説明

圧延材搬送方法および圧延装置

【課題】圧延材に対する圧延の時間を短縮することができる圧延材搬送方法および圧延装置を提供すること。
【解決手段】1パス目でスラブが圧延された後、尾端が尾端停止位置に位置して停止する。制御部7によって、粗圧延ミル3のAPCの動作中に、粗圧延ミル3の圧上位置APCの現在値と圧上位置APCの目標値との差がd1以下(見込み圧上APC完了)、かつ、粗圧延ミル3の圧下位置APCの現在値と圧下位置APCの目標値との差がd2以下(見込み圧下APC完了)になったことが検知された時点で、スラブ2の搬送を開始する。粗圧延ミル3のAPCの完了が検知されると、制御部7により後面テーブルローラ6が制御されてスラブ2を加速制御する。他方、粗圧延ミル3のAPCが未完了と検知されると、制御部7により後面テーブルローラ6が制御されてスラブ2を停止制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延工場における可逆式圧延機によって圧延材を圧延する際の圧延材搬送方法および圧延装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リバースミルと称される可逆式圧延機においては、1パスごとに圧延ローラを正回転または逆回転させることによって圧延材(スラブ)を往復させ、複数回の圧延を繰り返すに従って、スラブを順次薄くし、最終的に所定の厚さとしている。なお、本明細書中においては、可逆式圧延機による1回の圧延工程を1パスと表現する。
【0003】
図4に、従来技術による制御が行われる可逆式粗圧延機100を示す。図4に示すように、可逆式粗圧延機100は、スラブ110に対して粗圧延を行う粗圧延ミル120と、スラブ110の幅を整えるエッジャー130と、エッジャー130の前方に配設された前面テーブルローラ140と、粗圧延ミル120の後方に配設された後面テーブルローラ150とを有している。前面テーブルローラ140および後面テーブルローラ150は、所定の制御によって、スラブ110を搬送するように構成されている。
【0004】
この可逆式粗圧延機100による圧延の1パス目では、スラブ110は粗圧延ミル120により圧延されつつ、前面テーブルローラ140から後面テーブルローラ150に向かう向きに搬送される。続く2パス目では、スラブ110の搬送の向きが1パス目と逆向きになり、スラブ110は粗圧延ミル120により圧延されつつ、後面テーブルローラ150から前面テーブルローラ140に向かう向きに搬送される。
【0005】
そして、可逆式粗圧延機100において、従来から、圧延時間を短縮するために、粗圧延ミル120の自動位置制御(APC:Automatic Positioning Control)の開始のタイミングを早くする方法や、スラブ110を可能な限り粗圧延ミル120の近くに停止させる方法が提案されている。また、特許文献1には、尾端位置認識の精度を向上させることによって、圧延時間の短縮を図る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−202308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の方法によって、圧延時間を短縮することが可能となったが、この圧延時間については、さらなる短縮が求められていた。
【0008】
そこで、本発明者は、まず、圧延における能率を向上させるために問題となる阻害要因について検討した。本発明者の知見によれば、圧延の能率を向上する際に問題となる阻害要因としては、主に、加熱処理、プレス処理、粗ミル処理、仕上ミル処理、およびコイラなどがあり、これらの阻害要因のうち、粗ミル処理に基づく割合が20%程度を占めている。そのため、圧延の能率を向上させるためには、やはり粗ミル処理を行う可逆式粗圧延機100における粗圧延時間の短縮が効果的である。
【0009】
この可逆式粗圧延機100における圧延時間を短縮する方法としては、電動機を増強して後面テーブルローラ150におけるスラブ110の搬送速度を増加させる方法が挙げられるが、この方法は費用対効果が極めて低いため、実際に採用することは困難であった。また、特許文献1においても、開始タイミングの高速化の検討がされていないため、圧延時間のさらなる短縮を実現することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧延材に対する圧延の時間を短縮することができる圧延材搬送方法および圧延装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決して上記目的を達成するために、種々鋭意検討を行った。以下にその概要を説明する。
【0012】
本発明者は、図4に示す可逆式粗圧延機100による圧延および搬送の制御を変更することによって粗圧延の時間を短縮する方法について検討を行い、可逆式粗圧延機100の運転において、短縮可能な時間が存在するかについて検討を行った。図5に、図4に示す可逆式粗圧延機100の圧延における粗圧延ミル120の圧下位置および圧上位置と、スラブ110を搬送する前面テーブルローラ140および後面テーブルローラ150の速度との従来のタイミングチャートを示す。
【0013】
図4および図5に示すように、従来の技術では、可逆式粗圧延機100による圧延の1パス目において、スラブ110は、粗圧延ミル120によって圧延されながら前面テーブルローラ140から後面テーブルローラ150に搬送される。なお、このときの搬送速度を正の速度とする。また、図5において、粗圧延ミル120による圧延の荷重がロードセル(図示せず)によって検出されている時間が圧延ミルロードセル検出とされている。その後、キックアウト制御が行われて、スラブ110は、その尾端が尾端停止位置Oに位置するように制御されて一時停止される。スラブ110は、粗圧延ミル120の圧上位置APCおよび圧下位置APCが完了するまで、尾端停止位置Oに待機される。
【0014】
その後、粗圧延ミル120の上側のワークロール120bによる圧下位置APCが完了し、かつ、下側のワークロール120aの圧上位置APCが完了すると、可逆式粗圧延機100による圧延が2パス目に移行する。この2パス目において、スラブ110は、1パス目とは逆向きに後面テーブルローラ150から粗圧延ミル120に向けて搬送されて、粗圧延ミル120による圧延が行われる。
【0015】
本発明者は、図5に示すタイミングチャートに基づいて種々検討を行い、2パス目に移行する直前で、スラブ110が停止してから粗圧延ミル120の圧下位置APCおよび圧上位置APCが完了するまでの間に、待機時間Δt0(s)が発生している点に着目した。そして、本発明者は、この待機時間Δt0を短縮することにより、可逆式粗圧延機100による粗圧延時間を短縮することができることを想起するに至った。本発明は、以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0016】
本発明に係る圧延材搬送方法は、圧延材を圧延する圧延手段の圧延位置の自動位置制御を行う圧延制御ステップと、搬送手段により圧延材を圧延手段に向けて搬送する搬送ステップと、搬送手段により圧延材の搬送を停止させる停止ステップと、を繰り返し実行することによって、圧延材を圧延する圧延ステップと、停止ステップの後、且つ、圧延制御ステップが完了する時点より前に搬送ステップを開始するように、搬送ステップの開始タイミングを制御する搬送開始タイミング制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る圧延材搬送方法は、上記の発明において、圧延制御ステップが、圧延手段の圧上位置を自動位置制御する圧上制御ステップと、圧延手段の圧下位置を自動位置制御する圧下制御ステップと、を含み、搬送開始タイミング制御ステップが、停止ステップの後、且つ、圧下制御ステップおよび圧上制御ステップがともに完了する時点より前に、搬送ステップを開始するように、搬送ステップの開始タイミングを制御するステップであることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る圧延材搬送方法は、上記の発明において、搬送ステップが、搬送手段により、圧延材を、圧延手段に進入させる際に必要な圧延進入速度より小さい所定速度まで加速させる第1の加速ステップと、搬送手段により、圧延材の先端が、圧延手段に到達する前に圧延材の搬送を停止可能且つ圧延手段に到達する前に圧延材を圧延進入速度まで加速可能な所定距離だけ圧延手段から離れた位置まで搬送される間に、制御手段により、圧延手段の自動位置制御が完了しているか否かが検知され、自動位置制御が完了していると検知された場合に、搬送手段により圧延材を圧延進入速度まで加速させる第2の加速ステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る圧延材搬送方法は、上記の発明において、搬送ステップが、搬送手段により、圧延材を、圧延手段に進入させる際に必要な圧延進入速度より小さい所定速度まで加速させる加速ステップと、搬送手段により、圧延材の先端が、圧延手段に到達する前に圧延材の搬送を停止可能且つ圧延手段に到達する前に圧延材を圧延進入速度まで加速可能な所定距離だけ圧延手段から離れた位置まで搬送される間に、制御手段により、圧延手段の自動位置制御が完了しているか否かが検知され、自動位置制御が完了していないと検知された場合に、搬送手段により圧延材を停止するまで減速させる減速ステップとを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る圧延材搬送方法は、上記の発明において、搬送開始タイミング制御ステップが、制御手段によって、圧延手段の自動位置制御における目標値と、圧延手段が自動位置制御を行っている時点の現在値との差を検出するステップと、目標値と現在値との差が所定値以下になった時点で、搬送手段により圧延材の搬送を開始するステップとを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る圧延装置は、圧延材を圧延する圧延手段と、圧延材を搬送する搬送手段と、圧延手段および搬送手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、圧延材に対する圧延手段の圧延位置の自動位置制御を行う圧延制御ステップと、搬送手段により圧延材を圧延手段に向けて搬送する搬送ステップと、搬送手段により圧延材の搬送を停止させる停止ステップと、を繰り返し実行することによって、圧延材を圧延し、停止ステップの後、且つ、圧延制御ステップが完了する時点より前に搬送ステップを開始するように、搬送ステップの開始タイミングを制御することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る圧延装置は、上記の発明において、圧延手段が、圧延材を上方から圧延する上圧延部と、圧延材を下方から圧延する下圧延部とからなり、制御手段は、搬送手段による圧延材の搬送を停止した時点より後で、上圧延部の自動位置制御が終了する時点または下圧延部の自動位置制御が終了する時点より前に、搬送ステップを開始するように、搬送ステップの開始タイミングを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明による圧延材搬送方法および圧延装置によれば、圧延材に対する圧延の処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の一実施形態による可逆式粗圧延機を示す略線図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態による可逆式粗圧延機のテーブルローラおよび圧延ミルの制御を示すタイミングチャートである。
【図3】図3は、本発明の一実施形態による圧延材搬送方法のフローチャートである。
【図4】図4は、従来技術による制御が行われる可逆式粗圧延機を示す略線図である。
【図5】図5は、可逆式粗圧延機のテーブルローラおよび圧延ミルの、従来技術による制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。図1に、この一実施形態による圧延装置としての可逆式粗圧延機を示す。
【0026】
図1に示すように、この一実施形態による可逆式粗圧延機1は、スラブ2に対して粗圧延を行う圧延手段としての粗圧延ミル3と、スラブ2の幅を整えるエッジャー4と、エッジャー4の前方に配設された前面テーブルローラ5と、粗圧延ミル3の後方に配設された搬送手段としての後面テーブルローラ6とを備える。
【0027】
可逆式粗圧延機1には、粗圧延ミル3、エッジャー4、前面テーブルローラ5、および後面テーブルローラ6を制御する制御手段として制御部7が設けられている。この制御部7は、情報データを処理する中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)7aと、情報データを記憶する記憶部7bと、情報データを記録して、必要に応じてCPU7aや記憶部7bに情報データを読み出し可能な記録媒体7cとを有する。
【0028】
この制御部7の制御によって、粗圧延ミル3のAPCが行われる。すなわち、制御部7によって、粗圧延ミル3の下部のワークロール3aにおける圧上位置APCや、上部のワークロール3bにおける圧下位置APCが制御される。また、制御部7によって、エッジャー4の開度APCが制御される。さらに、制御部7によって、前面テーブルローラ5および後面テーブルローラ6によるスラブ2の搬送が制御され、スラブ2の搬送向きや搬送速度が制御される。また、制御部7の記録媒体7cには、後述する圧延材搬送方法に基づく制御プロセスがプログラムおよびデータベースとして格納されている。そして、この記録媒体7cから記憶部7bを通じてプログラムおよびデータベースをCPU7aによって処理することによって、制御部7は、粗圧延ミル3、エッジャー4、前面テーブルローラ5、および後面テーブルローラ6を制御するように構成されている。
【0029】
次に、以上のように構成された可逆式粗圧延機1において、上述した待機時間Δt0を短縮して圧延時間を削減する具体的な方法について、本発明者が行った検討内容について説明する。
【0030】
上述したように、本発明者は、可逆式粗圧延機1において、2パス目に移行する直前の、スラブ2が停止してから粗圧延ミル3の圧下位置APCおよび圧上位置APC(以下、APCと総称することがある)が完了するまでの待機時間Δt0に着目した。本発明者の検討によれば、この待機時間Δt0を短縮するには、スラブ2の搬送を、粗圧延ミル3のAPCが完了する前に開始する、いわゆる見込み進入制御を行うことが望ましい。
【0031】
しかしながら、粗圧延ミル3のAPCが完了する前の時点でスラブ2の搬送を開始すると、スラブ2が粗圧延ミル3に到達した時点では、粗圧延ミル3のAPCが完了していない可能性が考えられる。この場合、スラブ2の搬送を停止して、スラブ2が粗圧延ミル3に到達しないようにする必要がある。そして、後面テーブルローラ6によって搬送されているスラブ2を粗圧延ミル3に到達しないようにするためには、スラブ2の搬送速度を減速させて、スラブ2が粗圧延ミル3に到達する前に停止させる必要がある。なお、粗圧延ミル3に到達する前にスラブ2を停止させると、後面テーブルローラ6が制御されてスラブ2はオシレーションポイントO´まで戻され、このオシレーションポイントO´を中心としてスラブ2のオシレーションが行われる。
【0032】
そこで本発明者は、スラブ2が粗圧延ミル3に到達するまでの間に、スラブ2が停止するまで減速させる場合の搬送の設定条件について検討を行った。
【0033】
まず、後面テーブルローラ6によってスラブ2が所定速度V1(mm/s)で搬送されている状態から、停止するまでに必要な理論的距離は、後面テーブルローラ6によるスラブ2の加速度をα(mm/s2)とすると、(1)式により求められる。
【数1】

【0034】
ここで、一例として、可逆式粗圧延機1の粗圧延ミル3への圧延進入速度としての噛み込み速度を所定速度V1として検討を行う。なお、この噛み込み速度は、スラブ2の材料に応じて異なる速度であり、この一実施形態においては、噛み込み速度の最大は例えば178mpm(2967mm/s)である。また、この一実施形態において、加速度αを2000mm/s2とすると、スラブ2が所定速度V1から停止するまでの理論的距離は、(1)式から2200mmとなる。
【0035】
さらに、後面テーブルローラ6によってスラブ2を搬送する場合には、スラブ2の流れ量も考慮する必要がある。このスラブ2の流れ量を考慮して余裕量l(mm)を設定すると、スラブ2が所定速度V1で搬送されている状態から停止するまでに必要な停止可能距離Ls(mm)は、(2)式により求められる。
【数2】

【0036】
ここで、この一実施形態において、余裕量lを例えば500mmとすると、スラブ2が確実に停止するまでに必要な停止可能距離Lsは、(2)式から2700mmとなる。
【0037】
このように、スラブ2を粗圧延ミル3に到達する前に停止させるためには、スラブ2が粗圧延ミル3の位置Rから停止可能距離Lsの位置に到達する時点までに、制御部7が停止の判断をして、スラブ2の搬送速度を減速させる制御をする必要がある。
【0038】
すなわち、スラブ2が、進行方向に沿った先端を尾端停止位置Oに位置させて粗圧延ミル3の位置Rから距離L0だけ離れて停止している状態から、距離(L0−Ls)だけ搬送される間に、制御部7は、粗圧延ミル3のAPCが完了しているか否かを検知して、スラブ2を停止させるか否かを判断し、その搬送を制御する必要がある。以下、スラブ2の尾端停止位置Oから制御部7が所定の制御の判断を行う時点までスラブ2が搬送される距離を、進入チェック距離ΔL(mm)と称する。また、スラブ2を進入チェック距離ΔLだけ搬送するのに要する時間を、進入チェック時間Δt(s)と称する。ここで、停止可能距離Ls、進入チェック距離ΔL、および尾端停止位置Oと粗圧延ミル3の位置Rとの距離L0の関係は、以下の(3)式で表される。
【数3】

【0039】
また、スラブ2は、尾端停止位置Oから搬送が開始されて粗圧延ミル3の位置Rから搬送方向手前の停止可能距離Lsの位置に到達するまでの間において、後面テーブルローラ6によって所定速度V1になるまでは加速度αで加速される。そのため、この所定速度V1になるまでに要する加速時間Δt1(s)を考慮すると、Δt1≦Δtの場合には、進入チェック時間Δtは、以下の(4)式で表される。
【数4】

【0040】
一方、Δt1>Δtの場合には、スラブ2は所定速度V1まで加速されず、進入チェック時間Δtは、以下の(5)式で表される。
【数5】

【0041】
ここで、この一実施形態において、スラブ2が停止するまでに必要な停止可能距離Lsは2700mmであり、尾端停止位置Oと粗圧延ミル3の位置Rとの距離L0が例えば3500mmであるとすると、進入チェック距離ΔLは、800mmとなり、進入チェック時間Δtは(4)式または(5)式から約0.9sとなる。
【0042】
このスラブ2の搬送に関する制御を判断する時間である進入チェック時間Δtに対して、制御部7による判断に一定の余裕時間Δt´(s)を確保した時間(Δt−Δt´)を考える。この時間(Δt−Δt´)は、スラブ2の搬送を開始する場合において、粗圧延ミル3のAPCが完了する前に見込みで搬送させることができる時間t(s)(以下、見込み時間t)に充てることができる。これにより、見込み時間tを増加させて、スラブ2の待機時間Δt0を短縮することができる。
【0043】
ここで、この一実施形態において一定の余裕時間Δt´を例えば0.4sとすると、見込み時間は約0.5sとなる。
【0044】
この見込み時間tを長くするためには、進入チェック時間Δtを長くする必要がある。そこで、本発明者は、粗圧延ミル3のAPCが完了する前にスラブ2の搬送を開始する場合に、スラブ2の搬送速度を実際の噛み込み速度より小さい、ある所定速度に抑えた噛み込み制限速度V2(mm/s)を設定することにより、進入チェック時間Δtを長くして見込み時間tを長くすることを想起した。
【0045】
ところが、この場合、スラブ2が粗圧延ミル3に到達した時点で、粗圧延ミル3のAPCが完了していても、スラブ2の速度が噛み込み速度より小さいと、スラブ2が粗圧延ミル3に適切に噛み込まれない可能性が想定される。スラブ2の搬送速度を噛み込み制限速度V2に設定した場合、スラブ2を粗圧延ミル3に適切に噛み込ませるためには、後面テーブルローラ6によってスラブ2を噛み込み速度V3(mm/s)まで加速させる必要がある。
【0046】
すなわち、進入チェック時間Δtを可能な限り長く確保しつつ、スラブ2が粗圧延ミル3に到達した時点でその搬送速度が噛み込み速度になるように制御する必要がある。そこで、本発明者は、上述した停止可能距離Lsの検討と同様の検討を行って、スラブ2が粗圧延ミル3に到達するまでの間に、スラブ2を必要な噛み込み速度まで加速させる場合の設定条件について検討を行った。
【0047】
まず、後面テーブルローラ6によってスラブ2が所定の噛み込み制限速度V2で搬送されている状態から、噛み込み速度V3まで加速させるのに必要な理論的距離は、後面テーブルローラ6によるスラブ2の加速度をαとすると、(6)式により求められる。
【数6】

【0048】
上述したように、噛み込み速度V3の最大はスラブ2の材料に応じて異なり、この一実施形態においては、例えば178mpm(2967mm/s)である。ここで、一例として、噛み込み制限速度V2を100mpm(1667mm/s)とし、加速度αを2000mm/s2とすると、スラブ2の搬送速度を噛み込み制限速度V2から噛み込み速度V3にまで加速させるのに必要な理論的距離は、(6)式から1506mmとなる。
【0049】
さらに、スラブ2の流れ量も考慮して余裕量l(mm)を設定すると、スラブ2を噛み込み制限速度V2で搬送されている状態から噛み込み速度V3にまで加速させるのに必要な加速可能距離Lv(mm)は、(7)式により求められる。
【数7】

【0050】
ここで、この一実施形態において、余裕量lを例えば500mmとすると、スラブ2を噛み込み制限速度V2から噛み込み速度V3にまで加速させるのに必要な加速可能距離Lvは、(7)式から2006mmとなる。
【0051】
このように、スラブ2を粗圧延ミル3に噛み込み速度V3で到達させるには、スラブ2が粗圧延ミル3の位置Rから加速可能距離Lvの位置に到達する時点までに、制御部7が加速を行う判断をして、スラブ2の搬送速度を加速させる制御をする必要がある。
【0052】
すなわち、スラブ2が、その尾端を尾端停止位置Oで位置させて粗圧延ミル3の位置Rから距離L0だけ離れて停止している状態から、進入チェック距離ΔL(mm)だけ搬送される間に、制御部7は、粗圧延ミル3のAPCが完了しているか否かを検知して、スラブ2を加速させるか否かを判断し、その搬送を制御する必要がある。ここで、加速可能距離Lv、進入チェック距離ΔL、および尾端停止位置Oと粗圧延ミル3の位置Rとの距離L0の関係は、以下の(8)式で表される。
【数8】

【0053】
以上の検討を総合すると、制御部7は、粗圧延ミル3のAPCが完了しているか否かを検知して、すでに搬送が開始されているスラブ2の加速または停止を判断する必要がある。この判断時点の粗圧延ミル3の位置Rからの距離L(mm)としては、停止可能距離Lsと加速可能距離Lvとがともに確保されている必要があることから、停止可能距離Lsと加速可能距離Lvとの大きい方を選択する必要がある。そのため、この一実施形態による進入チェック距離ΔLは(9)式で表される。
【数9】

【0054】
次に、本発明者は、上述した検討に基づいて、進入チェック時間Δtを最も長く確保することができるスラブ2の噛み込み制限速度V2について検討を行った。
【0055】
まず、この一実施形態において、噛み込み速度V3は例えば178mpmであり、後面テーブルローラ6によるスラブ2の加速度αは例えば2000mm/s2である。この設定条件下において、スラブ2の搬送における噛み込み制限速度V2を、80mpm、100mpm、120mpm、および140mpmとして、上述した加速可能距離Lv、停止可能距離Ls、および進入チェック距離ΔLから、進入チェック時間Δtを算出した。この算出結果を表1に示す。
【表1】

【0056】
表1から、この一実施形態において、スラブ2の搬送における制限速度を120mpmとした場合に、進入チェック時間Δtが最も長くなることが分かる。そこで、スラブ2の噛み込み制限速度V2を120mpmとし、制御部7による粗圧延ミル3のAPCの完了の検知およびスラブ2の加速または停止の判断を、スラブ2が進入チェック距離ΔLの1800mm搬送される時点までに行うようにする。また、進入チェック時間Δtが1.4sであることから、余裕時間Δt´の0.4sを考慮すると、見込み時間tは1.0sとなる。スラブ2の搬送を、粗圧延ミル3のAPCが完了する時点から見込み時間tの1.0sだけ前に開始することによって、制御部7による粗圧延ミル3のAPCの完了の検知およびスラブ2の加速または停止の判断を行う時間を確保しつつ、スラブ2の待機時間が短縮されて、圧延時間が短縮される。
【0057】
ところが、粗圧延ミル3のAPCが完了する時点は確定しないため、スラブ2の搬送の開始時点を、粗圧延ミル3のAPCが完了する時点より見込み時間tだけ前の時点として設定することは困難である。そこで、本発明者は、粗圧延ミル3のAPCの完了の時点から見込み時間tだけ前の時点における、APCによるワークロール3a,3bの位置を圧延実績に基づいて算出し、この位置に基づいて、スラブ2の搬送を開始するタイミングを確定することを想起した。図2に、この一実施形態による可逆式粗圧延機1の前面テーブルローラ5、後面テーブルローラ6および粗圧延ミル3の制御を示すタイミングチャートを示す。図2に示すように、スラブ2の搬送は、粗圧延ミル3のAPCが完了して2パス目に移行する時点から見込み時間tだけ前の時点で開始する。
【0058】
そこで、従来の圧延実績に基づいて、粗圧延ミル3のAPCが完了した時点より見込み時間tだけ前の時点での、粗圧延ミル3の圧上位置APCの現在値と圧上位置APCの目標値との差d1(mm)と、粗圧延ミル3の圧下位置APCの現在値と圧下位置APCの目標値との差d2(mm)とを求めた。そして、本発明者は、粗圧延ミル3の圧上位置APCの現在値と圧上位置APCの目標値との差がd1以下になった時点を見込み圧上APC完了と設定した。また、粗圧延ミル3の圧下位置APCの現在値と圧下位置APCの目標値との差がd2以下になった時点を見込み圧下APC完了と設定した。
【0059】
そして、スラブ2の搬送を、制御部7により見込み圧上APC完了と見込み圧下APC完了とが共に検知されたときに開始するように設定する。これによって、粗圧延ミル3のAPCが完了する前にスラブ2の搬送を開始して圧延時間を短縮することができるとともに、制御部7によるスラブ2の停止および加速の判断も問題なく行うことができる。
【0060】
ここで、この一実施形態においては、見込み時間tが1.0sのときに、圧延実績からd1が4mm、d2が20mmと求められた。そこで、これらの設定値に基づいて、見込み圧上APC完了と見込み圧下APC完了とを設定して、実際に可逆式粗圧延機1を稼動させたところ、0.9〜1.2sの時間の短縮が確認された。
【0061】
本発明は以上の検討に基づいて案出されたものである。以下、本発明の一実施形態による可逆式粗圧延機を用いた圧延材搬送方法について説明する。図3に、この一実施形態による圧延材搬送方法のフローチャートを示す。
【0062】
図1および図2に示すように、可逆式粗圧延機1による圧延の1パス目では、スラブ2は、粗圧延ミル3によって圧延されながら前面テーブルローラ5から後面テーブルローラ6に正の搬送速度で搬送される(図3中、ステップST1)。なお、図2においては、粗圧延ミル3による圧延の荷重がロードセル(図示せず)によって検出されている時間が圧延ミルロードセル検出とされている。続いて、キックアウト制御が行われた後、スラブ2は、その尾端が尾端停止位置Oに位置するように停止される(図3中、ステップST2)。
【0063】
次に、図1に示す制御部7によって、粗圧延ミル3のAPCが完了していない動作中の状態で、粗圧延ミル3の圧上位置APCの現在値と圧上位置APCの目標値との差がd1以下、かつ、粗圧延ミル3の圧下位置APCの現在値と圧下位置APCの目標値との差がd2以下になったことが検出された時点、すなわち、見込み圧上APC完了と見込み圧下APC完了とが共に検出された時点(図3中、ステップST3:Yes)で、スラブ2の見込み進入として搬送が開始される(図3中、ステップST4)。
【0064】
次に、図3に示すステップST4において、図1に示すように、スラブ2は、制御部7の制御によって進入チェック距離ΔLまで後面テーブルローラ6により噛み込み制限速度V2にまで加速された後、この噛み込み制限速度V2で搬送される。スラブ2が進入チェック距離ΔLだけ搬送される進入チェック時間Δtの間に、制御部7により粗圧延ミル3のAPCが完了しているか否かが検知される(図3中、ステップST5)。このとき、粗圧延ミル3のAPCの完了が検知されれば(図3中、ステップST5:Yes)、制御部7により後面テーブルローラ6が制御されて、スラブ2を加速させる制御が行われる(図3中、ステップST6)。
【0065】
他方、粗圧延ミル3のAPCが未完了であると検知される(図3中、ステップST5:No)と、制御部7により後面テーブルローラ6が制御されて、スラブ2を停止させる制御を行う(図3中、ステップST9)。なお、スラブ2が停止されると、制御部7により後面テーブルローラ6が制御されて、スラブ2はオシレーションポイントO´まで戻され、このオシレーションポイントO´を中心としてスラブ2のオシレーションが行われる(図3中、ステップST10)。
【0066】
図3に示すステップST6におけるスラブ2の加速制御後、粗圧延ミル3の上側のワークロール3bによる圧下位置APCが完了し、かつ、下側のワークロール3aの圧上位置APCが完了すると、可逆式粗圧延機1による圧延が2パス目に移行する。この2パス目において、スラブ2は、1パス目とは反対向きに後面テーブルローラ6から粗圧延ミル3に向けて搬送されて、粗圧延ミル3によってスラブ2の圧延が行われる(図3中、ステップST7)。以上の一連の粗圧延動作は、スラブ2が所定の厚さになるまで数パス繰り返し行わる(図3中、ステップST8:No)。スラブ2が所定の厚さになった段階(図3中、ステップST8:Yes)で粗圧延動作は終了する。
【0067】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、圧延ミルの2パス目において、粗圧延ミル3のAPCの完了前にスラブ2の搬送を開始して見込み進入制御を行っていることにより、スラブ2の圧延時間を、3パスで処理する場合に1秒以上、5パスで処理する場合に2秒間以上短縮することが可能となった。ここで、1箇月間の圧延実績から、この一実施形態による圧延材搬送方法を適用した場合に、圧延能率が合計で0.62ton/h向上したことが確認された。
【符号の説明】
【0068】
1 可逆式粗圧延機
2 スラブ
3 粗圧延ミル
3a,3b ワークロール
4 エッジャー
5 前面テーブルローラ
6 後面テーブルローラ
7 制御部
7a CPU
7b 記憶部
7c 記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材を圧延する圧延手段の圧延位置の自動位置制御を行う圧延制御ステップと、搬送手段により前記圧延材を前記圧延手段に向けて搬送する搬送ステップと、前記搬送手段により前記圧延材の搬送を停止させる停止ステップと、を繰り返し実行することによって、圧延材を圧延する圧延ステップと、
前記停止ステップの後、且つ、前記圧延制御ステップが完了する時点より前に前記搬送ステップを開始するように、前記搬送ステップの開始タイミングを制御する搬送開始タイミング制御ステップと、を含む
ことを特徴とする圧延材搬送方法。
【請求項2】
前記圧延制御ステップが、前記圧延手段の圧上位置を自動位置制御する圧上制御ステップと、前記圧延手段の圧下位置を自動位置制御する圧下制御ステップと、を含み、前記搬送開始タイミング制御ステップが、前記停止ステップの後、且つ、前記圧下制御ステップおよび前記圧上制御ステップがともに完了する時点より前に、前記搬送ステップを開始するように、前記搬送ステップの開始タイミングを制御するステップであることを特徴とする請求項1に記載の圧延材搬送方法。
【請求項3】
前記搬送ステップが、前記搬送手段により、前記圧延材を、前記圧延手段に進入させる際に必要な圧延進入速度より小さい所定速度まで加速させる第1の加速ステップと、前記搬送手段により、前記圧延材の先端が、前記圧延手段に到達する前に前記圧延材の搬送を停止可能且つ前記圧延手段に到達する前に前記圧延材を前記圧延進入速度まで加速可能な所定距離だけ前記圧延手段から離れた位置まで搬送される間に、前記制御手段により、前記圧延手段の自動位置制御が完了しているか否かが検知され、前記自動位置制御が完了していると検知された場合に、前記搬送手段により前記圧延材を前記圧延進入速度まで加速させる第2の加速ステップとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の圧延材搬送方法。
【請求項4】
前記搬送ステップが、前記搬送手段により、前記圧延材を、前記圧延手段に進入させる際に必要な圧延進入速度より小さい所定速度まで加速させる加速ステップと、前記搬送手段により、前記圧延材の先端が、前記圧延手段に到達する前に前記圧延材の搬送を停止可能且つ前記圧延手段に到達する前に前記圧延材を前記圧延進入速度まで加速可能な所定距離だけ前記圧延手段から離れた位置まで搬送される間に、前記制御手段により、前記圧延手段の自動位置制御が完了しているか否かが検知され、前記自動位置制御が完了していないと検知された場合に、前記搬送手段により前記圧延材を停止するまで減速させる減速ステップとを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の圧延材搬送方法。
【請求項5】
前記搬送開始タイミング制御ステップが、前記制御手段によって、前記圧延手段の自動位置制御における目標値と、前記圧延手段が自動位置制御を行っている時点の現在値との差を検出するステップと、前記目標値と前記現在値との差が所定値以下になった時点で、前記搬送手段により前記圧延材の搬送を開始するステップとを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧延材搬送方法。
【請求項6】
圧延材を圧延する圧延手段と、
前記圧延材を搬送する搬送手段と、
前記圧延手段および前記搬送手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記圧延材に対する前記圧延手段の圧延位置の自動位置制御を行う圧延制御ステップと、前記搬送手段により前記圧延材を前記圧延手段に向けて搬送する搬送ステップと、前記搬送手段により前記圧延材の搬送を停止させる停止ステップと、を繰り返し実行することによって、圧延材を圧延し、
前記停止ステップの後、且つ、前記圧延制御ステップが完了する時点より前に前記搬送ステップを開始するように、搬送ステップの開始タイミングを制御する
ことを特徴とする圧延装置。
【請求項7】
前記圧延手段が、前記圧延材を上方から圧延する上圧延部と、前記圧延材を下方から圧延する下圧延部とからなり、前記制御手段は、前記搬送手段による前記圧延材の搬送を停止した時点より後で、前記上圧延部の自動位置制御が終了する時点または前記下圧延部の自動位置制御が終了する時点より前に、前記搬送ステップを開始するように、前記搬送ステップの開始タイミングを制御することを特徴とする請求項6に記載の圧延装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate