説明

圧延方法

【課題】本発明は、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基にパス数と各パスの圧下量を規定できるので、容易かつ簡便に圧延時のパススケジュールの管理ができる技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基に、予め設定しておいたデータテーブルの材料強度、スラブ厚、スラブ幅の値に合わせて総パス数を確定し、少なくとも最終回のパスを含めた品質確定用の指定パスを全てのパスのうち後半に規定し、全てのパスのうち、指定パスを除いた残りの管理パスについて、管理パスの全てのパスの圧下量の変化状態を以下の(1)式で示される2次関数に近似するように各パスの圧下量を調整することを特徴とする。y=Ax+Bx+C…(1)(ただし、Aは−の任意数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金成分などに応じてスラブの圧延を行う場合のパススケジュールの条件決めを自動的に、かつ、正確に行うことができる圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラブ(被圧延材)を圧延加工して所望の板厚とする圧延方法において、圧延機におけるパススケジュールを如何に設定するべきかが、製品の品質及び生産性を左右する大きな要因となっている。そこで、従来から、圧延加工における種々のパススケジュールの設計手法が提案されている。
例えば、特許文献1には、予め適正なパススケジュールを複数のパターンに亘って登録しておき、実際の圧延時における板厚実績に従って圧延条件に適合するパターンのパススケジュールを選択し、実測値を考慮して修正することで、圧延仕様に応じたパススケジュールを決定することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、圧延実績として収集した圧延制御データを種々のパススケジュールにおける圧延パス毎の圧延制御データとして、予め、被圧延材の種別とその圧延寸法に従って分類して標準データとしておき、そのパス回数データとともに登録したデータベースとしておき、被圧延材の圧延仕様に応じて前記データベースを検索して、上記被圧延材を圧延するのに必要なパス回数と圧延パス毎の標準化データベースとを求めて前記圧延機に付与する圧延パス毎の圧延制御データをそれぞれ計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2829697号公報
【特許文献2】特開2003−320407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多種多様な圧延製品に対処するためには、材料仕様の異なりに応じたパターンのパススケジュールを一々登録しておく必要があるが、各パススケジュールのデータ自体、膨大なデータになるおそれがあるので、材料仕様に応じてパススケジュールを変更、修正しようとしても、多大な負担が伴う問題があり、結果的に、現場でのオペレータの経験と勘によって圧延装置の運転を行わなくてはならなくなる傾向がある。
また、圧延製品を構成する金属材料は日々改良され、新規組成比の合金が逐次登場してくるが、新規合金が開発されるたびに、圧延条件を見直す必要があり、その場合においても簡便に圧延パススケジュールを管理できる方法の登場が望まれている。
【0006】
本発明は前記した問題に鑑み創案されたものであり、スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、全ての圧延のパスのうち、指定パスを除いた残りの管理パスについて、2次曲線に沿うように圧下量を規定することで、容易かつ確実に圧延時のパススケジュールの管理ができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基に、化学成分をベースに計算された材料強度、スラブ厚、スラブ幅の値に合わせて総パス数を確定するとともに、少なくとも初回のパスを含めた前半の指定パス、及び、少なくとも最終回のパスを含めた後半の品質確定用の指定パスを全てのパスのうち、それぞれ、前半、後半に規定し、全てのパスのうち、前記前半と後半の指定パスを除いた残りの管理パスについて、管理パスの全ての圧下量を以下の(1)式で示される2次関数に近似するように各パスの圧下量を調整して圧延することを特徴とする。
y=Ax+Bx+C…(1) (ただし、Aは−の任意数)
【0008】
本発明は上記の課題を解決するため、スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基に、予め設定しておいたデータテーブルの材料強度、スラブ厚、スラブ幅の値に合わせて総パス数を確定し、少なくとも初回のパスを含めた前半の指定パス、及び、少なくとも最終回のパスを含めた後半の品質確定用の指定パスを全てのパスのうち、それぞれ、前半、後半に規定し、全てのパスのうち、前記前半と後半の指定パスを除いた残りの管理パスについて、管理パスの全ての圧下量を以下の(1)式で示される2次関数に近似するように各パスの圧下量を調整して圧延するとともに、前記2次関数で近似した圧下量の最大値が圧延機の最大圧下量を超える値の場合、前記2次関数の最大値前後の所定の範囲のパスについて該最大値よりも小さな圧下量に平均化して圧延することを特徴とする
y=Ax+Bx+C…(1) (ただし、Aは−の任意数)
【0009】
本発明において、前記データテーブルに、スラブの材料強度に応じてランク分けしたランク分け区分と、該ランク分け区分に対応して決められた基準パス数と、スラブの幅の大小に応じてランク分けしたパス数増減補正値と、スラブの厚みの大小に応じてランク分けしたパス数増減補正値と、スラブ熱処理の有無に応じてランク分けしたパス数増減補正値とが記録され、前記スラブの材料強度による基準パス数に対し、前記スラブの幅によるパス数増減補正値と、前記スラブの厚みによるパス数増減補正値と、前記スラブ熱処理の有無によるパス数増減補正値とを加算して圧延の総パス数を確定しても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、全ての圧延のパスのうち、指定パスを除いた残りの管理パスについて、2次曲線に沿うように圧下量を規定することで、熟練オペレータの経験に頼ることなく、容易かつ確実に圧延時のパススケジュールの管理ができる。
【0011】
また、前記2次関数に従って規定した圧下量の最大値が、使用する圧延機の最大圧下量を超える場合、最大値の前後のパスについて、該最大値よりも小さな圧下量に平均化して圧延するので、圧延機の最大圧下量が比較的小さい場合であっても、種々の組成のスラブに対応して圧下を行うことができる。
【0012】
本発明において、スラブの材料強度とスラブ幅とスラブ厚みとスラブ熱処理の有無に連動したランク分けを施したデータテーブルを利用してパスの総数を確定することで、より正確に、いずれの組成のアルミニウム合金であっても適用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明方法を実施するために使用する熱間圧延機を備えた熱間圧延装置の一例を示す構成図。
【図2】図2は図1に示す熱間圧延機の制御装置の接続構成を示すシステム構成図。
【図3】図3は前記制御装置に設けられる設計計算プログラムの一例を示す構成図。
【図4】図4は前記制御装置に設けられるデータテーブルの一例を示す構成図。
【図5】図5は本発明において2次曲線に近似した場合の各パス毎の圧下量を示す説明図。
【図6】図6は本発明において2次曲線に近似した上に圧下量のピーク値の前後におけるパスの圧下量を平均化した場合の各パス毎の圧下量を示す説明図。
【図7】図7は実施例において適用した合金の場合に2次曲線に近似した上に圧下量のピーク値の前後におけるパスの圧下量を平均化した場合の各パス毎の圧下量を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の圧延方法の一実施形態について説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に制限されるものではない。
図1は本実施形態の圧延方法を実施するために使用する熱間圧延装置の一例を示すもので、この例の熱間圧延装置Aは、スラブ1の搬送路2の途中に熱間圧延機3を備えて構成されている。この例の熱間圧延機3は、シングルミルタイプのリバース式熱間圧延機の1種であり、上下のワークロール3a、3aと上下のバックアップロール3b、3bとを具備した4段構造とされ、上方のバックアップロール3bの上に圧下スクリュウなどの圧下装置5が設けられ、下方のバックアップロール3bの下にロードセル6が設けられていて、圧延時の各パスの圧下量を逐次計測して把握し、調整できるように構成されている。
また、熱間圧延機3の手前側(図1において左側)の搬送路2の上に、入り側水冷装置7が設置され、熱間圧延機3の後方側(図1において右側)の搬送路2の上に、出側水冷装置8と巻取装置9が設置され、各水冷装置7、8の両側と巻取装置9の両側に材料検出器10がそれぞれ設置され、搬送路2の複数の位置に放射温度計11が設置され、搬送路2の終段側にシャー切断装置12が設置されている。
【0015】
図1に示す熱間圧延装置Aにおいては、図1に示す如く熱間圧延機3の入り側に設置されているスラブ1を所定のギャップに調整したワークロール3a、3aの間に供給して挟み込み、圧延して熱間圧延機3の出側の搬送路2に送る操作を1つのパスとして行うとともに、この出側に移動した圧延後のスラブ1を搬送路2に沿って逆進させてギャップを再調整したワークロール3a、3aの間に再び挟み込み、前記圧延後のスラブ1を再度圧延する操作を他の1つのパスとして行い、前記の両方のパスを繰り返し必要回数行うことで、目的とする必要な板厚まで熱間圧延加工を行うタイプのリバース式の熱間圧延装置として備えられている。
図1に示す熱間圧延装置Aにおいては、搬送路2の終段側に配置されているシャー切断装置12により必要に応じて加工途中のスラブ1の前後端不良部を切断したり、搬送路2の後部側に配置されている巻取装置9により必要厚さとなった製品としての板材を巻き取って収容できるように構成されている。
【0016】
前記熱間圧延機3の圧下装置5には、メモリを内蔵したコントローラ(PLAC:プログラマブルコントローラ)15と、メモリ機能と計算機能を備えた制御装置16と、メモリ機能と計算機能を備えたホスト制御装置17が接続されている。制御装置16にはホスト制御装置17からスラブの制御情報等が入力され、そのスラブの制御情報に基づいてパススケジュールや圧延速度等の複数の計算を行うことができるように構成され、制御装置16からの計算結果をコントローラ15に送ると、コントローラ15が圧下装置5のシーケンス制御を行うことができるように構成されている。
【0017】
より詳細には図2に示す如く制御装置16に別途解析用制御装置19が接続され、制御装置16にはコントローラ15と同等機能を有する他の複数のコントローラ15a、15bが接続されていて、これら複数のコントローラ15、15a、15bにより分担して、搬送路2の走行制御、巻取装置9の制御、水冷装置7、8の制御、スラブ位置の把握や制御、シャー切断装置12の制御などが統括して制御されるようになっているが、本願明細書では圧下装置5による圧下量の制御について詳述し、他の装置の制御についての詳細説明は略する。
【0018】
制御装置16には、ホスト制御装置17から、スラブ1の幅、厚み、品質、材料組成、圧延履歴、加工硬化処理の有無などの情報が入力されるようになっている。
制御装置16のメモリには、図3に示す如く設定計算プログラム20が設けられ、この設定計算プログラム20には変数変換機能、テーブル引き当て機能、パススケジュール計算機能、速度計算機能、荷重、トルク計算機能、各制御測定数計算機能などの熱間圧延機制御機能が収納されており、制御装置16のメモリ内に別途設けられた参照テーブル21の各値、例えば、最適圧下量に相当する数値を参照できるように構成されている。なお、参照テーブル21には最適圧下量に関するデータテーブルの他に、速度条件や水冷条件のデータテーブルが設けられているが、これらのデータテーブルの圧下量以外の条件の詳細については説明を略する。なお、本実施形態では図3の設定計算プログラム20に対してホスト制御装置17から情報が伝達されるので、設定計算プログラム20には通信プログラム23を介してホスト制御装置17から情報が伝達される。
【0019】
本実施形態の制御装置16に設けられている圧下量に関するデータテーブル22の一例を図4に示す。このデータテーブル22には、スラブ1の材料強度に応じた合金のランク分け区分1、2、3、4、5が記憶されている。具体的には、材料強度20N〜400Nを5ランクに区分して記憶している。
このデータテーブル22には、合金ランクに応じてランク1の場合に基準パス数が13、ランク2の場合に基準パス数が15、ランク3の場合に基準パス数が15、ランク4の場合に基準パス数が17、ランク5の場合に基準パス数が19と設定されている。
【0020】
また、このデータテーブル22には、スラブ幅による補正値として46インチ(116.84mm)を境界として、46インチ以下のスラブ幅であれば、パス数の補正値0、46インチを超えるスラブ幅であれば、パス数の補正値2と設定されている。
更にこのデータテーブル22には、スラブの厚みとして、24インチ(60.96mm)の際にパス数の補正値0、23インチ(58.42mm)の際にパス数の補正値0、22インチ(55.88mm)の際にパス数の補正値−2、20インチ(50.8mm)の場合にパス数の補正値−2と設定されている。
更にこのデータテーブル22には、加工硬化処理が施されたものか否かにより、加工硬化処理ありの場合はパス数の補正値+2、加工硬化処理なしの場合はパス数の補正値0と設定されている。
【0021】
制御装置16は、ホスト制御装置17から入力された先のスラブ情報に基づき、この図4に示すデータテーブル22の合金ランクに応じて基準パス数を決定する。次いで制御装置16はホスト制御装置17から入力された先のスラブ情報に基づき、スラブ幅に応じてパス数の補正値を選択し、スラブの厚みに応じてパス数の補正値を選択し、加工硬化処理ありなしの情報に基づいて補正値を選択し、各補正値を基準パス数と合算し、圧延加工における総パス数を自動計算する。
【0022】
次に、データテーブル22の合金ランク1〜5の区分け判断手法について説明する。
ホスト制御装置17から制御装置16に入力されるスラブ1の情報はあくまで合金組成である。本実施形態ではこの合金組成比から、設定計算プログラム20に備えられている計算機能が以下の(2)式、(3)式に従い、スラブの材料強度を自動計算で算出し、この算出結果からデータテーブル22の合金ランク1〜5へ当てはめる処理を行う。
材料強度の自動計算については、スラブを構成する材料が純アルミニウム系合金の場合に以下の(2)式にて計算し、純アルミニウム系合金を除く他の合金系アルミニウム(JIS規定2000系〜8000系の各種アルミニウム合金)の場合に以下の(3)式にて計算する。
【0023】
「純アルミニウムの場合の計算式」
TS=9.8×{α×(Cu含有量)+α×(Fe含有量)+α×(Mn含有量)+α}…(2){各含有量は合金成分値(質量%)を示す}
「合金系アルミニウムの場合の計算式」
TS=9.8×{β×(Mg含有量)+β×(Mn含有量)+β×(Cu含有量)+β}…(3){各含有量は合金成分値(質量%)を示す}
各式において、α、α、α、α、はそれぞれ定数を示す。
【0024】
例えば、Si=0.6%(質量%、以下同じ)、Fe=0.7%、Cu=0.3%、Mn=0.30%、Mg=0.20%、Cr0.2%、Zr=0.4%、Ti=0.1%を含むJIS規定3105合金からなり、幅44インチ(111.76mm)、厚み60mm(24インチ)の加工硬化処理済みのスラブの場合、(3)式の計算結果は、150MPaとなるので、図4に示すデータテーブル22から、基準パス数は15、スラブ幅は44インチなのでパス数の補正値は0、スラブ厚さは24インチなのでパス数の補正値は0、加工硬化処理はありとしてパス数の補正値は+2として加算すると、基本パス数は15+0+0+2でもって17パスとなる。
【0025】
以上のように制御装置16の設定計算プログラム20はスラブ1の圧延について総パス数を17と自動計算する。
次に、スラブ1から製造するべき板材製品の品質要求により、総パス数の17のうち、最初の1パス及び最後の1パスを含めて複数のパスを品質要求度に合わせて指定パスとして、規定の圧下率で圧下するように制御装置16が把握する。この品質要求度に合わせた指定パスについてもデータテーブル22に記載しておく。
例えば、最初の2パス及び最後の1パスを除いて最後側から4つのパスを指定パスとした場合、残りの第3パス〜第12パスまでのパスを管理パスとして規定し、この管理パスについて本実施形態では以下の圧下量制御を行う。
【0026】
即ち、第3パス〜第12パスまでの各パスの圧下量の値を図5に示す如く棒グラフとしてパスの順に並べた場合、圧下量の変化の状態を2次曲線に近似できるように設定する。即ち、第3パス〜第12パスにおいて初期のパスは低い圧下量に設定し、順次2次曲線に沿って圧下量が増加し、12のパスのうち、中央のパスが最大の圧下量を示し、そのパスから徐々に圧下量が2次曲線に沿って減少する状態をy=Ax+Bx+C…(1) (ただし、Aは−の任意数)で示される2次曲線に近似できるように圧下量を制御するものとする。
即ち、換言すると、制御装置16は、ホスト制御装置17から入力されるスラブの情報を基に(2)式、あるいは、(3)式に基づき、データテーブル22に基づく合金ランク1〜5を規定し、更に、スラブ幅、スラブ厚み、加工硬化処理ありなし、の判断基準でデータテーブル22の補正値に応じて計算し、まず、上述の如く総パス数を算出する。
次に、この総パス数のうち、第1、第2パス及び先の品質要求から要求される指定パスである第13パス〜第16パスと最終の第17パスを除く、第3パス〜第12パスの管理パスについて、第1のパスと第13パスの圧下量をテーブルより引き当て(25mm)、これらのデータを基に、熱間圧延機3の最大圧下量を超えない範囲で、第3のパス〜第12のパスの圧下量を2次曲線に近似するように計算する。
【0027】
なお、先の2次曲線において、定数は、管理パストータル圧下量=Σy{n=1,2,3,…,N(パス数)}、管理初回圧下量=A+B+C、管理最終パス時圧下量=AN+BN+Cとすることが好ましい。即ち、指定パスの最終圧下量と最終パスの圧下量、更に、トータル圧下量(管理パスでの圧下量)から、各パスでの圧下量を求める。なお、各パスでの圧下量が最大圧下量を超えた場合は、パス数を2つ増加して再計算を実施するものとする。
即ち、本実施形態では、第3パス〜第12パスについて、本発明思想に基づき、以下に説明するようにパススケジュールを決定する。この第3パス〜第12パスについては、従来、オペレータが独自の経験値により個別制御していたが、これを本実施形態では自動的に決定し、支障なく実行することを目的とする。
【0028】
ただし、2次曲線に近似できる圧下量としても、10パスのうちの中央の最大の圧下量が熱間圧延機3の最大圧下量を超えないようにする必要がある。
そこで、これまで説明した方法に応じて総パス数を17のパスとして、そのうち、10パスのうちの中間のパスの最大の圧下量が熱間圧延機3の最大圧下量を超えない場合は上記の条件のままで処理できるが、仮に、10パスのうちの中間の最大の圧下量が熱間圧延機3の最大圧下量を超える場合については、図6に示す如く中間の最大値を示す第8のパスを中心として、前後の5パスにわたり、例えば、第6のパス〜第10のパスについて熱間圧延機3の最大圧下量よりも少し低い値に平均化する。例えば図6の計算パスにおいて、第6のパス〜第10のパスまで行う。
管理初回圧下量と管理最終パス時圧下量、更に、管理パストータル圧下量から各パスの圧下量を求めることができる。各パスでの圧下量が最大圧下量を超えた場合は、パス数を2パス増加させて再計算を実行する。
例えば、y=Ax+Bx+C、トータル圧下量=Σy{n=1,2,3,…,N:(パス数)}、管理初回圧下量=A+B+C、管理最終パス時圧下量=AN+BN+Cとすることができる。
【0029】
以上説明した如くパススケジュールの制御を行うならば、スラブ1の合金組成、幅、厚み、加工硬化処理の有無の情報をホスト制御装置17から制御装置16に入力することで制御装置16がアルミニウム合金の種別に応じて(2)式あるいは(3)式を用い材料強度を自動計算し、更にデータテーブル22の合金ランクと補正値から、総パス数と各パスにおける圧下量を自動計算して熱間圧延機3を制御するので、従来は熟練オペレータが各パス毎の圧下量を逐一制御していた作業を自動化することができる。
また、熱間圧延に供給するスラブ1が仮に新規組成比の合金であった場合、熟練オペレータであっても各パス毎の圧下量を指示することができないのに対し、本実施形態の制御によれば、新規組成比の合金であっても、基本的には先の(2)式あるいは(3)式で近似して該当するアルミニウム合金の材料強度を算出することができ、自動的に対応することができ、極めて汎用性の高い圧延制御を自動的に行うことができる。
【0030】
また、前述の如く管理パスについて2次曲線に近似して圧下量を決めて圧延することにより、スラブ1の種類や合金組成が多数あったとしても、いずれのスラブに対しても管理パスの圧下量を規定することができる。これに対して、全ての合金の種類に応じて圧下量を詳細に決めてデータテーブル化することも考えられるが、管理データが膨大な数に増加し、データテーブルに対する照合も困難となり易く、新規組成比の合金のスラブを初めて圧延する場合には新規のデータテーブルを作成しなくてはならないが、本実施形態で説明した方法によれば、逐一全ての合金用のデータテーブルを作成する必要はなく、図4に示すデータテーブルを基本とするのみで多くの合金系アルミニウムのスラブ、純アルミニウムのスラブに対応することができる特徴を有する。
【符号の説明】
【0031】
A…熱間圧延装置、1…スラブ、2…搬送路、3…熱間圧延機、3a…ワークロール、3b…バックアップロール、7…入り側冷却装置、8…出側冷却装置、9…巻取装置、10…材料位置検出器、11…放射温度計、12…シャー切断装置、15、15a、15b…コントローラ、16…制御装置、17…ホスト制御装置、20…設定計算プログラム、21…参照テーブル、22…データテーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基に、予め設定しておいたデータテーブルの材料強度、スラブ厚、スラブ幅の値に合わせて総パス数を確定するとともに、
少なくとも初回のパスを含めた前半の指定パス、及び、少なくとも最終回のパスを含めた後半の品質確定用の指定パスを全てのパスのうち、それぞれ、前半、後半に規定し、全てのパスのうち、前記前半と後半の指定パスを除いた残りの管理パスについて、管理パスの全ての圧下量を以下の(1)式で示される2次関数に近似するように各パスの圧下量を調整して圧延することを特徴とする圧延方法。
y=Ax+Bx+C…(1) (ただし、Aは−の任意数)
【請求項2】
スラブを複数回の圧延のパスにより所望の板厚とする場合、スラブの材料強度とスラブ厚とスラブ幅の数値データを基に、予め設定しておいたデータテーブルの材料強度、スラブ厚、スラブ幅の値に合わせて総パス数を確定し、
少なくとも初回のパスを含めた前半の指定パス、及び、少なくとも最終回のパスを含めた後半の品質確定用の指定パスを全てのパスのうち、それぞれ、前半、後半に規定し、全てのパスのうち、前記前半と後半の指定パスを除いた残りの管理パスについて、管理パスの全ての圧下量を以下の(1)式で示される2次関数に近似するように各パスの圧下量を調整して圧延するとともに、
前記2次関数で近似した圧下量の最大値が圧延機の最大圧下量を超える値の場合、前記2次関数の最大値前後の所定の範囲のパスについて該最大値よりも小さな圧下量に平均化して圧延することを特徴とする圧延方法。
y=Ax+Bx+C…(1) (ただし、Aは−の任意数)
【請求項3】
前記データテーブルに、スラブの材料強度に応じてランク分けしたランク分け区分と、該ランク分け区分に対応して決められた基準パス数と、スラブの幅の大小に応じてランク分けしたパス数増減補正値と、スラブの厚みの大小に応じてランク分けしたパス数増減補正値と、スラブ熱処理の有無に応じてランク分けしたパス数増減補正値とが記録され、
前記スラブの材料強度による基準パス数に対し、前記スラブの幅によるパス数増減補正値と、前記スラブの厚みによるパス数増減補正値と、前記スラブ熱処理の有無によるパス数増減補正値とを加算して圧延の総パス数を確定することを特徴とする請求項1または2に記載の圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−55931(P2012−55931A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201816(P2010−201816)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】