圧延用ロール及びその製造方法
【課題】ロール厚さ方向における外層の使用径範囲において、ほぼ均等に黒鉛が形成された圧延用ロール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、ロールの使用開始径をt1、廃棄径よりも10mm大きい直径をt2としたとき、t1からt2の範囲における金属組織中の黒鉛面積率の差を1.0%以内とした。
【解決手段】遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、ロールの使用開始径をt1、廃棄径よりも10mm大きい直径をt2としたとき、t1からt2の範囲における金属組織中の黒鉛面積率の差を1.0%以内とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延用ロール及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、遠心力鋳造により作製される外層を有する圧延用ロール及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の熱間圧延に用いられる圧延用ロールには、鋼板と接する外層にすぐれた耐摩耗性とすぐれた通板性が求められており、内層となる軸芯材には強靱性が要求される。そこで、圧延用ロールとして、耐摩耗性と通板性にすぐれる高合金耐摩耗鋳鉄材やハイス系材料の遠心力鋳造により形成した外層と、強靱性にすぐれる鋳鉄、鋳鋼又は合金鋼等の内層とを冶金的又は機械的に一体化した複合構造のものが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールは、外層がハイス系材料からなる圧延用ロールに比して耐摩耗性に劣るが、通板性及び耐事故性が良好であるため、通板性や耐事故性が重視される仕上げ圧延の後段側に使用されることが多い。
【0004】
外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールが、高い通板性を有する理由として、外層の金属組織中における黒鉛の存在が挙げられる。しかしながら、近年は、耐摩耗性を向上させるために、外層材料に炭化物形成元素を添加する傾向にあり、MC型炭化物の増加に伴い黒鉛の適量晶出が困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−279367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧延用ロールの耐摩耗性を具現するために形成されるMC型炭化物について、溶湯鋳込み時の外層材料中における比重の違いから、MC型炭化物の分布を最適化する検討や開発は行なわれているが、金属組織中の黒鉛に対しては、外層表面における微細化や分散を目的として、黒鉛の粒径や面積率が検討されていた。
遠心力鋳造用金型に外層材料を注湯した際に、金型近傍の外層外周側は、金型による冷却速度が速いため黒鉛は比較的晶出しにくいのに対し、金型から離れた外層内周側は、冷却速度が遅いため、黒鉛が生成しやすく、また成長もしやすい。
黒鉛は、圧延の際に通板性や耐事故性を改善する効果があるが、多すぎると黒鉛を起因とした摩耗過多や肌荒れを発生させる性質がある。
【0007】
遠心力鋳造用金型近傍の外層外周側で適正な黒鉛量を得ようとした場合、黒鉛化促進元素である炭素や珪素などを外層材料中で増加させ、金型による急冷域でも黒鉛を得やすくすることはできるが、金型から離れた外層内周側では冷却が遅いため、増加させた炭素や珪素の影響により黒鉛が粗大化し易くなり、実際の圧延で使用したとき、初期の耐摩耗性及び通板性には優れるものの、使用が進むにつれて肌荒れや耐摩耗性不足の問題を有する圧延用ロールとなりやすい。
特に黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材にMC型炭化物を形成させる合金組成において、外層材料の炭素濃度を高めたときに、上記現象が生じ易い。
【0008】
一方、外層内周側で目標の黒鉛量を得ようとした場合、逆に金型による急冷域において、黒鉛が不足、または得られないことにより、通板性などの問題が発生しやすい圧延用ロールとなりやすい。
【0009】
本発明の目的は、ロール厚さ方向における外層の使用径範囲において、ほぼ均等に黒鉛が形成された圧延用ロール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の圧延用ロールは、
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
ロールの使用開始径をt1、ロールの廃棄径よりも10mm大きい直径(以下、「廃棄径+10mm」と称する。)をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率差を1.0%以内とした。
ここで使用開始径とは、製造されたロールを初めて圧延に使用する直径とし、廃棄径とは、仕様で定められた最小の使用可能なロール直径とする。本願では、ロールの使用開始径から廃棄径までの外層の使用径範囲において良好な黒鉛量のコントロールを行なうために、使用開始径(t1)から少なくとも廃棄径+10mm(t2)までの黒鉛量をコントロールすることにより、優れた圧延用ロールが得られるようにしている。
廃棄径+10mmをt2としたのは、境界部である廃棄径部分と比較してt2部分(廃棄径+10mm)が使用径範囲内として明確であること、さらに本発明の圧延用ロールの使用径範囲において、任意部分間の距離が5mm程度のとき金属組織状態に大きな差が見られなかったためである。そのため、少なくとも黒鉛量をコントロールするべき範囲として、廃棄径+10mmをt2と設定した。
【0011】
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
外層中にC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%を含有し、ロールの使用開始径(t1)部分における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mm(t2)部分における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とした。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の遠心力鋳造法による圧延用ロールの製造方法は、
遠心力鋳造において、外層内周側に比べて外層外周側の硼素濃度が高くなるように硼素を適用して行なう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧延用ロールは、ロール厚さ方向における外層中の黒鉛を均等に分散させることにより、特に、外層内周側における黒鉛の粗大化が抑えられるから、粗大化した黒鉛の摩耗等による肌荒れを防止させることができる。
【0014】
本発明の圧延用ロールは、使用開始径(t1)における外層成分中の硼素の質量%を、廃棄径+10mm(t2)における外層成分中の硼素の質量%より大きくしている。これにより、外層外周側にて、硼素の作用として黒鉛を晶出しやすくすることができ、外層外周側と外層内周側の黒鉛量がコントロールされた圧延用ロールを得ることができる。
【0015】
また、本発明の圧延用ロールの製造方法によれば、遠心力鋳造用金型に注ぎ込まれる初期の外層溶湯に、硼素が多く混和されるように調整することで、金型の近傍となる外層外周側にて、硼素の作用で黒鉛を晶出させ易くすることができ、外層における黒鉛量をコントロールできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の圧延用ロールの断面図である。
【図2】外層の遠心力鋳造工程の一例を示す断面図である。
【図3】実施例及び比較例における外層の任意の点の黒鉛面積率の結果を示すグラフである。
【図4】発明例1の(a)使用開始径(t1)におけるミクロ組織写真である。
【図5】発明例1の(b)15mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図6】発明例1の(c)30mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図7】発明例1の(d)45mm内部(t2相当部)におけるミクロ組織写真である。
【図8】比較例1の(a)使用開始径(t1)におけるミクロ組織写真である。
【図9】比較例1の(b)15mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図10】比較例1の(c)30mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図11】比較例1の(d)45mm内部(t2相当部)におけるミクロ組織写真である。
【0017】
図1は、圧延用ロール(10)の断面図である。図に示すように、圧延用ロール(10)は、圧延面となる外層(20)と、該外層(20)の内側に内層(30)を冶金的又は機械的に一体化して構成される。このとき内層の合金組成は、強靱性に優れる鋳鉄、鋳鋼又は合金鋼が利用できるが、球状黒鉛鋳鉄が好適に用いられる。
また、外層と内層の間に、中間層として他の合金組成を有する層を設けていても良い。
【0018】
圧延用ロール(10)の外層(20)は、黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材から作製することができる。
外層(20)は、ロールの使用開始径(直径)をt1、廃棄径+10mm(直径)をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率の差を1.0%以内となるようにする。
ここで、黒鉛面積率を測定する任意部分とは、該当径部分における1mm×1mm〜2mm×2mmの面積部分とすることが望ましい。理由として、任意部分が1mm×1mmよりも小さいと、平均的な黒鉛面積率の測定に誤差が生じる可能性があり、また、任意部分が2mm×2mmを越える範囲を測定しても、1mm×1mm〜2mm×2mmの面積部分を測定する場合と比べて、測定結果に差が殆んどないからである。
また、上述した黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材とは、作製された外層(20)の使用開始径t1と廃棄径+10mmであるt2において、少なくとも黒鉛面積率が0.5%以上、望ましくは1.0%以上となるように黒鉛が晶出する高合金耐摩耗鋳鉄材を意味する。使用開始径t1と廃棄径+10mmであるt2における黒鉛面積率が、0.5%よりも低い場合、本願発明の如き、黒鉛の晶出調整を行なう必要がないからである。
例えば、圧延用ロール(10)の外径、即ち、使用開始径t1が、500〜900mm(半径250〜450mm)の場合、圧延用ロール(10)は、外層(20)が30〜70mm程度圧延によって消耗されるため、廃棄径+10mmであるt2は、360〜840mm(半径180〜420mm)程度となる。これらt1及びt2は、作製された圧延用ロール(10)の製品仕様によって異なる。
【0019】
外層(20)中の黒鉛量の差を抑えるために、外層(20)中にC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%を含有し、さらに、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3[式内の各元素は、含有する質量%を示す。]を満たす合金組成を有するロールにおいて、ロールの使用開始径(t1)における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mm(t2)における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とすることが望ましい。外層(20)の厚さ方向の硼素量を調整することにより、外層(20)の金属組織中の厚さ方向の黒鉛量の差を小さくすることができる。
【0020】
具体的な外層(20)の成分として、合金組成の質量%が、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%、
残部Fe及び不可避的不純物であって、
式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たす組成を例示できる。
なお、さらにAl:0.01〜0.5%を含有することもできる。
【0021】
以下、各成分限定理由を記す。
C:2.8〜4.0%
Cは主としてFeと結合し、セメンタイトを形成すると共に、V、Nb、Tiと結合してMC型炭化物を形成する。また、晶出及び析出黒鉛となって摩擦係数を低減する効果がある。しかしながら、含有量が2.8%未満では黒鉛化が促進されず、4.0%を越えると黒鉛が粗大且つ過多となり、耐肌荒れ性及び耐摩耗性の劣化を招く。Cの含有量は3.2〜3.7%がさらに望ましい。
【0022】
Si:0.5〜2.5%
Siは湯流れ性の確保と黒鉛の晶出、析出のために必要な元素である。しかしながら、0.5%未満ではその効果が十分でなく、2.5%を越えると黒鉛が過多となり黒鉛を起点とする摩耗が激しくなりやすく、耐摩耗性が劣化する。Siの含有量は0.6から1.8%がより望ましい。
【0023】
Mn:0.2〜2.0%
Mnは硬化能を増し、また、原材料中に不可避的に含まれるSと結合してMnSを生成し、Sによる劣化を防ぐ元素である。Sは原材料中に0.02%程度含有されるため、Mnは0.2%以上含有させることが望ましい。しかしながら、2.0%を越えると靭性の低下を招くため好ましくない。Mnの含有量は0.3〜1.0%がより望ましい。
【0024】
Ni:2.5〜6.0%
Niは基地組織の改良と黒鉛を晶出、析出させる目的で含有させる。2.5%未満であると黒鉛量が過少となりやすく、6.0%を越えるとSiの場合と同様に黒鉛が過多となり、また、残留オーステナイトが増加し、後の熱処理によっても強靭組織にすることが難しくなり、耐摩耗性が低下する。Niの含有量は4.0〜5.0%がより望ましい。
【0025】
Cr:1.0〜2.5%
Crは一部が基地中に固溶して焼入れ性を改善し、耐摩耗性を向上させる。又、セメンタイトにも固溶し、セメンタイトの硬度を向上させる。1.0%未満であれば、このような作用を得ることができず、2.5%を越えると黒鉛化を阻害する。Crの含有量は1.3〜2.1%がより望ましい。
【0026】
Mo:0.2〜0.8%
Moは、主に基地に固溶し、焼入れ性を改善し、耐摩耗性を向上させる。しかしながら、0.2%未満ではこのような効果が不十分であり、0.8%を越えると黒鉛化を阻害する。Moの含有量は0.3〜0.6%がより望ましい。
【0027】
V、Nb、Ti、W:少なくとも1種を合計量で0.2〜3.0%
V、Nb、Ti、WはCと結合し、MC型炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。しかしながら、合計量が0.2%未満であればその効果が不十分となる。一方、合計量が3.0%を越えるとMC型炭化物が過多となり、摩擦係数が大きくなると共に、黒鉛化を阻害する影響も高くなる。各元素は、V:3.0%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.1%以下、W:1.0%以下がより望ましい。また、V、Nb、Tiの含有量は少なくとも1種を合計量で0.5〜2.5%とすることがより望ましい。
また、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たさない組成である場合、CがMC炭化物として多く消費されるため、黒鉛化が困難または黒鉛が不足しやすい。
【0028】
B:0.01〜0.1%
Bは、黒鉛晶出を促進し、また、黒鉛を微細に晶出させる作用がある。Bの含有量は0.02〜0.07%がより望ましい。
なお、上記の如く、ロールの使用開始径をt1、廃棄径+10mmをt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率差を1.0%以内となるようにすることが望まれるため、外層(20)中の硼素含有量は、使用開始径t1における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mmであるt2における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とすることが望ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.5%
Alは組織の均一性を高める効果がある。含有量が、0.01%未満であればその効果を十分に得ることができず、0.2%を越えると、このような効果が飽和すると共に、材質を劣化させる。0.01〜0.1%がより望ましい。
【0030】
なお、合金成分として黒鉛球状化をはかるため、外層成分に、MgやCaを加えてもよい。
【0031】
その他、P、S、O等の不可避的な不純物の混入は許容される。しかしながら、これら不純物は材質を脆くするため、合計で約0.2%以下に抑えることが望ましい。
【0032】
上記構成の圧延用ロール(10)は、外層(20)を遠心力鋳造により鋳込むことで作製することができる。
図2は、外層(20)の遠心力鋳造工程の一例を示している。
図に示すように、外層溶湯(22)は、軸心を中心として高速回転する遠心力鋳造用金型(40)に、外層溶湯(22)を収容した取鍋(50)から三角堰(60)を通って、注湯され、遠心力鋳造用金型(40)内で鋳込まれる。
【0033】
本発明は、圧延用ロール(10)の外層(20)中の黒鉛量の差を小さくすることを目的とするものであり、この目的を達成するために、圧延用ロール(10)は、例えば、注湯される初期の外層溶湯(22)に、硼素量が多く混和されるように調整して作製することができる。
具体的には、取鍋(50)から三角堰(60)を通って注湯される初期の外層溶湯(22)に硼素、または硼素化合物(例えば、B2O3)を三角堰(60)に直接投入したり(図2中、矢印A)、取鍋(50)中の外層溶湯に硼素化合物を所定量、望ましくは、30重量%以上含有するフラックス等を投入すると同時に鋳込むことにより、外層溶湯(22)中の硼素量を調整することができる。また、硼素含有量の異なる2種以上の外層溶湯を準備し、硼素含有量の多い外層溶湯から順に遠心力鋳造用金型(40)に注湯するようにしてもよい。また、外層溶湯(22)に硼素を直接投入するのではなく、遠心力鋳造用金型(40)の内面に塗型した後、さらに塗型表面に硼素成分を含むものを塗布することで、金型(40)内に注ぎ込まれた外層溶湯(22)中に、硼素成分を溶け出すようにしてもよい。
【0034】
上記により、遠心力鋳造時の金型側に位置する溶湯の硼素濃度を高くすることで、金型(40)近傍の冷却速度の速い外層(20)外周側の黒鉛晶出を助長させることができ、冷却速度の遅い外層(20)内周側との黒鉛面積率や、黒鉛量の差を小さくすることができる。
【実施例】
【0035】
図2に示す横型遠心力鋳造用金型(40)を用いて、以下の条件で、直径700mm(半径350mm)、使用径範囲厚さ50mm、外層厚さが60〜65mmの圧延用ロール(発明例1〜5及び比較例1〜3)を作製した。
各外層の溶湯組成を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
発明例1及び3は、図2に示した外層溶湯注湯初期に、溶湯3250kgに対して、三角堰(60)にB2O3を2kg投入した。
また、発明例4〜5は、取鍋(50)にB2O3を30重量%含有したフラックスを10kg投入し、注湯した。
【0038】
遠心力鋳造により得られた圧延用ロールの発明例1乃至5及び比較例1〜3の外層(20)について、外周面に機械加工を施し、得られた外層(20)の使用開始径(t1)、使用開始径から15mm内部、30mm内部及び廃棄径+10mmであるt2(使用開始径から45mm内部)の位置で、それぞれ、1.9mm×1.4mmの部分に対し、ミクロ組織写真を撮影し、画像解析(三谷商事株式会社製「画像解析装置 WinROOF」)を行なうことによって黒鉛面積率を測定した。
【0039】
結果を表2、図3及び図4乃至図11に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2を参照すると、発明例1〜5は、使用開始径t1から廃棄径+10mmであるt2までの範囲における金属組織中の黒鉛面積率のバラツキが1.0%以内に収まっていることがわかる。
【0042】
図3は、発明例1と比較例1の黒鉛面積率のバラツキをグラフ化したものであり、図4乃至図11は、発明例1及び比較例1の(a)使用開始径(t1)、(b)15mm内部、(c)30mm内部、及び、(d)45mm内部(廃棄径+10mm(t2))のミクロ組織写真を示している。
図3を参照すると、比較例1は、使用開始径(t1)から廃棄径+10mm(t2)に向かうに従って、黒鉛面積率が増大しているのに対し、発明例1は、黒鉛面積率が殆んど変動していないことがわかる。発明例1と比較例1のミクロ組織写真(図4乃至図11)を参照すると、発明例1では、(a)の使用開始径(t1)における黒鉛は、微細に分散しているが、(b)〜(d)では黒鉛粒径及び分布数がほぼ一定していることがわかる。一方、比較例1は、(a)から(d)に向かうにつれて、黒鉛粒が肥大化しており、面積率も大きくなっている。
【0043】
これは、発明例1〜5が、溶湯初期に硼素化合物を直接投入、又はフラックス等として投入することで、外層の厚さ方向における黒鉛を均等に分散しており、黒鉛の粗大化が抑えられた結果である。黒鉛面積率の差を抑えることができたため、発明例の外層(20)を用いた圧延用ロール(10)は、黒鉛の粗大化による脱落等を防止でき、鋼板の肌荒れを防ぐことができる。
一方、比較例1乃至3は、発明例の如き硼素量の調整を行なっていないから、金型に近い部分は、金型による急速な冷却を受けるため、黒鉛が少量しか晶出していないのに対し、金型から遠い外層内周側で冷却速度が遅くなり、黒鉛が成長し粗大化した結果、黒鉛面積率に差が生じていることがわかる。
さらに、比較例2、3は、t1とt2の少なくとも一方の何れかにおいて黒鉛面積率が0.5%よりも小さく、黒鉛晶出の少ない圧延用ロールであり、黒鉛の粗大化等による問題は少ないが、黒鉛晶出によりもたらされる圧延の際の通板性や耐事故性が発明例1〜5よりも劣る。
【0044】
なお、発明例1について、使用開始径t1における外層(20)の硼素質量%(B(t1))と、廃棄径+10mmであるt2における外層(20)の硼素質量%(B(t2))を発光分析装置で測定したところ、B(t1)−B(t2)は0.019であった。この測定によっても、発明例については、外層の厚さ方向における硼素量の調整が行なわれていることがわかる。
即ち、使用開始径t1における外層(20)の硼素量を、廃棄径+10mmであるt2における外層(20)の硼素量より多くしたことで、上記の如く、外層(20)の径方向の黒鉛面積率を調整できたことがわかる。
なお、本実施例では横型遠心力鋳造における一例を示したが、本発明の性格上、その遠心力鋳造の種類に左右されるものではないため、図によって示された形に発明が制約されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
(10) 圧延用ロール
(20) 外層
(22) 溶湯
(30) 内層
(40) 遠心力鋳造用金型
(50) 取鍋
(60) 三角堰
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延用ロール及びその製造方法に関するものであり、より具体的には、遠心力鋳造により作製される外層を有する圧延用ロール及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の熱間圧延に用いられる圧延用ロールには、鋼板と接する外層にすぐれた耐摩耗性とすぐれた通板性が求められており、内層となる軸芯材には強靱性が要求される。そこで、圧延用ロールとして、耐摩耗性と通板性にすぐれる高合金耐摩耗鋳鉄材やハイス系材料の遠心力鋳造により形成した外層と、強靱性にすぐれる鋳鉄、鋳鋼又は合金鋼等の内層とを冶金的又は機械的に一体化した複合構造のものが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールは、外層がハイス系材料からなる圧延用ロールに比して耐摩耗性に劣るが、通板性及び耐事故性が良好であるため、通板性や耐事故性が重視される仕上げ圧延の後段側に使用されることが多い。
【0004】
外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールが、高い通板性を有する理由として、外層の金属組織中における黒鉛の存在が挙げられる。しかしながら、近年は、耐摩耗性を向上させるために、外層材料に炭化物形成元素を添加する傾向にあり、MC型炭化物の増加に伴い黒鉛の適量晶出が困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−279367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧延用ロールの耐摩耗性を具現するために形成されるMC型炭化物について、溶湯鋳込み時の外層材料中における比重の違いから、MC型炭化物の分布を最適化する検討や開発は行なわれているが、金属組織中の黒鉛に対しては、外層表面における微細化や分散を目的として、黒鉛の粒径や面積率が検討されていた。
遠心力鋳造用金型に外層材料を注湯した際に、金型近傍の外層外周側は、金型による冷却速度が速いため黒鉛は比較的晶出しにくいのに対し、金型から離れた外層内周側は、冷却速度が遅いため、黒鉛が生成しやすく、また成長もしやすい。
黒鉛は、圧延の際に通板性や耐事故性を改善する効果があるが、多すぎると黒鉛を起因とした摩耗過多や肌荒れを発生させる性質がある。
【0007】
遠心力鋳造用金型近傍の外層外周側で適正な黒鉛量を得ようとした場合、黒鉛化促進元素である炭素や珪素などを外層材料中で増加させ、金型による急冷域でも黒鉛を得やすくすることはできるが、金型から離れた外層内周側では冷却が遅いため、増加させた炭素や珪素の影響により黒鉛が粗大化し易くなり、実際の圧延で使用したとき、初期の耐摩耗性及び通板性には優れるものの、使用が進むにつれて肌荒れや耐摩耗性不足の問題を有する圧延用ロールとなりやすい。
特に黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材にMC型炭化物を形成させる合金組成において、外層材料の炭素濃度を高めたときに、上記現象が生じ易い。
【0008】
一方、外層内周側で目標の黒鉛量を得ようとした場合、逆に金型による急冷域において、黒鉛が不足、または得られないことにより、通板性などの問題が発生しやすい圧延用ロールとなりやすい。
【0009】
本発明の目的は、ロール厚さ方向における外層の使用径範囲において、ほぼ均等に黒鉛が形成された圧延用ロール及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の圧延用ロールは、
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
ロールの使用開始径をt1、ロールの廃棄径よりも10mm大きい直径(以下、「廃棄径+10mm」と称する。)をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率差を1.0%以内とした。
ここで使用開始径とは、製造されたロールを初めて圧延に使用する直径とし、廃棄径とは、仕様で定められた最小の使用可能なロール直径とする。本願では、ロールの使用開始径から廃棄径までの外層の使用径範囲において良好な黒鉛量のコントロールを行なうために、使用開始径(t1)から少なくとも廃棄径+10mm(t2)までの黒鉛量をコントロールすることにより、優れた圧延用ロールが得られるようにしている。
廃棄径+10mmをt2としたのは、境界部である廃棄径部分と比較してt2部分(廃棄径+10mm)が使用径範囲内として明確であること、さらに本発明の圧延用ロールの使用径範囲において、任意部分間の距離が5mm程度のとき金属組織状態に大きな差が見られなかったためである。そのため、少なくとも黒鉛量をコントロールするべき範囲として、廃棄径+10mmをt2と設定した。
【0011】
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
外層中にC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%を含有し、ロールの使用開始径(t1)部分における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mm(t2)部分における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とした。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の遠心力鋳造法による圧延用ロールの製造方法は、
遠心力鋳造において、外層内周側に比べて外層外周側の硼素濃度が高くなるように硼素を適用して行なう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の圧延用ロールは、ロール厚さ方向における外層中の黒鉛を均等に分散させることにより、特に、外層内周側における黒鉛の粗大化が抑えられるから、粗大化した黒鉛の摩耗等による肌荒れを防止させることができる。
【0014】
本発明の圧延用ロールは、使用開始径(t1)における外層成分中の硼素の質量%を、廃棄径+10mm(t2)における外層成分中の硼素の質量%より大きくしている。これにより、外層外周側にて、硼素の作用として黒鉛を晶出しやすくすることができ、外層外周側と外層内周側の黒鉛量がコントロールされた圧延用ロールを得ることができる。
【0015】
また、本発明の圧延用ロールの製造方法によれば、遠心力鋳造用金型に注ぎ込まれる初期の外層溶湯に、硼素が多く混和されるように調整することで、金型の近傍となる外層外周側にて、硼素の作用で黒鉛を晶出させ易くすることができ、外層における黒鉛量をコントロールできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の圧延用ロールの断面図である。
【図2】外層の遠心力鋳造工程の一例を示す断面図である。
【図3】実施例及び比較例における外層の任意の点の黒鉛面積率の結果を示すグラフである。
【図4】発明例1の(a)使用開始径(t1)におけるミクロ組織写真である。
【図5】発明例1の(b)15mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図6】発明例1の(c)30mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図7】発明例1の(d)45mm内部(t2相当部)におけるミクロ組織写真である。
【図8】比較例1の(a)使用開始径(t1)におけるミクロ組織写真である。
【図9】比較例1の(b)15mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図10】比較例1の(c)30mm内部におけるミクロ組織写真である。
【図11】比較例1の(d)45mm内部(t2相当部)におけるミクロ組織写真である。
【0017】
図1は、圧延用ロール(10)の断面図である。図に示すように、圧延用ロール(10)は、圧延面となる外層(20)と、該外層(20)の内側に内層(30)を冶金的又は機械的に一体化して構成される。このとき内層の合金組成は、強靱性に優れる鋳鉄、鋳鋼又は合金鋼が利用できるが、球状黒鉛鋳鉄が好適に用いられる。
また、外層と内層の間に、中間層として他の合金組成を有する層を設けていても良い。
【0018】
圧延用ロール(10)の外層(20)は、黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材から作製することができる。
外層(20)は、ロールの使用開始径(直径)をt1、廃棄径+10mm(直径)をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率の差を1.0%以内となるようにする。
ここで、黒鉛面積率を測定する任意部分とは、該当径部分における1mm×1mm〜2mm×2mmの面積部分とすることが望ましい。理由として、任意部分が1mm×1mmよりも小さいと、平均的な黒鉛面積率の測定に誤差が生じる可能性があり、また、任意部分が2mm×2mmを越える範囲を測定しても、1mm×1mm〜2mm×2mmの面積部分を測定する場合と比べて、測定結果に差が殆んどないからである。
また、上述した黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材とは、作製された外層(20)の使用開始径t1と廃棄径+10mmであるt2において、少なくとも黒鉛面積率が0.5%以上、望ましくは1.0%以上となるように黒鉛が晶出する高合金耐摩耗鋳鉄材を意味する。使用開始径t1と廃棄径+10mmであるt2における黒鉛面積率が、0.5%よりも低い場合、本願発明の如き、黒鉛の晶出調整を行なう必要がないからである。
例えば、圧延用ロール(10)の外径、即ち、使用開始径t1が、500〜900mm(半径250〜450mm)の場合、圧延用ロール(10)は、外層(20)が30〜70mm程度圧延によって消耗されるため、廃棄径+10mmであるt2は、360〜840mm(半径180〜420mm)程度となる。これらt1及びt2は、作製された圧延用ロール(10)の製品仕様によって異なる。
【0019】
外層(20)中の黒鉛量の差を抑えるために、外層(20)中にC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%を含有し、さらに、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3[式内の各元素は、含有する質量%を示す。]を満たす合金組成を有するロールにおいて、ロールの使用開始径(t1)における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mm(t2)における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とすることが望ましい。外層(20)の厚さ方向の硼素量を調整することにより、外層(20)の金属組織中の厚さ方向の黒鉛量の差を小さくすることができる。
【0020】
具体的な外層(20)の成分として、合金組成の質量%が、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%、
残部Fe及び不可避的不純物であって、
式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たす組成を例示できる。
なお、さらにAl:0.01〜0.5%を含有することもできる。
【0021】
以下、各成分限定理由を記す。
C:2.8〜4.0%
Cは主としてFeと結合し、セメンタイトを形成すると共に、V、Nb、Tiと結合してMC型炭化物を形成する。また、晶出及び析出黒鉛となって摩擦係数を低減する効果がある。しかしながら、含有量が2.8%未満では黒鉛化が促進されず、4.0%を越えると黒鉛が粗大且つ過多となり、耐肌荒れ性及び耐摩耗性の劣化を招く。Cの含有量は3.2〜3.7%がさらに望ましい。
【0022】
Si:0.5〜2.5%
Siは湯流れ性の確保と黒鉛の晶出、析出のために必要な元素である。しかしながら、0.5%未満ではその効果が十分でなく、2.5%を越えると黒鉛が過多となり黒鉛を起点とする摩耗が激しくなりやすく、耐摩耗性が劣化する。Siの含有量は0.6から1.8%がより望ましい。
【0023】
Mn:0.2〜2.0%
Mnは硬化能を増し、また、原材料中に不可避的に含まれるSと結合してMnSを生成し、Sによる劣化を防ぐ元素である。Sは原材料中に0.02%程度含有されるため、Mnは0.2%以上含有させることが望ましい。しかしながら、2.0%を越えると靭性の低下を招くため好ましくない。Mnの含有量は0.3〜1.0%がより望ましい。
【0024】
Ni:2.5〜6.0%
Niは基地組織の改良と黒鉛を晶出、析出させる目的で含有させる。2.5%未満であると黒鉛量が過少となりやすく、6.0%を越えるとSiの場合と同様に黒鉛が過多となり、また、残留オーステナイトが増加し、後の熱処理によっても強靭組織にすることが難しくなり、耐摩耗性が低下する。Niの含有量は4.0〜5.0%がより望ましい。
【0025】
Cr:1.0〜2.5%
Crは一部が基地中に固溶して焼入れ性を改善し、耐摩耗性を向上させる。又、セメンタイトにも固溶し、セメンタイトの硬度を向上させる。1.0%未満であれば、このような作用を得ることができず、2.5%を越えると黒鉛化を阻害する。Crの含有量は1.3〜2.1%がより望ましい。
【0026】
Mo:0.2〜0.8%
Moは、主に基地に固溶し、焼入れ性を改善し、耐摩耗性を向上させる。しかしながら、0.2%未満ではこのような効果が不十分であり、0.8%を越えると黒鉛化を阻害する。Moの含有量は0.3〜0.6%がより望ましい。
【0027】
V、Nb、Ti、W:少なくとも1種を合計量で0.2〜3.0%
V、Nb、Ti、WはCと結合し、MC型炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。しかしながら、合計量が0.2%未満であればその効果が不十分となる。一方、合計量が3.0%を越えるとMC型炭化物が過多となり、摩擦係数が大きくなると共に、黒鉛化を阻害する影響も高くなる。各元素は、V:3.0%以下、Nb:0.8%以下、Ti:0.1%以下、W:1.0%以下がより望ましい。また、V、Nb、Tiの含有量は少なくとも1種を合計量で0.5〜2.5%とすることがより望ましい。
また、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たさない組成である場合、CがMC炭化物として多く消費されるため、黒鉛化が困難または黒鉛が不足しやすい。
【0028】
B:0.01〜0.1%
Bは、黒鉛晶出を促進し、また、黒鉛を微細に晶出させる作用がある。Bの含有量は0.02〜0.07%がより望ましい。
なお、上記の如く、ロールの使用開始径をt1、廃棄径+10mmをt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率差を1.0%以内となるようにすることが望まれるため、外層(20)中の硼素含有量は、使用開始径t1における硼素の質量%をB(t1)、廃棄径+10mmであるt2における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015とすることが望ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.5%
Alは組織の均一性を高める効果がある。含有量が、0.01%未満であればその効果を十分に得ることができず、0.2%を越えると、このような効果が飽和すると共に、材質を劣化させる。0.01〜0.1%がより望ましい。
【0030】
なお、合金成分として黒鉛球状化をはかるため、外層成分に、MgやCaを加えてもよい。
【0031】
その他、P、S、O等の不可避的な不純物の混入は許容される。しかしながら、これら不純物は材質を脆くするため、合計で約0.2%以下に抑えることが望ましい。
【0032】
上記構成の圧延用ロール(10)は、外層(20)を遠心力鋳造により鋳込むことで作製することができる。
図2は、外層(20)の遠心力鋳造工程の一例を示している。
図に示すように、外層溶湯(22)は、軸心を中心として高速回転する遠心力鋳造用金型(40)に、外層溶湯(22)を収容した取鍋(50)から三角堰(60)を通って、注湯され、遠心力鋳造用金型(40)内で鋳込まれる。
【0033】
本発明は、圧延用ロール(10)の外層(20)中の黒鉛量の差を小さくすることを目的とするものであり、この目的を達成するために、圧延用ロール(10)は、例えば、注湯される初期の外層溶湯(22)に、硼素量が多く混和されるように調整して作製することができる。
具体的には、取鍋(50)から三角堰(60)を通って注湯される初期の外層溶湯(22)に硼素、または硼素化合物(例えば、B2O3)を三角堰(60)に直接投入したり(図2中、矢印A)、取鍋(50)中の外層溶湯に硼素化合物を所定量、望ましくは、30重量%以上含有するフラックス等を投入すると同時に鋳込むことにより、外層溶湯(22)中の硼素量を調整することができる。また、硼素含有量の異なる2種以上の外層溶湯を準備し、硼素含有量の多い外層溶湯から順に遠心力鋳造用金型(40)に注湯するようにしてもよい。また、外層溶湯(22)に硼素を直接投入するのではなく、遠心力鋳造用金型(40)の内面に塗型した後、さらに塗型表面に硼素成分を含むものを塗布することで、金型(40)内に注ぎ込まれた外層溶湯(22)中に、硼素成分を溶け出すようにしてもよい。
【0034】
上記により、遠心力鋳造時の金型側に位置する溶湯の硼素濃度を高くすることで、金型(40)近傍の冷却速度の速い外層(20)外周側の黒鉛晶出を助長させることができ、冷却速度の遅い外層(20)内周側との黒鉛面積率や、黒鉛量の差を小さくすることができる。
【実施例】
【0035】
図2に示す横型遠心力鋳造用金型(40)を用いて、以下の条件で、直径700mm(半径350mm)、使用径範囲厚さ50mm、外層厚さが60〜65mmの圧延用ロール(発明例1〜5及び比較例1〜3)を作製した。
各外層の溶湯組成を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
発明例1及び3は、図2に示した外層溶湯注湯初期に、溶湯3250kgに対して、三角堰(60)にB2O3を2kg投入した。
また、発明例4〜5は、取鍋(50)にB2O3を30重量%含有したフラックスを10kg投入し、注湯した。
【0038】
遠心力鋳造により得られた圧延用ロールの発明例1乃至5及び比較例1〜3の外層(20)について、外周面に機械加工を施し、得られた外層(20)の使用開始径(t1)、使用開始径から15mm内部、30mm内部及び廃棄径+10mmであるt2(使用開始径から45mm内部)の位置で、それぞれ、1.9mm×1.4mmの部分に対し、ミクロ組織写真を撮影し、画像解析(三谷商事株式会社製「画像解析装置 WinROOF」)を行なうことによって黒鉛面積率を測定した。
【0039】
結果を表2、図3及び図4乃至図11に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2を参照すると、発明例1〜5は、使用開始径t1から廃棄径+10mmであるt2までの範囲における金属組織中の黒鉛面積率のバラツキが1.0%以内に収まっていることがわかる。
【0042】
図3は、発明例1と比較例1の黒鉛面積率のバラツキをグラフ化したものであり、図4乃至図11は、発明例1及び比較例1の(a)使用開始径(t1)、(b)15mm内部、(c)30mm内部、及び、(d)45mm内部(廃棄径+10mm(t2))のミクロ組織写真を示している。
図3を参照すると、比較例1は、使用開始径(t1)から廃棄径+10mm(t2)に向かうに従って、黒鉛面積率が増大しているのに対し、発明例1は、黒鉛面積率が殆んど変動していないことがわかる。発明例1と比較例1のミクロ組織写真(図4乃至図11)を参照すると、発明例1では、(a)の使用開始径(t1)における黒鉛は、微細に分散しているが、(b)〜(d)では黒鉛粒径及び分布数がほぼ一定していることがわかる。一方、比較例1は、(a)から(d)に向かうにつれて、黒鉛粒が肥大化しており、面積率も大きくなっている。
【0043】
これは、発明例1〜5が、溶湯初期に硼素化合物を直接投入、又はフラックス等として投入することで、外層の厚さ方向における黒鉛を均等に分散しており、黒鉛の粗大化が抑えられた結果である。黒鉛面積率の差を抑えることができたため、発明例の外層(20)を用いた圧延用ロール(10)は、黒鉛の粗大化による脱落等を防止でき、鋼板の肌荒れを防ぐことができる。
一方、比較例1乃至3は、発明例の如き硼素量の調整を行なっていないから、金型に近い部分は、金型による急速な冷却を受けるため、黒鉛が少量しか晶出していないのに対し、金型から遠い外層内周側で冷却速度が遅くなり、黒鉛が成長し粗大化した結果、黒鉛面積率に差が生じていることがわかる。
さらに、比較例2、3は、t1とt2の少なくとも一方の何れかにおいて黒鉛面積率が0.5%よりも小さく、黒鉛晶出の少ない圧延用ロールであり、黒鉛の粗大化等による問題は少ないが、黒鉛晶出によりもたらされる圧延の際の通板性や耐事故性が発明例1〜5よりも劣る。
【0044】
なお、発明例1について、使用開始径t1における外層(20)の硼素質量%(B(t1))と、廃棄径+10mmであるt2における外層(20)の硼素質量%(B(t2))を発光分析装置で測定したところ、B(t1)−B(t2)は0.019であった。この測定によっても、発明例については、外層の厚さ方向における硼素量の調整が行なわれていることがわかる。
即ち、使用開始径t1における外層(20)の硼素量を、廃棄径+10mmであるt2における外層(20)の硼素量より多くしたことで、上記の如く、外層(20)の径方向の黒鉛面積率を調整できたことがわかる。
なお、本実施例では横型遠心力鋳造における一例を示したが、本発明の性格上、その遠心力鋳造の種類に左右されるものではないため、図によって示された形に発明が制約されるものではない。
【符号の説明】
【0045】
(10) 圧延用ロール
(20) 外層
(22) 溶湯
(30) 内層
(40) 遠心力鋳造用金型
(50) 取鍋
(60) 三角堰
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
ロールの使用開始径をt1、ロールの廃棄径よりも10mm大きい直径をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率の差が1.0%以内であることを特徴とする圧延用ロール。
【請求項2】
外層中にV、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素を含有し、
外層はC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たし、
ロール使用開始径t1における硼素の質量%をB(t1)、ロール廃棄径よりも10mm大きい直径t2における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015であることを特徴とする請求項1に記載の圧延用ロール。
【請求項3】
ロール外層の合金組成の質量%が、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%であって、
残部Fe、及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の圧延用ロール。
【請求項4】
さらに、Al:0.01〜0.5%を含有する請求項3に記載の圧延用ロール。
【請求項5】
遠心力鋳造法による圧延用ロールの製造方法であって、
遠心力鋳造用金型に注ぎ込まれる外層溶湯の初期に、硼素量が多くなるように調整して行われることを特徴とする圧延用ロールの製造方法。
【請求項6】
硼素は、外層溶湯の注湯の際に、初期溶湯に直接投入される請求項5に記載の遠心力鋳造による圧延用ロールの製造方法。
【請求項7】
外層の合金組成が質量%で、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V,Nb,Ti,Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%、
残部Fe及び不可避的不純物であって、
式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たす、
請求項5又は請求項6に記載の遠心力鋳造による圧延用ロールの製造方法。
【請求項1】
遠心力鋳造法により製造され、外層が黒鉛を含有する高合金耐摩耗鋳鉄材からなる圧延用ロールであって、
ロールの使用開始径をt1、ロールの廃棄径よりも10mm大きい直径をt2としたとき、t1からt2の範囲における任意部分の金属組織中の黒鉛面積率の差が1.0%以内であることを特徴とする圧延用ロール。
【請求項2】
外層中にV、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素を含有し、
外層はC:2.7〜4.0質量%、B:0.01〜0.1質量%、式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たし、
ロール使用開始径t1における硼素の質量%をB(t1)、ロール廃棄径よりも10mm大きい直径t2における硼素の質量%をB(t2)としたとき、B(t1)−B(t2)≧0.015であることを特徴とする請求項1に記載の圧延用ロール。
【請求項3】
ロール外層の合金組成の質量%が、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V、Nb、Ti、Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%であって、
残部Fe、及び不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の圧延用ロール。
【請求項4】
さらに、Al:0.01〜0.5%を含有する請求項3に記載の圧延用ロール。
【請求項5】
遠心力鋳造法による圧延用ロールの製造方法であって、
遠心力鋳造用金型に注ぎ込まれる外層溶湯の初期に、硼素量が多くなるように調整して行われることを特徴とする圧延用ロールの製造方法。
【請求項6】
硼素は、外層溶湯の注湯の際に、初期溶湯に直接投入される請求項5に記載の遠心力鋳造による圧延用ロールの製造方法。
【請求項7】
外層の合金組成が質量%で、
C:2.7〜4.0%、
Si:0.5〜2.5%、
Mn:0.2〜2.0%、
Ni:2.5〜6.0%、
Cr:1.0〜2.5%、
Mo:0.2〜0.8%、
B:0.01〜0.1%、を含有し、さらに、
V,Nb,Ti,Wからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素の合計濃度が0.2〜3.0%、
残部Fe及び不可避的不純物であって、
式1:C+1/3Si−(0.24V+0.13Nb)>3.3を満たす、
請求項5又は請求項6に記載の遠心力鋳造による圧延用ロールの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−279989(P2010−279989A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137061(P2009−137061)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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