圧電アクチュエータ及びそれを用いた電子機器
【課題】圧電素子の急速変形によりそれと接する移動体を摩擦駆動するアクチュエータに関し、特に、駆動効率が高く、小型、低消費電力で大出力が得られる圧電アクチュエータを得る。
【解決手段】圧電アクチュエータ200は、往復変位する圧電素子駆動部と、圧電素子駆動部の支持部近傍に設けられたバランス部とで構成された振動子25と、圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体7と、からなり、圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体7を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ200とする。
【解決手段】圧電アクチュエータ200は、往復変位する圧電素子駆動部と、圧電素子駆動部の支持部近傍に設けられたバランス部とで構成された振動子25と、圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体7と、からなり、圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体7を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ200とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子の振動により移動体を摩擦駆動する圧電アクチュエータ、及びそれを応用した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化が進み、そこで用いられるアクチュエータの小型化が要求されている。このアクチュエータの代表例は電磁型のモータであり、その出力を減速歯車列等を介して稼働部材の駆動力に変換する方式が古くから一般に行われている。
【0003】
しかしながら、電磁型のモータは小型化が難しいばかりでなく、小型化してもトルクが極めて弱くなってしまうため、その分だけ減速歯車列が必要となり機構自体の大きさは、小さくするのが難しかった。
【0004】
そこで、新原理のアクチュエータの開発も盛んに行われており、小型で発生力の大きな圧電素子を用いたものにも期待が掛かっている。例えば移動体と、これを移動可能にガイドする軸との間に摩擦力を生じさせておき、軸の先端に設けた圧電素子を急速に変形させた際に生じる移動体の慣性力により移動体を稼働する方式が開発され、カメラのズーム機構やオートフォーカス機構への応用も試みられている(特許文献1、2)。
【0005】
また、一端が固定部材に固定された圧電素子と、圧電素子と加圧接触する移動体とで構成され、圧電素子の第一の方向の変位の加速度もしくは速度と、第二の方向の変位の加速度もしくは速度とが異なるように変位させることで移動体を駆動する方式が検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−247967号公報
【特許文献2】特開平11−265212号公報
【特許文献3】特開2005−210888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示したものの動作は直動動作に限られるため、応用する機器に制限を与えてしまった。この場合、稼働部材をダイレクトに稼働させることが出きるというメリットはあるが、その発生力は小さいと共に、アクチュエータを搭載する機器に落下や振動が生じた場合、稼働部が動いてしまう恐れが有った。
【0008】
そして、特許文献1、2ともに移動体と軸、あるいは移動体と圧電素子との間の接触部で摺動ロスを発生したり、圧電素子の支持部での振動漏れが発生することにより駆動効率が低く、大きな消費電力を必要とするという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、駆動効率が高く、小型で低消費電力、大出力が得られる圧電アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の圧電アクチュエータは、往復変位する圧電素子駆動部と、圧電素子駆動部の支持部近傍に設けられたバランス部とで構成された振動子と、圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体と、からなり、圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータとする。
【0011】
特に、バランス部は圧電素子からなり、圧電素子駆動部の変位の方向とバランス部の変位の方向は、支持部を基準にして反対方向であることを特徴とする。
【0012】
別の例としては圧電素子と、圧電素子の一端に固定されたガイド軸と、ガイド軸に接する移動体と、圧電素子の他端に設けられた重りと、を有し、圧電素子の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータとする。
【0013】
これらによれば、圧電素子駆動部が急速に変形しても、振動子の重心は変化しないから支持部での振動のロスがなく、圧電アクチュエータの駆動効率は向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば圧電素子を非共振状態で駆動できるため消費電流が小さく、また、簡易な構成の駆動回路で駆動できる圧電アクチュエータが実現できる。しかも、圧電素子の支持部での振動漏れがないため駆動効率が高く小型で高出力の圧電アクチュエータが実現できる。
【0015】
そして、移動体により稼動部材を駆動することで、電子機器の小型化、低消費電力化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン1と、その際の 摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図3】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン2と、その際の摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図4】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン3と、その際の摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4の圧電アクチュエータの振動子の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態5の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態6の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態6の圧電アクチュエータの摩擦部の別な例を示す図である。
【図11】本発明の圧電アクチュエータを搭載した電子機器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面を基に説明する。
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1の圧電アクチュエータ100の構成を、図1(b)は圧電アクチュエータ100に使用されている振動子20の構成を示した図(変形図)である。
【0018】
本発明の圧電アクチュエータ100は、支持部材4と、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2から構成され、支持部材4に一端を固定された振動子20と、振動子20の他端に設けられた摩擦部3と、摩擦部3と接する移動体7と、摩擦部3と移動体7の間の接触圧を発生させる加圧ばね6と、支持部材4の移動を案内する案内部材5とで構成されている。
【0019】
振動子20は直方体形状であり、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2を接着することにより一体的に構成されている。接着剤を用いずに、第一の圧電素子1と、第二の圧電素子2とを同一の圧電素子内に構成されるように一体的に焼結されたものでも良い。第一の圧電素子1は矢印51の方向に分極処理されており、矢印51と直交する方向の端面に設けられた電極8,9間に電圧を印加すると、図中x軸方向へせん断変形を行うことで、移動体7の移動方向(摩擦部3と移動体7との接触圧方向と直交する方向)への変位を発生する。第二の圧電素子2は矢印52の方向に分極処理されており、矢印52の方向の端面に設けられた電極9,10間に電圧を印加すると、y軸方向へ伸縮変形を行うことで摩擦部3と移動体7との接触圧方向への変位を発生する。
【0020】
移動体7は、移動体7の回転中心に設けた軸7aを、図示しない軸受けにより案内することにより回転する。案内部材5は二つのガイド面5a,5bに図示しない溝部を有し、溝部は支持部材4の側面4a,4bと係合することで、支持部材4が加圧ばね6の加圧力を受け、移動体7の方向に移動する為の案内となる。摩擦部3は耐磨耗性に優れたエンジニヤリングプラスチックやアルミナ等のエンジニヤリングセラミクス等から出来ており、接着剤により圧電素子11に接合されている。しかしながら、圧電素子1の表面自体を摩擦部3としても良いし、コーティング等によって摩擦部3を形成しても構わない。
【0021】
ここで、支持部材4は重量の重い真鍮等の金属からできており圧電素子1,2の急速な変形に対するカウンターウエイトとして働く。そして、案内部材5は圧電素子1の変形による支持部材4のx方向の動きを規制し、加圧ばね6は圧電素子2の変形による支持部材4のy方向の動きを規制することを助けることが可能となるから圧電素子1,2の動作は効率良く移動体7の動作に変換される。
【0022】
次に振動子20の動作を具体的に説明する。図2、3,4は圧電素子1,2へ印加する駆動信号E1,E2のパターンの例(パターン1,2,3)と、これに対応して動作する摩擦部3の動作の様子を示したものである。それぞれ図(b)は横軸に時間を、縦軸に電圧レベルをとって、第一の圧電素子1への印加信号E1、第二の圧電素子2への印加信号E2の変化を示している。図(a)は、変位の方向を指す矢印と変位のスピードを表す言葉でこの駆動信号に対する摩擦部3の動作の様子を示している。
【0023】
図2において、第一の圧電素子1、第二の圧電素子2には同一波形形状の駆動信号が印加される。ゆっくりと電圧が増加する期間P1に続いて急速に電圧が減少する期間P2を繰り返す。期間P1では、摩擦部3はゆっくりとx軸+方向に動作すると共に、Y軸+方向に動作するため、これと接する移動体7もこの動作にならって移動する(A1)。期間P2では急速にx軸−方向に動作すると共に、Y軸−方向に動作する(A2)。このとき、摩擦部3と移動体7との接触は離れるから、摩擦部3の動作は移動体7には伝わらない。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の動作は、第一の圧電素子1による移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と、第二の圧電素子2による移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を速くして、第一の圧電素子1による移動体7の移動方向(x軸方向)の動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な(逆方向の)駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。そして、このように第一の圧電素子1、第二の圧電素子2に印加する駆動信号を同一波形形状とすることにより図示しない駆動回路の構成が簡単になる。ところで、移動体7を時計回りに回転させる際には図2(c)に示した様に、駆動信号E1もしくはE2の電圧の変化(電圧を急激に変化させる過程と、緩やかに変化させる過程の順序を逆にすれば良い。
【0024】
図3、4については図2との差のみを説明する。図3において、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2にはそれぞれ位相が90度ずれた駆動信号が印加される。期間P1においては第二の圧電素子2にのみ緩やかに電圧が増加する駆動信号E1が入力され、摩擦部3はゆっくりとy軸+方向へゆっくりと変位する(A1)。更に、期間P2では第一の圧電素子1に印加される駆動信号は緩やかに電圧が増加し、x軸+方向へゆっくりと変位する(A2)。更に、期間P3では第二の圧電素子2へ印加される駆動信号の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はy軸−方向へ急速に変位する(A3)。更に、期間P4では、第一の圧電素子1に印加される駆動信号E1の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はy軸−方向へ急速に変位する(A4)。従って、期間P2での動作A2によって、移動体7は駆動される。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を早くして、移動体7の移動方向(x軸方向)動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。
【0025】
図4において、期間P1では第二の圧電素子2にのみ緩やかに電圧が増加する駆動信号E2が入力され、摩擦部3はy軸+方向へゆっくりと変位する(A1)。更に、期間P2では第一の圧電素子1に印加される駆動信号は緩やかに電圧が増加し、x軸+方向へゆっくりと変位する(A2)。更に、期間P3では第一の圧電素子1、第二の圧電素子2へ印加される駆動信号E1,E2の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はx軸−方向、y軸−方向へ急速に変位する。従って、期間P2での動作A2によって、移動体7は駆動される。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を早くして、移動体7の移動方向(x軸方向)動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。
【0026】
本実施の形態に示した様に、第一の圧電素子1にせん断変形を発生可能な圧電素子を用いることで、大きな発生力が得られると共に高い周波数で駆動が可能な為、大きなトルク、速度を発生できる。
【0027】
本実施の形態では第一の圧電素子1にx軸方向の変位を発生する圧電素子を、第二の圧電素子2にy軸方向の変位を発生する圧電素子としたが、第一の圧電素子1にy軸方向の変位を発生する圧電素子を、第二の圧電素子2にx軸方向の変位を発生する圧電素子とする構成としても構わない。
【0028】
また、移動体7としては回転体を使用したが、棒状のレールとすればリニヤ型の圧電アクチュエータが実現できる。そして、圧電素子1,2には単板を使用したが積層型の圧電素子を用いても構わない。
【0029】
(実施の形態2)
本発明の圧電アクチュエータ100に用いられる振動子12の別の実施の形態について図5を基にして実施の形態1との差を中心に説明する。
【0030】
本発明の振動子12は実施の形態1の振動子20における第一の圧電素子1の代わりに、屈曲変位を発生する圧電素子11を第一の圧電素子としたものである。第一の圧電素子11は厚み方向(図中矢印53,54の方向)に分極処理された圧電素子11a、11bを重ねて接合することによりバイモルフ素子が構成されている。圧電素子11a、11bの表裏には電極13,14,15が設けられている。ここで、圧電素子11a、11bの接合面にある電極14をGNDとし、圧電素子11a、11bの他方の面にある電極13,15を短絡して電圧を印可すると圧電素子11a、11bのうち、一方の圧電素子は伸び、他方の圧電素子は縮む為、第一の圧電素子11は全体として屈曲変位を示す。そして電圧の極性を変えると変形の方向も逆になる。ここで、バイモルフ素子の代わりに圧電素子と金属等の弾性部材を用いてユニモルフを構成したものを用いても構わない。振動子12に印加する駆動信号E1,E2は実施の形態1に示したものと同じで良い。
【0031】
このように第一の圧電素子11の屈曲変形を利用することで、大きな変位が得られる為、低電圧で、移動体7を高速で駆動できる。
【0032】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3を図6を基に説明する。本発明の圧電アクチュエータ200は、支持部材23を二つのバイモルフ(圧電素子)21、22で挟み込んだ構造で構成される振動子25と、振動子25と接する円板上の移動体7と、支持部材23に加圧力を与え、振動子25と移動体7との接触圧を発生する加圧ばね24とで構成されている(図6(a))。バイモルフ21は圧電素子21aと圧電素子21bとで構成される。バイモルフ素子22は圧電素子22aと圧電素子22bとで構成され、バイモルフ21と同一形状である。移動体7の回転中心には軸7aが設けられ、図示しない軸受けで案内される。支持部材23の端部には軸23aが設けられ、図示しない軸受けで案内されており、振動子25は軸23aを回転中心軸として回転する。加圧ばね24の加圧力が支持部材23の端部23bに加わることにより、バイモルフ21に設けられた突起状の摩擦部27と移動体7は加圧接触する。
【0033】
圧電アクチュエータ200において、バイモルフ21は圧電素子駆動部として移動体7に駆動力を発生する。バイモルフ21の自由端部21cは、矢印26の方向に往復変位する。バイモルフ21の変位の行きの速度と、帰りの速度を異ならせることにより、一方の動作のみを自由端部21cと接する移動体7の駆動力として伝える。具体的な駆動方法は特許文献2に示したものと同じであるので省略する。バイモルフ21,22の変形図を図6(b)の点線に示すが、バイモルフ22はバイモルフ21の動作に同期して動作するとともに、変位方向は逆方向となる。このように、バイモルフ22をバイモルフ21と逆方向に変位させることにより、振動子25の重心はバイモルフ21の支持部である支持部材23にあって変動しないため、振動漏れはなく、移動体7を安定に駆動できると共に、圧電アクチュエータ200の駆動効率は向上する。また、バイモルフ22に駆動信号を印加せずに、静止状態としてカウンターウエイトとしても同様の効果が得られる。従って、バイモルフ22の代わりにバイモルフ21の質量と同等以上の錘を設けても良い。このようにバイモルフ22は振動子25の動作を安定化させるバランス部として働く。
【0034】
また、ここでは説明の簡易性から、一方向にのみ変位する圧電素子21を用いる例を示したが、実施の形態1,2に示した様に、異なる二つの方向に独立に変位を発生することで、駆動力を得る圧電アクチュエータであっても構わない。
【0035】
(実施の形態4)
実施の形態3の変形例について図7を基にして説明する。振動子35は実施の形態1のアクチュエータ100において、振動子20に代わって置き換え可能なため、振動子35の動作のみを説明する。
【0036】
図7(a),(b)は、それぞれ振動子35の正面図、側面図である。圧電素子31,32は平行に配置され、支持部材4に固定されている。摩擦部33は圧電素子31の自由端に固定されている。圧電素子31,32は駆動信号の印加によって、せん断変形を生じるものである。圧電素子31,32は夫々逆方向に変形する(図7(c)参照)。
【0037】
圧電素子31は圧電素子駆動部として移動体7に駆動力を発生する。圧電素子31の自由端部に設けた摩擦部33は矢印34の方向に往復変位する。圧電素子31の変位の行きの速度と、帰りの速度を異ならせることにより、一方の動作のみを移動体7の駆動力として伝える。圧電素子32は圧電素子31の動作に同期して動作するが、変位方向は逆方向となる。このように、圧電素子32を圧電素子31と逆方向に変位させることにより、振動子35の動作に伴って支持部材4の位置は変動することはないため、振動漏れはなく、移動体7を安定に駆動できると共に、圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。また、圧電素子32に駆動信号を印加せずに、静止状態としてカウンターウエイトとして機能させても同様の効果が得られる。従って、圧電素子32の代わりに圧電素子31の質量と同等以上の錘を設けても良い。このように圧電素子32は振動子35の動作を安定化させるバランス部として働く。
【0038】
(実施の形態5)
本発明の圧電アクチュエータ400について図8を基に説明する。圧電アクチュエータ400は圧電素子41と、圧電素子41の一端に固定されたガイド軸43と、ガイド軸43に接する移動体44と、圧電素子41の他端に固定された錘42と、圧電素子41を支持する支持部材45とで構成されている。圧電素子41は駆動信号の印加により、伸縮変位を発生する。支持部材45は圧電素子41の中央部、即ち伸縮変位が生じない点を支持している。移動体44は、図示しない加圧ばねの加圧力によって、ガイド軸43に加圧接触している。
【0039】
次に、具体的に圧電アクチュエータ400の動作について説明する。初期位置(図8(a))から、圧電素子41に緩やかに電圧値が増加する駆動信号を圧電素子41に加えると、圧電素子41は緩やかに伸びる。このとき、ガイド軸43の移動に伴い、移動体44も移動する(図8(b))。次に圧電素子41に印加している駆動信号の電圧値を急激に下げると、圧電素子41も急速に縮み、移動体44とガイド軸43の間に滑りが生じ、結果的に移動体44の位置は、初期位置に対して進んだ状態(図8(c))となる。この一連の動作を繰り返すことにより、移動体44は移動を続ける。
【0040】
この動作中、圧電素子41中心で分けた二つの部分41a,41bは逆方向に変位する。圧電素子41の一方の部分41aは圧電素子駆動部として移動体44に駆動力を与える。圧電素子41の他方の部分41bはガイド軸43とは逆方向に錘42を動かす。圧電素子41の二つの部分41a、41bによって生じる力は支持部材45では相殺されるため、支持部材45には力が生じない。これにより、支持部材45を通じて振動が漏れることは無い。このように、圧電素子41bは錘42とでバランス部として機能する。錘42の質量はガイド軸43の質量と同等が良い。
【0041】
(実施の形態6)
本発明の圧電アクチュエータ600について図9を基に説明する。図9(a)に示した圧電アクチュエータ600は基本的に実施の形態3で示した圧電アクチュエータ200の構造を用いたものであり、これを若干変更したものである。以下両者の違いを中心に説明する圧電アクチュエータ600は圧電アクチュエータ200の移動体7に代わって、レール状の移動体61が設けられている。移動体61は二つの案内部材62,63によって支えられ、案内部材62,63が回転することにより、これと接する移動体61は図中矢印xの方向へ稼動可能となっている。更に、圧電アクチュエータ600ではバイモルフ(圧電素子)21の先端に耐摩耗性に富んだエンジニアリングプラスチックやセラミクスからなる摩擦部64が設けられている。そして摩擦部64はバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端部二箇所に凸部64a、64bを有することを特徴としている。
【0042】
次に、圧電アクチュエータ600の動作について説明する。圧電アクチュエータ600の駆動方法は実施の形態3に示したものと同じであり、バイモルフ(圧電素子)21、22を屈曲変形させる(図9(b))。そして、屈曲変形の行きと帰りの速度を変えることにより速度の遅い変位の動作では移動体61はこの変位に伴い摩擦部64に摩擦駆動され、速度が速い変位の動作では移動体61は摩擦部64と滑りを生じるから移動しないか、あるいは移動量が小さい。従って、移動体64は速度の遅い変位の動作の方向へ移動する。
【0043】
ここで、摩擦部64にはバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端部二箇所に凸部64a、64bを有している。これによりバイモルフ(圧電素子)21の図中矢印y方向変位
が最大となる二点において、安定に移動体61と接触することが可能となる。これにより移動体61の表面のうねりの影響も受けず、またバイモルフ(圧電素子)21や移動体61の組み込みの影響による摩擦部64と移動体61の1点での接触を避けることができる。そして、y方向変位の最大点で摩擦部64と移動体61を接触させることにより、バイモルフ(圧電素子)21の速度の速い変位の動作を移動体61に伝えにくく、速度の遅い変位の動作を移動体61に伝えやすくなるため移動体61の出力は大きくなる。
【0044】
図10は摩擦部64の変形例を示したものである。摩擦部64はバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端に張り出し部65a、65bを有している。このような構造とすることにより、バイモルフ(圧電素子)21の変位は拡大されるから移動体61は安定に駆動できるとともに速度が遅い変位の動作を確実に移動体61に伝えることができるから圧電アクチュエータ600の出力は大きくなる。
【0045】
更に、摩擦部65の張り出し部65a、65bに図10と同様に凸部を設ければ摩擦部65と移動体61の接触も安定するから、圧電アクチュエータ600の効率も改善され出力も大きくなるとともに、圧電アクチュエータ600個々の性能ばらつきは小さくできる。
【0046】
本実施の形態では、圧電アクチュエータ200を基に摩擦部の改善例を示したが、屈曲変形する圧電素子の行きの変位の速度と帰りの変位の速度に違いも持たせて移動体を摩擦駆動させる圧電アクチュエータには全て適用可能であり、実施の形態2で示した振動子12に摩擦部64もしくは65を設けても良い。
【0047】
(実施の形態7)
本実施の形態は本発明の圧電アクチュエータを電子機器の駆動源に適用した例を示すものである。
【0048】
図11は本発明の原理、構造に基づく圧電アクチュエータ500を搭載した電子機器の構成を示すブロック図である。圧電アクチュエータ500は、主に圧電素子52と移動体53とで構成される。電子機器におけるCPU等の制御回路50の指令がドライバ51に伝達されるとドライバ51は圧電素子52に駆動信号を出力する。移動体53は圧電素子52の駆動力を受け移動する。その際、移動体53の力を受け稼動部材54は移動する。
【0049】
電子機器がカメラの場合にはズームを開始する指令が制御回路50から伝達されるとドライバ51は圧電素子52に駆動信号を印加し、移動体53を回転させる。移動体53の力を受け、図示しないカムを介して稼動部材54であるレンズを動かす。
【0050】
電子機器が時計の場合には、稼動部材54は針やカレンダ表示板となる。電子機器がプリンタの場合には稼動部材54は印字ヘッドとなる。電子機器がHDDや光ディスク等の情報記録機器の場合には、稼動部材54は読み取りヘッドとなる。
【0051】
この様な小型電子機器において、本発明の原理、構造に基づく圧電アクチュエータ500を用いることにより、電子機器は小型で低消費電力となる。
【0052】
特に、位置決め分解能が高く、移動体53を停止状態にする際には電力を消費せず、保持力を有するという特徴から、高精度な位置決めが必要な電子機器においてその効果を発揮する。電子機器がステージの場合には稼動部材54はテーブルや試料台であり、電子機器が工作機械の場合には、稼動部材54は刃具や砥石等のワークである。
【符号の説明】
【0053】
1,2,11,21,22,31,32,41,52 圧電素子
100,200,400,500 圧電アクチュエータ
12,20,25,35 振動子
4,23,45 支持部材
7,44,53,61 移動体
5 案内部材
6 加圧ばね
64,65 摩擦部
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子の振動により移動体を摩擦駆動する圧電アクチュエータ、及びそれを応用した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化が進み、そこで用いられるアクチュエータの小型化が要求されている。このアクチュエータの代表例は電磁型のモータであり、その出力を減速歯車列等を介して稼働部材の駆動力に変換する方式が古くから一般に行われている。
【0003】
しかしながら、電磁型のモータは小型化が難しいばかりでなく、小型化してもトルクが極めて弱くなってしまうため、その分だけ減速歯車列が必要となり機構自体の大きさは、小さくするのが難しかった。
【0004】
そこで、新原理のアクチュエータの開発も盛んに行われており、小型で発生力の大きな圧電素子を用いたものにも期待が掛かっている。例えば移動体と、これを移動可能にガイドする軸との間に摩擦力を生じさせておき、軸の先端に設けた圧電素子を急速に変形させた際に生じる移動体の慣性力により移動体を稼働する方式が開発され、カメラのズーム機構やオートフォーカス機構への応用も試みられている(特許文献1、2)。
【0005】
また、一端が固定部材に固定された圧電素子と、圧電素子と加圧接触する移動体とで構成され、圧電素子の第一の方向の変位の加速度もしくは速度と、第二の方向の変位の加速度もしくは速度とが異なるように変位させることで移動体を駆動する方式が検討されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−247967号公報
【特許文献2】特開平11−265212号公報
【特許文献3】特開2005−210888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示したものの動作は直動動作に限られるため、応用する機器に制限を与えてしまった。この場合、稼働部材をダイレクトに稼働させることが出きるというメリットはあるが、その発生力は小さいと共に、アクチュエータを搭載する機器に落下や振動が生じた場合、稼働部が動いてしまう恐れが有った。
【0008】
そして、特許文献1、2ともに移動体と軸、あるいは移動体と圧電素子との間の接触部で摺動ロスを発生したり、圧電素子の支持部での振動漏れが発生することにより駆動効率が低く、大きな消費電力を必要とするという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、駆動効率が高く、小型で低消費電力、大出力が得られる圧電アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の圧電アクチュエータは、往復変位する圧電素子駆動部と、圧電素子駆動部の支持部近傍に設けられたバランス部とで構成された振動子と、圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体と、からなり、圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータとする。
【0011】
特に、バランス部は圧電素子からなり、圧電素子駆動部の変位の方向とバランス部の変位の方向は、支持部を基準にして反対方向であることを特徴とする。
【0012】
別の例としては圧電素子と、圧電素子の一端に固定されたガイド軸と、ガイド軸に接する移動体と、圧電素子の他端に設けられた重りと、を有し、圧電素子の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータとする。
【0013】
これらによれば、圧電素子駆動部が急速に変形しても、振動子の重心は変化しないから支持部での振動のロスがなく、圧電アクチュエータの駆動効率は向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば圧電素子を非共振状態で駆動できるため消費電流が小さく、また、簡易な構成の駆動回路で駆動できる圧電アクチュエータが実現できる。しかも、圧電素子の支持部での振動漏れがないため駆動効率が高く小型で高出力の圧電アクチュエータが実現できる。
【0015】
そして、移動体により稼動部材を駆動することで、電子機器の小型化、低消費電力化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図2】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン1と、その際の 摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図3】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン2と、その際の摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図4】本発明の圧電アクチュエータに印加する駆動信号のパターン3と、その際の摩擦部の動作の様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態3の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態4の圧電アクチュエータの振動子の構成を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態5の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態6の圧電アクチュエータの構成を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態6の圧電アクチュエータの摩擦部の別な例を示す図である。
【図11】本発明の圧電アクチュエータを搭載した電子機器の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を図面を基に説明する。
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1の圧電アクチュエータ100の構成を、図1(b)は圧電アクチュエータ100に使用されている振動子20の構成を示した図(変形図)である。
【0018】
本発明の圧電アクチュエータ100は、支持部材4と、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2から構成され、支持部材4に一端を固定された振動子20と、振動子20の他端に設けられた摩擦部3と、摩擦部3と接する移動体7と、摩擦部3と移動体7の間の接触圧を発生させる加圧ばね6と、支持部材4の移動を案内する案内部材5とで構成されている。
【0019】
振動子20は直方体形状であり、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2を接着することにより一体的に構成されている。接着剤を用いずに、第一の圧電素子1と、第二の圧電素子2とを同一の圧電素子内に構成されるように一体的に焼結されたものでも良い。第一の圧電素子1は矢印51の方向に分極処理されており、矢印51と直交する方向の端面に設けられた電極8,9間に電圧を印加すると、図中x軸方向へせん断変形を行うことで、移動体7の移動方向(摩擦部3と移動体7との接触圧方向と直交する方向)への変位を発生する。第二の圧電素子2は矢印52の方向に分極処理されており、矢印52の方向の端面に設けられた電極9,10間に電圧を印加すると、y軸方向へ伸縮変形を行うことで摩擦部3と移動体7との接触圧方向への変位を発生する。
【0020】
移動体7は、移動体7の回転中心に設けた軸7aを、図示しない軸受けにより案内することにより回転する。案内部材5は二つのガイド面5a,5bに図示しない溝部を有し、溝部は支持部材4の側面4a,4bと係合することで、支持部材4が加圧ばね6の加圧力を受け、移動体7の方向に移動する為の案内となる。摩擦部3は耐磨耗性に優れたエンジニヤリングプラスチックやアルミナ等のエンジニヤリングセラミクス等から出来ており、接着剤により圧電素子11に接合されている。しかしながら、圧電素子1の表面自体を摩擦部3としても良いし、コーティング等によって摩擦部3を形成しても構わない。
【0021】
ここで、支持部材4は重量の重い真鍮等の金属からできており圧電素子1,2の急速な変形に対するカウンターウエイトとして働く。そして、案内部材5は圧電素子1の変形による支持部材4のx方向の動きを規制し、加圧ばね6は圧電素子2の変形による支持部材4のy方向の動きを規制することを助けることが可能となるから圧電素子1,2の動作は効率良く移動体7の動作に変換される。
【0022】
次に振動子20の動作を具体的に説明する。図2、3,4は圧電素子1,2へ印加する駆動信号E1,E2のパターンの例(パターン1,2,3)と、これに対応して動作する摩擦部3の動作の様子を示したものである。それぞれ図(b)は横軸に時間を、縦軸に電圧レベルをとって、第一の圧電素子1への印加信号E1、第二の圧電素子2への印加信号E2の変化を示している。図(a)は、変位の方向を指す矢印と変位のスピードを表す言葉でこの駆動信号に対する摩擦部3の動作の様子を示している。
【0023】
図2において、第一の圧電素子1、第二の圧電素子2には同一波形形状の駆動信号が印加される。ゆっくりと電圧が増加する期間P1に続いて急速に電圧が減少する期間P2を繰り返す。期間P1では、摩擦部3はゆっくりとx軸+方向に動作すると共に、Y軸+方向に動作するため、これと接する移動体7もこの動作にならって移動する(A1)。期間P2では急速にx軸−方向に動作すると共に、Y軸−方向に動作する(A2)。このとき、摩擦部3と移動体7との接触は離れるから、摩擦部3の動作は移動体7には伝わらない。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の動作は、第一の圧電素子1による移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と、第二の圧電素子2による移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を速くして、第一の圧電素子1による移動体7の移動方向(x軸方向)の動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な(逆方向の)駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。そして、このように第一の圧電素子1、第二の圧電素子2に印加する駆動信号を同一波形形状とすることにより図示しない駆動回路の構成が簡単になる。ところで、移動体7を時計回りに回転させる際には図2(c)に示した様に、駆動信号E1もしくはE2の電圧の変化(電圧を急激に変化させる過程と、緩やかに変化させる過程の順序を逆にすれば良い。
【0024】
図3、4については図2との差のみを説明する。図3において、第一の圧電素子1と第二の圧電素子2にはそれぞれ位相が90度ずれた駆動信号が印加される。期間P1においては第二の圧電素子2にのみ緩やかに電圧が増加する駆動信号E1が入力され、摩擦部3はゆっくりとy軸+方向へゆっくりと変位する(A1)。更に、期間P2では第一の圧電素子1に印加される駆動信号は緩やかに電圧が増加し、x軸+方向へゆっくりと変位する(A2)。更に、期間P3では第二の圧電素子2へ印加される駆動信号の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はy軸−方向へ急速に変位する(A3)。更に、期間P4では、第一の圧電素子1に印加される駆動信号E1の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はy軸−方向へ急速に変位する(A4)。従って、期間P2での動作A2によって、移動体7は駆動される。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を早くして、移動体7の移動方向(x軸方向)動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。
【0025】
図4において、期間P1では第二の圧電素子2にのみ緩やかに電圧が増加する駆動信号E2が入力され、摩擦部3はy軸+方向へゆっくりと変位する(A1)。更に、期間P2では第一の圧電素子1に印加される駆動信号は緩やかに電圧が増加し、x軸+方向へゆっくりと変位する(A2)。更に、期間P3では第一の圧電素子1、第二の圧電素子2へ印加される駆動信号E1,E2の電圧は、急速に低下し、摩擦部3はx軸−方向、y軸−方向へ急速に変位する。従って、期間P2での動作A2によって、移動体7は駆動される。この動作を繰り返すことによって、移動体7は反時計回りに回転する。このように、摩擦部3の移動体7の移動方向と逆の(x軸方向)動作と移動体7から離れる方向の(y軸方向)動作を早くして、移動体7の移動方向(x軸方向)動作をゆっくりと行うことにより、移動体7には摩擦部3から余計な駆動力が伝わらないから圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。
【0026】
本実施の形態に示した様に、第一の圧電素子1にせん断変形を発生可能な圧電素子を用いることで、大きな発生力が得られると共に高い周波数で駆動が可能な為、大きなトルク、速度を発生できる。
【0027】
本実施の形態では第一の圧電素子1にx軸方向の変位を発生する圧電素子を、第二の圧電素子2にy軸方向の変位を発生する圧電素子としたが、第一の圧電素子1にy軸方向の変位を発生する圧電素子を、第二の圧電素子2にx軸方向の変位を発生する圧電素子とする構成としても構わない。
【0028】
また、移動体7としては回転体を使用したが、棒状のレールとすればリニヤ型の圧電アクチュエータが実現できる。そして、圧電素子1,2には単板を使用したが積層型の圧電素子を用いても構わない。
【0029】
(実施の形態2)
本発明の圧電アクチュエータ100に用いられる振動子12の別の実施の形態について図5を基にして実施の形態1との差を中心に説明する。
【0030】
本発明の振動子12は実施の形態1の振動子20における第一の圧電素子1の代わりに、屈曲変位を発生する圧電素子11を第一の圧電素子としたものである。第一の圧電素子11は厚み方向(図中矢印53,54の方向)に分極処理された圧電素子11a、11bを重ねて接合することによりバイモルフ素子が構成されている。圧電素子11a、11bの表裏には電極13,14,15が設けられている。ここで、圧電素子11a、11bの接合面にある電極14をGNDとし、圧電素子11a、11bの他方の面にある電極13,15を短絡して電圧を印可すると圧電素子11a、11bのうち、一方の圧電素子は伸び、他方の圧電素子は縮む為、第一の圧電素子11は全体として屈曲変位を示す。そして電圧の極性を変えると変形の方向も逆になる。ここで、バイモルフ素子の代わりに圧電素子と金属等の弾性部材を用いてユニモルフを構成したものを用いても構わない。振動子12に印加する駆動信号E1,E2は実施の形態1に示したものと同じで良い。
【0031】
このように第一の圧電素子11の屈曲変形を利用することで、大きな変位が得られる為、低電圧で、移動体7を高速で駆動できる。
【0032】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3を図6を基に説明する。本発明の圧電アクチュエータ200は、支持部材23を二つのバイモルフ(圧電素子)21、22で挟み込んだ構造で構成される振動子25と、振動子25と接する円板上の移動体7と、支持部材23に加圧力を与え、振動子25と移動体7との接触圧を発生する加圧ばね24とで構成されている(図6(a))。バイモルフ21は圧電素子21aと圧電素子21bとで構成される。バイモルフ素子22は圧電素子22aと圧電素子22bとで構成され、バイモルフ21と同一形状である。移動体7の回転中心には軸7aが設けられ、図示しない軸受けで案内される。支持部材23の端部には軸23aが設けられ、図示しない軸受けで案内されており、振動子25は軸23aを回転中心軸として回転する。加圧ばね24の加圧力が支持部材23の端部23bに加わることにより、バイモルフ21に設けられた突起状の摩擦部27と移動体7は加圧接触する。
【0033】
圧電アクチュエータ200において、バイモルフ21は圧電素子駆動部として移動体7に駆動力を発生する。バイモルフ21の自由端部21cは、矢印26の方向に往復変位する。バイモルフ21の変位の行きの速度と、帰りの速度を異ならせることにより、一方の動作のみを自由端部21cと接する移動体7の駆動力として伝える。具体的な駆動方法は特許文献2に示したものと同じであるので省略する。バイモルフ21,22の変形図を図6(b)の点線に示すが、バイモルフ22はバイモルフ21の動作に同期して動作するとともに、変位方向は逆方向となる。このように、バイモルフ22をバイモルフ21と逆方向に変位させることにより、振動子25の重心はバイモルフ21の支持部である支持部材23にあって変動しないため、振動漏れはなく、移動体7を安定に駆動できると共に、圧電アクチュエータ200の駆動効率は向上する。また、バイモルフ22に駆動信号を印加せずに、静止状態としてカウンターウエイトとしても同様の効果が得られる。従って、バイモルフ22の代わりにバイモルフ21の質量と同等以上の錘を設けても良い。このようにバイモルフ22は振動子25の動作を安定化させるバランス部として働く。
【0034】
また、ここでは説明の簡易性から、一方向にのみ変位する圧電素子21を用いる例を示したが、実施の形態1,2に示した様に、異なる二つの方向に独立に変位を発生することで、駆動力を得る圧電アクチュエータであっても構わない。
【0035】
(実施の形態4)
実施の形態3の変形例について図7を基にして説明する。振動子35は実施の形態1のアクチュエータ100において、振動子20に代わって置き換え可能なため、振動子35の動作のみを説明する。
【0036】
図7(a),(b)は、それぞれ振動子35の正面図、側面図である。圧電素子31,32は平行に配置され、支持部材4に固定されている。摩擦部33は圧電素子31の自由端に固定されている。圧電素子31,32は駆動信号の印加によって、せん断変形を生じるものである。圧電素子31,32は夫々逆方向に変形する(図7(c)参照)。
【0037】
圧電素子31は圧電素子駆動部として移動体7に駆動力を発生する。圧電素子31の自由端部に設けた摩擦部33は矢印34の方向に往復変位する。圧電素子31の変位の行きの速度と、帰りの速度を異ならせることにより、一方の動作のみを移動体7の駆動力として伝える。圧電素子32は圧電素子31の動作に同期して動作するが、変位方向は逆方向となる。このように、圧電素子32を圧電素子31と逆方向に変位させることにより、振動子35の動作に伴って支持部材4の位置は変動することはないため、振動漏れはなく、移動体7を安定に駆動できると共に、圧電アクチュエータ100の駆動効率は向上する。また、圧電素子32に駆動信号を印加せずに、静止状態としてカウンターウエイトとして機能させても同様の効果が得られる。従って、圧電素子32の代わりに圧電素子31の質量と同等以上の錘を設けても良い。このように圧電素子32は振動子35の動作を安定化させるバランス部として働く。
【0038】
(実施の形態5)
本発明の圧電アクチュエータ400について図8を基に説明する。圧電アクチュエータ400は圧電素子41と、圧電素子41の一端に固定されたガイド軸43と、ガイド軸43に接する移動体44と、圧電素子41の他端に固定された錘42と、圧電素子41を支持する支持部材45とで構成されている。圧電素子41は駆動信号の印加により、伸縮変位を発生する。支持部材45は圧電素子41の中央部、即ち伸縮変位が生じない点を支持している。移動体44は、図示しない加圧ばねの加圧力によって、ガイド軸43に加圧接触している。
【0039】
次に、具体的に圧電アクチュエータ400の動作について説明する。初期位置(図8(a))から、圧電素子41に緩やかに電圧値が増加する駆動信号を圧電素子41に加えると、圧電素子41は緩やかに伸びる。このとき、ガイド軸43の移動に伴い、移動体44も移動する(図8(b))。次に圧電素子41に印加している駆動信号の電圧値を急激に下げると、圧電素子41も急速に縮み、移動体44とガイド軸43の間に滑りが生じ、結果的に移動体44の位置は、初期位置に対して進んだ状態(図8(c))となる。この一連の動作を繰り返すことにより、移動体44は移動を続ける。
【0040】
この動作中、圧電素子41中心で分けた二つの部分41a,41bは逆方向に変位する。圧電素子41の一方の部分41aは圧電素子駆動部として移動体44に駆動力を与える。圧電素子41の他方の部分41bはガイド軸43とは逆方向に錘42を動かす。圧電素子41の二つの部分41a、41bによって生じる力は支持部材45では相殺されるため、支持部材45には力が生じない。これにより、支持部材45を通じて振動が漏れることは無い。このように、圧電素子41bは錘42とでバランス部として機能する。錘42の質量はガイド軸43の質量と同等が良い。
【0041】
(実施の形態6)
本発明の圧電アクチュエータ600について図9を基に説明する。図9(a)に示した圧電アクチュエータ600は基本的に実施の形態3で示した圧電アクチュエータ200の構造を用いたものであり、これを若干変更したものである。以下両者の違いを中心に説明する圧電アクチュエータ600は圧電アクチュエータ200の移動体7に代わって、レール状の移動体61が設けられている。移動体61は二つの案内部材62,63によって支えられ、案内部材62,63が回転することにより、これと接する移動体61は図中矢印xの方向へ稼動可能となっている。更に、圧電アクチュエータ600ではバイモルフ(圧電素子)21の先端に耐摩耗性に富んだエンジニアリングプラスチックやセラミクスからなる摩擦部64が設けられている。そして摩擦部64はバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端部二箇所に凸部64a、64bを有することを特徴としている。
【0042】
次に、圧電アクチュエータ600の動作について説明する。圧電アクチュエータ600の駆動方法は実施の形態3に示したものと同じであり、バイモルフ(圧電素子)21、22を屈曲変形させる(図9(b))。そして、屈曲変形の行きと帰りの速度を変えることにより速度の遅い変位の動作では移動体61はこの変位に伴い摩擦部64に摩擦駆動され、速度が速い変位の動作では移動体61は摩擦部64と滑りを生じるから移動しないか、あるいは移動量が小さい。従って、移動体64は速度の遅い変位の動作の方向へ移動する。
【0043】
ここで、摩擦部64にはバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端部二箇所に凸部64a、64bを有している。これによりバイモルフ(圧電素子)21の図中矢印y方向変位
が最大となる二点において、安定に移動体61と接触することが可能となる。これにより移動体61の表面のうねりの影響も受けず、またバイモルフ(圧電素子)21や移動体61の組み込みの影響による摩擦部64と移動体61の1点での接触を避けることができる。そして、y方向変位の最大点で摩擦部64と移動体61を接触させることにより、バイモルフ(圧電素子)21の速度の速い変位の動作を移動体61に伝えにくく、速度の遅い変位の動作を移動体61に伝えやすくなるため移動体61の出力は大きくなる。
【0044】
図10は摩擦部64の変形例を示したものである。摩擦部64はバイモルフ(圧電素子)21の幅方向両端に張り出し部65a、65bを有している。このような構造とすることにより、バイモルフ(圧電素子)21の変位は拡大されるから移動体61は安定に駆動できるとともに速度が遅い変位の動作を確実に移動体61に伝えることができるから圧電アクチュエータ600の出力は大きくなる。
【0045】
更に、摩擦部65の張り出し部65a、65bに図10と同様に凸部を設ければ摩擦部65と移動体61の接触も安定するから、圧電アクチュエータ600の効率も改善され出力も大きくなるとともに、圧電アクチュエータ600個々の性能ばらつきは小さくできる。
【0046】
本実施の形態では、圧電アクチュエータ200を基に摩擦部の改善例を示したが、屈曲変形する圧電素子の行きの変位の速度と帰りの変位の速度に違いも持たせて移動体を摩擦駆動させる圧電アクチュエータには全て適用可能であり、実施の形態2で示した振動子12に摩擦部64もしくは65を設けても良い。
【0047】
(実施の形態7)
本実施の形態は本発明の圧電アクチュエータを電子機器の駆動源に適用した例を示すものである。
【0048】
図11は本発明の原理、構造に基づく圧電アクチュエータ500を搭載した電子機器の構成を示すブロック図である。圧電アクチュエータ500は、主に圧電素子52と移動体53とで構成される。電子機器におけるCPU等の制御回路50の指令がドライバ51に伝達されるとドライバ51は圧電素子52に駆動信号を出力する。移動体53は圧電素子52の駆動力を受け移動する。その際、移動体53の力を受け稼動部材54は移動する。
【0049】
電子機器がカメラの場合にはズームを開始する指令が制御回路50から伝達されるとドライバ51は圧電素子52に駆動信号を印加し、移動体53を回転させる。移動体53の力を受け、図示しないカムを介して稼動部材54であるレンズを動かす。
【0050】
電子機器が時計の場合には、稼動部材54は針やカレンダ表示板となる。電子機器がプリンタの場合には稼動部材54は印字ヘッドとなる。電子機器がHDDや光ディスク等の情報記録機器の場合には、稼動部材54は読み取りヘッドとなる。
【0051】
この様な小型電子機器において、本発明の原理、構造に基づく圧電アクチュエータ500を用いることにより、電子機器は小型で低消費電力となる。
【0052】
特に、位置決め分解能が高く、移動体53を停止状態にする際には電力を消費せず、保持力を有するという特徴から、高精度な位置決めが必要な電子機器においてその効果を発揮する。電子機器がステージの場合には稼動部材54はテーブルや試料台であり、電子機器が工作機械の場合には、稼動部材54は刃具や砥石等のワークである。
【符号の説明】
【0053】
1,2,11,21,22,31,32,41,52 圧電素子
100,200,400,500 圧電アクチュエータ
12,20,25,35 振動子
4,23,45 支持部材
7,44,53,61 移動体
5 案内部材
6 加圧ばね
64,65 摩擦部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復変位する圧電素子駆動部と、
前記圧電素子駆動部の支持部に設けられたバランス部と、で構成される振動子と、
前記圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体と、
からなり、前記圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより前記移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記バランス部は圧電素子からなり、
前記圧電素子駆動部の変位の方向と前記バランス部の変位の方向は、前記支持部を基準にして反対方向であることを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
圧電素子と、
前記圧電素子の一端に固定されたガイド軸と、
前記ガイド軸に接する移動体と、
前記圧電素子の他端に設けられた重りと、
を有し、前記圧電素子の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより前記移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載の圧電アクチュエータにおいて、
前記圧電素子駆動部と前記バランス部は屈曲変位し、前記摩擦部は前記圧電素子の幅方向両端部二箇所に凸部を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項2に記載の圧電アクチュエータにおいて、
前記圧電素子駆動部と前記バランス部は屈曲変位し、前記摩擦部は前記圧電素子の幅方向両端に張り出し部を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の圧電アクチュエータにより駆動される稼動部材を有することを特徴とする電子機器。
【請求項1】
往復変位する圧電素子駆動部と、
前記圧電素子駆動部の支持部に設けられたバランス部と、で構成される振動子と、
前記圧電素子駆動部に設けられた摩擦部と接する移動体と、
からなり、前記圧電素子駆動部の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより前記移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記バランス部は圧電素子からなり、
前記圧電素子駆動部の変位の方向と前記バランス部の変位の方向は、前記支持部を基準にして反対方向であることを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
圧電素子と、
前記圧電素子の一端に固定されたガイド軸と、
前記ガイド軸に接する移動体と、
前記圧電素子の他端に設けられた重りと、
を有し、前記圧電素子の行きの変位の速度と、帰りの変位の速度を異ならせることにより前記移動体を駆動することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項2に記載の圧電アクチュエータにおいて、
前記圧電素子駆動部と前記バランス部は屈曲変位し、前記摩擦部は前記圧電素子の幅方向両端部二箇所に凸部を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項2に記載の圧電アクチュエータにおいて、
前記圧電素子駆動部と前記バランス部は屈曲変位し、前記摩擦部は前記圧電素子の幅方向両端に張り出し部を有することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の圧電アクチュエータにより駆動される稼動部材を有することを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−143150(P2012−143150A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47536(P2012−47536)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2006−348991(P2006−348991)の分割
【原出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2006−348991(P2006−348991)の分割
【原出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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