説明

圧縮気体を封入した宇宙用展開構造物

【課題】電力資源が小さい小型衛星のミッションに柔軟性を持たせたり、小型衛星を用いて大型構造物を建設することができ、組立後の制振、位置、姿勢制御等も能動的に行う。
【解決手段】宇宙用展開構造物13を、互いに枢着された複数のモジュール12から構成し、各モジュール12は、互いに枢着された複数のパネルから短冊状に構成され、折りたたみ及び展開可能であり、複数のパネルの一部に圧縮気体を充填した中空パネル2を有し、この中空パネル2から圧縮気体が供給され、その駆動力により、複数のパネル11は展開可能であり、宇宙用展開構造物13の隅部に設けた4方向スラスタ3から選択的に圧縮気体を噴出させることにより、パネル、宇宙用展開構造物の移動、展開後の制振、移動、姿勢制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型衛星を用いた太陽発電衛星、宇宙ステーション、多目的プラットフォーム等の大型構造物を構成する宇宙用展開構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフレータブル構造やコールドガスジェットのような圧縮気体を用いた宇宙での駆動技術は、衛星本体に設けられたタンクに蓄えられた圧縮気体を用いられている。しかし、この方法ではタンクを設けるために衛星内に大きな場所を必要とし、貴重な宇宙での空間資源を奪うこととなっている。
【0003】
また宇宙における展開構造物の構築法は、地上でばねなどを用いて与圧かけた状態でワイヤ等により固定し、火薬による糸の破断により展開を行うことが通常である。この場合、火薬による衝撃や、展開終了時の急な停止による衝撃が衛星の故障の原因となっている。また、火薬がうまく爆発せず、展開に失敗することもある。
【0004】
また、形状記憶合金を用いた展開方法がある。この場合は衝撃や展開失敗のリスクは軽減されるが形状記憶合金の加熱のためには形状記憶合金の電気抵抗値が小さいため大きな電力が必要である。
【0005】
ほかに、インフレータブル(風船状の構造物)により展開を行う方法がある。この場合、インフレータブルの体積が大きいと、より多くの気体が必要である上、展開後に気体が宇宙空間に漏れると展開構造物の形状を保てなくなる恐れがある。
【0006】
小型の推進系としては、ここで想定しているような短時間にある程度強い推力が必要な場合、コールドガスジェットやヒドラジンを用いた3方向スラスタがある。コールドガスジェットは高圧窒素ガスを放出するだけの単純な構造であるが、窒素ガスを貯めておくタンクが必要である。また、ヒドラジンは毒性・引火性があり、取り扱いに注意を要する。ヒドラジン3方向スラスタは加熱機構などが必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小型衛星は、それ自身の質量が小さく(100kg以下を想定)、自身よりも質量が大きな宇宙用展開構造物を持ち、展開し、運用することは制御上大きな負担となる。展開時にばねと火薬を用いる方法では衝撃が大きく、小型衛星のような小さい宇宙機には損傷を与える可能性が高い。
【0008】
インフレータブルによる展開では大量の気体が必要となる上、破損時に形状を保てなくなる恐れがある。推進用のガスジェットに用いる圧縮気体は通常タンクに保管されるが、そのための容積が大きな負担となる。通常は小型衛星だけに3方向スラスタは装備されており、これだけで大型の宇宙用展開構造物の振動を制御することは困難であった。
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決することを目的とするものであり、小型衛星に搭載可能で、きわめて簡単に構築可能であって、小型衛星及び複数のパネルを移動するとともに、位置、姿勢及び振動の制御を可能とする宇宙用展開構造物を実現可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、互いに枢着された複数のパネルから短冊状に構成され、折りたたみ及び展開可能な宇宙用展開構造物であって、圧縮気体を封入可能な中空体を有し、該圧縮気体の駆動力により、前記複数のパネルは展開可能であることを特徴とする宇宙用展開構造物を提供する。
【0011】
本発明は上記課題を解決するために、互いに枢着された複数のモジュールを有し、該モジュールは互いに枢着された複数のパネルから短冊状に構成され、折りたたみ及び展開可能な宇宙用展開構造物であって、圧縮気体を封入可能な中空体を有し、該圧縮気体の駆動力により、前記複数のパネルは展開可能であることを特徴とする宇宙用展開構造物を提供する。
【0012】
前記中空体は、前記複数のパネルの一部のパネルとすることが好ましい。
【0013】
前記複数のパネルの表面に沿って展開方向にチューブが取り付けられており、該チューブに前記圧縮気体を注入することにより、前記複数のパネルは展開可能である構成とすることが好ましい。
【0014】
複数のパネルの一部に4方向スラスタが取り付けられており、該4方向スラスタには前記中空体から圧縮気体が供給され、該圧縮気体を前記4方向スラスタから噴出することにより、複数のパネルを移動するとともに、複数のパネルの位置、姿勢及び振動の制御を可能とすることが好ましい。4方向スラスタは折りたたんだ状態での小型衛星の移動と展開後の振動制御に供するため、4方向へのスラストができるようになっている。
【0015】
4方向スラストは、4方向にそれぞれノズルを設け、該ノズルから前記圧縮気体を選択的に噴出可能である構成とすることが好ましい。
【0016】
前記複数のパネルは、それぞれラッチを有し、該ラッチで隣接するパネルを係止することにより展開状態又は折りたたみ状態を保持することが可能である構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明の宇宙用展開構造物によれば、従来電力資源が小さい小型衛星のミッションに柔軟性を持たせたり、小型衛星を用いて大型構造物を建設することができる。また、組立後の制振・位置・姿勢制御も能動的に行うことができる。
【0018】
また、この宇宙用展開構造物は、小型衛星に設置し、展開構造物の一部に圧縮気体を保管し、それを用いて小型衛星の運動制御・展開構造物の展開・展開後の運動制御を行うことができ、小型衛星の空間資源の有効活用できる。
【0019】
また、4方向スラスタが展開構造物に取り付けられているため、小型衛星の姿勢制御や展開後の振動制御が容易に行うことができる。
【0020】
剛の構造物とチューブを組み合わせた展開法を用いることにより、弁で圧縮気体の流量を制御して展開速度を制御し、低衝撃の展開を実現できる。また、気体を必要とするのがチューブの部分だけなので気体の量もインフレータブルに比べ、節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る宇宙用展開構造物を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【0022】
本発明は、小型衛星を用いて建設することのできる宇宙用展開構造物であり、この基本構成は、互いにヒンジにより枢着された複数枚のパネルから主に構成されており、折りたたむこともできるし、展開状態とすることもできる。
【0023】
そして、宇宙用展開構造物に圧縮気体を封入する手段を設け、その圧縮気体を駆動源として宇宙用展開構造物の展開や運動制御を行うことを特徴とするものである。
【実施例】
【0024】
本発明の宇宙用展開構造物10の実施例を以下に説明する。この実施例の宇宙用展開構造物10は、複数枚の太陽電池パネルから成り、小型衛星1に搭載される構成としたものである。
【0025】
図1に示す小型衛星1は、その外形寸法が、例えば0.5m×0.5m×0.5mであり、図示しないGPS受信機、加速度計、地球センサ、CCDカメラ、ファイバーオプティカルジャイロ、リアクションホイール等を搭載しており、さらに詳細は後述するが、圧縮気体を噴出する4方向スラスタ3を搭載する。
【0026】
この実施例の宇宙用展開構造物10は、小型衛星1に搭載され、図1に示すように折りたたんだ状態から、図2〜図4に示すように徐々に展開され、最終的に図5に示すように展開状態となる。
【0027】
複数枚の太陽電池パネルが互いにヒンジ5で枢着され短冊状に集合して1つのモジュールを構成している。宇宙用展開構造物10は、1又は2以上のモジュールから構成される。宇宙用展開構造物10が複数のモジュール12から構成される場合は、複数のモジュール12の配置や結合構造は、その使用目的、規模、小型衛星の構成等に応じて、適宜、設計される。
【0028】
この実施例の宇宙用展開構造物10では、図1〜5で示すように、小型衛星1の両側に対となって配置される2つのモジュール群13、13から構成され、各モジュール群13は、4つのモジュール12から構成されている。
【0029】
モジュール群13を構成する4つのモジュール12は、内外2つづつ連結支持材14、14’で結合されており、内外2つの連結支持材14、14’がヒンジ15で互いに枢着されている。内側の連結支持材14’は、ヒンジ16により小型衛星1に枢着されている。
【0030】
モジュール12は、複数の太陽電池パネル11から構成されるが、その詳細な構造を図6において説明する。モジュール12を構成する複数の太陽電池パネル11は、互いにヒンジ5で枢着され短冊状に構成されている。そして、複数の太陽電池パネル11の表面に沿って、展開方向に延びるように、2本のチューブ6、6が取り付けられている。
【0031】
要するに、2本のチューブ6、6は、鉄道の枕木に対して延びる2本のレールのように、複数の太陽電池パネル11を横切って延びるように取り付けられている。チューブ6は、モジュール12を折りたたんだ状態では、図6(a)に示すように蛇行しており、展開状態では、図6(c)に示すように、複数の太陽電池パネル11の表面に沿って展開方向に一直線に延びる状態となる。
【0032】
この実施例の宇宙用展開構造物10の最小単位である太陽電池パネル11は、その1枚の面積は0.5m×2.5mであり、1つのモジュール12は、22枚の太陽電池パネル11が互いにヒンジ5(図6参照)で枢着されて構成されている。
【0033】
各太陽電池パネル11は、ラッチ7(フックと係止ピンから成るもの。)を有し、隣接する太陽電池パネル11同士が、互いにラッチ7で係止されることにより、図6(c)で示すような、展開状態を保持できるように構成されている。
【0034】
宇宙用展開構造物10全体としては、88枚のパネルから構成される(図5(c)参照)。宇宙用展開構造物10は、折りたたんだ状態(図1参照)では、外形寸法が2m×2.5m×1mであり、展開状態(図5参照)では9.5m×13.7mの面積を持つ。
【0035】
図5で示すように、宇宙用展開構造物10の展開状態において、各モジュール12の最外端には、太陽電池パネル11ではなく、中空パネル2が配置されている。この中空パネル2の中には、圧縮気体として圧縮窒素が充填されている。
【0036】
中空パネル4には、それぞれ、図1に示すような、4方向に推進駆動力を発生する4方向スラスタ3が付設されている。4方向スラスタ3は、図示しない管等で適宜で中空パネル4と連通するように取り付けられており、4方向スラスタ3内に圧縮気体として圧縮窒素が供給されている。
【0037】
4方向スラスタ3は、4方向にノズル17を持ち、各ノズル17は、図示しない弁でその開閉が制御され、この弁の制御は小型衛星1の本体内の計算機から有線又は無線で行うように構成されている。各ノズル17の弁を制御し開くことにより、圧縮窒素を噴出させ、小型衛星1、モジュール12及び宇宙用展開構造物10を、移動させ、さらに、位置、姿勢及び展開後の振動制御等を行うことができる。
【0038】
さらに、中空パネル4には、小型衛星1の本体内の計算機から有線で開閉制御可能な弁9を介して、チューブ6が結合されており、弁9を開いてチューブ6に圧縮窒素を送気し、これにより、チューブ6を伸ばして、図4〜5、図6(c)に示すように、宇宙用展開構造物10を展開可能とするように構成されている。
【0039】
なお、上記したとおり、連結支持材14、14’は互いにヒンジ15によって枢着されており、さらに連結材14’は、小型衛星1にヒンジ16によって枢着されているが、これらの連結支持材14、連結支持材14’及び小型衛星1にわたって、図示しないが、前述のチューブ6と同様のチューブが取り付けられている。
【0040】
そして、このチューブは、小型衛星に付設された、図示していない弁を有する圧縮気体タンクに接続されている。圧縮気体タンクの弁を開いて圧縮気体タンクから、チューブに圧縮気体を供給することにより、モジュール12、12を小型衛星1に対して展開することができる。
【0041】
(作用)
以上の構成からなる実施例の宇宙用展開構造物10の作用について、以下に説明する。図1に示すように、小型衛星1に搭載された宇宙用展開構造物10は、折りたたんだ状態で所定の位置に移動する。この移動は、宇宙用展開構造物10に付設された4個の4方向スラスタ3の駆動力により行われる。
【0042】
次に、中空パネル4の圧縮空気を用い、2段階に分けて順次展開を行う。即ち、第1段階の展開は、図2〜3に示すようにモジュール12の展開である。第2段階の展開は、図4〜5に示すように、各モジュール12における太陽電池パネル11の展開である。
【0043】
第1段階の展開では、ヒンジ16により連結部材14が小型衛星1に対して、図2に示すように展開し、また、ヒンジ15により連結部材14’が連結部材14に対して展開し、結局、図3に示すように展開される。
【0044】
第2段階の展開では、ヒンジ5により太陽電池パネル11が図4のように展開し、最終的に図5のように展開が完了する。この展開完了後、隣接する太陽電池パネル11同士を互いにラッチ7で係止して締結し(図6)、展開状態を維持するような状態とする。展開後は、4方向スラスタ3を用いて振動制御等を行う。
【0045】
なお、ラッチ7は、パネル11の側面に固定されており、パネル11が展開すると、パネル11とともにラッチ7のフックがヒンジ5の軸の周りに回転し、完全に展開したところで、ラッチ7の係止ピンに係合してフックが固定される。
【0046】
以上、本発明に係る宇宙用展開構造物を実施する最良の形態を実施例に基づいて図面を参照して説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内でいろいろな実施の態様があることは言うまでもない。さらに、本発明は、いろいろな機能を持つ宇宙用展開構造物を配置することによりさまざまな応用が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のとおり、本発明に係る宇宙用展開構造物は、電力資源が小さい小型衛星のミッションに柔軟性を持たせたり、小型衛星を用いて大型構造物を建設することができ、さらに組立後の制振、位置、姿勢制御等も能動的に行うことができるから、小型衛星を用いた太陽発電衛星、宇宙ステーション、多目的プラットフォーム等の大型構造物を構成する用途として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】の実施例を説明する図であり、宇宙用展開構造物を折りたたんで小型宇宙船に搭載した状態を示す図である。
【図2】本発明に係る宇宙用展開構造物の展開の第一段階(途中)を示す図である。
【図3】本発明に係る宇宙用展開構造物の展開の第一段階(終了)を示す図である。
【図4】本発明に係る宇宙用展開構造物の展開の第二段階(途中)を示す図である。
【図5】本発明に係る宇宙用展開構造物の展開の第二段階(終了)を示す図である。
【図6】本発明に係る宇宙用展開構造物のモジュールの一部の構造を詳細に説明する図である。
【符号の説明】
【0049】
1 小型衛星
2 中空パネル
3 4方向スラスタ
4 4方向スラスタ3の拡大図
5、15、16 ヒンジ
6 チューブ6
7 ラッチ
8 圧縮気体
9 弁
10 宇宙用展開構造物
11 太陽電池パネル
12 モジュール
13 モジュール群
14、14’ 連結支持材
17 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに枢着された複数のパネルから短冊状に構成され、折りたたみ及び展開可能な宇宙用展開構造物であって、
圧縮気体を封入可能な中空体を有し、該圧縮気体の駆動力により、前記複数のパネルは展開可能であることを特徴とする宇宙用展開構造物。
【請求項2】
互いに枢着された複数のモジュールを有し、該モジュールは互いに枢着された複数のパネルから短冊状に構成され、折りたたみ及び展開可能な宇宙用展開構造物であって、
圧縮気体を封入可能な中空体を有し、該圧縮気体の駆動力により、前記複数のパネルは展開可能であることを特徴とする宇宙用展開構造物。
【請求項3】
前記中空体は、前記複数のパネルの一部のパネルであることを特徴とする請求項1又は2記載の宇宙用展開構造物。
【請求項4】
前記複数のパネルの表面に沿って展開方向にチューブが取り付けられており、該チューブに前記圧縮気体を注入することにより、前記複数のパネルは展開可能であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の宇宙用展開構造物。
【請求項5】
複数のパネルの一部に4方向スラスタが取り付けられており、該4方向スラスタには前記中空体から圧縮気体が供給され、該圧縮気体を前記4方向スラスタから噴出することにより、複数のパネルを移動するとともに、複数のパネルの位置、姿勢及び振動の制御を可能とすることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の宇宙用展開構造物。
【請求項6】
4方向スラストは、4方向にそれぞれノズルを設け、該ノズルから前記圧縮気体を選択的に噴出可能であることを特徴とする請求項5記載の宇宙用展開構造物。
【請求項7】
前記複数のパネルは、それぞれラッチを有し、該ラッチで隣接するパネルを係止することにより展開状態又は折りたたみ状態を保持することが可能であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の宇宙用展開構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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