説明

圧粉コアの製造方法

【課題】高い比透磁率と低い渦流電流とを両立した圧粉コアを提供することにある。
【解決手段】鉄成分を含む粉末を用いて圧粉体を形成する工程、前記圧粉体を焼成して、抵抗率が50μΩ・m未満の焼成体を形成する工程、及び前記焼成体を水蒸気中で熱処理する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電気機器に用いられる圧粉コアの製造方法に関する。より詳しくは、本発明の圧粉コアの製造方法は、粉末冶金法によって形成される焼成体の磁気特性を向上させる、当該方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータなどの電気機器として、圧粉コアと称される鉄心材料が注目されている。圧粉コアは鉄系の粉末に絶縁体をコーティングし、さらに必要に応じてバインダーを添加して、これらの混合物を、順次、プレス成形及び焼成することにより作製される。このような技術によれば、電磁鋼板から作製された従来の鉄心とは異なり、3次元構造の鉄心を得ることができる。従って、圧粉コアにより、電気機器の構造設計の範囲は大きく広がった。
【0003】
しかしながら、鉄心に圧粉コアを用いることには、いくつかの欠点も存在する。例えば、圧粉コアは絶縁体皮膜でコーティングされた鉄系粉末をプレス成形して得られるため、鉄粉の間に非磁性成分が介在し、磁壁の移動を妨げるおそれがある。このため、圧粉コアの透磁率は、電磁鋼板から作製された鉄心などのそれよりも低くなる可能性が高い。
【0004】
このような状況に対応すべく、透磁率を高めるためには、プレス成形後の焼成温度を高めるなどの方法が考えられるが、最大比透磁率を1000程度まで高めようとすると、500℃以上での熱処理が必要となるため、絶縁皮膜が破壊されてしまい、渦電流損が増加する。
【0005】
以上のように1000程度の高い最大比透磁率と低い渦電流損とを両立することは、従来技術においては不可能であった。
【0006】
そこで、渦電流損を低減するために、アトマイズ法によって粉末を作製する段階で、雰囲気に所定量以上の水蒸気を含ませることにより、粉末表面に酸化物層を形成する方法が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、Feを主成分とする軟磁性材料を溶融してなる溶湯を用い、アトマイズ法により前記軟磁性材料の粒子を製造する際に、前記アトマイズ法の条件が、(a)前記溶湯の温度は、前記軟磁性材料の融点をTm[℃]としたとき、Tm+200℃以上である、及び(b)水蒸気量10g/m3以上の水蒸気含有雰囲気下で行う、の条件を満たすことにより、前記粒子の表面に、前記軟磁性材料が酸化してなる酸化物で構成された被覆層を形成する、する酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法が開示されている。
【0008】
この方法を用いると、耐久性の高い酸化物層が形成され、渦電流損を低減することができるが、酸化物の皮膜は硬く、プレスの際に粉末が変形し難くなってしまうため、高圧でプレスを行わなければ高い密度、ひいては高い飽和磁束密度、及び透磁率のコアを得ることはできない。しかしながら、高圧でのプレスは金型の耐久性を著しく低下させるとともに、圧粉体の抜き出し時のトラブルの頻度をも上昇させる。さらに、形成された酸化物層は高圧でプレスを行うとその一部が破損してしまうおそれもある。この場合には、酸化物層の破損部分は電気的に同通してしまい、結局、渦電流損は低減できない。以上により、特許文献1には、高い最大比透磁率と低い渦電流損とを両立する技術については、何ら開示されていないこととなる。
【0009】
また、プレス後に酸化物層の補修工程を追加して性能を高めるなどの対策を施す技術も開示されている。
【0010】
例えば、特許文献2には、鉄を主成分とする軟磁性粉末の表面に酸化膜を形成する表面酸化工程と、表面に酸化膜を形成した軟磁性粉末をプレス成形して所定形状の成形体とするプレス成形工程と、前記軟磁性粉末の成形体を焼成することにより、軟磁性材の焼結体とする焼結工程とを有し、前記焼結工程において、前記成形体を不活性ガスに弱酸化性ガスを混入した弱酸化性雰囲気ガスと接触させる酸化処理と、雰囲気ガスを系外に排出する脱気処理を交互に繰り返すことを特徴とする軟磁性材の製造方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、当該製造方法では、プレス後の酸化物層の補修工程の付加により、方法が複雑になるという問題がある。こうした事情により、1000程度の高い最大比透磁率が必要となるような、主に低周波用途の圧粉コアを製造する場合には、高い量産性を実現できない。以上により、特許文献2にも、高い最大比透磁率と低い渦電流損とを両立する技術については、何ら開示されていないこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−088496号公報
【特許文献2】特開2006−108475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、種々の圧粉コアの製造方法等が開示されているが、特に、高い比透磁率と低い渦流電流とを両立した圧粉コアの製造方法に対する要求が存在する。
【0014】
従って、本発明の目的は、高い比透磁率と低い渦流電流とを両立した圧粉コアを提供することにあり、特に、焼成体に特定の熱処理を施すことにより、所定の特性を備える圧粉コアを得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、鉄成分を含む粉末を用いて圧粉体を形成する工程、上記圧粉体を焼成して、抵抗率が50μΩ・m未満の焼成体を形成する工程、及び上記焼成体を水蒸気中で熱処理する工程を含む、圧粉コアの製造方法に関する。本発明の圧粉コアの製造方法は、各種電気機器に使用される鉄心の製造に用いられる。
【0016】
本発明の圧粉コアの製造方法は、上記鉄成分を含む粉末が純鉄粉末であることが望ましい。また、上記熱処理において、処理温度を120℃以上、処理湿度を100%、及び処理時間を100〜200時間とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の圧粉コアの製造方法によれば、所定の熱処理により、比透磁率と渦電流損との双方の特性を高いレベルで実現することができる。このため、本発明の製造方法により得られた圧粉コアは、各種電気機器の鉄心として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の圧粉コアについての、最大比透磁率と熱処理時間との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の圧粉コアについての、磁束密度と熱処理時間との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の圧粉コアについての、損失(ヒステリシス損、渦電流損、及びこれらの合計)と熱処理時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
発明者は、上記課題に鑑み、粉末のプレス成形、焼成、及び熱処理を順次行うことにより、所定の特性、即ち、高い比透磁率と低い渦流電流とを備える圧粉コアを得る技術について、鋭意、検討した。また、今回の検討では、プレス成形、焼成、及び熱処理の3工程を終えた時点で、最大で1000以上といった高い最大比透磁率を得ることを優先的に考慮しつつ、プレス成形及び焼成の2工程を終えた時点での焼成体の不所望な渦電流値を、事後的に増大させるべく、熱処理を行うこととした。
【0020】
その結果、熱処理前の焼成体の抵抗率が50μΩ・m未満であれば、水蒸気含有雰囲気での熱処理により、圧粉コアの抵抗率が効果的に上昇し、渦電流損を低減することができ、結果的に、高い比透磁率と低い渦流電流とを備える圧粉コアを得ることができるとの知見を得た。本発明は、以上の知見に鑑みてなされたものである。
【0021】
以上の知見に基づく本発明の圧粉コアの製造方法は、圧粉体の形成工程、焼成工程、及び熱処理工程を含む。以下に、各工程について詳述する。なお、以下に示す例は、本発明の一例であり、当業者であれば、適宜設計変更することができる。
【0022】
<圧粉体の形成工程>
まず、使用粉末として、鉄成分を含む粉末(以下、「鉄系粉末」と称する場合がある)を準備する。例えば、純鉄粉、ステンレス鋼粉等を用いることができる。
【0023】
これらの鉄系粉末として、例えば、純鉄粉末を用いた場合には、後述する熱処理において、粉末表面にFe34(マグネタイト)が析出する。マグネタイトの抵抗率は50μΩ・m以上であるため、上記知見に従えば、結果的に、圧粉コアの高い比透磁率と低い渦流電流とを高いレベルで両立することができる。
【0024】
鉄系粉末として、アトマイズ法、還元法等の各種製法により得られた各種粉末に絶縁皮膜が施されたものを適用することができる。絶縁皮膜は渦電流損の抑制を目的として施される。これらのうちでも、水アトマイズ法により得られた粉末を適用することが、粉末の高圧縮性及び低コストという点で好ましい。
【0025】
鉄系粉末の粒度は、圧粉コアに要求される磁束密度及びそれが用いられる特定の周波数領域により決定することができる。例えば、圧粉コアにより実現されるべき磁束密度が1.0 〜2.0Tであり、かつ、圧粉コアの使用周波数領域が50〜400Hzの場合には、鉄系粉末の粒度は、平均粒径100μm〜200μmの粉末を用いることが好ましい。
【0026】
このような粉末に、所定のバインダーを加えて混合する。バインダーとしは、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる、特に、ポリアミド樹脂を用いた場合には、高強度化の点で好ましい。
【0027】
鉄系粉末とバインダーとの混合は、バインダーの混合比率を0.005〜5質量%とし、混合回転機などで混合することができる。特に、バインダーの混合比率を0.005〜1%で行うことが、磁束密度の向上の点で好ましい。このようにして、鉄系粉末とバインダーとを含む原料を得る。
【0028】
次に、所定の金型を用いて、上記原料をプレス成形する。金型の形状は特に限定されず、例えば、軸受け形状の金型を用いることができる。
【0029】
プレス成形の際には、高い圧縮性を得るため、及び、圧粉体の抜き出し時における金型内表面と圧粉体との摩擦を抑制するために、金型内表面に潤滑剤を予め塗布しておくことが好ましい。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、エチレンビスステアロアマイド、リン酸2水素カリウム等を用いることができ、具体的な塗布態様としては、静電塗布法等を適用することができる。
【0030】
また、プレス成形条件としては、保持応力600〜1500MPaとすることができ、特に、保持応力を800〜1000MPaとすることがコアを高密度としつつ金型の寿命低下を防ぐ点で好ましい。
【0031】
以上のようにして、所定の圧粉体を得ることができる。
【0032】
<焼成工程>
上記のようにして得られたバインダーを含む圧粉体を焼成する。焼成は、所定の焼成炉にて、大気又は窒素雰囲気の下、保持温度200〜600℃、及び保持時間10〜120分で行うことができる。
【0033】
このような条件下においては、特に、保持温度300〜550℃とすることが、絶縁皮膜の熱による破壊を抑え、渦電流損が抑えられる点と、内部歪の緩和により比透磁率が上昇し、ヒステリシス損が減少する点で好ましい。
【0034】
以上のようにして、所定の焼成体を得ることができる。
【0035】
なお、焼成体の抵抗率は、例えば、通常の4端子法により測定することができる。
【0036】
<熱処理工程>
上記のようにして得られた焼成体を熱処理する。熱処理は、所定の熱処理装置を湿度100%の状態として、保持温度100〜550℃、及び保持時間10分〜200時間として行うことができる。
【0037】
以上のようにして、所定の圧粉コアを得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の効果を実施例により実証する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するための代表例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない。
【0039】
<圧粉コアの作製>
ヘガネス社製リン酸塩皮膜つき純鉄粉末と、バインダーとを混合し、鉄系粉末とバインダーとを含む原料を得た。
【0040】
次に、金型(外径35mm、内径25mm、及び高さ5mmのリング状)を用いて、上記原料をプレス成形した。プレス成形の際には、高い圧縮性等に鑑み、金型内表面に潤滑剤を予め塗布した。
【0041】
ここで、プレス成形条件を、保持応力980MPa、とし、本発明例の圧粉体を得た。
【0042】
次いで、焼成炉にて、大気中雰囲気の下、保持温度500℃として圧粉体を焼成して、本発明例の焼成体を得た。
【0043】
ここで、焼成体の最大比透磁率(定義:B/(μ0H)の最大値)を岩通計測社製の装置BHアナライザSY-8232で測定したところ、985であり、抵抗率(RS/L:Rは測定された抵抗値、Sは測定領域の断面積、Lは測定領域の長さを4端子法で測定したところ、7μΩ・mであった。
【0044】
さらに、エスペック社製の熱処理装置内を湿度100%の状態として、保持温度120℃、及び保持時間200分として熱処理を行い、本発明例の圧粉コアを得た。
【0045】
<磁気特性の評価>
以上のようにして得られた圧粉コアについて、最大比透磁率(B/(μ0H)の最大値)、磁束密度、並びにヒステリシス損及び渦電流損について、測定した。
【0046】
最大比透磁率、磁束密度、損失については、岩通計測社製の装置BHアナライザSY-8232を用いて測定した。損失は2周波数法によりヒステリシス損と渦電流損に分離した。これらの結果を図1〜3に示す。
【0047】
図1〜3によれば、焼成体に対して施した熱処理により、最大比透磁率、磁束密度、及びヒステリシス損を変化させることなく、渦電流のみを低減させることができる。これにより、熱処理を施した圧粉コアについては、高い比透磁率と低い渦電流損とを両立することができることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の圧粉コアの製造方法によれば、高い比透磁率と低い渦電流損とを両立した圧粉コアを得ることができる。従って、本発明は、今後益々、高い磁気特性が要請される鉄心の製造に適用することができる点で有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄成分を含む粉末を用いて圧粉体を形成する工程、
前記圧粉体を焼成して、抵抗率が50μΩ・m未満の焼成体を形成する工程、及び
前記焼成体を水蒸気中で熱処理する工程
を含むことを特徴とする、圧粉コアの製造方法。
【請求項2】
前記鉄成分を含む粉末が純鉄粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の圧粉コアの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理において、処理温度を120℃以上、処理湿度を100%、及び処理時間を100〜200時間とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧粉コアの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−135000(P2011−135000A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295312(P2009−295312)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】