説明

圧電アクチュエーター、ロボットハンド及びロボット

【課題】圧電アクチュエーターの駆動効率を向上する。
【解決手段】回転軸rを有するローター5と、ローター5に当接する摺動部33と、摺動部33に楕円振動を励起する圧電素子30と、圧電素子30に積層された振動板31と、摺動部33の中心軸79を、回転軸rに垂直な面方向において、楕円振動の回転方向に応じて、回転軸rと交差する状態からシフトすることを許容する移動機構3と、を少なくとも有することを特徴とする圧電アクチュエーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーター、及び当該圧電アクチュエーターを有するロボットハンド及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエーターは、高周波の交流電圧等の駆動電圧を機械的振動に変換する圧電素子と、該圧電素子によって駆動される被駆動部と、を少なくとも有する駆動装置である。圧電モーターは、圧電アクチュエーターの一種である。すなわち圧電モーターは、上述の被駆動部としてローターを用いた駆動装置であり、圧電素子の振動を回転力として利用可能な駆動装置である。
【0003】
圧電モーターの用途としては、時計のカレンダー送り機能のように、正転方向(正回転)のみの駆動を行うものが知られていた。他方、新たな用途として、ロボット(ロボットハンド)の駆動手段としての用途が注目されている。かかる用途の場合、回転方向を正転と逆転とに切替え可能であることが求められている。
例えば、特許文献1には、ローターの中心に向かって対向配置されたセラミック製の摺動部と、当該摺動部をローターに押圧する振動板とを有する圧電モーターが開示されている。この振動板には、圧電素子と、複数の電極とが形成されており、各電極への駆動電圧を変更することにより、摺動部のローターへの押圧軌道(楕円軌道)を切替えて、正転と逆転とを切替え可能としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−184382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の圧電モーターでは、ローターに対して摺動部をニュートラルな位置に配置した状態で、電気的な駆動信号のみで正転と逆転とを切替えていたため、駆動状態の調整幅には限界があるという課題があった。具体的には、正転のみでより大きな駆動力を出したい場合などは、駆動信号のみでの制御では限界があった。
また、極微速で正転と逆転とを切替える場合などでは、回転方向の安定性を確保することが困難であるという課題もあった。
つまり、従来の技術では、正転と逆転の両駆動態様において、より効率的な駆動を行うことは困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例の圧電アクチュエーターは、回転軸を有するローターと、上記ローターに当接する摺動部と、上記摺動部に楕円振動を励起する圧電素子と、上記圧電素子に積層された振動板と、上記摺動部の中心軸を、上記回転軸に垂直な面方向において、上記楕円振動の回転方向に応じて、上記回転軸と交差する状態からシフトすることを許容する移動機構と、を少なくとも有することを特徴とする。
【0008】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、摺動部におけるローターと当接する位置を、摺動部の回転方向等に合せて調節できる。したがって圧電素子の駆動条件を好適化でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を向上できる。
【0009】
[適用例2]上述の圧電アクチュエーターであって、上記移動機構は、上記振動板を上記ローターの方向へ付勢する付勢手段を有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0010】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、摺動部をシフトさせた場合において、摺動部がローターに当接する際の当接力を安定させることができる。したがって、圧電アクチュエーターの駆動効率をより一層向上できる。
【0011】
[適用例3]上述の圧電アクチュエーターであって、上記ローターを支持する基台を有し、上記移動機構は、上記基台に配置された第1のガイドピンと、上記回転軸と上記第1のガイドピンの中心とを結ぶ線上に中心が位置するように配置された第2のガイドピンと、上記振動板を保持する部材であり、上記基台に対向する側に、上記第1のガイドピンが摺動可能な幅を有する第1のガイド溝と、上記第1のガイド溝に連通しかつ上記回転軸から離れるにつれて幅が広がる第2のガイド溝と、を有する第1の保持部と、をさらに有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0012】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、第1の保持部を、第2のガイドピンでシフト方向の移動を制御しつつ、第1のガイドピンに沿ってローターの方向に移動させることができる。その結果、摺動部におけるローターと当接する位置を容易に調整でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を容易に向上できる。
【0013】
[適用例4]上述の圧電アクチュエーターであって、上記第2のガイド溝の幅は、上記第1のガイドピンと上記回転軸を結ぶ線を中心として左右各30度の角度で広がっていることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0014】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、第1の保持部、及び該第1の保持部に保持される振動板を、左右各30度の範囲でシフト方向に移動させることができる。かかる角度範囲の移動ができれば、摺動部におけるローターと当接する位置を充分に調節でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を充分に向上できる。
【0015】
[適用例5]上述の圧電アクチュエーターであって、上記ローターを支持する基台を有し、上記移動機構は、上記ローターの方向を長手方向とするガイド孔を有し、上記基台と対向する下部保持部と、上記振動板を保持し上記下部保持部に軸を介して回転可能に支持された上部保持部と、を有する第2の保持部と、上記下部保持部を上記ガイド孔を介して上記基台に摺動可能に支持する第3のガイドピンと、をさらに有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0016】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、下部保持部をローターの方向に移動させつつ、該下部保持部に支持された上部保持部をシフト方向に移動させることができる。したがって、第2の保持部に保持される振動板の摺動部がローターと当接する位置を容易に調節でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を容易に向上できる。
【0017】
[適用例6]上述の圧電アクチュエーターであって、上記下部保持部には、上記上部保持部のシフト方向の移動を、上記長手方向を中心に左右各30度の範囲に制限するストッパーが配置されていることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【0018】
このような構成の圧電アクチュエーターであれば、上部保持部、及び該上部保持部に保持される振動板を左右各30度の範囲でシフト方向に移動させることができる。かかる角度範囲の移動ができれば、摺動部におけるローターと当接する位置を充分に調節でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を充分に向上できる。
【0019】
[適用例7]本適用例のロボットハンドは、上述の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とする。
【0020】
上述の圧電アクチュエーターは駆動効率が向上しているため、同等の作業を行う他の圧電アクチュエーターに比べて小型化されている。したがって、このような構成のロボットハンドであれば、同一の作業に用いられる他のロボットハンドに比べて小型化そして軽量化することが可能となる。
【0021】
[適用例8]本適用例のロボットは、上述のロボットハンドを備えたことを特徴とする。
【0022】
上述の圧電アクチュエーターは駆動効率が向上しているため、同等の作業を行う他の圧電アクチュエーターに比べて小型化、かつ低消費電力化されている。したがって、このような構成のロボットであれば、同一の作業が可能な他のロボットに比べて小型化そして軽量化することが可能となる。そしてこのような構成のロボットであれば、同一の作業を他のロボットに比べて低い消費電力で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかる圧電モーターの概略を示す模式平面図。
【図2】図1のA−A’線における断面を示す、圧電モーターの断面図。
【図3】第1の実施形態の保持部等を示す図。
【図4】振動体の展開斜視図。
【図5】圧電素子及び摺動部の振動方向を示す図。
【図6】保持部の移動を示す図。
【図7】第1の実施形態における保持部及び振動体が、ローター方向とシフト方向に移動した状態の圧電モーターを示す図。
【図8】第2の実施形態にかかる圧電モーターの概略を示す模式平面図。
【図9】図8のD−D’線における断面を示す、圧電モーターの断面図。
【図10】第2実施形態の保持部等を示す図。
【図11】第2の実施形態における保持部及び振動体が、ローター方向とシフト方向に移動した状態の圧電モーターを示す図。
【図12】変形例1にかかる、被駆動部にスライド部材を用いた形態を示す図。
【図13】変形例2にかかる保持部を示す図。
【図14】第3の実施形態にかかるロボットの概略を示す図。
【図15】第3の実施形態にかかるロボットハンドの概略を示す図。
【図16】ロボットハンドが有する第1の指の概略を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態にかかる圧電アクチュエーター、すなわち回転方向を(正回転と逆回転に)切り換え可能な圧電モーターについて、図面を参照しつつ述べる。なお本発明の実施の形態は、以下の各図に示す構造、形状に限定されるものではない。また、以下の各図においては、各構成要素を図面で認識可能な程度の寸法とするため、該構成要素の縮尺を実際とは異ならせてある。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態にかかる圧電モーター1の平面視における概略を示す模式平面図である。図2は、図1のA−A’線における断面を示す、圧電モーター1の断面図である。図3は、本実施形態の第1の保持部21等を示す図である。図3(a)は、図1のB−B’線における断面を示す、圧電モーター1の断面図である。そして図3(b)は、図3(a)のC−C’線における断面を示す、第1の保持部21の断面図である。なお、図3(c)については後述する。
【0026】
図1、及び図2に示すように、圧電モーター1は、基台4と、ローター5と、少なくとも圧電体層50(後述する図4参照)と摺動部33と振動板31とを含む振動体10と、移動機構3と、を有している。移動機構3は、摺動部33を含む振動体10を、摺動部33がローター5の回転軸rからシフトする方向への移動することを許容するように保持する機構である。本実施形態の移動機構3は、付勢手段80と第1の保持部21と第1のガイドピン41と、第2のガイドピン42とで構成されている。
【0027】
第1のガイドピン41及び第2のガイドピン42は、基台4の一方の面上の第1の保持部21と重なる領域に配置されている。ローター5に近い方のピンが第1のガイドピン41であり、もう一方のピンが第2のガイドピン42である。上記双方のガイドピン(41,42)のうち、少なくとも第1のガイドピン41は断面が円形である。そして、ローター5の回転軸rと、第1のガイドピン41の中心と、第2のガイドピン42の中心と、は、同一線上に位置している。かかる、回転軸rと第1のガイドピン41の中心と第2のガイドピン42の中心とを結ぶ線が長軸77である。長軸77は、Y方向と平行である。そして、上記のA−A’線は長軸77と重なっている。
【0028】
ローター5は、基台4の一方の面に垂直な方向、すなわちZ方向の回転軸rを有する円盤状の部材であり、SUS440C等の硬度の高い材料で形成されている。そして、図2に示すように、外周に沿って断面が円弧状の凹部6が形成されている。そしてローター5は軸14を有しており、基台4に嵌合された軸受けピン13で回転可能に支持されている。図2に示すように、摺動部33は凹部6に当接している。
【0029】
付勢手段80は、ばね支持部81とY方向に延在する付勢ばね82とで構成されている。ばね支持部81は基台4に対して固定されており、付勢ばね82の一方の端部は、該ばね支持部に固定されている。そして付勢ばね82のもう一方の端部は、第1の保持部21のバネ受け部84に固定されている。付勢ばね82は一般的なコイルばねであり、図1及び図2に示す状態で、若干圧縮されている。したがって、上述の状態において、第1の保持部21にはローター5の方向への押し圧が加えられている。
【0030】
第1の保持部21はブロック状の部材であり、図3(a)に示すように、X方向における両側の肉厚の部分と、X方向における中央部の肉薄の部分と、を有している。そして上記肉厚の部分には、振動体10の支持部35が固定されている。なお、振動体10については後述する。
【0031】
第1の保持部21の上記肉薄の部分には、Y方向に延在する、第1のガイド溝43と第2のガイド溝44とが形成されている。本実施形態の第1の保持部21においては、双方のガイド溝(43,44)は第1の保持部21の基台4に対向する側に形成されている。なお、上記肉薄の部分を完全に貫通させて、「溝」ではなく「切り欠き」状とした態様も可能である。
【0032】
第1のガイド溝43は、幅(X方向の寸法)が一定である。一方、第2のガイド溝44の幅は、付勢手段80側に向かうにつれて広がっている。すなわち、第2のガイド溝44の幅は、所定の角度で広がっている。すなわち、第2のガイド溝44は平面視で略三角形である。本実施形態の第1の保持部21における上記角度は、略60である。
図示するように、第1のガイド溝43と第2のガイド溝44は連通している。したがって、ガイド溝のうち、幅が一定の部分が第1のガイド溝43であり、幅が変化する部分が第2のガイド溝44である。
【0033】
ここで、第1のガイド溝43の幅は、第1のガイドピン41の直径よりも若干大きく形成されている。したがって、第1の保持部21は、第1のガイド溝43に第1のガイドピン41が挿入された状態で、Y方向に移動可能である。なお、本実施形態における第2のガイド溝44は、側面(溝面)が(平面視で)直線で構成されており、開く角度が一定である。しかし、該側面を曲線で構成して、開く角度を変化させる態様も可能である。
【0034】
次に振動体10について説明する。図4は、振動体10の展開斜視図である。図示するように、振動体10は、振動板31と該振動板の両面に配置された一対の圧電素子30等で構成されている。圧電素子30は後述するように駆動電圧(具体的には交流電圧)の印加により振動する圧電体層50を含む部材であり、平面視で略矩形である。振動板31はSUS301からなる板状部材であり、圧電素子30と略同一の平面形状を有している。振動板31は、圧電素子30を補強する機能も果たしている。そして振動板31自体は振動しないが、圧電素子30と積層されているため、圧電素子30が振動すると振動板31も略同等に振動する。
なお、振動体10の構成は、上述の態様に限定されるものではない。例えば、振動板31のどちらか一方の面に1つの圧電素子30を配置する構成、すなわち圧電素子30を1つのみ有する構成の振動体10も可能である。
【0035】
振動体10は、支持部35と摺動部33とをさらに有している。支持部35は、振動板31の双方の長辺bから突き出している部材である。摺動部33は、振動板31の一方の短辺aから突き出している部材である。支持部35及び摺動部33は、振動板31と一体的に成型されている。すなわち、上記の3つの要素は、上述のSUS301の板材から、プレス加工、エッチング加工、切削加工、レーザー加工等の手法で一体的に成型されている。かかる一体的に形成された部材のうち、圧電素子30と重なる矩形の部分が振動板31である。
【0036】
圧電素子30及び振動板31は矩形であるため、短辺a方向と長辺b方向のそれぞれに中心線を有している。長辺b方向の中心線が、中心軸79である。摺動部33及び支持部35は、中心軸79に対して対称に形成されている。したがって、圧電素子30及び振動板31の中心軸79は、摺動部33の中心軸79であり、振動体10の中心軸79である。図1に示す状態において、中心軸79は長軸77と平面視で重なっている。したがって、中心軸79は、ローター5の回転軸rと交差している。
【0037】
支持部35は、中心軸79に略直交する方向に延在する腕状の部分と、該腕状の部分の先端に位置する略円形に広がった部分と、を有している。そして上述の略円形の部分には、貫通孔37が形成されている。図1〜図3に示すように、振動体10は、貫通孔37に挿通された固定ねじ36により、第1の保持部21に固定されている。すなわち、振動体10は、図3(b)に示すように、平面視で圧電素子30と振動板31の積層体から突き出した支持部35により、宙に浮いた状態で固定されている。したがって、駆動電圧の印加により圧電素子30が振動すると、振動体10は、上述の貫通孔37の近傍を除く全体が振動する。
【0038】
摺動部33は、上述したようにローター5(の凹部6)に当接されている。そして、振動体10を保持する第1の保持部21は、付勢手段80によりローター5の方向へ向けて付勢されているため、振動体10のローター5側の端部に位置する摺動部33は、所定の圧力でローター5に当接されている。したがって、振動体10が振動すると、該振動は摺動部33を介してローター5に伝達される。後述するように、圧電素子30に駆動電圧が印加されると、摺動部33は平面視で楕円軌道を描くように振動する。したがって、かかる振動が伝達されるローター5は、所定の速度で回転駆動される。ローター5が所定の速度で回転することで、図1等に示す構成が、圧電モーター1として機能する。
なお、摺動部33はアルミナ(Al23)等の高硬度材料を用いて別途形成した後、振動板31に接着することもできる。
【0039】
次に、圧電素子30及び摺動部33の振動方向等について説明する。図4に示すように、圧電素子30は、圧電体層50と、圧電体層50の振動板31側に設けられた第1電極55と、圧電体層50の第1電極55とは反対側に設けられた第2電極60と、を含んでいる。第1電極55は、圧電体層50の振動板31側の略全面に亘って形成されている一方、第2電極60は、第1の溝部63及び第2の溝部64によって、互いに電気的に隔離された5つの電極(第2電極60a〜60e)に分割されている。そして第1電極55は、かかる複数に分割された第2電極60(60a〜60e)に対する共通電極として機能している。
【0040】
圧電体層50は、電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層50としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。
【0041】
第1電極55と第2電極60との間に駆動電圧が印加されると、かかる圧電体層50は、電気機械変換作用により、振動板31と共に、面方向に振動する。そして本実施形態の圧電素子30は第2電極60が分割されているため、振動の方向を切り換えることができる。なお、「面方向」とは、振動板31が位置する面である。振動板31の厚さは略0.5mmと薄いため、「面」に近似できる。
【0042】
図5は、圧電素子30及び摺動部33の振動方向を示す図である。図示するように、圧電素子30の第2電極60は、第1の溝部63により短辺a方向に略三等分割されている。そして短辺a方向における両側の2つの電極は、第2の溝部64によって、さらに長辺b方向に略二等分割されている。上記の5つの第2電極60のうち、第2電極60cは縦振動用電極として機能する。そして第2電極60cの短辺a方向における両側に対をなすように形成された第2電極60aと第2電極60eは、第1屈曲振動用電極として機能する。また、第2電極60bと第2電極60dは第2屈曲振動用電極として機能する。
【0043】
図5(a)は、第2電極60a、第2電極60e、及び第2電極60cの3つの第2電極60と、共通電極である第1電極55との間に駆動電圧を印加した場合の、振動方向を示す図である。第2電極60a、第2電極60e、及び第2電極60cに対する駆動電圧の印加により、圧電素子30には、主に第2電極60cによって圧電素子30の長辺b(図4参照)の方向の略中心を中心に伸縮する縦一次振動が励振される。また、第2電極60aと第2電極60eに対する駆動電圧の印加により、圧電素子30の面内で縦一次振動と直交する方向、つまり圧電素子30の短辺a(図4参照)の方向に沿って屈曲する屈曲二次振動が励振される。圧電素子30は、かかる2つの振動を合成した振動が励振される。その結果、摺動部33は、平面視で右回りの楕円軌道R1を描くように振動する。本明細書では、かかる右回りの回転を「正回転(正転)」と称する。
【0044】
図5(b)は、逆方向の回転を示す図である。すなわち、第2電極60b、第2電極60d及び第2電極60cのみに選択的に駆動電圧を印加することにより得られる縦一次振動と、第2電極60bと第2電極60dによって得られる屈曲二次振動とを組み合せた振動を示す図である。かかる第2電極60に選択的に駆動電圧を印加することで、摺動部33は、平面視で左回りの楕円軌道R2を描くように振動する。本明細書では、かかる左回りの回転を「逆回転(逆転)」と称する。なお、摺動部33が正回転すなわち右回りに回転すると、ローター5は左回りに回転する。摺動部33が逆回転すなわち左回りに回転すると、ローター5は右回りに回転する。
【0045】
このように、本実施形態の振動体10が有する摺動部33は上述の双方向の回転が可能である。したがって、摺動部33に駆動されるローター5も双方向の回転が可能である。ここで、ローター5と摺動部33の位置関係について述べる。図5に示すように、摺動部33は、振動板31の長辺bに対して斜めに傾いた楕円軌道を描くように振動する。そして、摺動部33の駆動力は、かかる楕円軌道の長軸に平行な接線方向で最大となる。したがって、圧電モーターの駆動効率、すなわち駆動電圧に対する駆動力の比を向上するためには、摺動部33におけるローター5と当接する位置を、頂点すなわち中心軸79上の点から左右どちらかにシフトさせる必要がある。すなわち、摺動部33の中心軸79を、ローター5の回転軸rからシフトさせることが好ましい。本実施形態の圧電モーター1は、移動機構3を用いることで、摺動部33をシフトさせることを可能にしている。すなわち、摺動部33の中心軸79を回転軸rからシフトさせて摺動部33がローター5に当接する位置を調整し、正回転と逆回転の双方を好適な条件で行うことを可能にしている。
【0046】
図6は、本実施形態における第1の保持部21の移動を示す図である。すなわち、本実施形態の圧電モーター1において、摺動部33の中心軸79を回転軸rからシフトさせて、摺動部33におけるローター5と当接する位置を、該摺動部の回転方向に合せて調整する仕組みを説明する図である。以下、本図、及び図3(c)を用いて、上述の仕組みを説明する。
【0047】
図6(a)は、圧電素子30に駆動電圧が印加されず、振動体10が振動していない状態を示している。摺動部33の中心軸79とローター5の回転軸rとは、交差している。したがって摺動部33は、頂点すなわち中心軸79上の点で、ローター5に当接している。そしてかかる状態においても、第1の保持部21(図1等参照)には、付勢手段80(図1等参照)による付勢力85が印加されている。したがって振動体10には、ローター5の方向への押し圧が加えられている。以下、上述の「ローター5の方向」、すなわち振動体10とローター5との距離を調節する方向を、ローター方向71と定義する。
【0048】
図6(b)は、圧電素子30の、第2電極60a、第2電極60e、及び第2電極60cの3つの第2電極60と、第1電極55との間に駆動電圧が印加され、摺動部33が正回転、すなわち右回りの楕円軌道R1を描く振動を開始した状態を示す図である。摺動部33がローター5に当接した状態でかかる振動を開始することで、摺動部33、該摺動部を含む振動体10、及び該振動体を保持する第1の保持部21には、右回りに回転させる向きの力が働く。ここで、振動体10の中心軸79を、平面視で回転軸rの左右どちらかにシフトさせる方向を、シフト方向72と定義する。シフト方向72は、直線方向であるローター方向71とは異なり、角度方向である。ただし、(後述するように)本実施形態の振動体10は上述のローター方向71に移動しつつシフト方向72にシフト(移動)するため、シフト方向72の中心点は定義できない。
【0049】
このように、本実施形態の圧電モーター1においては、駆動電圧が印加されない状態において、振動体10保持する第1の保持部21には、付勢力85が印加されている。そして、圧電素子30に駆動電圧が印加されて、摺動部33が正回転すなわち右回りの楕円軌道R1を描く振動を開始した場合、振動体10及び該振動体を保持する第1の保持部21には、シフト方向72において中心軸79を平面視で右回りに(右側に)シフトさせる向きの力が加わる。そして、本実施形態の第1の保持部21は基台4に配置された2本のガイドピン(41,42)に対して摺動可能に配置されている。したがって、上記双方の力により、第1の保持部21及び該保持部に保持される振動体10は、摺動部33がローター5に当接する状態を保ちつつ、ローター方向71とシフト方向72に移動する。
【0050】
ここで、第2のガイドピン42と第2のガイド溝44は、シフト方向72への移動の角度を制御する機能を果たしている。上述したように、第2のガイド溝44は、平面視で略60度の角度で開いている。したがって、シフト方向72への移動すなわちシフトする角度は、右回りと左回りの双方で略30度以内に抑えられている。
【0051】
図6(c)は、第1の保持部21がローター方向71及びシフト方向72に移動した場合における、振動体10及び摺動部33を示す図である。振動体10は、ローター方向71に、ローター5との間隔を縮小するように移動している。かかる振動体10の移動距離が、移動距離73である。同時に、振動体10は、シフト方向72において、中心軸79を回転軸rの右側にシフトする向きにシフトしている。かかる振動体10のシフト方向72への移動の角度が、シフト角度74である。かかる振動体10の移動の結果、摺動部33におけるローター5に当接する位置が中心軸79から左側にシフトされている。そして、摺動部33の描く正回転の楕円軌道R1の接線方向とローター5の外周線における、摺動部33が当接する位置の接線方向とは略一致している。
【0052】
図3(c)は、第1の保持部21が、図3(b)示す状態から、ローター方向71において移動距離73だけローター5に近づき、かつシフト方向72においてシフト角度74だけシフトされた状態を示す図である。上述したように、第1のガイドピン41の断面形状は円形であり、第1のガイド溝43の幅は、第1のガイドピン41の直径よりも若干大きい。したがって、第1のガイド溝43内に第1のガイドピン41が収まった状態でローター方向71へ移動する。そして、第2のガイドピン42を中心にシフト方向72へ右回りに回転する。このように第1の保持部21が移動する結果、該保持部に保持される振動体10が有する摺動部33の中心軸79は、図6(c)に示すようにシフト方向72において右回りにシフトする。
【0053】
図7は、第1の保持部21及び振動体10が上述したように移動した場合における、圧電モーター1を示す図である。このように、第1の保持部21及び該保持部に保持される振動体10が、ローター方向71に移動距離73として示す距離だけ移動している。また、シフト方向72にシフト角度74として示す角度だけシフトしている。その結果、摺動部33が好適な状態でローター5に当接している。なお、かかる状態において、付勢ばね82は若干曲がっている。しかし付勢ばね82はコイルばねであるため、かかる状態でも付勢力85(図6参照)を充分に発揮できる。
【0054】
摺動部33の回転方向の切り換え時における第1の保持部21の移動は、以下のように行われる。まず、駆動電圧が印加される電極が、第2電極60b、第2電極60d及び第2電極60cに切り換えられると、摺動部33は、逆回転すなわち左回りの楕円軌道R2(図5参照)を描く振動を開始する。その結果、摺動部33及び該摺動部を有する振動体10には、ローター方向71とシフト方向72の双方の方向において、右回りの楕円軌道R1を描く振動をしていたときと反対の向きに移動させる力が加わる。かかる力により、まず振動体10及び該振動体を有する第1の保持部21は、図1に示す位置まで押し戻される。そしてさらに、中心軸79が回転軸rに対して左回りにシフトするまで、第1の保持部21がシフト方向72に移動する。また、第1の保持部21は、ローター方向71へローター5との間隔を縮小する向きに移動する。その結果、図7に示す状態から長軸77を中心に反転させた状態となる。その結果、摺動部33が逆回転R2を描くように振動する場合においても、圧電モーター1は好適な状態で駆動される。
【0055】
<本実施形態の効果>
このように、本実施形態の圧電モーター1は、正回転と逆回転の双方を、摺動部33を好適な位置でローター5に当接させた状態、すなわち楕円軌道(R1,R2)の接線方向と、当接位置におけるローター5の外周線の接線方向と、が略一致した状態で行うことができる。どちらの方向の回転も、上記双方の接線方向が略一致した状態で行えるため駆動電圧を有効に駆動力に変換でき、駆動効率が向上している。したがって、本実施形態の圧電モーター1は、どちらの方向の回転も、回転方向が単一の圧電モーターと略同等の効率で行うことができる。したがって、正回転と逆回転が切り換え可能なモーターにおいて、ダイナミックな駆動が可能となる。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図8〜図11の各図を用いて説明する。図8は、本実施形態にかかる圧電モーター2の平面視における概略を示す模式平面図である。図9は、図8のD−D’線における断面を示す、圧電モーター2の断面図である。図10は、本実施形態の第2の保持部22等を示す図である。図11は、本実施形態における第2の保持部22及び振動体10が、ローター方向71とシフト方向72に移動した状態の圧電モーター2を示す図である。
【0057】
本実施形態の圧電モーター2は、移動機構3、特に移動機構3に含まれる保持部とガイドピンに特徴がある。振動体10については、第1の実施形態の圧電モーター1が有する振動体10と共通である。したがって、振動体10の構成要素である振動板31、圧電素子30、支持部35及び摺動部33についても、第1の実施形態における該構成要素と略同一である。そこで、上記各要素についての説明は、上述した図4及び図5を用いて行う。また、ローター方向71及びシフト方向72等の説明は、上述した図6を用いて行う。
【0058】
図8及び図9に示すように、本実施形態の圧電モーター2は、第1の実施形態の圧電モーター1と同様に、基台4とローター5と、振動体10と、移動機構3と、を有している。本実施形態の移動機構3は、付勢手段80と第2の保持部22と第3のガイドピン47で構成されている。そして第2の保持部22は、ガイド孔48と、ストッパーとしての位置決めピン49を有している。
【0059】
ローター5は、第1の実施形態におけるローター5と同一である。すなわち、基台4の一方の面に垂直な方向の回転軸rを有し、外周に沿って断面が円弧状の凹部6を有する円盤状の部材である。そして、軸14を有しており、基台4に嵌合された軸受けピン13で回転可能に支持されている。付勢手段80も、第1の実施形態における付勢手段80と同一である。すなわち、基台4に対して固定されたばね支持部81と、一方の端部が該ばね支持部に固定され、もう一方の端部が第2の保持部22のバネ受け部84に固定された付勢ばね82と、で構成されている。第2の保持部22には、かかる付勢手段80により、ローター5の方向すなわちローター方向71(後述する図11参照)への押し圧が加えられている。
【0060】
図10は、本実施形態の第2の保持部22を示す図である。図10(a)は、第2の保持部22の、図8のE−E’線における断面を示す図である。そして図10(b)は、第2の保持部22における図10(a)のF−F’線における断面を示す図である。本実施形態の第2の保持部22は、上部保持部25と下部保持部24とで構成されている。上部保持部25は振動体10を保持しており、下部保持部24は基台4の一方の面上に摺動可能に配置されている。なお、バネ受け部84は、下部保持部24に形成されている。
【0061】
下部保持部24は、X方向における中央に、Y方向に延在する肉厚部を有している。そしてかかる肉厚部の両側に、長軸77方向に延在する肉薄部を有している。そして該肉厚部の中央近傍には、上部保持部25を回転可能に支持する軸としての第2の軸18と該第2の軸を支持する第2の軸受けピン17が配置されている。
【0062】
肉薄部には、Y方向に延在する長孔であるガイド孔48が形成されている。そして、ガイド孔48を介して計4本の第3のガイドピン47が基台4に嵌合されている。ここで、第3のガイドピン47の径は、ガイド孔48の幅すなわちX方向の寸法よりも若干小さい。したがって、下部保持部24は基台4上において長軸77方向に摺動可能に保持されている。
なお、第3のガイドピン47の本数は4本に限定されるものではない。左右どちらかのガイド孔48に対して2本配置されていれば、もう一方のガイド孔48に対しては、1本でも機能を果たすことができる。また、第3のガイドピン47の断面形状は円形に限定されるものではなく、矩形、あるいはその他の形状とすることもできる。
【0063】
ここで、上述したように下部保持部24にはバネ受け部84が形成されているため、下部保持部24には、ローター方向71への押し圧が常に印加されている。したがって、下部保持部24は、上部保持部25に保持される振動体10の摺動部33がローター5に当接される状態を保ちつつ、ローター方向71に移動可能である。
【0064】
上部保持部25は、上述したように、下部保持部24に配置された第2の軸18により回転可能に支持されている。したがって、上部保持部25及び該上部保持部に支持される振動体10は、シフト方向72にシフト可能である。そして下部保持部24には、かかるシフト方向72の移動すなわち上部保持部25の回転を所定の範囲内(角度内)に抑制するためのストッパーとしての位置決めピン49が配置されている。位置決めピン49を配置する位置、そして該位置決めピンにより制限する上部保持部25の回転の角度は、任意に定めることができる。したがって、振動体10及び摺動部33の形状等を考慮して、ローター5が最適な条件で駆動されるように、上記角度を定めることができる。本実施形態の第2の保持部22では、かかる角度が左右各30度となるように、位置決めピン49が配置されている。
【0065】
振動体10は、第1の実施形態の振動体10と同様に、振動可能に支持されている。上部保持部25は、X方向に置ける両側に肉厚部を有している。振動体10は、第1の実施形態の振動体10と同様に、支持部35の端部に形成された貫通孔37に挿通された固定ねじ36により、肉厚部に固定されている。ここで、上記の肉厚部の厚さは、支持した振動体10が第2の軸18と干渉しないように設定されている。したがって、振動体10は宙に浮いた状態で支持されている。駆動電圧の印加により圧電素子30が振動すると、振動体10は第2の軸18に妨げられることなく振動する。
【0066】
このように、本実施形態の移動機構3が有する第2の保持部22は、ローター方向71に移動可能な下部保持部24と、シフト方向72に移動可能な上部保持部25と、で構成されている。したがって、摺動部33が図5に示すように楕円軌道(R1,R2)を描くように振動すると、上記楕円の長軸方向の接線の方向とローター5における摺動部33が当接する位置の接線方向とが略一致するように、振動体10の中心軸79をローター5の回転軸rに対してシフトできる。同時に、下部保持部24がローター方向71に移動して、第2の保持部22とローター5との間隔を縮小できる。その結果、振動体10がシフト方向72にシフトしても、摺動部33はローター5に所定の圧力で当接される。
【0067】
図11は、摺動部33が正回転R1を描くように振動して、下部保持部24がローター方向71に移動し、かつ上部保持部25がシフト方向72に移動した状態の圧電モーター2を示す図である。上述の図6及び図7と同様に、図11では、ローター方向71への移動距離を移動距離73として図示し、シフト方向72への移動角度をシフト角度74として図示している。なお、本実施形態の圧電モーター2におけるシフト角度74は、略30度である。
【0068】
このように本実施形態の圧電モーター2では、振動体10(の中心軸79)がシフト方向72に移動可能であるため、正回転R1の接線方向と摺動部33が当接する位置におけるローター5の接線方向とを略一致させることができる。そして、付勢手段80による付勢力85(図6参照)により、振動体10がローター方向71に移動可能であるため、摺動部33がローター5に当接する際の圧力も、好適な値に保たれている。したがって、本実施形態の圧電モーター2は、第1の実施形態の圧電モーター1と同様にローター5が好適な状態で駆動されており、駆動効率が向上している。
なお、本実施形態の圧電モーター2も、摺動部33が逆回転R2を描くように振動した場合、第1の実施形態の圧電モーター1と同様に、図11に示す状態から長軸77を中心に反転させた状態となる。
【0069】
<本実施形態の効果>
このように、本実施形態の圧電モーター2は、第1の実施形態の圧電モーター1と同様に、正回転と逆回転の双方を、摺動部33を好適な位置でローター5に当接させた状態、すなわち楕円軌道(R1,R2)の接線方向と、当接位置におけるローター5の外周線の接線方向と、が略一致した状態で行うことができる。そのため、正回転と逆回転が切り換え可能な圧電モーターにおいて高い駆動効率を実現できる。したがって、正回転と逆回転が切り換え可能なモーターにおいて、ダイナミックな駆動が可能となる。
【0070】
そして本実施形態の圧電モーター2は、シフト方向72の移動の範囲を位置決めピン49により制御している。かかる位置決めピン49は、配置位置の変更が容易である。したがって、例えば摺動部33の形状変更等の駆動条件の変更に合せて、シフト方向72の移動範囲、すなわちシフト角度を変更することが容易である。
【0071】
また、本実施形態の移動機構3が有する第2の保持部22は、付勢ばね82を固定するばね受け部84が下部保持部24に配置されており、該下部保持部24はシフトしない。したがって、振動体10及び摺動部33がローター5の回転軸rからシフトしても、付勢ばね82は直線状に保たれている。すなわち、付勢ばね82が曲がることを考慮する必要がない。そのため、付勢ばね82の長さを短縮でき、圧電モーターを小型化できる。
【0072】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態として、第1の実施形態にかかる圧電モーター1又は第2の実施形態にかかる圧電モーター2の、いずれかと同様の構成の圧電モーターを有するロボットハンド、及び該ロボットハンドを有したロボットについて、図14〜図16を用いて説明する。
【0073】
図14は、ロボットハンド(201,202)を有した、本発明の第3の実施形態にかかるロボット200の概略を示す図である。ロボット200は第1のアーム240と第2のアーム250を有しており、夫々のアーム(240,250)の先端には、第1のロボットハンド201と第2のロボットハンド202が配置されている。第1のロボットハンド201と第2のロボットハンド202とは、互いに略同一の構成を有している。そこで、以降、第1のロボットハンド201(以下、単に「ロボットハンド201」と称する。)についてのみ説明する。
【0074】
図15は、本発明の第3の実施形態にかかるロボットハンド201の概略を示す図である。図15(a)、図15(b)に示すように、ロボットハンド201は、手のひら225と、第1の指210と第2の指220を有している。第1の指210は第1のリンク211と第2のリンク212で構成され、第2の指220は第1のリンク221と第2のリンク222で構成されている。そしてロボットハンド201は、把持するワークの大小により使用するリンク変更可能である。
【0075】
図15(a)は、ロボットハンド201が大型ワーク233を把持している状態を示している。大型ワーク233は、第1の指210の第1のリンク211と、第2の指220の第1のリンク221と、で把持されている。そして、第1の指210の第2のリンク212は第1のリンク211の中に格納され、第2の指220の第2のリンク222は第1のリンク221の中に格納されている。
【0076】
図15(b)は、ロボットハンド201が小型ワーク234を把持している状態を示している。小型ワーク234は、第1の指210の第2のリンク212と第2の指220の第2のリンク222とで把持されている。
このように、ロボットハンド201は把持するワークにより使用するリンクを変更することで、夫々のワーク(233,234)を好適に把持できる。そしてロボットハンド201は、ワークの把持及び第2のリンク(212,222)の格納等のために複数の駆動機構としての圧電モーターを有している。
【0077】
図16(a)〜(d)は、ロボットハンド201が有する第1の指210の概略を示す図である。なお、第2の指220も同一の構成を有している。図16(a)は、第2のリンク212が、第1のリンク211に形成された溝226(図16(d)参照)内に格納された状態を示している。図16(b)は、第2のリンク212が第1のリンク211から取り出される途中の状態を示している。図16(c)は、第2のリンク212が第1のリンク211から取り出された状態を示している。
【0078】
かかる動作は第2の関節(中心軸)215を中心に行われる。そして第1のリンク211の開閉動作は第1の関節(中心軸)213を中心に行われる。そして各関節(213,215)には、駆動用のアクチュエーターとして、第1の実施形態にかかる圧電モーター1又は第2の実施形態にかかる圧電モーター2の、いずれかと同様の構成を有する第3の圧電モーター214及び第4の圧電モーター216が配置されている。
上述したように、第2のリンク212は、小型ワーク234を把持するリンクである。したがって第4の圧電モーター216には、第3の圧電モーター214に比べて小型かつ低駆動力の圧電モーターを用いることができる。
【0079】
このようにロボットハンド201は、把持動作を行うためのアクチュエーターとして、第1の実施形態の圧電モーター1等と同様の構成の圧電モーター(214,216)を用いている。上述したように、第1の実施形態の圧電モーター1等は、駆動効率が向上しているため、同一の作業の実施に要する電力を節減できる。また、駆動効率が高いということは、同一のトルク等を発揮する圧電モーターを小型化できるということである。したがって、本実施形態のロボットハンド201、及び該ロボットハンドを有するロボット200は、小型化、軽量化され、かつ低コスト化されている。そしてロボット200は、同一の作業を、他のロボットに比べて低電力すなわち低コストで実施できる。
【0080】
なお、ロボットハンド(201,202)のみではなく、第1のアーム240及び第2のアーム250を駆動するためのアクチュエーターとしても、第1の実施形態にかかる圧電モーター1等と同様の構成を有する圧電モーターを用いることができる。
また、圧電モーターを上述のようにロボットハンドの把持動作を行うためのアクチュエーターとして用いる場合、歯車等の増減速手段を介して用いることが好ましい。一般に、圧電モーターの回転数はかなり速いため、リンク(第1のリンク211等)の動きに合せて、回転数の減速を要する場合もあり得る。また一方では、回転数の増速を要する場合もあり得る。かかる場合において、圧電モーターを歯車等の増減速手段を介して用いることで、多様な動作を行うロボットハンドのアクチュエーターとして、圧電モーターを好適に利用できる。
【0081】
本発明の実施の形態は、上述の各実施形態以外にも様々な変形例が考えられる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0082】
(変形例1)
上述の第1の実施形態及び第2の実施形態では、圧電アクチュエーターとして、被駆動部として回転軸rを有するローター5を有する圧電モーター(1,2)を例に説明した。しかし、本発明の実施の形態はかかる構成に限定されるものではなく、回転軸を有さない被駆動部を用いた圧電アクチュエーターの形態も可能である。
【0083】
図12は、変形例1として、直線方向に移動可能なスライド部材9を用いた圧電アクチュエーターを示している。図12(a)は、圧電素子30に駆動電圧が印加されず、摺動部33が楕円軌道を描く振動をしていない状態を示す図である。図12(b)は、摺動部33が正回転R1を描くように振動している状態を示す図である。図12(c)は、摺動部33が逆回転R2を描くように振動している状態を示す図である。
【0084】
なお、本変形例の圧電アクチュエーターは、上述の第1の実施形態の第1の保持部21、又は第2の実施形態の第2の保持部22を有しているが、本図では図示を省略している。また、付勢手段80(図1等参照)は図示を省略し、振動体10及び圧電素子30についても、摺動部33の近辺の一部のみを図示している。
【0085】
被駆動部が回転軸を有さないスライド部材9の場合であっても、摺動部33が該スライド部材に当接された状態で回転すると、振動体10には、中心軸79をシフトさせる方向の力が加わる。かかる場合において、振動体10を保持する保持部に上述の第1の実施形態の第1の保持部21、又は第2の実施形態にかかる第2の保持部22を用いた場合、図12(b)及び図12(c)に示すように、振動体10を、中心軸79がシフトするように移動させることができる。
【0086】
すなわち、上述の保持部(21,22)を用いた場合において、摺動部33が正回転R1を描くように振動させてスライド部材9を矢印の方向に移動させる場合、図12(b)に示すように中心軸79をシフト方向72において右回りにシフトさせることができる。同様に、摺動部33が逆回転R2を描くように振動させてスライド部材9を矢印の方向に移動させる場合、図12(c)に示すように中心軸79をシフト方向72において左回りにシフトさせることができる。
【0087】
このように、上述の保持部(21,22)を用いた場合摺動部33の回転方向に合せて振動体10の中心軸79をシフトさせることができる。その結果、スライド部材9の延在方向と摺動部33の回転時の接線方向との角度差が低減される。したがって、振動体10及び摺動部33はスライド部材9を効率的に駆動でき、圧電アクチュエーターの駆動効率を向上できる。
【0088】
(変形例2)
上述の第1実施形態においては、第1の保持部21の第2のガイド溝44が開く角度は固定されていた。しかし、本発明の実施の形態はかかる構成に限定されるものではなく、上記の角度を可変とすることもできる。図13は、変形例2にかかる、第2のガイド溝44が開く角度が可変の保持部23を示す図である。図13(a)は保持部23をY方向から見た状態を示す図である。そして図13(b)及び図13(c)は、図13(a)のG−G’線における断面を基台4(図1等参照)から見た状態を示す図である。
【0089】
図示するように、本変形例の保持部23は、第1のガイド溝43、第2のガイド溝44、そしてばね受け部84等を有する点で、第1の実施形態にかかる第1の保持部21と共通している。そして、第2のガイド溝44が、可変部材であるガイド部材45で構成されている点で、上記の第1の保持部21とは異なっている。ガイド部材45は第1のガイド溝43と連通する部分にガイド軸46を有しており、該ガイド軸により所定の範囲で、幅、すなわち開く角度を変えることができる。図13(b)は上記角度を狭くした状態を示す図であり、図13(c)は上記角度を広くした状態を示す図である。
【0090】
このように、本変形例の保持部23は第2のガイド溝44をガイド軸46と可変部材であるガイド部材45とで構成しているため、該第2のガイド溝の角度を任意に調整できる。したがって、摺動部33の形状等に合せて、シフト方向72(図6等参照)のシフト角度74(図6等参照)を任意に制御できる。そのため、圧電モーター(圧電アクチュエーター)の駆動効率を、より一層向上させることができる。
【0091】
(変形例3)
上述の第3の実施形態では、上述の第1の実施形態にかかる圧電モーター1、あるいは上述の第2の実施形態にかかる圧電モーター2を用いる機器として、ロボットハンド201及び該ロボットハンドを用いるロボット200について述べた。しかし、上述の圧電モーター(1,2)を用いる機器は、ロボット200に限定される物ではない。時計のカレンダー送り装置、ICハンドラー、印刷装置、投薬ポンプ等の各種の機器におけるアクチュエーターとして用いることができる。
【符号の説明】
【0092】
1…第1の実施形態にかかる圧電モーター、2…第2の実施形態にかかる圧電モーター、3…移動機構、4…基台、5…ローター、6…凹部、9…スライド部材、10…振動体、13…軸受けピン、14…軸、17…第2の軸受けピン、18…軸としての第2の軸、21…第1の保持部、22…第2の保持部、23…変形例2にかかる保持部、24…下部保持部、25…上部保持部、30…圧電素子、31…振動板、33…摺動部、35…支持部、36…固定ねじ、37…貫通孔、41…第1のガイドピン、42…第2のガイドピン、43…第1のガイド溝、44…第2のガイド溝、45…ガイド部材、46…ガイド軸、47…第3のガイドピン、48…ガイド孔、49…ストッパーとしての位置決めピン、50…圧電体層、55…第1電極、60…第2電極、63…第1の溝部、64…第2の溝部、71…ローター方向、72…シフト方向、77…長軸、79…中心軸、80…付勢手段、81…ばね支持部、82…付勢ばね、84…バネ受け部、85…付勢力、200…ロボット、201…第1のロボットハンド、202…第2のロボットハンド、210…第1の指、211…第1のリンク、212…第2のリンク、213…第1の関節、214…第3の圧電モーター、215…第2の関節、216…第4の圧電モーター、220…第2の指、221…第1のリンク、222…第2のリンク、225…手のひら、226…溝、233…大型ワーク、234…小型ワーク、240…第1のアーム、250…第2のアーム、a…短辺、b…長辺、r…回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するローターと、
前記ローターに当接する摺動部と、
前記摺動部に楕円振動を励起する圧電素子と、
前記圧電素子に積層された振動板と、
前記摺動部の中心軸を、前記回転軸に垂直な面方向において、前記楕円振動の回転方向に応じて、前記回転軸と交差する状態からシフトすることを許容する移動機構と、を少なくとも有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記移動機構は、前記振動板を前記ローターの方向へ付勢する付勢手段を有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項2に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記ローターを支持する基台を有し、
前記移動機構は、
前記基台に配置された第1のガイドピンと、
前記回転軸と前記第1のガイドピンの中心とを結ぶ線上に中心が位置するように配置された第2のガイドピンと、
前記振動板を保持する部材であり、前記基台に対向する側に、前記第1のガイドピンが摺動可能な幅を有する第1のガイド溝と、前記第1のガイド溝に連通しかつ前記回転軸から離れるにつれて幅が広がる第2のガイド溝と、を有する第1の保持部と、
をさらに有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項4】
請求項3に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記第2のガイド溝の幅は、前記第1のガイドピンと前記回転軸を結ぶ線を中心として左右各30度の角度で広がっていることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項5】
請求項2に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記ローターを支持する基台を有し、
前記移動機構は、
前記ローターの方向を長手方向とするガイド孔を有し、前記基台と対向する下部保持部と、前記振動板を保持し前記下部保持部に軸を介して回転可能に支持された上部保持部と、を有する第2の保持部と、
前記下部保持部を前記ガイド孔を介して前記基台に摺動可能に支持する第3のガイドピンと、
をさらに有することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記下部保持部には、前記上部保持部のシフト方向の移動を、前記長手方向を中心に左右各30度の範囲に制限するストッパーが配置されていることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とするロボットハンド。
【請求項8】
請求項7に記載のロボットハンドを備えたことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−210050(P2012−210050A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73557(P2011−73557)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】