説明

圧力検出マット及び褥瘡防止システム

【課題】 マットに掛かる圧力値を精細に検出し、さらに患者自体に掛かる圧力を検出する。
【解決手段】 複数の通信モジュールが散在された層と、該複数の通信モジュールの各々を電気的に接続させる複数の導電層と、該複数の通信モジュールが散在された層及び該導電層を挟むように積層された少なくとも2つの絶縁層と、いずれかの層内に2次元的に配列され、それぞれが該複数の通信モジュールの各々と通信可能な複数の圧力センサから成る2次元拡散信号伝送テクノロジを利用したマットを形成し、該圧力センサが配列された圧力センサ層より重力方向に位置し、当該マットの載置面を有した層を含んだ少なくとも1層の下側層の剛性を、該圧力センサ層を挟んで該下側層と反対側に積層された上側層の剛性よりも高くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2次元拡散信号伝送テクノロジを用いた圧力検出マット、及び該圧力検出マットを備えた褥瘡防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流動体が封入されたチャンバーであって、マット内のある層に配置されたチャンバーの内圧を適切な値に保つことによって、患者に快適な寝心地又は座り心地或いはもたれ心地を提供する流体圧利用マット装置が知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−76317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に示されたような流体圧利用マット装置では、各種電気素子(例えば圧力検知用センサ)の配線の複雑化を避ける為に多数のチャンバー及び各チャンバーに内在される多数の圧力検知用センサを配置することができない。この為、患者の体表面に対して1つのチャンバーが占める面積が大きくなり、精細に圧力値を検出できなかった。
【0004】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、マットに掛かる圧力値を精細に検出することができる圧力検出マット、及び該圧力検出マットを利用した褥瘡防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する本発明の一態様に係る圧力検出マットは、2次元拡散信号伝送テクノロジを用いたマットであり、複数の通信モジュールが散在された層と、該複数の通信モジュールの各々を電気的に接続させる複数の導電層と、該通信モジュールが散在された層及び該導電層を挟むように積層された少なくとも2つの絶縁層と、いずれか1つの層内に2次元的に配列され、それぞれが該複数の通信モジュールの各々と通信可能な複数の圧力センサを備えており、該圧力センサが配列された圧力センサ層より重力方向に位置し、当該マットの載置面を有した層を含んだ少なくとも1層の下側層の剛性が、該圧力センサ層を挟んで該下側層と反対側に積層された上側層の剛性よりも高くされたものである。なお、該少なくとも2つの絶縁層の中で、該複数の圧力センサが配置された層より重力方向に配置された絶縁層の剛性が他の層の剛性よりも高くされたものであっても良い。
【0006】
なお、上記圧力検出マットでは、通信モジュールは、自身と通信可能な圧力センサの出力信号値が所定の条件を満たすとき、当該信号出力値が異常値である旨を警告する為の警告信号及び自身のID情報を外部機器に向けて送信することができる。ここでいう所定の条件には、例えば出力信号値が第1の閾値以上であることが少なくとも含まれている。また、例えば第1のタイミング毎に検出される出力信号値の加算値であって、該第1のタイミングより長い第2のタイミング内における加算値が第2の閾値以上であることが少なくとも含まれている。また、例えば隣接した圧力センサの出力信号値の差が第3の閾値以上であることが少なくとも含まれている。
【0007】
また、上記の課題を解決する本発明の一態様に係る褥瘡防止システムは、上述した圧力検出マットのいずれかと、複数の通信モジュールの各々と通信可能な制御手段と、該制御手段と接続され、該圧力検出マットに掛かる圧力の異常を警告可能な警告手段とを備えている。この制御手段は、受信した警告信号に応じて該警告手段による異常警告を行う。
【0008】
また、上記の課題を解決する本発明の別の態様に係る褥瘡防止システムは、上述した圧力検出マットであって、複数の通信モジュールの各々が自身と通信可能な圧力センサの出力信号を第1のタイミング毎に外部機器に向けて送信する圧力検出マットと、該圧力検出マットと通信可能な外部機器である制御手段と、該制御手段と接続され、該圧力検出マットに掛かる圧力の異常を警告可能な警告手段とを備えている。この制御手段は、受信した該出力信号値に応じて該警告手段による異常警告を行う。
【0009】
なお、上記褥瘡防止システムにおいて、制御手段は、受信した出力信号値が第1の閾値以上であるとき、警告手段による異常警告を行うことができる。
【0010】
また、上記褥瘡防止システムにおいて、通信モジュールは、さらに自身のID情報を制御手段に送信することができる。この場合、制御手段は、第1のタイミング毎に受信した出力信号値の加算値であって、該第1のタイミングより長い第2のタイミング内における加算値が第1の閾値より高い第2の閾値以上であるとき、警告手段による異常警告を行うことができる。また、隣接した圧力センサから受信した出力信号値の差が第3の閾値以上であるとき、警告手段による異常警告を行うことができる。なお、第3の閾値は第1の閾値より低い値であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧力検出マット及び褥瘡防止システムを採用すると、マット内に多数の圧力センサを配置できる為、当該マットに掛かる圧力値を精細に検出できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態の褥瘡防止システムは、本発明の特徴部分である圧力検出マットを備えたものである。この圧力検出マットは、患者の体圧と等価関係にある圧力を直接検出するものである。また、その内部に、有線ケーブルや銅箔のパターンを用いる必要のない、マット上の各点に掛かる圧力を取得する為の回路が実装されたものであり、より高密度な圧力センサの実装、圧力センサの配置の自由度、精細な圧力分布の取得、及び高S/N比の圧力値の信号の取得などを実現するものである。以下に、図面を参照して、本実施形態の褥瘡防止システムの構成及び作用について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態の褥瘡防止システム10の構成を概略的に示した図である。本実施形態では、褥瘡防止システム10を利用して患者1の体圧と等価関係にある圧力値を取得し、その取得結果に応じて、当該患者1の褥瘡を防止する為の警告処理を行っている。
【0014】
この褥瘡防止システム10は、患者1が横たわる圧力検出マット200と、これに備えられ、統括的な制御を行う制御ユニット220及び上記圧力値を取得する為の複数の通信モジュール230と、圧力検出マット200により取得された圧力値が異常値である旨を周囲に警告することができるモニタ300から構成されている。制御ユニット220は圧力検出マット200の四隅のうちの1つに配置されており、複数の通信モジュール230の各々は圧力検出マット200内の所定の平面上に図1の如くマトリクス状に配置されている。なお、制御ユニット220の位置は、圧力検出マット200の四隅に限らず、例えば当該圧力検出マット200のいずれか1辺の中央付近であっても良い。
【0015】
図2は、圧力検出マット200の断層構造を示した図である。圧力検出マット200は、2次元拡散信号伝送テクノロジ(株式会社セルクロス、[平成16年3月検索]、インターネット、〈http://www.utri.co.jp/venture/venture2.html〉参照)を用いた基板、或いは特開2003−188882号公報で開示されている通信装置(すなわち、2つの導電層間に複数のチップを散在させて絶縁層を形成し、これらの導電層を利用して該絶縁層の近接したチップ間を接続させ、所望のデータを目的地に向けてパケットで送信する装置)の構成を一部利用したものであり、2つの導電層212、214、及びこれらの導電層と外部とを絶縁する為の絶縁層216、218の計4つの層が積層され、さらに導電層212と214との間に複数の通信モジュール230が図1の如く散在された絶縁層を有したものである。なお、本実施形態では絶縁層に通信モジュールを散在させているが、別の実施形態では他の層(高抵抗層や誘導層)に通信モジュールを散在させても良い。
【0016】
2つの導電層212及び214は、柔軟性及び導電性を有した層であり、圧力検出マット200の略全領域にわたって延在し且つ患者1が図1の如く充分に横たわれる程度の大きさを有したものである。これらの層は例えば導電ゴム又は導電体が織り込まれた布或いはメッシュ状の金属板などから成る。導電層212と214とは、その間に介在された通信モジュール230や図示しない絶縁層などによって、互いの間に所定の間隔が空くように配置されている。この為、導電層212と214は、互いに絶縁された状態で積層されている。また、導電層212は、導電層214より患者1に近接して配置された層である。すなわち、導電層212は圧力検出マット200の上側(つまり患者1が横たわる面側)に配置された層であり、導電層214は圧力検出マット200の下側(つまりベッドや床などと接触する面側)に配置された層である。
【0017】
絶縁層216は、柔軟性及び絶縁性を有した層であり、圧力検出マット200の略全領域にわたって延在し且つ患者1が図1の如く充分に横たわれる程度の大きさを有したものである。また、導電層212の上側に積層されたものであり、例えば絶縁ゴム又は絶縁性を有した比較的厚手の生地などから成る。この絶縁層216は患者1に直接触れる層である為、患者1の寝心地を優先させたい場合は当該層をより柔軟な素材で形成するとよい。
【0018】
絶縁層218は、絶縁層216と比較して高い剛性及び絶縁性を有した層であり、導電層214の下側に積層され、圧力検出マット200の略全領域にわたって延在し且つ患者1が図1の如く充分に横たわれる程度の大きさを有したものである。
【0019】
ここで、図26に各層の剛性について説明する。なお、図26では、図面の簡略化の為、絶縁層216及び218並びに通信モジュール230及び圧力センサ234が散在された絶縁層を1層で示している。
【0020】
図26(a)は、絶縁層216と218との剛性が同一である圧力検出マットの断面を示した断面図である。このような圧力検出マットを例えばベッド400等の弾性変形し易い場所に載置した場合、絶縁層216と218との剛性が同一である為、これらの絶縁層は同様に変形する。従って、絶縁層216と218との間(すなわち圧力センサ234)に掛かるべき圧力が主にベッド400に掛かってしまう。このような圧力検出マットに埋設された圧力センサ234では、体圧値を高感度に検出できない。
【0021】
図26(b)は、絶縁層218の剛性が絶縁層216の剛性より高い圧力検出マットの断面を示した断面図である。このような圧力検出マットを例えばベッド400等の弾性変形し易い場所に載置した場合、互いの絶縁層の剛性が異なる為、圧力センサ234上方と下方とにおいて圧力検出マットに加えられた圧力に応じた圧力差が生じる。従って、図26(a)の場合よりも体圧値を高感度に検出できる。なお、圧力センサ234が埋設された導電層212より重力方向に位置する層の剛性を導電層212より上側に位置する層の剛性より高くすると、圧力センサ234によって検出される圧力値が高くなる為、検出感度が向上する。この為、最下層である絶縁層218は、最上層である絶縁層216よりも剛性の高い材料で形成されている。本明細書中に示した図28の圧力検出マット200Hを除く全ての実施例の圧力検出マットは、このような剛性特性を有している。また、上述の絶縁層の場合と同様の理由により、導電層212より下側に位置する導電層214の剛性を導電層212の剛性より高くすることは好ましい。
【0022】
絶縁層216及び絶縁層218の作用により、導電層212又は導電層214に電流が流れた場合であっても、当該導電層212又は導電層214と外部(例えば患者1の体の表面)との絶縁性は保たれる。
【0023】
次に、通信モジュール230の構成及び作用について説明する。通信モジュール230の主たる機能は、患者1の体圧値の取得、取得した体圧値に関する判定処理と、その判定処理に基づいた体圧値の異常を警告する為の警告信号の生成及び伝達(ここでは制御ユニット220への警告信号の伝達)である。
【0024】
図3は、上述した通信モジュール230の構成を示したブロック図である。通信モジュール230は、当該モジュール全体の制御を司る制御部232と、患者1の体圧を測定する為の圧力センサ234(例えば周知のダイヤフラム型や半導体式圧力センサ)と、当該モジュールのID情報や圧力値情報等を含む各種データが記憶されるメモリ236と、2次元拡散信号伝送テクノロジを利用した信号伝達を行う為の通信部238から構成されている。
【0025】
ここで、図2に示されたように導電層212には、通信モジュール230(より正確には圧力センサ234)と患者1との密着性を高める為の開口部212aが形成されている。圧力センサ234は、この開口部212aに埋設されたように配置されている。この開口部212aの作用により圧力センサ234と患者1との密着性が高まる為、当該圧力センサ234の感度が向上する。
【0026】
なお、本実施形態の圧力検出マット200に含まれた全ての圧力センサ234は、導電層212内の平面上であって、各層と平行な所定の平面上にマトリクス状に配置されている。この為、患者1と接触する絶縁層216の上面とそれぞれの圧力センサ234との積層方向における距離は全て同一距離となる。従って絶縁層216上面の全領域に均一な圧力が加えられた場合、それぞれの圧力センサ234は、全て同一の圧力値を検出する。
【0027】
また、上述したように圧力検出マット200の底部である絶縁層218の剛性を高くしてその底部が変形し難いように圧力検出マット200を構成すると、当該マット200の撓みに起因した圧力センサ234の各々の間における変位が起こり難くなる。すなわち上面の絶縁層216は加えられた圧力によって変形して当該圧力を各圧力センサ234に伝達するが、下面の絶縁層218は、剛性が高く圧力センサ234の位置を保持できる為、当該圧力値を高いS/N比で検出することができる。
【0028】
また、本実施形態の通信モジュール230は、図2の如く開口部212aにおいてのみ露出され、それ以外の全ての部分は導電層212及び導電層214によって覆われている。従って導電層212及び導電層214は、圧力検出マット200の周囲に配置されている外部機器から通信モジュール230に向かって進行している電波を、開口部212a以外の領域において遮断し或いは減衰させ、当該モジュール230に不要なノイズを受信させない(別の観点では、通信モジュール230が周囲に発するノイズを遮断或いは減衰させる)。この為、圧力センサ234は、高S/N比の体圧値の検出信号を取得できる。
【0029】
なお、圧力センサ234も搭載していない通信モジュール(すなわち制御部232とメモリ236と通信部238のみを備えた通信モジュール)があってもよい。このような通信モジュールは、上述の2次元拡散信号伝送テクノロジを利用して信号を目的地(ここでは制御ユニット220)に向けてパケットで送信する際の中継地点として機能する。なお、圧力センサ234を搭載した通信モジュール230が2次元拡散信号伝送テクノロジを利用した信号伝達の中継地点として機能することは言うまでもない。
【0030】
圧力センサ234を搭載していない中継地点としての通信モジュールは、圧力センサ234を搭載した通信モジュール230よりも低コストで製造できる。また、このような通信モジュールを配置する場合には、圧力センサ234を搭載した通信モジュール230と異なり、導電層212に開口部212aを形成する必要がない。この為、このような通信モジュールを、圧力検出マット200に数多く配置しても比較的コストは上昇しない。
【0031】
上述の如き中継地点としての通信モジュールを多数配置することは、上述の2次元拡散信号伝送テクノロジを採用した回路の耐久性(別の言い方をすると信号伝達の確実性)を高めることに繋がる。例えば通信モジュールの数は各種信号の伝達経路の選択肢の数と比例関係にある。従って、通信モジュールが幾つか故障して上記選択肢が減少した場合であっても、通信モジュールの多数配置は当該選択肢の絶対数を増加させている為、より確実に警告信号を制御ユニット220に伝達させることができるようになる。またさらに、上記選択肢の増加は短距離と成り得る伝達経路の増加に繋がる為、より迅速に当該警告信号を制御ユニット220に伝達させることが可能となる。
【0032】
なお、本実施形態では圧力センサ234(別の言い方をすると通信モジュール230)を所定の平面上にマトリクス状に配置しているが、別の実施形態では、患者1と接触する可能性が比較的高い領域であって、圧力検出マット200の中央部の領域に集中的に圧力センサ234を配置してもよい。このように圧力センサ234を配置することによって、これらで検出される体圧値の数は増加される傾向にある為、より精細な体圧検出が可能となる。
【0033】
図4は、本実施形態の通信モジュール230の制御部232が行う処理であって、圧力センサ234により検出される患者1の体圧値が異常値であるか否かを判定する体圧値判定処理を示したフローチャートである。以下に、この図4を参照して、本実施形態の体圧値判定処理について説明する。なお、以下に記載された説明は1つの通信モジュール230で実行される処理に関するものであるが、この体圧値判定処理は全ての通信モジュール230で実行される。
【0034】
制御ユニット220の電源(後述)がオンされると通信モジュール230に駆動電圧が供給され、制御部232は、メモリ236のアドレスMi(i=0、1、2・・・、a、b)に記憶された値を0に設定する(ステップ1、以下、ステップを「S」と略記)。そして駆動電圧が供給されているか否か(すなわち制御ユニット220の電源がオフか否か)をチェックする(S2)。ここで、制御ユニット220の電源がオフの場合(S2:YES)、本処理は終了する。また、制御ユニット220の電源がオンの場合(S2:NO)、本処理はS3の処理に進む。
【0035】
制御部232は、S3の処理でアドレスMiに関連付けられたカウンタiを0に設定した後、圧力センサ234が検出した患者1の体圧値pを取得する(S4)。そしてこの体圧値pをメモリ236のアドレスMiに格納する(S5)。例えば、最初に取得した体圧値pは、カウンタi=0である為、アドレスM0に格納される。
【0036】
制御部232は、次に、S5の処理で格納した体圧値pが第1の閾値以上であるか否かを判定する(S6)。ここで、体圧値pが第1の閾値以上であると判定した場合(S6:YES)、圧力検出マット200の少なくとも一部に極めて高い圧力が加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部232は、褥瘡を警告する為の警告信号を生成し、メモリ236に記憶されたID情報と共に当該警告信号を制御ユニット220に向けて信号を出力する(S9)。ここで出力された警告信号は、2次元拡散信号伝送テクノロジによって、複数の通信モジュール230の各々に備えられた通信部238間を連鎖的に伝達されていき、制御ユニット220に到達する。また、体圧値pが第1の閾値より低いと判定した場合(S6:NO)、圧力検出マット200に高い圧力が加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部232は、警告信号を生成することなくS7の処理に進む。
【0037】
制御部232は、S7の処理でアドレスM0〜Mbに記憶された体圧値の加算値ptotalを算出し、その値が第2の閾値以上であるか否かを判定する(S8)。ここで、加算値ptotalが第2の閾値以上であると判定した場合(S8:YES)、後述するように圧力検出マット200の少なくとも一部に比較的高い圧力が持続的に加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部232は、警告信号を生成し、当該警告信号をID情報と共に制御ユニット220に向けて信号を出力する(S9)。また、加算値ptotalが第2の閾値より低いと判定した場合(S8:NO)、圧力検出マット200に比較的高い圧力が持続的に加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部232は、警告信号を生成することなくS10の処理に進む。なお、この処理で使用される第2の閾値は、第1の閾値より高い。
【0038】
制御部232は、S10の処理で所定時間T待機した後、カウンタiを1インクリメントする(S11)。そして現在設定されているカウンタiがbであるか否かをチェックする(S12)。ここで、カウンタiがbであるとき(S12:YES)、体圧値pを格納する為のメモリが全て使用された為、制御部232は、S2の処理に戻り、再び本処理を実行する。また、カウンタiがbでないとき(S12:NO)、体圧値pを格納する為のメモリに空きがある為、制御部232は、S4の処理に戻り、再び体圧値pを取得して上述の処理を繰り返す。
【0039】
なお、S4〜S12の処理は、第1のタイミング毎(実質的に所定時間T毎)に繰り返して実行される。従って制御部232は、第1のタイミング毎に体圧値pを取得する。ここで、僅かな時間であっても極めて高い圧力負荷が掛かると患者1に非常に負担(褥瘡を含んだ様々な負担)を与えてしまう。制御部232は、体圧値pを利用した判定処理によって、上記負担が患者1に掛かることを防止している。
【0040】
また、加算値ptotalは、第1のタイミングより長い第2のタイミング内(この実施形態では、所定時間Tと、2〜(b+1)のいずれかとの積)で取得される。ここで、第1の閾値を下回る圧力であっても比較的高い圧力が持続的に患者1に負荷されると、患者1に褥瘡ができる可能性がある。制御部232は、加算値ptotalを利用した判定処理によって、患者1の褥瘡の可能性を警告している。
【0041】
次に、別の実施形態の通信モジュール230の制御部232が行う体圧値判定処理について説明する。
【0042】
図5は、別の実施形態の体圧値判定処理を示したフローチャートである。以下に、この図5を参照して、別の本実施形態の体圧値判定処理について説明する。なお、以下に記載された説明は前述した体圧値判定処理と同様に1つの通信モジュール230で実行される処理に関するものであるが、この体圧値判定処理が全ての通信モジュール230で実行されることは言うまでもない。
【0043】
制御ユニット220の電源がオンされると通信モジュール230に駆動電圧が供給され、制御部232は、先ず、駆動電圧が供給されているか否か(すなわち制御ユニット220の電源がオフか否か)をチェックする(S21)。ここで、制御ユニット220の電源がオフの場合(S21:YES)、本処理は終了する。また、制御ユニット220の電源がオンの場合(S21:NO)、本処理はS22の処理に進む。
【0044】
ここで、通信モジュール230は、制御ユニット220に送信するID情報とは別に、自身及び隣接した通信モジュール230にローカルアドレスを便宜上割り当て、そのローカルアドレスと名称が一致したメモリ236のアドレスの各々に、各通信モジュール230による体圧値pを格納させるようにしている。
【0045】
図6は、上記ローカルアドレスと各通信モジュール230との関係を説明する為の説明図である。なお、図6の中心の斜線で示された通信モジュール230は、この説明におけるフローチャートの処理を実行しているものであり、便宜上、通信モジュール230aとする。また、点模様で示された8つの通信モジュール230は、通信モジュール230aと隣接したものであり、便宜上、隣接通信モジュール230bとする。通信モジュール230aは、自身のローカルアドレスを(0、0)とし、8つの隣接通信モジュール230bの各々のローカルアドレスを、図6に示したように、(−1、1)、(0、1)、(1、1)、(−1、0)、(1、0)、(−1、−1)、(0、−1)、及び(1、−1)としている。
【0046】
S22の処理において、制御部232は、上記9つのローカルアドレスの各々と名称の一致したメモリ236のアドレスM(i、j)の各々(ただし、i=−1〜1、j=−1〜1)に記憶された値を0に設定し、圧力センサ234が検出した患者1の体圧値pを取得する(S23)。そしてこの体圧値pを、自身のローカルアドレスと関連付けられたメモリ236のアドレスM(0、0)に格納する(S24)。さらに、ローカルアドレスを割り当てた8つの隣接通信モジュール230bの各々に、取得した体圧値pを要求する信号を送信する(S25)。各隣接通信モジュール230bはこの要求信号に応じて通信モジュール230aに体圧値pを送信する。通信モジュール230aは、各隣接通信モジュール230bの体圧値pを受け取り(S26)、これらの体圧値pを、各隣接通信モジュール230bのローカルアドレスと関連付けられたメモリ236のそれぞれのアドレスM(−1、1)、M(0、1)、M(1、1)、M(−1、0)、M(1、0)、M(−1、−1)、M(0、−1)、及びM(1、−1)に格納する(S27)。
【0047】
制御部232は、次に、8つの体圧値pの各々と、自身の圧力センサ234が検出した患者1の体圧値pとの圧力差prを算出する(S28)。具体的には、圧力差prは、アドレスM(0、0)を除くアドレスM(i、j)に格納された体圧値pの各々(ただし、i=−1〜1、j=−1〜1)と、アドレスM(0、0)との差の絶対値で表される。
【0048】
そして制御部232は、8つの圧力差prの少なくとも1つが第3の閾値以上であるか否かを判定する(S29)。ここで、8つの圧力差prの少なくとも1つが第3の閾値以上であると判定した場合(S29:YES)、圧力検出マット200に高い圧力が局部的に加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部232は、警告信号を生成し、当該警告信号をメモリ236に記憶されたID情報と共に制御ユニット220に向けて信号を出力する(S30)。また、8つの圧力差prの全てが第3の閾値より低いと判定した場合(S29:NO)、圧力検出マット200に高い圧力が加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部232は、警告信号を生成することなくS31の処理に進み、所定時間T待機した後、S21の処理に戻り、このフローチャートの処理を続行する。
【0049】
なお、患者1のある部位に局部的に集中した圧力負荷が掛かっている場合、その圧力負荷が患者1に負担を与え得る第1の閾値より低いものであっても当該患者1に褥瘡ができる可能性がある。従って、第3の閾値は、上述のS6の処理で用いられた第1の閾値より小さい値に設定されている。制御部232は、隣接通信モジュール230bとの圧力差prを利用した判定処理によって、患者1の褥瘡の可能性を警告している。
【0050】
次に、圧力検出マット200の統括的な制御を行う制御ユニット220の構成及び作用について説明する。制御ユニット220の主たる機能は、圧力検出マット200の統括的な制御と、通信モジュール230から受信した警告信号をモニタ300で表示できるように処理することである。
【0051】
図7は、制御ユニット220の構成を示したブロック図である。制御ユニット220は、圧力検出マット200の統括的な制御を行う制御部221と、圧力検出マット200全体の電源として機能する電源222と、導電層212や214を介して各通信モジュール230と通信する為の通信部223と、各種制御用プログラムや取得した警告信号を含む各種データが記憶されるメモリ224と、取得した警告信号をモニタ300で表示できるよう処理を加える信号処理部225と、外部機器との接続及び当該外部機器への警告信号の出力をする為のインターフェイス部226(ここでは制御ユニット220とモニタ300とを接続している)から構成されている。各通信モジュールにおいて取得された警告信号は、この制御ユニット220によって処理され、モニタ300に表示される。
【0052】
図8は、本実施形態の制御ユニット220(より正確には制御部221)による、取得した警告信号をモニタ300で表示できるよう処理する警告信号変換処理を示したフローチャートである。以下に、この図8を参照して、本実施形態の警告信号変換処理について説明する。
【0053】
制御ユニット220の図示しない電源スイッチがオンされると、電源222は、制御ユニット220に電力を供給して当該制御ユニット220を駆動させる。制御部221は、上述の2次元拡散信号伝送テクノロジを用いることにより各通信モジュール230と通信が可能となる。そして上記電源スイッチがオフされているか否かをチェックする(S41)。電源スイッチがオフされている場合(S41:YES)、本処理は終了する。また、電源スイッチがオンされている場合(S41:NO)、本処理はS42の処理に進む。
【0054】
S42の処理では、制御部221は、通信モジュール230から警告信号を受信したか否かを判定する。ここで、通信モジュール230から警告信号を受信していないと判定した場合(S42:NO)、制御部221は、S41の処理に戻り、本処理を続行する。また、通信モジュール230から警告信号を受信したと判定した場合(S42:YES)、制御部221は、その警告信号を、信号処理部225に出力して当該信号処理部225によってモニタ300で表示できるように処理する(S43)。そしてS41の処理に戻り、本処理を続行する。
【0055】
信号処理部225で処理された警告信号は、インターフェイス部226を介してモニタ300に出力される。これにより、モニタ300に患者1の褥瘡を防止する為の警告が表示される。以下の図9〜図14に、モニタ300に表示される様々な警告の例を示す。
【0056】
図9に示された警告の例では、患者1に褥瘡ができる可能性のある圧力が圧力検出マット200に掛かっている期間(別の言い方をすると、警告信号を継続的に受信している期間)に応じて、モニタ300の画面に警告色302を表示させている。この警告色302には「赤」又は「黄」或いは「青」などがある。この例では、「赤」、「黄」、「青」の警告色302の順に、患者1に寝返りを打たせる必要性が高いことを示しており、前述の期間が、10分以上の場合には「赤」の警告色302がモニタ300の画面に表示され、5分以上10分未満の場合には「黄」の警告色302がモニタ300の画面に表示され、1分以上5分未満の場合には「青」の警告色302がモニタ300の画面に表示される。
【0057】
図10に示された警告の例では、モニタ300の画面には、「罰点」、「三角」、「丸」などの警告図形304が表示される。「罰点」は上記「赤」に相当し、「三角」は上記「黄」に相当し、「丸」は上記「青」に相当する。
【0058】
図11に示された警告の例では、モニタ300の画面には、「緊急」、「要注意」、「注意」などの警告文字306が表示される。「緊急」は上記「赤」に相当し、「要注意」は上記「黄」に相当し、「注意」は上記「青」に相当する。
【0059】
図12に示された警告の例では、モニタ300の画面には、色による警告と各色の警告の継続時間との関係を示した警告グラフ308が表示される。この警告グラフ308で使用されている各色は、この例では、「赤」、「黄」、「青」の順に、圧力検出マット200(別の観点では患者1のいずれかの部位)に掛かっている圧力が高いことを意味している。さらに警告グラフ308の各色の下部に示された時間は、各色の表示条件を満たした圧力負荷の継続時間を示している。この例では、「赤」の下部に表示された「00:40」は、「赤」の表示条件を満たすような極めて高い圧力負荷が圧力検出マット200に掛かっている継続時間(40秒間)を示している。また、「黄」の下部に表示された「05:00」は、「黄」の表示条件を満たすような圧力負荷であって、「赤」の表示条件を満たすほど高くない圧力負荷が圧力検出マット200に掛かっている継続時間(5分間)を示している。また、「青」の下部に表示された「10:00」は、「青」の表示条件を満たすような圧力負荷であって、「黄」の表示条件を満たすほど高くない圧力負荷が圧力検出マット200に掛かっている継続時間(10分間)を示している。
【0060】
図13に示された警告の例では、モニタ300の画面には、その画面右上に図11の警告グラフ308と同一の条件で色及び継続時間が表示される警告グラフ310が表示されており、その画面全体には圧力検出マット200全域における圧力分布312が表示されている。なお、圧力分布312の中に示した人型は、便宜上示したものであり、実際には表示されない。ただし、患者1と圧力分布312との位置関係を術者に把握させ易くする為に、図13に示したような人型をモニタ300に表示しても良い。
【0061】
図14に示された警告の例では、色による警告と経過時間との関係を示した警告グラフ320が表示される。警告グラフ320は、赤の警告グラフ322、黄の警告グラフ324、及び青の警告グラフ326を含んでいる。この警告グラフ320で使用されている各色は、図12の例と同様に、「赤」、「黄」、「青」の順に、圧力検出マット200に掛かっている圧力が高いことを意味している。矩形波で示された各色の警告グラフ320の横軸が経過時間となっており、波形が立ち上がっている期間は、各色の表示条件を満たした圧力負荷が圧力検出マット200に掛かっていることを示している。
【0062】
以上が本発明の実施形態である。本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく様々な範囲で変形が可能である。
【0063】
なお、本実施形態では通信モジュール230の各々が体圧値判定処理を行っていたが、別の実施形態では制御ユニット220が体圧値判定処理を行うこともできる。図15は、制御ユニット220による、さらに別の実施形態の体圧値判定処理を示したフローチャートである。以下に、この図15を参照して、さらに別の本実施形態の体圧値判定処理について説明する。なお、以下の説明において、前述されたものと同一のものには、同一の符号を付してここでの詳細な説明は省略する。
【0064】
制御ユニット220の図示しない電源スイッチがオンされると、電源222は、制御ユニット220に電力を供給して当該制御ユニット220を駆動させる。そして制御部221は、上述の2次元拡散信号伝送テクノロジを用いることにより各通信モジュール230と通信が可能となる。この実施形態では、各通信モジュール230は、各制御部232に記憶されたアルゴリズムにより自身のID情報を取得し、当該ID情報を制御ユニット220に送信する。
【0065】
制御部221は、これらのID情報を取得し(S51)、これらに基づいて各通信モジュール230を識別することができる。また、制御部221は、これらのID情報にローカルアドレスを関連付け、そのローカルアドレスと名称が一致したメモリ224のアドレスの各々に、各通信モジュール230による体圧値pを格納させるようにしている。
【0066】
図16は、メモリ224のアドレス構造を、本フローチャートの処理の説明を簡単にする為に概念的な構造で示した図である。体圧値pを格納する為に割り当てられたメモリ224のアドレスは、この図16では0〜cのローアドレス及び0〜bのカラムアドレスから成る(c+1)行(b+1)列のアドレスである。なお、これらのアドレスの各々は、さらに複数のセグメントSt(t=0〜a)に分割されており、(a+1)個の体圧値pを格納できるものとする。また、図16において、X方向をカラムアドレスの方向とし、Y方向をローアドレスの方向とする。
【0067】
各通信モジュール230のID情報に関する設定が終了すると、制御部221は、全てのアドレスM(i、j)(ただし、i=0〜b、j=0〜c)の全てのセグメントStに記憶された値を0に設定する(S52)。そして上記電源スイッチがオフされているか否かを判定する(S53)。電源スイッチがオフされている場合(S53:YES)、本処理は終了する。また、電源スイッチがオンされている場合(S53:NO)、本処理はS54の処理に進む。
【0068】
制御部221は、セグメントStに関連付けられたカウンタtを0に設定し(S54)、圧力検出マット200内の全ての通信モジュール230が検出した患者1の体圧値pを取得する(S55)。そしてこれらの体圧値pを、それぞれの通信モジュール230と関連付けられたアドレスM(i、j)の各々の1つのセグメントStに格納する(S56)。このとき体圧値pが格納されるセグメントStは、現在のカウンタtと関連付けられたセグメントである。例えばカウンタt=0の場合、各体圧値pは、それぞれに対応したアドレスM(i、j)のセグメントSに格納される。
【0069】
各セグメントStに体圧値pが格納されると、制御部221は、S70の積分的評価による体圧値判定処理を行う。図17は、S70の積分的評価による体圧値判定処理を示したフローチャートである。以下に、この図17を参照して、S70の処理について説明する。
【0070】
制御部221は、先ず、S56の処理で格納した体圧値pの各々が第1の閾値以上であるか否かを判定する(S71)。ここで、少なくとも1つの体圧値pが第1の閾値以上であると判定した場合(S71:YES)、圧力検出マット200の少なくとも一部に極めて高い圧力が加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部221は、警告処理を実行する為の警告用フラグを立て(S74)、図15のフローチャートのS80の処理に進む。また、全ての体圧値pが第1の閾値より低いと判定した場合(S71:NO)、圧力検出マット200に高い圧力が加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部221は、警告用フラグを立てることなくS72の処理に進む。
【0071】
制御部221は、各アドレス(i、j)内における加算値であって、セグメントS〜Saの各々に格納された体圧値pを加算した加算値ptotalの各々を算出し(S72)、それらの値の各々が第2の閾値以上であるか否かを判定する(S73)。ここで、少なくとも1つの加算値ptotalが第2の閾値以上であると判定した場合(S73:YES)、圧力検出マット200の少なくとも一部に比較的高い圧力が持続的に加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部221は、警告用フラグを立て(S74)、図15のフローチャートのS80の処理に進む。また、全ての加算値ptotalが第2の閾値より低いと判定した場合(S73:NO)、圧力検出マット200に比較的高い圧力が持続的に加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部221は、警告用フラグを立てることなく図15のフローチャートのS80の処理に進む。
【0072】
S80の処理は、図18に示される微分的評価による体圧値判定処理を示したフローチャートである。以下に、この図18を参照して、S80の微分的評価による体圧値判定処理について説明する。
【0073】
制御部221は、先ず、図16のX方向に隣接した2つのアドレスに関連付けられた2つの通信モジュール230で検出された体圧値pの差である圧力差prxを算出する(S81)。具体的には、圧力差prxは、アドレス(i、j)内の現在のカウンタtと関連したセグメントStに格納された体圧値pと、X方向に隣接したアドレス(i+1、j)内の現在のカウンタtと関連したセグメントStに格納された体圧値pとの差の絶対値で表される。なお、圧力差prxは、全てのアドレスに格納された体圧値pについて算出される。
【0074】
そして制御部221は、圧力差prxの各々が第3の閾値以上であるか否かを判定する(S82)。ここで、少なくとも1つの圧力差prxが第3の閾値以上であると判定した場合(S82:YES)、圧力検出マット200に高い圧力が局部的に加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部221は、警告用フラグを立て(S83)、S84の処理に進む。また、全ての圧力差prxが第3の閾値より低いと判定した場合(S82:NO)、圧力検出マット200に高い圧力が加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部221は、警告用フラグを立てることなくS84の処理に進む。
【0075】
制御部221は、次に、図16のY方向に隣接した2つのアドレスに関連付けられた2つの通信モジュール230で検出された体圧値pの差である圧力差pryを算出する(S84)。具体的には、圧力差pryは、アドレス(i、j)内の現在のカウンタtと関連したセグメントStに格納された体圧値pと、Y方向に隣接したアドレス(i、j+1)内の現在のカウンタtと関連したセグメントStに格納された体圧値pとの差の絶対値で表される。なお、圧力差pryは、全てのアドレスに格納された体圧値pについて算出される。
【0076】
そして制御部221は、圧力差pryの各々が第3の閾値以上であるか否かを判定する(S85)。ここで、少なくとも1つの圧力差pryが第3の閾値以上であると判定した場合(S85:YES)、圧力検出マット200に高い圧力が局部的に加えられている状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性がある為、制御部221は、警告用フラグを立て(S86)、図15のフローチャートのS57の処理に進む。また、全ての圧力差pryが第3の閾値より低いと判定した場合(S85:NO)、圧力検出マット200に高い圧力が加えられていない状態であり、患者1に褥瘡ができる可能性が低い為、制御部221は、警告用フラグを立てることなく図15のフローチャートのS57の処理に進む。
【0077】
図15のフローチャートのS57の処理において、制御部221は、警告用フラグが立てられているか否かをチェックする。ここで、警告用フラグが立てられていると判定した場合(S57:YES)、制御部221は、モニタ300において警告を表示させる為の信号を信号処理部225に出力して当該信号処理部225によりモニタ300で表示できるように処理させる(S58)。信号処理部225で処理された信号は、インターフェイス部226を介してモニタ300に出力される。これにより、モニタ300に患者1の褥瘡を防止する為の警告が表示される。また、警告用フラグが立てられていないと判定した場合(S57:NO)、制御部221は、カウンタtを1インクリメントし(S59)、S60の処理に進む。
【0078】
S60の処理において、制御部221は、現在設定されているカウンタTがaであるか否かをチェックする(S60)。ここで、カウンタTがaであるとき(S60:YES)、体圧値pを格納する為の全てのセグメントStが使用された為、制御部232は、S53の処理に戻り、再び本処理を実行する。また、カウンタTがaでないとき(S60:NO)、体圧値pを格納する為のセグメントStに空きがある為、制御部232は、S55の処理に戻り、再び圧力値pを取得して上述の処理を繰り返す。
【0079】
なお、S56〜S60の処理は、所定のタイミング毎(例えば上記第1のタイミング毎)に繰り返して実行される。従って制御部232は、所定のタイミング毎にそれぞれの体圧値pを取得している。また、加算値ptotalは、前記の所定のタイミングより長いタイミング内(例えば上記第2のタイミング内)で取得されている。
【0080】
本実施形態において各通信モジュールが行っていた体圧値判定処理を前述の実施形態の如く制御ユニット220が統括して行うと、各通信モジュール230のコストを安価にさせることができ、圧力検出マット200本体のコストが安価となる。
【0081】
また、圧力検出マット200は、本実施形態では図2に示した断面構造を有しているが、別の実施形態では患者1の寝心地をより快適にさせる為の断面構造を有している。図19は、別の実施形態の圧力検出マット200Aの断面構造を示した図である。図19を参照すると、圧力検出マット200Aは、本実施形態の圧力検出マット200の絶縁層216上にさらに柔軟な厚手の柔軟層217が積層されている。これにより、患者1の寝心地はより快適になる。なお、前記柔軟層217は取り外し可能としても良い。柔軟層217は、被験者と最も近い層のため、被験者により汚れる可能性が高い。また、取り外し可能なため、洗浄が可能となり清潔さを保つことができる。
【0082】
また、本実施形態では圧力センサ234と患者1との間に絶縁層216が介在している為、圧力センサ234で検出される圧力は、絶縁層216の弾性によって多少弱められている。すなわち絶縁層216によって圧力センサ234の感度は多少低下されている。これに対して図20に示した実施形態の圧力検出マット200Bでは、当該図面に示した断面図を参照すると、開口部212aと位置的に整合した開口部216aが絶縁層216に形成されており且つそこから圧力センサ234が圧力検出マット200上面に露出されている。この為、圧力センサ234は患者1と直接接触される。従って圧力センサ234は、その感度の低下がない状態(別の言い方をすると高S/N比)で患者1の体圧を検出できる。
【0083】
また、本実施形態では、導電層212に開口部212aを形成し、そこに圧力センサ234を埋設している。これに対する別の実施形態の圧力検出マット200Gでは、導電層212に開口部212aを形成しておらず、導電層212と導電層214との間に圧力センサ234を配置している(図27参照)。この場合、導電層212に開口部212aを形成する必要がない為、製造コストを抑えることができる。
【0084】
また、さらに別の実施形態として、圧力センサ234の上側に積層された層と下側に積層された層との剛性が実質的に等しい場合、図28に示した圧力検出マット200Hのように、絶縁層218の下側に、いずれの層よりも剛性の高いシートを積層しても良い。これにより、圧力センサ234上方と下方とにおける圧力検出マットに加えられた圧力に応じた圧力差が高くなり、体圧値を高感度で検出できるようになる。なお、前記剛性の高いシートは取り外し可能でも良い。
【0085】
また、さらに別の実施形態では流動体を封入した複数のチャンバーを有した層を圧力検出マット200に積層することもできる。図21から図24は、複数のチャンバーを有した層をさらに積層した各種形態の圧力検出マットの断層構造を示した図である。
【0086】
図21に示した圧力検出マット200Cは、絶縁層216の上に柔軟層252が積層されている。この柔軟層252には、それぞれの圧力センサ234と位置的に整合した複数のチャンバー254がマトリクス状に内在している。チャンバー254の内部には、空気、液体、或いはゲルなどの流動性を有した材料、又は弾性体が密封されている。患者1側からチャンバー254に対して圧力が加わると、その圧力は、チャンバー254が変形することによって当該チャンバー254の外側のあらゆる方向に分散される。この為、チャンバー254を覆った柔軟層252全面に分散された圧力が掛かり、患者1の自重による柔軟層252からの反作用の力は分散される。この為、患者1に対する局部的な圧力集中が軽減される。圧力検出マット200Cでは、患者1の寝心地はより快適になる。
【0087】
図22に示した圧力検出マット200Dは、圧力検出マット200Cの絶縁層216に、それぞれの圧力センサ234と位置的に整合した複数の開口部216aが絶縁層216に形成されている。この実施形態では、圧力センサ234とチャンバー254とが直接接触している為、圧力センサ234の感度(又はS/N比)が圧力検出マット200Cのものより高くなる。
【0088】
図23に示した圧力検出マット200Eは、圧力検出マット200Dの通信モジュール230の形状を変形させたものであり、圧力センサ234が絶縁層216上に配置されている。これにより圧力センサ234に対する設計の自由度が向上し、例えば圧力センサ234を大型化できる。圧力センサ234を大型化すると、当該圧力センサ234の感度(又はS/N比)が圧力検出マット200Dのものより高くなる。
【0089】
図24に示した圧力検出マット200Fは、絶縁層216に開口部が形成されていないものであり、本実施形態の通信モジュール230を、2次元拡散信号伝送テクノロジを用いた信号伝達を行う為の通信モジュール230Fと、圧力を検出する為の圧力センサモジュール234Fとに分割して配置したものである。この実施形態では、通信モジュール230Fは導電層212と導電層214との間に配置され、圧力センサモジュール234Fはチャンバー254内部に配置されている。
【0090】
図25は、通信モジュール230Fと圧力センサモジュール234Fの構成を示したブロック図である。通信モジュール230Fは、制御部232、メモリ236、通信部238に加えて、近接した外部機器と通信する為の微弱の電波を発信するアンテナ239を備えている。また、圧力センサモジュール234Fは、アンテナ239と同様に微弱な電波を発信するアンテナ234Fa、及び患者1の体圧を検出する為の圧力センサ部234Fbを備えている。この実施形態では、圧力センサ部234Fbが圧力を検出するとその検出信号をアンテナ234Faで発信し、発信された信号は、アンテナ239で受信され、制御部232で処理される。すなわちこの実施形態では、通信モジュール230Fと圧力センサモジュール234Fとが無線通信することにより、圧力検出マット200Fに掛かる圧力が検出されて処理される。このように通信モジュール230Fと圧力センサモジュール234Fとを分割すると、圧力検出マット200に対する圧力センサの実装が容易になる。また、絶縁層216に開口部が形成されていない為、チャンバー254の封止が容易になる。なお、通信モジュール230Fは、無線通信によって圧力センサモジュール234Fに電力供給を行うこともできる。
【0091】
また、本実施形態では制御ユニット220とモニタ300は有線で接続されている(図1参照)が、別の実施形態ではこれらを無線で接続させてもよい。また、さらに別の実施形態では、制御ユニット220にメモリカード用のスロットを設けてもよい。この場合、各通信モジュール230のID情報と関連付けられた警告信号や体圧値pをメモリカードに蓄積させることができる。
【0092】
また、本実施形態では表示手段であるモニタ300を用いて患者1の褥瘡の可能性を警告しているが、別の実施形態では警告音によって褥瘡の可能性を警告することもできる。この場合、信号処理部225によって警告信号等を音声出力信号に変換させ、その出力先である外部機器を「モニタ300」から「スピーカ」などの音再生手段に置き換えればよい。また、さらに別の実施形態では、このような表示手段をランプ(複数色のランプ、多色発光LED等)としても良い。
【0093】
また、本実施形態の圧力検出マット200は、直方体であるが、この形状に限定されるものではなく、例えば円筒形等の他の形状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施形態の褥瘡防止システムの構成を概略的に示した図である。
【図2】本発明の実施形態の圧力検出マットの断層構造を示した図である。
【図3】本発明の実施形態の通信モジュールの構成を示したブロック図である。
【図4】本発明の実施形態の通信モジュールによる体圧値判定処理を示したフローチャートである。
【図5】別の実施形態の通信モジュールによる体圧値判定処理を示したフローチャートである。
【図6】別の実施形態におけるローカルアドレスと各通信モジュールとの関係を説明する為の説明図である。
【図7】本発明の実施形態の制御ユニットの構成を示したブロック図である。
【図8】本発明の実施形態の制御ユニットによる警告信号変換処理を示したフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図10】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図11】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図12】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図13】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図14】本発明の実施形態のモニタに表示される警告の一態様を示した図である。
【図15】さらに別の実施形態の制御ユニットによる体圧値判定処理を示したフローチャートである。
【図16】さらに別の実施形態におけるメモリのアドレス構造を、図15のフローチャートの処理の説明を簡単にする為に概念的な構造で示した図である。
【図17】図15のS70の積分的評価による体圧値判定処理を示したフローチャートである。
【図18】図15のS80の微分的評価による体圧値判定処理を示したフローチャートである。
【図19】別の実施形態の圧力検出マットの断面構造を示した図である。
【図20】別の実施形態の圧力検出マットの断面構造を示した図である。
【図21】複数のチャンバーを有した層をさらに積層した圧力検出マットの断層構造の一態様を示した図である。
【図22】複数のチャンバーを有した層をさらに積層した圧力検出マットの断層構造の一態様を示した図である。
【図23】複数のチャンバーを有した層をさらに積層した圧力検出マットの断層構造の一態様を示した図である。
【図24】複数のチャンバーを有した層をさらに積層した圧力検出マットの断層構造の一態様を示した図である。
【図25】図24の圧力検出マットに備えられた通信モジュールと圧力センサモジュールの構成を示したブロック図である。
【図26】圧力検出マットの各層の剛性について説明する為の図である。
【図27】別の実施形態の圧力検出マットの断面構造を示した図である。
【図28】別の実施形態の圧力検出マットの断面構造を示した図である。
【符号の説明】
【0095】
10 褥瘡防止システム
200 圧力検出マット
220 制御ユニット
230 通信モジュール
234 圧力センサ
300 モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元拡散信号伝送テクノロジを用いた圧力検出マットであって、
複数の通信モジュールが散在された層と、
該複数の通信モジュールの各々を電気的に接続させる複数の導電層と、
該通信モジュールが散在された層及び該導電層を挟むように積層された、少なくとも2つの絶縁層と、
いずれか1つの層内に2次元的に配列され、それぞれが該複数の通信モジュールの各々と通信可能な複数の圧力センサと、を備え、
該圧力センサが配列された圧力センサ層より重力方向に位置し、当該マットの載置面を有した層を含んだ少なくとも1層の下側層の剛性を、該圧力センサ層を挟んで該下側層と反対側に積層された上側層の剛性よりも高くしたこと、を特徴とする圧力検出マット。
【請求項2】
前記少なくとも2つの絶縁層の中で、前記複数の圧力センサが配置された層より重力方向に配置された絶縁層の剛性を他層の剛性よりも高くしたこと、を特徴とする請求項1に記載の圧力検出マット。
【請求項3】
前記通信モジュールは、自身と通信可能な前記圧力センサの出力信号値が所定の条件を満たすとき、当該信号出力値が異常値である旨を警告する為の警告信号及び自身のID情報を外部機器に向けて送信すること、を特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の圧力検出マット。
【請求項4】
前記所定の条件が、前記出力信号値が第1の閾値以上であることを少なくとも含んだこと、を特徴とする請求項3に記載の圧力検出マット。
【請求項5】
前記所定の条件が、第1のタイミング毎に検出される前記出力信号値の加算値であって、該第1のタイミングより長い第2のタイミング内における加算値が第2の閾値以上であることを少なくとも含んだこと、を特徴とする請求項3または請求項4のいずれかに記載の圧力検出マット。
【請求項6】
前記所定の条件が、隣接した前記圧力センサの出力信号値の差が第3の閾値以上であることを少なくとも含んだこと、を特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の圧力検出マット。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の圧力検出マットと、
前記複数の通信モジュールの各々と通信可能な制御手段と、
該制御手段と接続され、該圧力検出マットに掛かる圧力の異常を警告可能な警告手段と、を備えた褥瘡防止システムであって、
該制御手段は、受信した前記警告信号に応じて該警告手段による異常警告を行うこと、を特徴とする褥瘡防止システム。
【請求項8】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の圧力検出マットであって、前記複数の通信モジュールの各々が自身と通信可能な前記圧力センサの出力信号を第1のタイミング毎に外部機器に向けて送信する圧力検出マットと、
該圧力検出マットと通信可能な外部機器である制御手段と、
該制御手段と接続され、該圧力検出マットに掛かる圧力の異常を警告可能な警告手段と、を備えた褥瘡防止システムであって、
該制御手段は、受信した該出力信号値に応じて該警告手段による異常警告を行うこと、を特徴とする褥瘡防止システム。
【請求項9】
前記制御手段は、受信した前記出力信号値が第1の閾値以上であるとき、前記警告手段による異常警告を行うこと、を特徴とする請求項8に記載の褥瘡防止システム。
【請求項10】
前記通信モジュールは、さらに自身のID情報を前記制御手段に送信すること、を特徴とする請求項8または請求項9のいずれかに記載の褥瘡防止システム。
【請求項11】
前記制御手段は、前記第1のタイミング毎に受信した前記出力信号値の加算値であって、該第1のタイミングより長い第2のタイミング内における加算値が前記第1の閾値より高い第2の閾値以上であるとき、前記警告手段による異常警告を行うこと、を特徴とする請求項10に記載の褥瘡防止システム。
【請求項12】
前記制御手段は、隣接した前記圧力センサから受信した前記出力信号値の差が第3の閾値以上であるとき、前記警告手段による異常警告を行うこと、を特徴とする請求項10または請求項11のいずれかに記載の褥瘡防止システム。
【請求項13】
前記第3の閾値は前記第1の閾値より低い値であること、を特徴とする請求項12に記載の褥瘡防止システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2006−94903(P2006−94903A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281351(P2004−281351)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】