説明

圧粉体の焼結方法および圧粉体焼結用治具

【課題】外周面に同心円状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成された円筒状の物品を焼結歪みによる偏った変形を効果的に抑えて形状精度の低下を防ぐ。
【解決手段】熱膨張で変形しやすい薄肉部を部分的に有する圧粉体1Aの小径部10を円筒状の治具20内に挿入し、焼結中においては小径部10の外周面10aを治具20の内周面20aに密着させて拘束し、小径部10の外側への変形を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉体の焼結方法に係り、特に、外周面に同心状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成された円筒状の圧粉体を焼結する方法および焼結する際に用いて好適な圧粉体焼結用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
押し型内に充填した主に金属粉からなる原料粉末を圧縮して得た所望形状に近似する圧粉体を、所定の焼結温度で加熱して焼結することにより所望形状の部品を得る粉末冶金法は、例えば軸受等の精密部品を高い寸法精度で大量に生産する上で有効とされている。また、形状の複雑な円筒状部品にも広く適用されている(特許文献1等参照)。
【0003】
図3は、粉末冶金法で製造される比較的複雑な形状の円筒状部品の一例を示している。この部品1は、外周面における軸方向一端側に小径部10が形成され、他端側に小径部10よりも径の大きい大径部11が形成されており、大径部11には多数の歯12aよりなる歯列12が全周にわたって形成されている。部品1の内径は一定とされるが、内周面には、内周側に突出する複数の断面台形状の突起(肉厚部)13が不等間隔に形成されている。これら突起13は全長にわたって軸方向に延びており、その内部には円孔13aが貫通形成されている。また、外周面の大径部11から小径部10への移行部には、しだいに縮径するテーパ面14が形成されている。
【0004】
図3の部品1を焼結品として得るには、金型によって近似形状の圧粉体を成形し、この圧粉体を、例えば小径部10を下側に配した姿勢として焼結炉内に載置し、該焼結炉内で所定の焼結温度・焼結時間で加熱することによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−7154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示す部品1は、内周面に複数の突起13が形成されていることにより肉厚は全周にわたって均一ではなく、小径部10における突起13以外の部分の肉厚は、突起13の部分と比べてかなり薄肉である。このような部品1の圧粉体を焼結した場合には、熱膨張によって特に小径部10の薄肉部分に焼結歪みが生じやすく、図4に示すように、その小径部10の薄肉部分が外側に膨らむ(破線で示している)といったように、偏った変形が生じる。このように外側に膨らむ度合いは、薄肉部分の円弧長さが長いほど顕著となる。
【0007】
焼結品にあっては、焼結後には再圧を施して形状の矯正が行われるが、図4のように変形した薄肉の部分は再圧を施しても復帰してしまい、再圧の効果を得にくい。再圧で形状を矯正できない場合は切削等の機械加工で所望形状に加工することが考えられるが、薄肉部分には適用が困難であり、したがって形状精度の確保が課題となっている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、焼結歪みによる偏った変形を効果的に抑えて形状精度の低下を防ぐことができる圧粉体の焼結方法および圧粉体焼結用治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧粉体の焼結方法は、外周面に同心状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成され、内周面の一部に肉厚部が形成されている円筒状の圧粉体を焼結するにあたり、前記小径部の外周面を隙間が空いた状態で囲繞し、かつ焼結時には熱膨張した小径部の外周面が密着し得る内周面を有するとともに、上端面に前記テーパ面が密着する状態で該テーパ面を受けるテーパ受け面を有する円筒状のセラミック製治具を用い、該治具に、前記圧粉体の小径部を挿入するとともに前記テーパ面をテーパ受け面で受けることにより、圧粉体を該治具内で浮上させた状態で焼結することを特徴とする。
【0010】
本発明の圧粉体の焼結方法によれば、熱膨張により外側に変形しようとする小径部の外周面は治具の内周面に密着して拘束されることにより変形が抑えられ、この状態のまま焼結が完了することにより、当初の形状がほぼ確保される。特に、小径部の肉厚部間の部分は焼結歪みが発生しやすいが、この部分の変形が効果的に抑えられる。
【0011】
次に、本発明の圧粉体焼結用治具は、上記本発明の焼結方法を実施する上で好適なものであり、外周面に同心状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成され、内周面の一部に肉厚部が形成されている円筒状の圧粉体を焼結する際に用いる治具であって、セラミックにより円筒状に形成され、前記小径部の外周面を隙間が空いた状態で囲繞し、かつ焼結時には熱膨張した小径部の外周面が密着し得る内周面を有するとともに、上端面に前記テーパ面が密着する状態で該テーパ面を受けるテーパ受け面を有することを特徴とする。
【0012】
本発明で焼結する圧粉体は、内周面に複数の前記肉厚部が不等間隔に設けられている形態を含み、本発明は、特にこのような形態の圧粉体に有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼結歪みによる偏った変形を効果的に抑えて形状精度の低下を防ぐことができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る治具と該治具にセットされる圧粉体を示す側面図であって、(a)セット前、(b)セット後を示している。また、(c)は(b)の1C部分拡大図である。
【図2】一実施形態に係る治具の(a)平面図、(b)断面図、(c)下面図である。
【図3】本発明に係る焼結品の一例を示す(a)平面図、(b)側面図、(c)(a)の3C−3C断面図、(d)斜視図である。
【図4】図3の部品を焼結した場合の焼結歪みによる変形の様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態は、図3で示した部品1に焼結される圧粉体(図1の1A)の焼結方法に係り、図1および図2に示す扁平円筒状の治具20を用いる。図1の圧粉体1Aにおいて、部品1と同一の構成要素には同一の符号を付してある。
【0016】
治具20は、内径が、圧粉体1Aの小径部10の外径よりも僅かに大きく、また、厚さすなわち軸方向高さが小径部10よりも高く設定されたもので、耐熱性を有し、かつ熱膨張係数が低いセラミックで成形されている。治具20の上端面の内周側には、圧粉体1Aのテーパ面14の全面が密着する状態で該テーパ面14を受けるテーパ受け面21が形成されている。治具20の外径は圧粉体1Aの大径部11の外径よりも大きく、テーパ受け面21の部分を除いて肉厚は一定である。
【0017】
この治具20を用いて圧粉体1Aを焼結するには、図1(a)に示すように、圧粉体1Aを、小径部10を下側に、かつ、大径部11を上側に配した姿勢とし、テーパ受け面21を上側に向けた治具20の中に小径部10を挿入する。そして、図1(b)に示すようにテーパ面14をテーパ受け面21に密着させる。これにより圧粉体1Aは、テーパ受け面21にテーパ面14が係合することによって治具20内で浮上した状態にセットされる。図1(c)に示すように、圧粉体1Aの小径部10の外周面10aは、隙間dが空いた状態で治具20の内周面20aに囲繞される。ここで、隙間dは、圧粉体1Aの焼結時において熱膨張した小径部10の外周面10aが密着し得る距離とされる。
【0018】
このように治具20に圧粉体1Aをセットしたら、図1(b)に示すように焼結炉内の台30に治具20を載置し、該焼結炉内において所定の焼結温度で圧粉体1Aを治具20ごと加熱する。所定の焼結時間が経過したら圧粉体1Aは焼結体となり、治具20ごと焼結炉から取り出し、冷却後、焼結体を取り出す。
【0019】
圧粉体1Aを焼結した場合、図4で示したように特に小径部10における突起13以外の薄肉部分が外側に変形する傾向にあった。しかしながら本実施形態では、外側に変形しようとする小径部10の外周面10aは治具20の内周面20aに密着して拘束されることにより変形が抑えられる。そして変形が抑えられたまま焼結が完了することにより、当初の圧粉体1Aの形状がほぼ確保される。
【0020】
また、テーパ面14が治具20のテーパ受け面21に載った状態では、治具20に対し圧粉体1Aは常に同心状に位置付けられる。このため、焼結時に熱膨張する小径部10の外周面10aは、治具20の内周面20aに対し全周にわたって均等な応力で密着する。このため、焼結品が偏って変形することが防がれ、このことからも当初の圧粉体1Aの形状がほぼ確保される。さらに圧粉体1Aは治具20内で浮上して支持されるため、圧粉体1Aの下面と台30との間に摩擦は生じず、このため圧粉体1Aは台30からの摩擦の影響を受けることなく熱膨張する。
以上のことから、本実施形態によれば、焼結歪みによる偏った変形が効果的に抑えられ、形状精度の低下が防がれるといった効果を奏する。
【符号の説明】
【0021】
1A…圧粉体
10…小径部
10a…小径部の外周面
11…大径部
13…突起(肉厚部)
14…テーパ面
20…治具
20a…治具の内周面
21…テーパ受け面21
d…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に同心状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成され、内周面の一部に肉厚部が形成されている円筒状の圧粉体を焼結するにあたり、
前記小径部の外周面を隙間が空いた状態で囲繞し、かつ焼結時には熱膨張した小径部の外周面が密着し得る内周面を有するとともに、上端面に前記テーパ面が密着する状態で該テーパ面を受けるテーパ受け面を有する円筒状のセラミック製治具を用い、
該治具に、前記圧粉体の小径部を挿入するとともに前記テーパ面をテーパ受け面で受けることにより、圧粉体を該治具内で浮上させた状態で焼結することを特徴とする圧粉体の焼結方法。
【請求項2】
前記圧粉体の前記内周面には、複数の前記肉厚部が不等間隔に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の圧粉体の焼結方法。
【請求項3】
外周面に同心状の大径部および小径部を有し、大径部から小径部への移行部にはしだいに縮径するテーパ面が形成され、内周面の一部に肉厚部が形成されている円筒状の圧粉体を焼結する際に用いる治具であって、
セラミックにより円筒状に形成され、前記小径部の外周面を隙間が空いた状態で囲繞し、かつ焼結時には熱膨張した小径部の外周面が密着し得る内周面を有するとともに、上端面に前記テーパ面が密着する状態で該テーパ面を受けるテーパ受け面を有することを特徴とする圧粉体焼結用治具。
【請求項4】
前記圧粉体の前記内周面には、複数の前記肉厚部が不等間隔に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の圧粉体焼結用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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