説明

圧電アクチュエータ

【課題】接触部の振動軌跡の形状や向きを任意に変更できる圧電アクチュエータを提供すること。
【解決手段】圧電アクチュエータ1は、縦振動および屈曲振動の二つの振動モードの組み合わせにより振動する圧電素子で構成された振動体10を有し、この振動体10には、縦振動を励振させる第1駆動信号印加用の第1駆動電極11と、屈曲振動を励振させる第2、第3駆動信号印可用の第2、第3駆動電極12,13とが設けられ、第2駆動信号の位相を任意に調整する位相調整手段33を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦振動および屈曲振動といった複数の振動モードを組み合わせて振動体を振動させる圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータは、振動体の接触部を楕円軌跡で振動させることにより、被駆動体を摩擦駆動するのが一般的である(例えば、特許文献1〜4)。この際、縦振動および屈曲振動といった2つの振動モードを組み合わせて振動体を振動させる圧電アクチュエータでは、振動体の形状に関わる設計値、振動体の特性、製造上のばらつき、摩擦駆動部の経時変化、電気駆動状態等の変動要因により、2つの振動モードの共振周波数を完全に一致させることは困難とされ、共振周波数から外れた同一の駆動周波数で振動体を駆動することになる。そして、同一駆動周波数での駆動の結果、接触部の振動軌跡が楕円となる。
【0003】
図9ないし図11に基づき、振動軌跡が楕円となる理由について説明する。図9に示す振動体10は矩形状とされ、その表側を形成する圧電素子上には、長手方向に沿った中央の第1駆動電極11と、第1駆動電極11の一方側に沿った第2、第3駆動電極12,13と、他方側に沿った別の第2、第3駆動電極12,13とが設けられ、第2駆動電極12同士が互いに対角線上に設けられてリード線で導通し、第3駆動電極13同士も互いに対角線上に設けられてリード線で導通している。
【0004】
このような振動体10の第1駆動電極11へは、交流電源である信号発生装置20から第1駆動信号14が、第2駆動電極12へは、移相器15により第1駆動信号14に対して位相が90°遅らせた第2駆動信号16が、第3駆動電極13へは、位相反転手段17により第2駆動信号16に対して位相が180°反転した図示しない第3駆動信号が、それぞれ所定の駆動振幅でかつ同一の駆動周波数で印加される。そして、第1駆動電極11への印加により、振動体10の長手方向に沿った縦振動が励振され、第2、第3駆動電極12,13への印加により、幅方向に沿った面内での屈曲振動が励振される。
【0005】
ここで、図10は、振動体10の振動特性例を示す図であり、振動体10に励振される縦振動の共振周波数が屈曲振動の共振周波数よりも低くずれた場合を示している。ところが、振動体10を2つの異なる共振周波数で駆動することはできないため、この例の場合には、縦振動の共振周波数に近い周波数を駆動周波数として採用している。この結果、図10、図11に示すように、振動体10の接触部18での縦振動の振動波形が、第1駆動信号14に対して略90°遅れた(+90°)位相となるのに対して、屈曲振動の波形は、第2駆動信号16に対して90°遅れた(+90°)状態からα°進んだ(−α°)位相となる。このように、屈曲振動の振動波形の位相が縦振動の振動波形に対して、総じて90−α°遅れることで、接触部18の振動軌跡が楕円となる。また、図9に示すような振動体10および被駆動体19の配置では、楕円とされた振動軌跡の長軸Alおよび短軸Asは、接触部18と被駆動体19との法線Nに対して傾斜する。
【0006】
ところで、被駆動体19の駆動条件によっては、接触部18の振動軌跡が楕円ではなく、図11に点線で示すような真円に近い場合の方が望まれたり、楕円であっても、その長軸Alや短軸Asが法線Nに対して傾斜しない方が望まれたりする場合がある。例えば、振動軌跡を真円にすると、被駆動体19に接触している間の速度変化が少なくなるために、擦れによる摩耗が少なくて耐久性に優れているし、1サイクルでの被駆動体19の送り量も、楕円軌跡時が送り量f1であるのに対して、真円軌跡時には送り量f2となって大きくなり、スピードが増す。また、図示を省略するが、楕円軌跡であっても、長軸Alを法線Nと平行にすれば、送り量がさらに増し、スピードがより高速になる。さらに、短軸Asを法線Nと平行にすれば、摩耗は促進されるが、法線Nに対して傾斜させた場合に比して、伝達トルクを著しく増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2722211号(特開平2−41673号)公報
【特許文献2】特許第3192028号(特開平6−327274号)公報
【特許文献3】特開平8−126359号公報
【特許文献4】特開2001−286166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4によれば、接触部の振動軌跡の最適化等に関しては記載されているが、その場合でも、最適化された楕円形状の一振動軌跡のみで被駆動体を駆動している。従って、長軸や短軸の方向を任意に変えて(振動軌跡の向きを任意に変えて)種々の駆動条件に対応したり、場合によっては真円の振動軌跡で駆動したりといった要望に応じることはできない。しかも、振動軌跡の長軸や短軸の法線に対する傾斜をなくすためには、振動体と被駆動体との位置関係を調整する必要があり、互いの配置位置に関する設計上の制約が大きい。
【0009】
本発明の目的は、接触部の振動軌跡の形状や向きを任意に変更できる圧電アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧電アクチュエータは、少なくとも二つの振動モードの組み合わせにより振動する圧電素子を有するとともに、この圧電素子を含んで構成された振動体には、一方の振動モードの振動を励振させる第1駆動信号印加用の第1駆動電極と、他方の振動モード振動を励振させる第2駆動信号印可用の第2駆動電極とが設けられ、第1、第2駆動信号の少なくともいずれか一方の駆動信号の位相を調整する位相調整手段を備えていることを特徴とする。
このような本発明によれば、振動モードの違いに起因して生じる各振動波形の位相の遅れや進みを(位相差)、第2駆動信号の駆動波形の位相を予め調整することで解消あるいは可変にできる。従って、その調整具合により、当該位相差による振動軌跡の形状や向きを任意に変更して、接触部や被駆動体の摩耗を抑制したり、被駆動体の駆動スピード、あるいは被駆動体への伝達トルクを変更したりできる。
【0011】
本発明の圧電アクチュエータでは、前記第1、第2駆動信号の少なくともいずれか一方の駆動信号の電圧レベルを調整する電圧調整手段を備えていることが望ましい。
このような本発明によれば、振動軌跡の形状や向きを任意に変更したうえで、振動波形の大きさを調整でき、必要に応じて駆動スピードをより大幅に変更したり、被駆動体への伝達トルクを大幅に変更したりできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接触部の振動軌跡の形状や向きを任意に変更できるとともに、接触部や被駆動体側の摩耗を防止でき、かつ被駆動体の駆動スピード、あるいは伝達トルクを可変にできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る圧電アクチュエータを示すブロック図。
【図2】圧電アクチュエータに印加される駆動信号の波形を示す図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る圧電アクチュエータを示すブロック図。
【図4】接触部の振動軌跡を示す図であって、(A)は略真円形状の振動軌跡を、(B)は楕円形状の振動軌跡を示す図。
【図5】振動軌跡および回転速度の自動調整を説明するためのフローチャート。
【図6】本発明の第3実施形態に係る圧電アクチュエータを示すブロック図。
【図7】回転速度の自動調整を説明するためのフローチャート。
【図8】本発明の変形例を示すブロック図。
【図9】背景技術を説明するための図。
【図10】縦振動および屈曲振動の振動振幅、周波数、振動位相の関係を示す図。
【図11】縦振動および屈曲振動の振動振幅の波形、および振動軌跡を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態において、背景技術として既に説明した構成と同一構成には同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。図1には、本実施形態に係る圧電アクチュエータ1の構成がブロック図として示されている。図2には、圧電アクチュエータ1に印加される第1、第2駆動信号14,16の波形が示されている。
【0015】
圧電アクチュエータ1は、被駆動体19を駆動する振動体10と、振動体10へ印加する交流電圧を駆動信号として生じさせる信号発生装置20と、信号発生装置20からの駆動信号を調整して振動体10に出力するドライバ回路30とを備えている。
【0016】
振動体10は前述のように、圧電素子上の第1、第2、第3駆動電極11,12,13を有している。また、図示を省略するが、圧電素子は補強板(シム板ともいう)を挟んで表裏両面に設けられており、裏側の圧電素子にも第1〜第3駆動電極11〜13と重なる位置に同様な第1〜第3駆動電極が表裏対象に設けられ、対応する第1駆動電極11同士、第2駆動電極同士、および第3駆動電極同士がそれぞれ導通している。また、補強板も振動体10の一端子であり、図示しないリード線によってグラウンドに接続されている。さらに、補強板の長手方向にそった両方の側部中央には、外方に突出した支持部10Aが一体に設けられており、これらの支持部10Aが図示しない固定部にねじ10Bによって固定される。なお、補強板のグラウンドへの接続をリード線によらず、固定部へのネジ止めによって行ってもよい。
【0017】
信号発生装置20は、所定の周波数の駆動信号(第1駆動信号14)を生成してドライバ回路30に出力する。駆動信号としては、本実施形態では交番電圧からなるアナログ信号のであるが、矩形波といったデジタル信号であってもよい。
【0018】
ドライバ回路30は、種々のハードウエアあるいはソフトウエアからなる移相器15、位相反転手段17、および位相調整手段33を備えている。移相器15は、信号発生装置20からの駆動信号の位相を90°遅らせる機能を有している。具体的に移相器15は、図2に示すように、信号発生装置20から第1駆動電極11に略直接的に印加される縦振動用の第1駆動信号14に対し、位相が90°遅れた第2駆動信号16(図2中の点線)を生成し、出力する。この位相が遅れた第2駆動信号16は、圧電素子の第2駆動電極に印可される。位相反転手段17は、例えばインバータ回路等で構成され、第2駆動信号16に対して位相が180°反転した第3駆動信号(図示略)を生成し、第3駆動電極13に印可する。
【0019】
第1駆動電極11に第1駆動信号14を印加し、第2駆動電極12に第2駆動信号16に印可し、第3駆動電極13に第3駆動信号を印可すると、振動体10に縦振動および屈曲振動の二つのモードでの振動が励振され、接触部18の楕円形状の振動軌跡によって被駆動体19がR+(正転)方向に回転する。
【0020】
一方、移相器15には切換信号を出力する正逆切換信号源34が接続されており、ここからの切換信号により移相器15は、第2駆動信号16として、第1駆動信号14の位相を90°遅らせるのではなく、90°進めるように機能する。この結果、位相が90°進んだ第2駆動信号16を第2駆動電極12に印加し、さらにこの第2駆動信号16に対して位相が反転した第3駆動信号を第3駆動電極13に印可することとなり、接触部18は前述とは異なる方向の楕円軌跡を描いて被駆動体19をR−(逆転)方向に回転させる。つまり正逆切換信号源34は、被駆動体19の回転方向を切り換える切換スイッチとして機能する。
【0021】
位相調整手段33は、駆動信号がアナログ波形である本実施形態では、適宜なインダクタンス素子やキャパシタンス素子等の組み合わせで構成されており、第2駆動信号16の位相を任意に変更、調整する機能を有するとともに、このことにより、第2駆動信号16の反転駆動信号である第3駆動信号の位相も変更、調整することが可能である。駆動信号がデジタル波形である場合、カウンタ等を用いて位相調整手段33を構成することも可能である。
【0022】
このような位相調整手段33には位相調整信号生成手段35が接続されている。この位相調整信号生成手段35は、例えば所定の位相調整用プログラムが動作するパーソナルコンピュータ等に接続されて、テンキーを操作したり、圧電アクチュエータ1に設けられる図示しないダイヤルを操作したりするなどにより、位相調整用の指令信号を出力する。この位相調整信号によって位相調整手段33は、第2駆動信号16(第3駆動信号)の位相を所定の角度単位で進ませたり、または遅らせたりすることが可能である。図2には、第2駆動信号16の位相をα°遅らせた波形(図2中の実線)が示されている。この場合には勿論、第3駆動信号としてもα°位相が遅れることになる。
【0023】
この際、位相差であるα°は、前述したように、屈曲振動の振動波形の位相進み相当する。従って、この進み分を予め第2駆動信号16の段階で遅らせることにより、振動体10を実際に駆動した場合には、屈曲振動の振動波形は、図11中に点線で示すように、α°の位相進みが解消され、屈曲振動の振動波形を縦振動の振動波形に対してきっちり90°遅らせることができる。
【0024】
このため、第1駆動信号14、第2駆動信号16、および第3駆動信号の振幅が同じで、何ら変更されない本実施形態では、縦振動時の振動振幅および屈曲振動時の振動振幅が略同じになるように振動体10の縦横比等を設計しておけば、接触部18の振動軌跡は、図11に点線で示すように、略真円となる。具体的には、法線Nに対して傾斜した長軸Alおよび短軸Asを有する従来の楕円形状の振動軌跡は、法線Nと直交するX軸に長軸Alが重なり、法線Nと平行なY軸に短軸Asが重なるように略真円を形成するのである。
【0025】
そして、振動軌跡が略真円となることにより、接触部18が被駆動体19と接触している間での速度変化を従来に比して小さくでき、接触部18および被駆動体19の互いの摩耗を抑制できる。また、接触部18の振動軌跡が略真円となることで、被駆動体19の送り量f2を従来の送り量f1よりも大きくでき、スピードを大きくできるという効果もある。
【0026】
〔第2実施形態〕
図3には、本発明の第2実施形態に係る圧電アクチュエータ1の構成がブロック図として示されている。なお、前記背景技術および第1実施形態で説明した構成と同一構成には同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。次説する第3実施形態でも同様である。
【0027】
本実施形態での圧電アクチュエータ1のドライバ回路30は、第1実施形態での構成に加え、速度検出手段41、最大速度判定手段42、出力切換手段43、電圧調整信号生成手段44、および電圧調整手段45を備えており、第2駆動電圧16(図2)の前述した位相調整や、その駆動振幅つまり電圧レベルの調整を自動的に行うように構成されている。
【0028】
速度検出手段41は、例えばエンコーダ等で構成され、被駆動体19の回転速度を検出し、その検出信号を最大速度判定手段42に出力する。
最大速度判定手段42は、検出信号の入力をトリガとして信号生成用の指令信号を出力切換手段43に出力するとともに、被駆動体19が最高速度で駆動されているかを判定する。
出力切換手段43は、信号生成用の指令信号を位相調整信号生成手段35に出力するか、または電圧調整信号生成手段44に出力するかを切り換える切換スイッチとして機能する。スイッチ切換用の切換信号(図3中の点線ライン)は、位相調整信号生成手段35または電圧調整信号生成手段44から出力切換手段43に出力される。
【0029】
電圧調整信号生成手段44は、信号生成用の指令信号に基づいて電圧レベルつまり駆動振幅の大きさを調整するための電圧調整用の指令信号を生成し、電圧調整手段45に出力する。なお、同様な信号生成用の指令信号が入力される位相調整信号生成手段35では、その指令信号に基づいた位相調整用の指令信号が自動的に生成され、位相調整手段33に出力される。
電圧調整手段45は、電圧調整用の指令信号に基づき、位相調整された第2駆動信号16の駆動振幅の大きさを調整する機能を有する。このことから、位相が反転した第3駆動信号の電圧レベルも調整されることとなる。
【0030】
このような実施形態では、図11に示すような従来の楕円形状の振動軌跡を、図4(A)に示す略真円の振動軌跡に自動的に調整するとともに、図4(B)に示すように、例えばX軸方向の振動振幅を変えずに、Y方向に沿った振動振幅のみを大きくして送り量f3をより大きくし、スピードを一層大きくすることが可能である。
【0031】
このことについて、図5に示すフローチャーチをも参照して詳説する。
先ず、図2に示す第1駆動信号14を第1駆動電極11に印加し、点線で示す従来通りの第2駆動信号16およびこれを反転した第3駆動信号を第2、第3駆動電極12,13に印加し、よって被駆動体19を駆動する。この状態において速度検出手段41は、被駆動体19の回転速度を速度S1として検出する(ST1)。
【0032】
次いで、最大速度判定手段42は、速度S1をストアしておくとともに、出力切換手段43に対して信号生成用の指令信号を出力する。ここで、出力切換手段43は、指令信号を位相調整信号生成手段35に流すようにセットされており、指令信号は位相調整信号生成手段35に出力される。位相調整信号生成手段35は、指令信号を入力すると、被駆動体19の速度S1に関わらず、第2駆動信号16の位相を所定の角度だけ+側(遅らせる側)に調整する指令信号を生成し、位相調整手段33に出力する。位相調整手段33は、その指令信号に基づいて第2駆動信号16の位相を第1駆動信号14に対して所定角度だけ遅らせて調整する。これにより、第3駆動信号の位相も進むことになる(ST2)。以下、第3駆動信号については、第2駆動信号16と同じであるため、説明を省略する。
【0033】
この後、速度検出手段41は、被駆動体19の回転速度を速度S2として検出し、検出信号を最大速度判定手段42に出力する(ST3)。最大速度判定手段42は、位相が遅れる前の速度S1と遅らせた場合の速度S2とを比較する(ST4)。位相を遅らせた際の速度S2が速度S1よりも小さい場合、この速度S2を速度S1としてストアし(ST5)、この後に、出力切換手段43を通して信号生成用の指令信号を位相調整信号生成手段35に出力する。これを受けた位相調整信号生成手段35は、第2駆動信号16の位相を所定の角度だけ−側(進ませる側)に調整する指令信号を生成し、位相調整手段33に出力する。位相調整手段33は、その指令信号に基づいて第2駆動信号16の位相を第1駆動信号14に対して所定角度だけ進ませ、元に戻す(ST6)。これにより、回転速度が低速側にシフトしていくのを防止する。
【0034】
さらに、ST3に戻り、速度検出手段41は再度、被駆動体19の回転速度を速度S2として検出することになるが、次のST4では、速度S2の方が速度S1よりも大きくなることが必定であるため、ST7に進む。ここでは、最大速度判定手段42が速度S2を速度S1としてストアし(ST7)、位相調整信号生成手段35は再び、第2駆動信号16の位相を所定の角度だけ−側に調整する指令信号を生成し、位相調整手段33は、その指令信号に基づいて第2駆動信号16の位相を進ませる(ST8)。さらに、速度検出手段41が回転速度を速度S2として検出し(ST9)、最大速度判定手段42は速度S2と速度S1とを比較する(ST10)。ここでは、速度S2が速度S1よりも大きいことが必定であるから、ST7に戻り、ST7〜ST10を繰り返す。このことにより、位相は徐々に−側に調整され、被駆動体19の回転速度は増していき、接触部18の振動軌跡は図4(A)に示すように楕円形から真円に近づく。
【0035】
しかしながら、引き続き位相を−側に調整していくと、振動軌跡は真円を通り越し、当初の楕円形状とは傾き方向の異なる別の楕円形状に変化し始めるため、縦振動側の振動振幅が小さくなって回転速度が低下する。ST10にて、速度S2が小さいと判断された場合には、そのような状態にある。そこで、そのような場合、位相調整手段33は、位相を+側に一段階戻し、これまでで最大の回転速度を維持させる(ST11)。すなわち、振動軌跡を略真円に自動的に維持できる。また、位相調整手段33は出力切換手段43に切換信号を出力し、最大速度判定手段42からの指令信号が電圧調整信号生成手段44に出力されるように出力切換手段43を切り換える(ST12)。
【0036】
この後、電圧調整信号生成手段44は、第2駆動信号16の電圧を所定の大きさだけ+側(大きくする側)に調整するための指令信号を電圧調整手段45に出力し、この指令信号に基づいて電圧調整手段45は、第2駆動信号16の電圧レベルを上げる(ST13)。次いで、速度検出手段41が回転速度を速度S2として検出し(ST14)、最大速度検出手段42は、先程まで最大の回転速度としてストアされていた速度S1と速度2とを比較する(ST15)。第2駆動信号16の電圧レベルを上げると、屈曲振動側の振動振幅が大きくなるので、振動軌跡はY軸に重なるように長軸Alが形成された楕円形状となり、送り量f3が大きくなってスピードが大幅に増す。従って、ST15では必然的に「NO」となり、ST16に進む。ここでは、最大速度判定手段42が速度S2を速度S1としてストアする(ST16)。そして、ST13〜16を繰り返すことで、回転速度をさらに高速側に更新することになる。
【0037】
しかし、回転速度は無限に高速化される訳ではなく、振動体10の形状や大きさによって屈曲振動の最大振動振幅が制限されるため、電圧レベルを上げ続けると、やがて回転速度が一定となるか、または逆に小さくなる。従って、このような状況をST15にて判定すると、電圧調整手段45は、第2駆動信号16の電圧レベルを一段階−側(下げる側)に調整し、その時の回転速度を最大回転速度として維持する(ST17)。これにより、被駆動体19を最大回転速度で自動的に駆動することができる。
【0038】
〔第3実施形態〕
図6に示す第3実施形態のドライバ回路30では、被駆動体19の回転速度を比較する手段として、前記第2実施形態と同様な最大速度判定手段42の他、予め設定された目標速度Sと速度検出手段41で検出された実際の速度S2とを比較する速度比較手段46が設けられている。また、速度比較手段46には、適宜な記憶素子等で構成された目標速度記憶手段47が接続されている。このような目標速度記憶手段47には前述のように、目標速度Sが予め設定、記憶されている。
【0039】
本実施形態では、第2実施形態と同じく、ST1〜ST11までのステップにより、接触部18の振動軌跡を略真円に自動的に調整できる。また、ST11の後には、図7に示すように、回転速度を目標速度Sに維持させることができる。すなわち先ず、図5でのST11の後、速度検出手段41は回転速度を速度2として検出する(ST18)。次いで、速度比較手段46は、目標速度記憶手段47に格納された目標速度Sと速度S2とを比較する(ST19)。速度S2が目標速度よりも小さい場合には、電圧調整信号生成手段44が指令信号を出力し、この指令信号に基づいて電圧調整手段45は電圧レベルを所定の大きさだけ大きくする(ST20)。そして、ST18〜ST19を繰り返すことで、速度S2は自動的に目標速度Sに達するようになる。速度S2が目標速度Sに達したり、目標速度Sを越えたりした場合には、電圧調整手段45は電圧レベルを所定の大きさだけ小さくし(ST21)、ST18〜ST21を繰り返すことで、速度S2を目標速度近辺に維持させることができる。
【0040】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、振動体として第1〜第3電極11〜13を有した矩形状の振動体10が用いられていたが、図8に示すような円形の振動体50を用いてもよい。振動体50は、中央の開口部分周りに設けられた第1駆動電極51と、その外周側に周方向に沿って設けられた第2、第3駆動電極52,53とを有している。これらの第1〜第3駆動電極51〜53が、前記各実施形態での第1〜第3駆動電極11〜13にそれぞれ相当し、第1駆動電極51に第1駆動信号を印加することで縦振動が励振し、第2、第3駆動電極52,53に互いに位相が反転した第2、第3駆動電圧を印加することで縦振動とは平面的に直交する向きで横振動が励振され、接触部54には楕円形状や略真円形状の振動軌跡を生じさせることができる。なお、図8に示すドライバ回路30は、第1実施形態と同じ構成であるが、第2、第3実施形態のドライバ回路30と円形の振動体50とを組み合わせてもよい。
【0041】
前記実施形態では、第2駆動信号16の位相や電圧レベルを調整するように構成されていたが、これに限らず、第1駆動信号14を調整したり、あるいは第1、第2駆動信号14,16の両方を調整したりする構成にしてもよい。
【0042】
前記実施形態では、第2、第3駆動電極12,13を有し、これらに互いに反転した駆動信号を印加するように構成されていたが、第2,第3駆動電極12,13の一方のみが設けられている場合でも、接触部18に所定の振動軌跡を生じさせ、被駆動体19を駆動できるので、そのような場合でも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…圧電アクチュエータ、10…振動体、11…第1駆動電極、12…第2駆動電極、14…第1駆動信号、16…第2駆動信号、33…位相調整手段、45…電圧調整手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の振動モードおよび第2の振動モードが同時に励振され、接触部が振動する圧電素子と、
前記圧電素子に前記第1の振動モードを励振させる第1駆動信号を印加する第1駆動電極と、
前記圧電素子に前記第2の振動モードを励振させる第2駆動信号を印加する第2駆動電極と、
位相調整信号生成手段からの位相調整信号の出力により、前記第1駆動信号と前記第2駆動信号との位相差を調整する位相調整手段と、
を備えた圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1の振動モードは縦振動モードであり、前記第2の振動モードは屈曲振動モードである請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記位相調整信号生成手段は、前記第1駆動信号の位相を調整する請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記位相調整信号生成手段は、前記第2駆動信号の位相を調整する請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記位相調整信号生成手段は、前記第1駆動信号および前記第2駆動信号の位相を調整する請求項2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記接触部の振動により回転する被駆動体と、
前記被駆動体の回転速度を検出する速度検出手段と、
をさらに備え、
前記位相調整信号生成手段は、前記速度検出手段により検出された検出信号に基づき前記位相調整信号を出力する請求項1乃至5何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記速度検出手段により検出された検出信号に基づき電圧調整信号を出力する電圧調整信号生成手段と、
前記電圧調整信号の出力により、前記第1駆動信号または前記第2駆動信号の少なくとも一方の駆動振幅の大きさを調整する電圧調整手段と、
をさらに備えた請求項6に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
前記速度検出手段により検出された回転速度と、予め設定された目標速度とを比較する速度比較手段と、
検出された前記回転速度が前記目標速度より小さい場合には、前記第1駆動信号または前記第2駆動信号の少なくとも一方の駆動振幅の大きさを大きくする電圧調整手段と、
をさらに備えた請求項6に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項9】
前記電圧調整手段は、検出された前記回転速度が前記目標速度より大きい場合には、前記第1駆動信号または前記第2駆動信号の少なくとも一方の駆動振幅の大きさを小さくする請求項8に記載の圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−249521(P2012−249521A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204097(P2012−204097)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2010−28717(P2010−28717)の分割
【原出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】