説明

圧縮機の制御装置

【課題】省電力や静音のためにモータの回転数を低下させた場合でも、一時的に回転数を上げることでリップリングの熱膨張を促し、迅速にシール性能を向上させて圧縮効率を上昇させることが可能な圧縮機を提供する。
【解決手段】モータ30と、前記モータによってシリンダ10内を往復運動するピストンロッド11と、前記ピストンロッド11と前記シリンダ10との間をシールするためのシール部材14と、を備えた圧縮機において、圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する冷状態判定手段110と、前記冷状態判定手段110によって圧縮機が冷状態にあると判定されたときに、前記モータ30の回転数を上昇させて暖気運転を行うように制御する回転数制御手段120と、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮機の制御装置に関し、特に、一時的にモータの回転数を上げて暖気運転をすることができる圧縮機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧縮機に使用されるピストンとして、クランク軸に連結したコネクティングロッドによりシリンダ内を揺動しながら往復するロッキングピストンが知られている。こうしたロッキングピストンにおいては、ピストンロッドの先端部にシール部材としてリップリングが設けられ、このリップリングによりシリンダとピストンロッドとの間をシールするようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−068279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなシール部材としてのリップリングは熱膨張により寸法変化が起きるため、圧縮機が冷えている状態においては、リップリングも冷えて収縮し十分なシール性能を発揮することができない。このため、運転休止時間が長かったり、寒冷地で使用されたりする場合には、リップリングのシール性能が低下してしまう。
【0005】
また、リップリングは、圧縮熱やシリンダ壁面への押し付け荷重による影響を受けて変形したり、継続使用によって摩耗したりするため、このような変形或いは摩耗したリップリングにおいては、熱膨張前のシール性能の低下は顕著となる。
【0006】
なお、モータの回転数を上げて作動させれば、摩擦熱及び圧縮熱の発生量が上昇するため、リップリングの熱膨張を促すことができる。しかしながら、省電力や静音のためにモータの回転数を低下させた場合には、なかなかリップリングが温められず、十分なシール性能を発揮するまで熱膨張が起きないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、省電力や静音のためにモータの回転数を低下させた場合でも、一時的に回転数を上げることでリップリングの熱膨張を促し、迅速にシール性能を向上させて圧縮効率を上昇させることが可能な圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、以下を特徴とする。
【0009】
(請求項1)
請求項1に記載の発明は、以下の点を特徴とする。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の圧縮機の制御装置は、モータと、前記モータによってシリンダ内を往復運動するピストンロッドと、前記ピストンロッドと前記シリンダとの間をシールするためのシール部材と、を備えた圧縮機において、圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する冷状態判定手段と、前記冷状態判定手段によって圧縮機が冷状態にあると判定されたときに、所定の停止条件を満たすまで前記モータの回転数を上昇させて暖気運転を行うように制御する回転数制御手段と、を設けたことを特徴とする。
【0011】
(請求項2)
請求項2に記載の発明は、上記した請求項1記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0012】
すなわち、前記冷状態判定手段は、前記暖気運転を実行してから一定時間が経過したか否かによって圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする。
【0013】
(請求項3)
請求項3に記載の発明は、上記した請求項1又は2記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0014】
すなわち、前記冷状態判定手段は、周囲温度又は圧縮機温度を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする。
【0015】
(請求項4)
請求項4に記載の発明は、上記した請求項1〜3のいずれかに記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0016】
すなわち、前記冷状態判定手段は、電源供給された後において最初に前記モータが駆動したときには、圧縮機が冷状態にあると判定することを特徴とする。
【0017】
(請求項5)
請求項5に記載の発明は、上記した請求項1〜4のいずれかに記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0018】
すなわち、前記冷状態判定手段は、前記モータの停止時間を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする。
【0019】
(請求項6)
請求項6に記載の発明は、上記した請求項1〜5のいずれかに記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0020】
すなわち、前記冷状態判定手段は、一定時間における圧力上昇率に基づいて圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする。
【0021】
(請求項7)
請求項7に記載の発明は、上記した請求項1〜6のいずれかに記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0022】
すなわち、前記冷状態判定手段は、前記モータに供給される電流値、前記モータに供給される電圧値、前記モータの回転数のうちの少なくともいずれかを基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする。
【0023】
(請求項8)
請求項8に記載の発明は、上記した請求項1〜7のいずれかに記載の発明の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0024】
すなわち、前記暖気運転を実行するか否かを切り替えるためのスイッチを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記の通りであり、圧縮機が冷状態にあると判定されたときに、モータの回転数を上昇させて暖気運転を行うように制御するため、省電力や静音のためにモータの回転数を低下させた場合でも、一時的に回転数を上げることでシール部材の熱膨張を促し、迅速にシール性能を向上させて圧縮効率を上昇させることができる。しかも、圧縮機が冷状態にある場合にのみ、暖気運転が実行されるので、不要な回転数の上昇が行われず、効率的にシール性能を向上させることができる。
【0026】
また、前記冷状態判定手段は、前記暖気運転を実行してから一定時間が経過したか否かによって圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するようにしてもよい。このようにすれば、簡易な構成で冷状態の判定を行うことができるとともに、暖気運転の実行時間を制限することもできる。
【0027】
また、前記冷状態判定手段は、周囲温度又は圧縮機温度を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するようにしてもよい。このようにすれば、直接的に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することができる。
【0028】
また、前記冷状態判定手段は、電源供給された後において最初に前記モータが駆動したときには、圧縮機が冷状態にあると判定するようにしてもよい。すなわち、電源供給されていないときには、一定時間以上運転が停止していたことが推測できるため、圧縮機が冷状態にあると判定することとしてもよい。
【0029】
また、前記冷状態判定手段は、前記モータの停止時間を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するようにしてもよい。例えば、モータの継続停止時間に基づいて圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定したり、モータの駆動時間と停止時間とを相対比較した結果に基づいて圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定したりしてもよい。このようにすれば、モータの停止時間を計測することで冷状態を画一的に判断できるため、簡易な制御で圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することができる。
【0030】
また、前記冷状態判定手段は、一定時間における圧力上昇率に基づいて圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するようにしてもよい。このようにすれば、実際の圧縮機の圧縮効率を基に冷状態を判断できるため、直接的に効果を見込めるタイミングで暖気運転を行うことができる。
【0031】
また、前記冷状態判定手段は、前記モータに供給される電流値、前記モータに供給される電圧値、前記モータの回転数のうちの少なくともいずれかを基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するようにしてもよい。このようにすれば、実際の圧縮効率等を基に冷状態であるかどうかを判定することができるため、圧縮効率に直結したシール性能の向上が期待できる。
【0032】
また、前記暖気運転を実行するか否かを切り替えるためのスイッチを設けてもよい。このようにすれば、暖気運転を行わないという選択も可能となる。例えば、リフォーム等の環境において常に騒音の発生を抑えたい場合や、電流量を低減してブレーカー落ちを防止したい場合などには、暖気運転を実行させないようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】圧縮機が備えるロッキングピストンの断面図である。
【図2】圧縮機の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】圧縮機が低速運転モードで実行されるときのフロー図である。
【図4】第1の冷状態判定の例を示すフロー図である。
【図5】第2の冷状態判定の例を示すフロー図である。
【図6】第3の冷状態判定の例を示すフロー図である。
【図7】圧縮機が高速運転モードで実行されるときのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
【0035】
本実施形態に係る圧縮機は、シリンダ10内にピストンロッド11を収容したロッキングピストンを備えており、このロッキングピストンによって圧縮された空気を圧縮空気貯蔵タンク(図示せず)に貯留することで、圧縮空気を釘打機等に供給可能としたものである。
【0036】
ロッキングピストンは、圧縮機内部に設けられたモータ30で作動するものであり、このモータ30でクランク機構(図示せず)を作動させることで、ピストンロッド11がシリンダ10内を往復運動し、空気を圧縮するように構成されている。
【0037】
ピストンロッド11は、図1に示すように、シリンダ10内を揺動しつつ摺動可能に形成されたものであり、このピストンロッド11の先端部13には、皿状のピストン部が形成されている。また、このピストンロッド11の基部(大端部)の偏心位置に形成した軸受孔12には、圧縮機本体に設けられたクランクシャフト(図示せず)が軸受けされており、このクランクシャフトは、圧縮機本体に設けられたモータ30に作動連結されている。
【0038】
このため、モータ30を作動させることにより、クランクシャフトを回転させ、これによってピストンロッド11の基部を偏心運動させて、ピストンロッド11の先端部13が摺動方向(図1における方向D1)に往復運動をするようになっている。すなわち、本実施形態に係る圧縮機は、クランクシャフトの回転によりピストンロッド11を往復動させてシリンダ10内に取り込まれた大気を圧縮し、圧縮空気で作動する各種装置や工具に向けて送出させるようになっている。
【0039】
ところで、本実施形態に係るピストンロッド11は、図1に示すようにピストン部が一体的に設けられている。このため、上記したようなピストンロッド11の往復運動に伴い、ピストンロッド11の先端部13は摺動方向と直交する方向(図1における方向D2)に揺動し、シリンダ10とピストンロッド11との間に間隙が生まれることになる。
【0040】
ピストンロッド11の先端部13の外周には、図1に示すように、ピストンロッド11とシリンダ10との間をシールするシール部材としてのリップリング14が取り付けられており、このリップリング14によって、シリンダ10とピストンロッド11との間の間隙がシールされるようになっている。このため、ピストンロッド11の先端部13が揺動することによって発生する間隙は、リップリング14が弾性変形することによってシールされるようになっている。
【0041】
このリップリング14は合成樹脂、合成ゴム等の具体的にはポリテトラフルオロエチレン又は変成ポリテトラフルオロエチレン、銅又は青銅合金粉末、球状炭素又は炭素繊維、二酸化モリブデンの成分構成からなる非金属材料から形成され、全周にわたって切れ目がなく連続した円環状の部材である。具体的には、リップリング14は、円環板状の底部の全周縁からリップ部が立設した形状をしている。
【0042】
なお、このリップリング14は、図1に示すように、ピストンロッド11の上面にリング押え15で固定されている。すなわち、ピストンロッド11の上面に形成された凹部にはリング押え15が嵌合しており、このリング押え15は上方から挿通された固定用ボルト16によってピストンロッド11の上面に固定されている。そして、リップリング14は、このリング押え15とピストンロッド11との間に挟まれて固定されている。
【0043】
このリップリング14は熱膨張により寸法変化が起きるため、圧縮機が冷えている状態においては、リップリング14も冷えて収縮し十分なシール性能を発揮することができない場合がある。特に、継続使用などによってリップリング14が摩耗・変形している場合、シール性能の低下が顕著となる。
【0044】
このため、本実施形態に係る圧縮機は、一時的に回転数を上げる暖気運転を行うことで、摩擦熱及び圧縮熱の発生量が上昇させてリップリング14の熱膨張を促し、迅速にシール性能を向上させて圧縮効率を上昇させるようにしている。
【0045】
なお、本実施形態に係る圧縮機は、モータ30の回転数の上限が低く設定されている「低速運転モード」と、モータ30の回転数の上限が高く設定されている「高速運転モード」との2つの運転モードを有しており、この運転モードを切り替え可能となっている。リップリング14の熱膨張が促進されない問題が発生するのは主に「低速運転モード」であるため、本実施形態においては、暖気運転を実行するのは「低速運転モード」であるとしている。ただし、本発明の実施形態としてはこれに限らず、「低速運転モード」や「高速運転モード」以外の運転モードを備えていても良いし、暖気運転を行う運転モードについても任意のモードで実行可能に形成することができる。
【0046】
この暖気運転は、圧縮機1の内部に内蔵された制御装置100(図2参照)により制御されるものであり、この制御装置100は、暖気運転のみならず、圧縮機全体の動作を制御するためのものである。
【0047】
この制御装置100は、特に図示しないが、CPUを中心に構成され、ROM、RAM、I/O等を備えている。そして、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み込むことで、圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する冷状態判定手段110や、モータ30の回転数を制御する回転数制御手段120を構成している。なお、制御装置100としては、上記した各手段に限定されるものではなく、他の手段を含んでいても良い。
【0048】
また、この制御装置100への入力としては、図2に示すように、温度センサ20と、圧力センサ21と、電流計22と、暖気運転スイッチ23と、ターボスイッチ24と、が接続されている。
【0049】
また、この制御装置100への出力としては、図2に示すように、モータ30と、表示手段31と、が接続されている。
【0050】
なお、制御装置100に接続される入出力としても、上記に限定されず、他の機器類が接続されていてもよい。また、後述する冷状態判定の態様によっては、使用しない入出力を省略することも可能である。
【0051】
以下、上記した各構成について詳しく説明する。
【0052】
温度センサ20は、リップリング14や圧縮機の周囲温度(又は圧縮機温度)を測定するためのものである。この温度センサ20が測定した温度は、冷状態判定手段110から出力された信号に基づき冷状態判定手段110に出力され、後述する冷状態判定に使用される。
【0053】
圧力センサ21は、圧縮空気貯蔵タンク内の圧力を測定するためのものである。この圧力センサ21が測定した圧力は、冷状態判定手段110から出力された信号に基づき冷状態判定手段110に出力され、後述する冷状態判定に使用される。
【0054】
電流計22は、モータ30に供給される電流値を測定するためのものである。この電流計22が測定した電流値は、冷状態判定手段110から出力された信号に基づき冷状態判定手段110に出力され、後述する冷状態判定に使用される。
【0055】
暖気運転スイッチ23は、暖気運転を実行するための押しスイッチであり、この暖気運転スイッチ23を押下することで、暖気運転を実行するか否かを切り替えることができるものである。本実施形態においては、この暖気運転スイッチ23は、低速運転モードにおいてのみ使用する。
【0056】
ターボスイッチ24は、高速運転モードにおいてモータ30の回転数を更に上昇させて実行するための押しスイッチである。このターボスイッチ24を押下することで、後述するように、回転数上昇モードで所定期間運転させることができ、高速運転モードにおいて更に出力を上げることが可能となっている。
【0057】
表示手段31は、暖気運転時及び高速運転モードにおいて、現在暖気運転中であること、又は回転数上昇モードであることを知らしめるための表示を行うものである。例えば、表示手段31としてランプを設け、ランプを点灯又は点滅させることとしてもよい。この他にも、表示手段31として7セグや液晶を設けて所定の表示を行ってもよいし、表示手段31としてスピーカを設け、音や音声の出力で暖気運転や回転数上昇モードを判別できるようにしてもよい。
【0058】
冷状態判定手段110は、圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定するためのものであり、各種センサからの入力などを基にして、冷状態にあるか否かを判定するプログラムとして構成されている。この冷状態判定手段110によって圧縮機が冷状態にあると判定されたときには、その判定結果に基づく信号が後述する回転数制御手段120に出力され、この信号を受信した回転数制御手段120がモータ30の回転数を上昇させ、暖気運転が実行されるように形成されている。
【0059】
回転数制御手段120は、モータ30の回転数を制御するプログラムとして構成され、最適な回転数でモータ30を回転させるためのものである。例えば、低速運転モードや高速運転モードなどの実行モードに応じてモータ30への供給電圧を調整することで、モータ30の回転数を制御する。本実施形態においては、この回転数制御手段120は、前述したように、冷状態判定手段110による判定結果に基づいてモータ30の回転数を上昇させ、暖気運転を実行可能に形成されている。
【0060】
(暖気運転の説明)
次に、本実施形態に係る暖気運転について具体的に説明する。
【0061】
(低速運転モードの実行フロー)
本実施形態に係る暖気運転は低速運転モードにおいて実行されるため、まず、低速運転モードの実行フローについて説明する。
【0062】
低速運転モードは、図3に示すように、以下のようなフローで実行される。
【0063】
すなわち、この図3のステップ100に示すように、まず、電源スイッチがONになり圧縮機が起動する。そして、ステップ101に進む。
【0064】
ステップ101では、暖気運転スイッチ23が押されたか否かをチェックし、押されていれば、ステップ102に進む。また、暖気運転スイッチ23が押されていなければ、ステップ105に進む。
【0065】
ステップ102では、回転数制御手段120によってモータ30の回転数が上昇するように制御され、暖気運転が実行される。このとき、表示手段31は、現在暖気運転中であることを表示する(たとえばランプが点灯する)。そして、ステップ103に進む。
【0066】
ステップ103では、冷状態判定手段110による冷状態判定が実行される。この冷状態判定の詳細は後述する。そして、ステップ104に進む。
【0067】
ステップ104では、冷状態判定手段110によって冷状態であると判定されたか否かがチェックされ、冷状態であると判定された場合には、ステップ102に戻り、冷状態でないと判定されるまで暖気運転を実行する。一方、冷状態でないと判定された場合には、暖気運転を停止し、ステップ105に進む。なお、暖気運転が停止されると、表示手段31による表示も終了する(たとえばランプが消灯する)。
【0068】
ステップ105では、回転数制御手段120により、通常の回転数(低速運転モード規定の回転数)となるようにモータ30の回転数が制御され、この状態で運転が実行される。この運転は圧力センサ21により所定の停止圧に到達したことが検知されるまで実行される。なお、所定の停止圧に到達したことが検知されたら、圧縮空気貯蔵タンクに十分な量の空気が圧縮されたと判断し、モータ30の運転を停止する。そして、ステップ106に進む。
【0069】
ステップ106では、釘打機等が圧縮空気貯蔵タンク内の圧縮空気を使用したことにより、圧縮空気貯蔵タンク内の圧力が低下したかをチェックする。圧縮空気貯蔵タンク内の圧力低下により、再運転圧力に到達していた場合には、ステップ107に進む。一方、再運転圧力に到達していない場合には、再運転圧力に到達するまで待機する。
【0070】
ステップ107では、予め決められた所定時間(例えば45分)以上運転が停止していたかをチェックする。所定時間以上運転が停止していた場合には、ステップ108に進む。一方、所定時間以上運転が停止していなかった場合には、ステップ105に進み、通常の回転数(低速運転モード規定の回転数)で運転が実行される。
【0071】
ステップ108では、暖気運転スイッチ23が押されたか否かをチェックし、押されていれば、ステップ108に進み、冷状態判定が実行される。また、暖気運転スイッチ23が押されていなければ、ステップ105に進み、通常の回転数(低速運転モード規定の回転数)で運転が実行される。
【0072】
(冷状態判定のフロー)
次に、本実施形態に係る冷状態判定のフローについて、図4〜6を参照しつつ、3つの例を挙げて説明する。なお、下記の冷状態判定は例示に過ぎず、下記の冷状態判定のいずれかを使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。また、一部の処理を省略したり、置き換えて使用してもよい。
【0073】
(第1の冷状態判定フロー)
図4は、第1の冷状態判定フローを示す図である。この冷状態判定においては、冷状態判定手段110は、暖気運転を実行してから一定時間が経過したか否かによって圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する。
【0074】
すなわち、図4のステップ200に示すように、前回運転(通常運転又は暖気運転)が終了してからの時間を計測し、その計測値が所定値以上であるか否かをチェックすることで、運転を実行してから一定時間が経過したか否かをチェックする。そして、一定時間が経過していた場合には、ステップ202に進み、冷状態でないと判定され、冷状態判定処理が終了する。一方、一定時間が経過していない場合には、ステップ201に進み、冷状態と判定され、冷状態判定処理が終了する。
【0075】
このような冷状態判定フローによれば、複雑な処理を経ることなく、画一的に冷状態を判定することができ、また、暖気運転の実行時間を制限することもできる。
【0076】
(第2の冷状態判定フロー)
図5は、第2の冷状態判定フローを示す図である。この冷状態判定においては、冷状態判定手段110は、周囲温度又は圧縮機温度、一定時間における圧力上昇率、モータ30に供給される電流値(2次電流値)、圧縮機コンセットに供給される電流値(1次電流値)、モータ30の回転数などを基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する。
【0077】
すなわち、図5のステップ300に示すように、まず、温度センサ20により、リップリング14や圧縮機の周囲温度(又は圧縮機温度)を測定し、その温度が一定以下であるか否かをチェックする。そして、温度が一定以下である場合には、ステップ305に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、温度が一定以下でない場合には、ステップ301に進む。
【0078】
ステップ301では、圧縮空気貯蔵タンク内の圧力が低下しているか否かを、圧力センサ21を使用してチェックする。圧力が上昇中である場合は、ステップ302に進む。一方、圧力が上昇中でない場合は、ステップ303に進む。
【0079】
ステップ302では、圧力センサ21により計測された圧力変化を基に、時間当たりの圧力上昇率が計算され、その圧力上昇率が閾値以下であるか否かをチェックする。すなわち、圧縮空気貯蔵タンク内の圧力が効率良く上昇しているかをチェックすることで、リップリング14から空気が漏れていないかをチェックする。このチェックの結果、圧力上昇率が閾値以下である場合には、ステップ305に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、圧力上昇率が閾値以下でない場合には、ステップ304に進み、冷状態でないと判定されて冷状態判定処理が終了する。
【0080】
ステップ303では、モータ30に供給される電流値が閾値以下であるか、又はモータ30の回転数が閾値以上であるかがチェックされる。すなわち、リップリング14から空気が漏れている場合には、圧縮機の負荷が下がり、モータ30に供給される電流値が低下するため、電流計22を使用してモータ30に供給される電流値を所得し、この電流値が閾値以下であるか否かをチェックすることで、リップリング14から空気が漏れているかどうかをチェックできる。また、リップリング14から空気が漏れている場合には、圧縮機の圧縮効率が低下し、それを補うためにモータ30の回転数を上げる処理が行われるため、モータ30の回転数が閾値以上であるか否かをチェックすることでも、リップリング14から空気が漏れているかどうかをチェックできる。
【0081】
なお、電流値と回転数とを併せてチェックすることで、モータ30の回転数を制限して運転している場合には電流値をチェックすることで空気漏れをチェックできるとともに、電流値を制限して運転している場合にはモータ30の回転数をチェックすることで空気漏れをチェックできるように形成されている。
【0082】
そして、電流値が閾値以下又は回転数が閾値以上である場合には、ステップ305に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、電流値が閾値以下でなく、かつ、回転数が閾値以上でない場合には、ステップ304に進み、冷状態でないと判定されて冷状態判定処理が終了する。
【0083】
このような冷状態判定フローによれば、主に圧縮効率をチェックすることで、冷状態にあるか否かを判定するため、暖気運転により直接的に圧縮効率の向上を期待できる。
【0084】
なお、上記ではモータ30に供給される電流値をチェックすることとしたが、圧縮機コンセットに供給される電流値、あるいは電流値の代わりに電圧値をチェックすることとしてもよい。
【0085】
(第3の冷状態判定フロー)
図6は、第3の冷状態判定フローを示す図である。この冷状態判定においては、電源供給された後において最初にモータ30が駆動したか否かや、モータ30の停止時間などを基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する。
【0086】
すなわち、図6のステップ400に示すように、電源供給された後において最初にモータ30が駆動したか否かがチェックされる。ここで、電源供給された後において最初にモータ30が駆動した場合には、圧縮機が冷えていることが推測できるので、ステップ404に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、電源供給された後において最初にモータ30が駆動したのでない場合には、ステップ401に進む。
【0087】
ステップ401では、一定時間以上運転が停止され、モータ30が回転していなかったかがチェックされる。そして、一定時間以上運転が停止していた場合には、圧縮機が冷えていることが推測できるので、ステップ404に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、一定時間以上運転が停止していなかった場合には、ステップ402に進む。
【0088】
ステップ402では、運転時間と停止時間との相対比率がチェックされ、停止時間の比率が一定比率以上であるかが判定される。そして、停止時間の比率が一定比率以上である場合には、停止時間が長かったために圧縮機が冷えていることが推測できるので、ステップ404に進み、冷状態と判定されて冷状態判定処理が終了する。一方、停止時間の比率が一定比率以上でなかった場合には、ステップ403に進み、冷状態でないと判定されて冷状態判定処理が終了する。
【0089】
このような冷状態判定フローによれば、モータ30の運転状態を基に冷状態を判定するため、容易に冷状態の判定を行うことができる。
【0090】
(高速運転モードの説明)
次に、高速運転モードについて説明する。
【0091】
本実施形態においては、上記した暖気運転とは別に、モータ30の回転数を一時的に上昇させる回転数上昇モードを備えている。この回転数上昇モードは、本実施形態においては高速運転モードにおいて実行可能となっている。
【0092】
すなわち、図7のステップ500に示すように、まず、電源スイッチがONになり圧縮機が起動する。そして、ステップ501に進む。
【0093】
ステップ501では、ターボスイッチ24が押されたか否かをチェックし、押されていれば、ステップ502に進む。また、ターボスイッチ24が押されていなければ、ステップ504に進む。
【0094】
ステップ502では、モータ30の回転が一定時間以上停止していたか否かがチェックされ、モータ30が一定時間以上停止していた場合には、ステップ503に進む。一方、モータ30が一定時間以上停止していなかった場合には、モータ30が高温になっていると推測されるので、回転数上昇モードに入らず、ステップ504に進む。
【0095】
ステップ503では、一定時間が経過するまで回転数上昇モードに入る。すなわち、回転数制御手段120がモータ30の回転数を上げるように制御する。このとき、表示手段31は、回転数上昇モードの開始とともに表示を開始し(たとえばランプが点灯する)、回転数上昇モードが終了するまでの間、現在回転数上昇モードであることを表示する。そして、ステップ504に進む。
【0096】
ステップ504では、通常の回転数(高速運転モード規定の回転数)となるようにモータ30の回転数が制御され、この状態で運転が実行される。そして、ステップ501に進む。
【0097】
なお、上記フローにおいては説明を簡略化するために敢えて説明していないが、図3におけるフローと同様に、圧縮空気貯蔵タンク内の圧力変化に応じてモータ30の運転を制御することは言うまでもない。
【0098】
以上のように、本実施形態によれば、暖気運転が必要ない場合でも、回転数上昇モードで実行することで、圧縮効率を一時的に向上させることができる。
【0099】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態によれば、圧縮機が冷状態にあると判定されたときに、モータ30の回転数を上昇させて暖気運転を行うように制御するため、省電力や静音のためにモータ30の回転数を低下させた場合でも、一時的に回転数を上げることでリップリング14の熱膨張を促し、迅速にシール性能を向上させて圧縮効率を上昇させることができる。しかも、圧縮機が冷状態にある場合にのみ、暖気運転が実行されるので、不要な回転数の上昇が行われず、効率的にシール性能を向上させることができる。
【0100】
また、暖気運転スイッチ23が押下されたときに暖気運転を実行するようにしたため、暖気運転スイッチ23を押下しなければ、暖気運転を行わないという選択も可能となる。このため、例えば、リフォーム等の環境において常に騒音の発生を抑えたい場合や、電流量を低減してブレーカー落ちを防止したい場合などには、暖気運転を実行させないようにすることもできる。
【0101】
なお、上記においては、低速運転モードにおいて暖気運転スイッチ23が押されたときに暖気運転を実行することとしたが、これに限らず、冷状態と判定されたときに必ず暖気運転を行うように形成してもよい。
【符号の説明】
【0102】
10 シリンダ
11 ピストンロッド
12 軸受孔
13 先端部
14 リップリング(シール部材)
15 リング押え
16 固定用ボルト
20 温度センサ
21 圧力センサ
22 電流計
23 暖気運転スイッチ
24 ターボスイッチ
30 モータ
31 表示手段
100 制御装置
110 冷状態判定手段
120 回転数制御手段
D1 ピストンロッドの摺動方向
D2 ピストンロッドの揺動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータによってシリンダ内を往復運動するピストンロッドと、
前記ピストンロッドと前記シリンダとの間をシールするためのシール部材と、
を備えた圧縮機において、
圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定する冷状態判定手段と、
前記冷状態判定手段によって圧縮機が冷状態にあると判定されたときに、前記モータの回転数を上昇させて暖気運転を行うように制御する回転数制御手段と、
を設けたことを特徴とする、圧縮機の制御装置。
【請求項2】
前記冷状態判定手段は、前記暖気運転を実行してから一定時間が経過したか否かによって圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする、請求項1記載の圧縮機の制御装置。
【請求項3】
前記冷状態判定手段は、周囲温度又は圧縮機温度を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする、請求項1又は2記載の圧縮機の制御装置。
【請求項4】
前記冷状態判定手段は、電源供給された後において最初に前記モータが駆動したときには、圧縮機が冷状態にあると判定することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機の制御装置。
【請求項5】
前記冷状態判定手段は、前記モータの停止時間を基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の圧縮機の制御装置。
【請求項6】
前記冷状態判定手段は、一定時間における圧力上昇率に基づいて圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮機の制御装置。
【請求項7】
前記冷状態判定手段は、前記モータに供給される電流値、前記モータに供給される電圧値、前記モータの回転数のうちの少なくともいずれかを基に圧縮機が冷状態にあるかどうかを判定することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮機の制御装置。
【請求項8】
前記暖気運転を実行するか否かを切り替えるためのスイッチを設けたことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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