説明

圧延用配合物

水溶性圧延油組成物は、20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む。当該水溶性圧延油組成物は、具体的には冷間鋼圧延用途で使用するために設計された。圧延油配合物における特定の部分ポリオールエステルの使用は、ミル所有者の「プレートアウト」要件及び鋼板の表面品質に関する要件を満足し、それに対応して他の任意の水溶性圧延油組成物の要件、特には潤滑性を何ら損ねることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性冷間鋼圧延油組成物、及び水と水溶性冷間鋼圧延油とを含む水中油滴型エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
冷間鋼圧延は、熱間圧延プロセスによって熱間鋼の厚い(例えば、20cm)スラブから製造された約0.5〜1cm厚さの鋼板に適用され、当該鋼板を典型的には0.15〜0.35mmのはるかにより軽いゲージまでさらに薄くすることができるプロセスである。冷間鋼圧延プロセスでは、それぞれの一連のロールを通して適用される負荷と、鋼板に適用される前方及び後方張力と、ロールを通過する圧延速度とのバランスにより、販売可能な品質の鋼板製品が得られる。圧延される鋼は、冷間圧延プロセスの際に高い応力を受け、次いで緩和されて確実に鋼がその指定用途のための適切な結晶形態になるようにしなければならない。緩和はアニーリングプロセスにより達成される。
【0003】
冷間圧延されアニーリングされた鋼板の表面品質は、黒染色及び表面炭素残留物の存在によって損なわれる場合がある。このような鋼板の表面品質は、現在、ミルクリーンシートについて指定される表面炭素残留物の許容最大レベルが7mg/m2である自動車用途の分野で使用するには適さない場合がある。しかしながら、このシートの表面品質要件は、絶えずより速い速度でミルを運転して産出量を改善し、ミルの電力消費を低減しかつ様々なより硬い鋼合金を圧延しようとするミル所有者にかけられるプレッシャーと直接的に矛盾しているように思われる。
【0004】
このため、ミル所有者にかけられるプレッシャーに対処しようとして、圧延油の配合者はより多量の油を「プレートアウト」することのできる圧延油を配合することに至った。しかしながら、「プレートアウトされる」油の増加分は、鋼板の表面品質要件を満足させために、アニーリングプロセスの際、典型的にはバッチアニーリングプロセスに関して600〜700℃で容易に除去できることが必要である。
【0005】
黒染色の斑点及び表面炭素残留物の生成について提案された1つの機構は以下のとおりである。冷間圧延プロセスの後、鋼板は、主として鉄の微粉と配合油の残留物で汚染されている。この配合油の残留物は、典型的に廃油、石鹸及び圧延プロセスの製品を含んでいることがある。100℃以上の冷間圧延プロセスの際に生じる歪み及び摩擦熱は、数時間の間圧延コイルにおいて持続する場合がある。これらの条件下で、配合油残留物中の幾つかの成分を酸化及び重合すると、より揮発性でない高分子物質が形成される可能性がある。これらの反応は、触媒として作用する鉄微粉の存在下で促進される場合がある。これらのより揮発性でない高分子物質がアニーリングプロセスの際に炭化され、結果として黒染色の斑点及び表面炭素残留物が生成されると考えられる。
【0006】
それゆえ、染色斑点及び表面炭素残留物は、冷間圧延プロセスの際に生じる熱と、冷間圧延プロセスにおける汚染物質と、圧延油配合物の組成との組み合わせの関数であると考えられる。
【0007】
驚くべきことに、圧延油配合物において特定の部分ポリオールエステルを使用すると、ミル所有者の「プレートアウト」要件及び鋼板の表面品質に関する要件を満足し、それに対応して他の任意の水溶性圧延油組成物の要件、特には潤滑性を何ら損ねることがないことを見出した。
【発明の開示】
【0008】
本発明によれば、冷間鋼圧延用途で使用するための水溶性圧延油組成物は、20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む。
【0009】
本発明の範囲内で、ポリ不飽和は、モノ不飽和を除外するよう定義される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
部分ポリオールエステルは、少なくとも1つの多価アルコールと少なくとも1つのモノカルボン酸の反応により得ることができる。あるいはまた、少なくとも2つの部分ポリオールエステルを一緒に混合するか又は少なくとも1つの部分ポリオールエステルと少なくとも1つの完全にエステル化されたエステルの組み合わせを一緒に混合することにより得ることができる。
【0011】
多価アルコールは、ジオール、トリオール、テトラオール及び/又は関連する二量体及び三量体であることができる。例としては、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びトリペンタエリスリトールである。好ましくは、多価アルコールは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトールから選択され、特にはトリメチロールプロパンである。
【0012】
部分ポリオールエステルのポリ不飽和は、少なくとも1つのモノカルボン酸から得られる。少なくとも1つのモノカルボン酸は、例えば、1つ又は複数のポリ不飽和モノカルボン酸、又はポリ不飽和モノカルボン酸と非ポリ不飽和モノカルボン酸の混合物であることができる。
【0013】
ポリ不飽和又は非ポリ不飽和のモノカルボン酸は、幾つかのモノ不飽和の炭素−炭素結合を有することができ、直鎖及び/又は分枝鎖を有することができる。それは脂肪族又は芳香族であることができる。ポリ不飽和又は非ポリ不飽和の脂肪性モノカルボン酸は、好ましくは8〜24個の炭素原子、より好ましくは10〜20個の炭素原子を有する。好適なポリ不飽和の脂肪性モノカルボン酸の例としては、ヤシ油、トップドヤシ油(topped coconut oil)(C8及びC10の飽和脂肪酸成分を除去するようさらに処理されたヤシ油)、パーム核油、及びそれらの混合物から得られるものが挙げられる。好適な非ポリ不飽和の脂肪性モノカルボン酸の例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、水素化されたC18モノマー酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、及びそれらの混合物が挙げられる。水素化されたC18モノマー酸は、オレイン酸を二量化し、次いでそれを水素化することにより得られるC18モノマーの副産物である。
【0014】
具体的に好ましい部分ポリオールエステルは、ヤシ油又はトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸の混合物をトリメチロールプロパンと反応させることにより得られる。部分エステル組成物中のヤシ油又はトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸の混合比は、好ましくは80:20wt%〜20:80wt%、より好ましくは60:40wt%〜40:60wt%である。
【0015】
本発明による部分ポリオールエステルは、15〜70wt%、より好ましくは20〜50wt%、さらにより好ましくは20〜40wt%のレベルで水溶性圧延油組成物中に存在している。
【0016】
部分ポリオールエステルは、20〜50mg KOH/g、好ましくは25〜40mg KOH/gのヒドロキシル価を有する。
【0017】
部分ポリオールエステルは、0.01〜8wt%、好ましくは0.1〜5wt%、より好ましくは0.1〜3wt%のポリ不飽和レベルを有する。
【0018】
部分ポリオールエステルの40℃における動粘度は、40〜80mm2/s、好ましくは50〜60mm2/sであり、その流動点は−10〜10℃である。
【0019】
水溶性圧延油組成物は、天然油/脂肪、例えば、ヤシ油、パーム油、獣脂、ひまわり油及び鉱油、特にはパラフィン系鉱油の形態の他のエステルをさらに含むことができる。
【0020】
水溶性圧延油組成物は、ある範囲の添加剤をさらに含むことができる。好ましい添加剤としては、酸化防止剤、例えば、立体障害フェノール、アミノ酸化防止剤、及びブチル化ヒドロキシトルエン;耐摩耗/極圧添加剤、例えば、ジラウリルリン酸、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリクレジル、ジアルキル(又はジアリール)ジチオリン酸亜鉛、リン酸硫化脂肪油、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛、メルカプトベンゾチアゾール硫化脂肪油、及びアルキル又はアリールポリスルフィド;並びに乳化剤、例えば、ノニルフェノールエトキシレート、脂肪族アルコールエトキシレート、ポリエチレングリコールエステル、合成アルコールエトキシレート、及び高分子界面活性剤が挙げられる。
【0021】
本発明による典型的な水溶性圧延油組成物の例は以下のとおりである。
部分ポリオールエステル 20〜70wt%
天然油/脂肪 0〜20wt%
鉱油 20〜50wt%
酸化防止剤 0.5〜1wt%
1つ又は複数の耐摩耗/極圧添加剤 2〜5wt%
1つ又は複数の乳化剤 5〜7wt%
【0022】
本発明の更なる実施態様によれば、水溶性圧延油組成物の使用は、冷間鋼圧延用途において20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む。
【0023】
本発明の更なる実施態様によれば、水中油滴型エマルジョンは、水と1〜4wt%の冷間鋼圧延用途で使用するための水溶性圧延油組成物とを含み、当該水溶性圧延油組成物は、20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む。
【0024】
水中油滴型エマルジョンは、2〜3wt%の水溶性圧延油組成物を含むことが好ましい。
【0025】
本発明の更なる実施態様によれば、水中油滴型エマルジョンの使用は、水と1〜4wt%の水溶性圧延油組成物とを含み、当該水溶性圧延油組成物は、冷間鋼圧延用途において20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む。
【0026】
次に、本発明は、以下の例及び図を参照して例としてのみさらに説明される。
【実施例】
【0027】
[例1]
水溶性圧延油組成物に関する高温の作用を擬態するインハウステストを行った。無希釈のエステル溶液をきれいで乾燥したアルミニウムトレーに薄膜として適用した。トレーを換気の良い場所においてホットプレート上で約300℃に加熱し、この温度で10分保持した。
【0028】
図1は、本発明による部分ポリオールエステルである試料Aと、冷間鋼圧延の水溶性圧延油組成物において商業的に用いられている比較のエステルである試料Bとに関する加熱プロセス後の2つのアルミニウムトレーを示している。試料Aは、wt%比で60:40のトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸をトリメチロールプロパンと反応させることにより得られた部分ポリオールエステルである。試料Aは、36mg KOH/gのヒドロキシル価と2.4%のポリ不飽和レベルを有する。比較試料Bは、ユニケマより入手可能なPRIOLUBE 1427であり、8mg KOH/gのヒドロキシル価と14%のポリ不飽和レベルを有するトリメチロールプロパンとオレイン酸のエステルである。
【0029】
試料Bのアルミニウムトレーは暗色残留物の証拠を示しており、このような残留物は試料Aのトレーに関してほとんど明白ではない。
【0030】
[例2]
試料A及びB並びに本発明による更なる試料、試料Cの清浄燃焼特性を測定する試験を行った。各試料20〜25mgを、窒素流100ml/分のもとで10℃/分の速度で以って40℃から600℃に150μlのアルミナカップにおいて加熱した。試料の種々の蒸発減量レベルに関して温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
試料Cは、wt%比で40:60のトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸をトリメチロールプロパンと反応させることにより得られた部分ポリオールエステルである。それは40mg KOH/gのヒドロキシル価と1.6%のポリ不飽和レベルを有する。表の結果は、本発明による部分ポリオールエステルの使用によって比較のエステルに対して清浄燃焼特性が改善されたことを実証している。
【0033】
[例3]
試料AとBの摩擦係数は、ピンオンディスク法を用いて英国のPCS Instrumentsにより製造及び供給されているMini−Traction Machineにおいて40℃の温度で決定した。ディスクは、粗度パラメータが10nmの滑らかな鋼ディスクである。適用される負荷は5Nであり、回転速度は、境界潤滑域と混合潤滑域の両方のもとでシステムが確実に操作されるように0.002〜4m/sを変化させた。その結果を表2と図2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2と図2の結果は、本発明による部分ポリオールエステルを使用することで、比較のエステルに対して潤滑性が改善されたことを実証している。潤滑性の改善に対する水溶性圧延油組成物中の部分ポリオールエステルの寄与は、ミルに関する電力消費の低減、及び圧延金属の表面仕上げの改善に対応している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】例1で得られた結果の画像である。
【図2】例3で得られた結果のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間鋼圧延用途で使用するための水溶性圧延油組成物であって、20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む、水溶性圧延油組成物。
【請求項2】
前記部分ポリオールエステルが、少なくとも1つの多価アルコールと少なくとも1つのモノカルボン酸の反応により得られた、請求項1に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項3】
前記多価アルコールが、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトールから選択された、請求項2に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1つのモノカルボン酸が、1つ又は複数のポリ不飽和モノカルボン酸、又はポリ不飽和モノカルボン酸と非ポリ不飽和モノカルボン酸の混合物である、請求項2又は3に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのモノカルボン酸が、8〜24個、好ましくは10〜20個の炭素原子を有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項6】
前記ポリ不飽和モノカルボン酸が、ヤシ油、トップドヤシ油(topped coconut oil)、パーム核油、及びそれらの混合物から得られた、請求項4に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項7】
前記非ポリ不飽和モノカルボン酸が、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、水素化されたC18モノマー酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、及びそれらの混合物から選択された、請求項4〜6のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項8】
前記部分ポリオールエステルが、ヤシ油又はトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸の混合物をトリメチロールプロパンと反応させることにより得られた、請求項1に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項9】
前記部分ポリオールエステル中のヤシ油又はトップドヤシ油と水素化されたC18モノマー酸の混合比が、80:20wt%〜20:80wt%、好ましくは60:40wt%〜40:60wt%である、請求項9に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項10】
前記部分ポリオールエステルが、20〜50wt%、好ましくは20〜40wt%のレベルで前記水溶性圧延油組成物中に存在している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項11】
前記部分ポリオールエステルが、25〜40mg KOH/gのヒドロキシル価を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項12】
前記部分ポリオールエステルが、0.1〜5wt%、好ましくは0.1〜3wt%のポリ不飽和レベルを有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項13】
天然油/脂肪及び鉱油の形態の他のエステルをさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項14】
酸化防止剤、耐摩耗/極圧添加剤、及び乳化剤を含むある範囲の添加剤をさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の水溶性圧延油組成物。
【請求項15】
20〜70wt%の部分ポリオールエステルと、0〜20wt%の天然油/脂肪の形態の他のエステルと、20〜50wt%の鉱油と、0.5〜1wt%の酸化防止剤と、2〜5wt%の少なくとも1つの耐摩耗/極圧添加剤と、5〜7wt%の少なくとも1つの乳化剤とを含む、水溶性圧延油組成物。
【請求項16】
冷間鋼圧延用途において20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む、水溶性圧延油組成物の使用。
【請求項17】
水と1〜4wt%の水溶性圧延油組成物とを含み、当該水溶性圧延油組成物が、冷間鋼圧延用途において20〜50mg KOH/gのヒドロキシル価と0.01〜8wt%のポリ不飽和レベルを有する15〜70wt%の部分ポリオールエステルを含む、水中油滴型エマルジョン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−501887(P2007−501887A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523040(P2006−523040)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003019
【国際公開番号】WO2005/017078
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(590000341)インペリアル・ケミカル・インダストリーズ・ピーエルシー (17)
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL CHEMICAL INDUSTRIES PLC
【Fターム(参考)】