説明

圧着工具

【課題】圧着ダイとあご部の位置決めはもちろん、一対の圧着ダイの上下位置を正確に位置決めして、圧着端子の圧着処理を常に適正に行なえる圧着工具を提供する。
【解決手段】第1アーム1と第2アーム2の作用部側に一対のあご部4・4が設けてあり、両あご部4・4の対向面に一対の圧着ダイ15・15が着脱可能にねじ構造で締結してある。一方の圧着ダイ15には、複数の圧着刃24と逃げ凹部25とを交互に形成する。他方の圧着ダイ15には、複数の折曲刃26と区分突起27とを交互に形成する。あご部4と圧着ダイ15との間に、左右方向の位置決めを行う第1位置決め構造を設ける。さらに、一対の圧着ダイ15・15の間に、上下方向の位置決めを行う第2位置決め構造を設ける。逃げ凹部25の内奥と区分突起27の突端に形成した、位置決め突起35と位置決め凹部36とで第2位置決め構造を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着端子用の圧着工具に関し、なかでも、圧着ダイがあご部に対して交換可能に設けてある圧着工具に関する。
【背景技術】
【0002】
圧着ダイを交換できる形態の圧着工具は、例えば特許文献1に公知である。そこでは、一対の第1レバーの作用端に一対の第2レバー(あご部)を交又する状態で連結し、第2レバーの先端同士を連結ピンで連結してトグル機構を構成し、第2レバーの対向面の間に圧着ダイを交換可能に装着している。圧着ダイには、圧着ダイを第2レバーに締結するためのねじ穴と、一対のノックピンとが設けてあり、ノックピンを第2レバーに設けたノッチとピン受部とで位置決めした状態で、圧着ダイをビスで締結できるようにしている。圧着ダイを交換する場合には、第2レバーの先端同士を連結する連結ピンを抜いて第2レバーを拡げたのち、ビスを取外して圧着ダイを第2レバーから分離する。
【0003】
特許文献2の圧着工具においては、ピン連結される一対のハンドルと、ハンドルの作用端に連結される一対のあご部と、両あご部の支点を備えたピボットなどでプライヤを構成し、あご部の対向面に圧着ダイを交換可能に装着している。圧着ダイにはスライド突起が設けてあり、この突起があご部に設けた溝と係合する状態で圧着ダイを装着し、さらに、あご部の側から圧着ダイへ向かって2個のビスをねじ込むことにより、圧着ダイをあご部に固定している。圧着ダイを交換する場合には、あご部を拡げたのち、ビスを取外して圧着ダイをスライドさせながらあご部から取外す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4030411号公報(段落番号0021、図4)
【特許文献2】特開2000−133401号公報(段落番号0023、図4〜図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の圧着工具は、一対のノックピンを第2レバーのノッチとピン受部とで位置決めした状態で、圧着ダイをビスで締結して第2レバーに固定できる。しかし、ノックピンによる位置決めは、圧着ダイを第2レバーに対して位置決めしているにすぎない。そのため、第2レバーを互いに接近させて一対の圧着ダイを圧着姿勢にした状態において、一方の圧着ダイに設けた突起状の圧着刃の中心と、他方の圧着ダイに設けたU字状の折曲刃の中心とを適正に一致させることができない。これは、第2レバーおよび圧着ダイの加工精度にばらつきがあることと、両レバーを組付けたときの組付位置と、第2レバーと圧着ダイを組付けたときの組付位置にばらつきがあるためである。
【0006】
上記のように、圧着刃の中心と折曲刃の中心とが位置ずれしていると、圧着端子に設けた一対のかしめ爪を均等に折り曲げることができないばかりか、場合によっては圧着不良を生じることがある。圧着刃と折曲刃の中心の位置ずれの問題は、特許文献2の圧着工具においても同様に生じるが、特許文献1、2の圧着工具に固有の問題ではなく、圧着ダイを交換できる形態の圧着工具において共通の問題となっている。
【0007】
また、特許文献1の圧着工具は、圧着作業時に第2レバーが撓むのを避けるために、第2レバーの先端同士を連結ピンで連結している。そのため、圧着ダイを交換する場合には、先の連結ピンを抜いて第2レバーを拡げ、さらにビスを圧着ダイから分離したのち、圧着ダイを第2レバーから取外して、新たな圧着ダイを組む必要がある。そのため、圧着ダイの交換に多くの手間が掛かる。その点、特許文献2の圧着工具は、あご部を拡げたのちビスを取り外し、さらに、圧着ダイをスライドさせながらあご部から取外せばよいので、特許文献1の圧着工具に比べると、圧着ダイの交換の手間を幾分か軽減できる。しかし、ビスを圧着ダイから完全に分離する必要があるので、手間を軽減できる度合はごくわずかでしかなく、圧着ダイの交換を速やかに行えない。
【0008】
従来の圧着ダイにおいては、積層した板材をワイヤーソーで切断することにより、圧着刃や折曲刃を形成している。しかし、積層した板材の上下端と中途部との間で、ワイヤーソーが撓み変形するため、圧着刃や折曲刃の形状にばらつきを生じやすく、加工不良となる切断ブランクの数は少なくない。こうした歩留まりの悪さを解消するために、本発明者は圧着ダイを金属粉末射出成形法で形成して、圧着刃や折曲刃の形状精度を向上できるようにした。しかし、形状精度が高い圧着ダイであっても、これをアームのあご部に装着した状態において、圧着刃の中心と折曲刃の中心とがずれていたのでは、圧着端子を適正に圧着することはできない。
【0009】
本発明の目的は、圧着ダイをあご部に対して位置決めできるのはもちろん、一対の圧着ダイの上下位置を正確に位置決めして、圧着刃の中心と折曲刃の中心とを一致させることができ、従って、圧着端子を常に適正に圧着処理できる圧着工具を提供することにある。
本発明の目的は、圧着ダイのあご部に対する着脱を少ない手間で簡便に行うことができ、従って、圧着ダイの交換を迅速に行なえる圧着工具を提供することにある。
本発明の目的は、圧着刃の中心と折曲刃の中心とを正確に一致させるための位置決め構造を簡素化して圧着ダイをより低コストで製造でき、その分だけ低コスト化された圧着工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る圧着工具は、第1アーム1と第2アーム2の作用部側に一対のあご部4・4が設けてあり、両あご部4・4の対向面に一対の圧着ダイ15・15が着脱可能にねじ構造で締結してある。図1に示すように、一方の圧着ダイ15には、複数の圧着刃24と逃げ凹部25とを交互に形成する。他方の圧着ダイ15には、複数の折曲刃26と区分突起27とを交互に形成する。あご部4と圧着ダイ15との間に、左右方向の位置決めを行う第1位置決め構造を設ける。さらに、一対の圧着ダイ15・15の間に、上下方向の位置決めを行う第2位置決め構造を設ける。
【0011】
第2位置決め構造は、逃げ凹部25の内奥と区分突起27の突端に形成した、位置決め突起35と位置決め凹部36とで構成する。圧着ダイ15をあご部4に組付ける過程で、位置決め突起35と位置決め凹部36とを係合して、圧着刃24の中心と折曲刃26の中心とを一致させる。
【0012】
一対のあご部4・4のそれぞれに、圧着ダイ15・15を複数のねじ構造で締結固定する。圧着ダイ15に、ねじ軸部19aを挿通するための装着溝32を形成する。装着溝32を圧着ダイ15の周縁において開口させて、圧着ダイ15を前記ねじ軸部19aに対して着脱できるようにする。
【0013】
一対のあご部4・4に、圧着ダイ15を位置決めする基準面16と締結面17とを設ける。圧着ダイ15は、基準面16および締結面17で支持される断面L字状の基部22と、基部22に連続して対向する圧着ダイ15へ向かって突出する刃部23とを備えている。第1位置決め構造は、あご部4に設けた基準面16と、圧着ダイ15の基部22に設けた位置決め面30とで構成する。
【0014】
第1アーム1と第2アーム2とを連結軸3でX字状に連結して、両アーム1・2の作用端にあご部4・4を一体に設けてプライヤ状に構成する。
【0015】
圧着ダイ15は、あご部4にねじ込んだボルト19で締結する。装着溝32の周縁に沿って、ボルト19の操作頭部19bを受入れる締結座33を凹み形成する。
【0016】
一対の装着溝32の溝中心を位置決め面30に対して斜めに傾斜する状態で平行に設ける。第1アーム1と第2アーム2を開放姿勢にした状態において、一方の圧着ダイ15を他方の圧着ダイ15の位置決め面30と概ね平行な方向に沿って着脱できるようにする。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、あご部4と圧着ダイ15との間に第1位置決め構造を設け、さらに、一対の圧着ダイ15・15の間に第2位置決め構造を設けて、圧着ダイ15を左右方向と上下方向に位置決めした状態であご部4に固定できるようにした。このように、圧着ダイ15をあご部4に対して位置決めしたうえで、一対の圧着ダイ15・15どうしを位置決めすると、一方の圧着ダイ15に設けた圧着刃24の中心と、他方の圧着ダイ15に設けた折曲刃26の中心とを適正に一致させることができる。従って、圧着ダイ15をあご部4に対して交換できる圧着工具であるにも拘らず、圧着刃24と折曲刃26との対応関係を常に適正化して、圧着工具による圧着端子の圧着処理を適正にしかも確実に行うことができる。
【0018】
逃げ凹部25と区分突起27に形成した位置決め突起35と位置決め凹部36とで第2位置決め構造を構成すると、逃げ凹部25および区分突起27を形成する過程で、位置決め突起35および位置決め凹部36を同時に形成することができる。また、単純な形状の位置決め突起35および位置決め凹部36で第2位置決め構造を構成するので、第2位置決め構造を簡素化でき、圧着ダイ5をより低コストで形成して圧着工具を低コスト化できる。さらに、圧着処理に関与しない逃げ凹部25および区分突起27に位置決め突起35および位置決め凹部36を形成するので、圧着作業を行う場合に位置決め突起35および位置決め凹部36が作業の邪魔になるのを防止できる。
【0019】
圧着ダイ15にねじ構造で締結固定するための装着溝32を形成し、装着溝32を圧着ダイ15の周縁において開口させると、例えばあご部4にねじ込まれたボルト19を完全に取り外す必要もなく、圧着ダイ15をあご部4に着脱できる。従って、従来の圧着工具に比べて、圧着ダイ15のあご部4に対する着脱を少ない手間で簡便に行うことができ、圧着ダイ15の交換を迅速に行なうことができる。
【0020】
あご部4に設けた基準面16と、圧着ダイ15の基部22に設けた位置決め面30とで第1位置決め構造を構成すると、圧着ダイ15の位置決め面30をあご部4の基準面16に押付けるだけで、圧着ダイ15のあご部4に対する左右位置を簡単に位置決めできる。また、互いに面接触する基準面16と位置決め面30とで位置決め状態を保持するので、第2位置決め構造による位置決めを安定した状態で行なうことができる。さらに、ねじ構造をねじ込んで圧着ダイ15を締結する際に、圧着ダイ15を安定した状態で保持することができる。
【0021】
第1アーム1と第2アーム2を連結軸3でX字状に連結し、両アーム1・2の作用端にあご部4・4を一体に設けたプライヤ状の圧着工具によれば、例えば、トグル構造のあご部を備えた圧着工具に比べて、あご部4の構造を簡素化しコンパクト化できる。従って、小型の圧着端子を圧着するのに適した圧着工具とすることができる。
【0022】
装着溝32の周縁に沿って、ボルト19の操作頭部19bを受入れる締結座33が凹み形成してある圧着工具によれば、あご部4にねじ込んだボルト19の突出寸法を締結座33の凹み分だけ小さくできる。従って、圧着工具を使用するとき、ボルト19の操作頭部19bにリード線や衣服の一部が引っ掛かるのを良く防止できるうえ、圧着工具を出し入れするときに、ボルト19が収納ケースに引っ掛かることも防止できる。
【0023】
一対の装着溝32の溝中心を位置決め面30に対して斜めに傾斜する状態で平行に設けると、一方の圧着ダイ15をあご部4から取外すとき、取外し途中の圧着ダイ15が他方の圧着ダイ15に接当するのを防止できる。従って、圧着ダイ15のあご部4に対する着脱を円滑に行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る圧着工具のあご部構造を示す正面図である。
【図2】本発明に係る圧着工具の正面図である。
【図3】圧着ダイおよびあご部の分解斜視図である。
【図4】圧着ダイをあご部から分離した状態の正面図である。
【図5】図1におけるA−A線断面図である。
【図6】圧着工具の別の実施例を示す正面図である。
【図7】圧着工具のさらに別の実施例を示す正面図である。
【図8】第1アームおよび第2アームのブランクを示す要部の正面図である。
【図9】一対のブランク同士を位置決めした状態の正面図である。
【図10】一対のブランクに対する穴あけ加工を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例) 図1ないし図5は本発明をプライヤ型の圧着工具に適用した実施例を示す。図2においてプライヤ型の圧着工具は、X字状に配置した第1アーム1と第2アーム2とをボルト(連結軸)3およびナットで相対揺動可能に連結して構成する。両アーム1・2は、第1アーム1に配置した捻じりコイル形の開きばね7で開き付勢してある。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図2に示す交差矢印と上下、左右、前後の文字表示に従うこととする。
【0026】
各アーム1・2は、それぞれ上端にあご部4を有し、下端側を握り柄5としたクランク形状のプレス成形品からなり、握り柄5の外面はプラスチック製のグリップ体6で覆われている。先の開きばね7は一対のばね腕8を備えており、一方のばね腕8は第1アーム1のグリップ体6に埋設され、他方のばね腕8は、第2アーム2の握り柄5側の交差部分に設けた、湾曲凹部からなるばね受部9に掛止してある。
【0027】
第2アーム2には、両アーム1・2の開き限界を規定し、さらに両アーム1・2を圧着姿勢(図1に示す状態)に保持するストッパー10が設けてある。ストッパー10には、第1規制面11と第2規制面12とが設けてあり、図2に示す状態では、第2規制面12が第1アーム1を受止めて、両アーム1・2がこれ以上開くのを規制している。この状態から、両アーム1・2を圧着姿勢にしたのち、ストッパー10をボルト13の周りに時計回転方向へ回動すると、第1規制面11が第1アーム1と接当して、不使用時の両アーム1・2を圧着姿勢に保持できる。
【0028】
一対のあご部4の対向面には、それぞれ圧着ダイ15が着脱可能にねじ構造で締結してある。圧着ダイ15をあご部4に対して正確に位置決めした状態で固定するために、あご部4と圧着ダイ15との間に、左右方向の位置決めを行う第1位置決め構造を設けている。
【0029】
一対のあご部4の対向面には、第1位置決め構造を構成する平坦面からなる基準面16が設けてあり、さらに基準面16と直交する締結面17が設けてある。第1アーム1における締結面17はあご部4の後面側に設け、第2アーム2における締結面17はあご部4の前面側に設ける。締結面17の上下2個所には、ねじ穴18が貫通状に形成してあり、このねじ穴18と、同穴18にねじ込まれる六角穴付ボルト(ボルト)19とで先のねじ構造を構成している。
【0030】
図3に示すように圧着ダイ15は、断面がL字状の基部22と、基部22に連続して対向する圧着ダイ15へ向かって突出する刃部23とを一体に備えた、上下に長い金属粉末射出成形品からなる。第1アーム1に装着される圧着ダイ15の刃部23には、先すぼまり状の圧着刃24と、U字状の逃げ凹部25とが交互に形成してある。この実施例では、刃部23の上側から下側へ向かって、サイズが徐々に大きくなる6個の圧着刃24を設けた。また、第2アーム2に装着される圧着ダイ15の刃部23には、U字状の折曲刃26と、隣りあう折曲刃26を区分する先すぼまり状の区分突起27とが交互に形成してある。折曲刃26は、先の圧着刃24に対応して6個設けてある。
【0031】
基部22のあご部4への装着面には、先の基準面16で受止められる位置決め面30と、先の締結面17に接合される装着面31とが直交状に形成してある(図5参照)。第1位置決め構造は、あご部4に設けた基準面16と、圧着ダイ15に設けた位置決め面30とで構成してある。装着面31を含む平坦壁の上下には、先の六角穴付ボルト19のねじ軸部19aを挿通するための装着溝32が形成され、さらに装着溝32の周縁に沿って、六角穴付ボルト19の操作頭部19bを受入れる締結座33が凹み形成してある。上下の装着溝32は、それぞれ溝中心が位置決め面30に対して35度傾斜する状態で形成してあり、先の平坦壁の周縁において開口している。
【0032】
上記のように、装着溝32を圧着ダイ15の周縁において開口させると、圧着ダイ15を締結面17に沿ってスライドさせることにより、圧着ダイ15をねじ軸部19aに対して斜めにスライドさせながら着脱することができる。従って、圧着ダイ15をあご部4に着脱するとき、図3に示すように、六角穴付ボルト19はねじ穴18にねじ込んだままでよく、その操作頭部19bが締結座33から浮き離れているだけでよい。装着溝32の溝中心が位置決め面30に対して斜めに傾斜してあると、圧着ダイ15をあご部4から分離するとき、圧着ダイ15を装着溝32の溝内面に沿ってスライドさせながら分離できる。このとき、取外し途中の圧着ダイ15のスライド方向は、他方の圧着ダイ15の位置決め面30と概ね平行になっており、従って取外し途中の圧着ダイ15が他方の圧着ダイ15に接当するのを防止しながら、簡便に着脱できることとなる。
【0033】
位置決め面30を基準面16に接当させることにより、圧着ダイ15をあご部4に対して位置決めできる。しかし、この状態で圧着ダイ15を六角穴付ボルト19で締結しても、一対の圧着ダイ15・15の上下位置を正確に位置決めすることはできない。装着溝32と六角穴付ボルト19との間に隙間が存在し、この隙間の範囲内で圧着ダイ15の上下位置が変動できるからである。このような不具合を一掃するために、本発明においては、一対の圧着ダイ15・15の間に、両圧着ダイ15・15の上下方向の位置決めを行う第2位置決め構造を設けている。
【0034】
具体的には、図1に示すように、圧着ダイ15の長手方向の中央部近傍に位置する区分突起27の突端に位置決め突起35を設け、この区分突起27に対応する逃げ凹部25の内奥に位置決め凹部36を形成して第2位置決め構造とした。位置決め突起35の突端は半円状に丸められており、同様にV字溝状の位置決め凹部36の溝底部分は半円状に丸められている。位置決め突起35と位置決め凹部36の半円部分の半径寸法は一致させてある。従って、両圧着ダイ15・15を圧着姿勢にして、両者35・36を互いに係合させた状態では、一対の圧着ダイ15・15を上下に位置決めできる。さらに、圧着刃24の中心と折曲刃26の中心とを正確に一致させて、両者24・26の間に形成される隙間量を均一化できる。なお、圧着端子を圧着した状態では、圧着端子およびリード線の挟み厚さの分だけ一対の圧着ダイ15・15の間に隙間が残るので、位置決め突起35が圧着作業の邪魔になることはない。位置決め突起35が形成してある中央の区分突起27に隣接する区分突起27の先端の下部に突片が形成してあるが、これは区分突起27の外形を圧着刃24の外形線に沿わせるためであって、突片自体に位置決め作用はない。
【0035】
一対の圧着ダイ15は、圧着刃24および折曲刃26のサイズや形状の違いに応じて複数組が用意してあり、ユーザーは圧着処理すべき圧着端子の違いに応じて、適合する圧着ダイ15を使用することができる。圧着ダイ15をあご部4から取外す場合には、六角穴付ボルト19を緩めてその操作頭部19bを締結座33から僅かに離す。この状態で、図4に示すように圧着ダイ15を装着溝32の溝内周面に沿ってスライド操作することにより、あご部4の締結面17および六角穴付ボルト19から取外すことができる。なお、先に説明したように、圧着ダイ15は金属粉末射出成形法で1個の部品として構成するが、成形が終了した時点の位置決め面30および装着面31の精度は充分に確保されている。従って、成形後の圧着ダイ15の位置決め面30および装着面31に仕上加工を施す必要はなく、成形された状態のままであご部4に組付けることができる。
【0036】
新たな圧着ダイ15をあご部4に組付ける場合には、上側の装着溝32の直線状の溝内周面を六角穴付ボルト19のねじ軸部19aにあてがった状態で、圧着ダイ15を締結面17に沿って斜めにスライドさせて、圧着ダイ15の位置決め面30を基準面16に密着させる。他方の圧着ダイ15も同様にして仮組みし、指先で六角穴付ボルト19をねじ込んで仮固定する。この状態で、一対の握り柄5を握って圧着ダイ15を圧着姿勢にすると、位置決め突起35と位置決め凹部36とが互いに係合して、一対の圧着ダイ15・15の上下方向の位置決めを行う。この状態のままで、六角穴付ボルト19を棒レンチ、あるいはプライヤでねじ込んで圧着ダイ15を強固に固定する。圧着ダイ15をあご部4に六角穴付ボルト19で固定した状態では、図5に示すように、一対の圧着ダイ15の刃部23の前後面は面一になっている。
【0037】
図6は本発明に係る圧着工具の別の実施例を示す。そこでは、第1アーム1と第2アーム2の作用部側に一対のあご部4・4をピン40で連結し、さらにあご部4どうしを支点ピン41を備えた連結リンク42で連結して、あご部4側をトグル構造状に構成した。この実施例における圧着工具は、上記の圧着工具と同様に、各あご部4と圧着ダイ15との間に、基準面16と位置決め面30とからなる第1位置決め構造が設けてある。また、一対の圧着ダイ15の間に、位置決め突起35と位置決め凹部36とからなる第2位置決め構造が設けてある。したがって、トグル構造の圧着工具においても、圧着刃24の中心と折曲刃26の中心とを適正に一致させることができる。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図7ないし図10は、本発明に関連する圧着工具の実施例を示す。図7に示すように、圧着工具は、あご部4を一体に備えた第1アーム1と、あご部4を一体に備えた第2アーム2とを、X字状に組んでボルト(連結軸)3およびナットで相対揺動可能に連結して構成してある。第1アーム1側のあご部4には、圧着刃24と逃げ凹部25とが交互に形成してあり、第2アーム2側のあご部4には、折曲刃26と区分突起27とが交互に形成してある。このように、あご部4に圧着刃24あるいは折曲刃26が一体に形成してある場合には、両アーム1・2を組んでしまうと圧着刃24と折曲刃26を互いに位置決めすることはできなくなる。
【0039】
そこで、この実施例においては、第1アーム1の第1ブランク45と第2アーム2の第2ブランク46を形成し、両ブランク45・46を位置決めした状態でボルト3用の挿通穴52の加工を行うようにした。両ブランク45・46を位置決めするために、上端および下端に位置する区分突起27の突端に位置決め突起49を設け、対応する2個の逃げ凹部25の内奥に位置決め凹部50を設けている。位置決め突起49と位置決め凹部50は、先の実施例における位置決め突起35と位置決め凹部36と同様に半円状に形成してあり、半円部分の半径寸法は一致させてある。なお、第1ブランク45のあご部4は折曲線47に沿って後面側へ折曲げてあり、第2ブランク46のあご部4は折曲線48に沿って前面側へ折曲げてあり、これにより圧着刃24と折曲刃26とを面一状に係合することができる。
【0040】
穴あけ加工を行う場合には、図9および図10に示すように、両ブランク45・46を上下に重ねたのち、あご部4・4どうしを互いに噛みあわせて、位置決め突起49と位置決め凹部50を上下2個所で係合させ、一対のあご部4・4を上下に位置決めする。この状態の圧着刃24の中心と折曲刃26の中心は正確に一致している。従って、上下に重ねた状態の両ブランク45・46を治具に装填してクランプで固定したのち、図10に示すように、ドリル51で穴あけ加工を施して挿通穴52を形成することにより、圧着刃24と折曲刃26と挿通穴52の位置関係を適正化できる。最後に、ボルト3を挿通穴52に挿通してナットをねじ込むことにより、あご部4を一体に備えた第1アーム1と第2アーム2を開閉可能に連結して、プライヤ型の圧着工具を完成することができる。
【0041】
上記の実施例では、区分突起27に位置決め突起35を設けたが、位置決め突起35を逃げ凹部25に設け、位置決め凹部36を区分突起27に設けることができる。このように、位置決め突起35と位置決め凹部36は、逃げ凹部25と区分突起27を利用して形成するのが好ましいが、その必要はなく、一対の圧着ダイ15・15の間であればどこに設けてあってもよく、複数個所に設けてあってもよい。位置決め突起35と位置決め凹部36は、互いに係合する関係である必要はなく、第1位置決め構造のように互いに接当して位置決めする構造であってもよい。
【0042】
あご部4に固定されるねじ軸部19aと、ねじ軸部19aにねじ込まれるナットとでねじ構造を構成することができる。上下の装着溝32は、それぞれの溝中心が非平行に設けてあってもよく、例えば、下側の装着溝32をボルト19のねじ軸部19aに係合したのち、圧着ダイ15の全体を先のねじ軸部19aの周りに回動させて、上側の装着溝32を上側のボルト19に係合することができる。
【0043】
本発明は、実施例で説明した圧着工具以外に、あご部4の対向面に一対の圧着ダイ15が着脱可能にねじ構造で締結してある圧着工具の全てに適用することができる。例えば、交又する状態で連結した第2レバー(あご部)の先端同士を連結ピンで連結した特許文献1の圧着工具にも問題なく適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 第1アーム
2 第2アーム
3 ボルト(連結軸)
4 あご部
15 圧着ダイ
16 基準面
19 六角穴付ボルト(ボルト)
24 圧着刃
25 逃げ凹部
26 折曲刃
27 区分突起
32 装着溝
35 位置決め突起
36 位置決め凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アーム(1)と第2アーム(2)の作用部側に一対のあご部(4・4)が設けてあり、両あご部(4・4)の対向面に一対の圧着ダイ(15・15)が着脱可能にねじ構造で締結してある圧着工具であって、
一方の圧着ダイ(15)には、複数の圧着刃(24)と逃げ凹部(25)とが交互に形成されており、
他方の圧着ダイ(15)には、複数の折曲刃(26)と区分突起(27)とが交互に形成されており、
あご部(4)と圧着ダイ(15)との間に、左右方向の位置決めを行う第1位置決め構造が設けられており、
一対の圧着ダイ(15・15)の間に、上下方向の位置決めを行う第2位置決め構造が設けてあることを特徴とする圧着工具。
【請求項2】
第2位置決め構造が、逃げ凹部(25)の内奥と区分突起(27)の突端に形成した、位置決め突起(35)と位置決め凹部(36)とで構成されており、
圧着ダイ(15)をあご部(4)に組付ける過程で、位置決め突起(35)と位置決め凹部(36)とを係合して、圧着刃(24)の中心と折曲刃(26)の中心とを一致させる請求項1に記載の圧着工具。
【請求項3】
一対のあご部(4・4)のそれぞれに、圧着ダイ(15・15)が複数のねじ構造で締結固定されており、
圧着ダイ(15)に、ねじ軸部(19a)を挿通するための装着溝(32)が形成されており、
装着溝(32)を圧着ダイ(15)の周縁において開口させて、圧着ダイ(15)を前記ねじ軸部(19a)に対して着脱できる請求項1または2に記載の圧着工具。
【請求項4】
一対のあご部(4・4)に、圧着ダイ(15)を位置決めする基準面(16)と締結面(17)とが設けられており、
圧着ダイ(15)は、基準面(16)および締結面(17)で支持される断面L字状の基部(22)と、基部(22)に連続して対向する圧着ダイ(15)へ向かって突出する刃部(23)とを備えており、
第1位置決め構造が、あご部(4)に設けた基準面(16)と、圧着ダイ(15)の基部(22)に設けた位置決め面(30)とで構成してある請求項1から3のいずれかひとつに記載の圧着工具。
【請求項5】
第1アーム(1)と第2アーム(2)とが連結軸(3)でX字状に連結され、両アーム(1・2)の作用端にあご部(4・4)を一体に設けてプライヤ状に構成してある請求項1から4のいずれかひとつに記載の圧着工具。
【請求項6】
圧着ダイ(15)が、あご部(4)にねじ込んだボルト(19)で締結されており、
装着溝(32)の周縁に沿って、ボルト(19)の操作頭部(19b)を受入れる締結座(33)が凹み形成してある請求項3から5のいずれかひとつに記載の圧着工具。
【請求項7】
一対の装着溝(32)の溝中心が、位置決め面(30)に対して斜めに傾斜する状態で平行に設けられており、
第1アーム(1)と第2アーム(2)を開放姿勢にした状態において、一方の圧着ダイ(15)を他方の圧着ダイ(15)の位置決め面(30)と概ね平行な方向に沿って着脱できる請求項3から6のいずれかひとつに記載の圧着工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−8549(P2013−8549A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140419(P2011−140419)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(592038018)株式会社エンジニア (10)
【Fターム(参考)】