する場合、流体の流れは、粒子充填層からの抵抗などにより損失する。この損失を圧力の次元で表して圧力損失という。上記現象が発生する装置は、粒子充填層の圧力損失を予測した上で設計する必要がある。さもなくば、例えば、通液や通気が低下したり、それによって、反応や乾燥が不十分になったりといった不具合が発生する。
【0004】
なお、本願では、粒子の周りの流体の流れが層流である、すなわち、ストークス域(粒径基準のレイノルズ数が5以下である領域)に限定している。この場合の圧力損失の関係式としては、最も簡単なダルシー(Darcy)の法則が知られている。ダルシーの法則は次式で表される。
ΔP/H=(μ/k)×u
ここで、μは粘性率(Pa・s)であり、Hは粒子充填層の高さ(厚さ)(m)であり、uは流体の空塔速度(見かけ速度)(m/s)である。また、kは粒子充填層の透過率であり、粒子充填層の物理的性質によって決まる無次元の定数である。
【0005】
ダルシーの法則に対して、粒子充填層を1つの管とみなして管抵抗の概念を導入し、表面係数をφとして球形以外の充填物を対象とすることにより、コゼニー・カーマン(Kozeny-Carman)の式が得られる。コゼニー・カーマンの式は次式の通りである。
ΔP/H=180×(μ×u/(φ×d))×((1−ε)/ε)。
ここで、dは粒子の直径(粒径)(m)であり、εは空隙率(無次元)である。通常はコゼニー・カーマンの式を用いて、圧力損失を理論的に予測している(例えば、非特許文献1・2を参照)。
【非特許文献1】社団法人化学工学会編,「化学工学便覧」,改訂6版,丸善株式会社,1999年2月25日,p.310−312
【非特許文献2】社団法人化学工学会編,「現代の化学工学II」,初版,株式会社朝倉書店,1989年2月20日,p.39−41
【非特許文献3】I. F. Macdonald, et al., Ind. Eng. Chem. Fundamentals, 18 (1979), 199-208
【非特許文献4】M. J. Macdonald, et al., AIChE Journal, 37 (1991), 1583-1588
【非特許文献5】Y. Li, et al., Ind. Eng. Chem. Res., 37 (1998), 2005-2011
【非特許文献6】Y. Endo, et al., Filtration & Separation, March 1998, 191-195
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コゼニー・カーマンの式は、粒径分布の狭い1種類の粒子からなる粒子充填層の場合にしか適用できないという問題点が存在する(例えば、非特許文献3を参照)。この問題点を解消するため、例えば非特許文献4〜6に記載のように、種々の圧力損失および透過率の関係式が提案されている。
【0007】
非特許文献4には、ブレーク・コゼニー(Blake-Kozeny)の式(コゼニー・カーマンの式)を複数サイズの球形粒子に一般化することが開示されている。また、非特許文献4では、粒子形状が同じ球形であり、粒径分布が異なる3つの粒子群を混合したフリットガラスの粒子充填層について、空隙率および透過率を求める実験が行われている。また、非特許文献5には、種々の粒径分布を有する球形粒子から成る粒子充填層の透過率に関して開示されている。
【0008】
このように、非特許文献4・5には、粒径分布の広い粒子から成る粒子充填層や、粒径分布の異なる複数の粒子群から成る粒子充填層に関する圧力損失および透過率の関係式が開示されている。しかしながら、非特許文献4・5では、粒子が球形である場合に限定されているため、粒子が砂などの非球形である場合には、上記圧力損失および透過率の関係式を満たさない虞がある。
【0009】
一方、本願発明者は、非特許文献6において、異なる粒径分布を有する2つの粒子群を混合した粒子充填層に関する圧力損失の関係式を提案している。非特許文献6では、粒子の形状は、球形粒子でなくてもよい。また、非特許文献6では、アルミナ粒子(平均粒径0.7μm)およびアリゾナ道路塵(平均粒径2.0μm)を混合することによって生成される含塵空気がエアーフィルタに捕集されてダストケーキが形成される様子が開示されている。
【0010】
しかしながら、非特許文献6には、3つ以上の粒子群を混合した粒子充填層に関する圧力損失の関係式は開示されていない。また、非特許文献6では、ダストケーキの厚みが450μm程度までしか計測されていないため、厚さが1mm以上の粒子充填層に上記圧力損失の関係式が適用可能であるか否かは不明である。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、異なる粒径分布を有する複数の粒子群を混合して成る粒子充填層に関して、該粒子充填層を透過する流体の圧力損失を、例え、粒子の形状が非球形であっても、粒子群が3つ以上であっても、或いは、粒子充填層の厚さが1mm以上であっても、良好に推定できる圧力損失推定方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る圧力損失推定方法は、粒子群を複数混合して成る粒子充填層に関して、該粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを推定する圧力損失推定方法であって、前記粒子群は、粒子の形状が略同じであり、粒径分布が対数正規分布に従う粒子からなるものであり、前記流体に関する粘度μおよび見かけ速度uを取得する流体特性取得ステップと、前記粒子充填層に関する高さHおよび空隙率εを取得する粒子充填層特性取得ステップと、第i番目(但し、i=1〜N、Nは2以上の整数)の粒子群に関して、前記粒子充填層の所定体積中に存在する粒子数n、前記粒径分布の幾何平均径dおよび幾何標準偏差σ、ならびに動力学的形状係数κを取得し、これを全ての粒子群に関して行う粒子群特性取得ステップと、取得した数値を、式(ΔP/(μ×u×H))×R=18×v(ε)×(1−ε)/ε ・・・(1)(但し、v(ε)は空隙率関数であり、Rは
【0013】
【数1】

【0014】
であり、nは、前記粒子充填層の所定体積中に存在する全粒子数である。)、に代入することにより、圧力損失ΔPを算出する圧力損失算出ステップとを含むことを特徴としている。
【0015】
本願発明者は、非特許文献6に記載の圧力損失の関係式をさらに一般化した上記式(1)および式(2)を導出し、この式(1)および式(2)用いて算出した圧力損失ΔPの算出値と、流体透過試験により実際に計測される圧力損失ΔPの計測値とを比較したところ、粒子群が3つ以上であっても、粒子充填層の厚さが1mm以上であっても、上記算出値が上記計測値に良好に適合することが判明した。
【0016】
さらに、本願発明者は、種々の検討を行ったところ、例え、粒子の組成が同じであり、かつ粒径分布が対数正規分布に従う粒子群であっても、粒子の形状が異なる場合には、粒子の形状が略同じである別々の粒子群に分離する方が、上記算出値を上記計測値にさらに精度良く適合できることが判明した。
【0017】
したがって、上記の方法によると、流体の粘度μおよび空塔速度uと、粒子充填層の高さHおよび空隙率εと、各粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κと、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nとを取得することにより、粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを良好に推定することができる。さらに、粒子群における粒子の形状を略同じとすることにより、粒子群に適当な動力学的形状係数κを割り当てることができるので、上記圧力損失ΔPをさらに精度良く推定することができる。
【0018】
なお、前記粒子群特性取得ステップにて、或る粒子群における粒子の形状が非球形である場合、前記粒子群に関して、前記粒径分布の幾何平均径dは、等体積球相当径で粒径分布を求めたときの幾何平均径とすることが好ましい。
【0019】
また、前記圧力損失算出ステップにおける空隙率関数v(ε)としては、実験により種々の関数が知られており、一例として、v(ε)=10×(1−ε)/ε、が挙げられる。
【0020】
また、前記粒子群特性取得ステップにて、前記粒子充填層の所定体積中に存在する粒子数nは、第i番目の粒子群に関して、前記粒子充填層の所定体積中に存在する前記粒子群の粒子の全質量mと、前記粒子群の粒子密度ρとを取得し、取得した数値を式、n=(m/ρ)/((π/6)×d)、に代入することにより求めることができる。
【0021】
また、前記粒子群特性取得ステップの前に、或る粒子群に関して、粒子の形状が異なる場合には、前記粒子群を、前記形状に基づいて複数の粒子群に分離することが好ましい。この場合、分離した粒子群における粒子の形状を略同じとすることができるので、上記圧力損失ΔPを精度良く求めることができる。
【0022】
なお、上記の圧力損失推定方法における各ステップを、圧力損失推定プログラムによりコンピュータ上で実行させることができる。さらに、前記圧力損失推定プログラムをコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶させることにより、任意のコンピュータ上で前記圧力損失推定プログラムを実行させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に係る圧力損失推定方法は、流体の粘度μおよび空塔速度uと、粒子充填層の高さHおよび空隙率εと、各粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κと、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nとを取得することにより、粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを良好に推定でき、さらに、粒子群における粒子の形状を略同じとすることにより、上記圧力損失ΔPをさらに精度良く推定できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態について説明する前に、本発明で利用される圧力損失ΔPの関係式について説明する。この関係式の導出に当たって、下記の仮定を導入している。
【0025】
(仮定1)粒子充填層を構成する粒子は、ランダムに充填されている。このため、粒子の局所的な分布は存在しない。
【0026】
(仮定2)上記粒子の周りの流体の流れが層流であるストークス域(粒径基準のレイノルズ数が5以下である領域)に限定している。
【0027】
(仮定3)各粒子群の粒径分布は、次式の対数正規分布f(lnd)(但し、i=1〜N、Nは2以上の整数)に従う。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、dは粒径であり、σは第i粒子群の幾何標準偏差であり、dは第i粒子群の幾何平均径である。
【0030】
これらの仮定から、非特許文献6と同様の手法により、粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPの関係式が次式のように導かれる。
(ΔP/(μ×u×H))×R=18×v(ε)×(1−ε)/ε ・・・(1)
(但し、Rは次式で表される。)
【0031】
【数3】

【0032】
ここで、記号μおよび記号uは、粒子充填層を透過する流体に関するものであり、それぞれ粘度(粘性率)(Pa・s)および空塔速度(見かけ速度)(m/s)を表している。流体の粘度μは、使用する流体によって決定できる。また、流体の空塔速度uは流量計で容易に測定できる。
【0033】
また、記号H、記号ε、および記号v(ε)は、粒子充填層に関するものであり、それぞれ高さ(m)、空隙率(無次元)、および空隙率関数(void function)(無次元)を表している。粒子充填層の高さHは、長さを測る器具により容易に測定できる。また、空隙率εは、粒子充填層の実体積(m)および全体積(m)から求めることができる。
【0034】
また、空隙率関数v(ε)は、粒子の近接効果を補正するものである。粒子の近接効果とは、粒子が集まると流体の粘度(抵抗)が見かけ上急激に増加したようになることをいう。空隙率関数v(ε)としては、実験により種々の関数が知られているが、本実施形態では、v(ε)=10×(1−ε)/εを利用している。したがって、空隙率εから空隙率関数v(ε)を求めることができる。
【0035】
また、上述のように、記号σおよび記号dは、第i粒子群の粒径分布(対数正規分布)に関するものであり、それぞれ幾何標準偏差および幾何平均径(m)を表している。第i粒子群の幾何標準偏差σおよび幾何平均径dは、第i粒子群の粒径分布から求めることができる。なお、第i粒子群の粒子の形状が非球形である場合には、粒子の等体積相当径を粒径とすればよい。
【0036】
また、記号κは、第i粒子群の粒子の動力学的形状係数を表している。動力学的形状係数κとは、該当する粒子が受ける抵抗力(drag force)の、該粒子の等体積相当径(volume equivalent diameter)の球が受ける抵抗力に対する比率として定義される。動力学的形状係数κは、粒子の形状が球形である場合には1となり、非球形である場合には1より大きくなる。動力学的形状係数κは、文献(例えば、C. N. Davies, J. Aerosol Sci., 10 (1979) 477-513など)に記載の値を利用して、粒子の形状から求めることができる。
【0037】
また、記号nは、粒子充填層の所定体積当りに存在する第i粒子群の粒子数を表しており、記号nは、粒子充填層の所定体積当りに存在する全粒子数を表している。なお、本実施形態では、所定体積として単位体積を利用している。
【0038】
上記の粒子数nおよび全粒子数nは、次式から求めることができる。
【0039】
【数4】

【0040】
【数5】

【0041】
ここで、記号vbedは、粒子充填層の単位体積中に存在する第i粒子群の粒子の全体積を表し、記号vparticle_iは、第i粒子群の1個の粒子の体積を表し、記号mは、粒子充填層の単位体積中に存在する第i粒子群の粒子の全質量を表し、記号ρは、第i粒子群の粒子の密度を表す。したがって、粒子充填層の単位体積中に存在する第i粒子群の粒子の全質量mと、第i粒子群の粒子の密度ρとを取得することにより、第i粒子群の粒子数nを求めることができ、各粒子群の粒子数を求めることにより、全粒子数nを求めることができる。
【0042】
以上より、流体の粘度μおよび空塔速度uと、粒子充填層の高さHおよび空隙率εと、各粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κと、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nとを取得することにより、粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを算出できることが理解できる。また、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nの代わりに、第i粒子群の粒子の密度ρと、粒子充填層の単位体積中に存在する第i粒子群の粒子の全質量mとを取得しても、粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを算出できることが理解できる。
【0043】
さらに、本願発明では、上記仮定1〜3に下記の仮定4を追加している。
(仮定4)各粒子群における粒子の形状は、非球形でもよいが、略同じ形状である。
この仮定4に基づき、本実施形態では、或る粒子群の粒子に関して、粒子の形状が異なる場合には、粒子の形状に基づいて別々の粒子群に分離している。これにより、分離した粒子群ごとに適当な動力学的形状係数κを割り当てることができるので、上記圧力損失ΔPを精度良く求めることができる。
【0044】
〔実施の形態〕
次に、本発明の一実施形態について図1および図2を参照しつつ説明する。図1は、或る粒子充填層を流体が透過する時の圧力損失を推定する圧力損失推定方法における処理の流れを示している。図示のように、まず、粒子充填層を構成する粒子群を決定し、決定した各粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κを取得する(ステップS10(以下「S10」と略称することがある。他のステップについても同様である。))。
【0045】
図2は、上記ステップS10における詳細な処理の流れを示している。図示のように、まず、粒子充填層に混合する粒子群を決定する(S20)。次に、或る粒子群に関して以下の処理を行う。
【0046】
すなわち、まず、上記粒子群の粒子が略同じ形状であるか否かを判断する(S21)。粒子の形状は、多数の粒子を顕微鏡にて観察することにより特定できる。粒子が略同じ形状では無い場合には(S21にてNO)、形状による粒子群の分離が可能であるか否かを判断する(S22)。上記分離が不能である場合には(S22にてNO)、精度の良い圧力損失ΔPを推定できないため、処理を終了する。一方、上記分離が可能である場合には(S22にてYES)、形状に基づいて別々の粒子群に分離して(S23)、ステップS21に戻る。
【0047】
一方、粒子が略同じ形状である場合には(S21にてYES)、上記粒子群の粒子の粒径分布が対数正規分布に従っているか否かを判断する(S24)。粒子の粒径分布は、例えば、篩い分け法、画像解析法(顕微鏡法)などにより測定できる。粒径分布が対数正規分布に従っていない場合には(S24にてNO)、粒径分布の分離が可能であるか否かを判断する(S25)。上記分離が不能である場合には(S25にてNO)、精度の良い圧力損失ΔPを推定できないため、処理を終了する。一方、上記分離が可能である場合には(S25にてYES)、粒径分布に基づいて別々の粒子群に分離して(S26)、ステップS21に戻る。
【0048】
一方、粒径分布が対数正規分布に従っている場合には(S24にてYES)、上記粒子群の幾何標準偏差σ、幾何平均径d、および動力学的形状係数κを取得する(S27)。幾何標準偏差σおよび幾何平均径dは、粒径分布より求めることができる。また、動力学的形状係数κは、粒子の形状より求めることができる。
【0049】
そして、全ての粒子群について上記処理S21〜S27を繰り返した後(S28)、元の処理ルーチンに戻る。
【0050】
再び図1を参照すると、ステップS10の後に、粒子充填層を透過する流体の粘度μおよび空塔速度uを取得する(S11)。流体の粘度μは、例えば、毛管粘度計、円錐円板回転粘度計などにより測定できる。或いは、水や空気など周知の流体を利用する場合には、測定値の代わりに、文献に記載の値を粘度μとして利用しても良い。また、空塔速度uは、例えば流量計などにより測定できる。或いは、測定値の代わりに、装置の設計において要求される値を空塔速度uとして利用しても良い。
【0051】
次に、粒子充填層における高さHおよび空隙率εと、粒子充填層の単位体積当りに存在する各粒子群の粒子数nとを取得する(S12)。なお、上述のように、上記各粒子群の粒子数nの代わりに、各粒子群の粒子密度ρと、粒子充填層の単位体積中に存在する各粒子群の粒子の全質量mとを取得してもよい。粒子充填層の高さHは、長さを測る器具により容易に測定できる。或いは、測定値の代わりに、装置の設計において要求される値を高さHとして利用しても良い。また、空隙率εは、粒子充填層の実体積および全体積から求めることができる。
【0052】
また、粒子密度ρは、例えば、ピクノメータ法、懸ちょう法、比重びん法などの液浸法や、定容積圧縮法、定容積膨張法、不定容積法、圧力比較法などの気体容積法により測定できる。また、粒子充填層の単位体積中に存在する各粒子群の粒子の全質量mは、定積の容器に各粒子群が入る質量(重量)を測定することにより求めることができる。
【0053】
なお、以上のステップS10〜S12は、同時に処理を行ってもよいし、任意の順番で行ってもよい。
【0054】
次に、取得した数値を、上記の式(1)および式(2)に代入することにより圧力損失ΔPを求める(S13)。そして、求めた圧力損失ΔPを出力した後(S14)、圧力損失ΔPの推定処理を終了する。
【0055】
〔実施例〕
次に、上記実施形態の圧力損失推定方法を実際の粒子に適用した例について図3〜図6に基づいて説明する。なお、本実施例では、粒子充填層を透過する流体として、粘度μ=1.8×10−5(Pa・s)である圧縮乾燥空気を使用した。
【0056】
図3は、本実施例にて使用した粒子群と、各粒子群の特性値とを表形式で示している。各粒子群の特性値は、平均粒径d(μm)、空隙率ε、粒子充填層の高さH(mm)、単位体積中の全質量m(kg)、粒子密度ρ(kg/m)、幾何標準偏差σ、および動力学的形状係数κである。また、同図において、GB_A〜Cは、それぞれ平均粒径および空隙率の異なる3種類のガラスビーズを示している。また、PP_A〜Cは、平均粒径の異なる3種類のポリプロピレンを示している。
【0057】
平均粒径dおよび幾何標準偏差σは、音波式全自動篩い分け測定器(株式会社セイシン企業製の型番:RPS−85C)を使用して測定した。この測定器は、粒径分布の測定を自動的に行うことができ、平均粒径dおよび幾何標準偏差σを自動的に出力することができる。各粒子群の単位体積中の全質量mは、定積の容器に各粒子群が入る質量(重量)を電子天秤で測定することにより求めた。
【0058】
各粒子群の粒子密度ρは、定容積膨張法を用いた乾式自動密度計(株式会社島津製作所製のアキュピック1330−03)を利用して測定した。なお、各粒子群の粒子密度ρとして、カタログ値などの文献値が存在すれば、該文献値を利用してもよい。なお、空隙率εは、上述のように測定した各粒子群の単位体積中の全質量mと粒子密度ρとを、式ε=1−(m/ρ)に代入することにより求めることができる。
【0059】
動力学的形状係数κは文献(C. N. Davies, J. Aerosol Sci., 10 (1979), 477-513)に記載の値を利用した。上記文献によると、球形粒子は、動力学的形状係数κが1であり、球形粒子を稍ごつごつした粒子形状であるシリカ粒子は、動力学的形状係数κが1.57である。そこで、本実施例におけるガラスビーズGB_A〜Cは、球形粒子であるため、動力学的形状係数κを1とした。一方、ポリプロピレンPP_A〜Cは、球形粒子とシリカ粒子との中間の粒子形状であり、どちらかといえばシリカ粒子に近い粒子形状であるため、動力学的形状係数κを1.4とした。
【0060】
そして、各粒子群の特性値と流体の特性値とを利用して、ガラスビーズGB_A〜Cを混合して成る粒子充填層における圧力損失ΔPと、ポリプロピレンPP_A〜Cを混合して成る粒子充填層における圧力損失ΔPとを算出した。また、比較例として、上記粒子充填層を実際に生成して流体透過試験を行い、圧力損失ΔPを計測した。その結果、図4に示される表と、図5に示されるグラフとが得られた。
【0061】
図4は、ガラスビーズGB_A〜Cを混合して成る粒子充填層と、ポリプロピレンPP_A〜Cを混合して成る粒子充填層とに関して、種々の高さHに形成した粒子充填層に所定の空塔速度u(=1.39×10−2m/s)の流体が透過するときの圧力損失ΔPを求めたものである。このうち、圧力損失ΔPの算出値は、本実施形態の圧力損失推定方法を用いて算出したものであり、圧力損失ΔPの計測値は、実際に流体透過試験を行って計測したものである。なお、ガラスビーズGB_A〜Cを混合して成る粒子充填層の空隙率εは、0.34であり、ポリプロピレンPP_A〜Cを混合して成る粒子充填層の空隙率εは、0.40であった。
【0062】
また、図5は、図4に示される算出値および計測値の関係を示すものである。図示において、三角が、図4に示される算出値および計測値を示している。また、原点を通る3本の直線の内、真ん中の直線は、算出値が計測値と等しいラインを示しており、上側の直線は、算出値が計測値に比べて5%小さいラインを示しており、下側の直線は、算出値が計測値に比べて5%大きいラインを示している。図5を参照すると、本実施例で算出された圧力損失ΔPは、流体透過試験により計測された圧力損失ΔPに対し、±5%の範囲内に収まっていることが理解できる。したがって、粒子群が3つであり、かつ、粒子充填層の高さHが10mmのオーダであっても、粒子充填層を流体が透過するときの圧力損失ΔPを精度良く推定できることが理解できる。
【0063】
なお、参考までに、流体透過試験を行う流体透過試験機2の詳細について図6を参照しつつ説明する。図6は、流体透過試験機2の概略構成を示している。図示のように、流体透過試験機2は、充填塔11、ポンプ12、圧力計13、制御装置14、流量計15、およびバグフィルタ16を備える構成である。
【0064】
充填塔11は、断面が正方形の筒状であり、略鉛直方向に立設している。充填塔11内の中央から稍下方には分散板20が設けられ、分散板20の上には粒子充填層21が配置される。分散板20は、粉体が下方へ落下することを防止する一方で、圧縮乾燥空気を下方に透過させるものである。分散板20には、例えば、多孔板や網が利用される。
【0065】
また、充填塔11内における分散板20の下方と粒子充填層21の上方とには、空気圧を検知して電気信号に変換する感圧素子22・23がそれぞれ設けられている。感圧素子22・23は、変換した電気信号を外部の圧力計13に出力する。
【0066】
なお、充填塔11としては、乾燥空気を粉体に通して粉体を乾燥させる乾燥装置や気相で粉体を触媒と反応させる反応装置、気液または固液を分離する濾過装置などを流用することができる。
【0067】
ポンプ12は、充填塔11に乾燥した圧縮空気(以下、「乾燥圧縮空気」と略称する。)を供給するものである。ポンプからの乾燥圧縮空気は、流量計15を介して、充填塔11の上端から内部に供給される。流量計15は、ポンプからの圧縮乾燥空気の流量を測定するものである。流量計15から流体の空塔速度uを求めることができる。
【0068】
圧力計13は、充填塔11内に設けられた感圧素子22・23からの電気信号に基づいて、粒子充填層21の下方の空気圧に対する分散板20の上方の空気圧の差圧を求めるものである。すなわち、この差圧は、粒子充填層21を透過する前の空気と、粒子充填層21を透過した後の空気との圧力損失ΔPとなる。
【0069】
制御装置14は、流体透過試験機2内の各種構成を統括的に制御するものである。バグフィルタ16は、充填塔11から排出される空気の流路に設けられており、充填塔11から排出される空気に含まれる粉体を、フィルタバッグを用いて濾過収集するものであり、粉体が外部に漏れることを防止するものである。
【0070】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0071】
例えば、上記実施例では、3つの粒子群を混合して粒子充填層を形成しているが、2つの粒子群を混合してもよいし、4つ以上の粒子群を混合してもよい。
【0072】
また、図1および図2に示される各処理は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにコンピュータ上でソフトウェアによって実現してもよい。
【0073】
すなわち、コンピュータは、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、図1および図2に示される各処理を実現するソフトウェアである制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータに供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0074】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0075】
また、上記コンピュータを通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された搬送波あるいはデータ信号列の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、複数の粒子群を混合して成る粒子充填層の圧力損失ΔPを精度良く推定できるので、固液を分離する濾過装置、集塵のためのバグフィルタ、触媒粒子層にガスを通して反応させる触媒反応装置、および、湿った粉体を通気乾燥させる粉体乾燥装置などの設計に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態である圧力損失推定方法の処理を示すフローチャートである。
【図2】上記圧力損失推定方法において、粒子充填層を構成する粒子群を決定し、決定した各粒子群の幾何標準偏差、幾何平均径、および動力学的形状係数を取得する処理の詳細を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施例および比較例において使用した粒子群と、各粒子群の平均粒径、空隙率、および粒子充填層の高さとを表形式で示す図である。
【図4】複数の上記粒子群を混合して成る粒子充填層に関して、上記実施例として、上記圧力損失推定方法により求めた圧力損失の算出値と、上記比較例として、流体透過試験により求めた計測値とを表形式で示す図である。
【図5】上記算出値と上記計測値との関係を示すグラフである。
【図6】上記流体透過試験を行う流体透過試験装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0078】
ΔP 圧力損失
μ 流体の粘度
u 流体の見かけ速度
H 粒子充填層の高さ
ε 粒子充填層の空隙率
粒子充填層の所定体積中に存在する第i粒子群の粒子数
第i粒子群における粒径分布の幾何平均径
σ 第i粒子群における粒径分布の幾何標準偏差
κ 第i粒子群における粒子の動力学的形状係数
粒子充填層の所定体積中に存在する全粒子数
v(ε) 空隙率関数
粒子充填層の所定体積中に存在する第i粒子群の粒子の全質量
ρ 第i粒子群の粒子密度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子群を複数混合して成る粒子充填層に関して、該粒子充填層を透過する流体の圧力損失ΔPを推定する圧力損失推定方法であって、
前記粒子群は、粒子の形状が略同じであり、粒径分布が対数正規分布に従う粒子からなるものであり、
前記流体に関する粘度μおよび見かけ速度uを取得する流体特性取得ステップと、
前記粒子充填層に関する高さHおよび空隙率εを取得する粒子充填層特性取得ステップと、
第i番目(但し、i=1〜N、Nは2以上の整数)の粒子群に関して、前記粒子充填層の所定体積中に存在する粒子数n、前記粒径分布の幾何平均径dおよび幾何標準偏差σ、ならびに動力学的形状係数κを取得し、これを全ての粒子群に関して行う粒子群特性取得ステップと、
取得した数値を、式
(ΔP/(μ×u×H))×R=18×v(ε)×(1−ε)/ε
(但し、v(ε)は空隙率関数であり、Rは
【数1】

であり、nは、前記粒子充填層の所定体積中に存在する全粒子数である。)、
に代入することにより、圧力損失ΔPを算出する圧力損失算出ステップとを含むことを特徴とする圧力損失推定方法。
【請求項2】
前記粒子群特性取得ステップにて、或る粒子群における粒子の形状が非球形である場合、前記粒子群に関して、前記粒径分布の幾何平均径dは、等体積球相当径で粒径分布を求めたときの幾何平均径であることを特徴とする請求項1に記載の圧力損失推定方法。
【請求項3】
前記圧力損失算出ステップにおける空隙率関数v(ε)は、
v(ε)=10×(1−ε)/ε
であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力損失推定方法。
【請求項4】
前記粒子群特性取得ステップにて、前記粒子充填層の所定体積中に存在する粒子数nは、第i番目の粒子群に関して、前記粒子充填層の所定体積中に存在する前記粒子群の粒子の全質量mと、前記粒子群の粒子密度ρとを取得し、取得した数値を式、
=(m/ρ)/((π/6)×d)、
に代入することにより求めることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の圧力損失推定方法。
【請求項5】
前記粒子群特性取得ステップの前に、或る粒子群に関して、粒子の形状が異なる場合には、前記粒子群を、前記形状に基づいて複数の粒子群に分離する粒子群分離ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の圧力損失推定方法。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか1項に記載の圧力損失推定方法における各ステップをコンピュータに実行させるための圧力損失推定プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の圧力損失推定プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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