説明

圧縮機

【課題】ローラとシリンダとの熱膨張の差によって隙間が無くなるのを防止すると共に、ローラの表面加工を容易に行えるようにする。
【解決手段】圧縮機は、圧縮室および圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、シリンダの軸方向両端に配置される第1端板部材および第2端板部材と、圧縮室およびブレード収容部の内側に配置されるピストン40と、ブレード収容部の内側に配置される一対のブッシュとを備えている。ピストン40は、圧縮室に配置され、圧縮室の周壁面に沿って移動する環状のローラ41と、ローラ41の外周面から延在し且つブレード収容部に配置された一対のブッシュ間を進退可能に配置されたブレード42とを有する。このピストン40は、12×10−6[/℃]よりも小さい線膨張係数を持つ高硬度材料で形成された基材43と、基材43の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂層44a〜44dで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を圧縮する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧縮機として、シリンダと、シリンダの内側に配置されるローラとを備えるロータリ圧縮機がある。ローラは、偏心回転する軸に装着されており、軸の回転に伴って、シリンダの内周面に沿って移動する。また、ローラの端面とこの端面に対向して配置される端板部材との間、および、ローラの外周面とシリンダの内周面との間には、摺動による焼付き防止などのために、微小な隙間が形成されている。隙間の大きさは、冷媒や潤滑油の漏れを防止する観点から、できるだけ小さいことが好ましい。
【0003】
従来のロータリ圧縮機では、ローラとシリンダは共に鉄などの熱膨張係数の比較的大きい材料で形成されている。そのため、例えば圧縮機の高速始動時など、ローラの温度がシリンダの温度よりも高くなる場合には、ローラの熱膨張量がシリンダの熱膨張量よりも大きくなって、上述した隙間が無くなる場合がある。
【0004】
この問題の対策として、例えば特許文献1の圧縮機では、ローラを熱膨張係数の小さいセラミックスで形成している。これにより、たとえローラの温度がシリンダの温度よりも高くなっても、隙間が無くなるのを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−66882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックスは高硬度であるために、加工が困難である。そのため、ローラをセラミックスで形成する場合、表面加工が難しく、加工に手間とコストを要する。
なお、熱膨張係数の小さい材料として例えば超硬合金を用いてローラを形成した場合にも、同様の問題が生じる。
また、ロータリ圧縮機としては、ローラとその外周面から突出するブレートとが一体化されたピストンと、ブレードの両側に配置される一対のブッシュとを備えるものがある。このロータリ圧縮機の場合、ブレードおよび一対のブッシュについても、上述したローラと同様の問題が生じる。
また、他のロータリ圧縮機として、ローラと、このローラの外周面に当接するベーンとを備えるものがある。このロータリ圧縮機では、ベーンについても、上述したローラと同様の問題が生じる。
【0007】
そこで、この発明は、熱膨張の差によって隙間が無くなるのを防止することができると共に、表面加工を容易に行うことができるローラ等を備えた圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明に係る圧縮機は、圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、前記シリンダの軸方向両端に配置される第1端板部材および第2端板部材と、前記圧縮室および前記ブレード収容部の内側に配置されるピストンと、前記ブレード収容部の内側に配置される一対のブッシュとを備え、前記ピストンは、前記圧縮室に配置され、前記圧縮室の周壁面に沿って移動する環状のローラと、前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に配置された前記一対のブッシュ間を進退可能に配置されたブレードとを有し、前記ピストン、および、前記一対のブッシュ、の少なくとも一方は、12×10−6[/℃]よりも小さい線膨張係数を持つ高硬度材料で形成された基材と、前記基材の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂層と、を有することを特徴とする。
【0009】
この圧縮機では、ピストンまたは一対のブッシュを構成する基材の熱膨張係数が、従来のピストンおよび一対のブッシュの材料である鉄よりも小さいため、ピストンまたは一対のブッシュの熱膨張によって、ピストンまたは一対のブッシュの軸方向端面と、端板部材との隙間、または、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が無くなるのを防止することができる。
また、基材の表面は、加工が容易な樹脂層で覆われているため、表面加工を容易に行うことができる。
【0010】
第2の発明に係る圧縮機は、第1の発明に係る圧縮機において、前記樹脂層が、前記ピストンの軸方向端面、および、前記ローラの外周面、となる部分の少なくとも一方に形成されていることを特徴とする。
【0011】
この圧縮機では、ピストンの軸方向端面に樹脂層を設けた場合には、たとえピストンの軸方向端面と端板部材が接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
また、ローラの外周面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの外周面と圧縮室の周壁面とが接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
【0012】
第3の発明に係る圧縮機は、第1または第2の発明に係る圧縮機において、前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ、前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに分断するものであって、前記樹脂層は、前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成されており、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の一部分の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の最小厚さよりも薄く、且つ、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の残りの部分の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の最小厚さ以下であることを特徴とする。
【0013】
この圧縮機では、圧縮室はローラの外周面とブレードによって高圧室と低圧室に区画され、ローラの外周面のうち、冷媒が圧縮される高圧室に接する部分は、冷媒が供給される低圧室側よりも高温に晒される。本発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ブレード付根部よりも高圧室側半分の領域の一部分の厚みを、ブレード付根部よりも低圧室側半分の領域よりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0014】
第4の発明に係る圧縮機は、第3の発明に係る圧縮機において、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の前記樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする。
【0015】
この圧縮機では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ブレード付根部よりも高圧室側半分の領域の厚みを、ブレード付根部よりも低圧室側半分の領域よりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0016】
第5の発明に係る圧縮機は、第3の発明に係る圧縮機において、前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成された前記樹脂層のうち、前記ブレードの付根部の径方向内側の部分を除く部分は、前記ブレードの付根部の前記低圧室側端部から前記ブレードの付根部の前記高圧室側端部に向かって徐々に厚みが薄くなっていることを特徴とする。
【0017】
この圧縮機では、ローラの軸方向端面の樹脂層の厚みは、低圧室側から高圧室側に向かって徐々に薄くなっているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0018】
第6の発明に係る圧縮機は、第1または第2の発明に係る圧縮機において、前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ、前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに分断するものであって、前記樹脂層は、前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成されており、前記ローラの軸方向端面において、前記ローラの外周面と前記圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際に、前記ローラの外周面のうちで前記高圧室を画定する部分に対応した部分の前記樹脂層の厚みは、前記ローラの軸方向端面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記ローラの外周面のうちで前記低圧室を画定する部分に対応した部分の樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする。
【0019】
この圧縮機では、圧縮室はローラの外周面とブレードによって高圧室と低圧室に区画され、ローラの外周面のうち、冷媒が圧縮される高圧室に接する部分は、冷媒が供給される低圧室側よりも高温に晒される。本発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際に、ローラの外周面のうちで高圧室を画定する部分に対応する部分の厚みを、吸入孔に近い部分(圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応する部分)の厚みよりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
なお、ローラの軸方向端面の樹脂層において、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際にローラの外周面のうちで高圧室を画定する部分に対応した部分と、圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応した部分とを除く部分の厚みは、圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応した部分の厚み以下とする。
【0020】
第7の発明に係る圧縮機は、圧縮室および前記圧縮室に連通したベーン収容部を有するシリンダと、前記シリンダの軸方向両端に配置される第1端板部材および第2端板部材と、前記圧縮室の内側に配置される環状のローラと、前記ローラの外周面に押圧される先端を有し且つ前記ベーン収容部の内側を進退可能に配置されたベーンとを備え、前記ローラ、および、前記ベーンの少なくとも一方は、12×10−6[/℃]よりも小さい線膨張係数を持つ高硬度材料で形成された基材と、前記基材の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂層と、を有することを特徴とする。
【0021】
この圧縮機では、ローラまたはベーンを構成する基材の熱膨張係数が、従来のローラおよびベーンの材料である鉄よりも小さいため、ローラまたはベーンの熱膨張によって、ローラまたはベーンの軸方向端面と端板部材との隙間、または、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が無くなるのを防止することができる。
また、基材の表面は、加工が容易な樹脂層で覆われているため、表面加工を容易に行うことができる。
【0022】
第8の発明に係る圧縮機は、第7の発明に係る圧縮機において、前記樹脂層が、前記ローラの軸方向端面、および、前記ローラの外周面、となる部分の少なくとも1つの全面に形成されていることを特徴とする。
【0023】
この圧縮機では、ローラの軸方向端面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの端面と端板部材が接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
また、ローラの外周面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの外周面と圧縮室の周壁面とが接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
【0024】
第9の発明に係る圧縮機は、第1〜第8のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記基材の表面のうち前記樹脂層で被覆される部分は、算術平均表面粗さRaが、0.3以上であることを特徴とする。
【0025】
この圧縮機では、樹脂層は、表面粗さの比較的粗い面に接着されているため、剥離しにくい。
【0026】
第10の発明に係る圧縮機は、第1〜第9のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記基材の表面のうち前記樹脂層で被覆される部分は、研磨加工されていないことを特徴とする。
【0027】
この圧縮機では、基材の加工に要するコストと時間を低減することができる。
また、樹脂層は、基材の研磨加工されていない表面粗さの粗い面に形成されているため、基材から剥離しにくい。
【0028】
第11の発明に係る圧縮機は、第1〜第10のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記高硬度材料が、セラミックスまたは超硬合金であることを特徴とする。
【0029】
この圧縮機では、基材が、線膨張係数の小さいセラミックスや超硬合金で形成されているため、隙間が無くなるのをより確実に防止することができる。
【0030】
第12の発明に係る圧縮機は、第1〜第11のいずれかの発明に係る圧縮機において、前記樹脂層が、前記基材の角部を被覆していることを特徴とする。
【0031】
この圧縮機では、基材の角部を樹脂層で保護しているため、基材の角部の欠けを防止することができる。
【0032】
第13の発明に係る圧縮機は、第12の発明に係る圧縮機において、前記基材の前記角部が、面取りされた形状であることを特徴とする。
【0033】
この圧縮機では、基材の角部が面取りされているため、角部の欠けをより確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0035】
第1の発明では、ピストンまたは一対のブッシュを構成する基材の熱膨張係数が、従来のピストンおよび一対のブッシュの材料である鉄よりも小さいため、ピストンまたは一対のブッシュの熱膨張によって、ピストンまたは一対のブッシュの軸方向端面と、端板部材との隙間、または、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が無くなるのを防止することができる。
また、基材の表面は、加工が容易な樹脂層で覆われているため、表面加工を容易に行うことができる。
【0036】
第2の発明では、ピストンの軸方向端面に樹脂層を設けた場合には、たとえピストンの軸方向端面と端板部材が接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
また、ローラの外周面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの外周面と圧縮室の周壁面とが接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
【0037】
第3の発明では、圧縮室はローラの外周面とブレードによって高圧室と低圧室に区画され、ローラの外周面のうち、冷媒が圧縮される高圧室に接する部分は、冷媒が供給される低圧室側よりも高温に晒される。本発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ブレード付根部よりも高圧室側半分の領域の一部分の厚みを、ブレード付根部よりも低圧室側半分の領域よりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0038】
第4の発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ブレード付根部よりも高圧室側半分の領域の厚みを、ブレード付根部よりも低圧室側半分の領域よりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0039】
第5の発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層の厚みは、低圧室側から高圧室側に向かって徐々に薄くなっているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
【0040】
第6の発明では、圧縮室はローラの外周面とブレードによって高圧室と低圧室に区画され、ローラの外周面のうち、冷媒が圧縮される高圧室に接する部分は、冷媒が供給される低圧室側よりも高温に晒される。本発明では、ローラの軸方向端面の樹脂層のうち、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際に、ローラの外周面のうちで高圧室を画定する部分に対応する部分の厚みを、吸入孔に近い部分(圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応する部分)の厚みよりも薄くしているため、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができ、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけが端板部材に接触するのを防止することができる。
なお、ローラの軸方向端面の樹脂層において、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際にローラの外周面のうちで高圧室を画定する部分に対応した部分と、圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応した部分とを除く部分の厚みは、圧縮室の軸方向から視て圧縮室の軸中心からローラの軸中心側に向かって延在する直線が吸入孔におけるローラの移動方向下流側の端部を通る際にローラの外周面のうちで低圧室を画定する部分に対応した部分の厚み以下とする。
【0041】
第7の発明では、ローラまたはベーンを構成する基材の熱膨張係数が、従来のローラおよびベーンの材料である鉄よりも小さいため、ローラまたはベーンの熱膨張によって、ローラまたはベーンの軸方向端面と端板部材との隙間、または、ローラの外周面と圧縮室の周壁面との隙間が無くなるのを防止することができる。
また、基材の表面は、加工が容易な樹脂層で覆われているため、表面加工を容易に行うことができる。
【0042】
第8の発明では、ローラの軸方向端面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの端面と端板部材が接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
また、ローラの外周面に樹脂層を設けた場合には、たとえローラの外周面と圧縮室の周壁面とが接触しても、摺動による焼付きの発生を防止することができる。
【0043】
第9の発明では、樹脂層は、表面粗さの比較的粗い面に接着されているため、剥離しにくい。
【0044】
第10の発明では、基材の加工に要するコストと時間を低減することができる。
また、樹脂層は、基材の研磨加工されていない表面粗さの粗い面に形成されているため、基材から剥離しにくい。
【0045】
第11の発明では、基材が、線膨張係数の小さいセラミックスや超硬合金で形成されているため、隙間が無くなるのをより確実に防止することができる。
【0046】
第12の発明では、基材の角部を樹脂層で保護しているため、基材の角部の欠けを防止することができる。
【0047】
第13の発明では、基材の角部が面取りされているため、角部の欠けをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図であって、シリンダ内でのピストンの動作を示す図である。
【図3】図1に示した圧縮機のフロントヘッドを下方から視た図である。
【図4】図1に示した圧縮機のピストンの斜視図である。
【図5】(a)は図4のB−B線に沿った断面図であって、(b)は図4のC−C線に沿った断面図である。
【図6】(a)は図1の部分拡大図であって、(b)は図2の部分拡大図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る圧縮機の概略断面図である。
【図8】図7のD−D線に沿った断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る圧縮機における、シリンダ内でのローラおよびベーンの動作を示す図である。
【図10】図9に示した圧縮機のローラおよびベーンの斜視図である。
【図11】(a)は図10のE−E線に沿った断面図であって、(b)は図10のF−F線に沿った断面図である。
【図12】ブレード付根部を説明するための図である。
【図13】(a)は本発明の他の実施形態のピストンの平面図であって、(b)は(a)のG−G線に沿った断面図である。
【図14】本発明の他の実施形態のピストンの樹脂層を説明するための図である。
【図15】本発明の他の実施形態のピストンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態は、1シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図1に示すように、本実施形態の圧縮機1は、密閉ケーシング2と、密閉ケーシング2内に配置される圧縮機構10および駆動機構6を備えている。なお、図1は、駆動機構6の断面を示すハッチングを省略して表示している。この圧縮機1は、例えば、空調装置などの冷凍サイクルに組み込まれて使用され、吸入管3から導入された冷媒(本実施形態では、CO2)を圧縮して排出管4から排出する。図1の上下方向を単に上下方向として、圧縮機1について以下説明する。
【0050】
密閉ケーシング2は、両端が塞がれた円筒状の容器であり、その上部には、圧縮された冷媒を排出するための排出管4と、駆動機構6の後述する固定子7bのコイルに電流を供給するためのターミナル端子5が設けられている。なお、図1では、コイルとターミナル端子5とを接続する配線は省略して表示している。また。密閉ケーシング2の側部には、圧縮機1に冷媒を導入するための吸入管3が設けられている。また、密閉ケーシング2内の下部には、圧縮機構10の摺動部の動作を滑らかにするための潤滑油Lが貯留されている。密閉ケーシング2の内部には、駆動機構6と、圧縮機構10とが上下に並んで配置されている。
【0051】
駆動機構6は、圧縮機構10を駆動するために設けられており、駆動源となるモータ7と、このモータ7に取り付けられたシャフト8とから構成されている。
【0052】
モータ7は、密閉ケーシング2の内周面に固定されている略円環状の固定子7bと、この固定子7bの径方向内側にエアギャップを介して配置される回転子7aとを備えている。回転子7aは磁石(図示省略)を有し、固定子7bはコイルを有している。モータ7は、コイルに電流を流すことによって発生する電磁力によって、回転子7aを回転させる。また、固定子7bの外周面は、全周にわたって密閉ケーシング2の内周面に密着しているわけではなく、固定子7bの外周面には、上下方向に延び且つモータ7の上下の空間を連通させる複数の凹部(図示省略)が、周方向に並んで形成されている。
【0053】
シャフト8は、モータ7の駆動力を圧縮機構10に伝達するために設けられており、回転子7aの内周面に固定されて、回転子7aと一体的に回転する。また、シャフト8は、後述する圧縮室31内となる位置に、偏心部8aを有している。偏心部8aは、円柱状に形成されており、その軸心がシャフト8の回転中心から偏心している。この偏心部8aには、圧縮機構10の後述するローラ41が装着されている。
【0054】
また、シャフト8の下側略半分の内部には、上下方向に延在する給油路8bが形成されている。この給油路8bの下端部には、シャフト8の回転に伴って潤滑油Lを給油路8b内に吸い上げるための螺旋羽根形状のポンプ部材(図示省略)が挿入されている。さらに、シャフト8には、給油路8b内の潤滑油Lをシャフト8の外側に排出するための複数の排出孔8cが形成されている。
【0055】
圧縮機構10は、密閉ケーシング2の内周面に固定されるフロントヘッド(第1端板部材)20と、フロントヘッド20の上側に配置されるマフラー11と、フロントヘッド20の下側に配置されるシリンダ30と、シリンダ30の内部に配置されるピストン40と、シリンダ30の下側に配置されるリアヘッド(第2端板部材)50とを備えている。詳細は後述するが、図2に示すように、シリンダ30は、略円環状の部材であって、その中央部に圧縮室31が形成されている。シリンダ30は、リアヘッド50と共に、フロントヘッド20の下側にボルトにより固定されている。なお、図2は、シリンダ30に形成されているボルト孔は省略して表示している。
【0056】
図1および図3に示すように、フロントヘッド20は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔21が形成されている。フロントヘッド20の外周面は、密閉ケーシング2の内周面にスポット溶接などによって固定されている。フロントヘッド20の下面は、シリンダ30の圧縮室31の上端を閉塞している。フロントヘッド20には、圧縮室31において圧縮された冷媒を吐出するための吐出孔22が形成されている。吐出孔22は、上下方向から視て、シリンダ30の後述するブレード収容部33の近傍に形成されている。図示は省略するが、フロントヘッド20の上面には、圧縮室31内の圧力に応じて吐出孔22を開閉する弁機構が取り付けられている。また、フロントヘッド20のシリンダ30よりも径方向外側の部分には、複数の油戻し孔23が周方向に並んで形成されている。
【0057】
リアヘッド50は、略円環状の部材であって、その中央部にシャフト8が回転可能に挿通される軸受け孔51が形成されている。リアヘッド50は、シリンダ30の圧縮室31の下端を閉塞している。
【0058】
マフラー11は、フロントヘッド20の吐出孔22から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。マフラー11は、フロントヘッド20の上面にボルトによって取り付けられ、フロントヘッド20との間にマフラー空間Mを形成している。また、図示は省略するが、マフラー11には、マフラー空間M内の冷媒を排出するためのマフラー吐出孔が形成されている。
【0059】
図1および図2に示すように、シリンダ30には、上述した圧縮室31と、圧縮室31内に冷媒を導入するための吸入孔32と、ブレード収容部33が形成されている。なお、図2(a)は、図1のA−A線断面図であって、フロントヘッド20の吐出孔22は本来表れないが、説明の便宜上表示している。
【0060】
吸入孔32は、シリンダ30の径方向に延在して形成されており、その端部(圧縮室31と反対側の端部)には、吸入管3の先端が内嵌されている。
【0061】
ブレード収容部33は、シリンダ30を上下方向に貫通しており、圧縮室31と連通している。ブレード収容部33は、圧縮室31の径方向に延在している。ブレード収容部33は、上下方向から視て、吸入孔32とフロントヘッド20の吐出孔22との間の位置に形成されている。このブレード収容部33内には、一対のブッシュ34が配置されている。一対のブッシュ34は、略円柱状の部材を半分割した形状に形成されている。この一対のブッシュ34の間にブレード42が配置されている。一対のブッシュ34は、その間にブレード42が配置された状態で、ブレード収容部33内において周方向に揺動可能となっている。
【0062】
図4に示すように、ピストン40は、円環状のローラ41と、このローラ41の外周面から径方向外側に延在するブレード42とから構成されている。図2に示すように、ローラ41は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に装着されて、圧縮室31内に配置されている。ブレード42は、ブレード収容部33に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。
【0063】
図6(a)に示すように、ピストン40の上下方向長さH1は、圧縮室31の上下方向長さH2よりも僅かに小さく、運転時のH2とH1との差は例えば数μmである。図6(a)および図6(b)に示すように、ローラ41の外径は、偏心部8aに装着された状態でローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との間に、運転時に例えば数μmの微小な隙間d1(以下、この隙間を径方向隙間d1という)が生じるような大きさとなっている。また、図2(b)〜図2(d)に示すように、ブレード42がブレード収容部33から圧縮室31側に出ている状態では、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との間に形成される空間は、ブレード42によって低圧室31aと高圧室31bに区画される。
【0064】
次に、フロントヘッド20、リアヘッド50、シリンダ30、一対のブッシュ34、ピストン40の材料および製法について説明する。
【0065】
フロントヘッド20は、鋳造や、金属粉の焼結や、削り出しなどで形成されており、表面には研磨加工が施されている。フロントヘッド20の材料としては、例えば、鋳鉄や焼結材などが挙げられる。鋳鉄と焼結材の線膨張係数は、下記の表1に示すように、共に12×10−6[/℃]である。表1には、鋳鉄と焼結材の硬度も表示している。なお、線膨張係数(線膨張率ともいう)とは、温度の上昇に対応して長さの変化する割合のことである。
【0066】
【表1】

【0067】
リアヘッド50、シリンダ30、および一対のブッシュ34の材料および製法は、上述したフロントヘッド20の材料および製法と同様である。なお、フロントヘッド20、リアヘッド50、シリンダ30、および一対のブッシュ34の材料および製法は、互いに同じであってもよいが異なっていてもよい。
【0068】
図4および図5に示すように、本実施形態のピストン40は、基材43と、基材43の表面を被覆する薄膜状の樹脂層44a〜44dとから構成されている。基材43は、鋳鉄等よりも小さい線膨張係数を有する高硬度材料で形成されている。この高硬度材料の具体例としては、アルミナやジルコニアや炭化ケイ素などのセラミックス、または、タングステンカーバイドなどの超硬合金が挙げられる。アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、およびタングステンカーバイドの線膨張係数と硬度は、表1に示す通りである。また、樹脂層44a〜44dを構成する樹脂材料としては、例えばポリアミド、エポキシ、フェノール等が挙げられる。
【0069】
基材43は、ほぼピストン40の外形を構成している。図5(a)に示すように、基材43のローラ41に相当する部分の外周角部は、面取りされた形状となっている。また、図5(b)に示すように、基材43のブレード42に相当する部分の角部は、面取りされた形状となっている。
樹脂層44a、44bは、それぞれ、基材43の上面と下面を被覆している。つまり、樹脂層44a、44bは、ピストンの上端面と下端面に形成されている。また、樹脂層44cは、ローラ41の外周面に形成されており、樹脂層44dは、ブレード42の両側面(詳細には、一対のブッシュ34に対向する側面)に形成されている。したがって、基材43の面取りされた角部は、樹脂層44a〜44dで覆われている。
また、圧縮機1を使用する前の状態における樹脂層44a〜44dの膜厚は、例えば5〜100μmであるが、この厚さに限定されるものではない。
【0070】
ピストン40の製造手順の一例を説明すると、まず、焼結または鋳造によって基材43を形成する。その後、必要であれば、孔を空ける加工や、ネジ溝を形成する加工を施す。また、必要であれば、基材43の内周面を研磨して、寸法出しを行う。基材43の面取り部分は、焼結時または鋳造時に形成することが好ましいが、焼結または鋳造の後で切削加工によって形成してもよい。
次に、基材43の所定の表面に、樹脂組成物の溶液を塗布して乾燥する工程を数回行って、樹脂コーティング層を形成する。そして、この樹脂コーティング層の表面を研磨して、樹脂コーティング層の表面を平坦化すると共に、ピストン40の寸法出しを行う。
【0071】
このように、基材43の表面のうち、少なくとも樹脂層44a〜44dが形成される部分は、焼結または鋳造によって形成された後、研磨加工が施されていないため、表面粗さが粗くなっている。つまり、樹脂層44a〜44dは、表面粗さの粗い面に形成されている。なお、基材43の研磨加工されていない部分のJIS B0601:2001で規定される算術平均表面粗さRaは、例えば0.3以上である。
【0072】
次に、本実施形態の圧縮機1の動作について、図2(a)〜図2(d)を参照して説明する。図2(a)は、ピストン40が上死点にある状態を示しており、図2(b)〜図2(d)は、図2(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0073】
吸入管3から吸入孔32を介して圧縮室31に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図2(a)〜図2(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ41は、圧縮室31の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室31内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0074】
図2(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図2(b)に示すように、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面とによって形成される空間が、低圧室31aと高圧室31bに区画される。さらに偏心部8aが回転すると、図2(b)〜図2(d)に示すように、低圧室31aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔32を介して低圧室31a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室31bの容積が小さくなるため、高圧室31bにおいて冷媒が圧縮される。
【0075】
そして、高圧室31b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた弁機構が開弁して、高圧室31b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。その後、図2(a)の状態に戻り、高圧室31bからの冷媒の吐出が完了する。この工程を繰り返すことにより、吸入管3から圧縮室31に供給された冷媒が連続的に圧縮されて排出される。
【0076】
マフラー空間Mに吐出された冷媒は、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。圧縮機構10から吐出された冷媒は、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップなどを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0077】
このとき、シャフト8の排出孔8cから圧縮室31内に供給された潤滑油Lの一部は、冷媒と共に吐出孔22からマフラー空間Mに吐出された後、マフラー11のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構10の外に吐出される。圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの一部は、フロントヘッド20の油戻し孔23を通って密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。また、圧縮機構10の外に吐出された潤滑油Lの他の一部は、冷媒と共に固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、固定子7bの外周面に形成された凹部(図示省略)と密閉ケーシング2の内周面との間と、フロントヘッド20の油戻し孔23とを通って、密閉ケーシング2の下部の貯留部に戻される。
【0078】
上述したように、ピストン40の上下方向長さは、圧縮室31の上下方向長さよりも僅かに小さく設定されている。そのため、圧縮機1の通常運転時には、図6(a)に示すように、ピストン40の上端面とフロントヘッド20との間、および、ピストン40の下端面とリアヘッド50との間の微小な隙間D1、D2(以下、この隙間を軸方向隙間D1、D2という)に、シャフト8の排出孔8cから排出された潤滑油Lが保持されている。この軸方向隙間D1、D2を設けることにより、ピストン40の上端面とフロントヘッド20、および、ピストン40の下端面とリアヘッド50との焼付き防止している。
【0079】
また、上述したように、ローラ41の外径は、偏心部8aに装着された状態でローラ41の外周面が、圧縮室31の周壁面との間に微小な径方向隙間d1を形成するような大きさとなっている。そのため、圧縮機1の通常運転時には、図6(a)に示すように、この径方向隙間d1には、シャフト8の排出孔8cから排出された潤滑油Lが保持されている。この径方向隙間d1を設けることにより、ローラ41の外周面と圧縮室31の周壁面との焼付きを防止すると共に、ローラ41が圧縮室31の周壁面に接触することによるシャフト8の芯ズレを防止している。
【0080】
本実施形態では、ピストン40を構成する基材43の熱膨張係数が鋳鉄等よりも小さいため、たとえピストン40の温度がシリンダ30の温度よりも高温になった場合であっても、ピストン40の熱膨張量がシリンダ30の熱膨張量よりも大きくなるのを防止することができる。したがって、軸方向隙間D1、D2や径方向隙間d1が無くなるのを防止することができる。
【0081】
また、ピストンが、セラミックスや超硬合金などの高硬度材料のみで構成される場合、表面加工(例えば研磨加工)が難しいが、本実施形態のピストン40は、高硬度材料からなる基材43の表面が樹脂層44〜44dで被覆された構成であるため、ピストン40の表面(ローラ41の内周面を除く)の加工は、樹脂層44〜44dを加工すればよく、表面加工を容易に行うことができる。
【0082】
また、上述したように、基材43の表面(少なくとも樹脂層44a〜44dで被覆される部分)は、研磨加工が施されていない。そのため、基材43の加工に要するコストと時間を低減することができる。
また、樹脂層44a〜44dは、基材43の研磨加工されていない表面粗さの粗い(具体的には算術平均表面粗さRaが例えば0.3以上)の面に形成されているため、基材43から剥離しにくい。
【0083】
また、基材43の材料の一例であるセラミックスおよび超硬合金は、じん性が低く欠けやすい特徴を持つが、基材43のローラ41に相当する部分の外周角部と、ブレード42に相当する部分の角部は、樹脂層44a〜44dで被覆されて保護されているため、この角部の欠けを防止することができる。
さらに、樹脂層44a〜44dで被覆された角部は、面取りされた形状に形成されているため、この角部の欠けをより確実に防止することができる。
【0084】
また、樹脂層44a〜44dは、潤滑油Lや冷媒を吸収して膨潤する。そのため、膨潤量が大きくなると、軸方向隙間D1、D2または径方向隙間d1が無くなる場合がある。この場合、樹脂層44a〜44cの摺動性によって、焼付きが生じるのを防止することができる。
【0085】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態は、2シリンダ型のロータリ圧縮機に本発明を適用した一例である。
図7に示すように、本実施形態の圧縮機101は、シャフト108および圧縮機構110の構成が上記第1実施形態と異なっている。また、本実施形態の圧縮機101では、2本の吸入管3が、密閉ケーシング2の側部に上下に並んで設けられている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0086】
シャフト108は、2つの偏心部108a、108dを有している。2つの偏心部108a、108dの軸心は、シャフト108の回転軸を中心として180°ずれている。また、シャフト108は、上記第1実施形態のシャフト8と同じく、給油路108bと、複数の排出孔108cを有している。
【0087】
圧縮機構110は、シャフト108の軸方向に沿って上から下に向かって順に、フロントマフラー111と、フロントヘッド120と、シリンダ130およびピストン140と、ミドルプレート150と、シリンダ160およびピストン170と、リアヘッド180と、リアマフラー112とを有する。なお、フロントヘッド120およびミドルプレート150は、ピストン140の上下端に配置されており、本発明の第1端板部材および第2端板部材に相当する。また、ミドルプレート150およびリアヘッド180は、ピストン170の上下端に配置されており、本発明の第1端板部材および第2端板部材に相当する。
【0088】
フロントマフラー111は、上記第1実施形態のマフラー11と同様の構成を有し、フロントヘッド120との間にマフラー空間M1を形成している。
【0089】
フロントヘッド120には、軸受け孔121と、吐出孔122(図8参照)と、油戻し孔123とが形成されている。さらに、フロントヘッド120は、上下方向に貫通する貫通孔(図示省略)が形成されている。この貫通孔は、リアヘッド180とリアマフラー112とによって形成されるマフラー空間M2内の冷媒を、マフラー空間M1に排出するための流路の一部を構成している。フロントヘッド120は、この貫通孔を有する点以外、第1実施形態のフロントヘッド20と同様の構成である。
【0090】
図8に示すように、シリンダ130には、圧縮室131と、吸入孔132と、ブレード収容部133とが形成されている。さらに、シリンダ130には、圧縮室131の外周側部分に、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔135が形成されている。シリンダ130は、この貫通孔135を有する点以外、第1実施形態のシリンダ30と同様の構成である。
【0091】
ピストン140は、上記第1実施形態のピストン40と同様の構成であって、ローラ41と、ブレード42とから構成されている。ローラ41は、偏心部108aの外周面に回転可能に装着されており、ブレード42は、シリンダ130のブレード収容部133に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ピストン140は、上記第1実施形態のピストン40と同じく、基材43と樹脂層44a〜44dとから構成されている。
【0092】
ミドルプレート150は、円環状の板部材であって、シリンダ130とシリンダ160との間に配置され、シリンダ130の圧縮室131の下端を閉塞すると共に、シリンダ160の圧縮室131の上端を閉塞している。また、ミドルプレート150には、後述するマフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。ミドルプレート150は、第1実施形態のフロントヘッド20と同様の材料および製法で製造されている。
【0093】
シリンダ160は、上述したシリンダ130と同様の構成であって、圧縮室161と、吸入孔162と、一対のブッシュ34が配置されたブレード収容部(図示省略)と、貫通孔(図示省略)とを有する。
【0094】
ピストン170は、上記第1実施形態のピストン40と同様の構成であって、ローラ41と、ブレード42とから構成されている。ローラ41は、偏心部108dの外周面に回転可能に装着されており、ブレード42は、シリンダ160のブレード収容部(図示省略)に配置された一対のブッシュ34の間に進退可能に配置されている。また、ピストン170は、上記第1実施形態のピストン40と同じく、基材43と樹脂層44a〜44dとから構成されている。
【0095】
リアヘッド180は、シリンダ160の下側に配置され、シリンダ160の圧縮室131の下端を閉塞している。リアヘッド180は、略円環状の部材であって、その中央部に、シャフト108が回転可能に挿通される軸受け孔181が形成されている。また、リアヘッド180には、シリンダ160の圧縮室161において圧縮された冷媒を、リアヘッド180とリアマフラー112との間に形成されるマフラー空間M2に吐出するための吐出孔(図示省略)が形成されている。さらに、リアヘッド180には、マフラー空間M2内の冷媒をマフラー空間M1に排出するための貫通孔(図示省略)が形成されている。また、リアヘッド180の下面には、圧縮室131内の圧力に応じて吐出孔を開閉する弁機構(図示省略)が取り付けられている。リアヘッド180は、第1実施形態のフロントヘッド20と同様の材料および製法で製造されている。
【0096】
リアマフラー112は、リアヘッド180の吐出孔(図示省略)から冷媒が吐出される際の騒音を低減するために設けられている。リアマフラー112は、リアヘッド180の下面にボルトによって取り付けられ、リアヘッド180との間にマフラー空間M2を形成している。マフラー空間M2は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1と連通している。
【0097】
本実施形態の圧縮機101の動作について説明する。
吸入孔132、162から圧縮室131、161に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト108を回転させると、偏心部108aに装着されたピストン140のローラ41は、圧縮室131の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室131内で冷媒が圧縮される。これと並行して、偏心部108dに装着されたピストン170のローラ41は、圧縮室161の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室161内で冷媒が圧縮される。
【0098】
圧縮室131内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド120に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室131内の冷媒がフロントヘッド120の吐出孔22からマフラー空間M1に吐出される。
また、圧縮室161内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、リアヘッド180に設けられた弁機構が開弁して、圧縮室161内の冷媒がリアヘッド180の吐出孔(図示省略)からマフラー空間M2に吐出される。マフラー空間M2に吐出された冷媒は、リアヘッド180、シリンダ160、ミドルプレート150、シリンダ130およびフロントヘッド120にそれぞれ形成された貫通孔を介して、マフラー空間M1に吐出される。
【0099】
マフラー空間M1に吐出された冷媒は、フロントマフラー111のマフラー吐出孔(図示省略)から圧縮機構110の外に吐出されて、その後、固定子7bと回転子7aとの間のエアギャップを通過した後、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0100】
本実施形態では、上記第1実施形態と同じく、ピストン140、170が、鋳鉄等よりも小さい線膨張係数を有する高硬度材料からなる基材43と、この基材43の表面を被覆する樹脂層44a〜44dとから構成されている。そのため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0101】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本実施形態の圧縮機は、圧縮機構210の構成が上記第1実施形態と異なっている。その他の構成は上記第1実施形態と同様であるため、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0102】
図9に示すように、圧縮機構210は、シリンダ230とシリンダ230の内部に配置される部材の構成が異なっており、その他の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0103】
シリンダ230は、圧縮室231と吸入孔232を有している。また、シリンダ230は、第1実施形態のブレード収容部33に代えて、ベーン収容部233を有しており、その他の構成は、上記第1実施形態のシリンダ30と同様である。ベーン収容部233は、シリンダ230を上下方向に貫通しており、圧縮室231に連通している。また、ベーン収容部233は、圧縮室231の径方向に延在している。
【0104】
圧縮室231の内側には、円環状のローラ241が配置されている。ローラ241は、偏心部8aの外周面に相対回転可能に装着された状態で、圧縮室231内に配置されている。ローラ241の上下方向長さは、第1実施形態のピストン40の上下方向長さH1と同じである。また、ローラ241の外径は、第1実施形態のピストン40のローラ41の外径と同じである。
【0105】
ベーン収容部233の内側には、ベーン244が配置されている。図10に示すように、ベーン244は、平板状の部材であって、その上下方向長さは、ローラ241の上下方向長さと同じである。ベーン244の圧縮室231の中心側の先端部(図9中の下側の先端部)は、上方から視て先細り状に形成されている。また、ベーン244は、ベーン収容部233内に設けられた付勢バネ247によって付勢されており、圧縮室231側の先端部が、ローラ241の外周面に押し付けられている。そのため、図9(a)〜図9(d)に示すように、シャフト8の回転に伴ってローラ241が圧縮室231の周壁面に沿って移動すると、ベーン244は、ベーン収容部233内で、圧縮室231の径方向に沿って進退移動する。また、図9(b)〜図9(d)に示すように、ベーン244が、ベーン収容部233から圧縮室231側に出ている状態では、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面との間に形成される空間は、ベーン244によって低圧室231aと高圧室231bに区画される。
【0106】
図10および図11(a)に示すように、ローラ241は、基材242と、基材242の表面を被覆する薄膜状の樹脂層243a〜243cとから構成されている。また、図10および図11(b)に示すように、ベーン244は、基材245と、基材245の表面を被覆する薄膜状の樹脂層246a〜246cとから構成されている。基材242、245の材料は、第1実施形態の基材43と同様であり、樹脂層243a〜243c、246a〜246cの材料および膜厚は、第1実施形態のピストン40の樹脂層44a〜44dと同様である。
【0107】
図11(a)および図11(b)に示すように、基材242、245の外形は、それぞれ、ほぼローラ241とベーン244の外形を構成している。また、基材242の外周角部、および、基材245の角部は、それぞれ、面取りされた形状となっている。
【0108】
図11(a)に示すように、樹脂層243a、243bは、それぞれ、基材242の上面と下面を被覆している。つまり、樹脂層243a、243bは、ローラ241の上端面と下端面に形成されている。また、樹脂層243cは、ローラ241の外周面に形成されている。
また、図11(b)に示すように、樹脂層246a、246bは、ベーン244の上端面と下端面に形成されており、樹脂層246cは、ベーン244の側面(上下端面以外の面)に形成されている。樹脂層243a〜243c、246a〜246cの材料および膜厚は、第1実施形態のピストン40の樹脂層44a〜44dと同様である。
また、ローラ241およびベーン244の製造手順は、第1実施形態で述べた、ピストン40の製造手順と同様である。
【0109】
次に、本実施形態の圧縮機の動作について説明する。
図9(a)は、ローラ241が上死点にある状態を示しており、図9(b)〜図9(d)は、図9(a)の状態から、それぞれ、シャフト8が、90°、180°(下死点)、270°回転した状態を示している。
【0110】
吸入管3から吸入孔232を介して圧縮室231に冷媒を供給しつつ、モータ7の駆動によりシャフト8を回転させると、図9(a)〜図9(d)に示すように、偏心部8aに装着されたローラ241は、圧縮室231の周壁面に沿って移動する。これにより、圧縮室231内で冷媒が圧縮される。冷媒が圧縮される工程について、以下、詳細に説明する。
【0111】
図9(a)の状態から偏心部8aが図中の矢印方向に回転すると、図9(b)に示すように、ローラ241の外周面と圧縮室231の周壁面とによって形成される空間が、低圧室231aと高圧室231bに区画される。さらに偏心部8aが回転すると、図9(b)〜図9(d)に示すように、低圧室231aの容積が大きくなるため、吸入管3から吸入孔232を介して低圧室231a内に冷媒が吸い込まれていく。同時に、高圧室231bの容積が小さくなるため、高圧室231bにおいて冷媒が圧縮される。
【0112】
そして、高圧室231b内の圧力が所定の圧力以上になった時点で、フロントヘッド20に設けられた弁機構が開弁して、高圧室231b内の冷媒が吐出孔22を介してマフラー空間Mに吐出される。マフラー空間Mに吐出された冷媒は、第1実施形態の圧縮機1と同様の経路を通り、最終的に、排出管4から密閉ケーシング2の外に排出される。
【0113】
本実施形態では、ローラ241およびベーン244が、それぞれ、第1実施形態のピストン40と同様に、鋳鉄等よりも小さい線膨張係数を有する高硬度材料からなる基材と、基材の表面を被覆する樹脂層とから構成されている。そのため、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0114】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成は、上記第1〜第3実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。なお、以下の変更形態は、適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0115】
上記第1および第2実施形態のピストン40、140、170の基材43は、角部が面取りされているが、必ずしも面取りされていなくてもよい。
第3実施形態のローラ241およびベーン244の基材242、245の角部についても同様である。
【0116】
上記第1〜第3実施形態では、基材43、242、245の表面のうち、樹脂層で被覆される部分には、研磨加工が施されていないが、例えば酸化膜を除去するために研磨加工が施されていてもよい。
【0117】
上記第1および第2実施形態では、ピストン40、140、170の樹脂層44a〜44dの厚みはそれぞれ一定であるが、一定でなくてもよい。
【0118】
例えば、ローラの上下端面の樹脂層の厚みは、ブレードの付根部(図12中に太線で示した部分)を境に、低圧室側から高圧室側に向かって徐々に薄くなっていてもよい。つまり、ローラの上下端面の樹脂層のうち、ブレードの付根部の径方向内側の部分を除く部分の厚みが、ブレードの付根部の低圧室側端部からブレードの付根部の高圧室側端部に向かって徐々に薄くなっていてもよい。なお、この変更形態の場合、ブレードの付根部の径方向内側の領域(図12中ハッチングで表示)の樹脂層の厚みは、ブレードの付根部の低圧室側端部の厚み以下で、且つ、ブレードの付根部の高圧室側端部の厚み以上とし、境界部分の厚みは緩やかに変化する形状とする。
【0119】
また、例えば、ローラの上下端面の樹脂層のうち、ブレードの付根部より高圧室側の半分の領域の厚みが、ブレードの付根部より低圧室側の半分の領域の厚みよりも薄くなっていてもよい。なお、ローラの上下端面の樹脂層のうち、ブレードの付根部より高圧室側の半分の領域とは、ローラの上下端面の樹脂層のうち、ブレードの付根部の径方向内側の領域(図12中ハッチングで表示)を除く領域を半分にした場合の高圧室側の領域のことである。この変更形態の場合、ブレードの付根部の径方向内側の領域(図12中ハッチングで表示)の樹脂層の厚みは、ブレードの付根部より低圧室側の半分の領域の厚み以下で、且つ、ブレードの付根部より高圧室側の半分の領域の厚み以上とする。
【0120】
また、例えば、ローラの上下端面の樹脂層のうち、ブレードの付根部より高圧室側の半分の領域の一部分の厚みが、ブレードの付根部より低圧室側の半分の領域の最小厚さよりも薄くてもよい。この場合、高圧室側の半分の領域の残りの部分の樹脂層の厚みは、ブレードの付根部より低圧室側半分の領域の最小厚さと同じとする。また、ブレードの付根部の径方向内側の領域(図12中ハッチングで表示)の樹脂層の厚みは、ブレードの付根部より低圧室側の半分の領域の厚み以下で、且つ、ブレードの付根部より高圧室側の半分の領域の厚み以上とする。
【0121】
冷媒が圧縮される高圧室に接する部分は、冷媒が供給される低圧室側よりも高温に晒されるが、これらの構成によると、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができる。そのため、ローラ端面のうち高圧室側の部分だけがフロントヘッドやリアヘッドに接触するのを防止することができる。
【0122】
また、例えば図13に示すピストン340の上下端面の樹脂層344a、344bのように厚みが変化していてもよい。樹脂層344aは、薄膜部344aと厚膜部344aとから構成されており、薄膜部344aの厚みは、厚膜部344aの厚みよりも例えば3〜50μm薄く、薄膜部344aと厚膜部344aの境界部分の厚みは緩やかに変化している。薄膜部344aは、ローラ341の上端面の略半分の領域に形成されており、厚膜部344aは、ピストン340の上端面の残りの領域と、ブレート342の上端面に形成されている。薄膜部344aの形成範囲について以下詳細に説明する。径方向隙間d1は、周期的に変化している。径方向隙間d1が最小となる際に、ローラ341の外周面のうちで高圧室31bを画定する部分をW1とする。薄膜部344aは、ローラ341の上端面において、ローラ341の外周面の部分W1に対応する部分S1に形成されている。
また、図13(b)に示すように、ピストン340の下端面の樹脂層344bは、薄膜部344aの裏側に形成された薄膜部344bと、厚膜部344aの裏側に形成された厚膜部344bとから構成されている。
ピストン340の図13中の左側略半分の部分は、高圧室31b内の高温の冷媒で加熱されるため、薄膜部344a(344b)の温度は、厚膜部344a(344b)の温度よりも高くなる。薄膜部344a(344b)の厚みを厚膜部344a(344b)よりも薄くすることによって、薄膜部344a(344b)の熱膨張時の厚みを、厚膜部344a(344b)の熱膨張時の厚みとほぼ同じにすることができる。したがって、軸方向隙間を均一化することができる。
【0123】
ピストンの上下端面の樹脂層の厚みを異ならせる場合、ローラの外周面の部分W1に対応する部分S1の厚みが、ローラの外周面の後述する部分W1に対応する部分S2の厚みよりも薄いことが好ましい。この場合、ピストンの上下端面の樹脂層のうち部分S1、S2以外の部分の厚みは、部分S2の厚み以下であればよい。
図14は、圧縮室31の軸中心からローラ41の軸中心側に向かって延在する直線L1が、吸入孔32におけるローラ41の移動方向(図14中の時計回り)の下流側の端部P1を通る状態を示している。このとき、ローラ41の外周面のうちで低圧室31aを画定する部分をW2とする。部分W2は、吸入孔32から供給される冷媒によって冷却されるため、低温になっている。そのため、ローラ41の上下端面の樹脂層のうち、部分W2に対応する部分S2は、熱膨張量が小さい。
したがって、ピストン40の上下端面の樹脂層の部分S1の厚みを、部分S2の厚みよりも薄くすることにより、樹脂層の熱膨張時の厚みを均一化することができる。
【0124】
なお、上記実施形態およびこの変更形態のピストンでは、ローラ41の外周形状は円形であるが、図15に示すピストン440のように、ローラ441の外周面に、ブレード442の基端部から吸入孔32側(図15中の右側)に延在する切欠け445が形成されていてもよい。図15は、図14と同じく、圧縮室31の軸中心からローラ441の軸中心側に向かって延在する直線L1が、吸入孔32におけるローラ441の移動方向(図15中の時計回り)の下流側の端部P1を通る状態を示している。切欠けの長さによっては、図15に示すように、ローラ141の外周面のうちで低圧室31aを画定する部分W402は、図13および図14に示す部分W2よりも周方向長さが若干長くなる。
【0125】
上記第1および第2実施形態では、ピストン40、140、170のローラ41の内周面以外の面に、樹脂層を設けているが、ローラ41の内周面にも樹脂層を設けてもよい。
第3実施形態のローラ241の内周面についても同様である。
【0126】
上記第1および第2実施形態では、樹脂層44aは、ピストン40、140、170の上端面の全面に設けられているが、ピストンの上端面の一部にのみ設けてもよい。例えば、ローラ41の上端面にのみ樹脂層44aを設けてもよい。
第1および第2実施形態の樹脂層44b〜44d、第3実施形態の樹脂層243a〜243c、246a〜246cについても同様に、全面ではなく一部にのみ設けてもよい。
【0127】
上記第1および第2実施形態では、ピストン40、140、170に、4つの樹脂層44a〜44dが設けられているが、これら4つの樹脂層は必ずしも全て設けられていなくてもよい。例えば樹脂層44a、44bのみが設けられていてもよい。
第3実施形態のローラ241の樹脂層243a〜243cについても同様である。また、第3実施形態のベーン244の樹脂層246a〜246cについても同様である。
【0128】
上記第3実施形態では、ローラ241とベーン244の両方が、高硬度材料からなる基材と樹脂層とで構成されているが、どちらか一方のみが、高硬度材料からなる基材と樹脂層で構成されていてもよい。この場合、他方は、高硬度材料のみ、または、従来と同様の金属材料のみで形成されていてもよく、従来と同様の金属材料からなる基材と樹脂層で構成されていてもよい。
【0129】
シリンダ30、130、160、230、フロントヘッド20、120、リアヘッド50、180、一対のブッシュ34、または、ミドルプレート150の表面に樹脂層を設けてもよい。
【0130】
上記第1および第2実施形態では、一対のブッシュ34は鋳鉄などで構成されているが、基材43と同様の高硬度材料で形成された基材と、この基材の表面の全面または一部(例えば上下端面)を被覆する樹脂層とによって構成されてもよい。この場合、一対のブッシュの製造手順は、第1実施形態で述べたピストンの製造手順と同じである。また、基材の角部は面取りされていることが好ましい。
この構成によると、一対のブッシュの熱膨張によって、一対のブッシュの上端面(下端面)と、フロントヘッド(リアヘッドまたはミドルプレート)との隙間が無くなるのを防止することができる。さらに、上記第1実施形態で述べた、ピストン40を基材43と樹脂層44a〜44dで構成したことによる効果と同様の効果が得られる。
また、この変更形態の場合、ピストン40、140、170は、フロントヘッド20等と同じじく鋳鉄などで形成されていてもよい。
【0131】
シリンダ30、130、160、230、フロントヘッド20、120、リアヘッド50、180、または、ミドルプレート150は、基材43と同様の高硬度材料で形成されていてもよく、高硬度材料からなる基材とこの基材の表面を被覆する樹脂層とで構成されていてもよい。
【0132】
上記第1〜第3実施形態では、圧縮機構は、フロントヘッド20、120の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持されているが、シリンダ30、130、160、ミドルプレート150、またはリアヘッド50、180の外周部が密閉ケーシング2の内周面に固定されることで支持される構成であってもよい。
【0133】
上記第3実施形態では、ローラ241とベーン244とを備える圧縮機構を、1シリンダ型のロータリ圧縮機に適用しているが、2シリンダ型のロータリ圧縮機に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明を利用すれば、ローラ等とシリンダの熱膨張の差によって隙間が無くなるのを防止することができると共に、ローラ等の表面加工を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0135】
1、101 圧縮機
20、120 フロントヘッド(第1端板部材)
30、130、160 シリンダ
31、131、161 圧縮室
33、133 ブレード収容溝(ブレード収容部)
34 一対のブッシュ
40、140、170 ピストン
41 ローラ
42 ブレード
43 基材
44a〜44d 樹脂層
50、180 リアヘッド(第2端板部材)
150 ミドルプレート(第1端板部材、第2端板部材)
230 シリンダ
231 圧縮室
233 ベーン収容溝(ベーン収容部)
241 ローラ
242 基材
243a〜243c 樹脂層
244 ベーン
245 基材
246a〜246c 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室および前記圧縮室に連通したブレード収容部を有するシリンダと、
前記シリンダの軸方向両端に配置される第1端板部材および第2端板部材と、
前記圧縮室および前記ブレード収容部の内側に配置されるピストンと、
前記ブレード収容部の内側に配置される一対のブッシュとを備え、
前記ピストンは、前記圧縮室に配置された環状のローラと、前記ローラの外周面から延在し且つ前記ブレード収容部に配置された前記一対のブッシュ間を進退可能に配置されたブレードとを有し、
前記ピストン、および、前記一対のブッシュ、の少なくとも一方は、
12×10−6[/℃]よりも小さい線膨張係数を持つ高硬度材料で形成された基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂層と、
を有することを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記樹脂層が、前記ピストンの軸方向端面、および、前記ローラの外周面、となる部分の少なくとも一方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、
前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ、前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに分断するものであって、
前記樹脂層は、前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成されており、
前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の一部分の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の最小厚さよりも薄く、且つ、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の残りの部分の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の最小厚さ以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記高圧室側半分の領域の前記樹脂層の厚みが、前記ローラの軸方向端面における前記ブレードの付根部より前記低圧室側半分の領域の前記樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成された前記樹脂層のうち、前記ブレードの付根部の径方向内側の部分を除く部分は、前記ブレードの付根部の前記低圧室側端部から前記ブレードの付根部の前記高圧室側端部に向かって徐々に厚みが薄くなっていることを特徴とする請求項3に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記シリンダは、前記圧縮室の周壁面に開口し且つ前記圧縮室に冷媒を導入するための吸入孔をさらに有し、
前記ピストンは、前記ローラが前記圧縮室の周壁面に沿って移動しつつ、前記ブレードと共に前記圧縮室を高圧室と低圧室とに分断するものであって、
前記樹脂層は、前記ローラの軸方向端面となる部分の全面に形成されており、
前記ローラの軸方向端面において、前記ローラの外周面と前記圧縮室の周壁面との隙間が最小となる際に、前記ローラの外周面のうちで前記高圧室を画定する部分に対応した部分の前記樹脂層の厚みは、
前記ローラの軸方向端面において、前記圧縮室の軸方向から視て前記圧縮室の軸中心から前記ローラの軸中心側に向かって延在する直線が前記吸入孔における前記ローラの移動方向下流側の端部を通る際に、前記ローラの外周面のうちで前記低圧室を画定する部分に対応した部分の樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項7】
圧縮室および前記圧縮室に連通したベーン収容部を有するシリンダと、
前記シリンダの軸方向両端に配置される第1端板部材および第2端板部材と、
前記圧縮室の内側に配置される環状のローラと、
前記ローラの外周面に押圧される先端を有し且つ前記ベーン収容部の内側を進退可能に配置されたベーンとを備え、
前記ローラ、および、前記ベーンの少なくとも一方は、
12×10−6[/℃]よりも小さい線膨張係数を持つ高硬度材料で形成された基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部分を被覆する樹脂層と、
を有することを特徴とする圧縮機。
【請求項8】
前記樹脂層が、前記ローラの軸方向端面、および、前記ローラの外周面、となる部分の少なくとも1つの全面に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記基材の表面のうち前記樹脂層で被覆される部分は、算術平均表面粗さRaが、0.3以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項10】
前記基材の表面のうち前記樹脂層で被覆される部分は、研磨加工されていないことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項11】
前記高硬度材料が、セラミックスまたは超硬合金であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項12】
前記樹脂層が、前記基材の角部を被覆していることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の圧縮機。
【請求項13】
前記基材の前記角部が、面取りされた形状であることを特徴とする請求項12に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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