説明

圧力緩衝器、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】可撓膜5と接合する本体部2の接合面を平坦な表面として、可撓膜5と本体部2との間の接合強度及びシール性を向上させる。
【解決手段】圧力緩衝器1は、上端部に開口する開口部10を有する凹部3と、凹部3の内表面に開口し外部領域と連通する連通口4を有する本体部2と、上端部に接合され、開口部10を閉塞する可撓膜5とを備える。本体部2の上端部は、本体部2の上面HSよりも高く開口部10を囲む土手6を含み、可撓膜5は土手6の上面DSにおいて接合するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の圧力変動を緩和させる圧力緩衝器であり、特に可撓膜と本体部との間の接合強度を向上させた圧力緩衝器、これを用いた液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。インクの吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。この種の装置は、ノズルから液滴を吐出する際の吐出量や、吐出速度を高精度で制御する必要がある。ノズルのインク圧力によって吐出量や吐出速度が影響を受けるので、これを一定にするためにインク流路に圧力緩衝器を設けている。
【0003】
例えば特許文献1には、印字ヘッドが吐出するインクの圧力を一定にするためのダンパーが記載されている。図9にこのダンパーの分解斜視図を示す(特許文献1の図3)。ダンパーは、インクを貯留するための凹部が形成されたダンパー基本体120と、この凹部の開口を塞ぐ可撓性のフィルム部122と、その上部に設置され、フィルム部122の破裂を防止するためのダンパーカバー121から構成されている。インクは、インク供給路104のa方向から流入し、記録ヘッドの流路部材が設置されるb方向へ流出する。凹部内には、可動板123とこの可動板123とダンパー基本体120の間に設置されたバネ124(図10を参照)を備える。
【0004】
ダンパー基本体120の凹部とフィルム部122により囲まれる領域にはインクが充填される。充填されたインクに圧力変動が生ずると、或いはインク供給路104を介して圧力変動が伝達されると、フィルム部122が上下に変位して充填されたインクの圧力変動を緩和させる。これにより、b方向に流出するインクに圧力変動が伝達されない。即ち、ダンパーは圧力変動が緩和されたインクをb方向へ流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−137263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、ダンパー基本体120とフィルム部122は合成樹脂により形成する。ダンパー基本体120は合成樹脂の型成形により形成し、フィルム部122をダンパー基本体120の上端部に熱溶着により接合する。ダンパー基本体120の凹部にはインクが充填される。また、内部に充填されるインクには圧力変動が印加される。従って、ダンパー基本体120の上端部とフィルム部122の接合は、インクが漏洩しないように密閉性がよく、かつインクの内部圧力が大きく上昇してもフィルム部122が剥がれないように強固に接合する必要がある。
【0007】
図10は、図9の部分XXの縦断面模式図である。フィルム部122とダンパー基本体120の上端部との間の接合を強固にし、かつシール性を確保するためにフィルム部122とダンパー基本体120との接合面積を広く設計する。すると、ダンパー基本体120の型成形の際にヒケが発生し、図10に示す窪みKが形成される。そのために、フィルム部122をダンパー基本体120の上端部に均一に接合することができない。その結果、凹部内に充填されるインクが接合面の窪みKを介して漏れ出す、或いは接合強度が低下してインク内圧が増加したときにフィルム部122がダンパー基本体120の上端面から剥がれる、などの課題があった。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、フィルム等から成る可撓膜とダンパー本体上面との間を強固に接合し、可撓膜の剥がれや液体の漏れを防止して信頼性の高い圧力緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧力緩衝器は、上端部に開口する開口部を有する凹部と、前記凹部の内表面に開口し外部領域と連通する連通口を有する本体部と、前記上端部は、前記本体部の上面よりも高さが高く前記開口部を囲む土手を含み、前記土手の上面に接合して前記開口部を閉塞する可撓膜と、を備えることとした。
【0010】
また、前記土手は、前記上端部の外周端よりも前記開口部の側に位置することとした。
【0011】
また、前記上端部はネジ穴を複数有し、前記ネジ穴の近傍に前記本体部の上面よりも高さが高いネジ穴部土手を有することとした。
【0012】
また、前記ネジ穴部土手は、前記ネジ穴の外周端から径方向の幅が3mmを超えないこととした。
【0013】
また、前記可撓膜を覆い、前記上端部に固定されるカバーを備え、前記カバーは前記ネジ穴を用いて本体部に固定されていることとした。
【0014】
また、前記本体部の上面は、隣接する前記ネジ穴部土手の間に位置することとした。
【0015】
また、前記土手の上面の幅は、概ね1mm〜3mmの範囲内であることとした。
【0016】
また、前記土手は、前記開口を囲む第一の土手と、前記第一の土手を囲む第二の土手を有することとした。
【0017】
また、前記上端部は、前記本体部の上面よりも高さが高く前記土手の外周から前記本体部の外周に向けてリブ状土手を有することとした。
【0018】
また、前記本体部は、前記本体部よりも厚さが薄く、前記土手の外周よりも外側に張り出す張出し部を有することとした。
【0019】
また、前記本体部は、前記凹部の底面と前記可撓膜との間に規制板と前記規制板を支持するバネ部材を有することとした。
【0020】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記いずれかに記載の圧力緩衝器と、前記圧力緩衝器から液体を流入し、被記録媒体に液滴を吐出する吐出部を備えることとした。
【0021】
本発明の液体噴射装置は、上記液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0022】
本発明による圧力緩衝器は、上端部に開口する開口部を有する凹部と、凹部の内表面に開口し外部領域と連通する連通口を有する本体部と、上端部は、本体部の上面よりも高さが高く開口部を囲む土手を含み、土手の上面に接合して開口部を閉塞する可撓膜と、を備えるようにした。これにより、可撓膜を土手の平坦な上面に均一に接合することができ、シール性及び接合強度を向上させた信頼性の高い圧力緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【図3】本発明の第三実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【図4】本発明の第四実施形態に係る圧力緩衝器の本体部の上面模式図である。
【図5】本発明の第五実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【図6】本発明の第六実施形態に係る圧力緩衝器の模式的な分解斜視図である。
【図7】本発明の第七実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な斜視図である。
【図8】本発明の第八実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図9】従来公知のダンパーの分解斜視図である。
【図10】従来公知のダンパーの断面模式図である。
【図11】本発明の第九実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【図12】本発明の第十実施形態に係る圧力緩衝器を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図であり、図1(a)が圧力緩衝器1を構成する本体部2の上面模式図であり、図1(b)が圧力緩衝器1の部分AAの縦断面模式図である。
【0025】
圧力緩衝器1は、上端部に開口部10を有する凹部3と凹部3の内表面NSに開口し外部領域と連通する流入連通口4a及び流出連通口4bを有する本体部2と、本体部2の上端部に熱溶着により接合され、開口部10を閉塞する可撓膜5を備えている。本体部2の上端部は、本体部2の上面HSよりも高さが高く、開口部10を囲む土手6を有している。可撓膜5はその土手6の上面DSに接合されている。本体部2の上端部に形成した土手6の上面DSは平坦に形成することができるので、可撓膜5と本体部2とを均一に接合することができ、可撓膜5と本体部2との間のシール性及び接合強度が向上し、信頼性の高い圧力緩衝器1を形成することができる。
【0026】
ここで、本体部2及び可撓膜5として合成樹脂を使用する。合成樹脂として、例えばPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポルフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などを使用することができる。本体部2は合成樹脂の型成形により形成する。土手6の上面DSに可撓膜5を熱溶着により接合する。この際、温度約150℃〜200℃に加熱する。土手6の幅W1は概ね1mm〜3mmとするのが好ましい。幅W1を1mmよりも狭く形成すると、接合面積が小さくなって凹部3内に充填される液体の圧力変動に対する接合強度が不足し、3mmよりも広く形成すると型成形の際にヒケが生じて均一な接合面が得られなくなるからである。
【0027】
図1(a)に示すように、土手6は本体部2の上端部の外周端(本体部2の側面)よりも開口部10側の内側に設置した。つまり、本体部2は土手6の外周よりも外側に延在する。これにより、本体部2の強度を確保することができる。特に、可撓膜5を本体部2の上端部に熱溶着により接合する際に、本体部2が変形するのを防止することができる。
【0028】
なお、本発明は上記土手6の配置に限定されない。土手6の外周がいずれかの辺、或いはいずれかの部分で本体部2の外周を構成してもよい。つまり、本体部2の上面HSの無い部分が存在しても良い。本体部2の外径や、流入連通口4a、流出連通口4bの位置は図1の配置に限定されない。
【0029】
なお、本実施形態において、可撓膜5は一層の薄膜として記載したが、図示しない二層の薄膜とすることも可能である。この場合、二層の可撓膜5のうち本体部2側の一方の層を本体部2と同じ樹脂材料(例えば、PEなど)で構成し、本体部2側でない他方の層を可撓膜5や本体部2の樹脂材料よりも溶融度の高い材料(例えば、ナイロンなど)で構成することが好ましい。このように構成したのは、可撓膜5を本体部2に熱溶着する製造工程において、確実に可撓膜5を本体部2に溶着させるためである。
【0030】
具体的に、可撓膜5の溶着工程では、ヒーターブロックなどを用いて土手6の上面DSに可撓膜5を押し当てたのち、可撓膜5を加熱し土手6の上面DSと溶着させるのがよい。この際に、ヒーターブロックを可撓膜5に直接押し当てると、可撓膜5が溶融し、ヒーターブロックに可撓膜5の一部が付着してしまうおそれがある。これを防止するために、本体部2側でない他方の層をナイロンなどの材料で構成し、溶融した可撓膜5がヒーターブロックに付着しないようにすることが可能である。
【0031】
なお、本実施形態においては、可撓膜5を二層により形成したが、その材質に応じて二層より多層にすることも可能である。また、溶着時のみナイロンシートを可撓膜5の上面から被せ、溶着後にナイロンシートを剥離することで、一層の可撓膜5でもヒーターブロックへの付着を防止することが可能である。なお、以下に述べる実施形態においても、可撓膜5の構成については、同様である。
【0032】
(第二実施形態)
図2は、本発明の第二実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図であり、図2(a)が圧力緩衝器1を構成する本体部2の上面模式図であり、図2(b)が圧力緩衝器1の部分BBの縦断面模式図である。第一実施形態と異なる点は、土手6が第一の土手6aと、その第一の土手6aを囲む第二の土手6bを有する点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。従って、以下、異なる部分について説明する。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0033】
図2に示すように、土手6を第一の土手6aと第二の土手6bの二重の土手を形成した。一つの土手6a又は6bの幅を概ね1mm〜3mmとすることができる。これにより、第一の土手6a及び第二の土手6bのそれぞれの上面DSを平坦に成形することができるので、可撓膜5と本体部2との間の接合面積を一つの土手を形成する場合の2倍以上にすることができる。その結果、可撓膜5の本体部2に対する接合面のシール性、接合強度をより一層向上させることができる。
【0034】
(第三実施形態)
図3は、本発明の第三実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図であり、図3(a)が圧力緩衝器1を構成する本体部2の上面模式図であり、図2(b)が圧力緩衝器1の部分CCの縦断面模式図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0035】
圧力緩衝器1は、本体部2と、その上端部に接合された可撓膜5と、その上部に固定されるカバー9を備えている。本体部2は、上端部に開口する凹部3と、凹部3の内表面NSに開口し、外部領域と連通する流入連通口4aと流出連通口4bを有している。本体部2の上端部は、本体部2の上面HSよりも高さが高く、凹部3の開口を囲む土手6を有している。本体部2の上端部は、更に、カバー9をビス止めするためのネジ穴7を複数有し、ネジ穴7の近傍に本体部2の上面HSよりも高さの高いネジ穴部土手8を有している。ネジ穴7及びその近傍のネジ穴部土手8は、土手6の外周よりも外側の上下の辺にそれぞれ2つずつ、左右の辺にそれぞれ1つずつ形成されている。
【0036】
可撓膜5は、土手6の上面DSとネジ穴部土手8の上面に接合している。カバー9は、凹部3に対応する領域が上方に凸の窪みを有し、可撓膜5の上方への変位を制限し、可撓膜5が液体の圧力によって破壊されるのを防止する。カバー9はネジ穴7に挿入されたビス13と本体部2側のナット14により可撓膜5を介して本体部2に固定されている。このように、ネジ穴7の近傍にネジ穴部土手8を形成することにより可撓膜5を土手6の上面DSに均一に押圧し、可撓膜5と本体部2の間の接合強度を向上させ、可撓膜5と本体部2との間のシール性を一層向上させることができる。
【0037】
なお、ネジ穴7の近傍に形成するネジ穴部土手8は、ネジ穴7の外周端から径方向の幅W2が3mmを超えない程度に形成することが望ましい。これにより、土手6の上面DSと同様にネジ穴部土手8の上面DSもヒケの無い平坦な表面を形成することができる。幅W2が3mmを超えるとネジ穴部土手8の上面にヒケが発生しやすくなり、平坦性が低下して可撓膜5との間の接合が不均一となるためである。
【0038】
本体部2は、本体部2よりも厚さが薄く、土手6の外周よりも外側に張り出す張出し部12を備えている。張出し部12の上面は本体部2の上面HSを成しており、張出し部12の下部は浚われている。これにより、本体部2の強度を向上させ、かつ、重量の増加を抑えることができる。なお、図3では隣接するネジ穴7の間にすべて張出し部12を設けているが、本発明はこれに限定されない。即ち、いずれかの辺、或いはいずれかの部分にのみ張出し部12を設け、他の部分は土手6の外側面と本体部2の外側面とが同一面となるように、或いは土手6の外周よりも外側に浚いの無い本体部2を設けるようにしても良い。
【0039】
(第四実施形態)
図4は、本発明の第四実施形態に係る圧力緩衝器1の本体部2の上面模式図である。第一実施形態と異なる点は、本体部2の上端部が土手6の外周から放射状にリブ状土手11を有する点であり、その他の点は第一実施形態と同様である。従って、以下、異なる部分について説明する。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0040】
図4に示すように、本体部2の上端部は、本体部2の上面HSよりも高さが高く土手6の外周から本体部2の外周にかけてリブ状土手11を備えている。リブ状土手11は、上下の辺にそれぞれ2本ずつ、左右の辺にそれぞれ2本ずつ設置されている。リブ状土手11の幅W3は、3mmを超えないように形成するのが好ましい。3mmを超えると土手6と同様の理由によりヒケが発生しやすくなり、上面の平坦性が低下するからである。可撓膜5は、土手6の上面DSの他にリブ状土手11の上面DSに熱溶着により接合されるので、接合強度が向上する。なお、リブ状土手11の設置場所や数は必要に応じて設定することができる。
【0041】
(第五実施形態)
図5は、本発明の第五実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図である。図5(a)は本体部2の上面模式図であり、図5(b)は部分DDの縦断面模式図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0042】
図5に示すように、本体部2は略四角形の扁平な形状を有し、上端部の中央に凹部3、左辺に液体を流入するための流入接続部15a、及び右辺に液体を流出するための流出接続部15bを備えている。凹部3は本体部2の上端部に開口する開口部10を有する。凹部3の内表面である底面の左辺と上辺の角部には流入連通口4aが開口し、流入接続部15aに連通し、底面の左辺と下辺の角部には流出連通口4bが開口し、流出接続部15bに連通する。流出連通口4bを流入連通口4aよりも左側に形成したのは、重力に対して流入接続部15a側を高く、流出接続部15b側の低く設置して使用するので、凹部3内部に液体を充填する際に気泡が残留しないようにするためである。
【0043】
本体部2の上端部は、本体部2の上面HSよりも高さが高く開口部10を囲む土手6を備えている。本体部2の上端部は、更にビス止め用のネジ穴7a〜7fを有する。ネジ穴7a〜7fのそれぞれの近傍には本体部2の上面HSよりも高さが高いネジ穴部土手8a〜8fが対応して形成されている。ネジ穴7a〜7fの中心は土手6の外周よりも本体部2の外周側に位置する。ネジ穴7a、7b、7c、7dは本体部2の各辺の角に、ネジ穴7e、7fは本体部2の左右の辺の略中央に形成されている。各ネジ穴部7a〜7f近傍の各ネジ穴部土手8a〜8fと開口部10を囲む土手6は連続的に形成され、従って各土手の上面は連続的な同一平面を構成している。
【0044】
可撓膜5は、土手6及びネジ穴部土手8の各上面DSと接合し開口部10を閉塞する。カバー9は可撓膜5を挟んで本体部2のネジ穴7a〜7fにビス止めされ、可撓膜5が膨らんで破裂するのを防止する。この場合に、土手6の上面とネジ穴部土手8の上面が連続的な同一平面を構成するので、可撓膜5の上記上面DSに対する接合性が向上する。更に、カバー9を本体部2にビス止めすることによりカバー9の外周側の底面が可撓膜5の表面を均一に押圧し、可撓膜5と本体部2の間の接合強度及びシール性を一層向上させる。
【0045】
なお、本実施形態は、上端部の上辺に形成したネジ穴部土手8aとネジ穴部土手8bの間は、土手6の外周端と本体部2の外周端がほぼ一致する。一方、下辺に形成したネジ穴部土手8cとネジ穴部土手8dの間に土手6の外周端よりも外側に突出する張出し部12を設けている。上辺の土手6の幅より下辺の土手6の幅が狭いので、張出し部12を設けて本体部2の強度を確保している。このように、必要な部分に張出し部12を設けることにより本体部2の強度を確保することができ、かつ下部を浚うことにより重量の増加を抑えることができる。
【0046】
(第六実施形態)
図6は、本発明の第六実施形態に係る圧力緩衝器1の模式的な分解斜視図である。第五実施形態と異なる部分は、可撓膜5と凹部3の底面との間にバネ部材16と規制板17を設置した点であり、その他は第五実施形態と同様である。従って、以下、主に異なる部分について説明し、同一の部分は説明を省略する。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。なお、当該規制板17は他の実施形態においても構成可能である。
【0047】
圧力緩衝器1は本体部2、可撓膜5及びカバー9の積層構造を備えている。可撓膜5は本体部2の上端部に形成した土手6及び各ネジ穴7の近傍に形成したネジ穴部土手8の上面DSに接合している。カバー9は本体部2のネジ穴7にビス止めされる。そして、可撓膜5と凹部3の底面との間に規制板17とこの規制板17を支持するバネ部材16が設置されている。これにより、凹部3内に充填した液体が大きく陰圧となったときに可撓膜5が凹部3側に引っ張られ、流入連通口4aや流出連通口4b(図5参照)を閉塞することを防止する。その他の作用効果は第三実施形態及び第五実施形態と同様である。
【0048】
(第七実施形態)
図7は、本発明の第七実施形態に係る液体噴射ヘッド20の模式的な斜視図である。第五又は第六実施形態において説明した圧力緩衝器1を液体噴射ヘッド20に設置した状態を表す。図7に示すように、液体噴射ヘッド20は、ベース21と、図示しない被記録媒体に液滴を吐出する吐出部22と、吐出部22に液体を供給する圧力緩衝器1と、吐出部22を制御する制御回路を搭載した図示しない制御回路基板を備えている。
【0049】
吐出部22は、駆動信号に応じて液滴を吐出するアクチュエータと、アクチュエータと制御回路基板の間を電気的に接続するフレキシブル回路基板を備えている。ベース21は、衝立の形状を有し、底部に吐出部22を搭載し、側面に図示しない制御回路基板と圧力緩衝器1を固定している。圧力緩衝器1は、カバー9を外側に、本体部2をベース21側に向けてベース21に固定されている。液体は、図示しない配管から流入接続部15aを介して本体部2の凹部に流入し、流出接続部15bを介して吐出部22に流出する。吐出部22のアクチュエータは制御回路からの駆動信号に応じて下部の図示しないノズルから被記録媒体に液滴を吐出する。
【0050】
(第八実施形態)
図8は、本発明の第八実施形態に係る液体噴射装置50の模式的な斜視図である。本液体噴射装置50は、上記第七実施形態で説明した液体噴射ヘッド20を使用している。液体噴射装置50は、液体噴射ヘッド20、20’を往復移動させる移動機構63と、液体噴射ヘッド20、20’に液体を供給する液体供給管53、53’と、液体供給管53、53’に液体を供給する液体タンク51、51’を備えている。各液体噴射ヘッド20、20’は、液体を吐出させるアクチュエータと、このアクチュエータに液体を供給する流路部材と、流路部材に液体を供給する圧力緩衝器1を備えている。
【0051】
具体的に説明する。液体噴射装置50は、紙等の被記録媒体54を主走査方向に搬送する一対の搬送手段61、62と、被記録媒体54に液体を吐出する液体噴射ヘッド20、20’と、液体タンク51、51’に貯留した液体を液体供給管53、53’に押圧して供給するポンプ52、52’と、液体噴射ヘッド20、20’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構63等を備えている。
【0052】
一対の搬送手段61、62は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体54を主走査方向に搬送する。移動機構63は、副走査方向に延びた一対のガイドレール56、57と、一対のガイドレール56、57に沿って摺動可能なキャリッジユニット58と、キャリッジユニット58を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト59と、この無端ベルト59を図示しないプーリを介して周回させるモータ60を備えている。
【0053】
キャリッジユニット58は、複数の液体噴射ヘッド20、20’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク51、51’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ52、52’、液体供給管53、53’を介して液体噴射ヘッド20、20’に供給する。
【0054】
液体噴射装置50の制御部は、各液体噴射ヘッド20、20’に駆動信号を与えて各色の液滴を吐出させる。制御部は、液体噴射ヘッド20、20’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット58を駆動するモータ60の回転及び被記録媒体54の搬送速度を制御して、被記録媒体54上に任意のパターンを記録する。
【0055】
本実施形態では、圧力緩衝器1の可撓膜5を、本体部2の上端部に形成した土手6及びネジ穴部土手8の上面DSにおいて接合したので、可撓膜5と本体部2の間の接合強度が向上し、可撓膜5と本体部2との間のシール性の向上した信頼性の高い液体噴射装置を提供することができる。
【0056】
(第九実施形態)
図11は、本発明の第九実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図であり、図11(a)が圧力緩衝器1を構成する本体部2の上面模式図であり、図11(b)が圧力緩衝器1の部分EEの縦断面模式図である。なお、本形態は第一実施形態にカバー9を設け、カバー9を固定するためにネジ穴7を追加したものである。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0057】
圧力緩衝器1は、本体部2と、その上端部に接合された可撓膜5と、その上部に固定されるカバー9を備えている。本体部2は、図11(a)に示すように、第一実施形態と同様の土手6を有し、本体部2の上面HSにカバー9とビス止めするためのネジ穴7を複数有している。
【0058】
図11(b)に示すように、可撓膜5は、土手6の上面DSと接合している。カバー9は凹部3に対応する領域が上方に凸の窪みを有し、可撓膜の上方への変位を制限し、可撓膜5が液体の圧力によって破壊されるのを防止する。
【0059】
また、本実施形態は可撓膜5を本体部2に熱溶着すると、熱によって溶けた上面DSが、可撓膜5に平行な方向に伸延され、本体部2の縁である上面DSの周囲にはみ出し、溶融バリが形成される可能性がある。本実施形態は、溶融バリが集約されやすい形状を持ち周囲と比べ大きな応力がかかるネジ穴7を、熱溶着しない面である本体部2の上面HSに設置することで、ネジ穴7は熱溶着されず、溶融バリがネジ穴7に形成されないため、ネジ穴7からのクラックを防止できる。言い換えれば、ネジ穴7は開口部10を囲む土手6の外側にビス止め用のネジ穴として形成されている。
【0060】
(第十実施形態)
図12は、本発明の第十実施形態に係る圧力緩衝器1を説明するための図であり、図12(a)が圧力緩衝器1を構成する本体部2の上面模式図であり、図12(b)が圧力緩衝器1の部分FFの縦断面模式図である。なお、本形態は第二実施形態にカバー9を設け、カバー9を固定するためにネジ穴7を追加したものである。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0061】
圧力緩衝器1は、本体部2と、その上端部に接合された可撓膜5と、その上部に固定されるカバー9を備えている。本体部2は、図12(a)に示すように、第二実施形態と同様の土手6aと土手6bを有し、本体部2の上面HSにカバー9とビス止めするためのネジ穴7を複数有している。なお、図12では土手6bの外周にネジ穴7を設置したが、土手6aと土手6bの間にネジ穴7を設置してもよい。
【0062】
図12(b)に示すように、可撓膜5は、土手6の上面DSと接合している。カバー9は凹部3に対応する領域が上方に凸の窪みを有し、可撓膜の上方への変位を制限し、可撓膜5が液体の圧力によって破壊されるのを防止する。
【0063】
本発明は、第九実施形態と同様に、溶融バリが集約されやすい形状を持ち周囲と比べ大きな応力がかかるネジ穴7を、熱溶着しない面である本体部2の上面HSに設置することで、ネジ穴7は熱溶着されず、溶融バリがネジ穴7に形成されないため、ネジ穴7からのクラックを防止できる。
【符号の説明】
【0064】
1 圧力緩衝器
2 本体部
3 凹部
4 連通口
5 可撓膜
6 土手
7 ネジ穴
8 ネジ穴部土手
9 カバー
10 開口部
11 リブ状土手
12 張出し部
20 液体噴射ヘッド
50 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部に開口する開口部を有する凹部と、前記凹部の内表面に開口し外部領域と連通する連通口を有する本体部と、
前記上端部は、前記本体部の上面よりも高さが高く前記開口部を囲む土手を含み、前記土手の上面に接合して前記開口部を閉塞する可撓膜と、を備える圧力緩衝器。
【請求項2】
前記土手は、前記上端部の外周端よりも前記開口部の側に位置する請求項1に記載の圧力緩衝器。
【請求項3】
前記上端部はネジ穴を複数有し、前記ネジ穴の近傍に前記本体部の上面よりも高さが高いネジ穴部土手を有する請求項1又は2に記載の圧力緩衝器。
【請求項4】
前記ネジ穴部土手は、前記ネジ穴の外周端から径方向の幅が3mmを超えない請求項3に記載の圧力緩衝器。
【請求項5】
前記可撓膜を覆い、前記上端部に固定されるカバーを備え、
前記カバーは前記ネジ穴を用いて本体部に固定されている請求項3又は4に記載の圧力緩衝器。
【請求項6】
前記本体部の上面は、隣接する前記ネジ穴部土手の間に位置する請求項3〜5のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項7】
前記可撓膜を覆い、前記上端部に固定されるカバーを備え、
前記本体部の上面はビス止め用のネジ穴を複数有し、
前記カバーは前記ネジ穴にビス止めされている請求項1又は2に記載の圧力緩衝器。
【請求項8】
前記土手の上面の幅は、概ね1mm〜3mmの範囲内である請求項1〜7のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項9】
前記土手は、前記開口部を囲む第一の土手と、前記第一の土手を囲む第二の土手を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項10】
前記上端部は、前記本体部の上面よりも高さが高く前記土手の外周から前記本体部の外周に向けてリブ状土手を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項11】
前記本体部は、前記本体部よりも厚さが薄く、前記土手の外周よりも外側に張り出す張出し部を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項12】
前記本体部は、前記凹部の底面と前記可撓膜との間に規制板と前記規制板を支持するバネ部材を有する請求項1〜11のいずれか一項に記載の圧力緩衝器。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の圧力緩衝器と、
前記圧力緩衝器から液体を流入し、被記録媒体に液滴を吐出する吐出部を備える液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求項13に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−179894(P2012−179894A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246669(P2011−246669)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】