説明

圧粉磁心およびその製造方法

【課題】従来の圧粉磁心は、積層鋼板製の磁心と比較すると、渦電流損失が特に大きく、モーターなどとして高周波域や高回転速度域での使用に難があった。
【解決手段】少なくとも1つの圧粉体13を含む本発明による圧粉磁心11は、この圧粉磁心11を透過する磁束Bの変化を妨げる方向に生じる起電力Fに対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部13aと、これら一対の表面部13aの中間に位置して当該表面部13aの密度よりも低密度な領域、つまりニュートラルゾーン13bとを圧粉体13が有する。この圧粉磁心11は、圧粉体13を2枚以上含み、相互に重なり合う圧粉体13の表面部13aの間に電気絶縁層14を接着剤として形成することができる。圧粉体13のニュートラルゾーン13bの比抵抗値がその表面部13aの比抵抗値の3倍以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄損を低減させた圧粉磁心およびこの圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波域や高回転速度域で用いられるモーターにおいては、その鉄損に伴う発熱によって効率の低下が問題となる。この鉄損は、周波数に比例するヒステリシス損と、周波数の二乗に比例する渦電流損とを含んでいるので、高周波域や高回転速度域でのモーターの鉄損を低減させるためには、磁心を構成する材料の固有抵抗を高めることが有効である。このため、モーターのステーターやローターまたはヨークを構成する磁心として、従来では固有抵抗値の高いケイ素鋼板を用いたり、このケイ素鋼板を薄板化すると共にプレス成形して積層させ、渦電流損をさらに低減させることが行われている。
【0003】
しかしながら、この方法によって製造される磁心は、複雑な形状を持つ磁心を製造することが困難であり、またプレス成形に伴う剪断歪みによって磁気特性が低下してしまい、理論値ほどの磁気特性を持たせることが実質的に困難である。
【0004】
これに対し、潤滑成分や樹脂バインダーなどと共に軟磁性粉末を含む圧粉体製造材料を金型内で所定形状に圧縮成形して作成される圧粉磁心は、圧粉体製造材料のほとんど100%を製品にすることができるため、材料有効利用率の点で極めて優れた方法である。また、この圧粉磁心は、形状が複雑であっても成形後の修正加工をほとんど必要とせず、対向磁極部分の有効断面積を大きく設定することができる点においても、ケイ素鋼板をプレス成形して積層させた旧来の磁心と比較して優れた製造方法であると言える。なお、この圧粉磁心については特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−224805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1などに開示された従来の圧粉磁心は、積層鋼板製の磁心と比較すると、特に渦電流損失が大きく、高周波域や高回転速度域での使用に難がある。
【0007】
本発明の目的は、従来のものよりも渦電流損失をより少なくすることができる圧粉磁心およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の形態は、少なくとも1つの圧粉体を含む圧粉磁心であって、前記圧粉体は、この圧粉磁心を透過する磁束の変化を妨げる方向に生じる起電力に対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部と、これら一対の表面部の中間に位置し、当該表面部の密度よりも低密度な領域とを有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第1の形態による圧粉磁心において、圧粉体の低密度な領域の比抵抗値がその表面部の比抵抗値の3倍以上であることが好ましい。
【0010】
圧粉磁心が圧粉体を2つ以上含み、相互に重なり合う圧粉体の表面部の間に電気絶縁層を形成することが渦電流損失のさらなる低減のために有効である。この場合、電気絶縁層が相互に重なり合う圧粉体を接合するための接着剤であってよい。
【0011】
低密度な領域に対して直交する方向の圧粉磁心の厚みtを低密度な領域と平行な方向に沿った圧粉磁心の幅wで除したアスペクト比t/wが0.5以上かつ5以下であることが好ましい。アスペクト比t/wが0.5未満の場合、つまり圧粉磁心の厚みtが相対的に薄すぎると、本発明の顕著な効果を確認することが困難となる。逆に、アスペクト比t/wが5を超えると、低密度な領域の結合強度が不充分となって圧粉磁心としての成形形状の維持が困難となる。
【0012】
本発明の第2の形態は、上述した本発明の第1の形態による圧粉磁心の製造方法であって、圧粉体製造材料をあらかじめ金型に形成された成形キャビティー内に充填するステップと、圧粉体製造材料が充填された前記金型に圧縮成形力を加えて圧粉体を成形するステップとを具え、前記金型に加えられる圧縮成形力は、前記圧粉体に形成されるべき低密度な領域に対して直交する方向に加えられることを特徴とするものである。
【0013】
圧粉成形においては、ダイ内の下パンチとダイとで画成される成形キャビティー内に圧粉体製造材料を充填した後、上パンチをダイ内に押し込んで圧粉体製造材料を成形キャビティーの形状に対応した所定形状に加圧成形する。その後、成形時の歪みを取るために熱処理を施して圧粉磁心とする。
【0014】
圧粉成形時に上下のパンチから圧粉体製造材料に加えられる加圧力は、圧粉体製造材料とダイ内壁との摩擦力により上下のパンチの加圧成形面からの距離が遠いほど小さくなる。このため、圧粉体の厚み方向中央付近に、上下のパンチの加圧成形面と平行な方向に沿って密度の低い、いわゆるニュートラルゾーンと呼称される領域が発生する。このニュートラルゾーンは、圧粉体製造材料を構成する粒子の間隔が広く、その変形が少なく色調も淡くなっていることで外観的に確認することができる。
【0015】
一般的な粉末成形機を用いてこのようなニュートラルゾーンを形成するには、1cm2当たりの加圧力を3トンから10トンの範囲に設定することが有効である。なお、この成形圧が3トン未満の場合には、得られる圧粉体としての強度が不足する。この結果、巻線工程で圧粉磁心の欠けやクラックなどの欠陥の原因となったり、回転体としての強度が不充分となってしまう。逆に、加圧力が10トンを超えると、明確なニュートラルゾーンが形成されなくなり、本発明の効果を得ることが困難となる。このニュートラルゾーンの比抵抗値は、上下のパンチの加圧成形面と接する圧粉体の表面部の比抵抗値よりも大きく、本発明においては、これを渦電流損失の低減を図るために利用する。
【0016】
圧粉体を成形するための圧粉体製造材料として、表面に電気絶縁膜を形成した磁性粒子を含むことができる。好ましい電気絶縁膜としては、磁気特性を劣化させることなく電気絶縁性を発揮し得る厚みを有し、圧粉体の成形時に磁性粒子に加えられる変形歪に追従し、その膜構造が破壊されないものが好適である。また、成形に伴って磁性粒子に加えられた変形歪を除去し、磁気特性を改善するための熱処理温度に耐えるものであることが好ましく、これらの条件を満たすものとして金属アルコキシド皮膜やリン酸塩皮膜などを用いることができる。
【0017】
圧粉体製造材料として、上述した電気絶縁膜で被覆された磁性粉末の他に、必要に応じて樹脂バインダーや、加圧成形時に金型内での磁性粉末の移動を容易にし、圧粉磁心の密度上昇を図ると共に圧粉磁心の脱型を容易にするための潤滑剤などを含むことができる。
【0018】
本発明の第3の形態は、上述した本発明の第1の形態による圧粉磁心か、第2の形態による圧粉磁心の製造方法によって得られる圧粉磁心を用いたモーターにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、圧粉体が、この圧粉磁心を透過する磁束の変化を妨げる方向に生じる起電力に対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部の中間に位置し、これら表面部の密度よりも低密度な領域を有するので、渦電流損失の低減が可能となる。特に、低密度な領域の比抵抗値を圧粉体の表面部の比抵抗値の1.5倍以上にした場合、渦電流損失をより確実に低減させることができる。
【0020】
圧粉磁心が圧粉体を2枚以上含み、相互に重なり合う圧粉体の表面部の間に電気絶縁層を形成した場合、渦電流損失をさらに低減させることが可能となる。また、電気絶縁層が相互に重なり合う圧粉体を接合するための接着剤の場合、圧粉体を接合するための接着剤を電気絶縁層として兼用させることができる。
【0021】
低密度な領域に対して直交する方向の圧粉磁心の厚みtを低密度な領域と平行な方向に沿った圧粉磁心の幅wで除したアスペクト比t/wを0.5以上かつ5以下に設定した場合、本発明の効果がより明確となる圧粉磁心を得ることができる。
【0022】
本発明の圧粉磁心の製造方法によると、圧粉体製造材料が充填された金型に加えられる圧縮成形力を圧粉体に形成されるべき低密度な領域に対して直交する方向に加えたので、従来のものよりも渦電流損失の低減が可能な圧粉磁心を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による圧粉磁心をモーターのローターに応用した一実施形態の外観を表す立体投影図である。
【図2】図1に示したローターにおける圧粉磁心の外観を表す立体投影図である。
【図3】図1に示したローターを用いたモーターの鉄損を模式的に表すグラフである。
【図4】図2の圧粉磁心に対応した比較例の外観を分解状態で表す立体投影図である。
【図5】本発明によるモーターの一実施例の構造を表す破断断面図である。
【図6】図5に示した実施形態のローターに用いた圧粉磁心の外観を表す立体投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による圧粉磁心の実施形態について、図1〜図6を参照しながら以下に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施形態のみに限らず、必要に応じてこれらをさらに組み合わせたり、本発明の精神に帰属する他の任意の技術、例えばリニアモーターや発電機あるいは変圧器などにも応用することが可能である。
【0025】
本発明を2極のローターに応用した一実施形態の外観を図1に示し、その一部を構成する圧粉体の外観を図2に示す。すなわち、本実施形態における2極のローター10は、図示しない回転軸と、この回転軸が挿通する圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き付けられるコイル部12とを含む。なお、圧粉磁心11とコイル部12との間には、図示しない電気絶縁性の巻線ボビンが介装され、コイル部12を構成する巻線と圧粉磁心11とが直接接触し、巻線の絶縁被覆が損傷を受けた場合の短絡や断線などの不具合が発生しないように配慮している。
【0026】
本実施形態における圧粉磁心11は、2枚の図2に示すような圧粉体13を重ね合わせて一体的に接合したものであるが、3枚以上の圧粉体を重ね合わせて圧粉磁心を形成することも可能である。個々の圧粉体13は、圧粉磁心11を透過する磁束Bの変化を妨げる方向に生じる起電力Fに対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部13aと、これら一対の表面部13aの密度よりも低密度な領域、つまりニュートラルゾーン13bとを有する。この低密度な領域(以下、ニュートラルゾーンと記述する)13bは、上述した一対の表面部13aの中間、つまり圧粉体13の厚みt方向に沿った中央部分に形成されている。このニュートラルゾーン13bの比抵抗値がその表面部13aの比抵抗値の1.5倍以上となるように、圧粉体13の成形時における成形圧が調整される。なお、圧粉体13の厚みt方向(図中、上下方向)に沿った密度分布がその表面部13aから中央部に亙ってほぼ非線形で連続的に変化することに注意されたい。相互に重なり合う圧粉体13の表面部13aの間には、接着剤を兼ねた電気絶縁層14が形成され、これによって渦電流損失の低減を図っている。
【0027】
個々の圧粉体13、つまり圧粉磁心11には平板状をなす巻線部15と、この巻線部15の両端に続く一対の磁極部16とが形成され、さらに巻線部15の中央には、図示しない回転軸を挿通するための軸穴17が形成されている。先の磁極部16は、この軸穴17を挟んで巻線部15の径方向両端に位置している。なお、ニュートラルゾーン13bに対して直交する方向の圧粉磁心11の厚みtをニュートラルゾーン13bと平行な方向に沿った圧粉磁心11の幅wで除したアスペクト比t/wを0.5以上かつ5以下の範囲に設定することが有効である。
【0028】
本実施形態におけるローター10は、その磁極部16に対して近接状態となるようにローター10を囲んで配される強磁場を持った磁極、より具体的には永久磁石に対して急速に接近した後、急速に遠ざかるような回転運動を行う。このため、圧粉磁心11を透過する磁束Bは、急激な増加や減少を繰り返すこととなる。この時、圧粉磁心11を含むローター10には、このローター10を透過する磁束Bの変化を妨げる方向に起電力Fが生じ、圧粉磁心11の抵抗に応じた電流の発生によりジュール熱となって消費される。この結果、特に高速回転時には電流が渦電流となってローター10の表面付近を流れ、ローター10の温度上昇、ひいては鉄損としてモーター効率の低減の原因となる。本発明においては、圧粉磁心11に巻回されたコイル部12に高周波の電流を印加した場合、圧粉磁心11に磁束Bの変化を妨げる方向に生じる起電力Fの方向とほぼ直行するニュートラルゾーン13bが電気絶縁層14と共に形成されている。このため、渦電流の発生が抑制され、鉄損を低減させることが可能となる。
【0029】
上述したような本実施形態における圧粉体13の製造に際し、圧粉体製造材料として軟質磁性粉と潤滑剤および絶縁性潤滑剤とを用意した。より具体的には、軟質磁性粉としてリン酸塩絶縁皮膜で被覆された鉄粉 Somaloy 500(スウェーデン国ヘガネス社の製品名)を用意し、潤滑剤としてステアリン亜鉛(一般試薬)を鉄粉100質量部に対し0.3質量部添加した。さらに絶縁性潤滑剤として平均粒径11μmのタルク粒子を鉄粉100質量部に対して0.1質量部添加し、これらを均一に分散して圧粉体製造材料を得た。
【0030】
この圧粉体製造材料を圧粉体13の形状に対応してあらかじめ金型に形成された成形キャビティー内に充填した後、この金型に1cm2当たり6.5トンの圧縮成形力、つまり成形圧を加えて圧粉体13の成形を行った。この場合、金型に加えられる圧縮成形力は、圧粉体13に形成されるべきニュートラルゾーン13bに対して直交する方向に加えられる。
【0031】
その後、得られた圧粉体13を空気中で500℃にて30分間熱処理を施し、加圧成形に伴う歪みの除去を行った。このようにして得られた2枚の圧粉体13を平均粒径5μmのアルミナ粒子を混合したエポキシ接着剤を介して重ね合わせて接合し、電気絶縁層14と2つのニュートラルゾーン13bとを有する圧粉磁心11を得た。圧粉体13の表面部13aの密度は7cm3,ニュートラルゾーン13bの密度は6〜6.5cm3であり、比抵抗値は表面部13aが1200μΩ・cm,ニュートラルゾーン13bが1800〜2400μΩ・cmであった。また、コイル部12が形成される巻線部15のアスペクト比t/wは0.53であった。なお、これらの数値に本発明が限定されるわけではなく、単なる例示として開示しているに過ぎないことを理解すべきである。
【0032】
なお、2枚の圧粉体13を重ね合わせ、電気絶縁層14を介してこれらを一体化させる場合、圧粉磁心11に巻線ボビンとなるPETやPBTを同時に射出成形することができる。
【0033】
このようにして得られたローター10に対し、鉄損の評価を行った。すなわち、駆動用モーターとして一般的なDCモーターを用意し、この駆動用モーターを単独で駆動し、回転数に対する無負荷時の駆動電流をあらかじめ把握する。次に、本実施形態のモーターのローター10からコイル部12を取り外したものを用意し、このモーターの回転軸を先の駆動用モーターの回転軸に連結する。そして、駆動用モーターに与えられる駆動電流と回転数との関係を求め、先に把握しておいた回転数に対応する無負荷時の駆動電流を減じた値を無負荷電流、すなわち鉄損として評価した。これは、鉄損の評価法として一般的に行われている方法である。
【0034】
結果を図3の実線で示す。比較のため、図4に示すような一対の圧粉体13を製造し、これを導電性接着剤で接合して圧粉磁心とした。図4に示す比較例としての圧粉体13は、圧粉磁心を透過する磁束の変化を妨げる方向に沿ってニュートラルゾーン13bが延在するように、軸穴17を中心として一対の磁極部16が別々に成形される。従って、ニュートラルゾーン13bは巻線の巻回方向に沿って形成されることとなり、 この比較例における巻線部のアスペクト比t/wは0.78に設定されている。図4に示した圧粉体13を用いた圧粉磁心による鉄損の評価を図3中の破線で示すが、上述以外はすべて先の本実施形態と同じ方法にて製造したものである。
【0035】
図3から明らかなように、比較例は回転数の増加に伴い、損失の増加が激しくなる傾向を持つ。これに対し、本実施形態における圧粉磁心11は極めて損失が少ないばかりでなく、その回転数の増加に対しても損失の増加が非常に少なく、極めて優れた圧粉磁心11であることを確認できた。
【0036】
上述した実施形態では、2極の単純な構成の圧粉磁心11について説明したが、例えば図5および図6に示すような、より複雑な圧粉磁心11にも本発明を適用することが可能である。
【0037】
図5および図6に示した実施形態は、5極のローター10を持つモーター18に関するものであるが、先の実施形態と同一機能の要素にはこれと同一符号を示すに止め、重複する説明を省略するものとする。すなわち、本実施形態におけるモーター18は、筺体19と、ローター10と、ステーター20と、一対の端子部21とを有する。ローター10は、筺体19に対して回転自在に支持され、一端にプーリー22が嵌着された回転軸23と、この回転軸23が挿通する圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き付けられる5極のコイル部12とを含む。ステーター20は、ローター10を囲むように筺体19の内側に等間隔に固定された5極の永久磁石24を含む。一対の端子部21は、ローター10のコイル部12に対して電気的に接続される。
【0038】
本実施形態における圧粉磁心11は、先の実施形態と同様に、2つの圧粉体13を重ね合わせて一体的に接合したものである。個々の圧粉体13は、圧粉磁心11を透過する磁束Bの変化を妨げる方向に生じる起電力Fに対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部13aと、これら一対の表面部13aの密度よりも低密度なニュートラルゾーン13bとを有する。相互に重なり合う圧粉体13の表面部13aの間には、接着剤を兼ねた電気絶縁層14が形成されている。
【0039】
個々の圧粉体13には回転軸23を挿通するための軸穴17が形成されたボス部25と、このボス部25から径方向外側に放射状に突出する5つの巻線部15と、これら巻線部15の外周端に続く磁極部16とが形成されている。巻線部15にはコイル部12を較正する巻線が巻回される。なお、本実施形態における巻線部15のアスペクト比t/wは2.7である。
【0040】
本実施形態において、圧粉磁心11に巻回されたコイル部12に高周波の電流を印加した場合、圧粉磁心11に磁束Bの変化を妨げる方向に生じる起電力Fの方向とほぼ直行するニュートラルゾーン13bが電気絶縁層14と共に形成される。このため、渦電流の発生が抑制され、鉄損を低減させることが可能である。
【0041】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0042】
10 ローター
11 圧粉磁心
12 コイル部
13 圧粉体
13a 表面部
13b ニュートラルゾーン(低密度な領域)
14 電気絶縁層
15 巻線部
16 磁極部
17 軸穴
18 モーター
19 筺体
20 ステーター
21 端子部
22 プーリー
23 回転軸
24 永久磁石
25 ボス部
B 圧粉磁心を透過する磁束
F 磁束の変化を妨げる方向に生じる起電力
t 圧粉体の厚み
w 圧粉磁心の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの圧粉体を含む圧粉磁心であって、前記圧粉体は、この圧粉磁心を透過する磁束の変化を妨げる方向に生じる起電力に対して直交する方向に相互に平行に延在する一対の表面部と、これら一対の表面部の中間に位置し、当該表面部の密度よりも低密度な領域とを有することを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記圧粉体の低密度な領域の比抵抗値がその表面部の比抵抗値の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記圧粉体を2つ以上含み、相互に重なり合う圧粉体の前記表面部の間には電気絶縁層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記電気絶縁層が相互に重なり合う圧粉体を接合するための接着剤であることを特徴とする請求項3に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記低密度な領域に対して直交する方向の圧粉磁心の厚みtを前記低密度な領域と平行な方向に沿った圧粉磁心の幅wで除したアスペクト比t/wが0.5以上かつ5以下であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の圧粉磁心。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の圧粉磁心の製造方法であって、
圧粉体製造材料をあらかじめ金型に形成された成形キャビティー内に充填するステップと、
圧粉体製造材料が充填された前記金型に圧縮成形力を加えて圧粉体を成形するステップと
を具え、前記金型に加えられる圧縮成形力は、前記圧粉体に形成されるべき低密度な領域に対して直交する方向に加えられることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れかに記載の圧粉磁心か、請求項6に記載の方法によって得られる圧粉磁心を用いたモーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−263042(P2010−263042A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112083(P2009−112083)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】