説明

圧電セラミックスの検査方法

【課題】分極処理が適正に行われているかどうかを確実に確認できる圧電セラミックスの検査方法を提供する。
【解決手段】未分極の圧電セラミックスの被検査体について、50℃以上100℃以下の所定の温度で比誘電率を測定するステップと、未分極の被検査体を分極処理するステップと、分極処理された被検査体について、所定の温度で比誘電率を測定するステップと、を含み、未分極の被検査体の比誘電率と分極処理された被検査体の比誘電率との比較結果により被検査体の分極処理の成否を判定する。このように、50℃以上100℃以下の所定の温度で測定した比誘電率を比較するため、明確に分極処理の成否を判定できる。その結果、常温での静電容量の簡易検査が不可能な圧電セラミックスの簡易検査が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分極処理の成否を判定する圧電セラミックスの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、精密位置決め用アクチュエータや超音波モータ等の各種分野へ応用されている。たとえば、超音波モータの駆動を行うには、分極処理が行われた圧電セラミックスを使用する必要がある。そこで、通常、製造工程では分極処理が十分に行われたことを確認し、製品として出荷する(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0003】
従来、常温における分極処理前後の比誘電率の変化を確認し、圧電セラミックスの分極処理を検査する方法が知られている。たとえば、ある配合のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)では分極処理を行った場合、分極前に対し分極後の比誘電率は常温では一定割合増加する。そこで分極前の静電容量値を測定しておき、分極処理後に再度静電容量を測定することによって適正に分極処理が行われたかどうか判別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−332777号公報
【特許文献2】特開2002−84008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、常温における比誘電率が分極処理前後で変化しない場合や変化が小さい圧電セラミックス材料が存在する。このような圧電セラミックス材料については、分極処理前後の静電容量の確認では適正に分極処理が行われたか確認することが難しい。これに対し、共振周波数等のアドミッタンス変化を確認する方法や高電界を印加した場合の実測変位量を確認する方法も考えられる。しかしながら、これらの方法は製品製造においては検査方法が煩雑かつ時間を要することから量産製造に向かない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、分極処理が適正に行われているかどうかを確実に確認できる圧電セラミックスの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電セラミックスの検査方法は、未分極の圧電セラミックスの被検査体について、50℃以上100℃以下の所定の温度で比誘電率を測定するステップと、前記未分極の被検査体を分極処理するステップと、前記分極処理された被検査体について、前記所定の温度で比誘電率を測定するステップと、を含み、前記未分極の被検査体の比誘電率と前記分極処理された被検査体の比誘電率との比較結果により前記被検査体の分極処理の成否を判定することを特徴としている。
【0008】
このように、本発明の圧電セラミックスの検査方法では、50℃以上100℃以下の所定の温度で測定した比誘電率を比較するため、明確に分極処理の成否を判定できる。その結果、常温での静電容量の簡易検査が不可能な圧電セラミックスの簡易検査が可能になる。
【0009】
(2)また、本発明の圧電セラミックスの検査方法は、前記被検査体は、BNT−BT系圧電セラミックスで形成されていることを特徴としている。特に、分極処理の有無によって常温での静電容量に差が生じないBNT−BT系圧電セラミックスについて、本発明の検査方法が有効となる。
【0010】
(3)また、本発明の圧電セラミックスの検査方法は、前記所定の温度は、50℃以上60℃以下であることを特徴としている。このように50℃以上60℃以下で検査することで、手作業による検査が可能になり、作業効率が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分極処理が適正に行われているかどうかを確実に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】材料に対する分極処理前後の静電容量を示す表である。
【図2】温度に対するBNT−BT系圧電セラミックスの分極処理前後のそれぞれの比誘電率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(材料)
上記の通り、常温における比誘電率が分極処理前後で変化しない場合や変化が小さい圧電セラミックス材料が存在する。図1は、材料に対する分極処理前後の静電容量を示す表である。PZTを材料とする圧電セラミックスに対して、常温で分極処理前後の静電容量を測定したところ、分極前の静電容量が100nFであるのに対し、分極後の静電容量が130nFであった。したがって、PZTを材料とする圧電セラミックスについては、分極処理前後で静電容量が明らかに異なるため、常温で分極処理が行われたことを確認できた。
【0015】
一方、BNT−BT系圧電セラミックスに対して、常温で分極処理前後の静電容量を測定したところ、分極前の静電容量が50nFであり、分極後の静電容量も50nFであった。したがって、BNT−BT系圧電セラミックスPZTを材料とする圧電セラミックスについては、分極処理前後で静電容量に変化がなく、常温では静電容量の値で分極処理が行われたことを確認できなかった。なお、BNT−BT系圧電セラミックスとは、x(Bi0.5Na0.5TiO)−(1−x)BaTiO(ただし、0<x<1)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とする圧電セラミックスである。
【0016】
(検査方法)
上記のBNT−BT系圧電セラミックスのような材料については、常温での分極処理前後での比誘電率の差は小さいが、常温より高い温度であれば、比誘電率が分極処理前後で大きく異なる。図2は、温度に対するBNT−BT系圧電セラミックスの分極処理前後のそれぞれの比誘電率を示すグラフである。
【0017】
図2に示すように、例えば50℃以上100℃以下の温度であれば、BNT−BT系圧電セラミックスについて分極処理前後での温度に対する比誘電率の挙動が大きく異なる。また、この温度範囲であれば脱分極を起こすこともない。この特性を利用して、50℃以上100℃以下の温度の中である温度を選択して、その選択された所定の温度で分極処理前後の比誘電率の値から適正に分極処理が行われているかどうかを判別することができる。
【0018】
具体的には、まず、未分極の圧電セラミックスの被検査体について、50℃以上100℃以下の所定の温度で比誘電率を測定する。次に、未分極の被検査体を分極処理する。そして、分極処理された被検査体について、所定の温度で比誘電率を測定する。最後に、未分極の被検査体の比誘電率と分極処理された被検査体の比誘電率との比較結果により被検査体の分極処理の成否を判定する。このようにして、明確に分極処理の成否を判定できる。その結果、常温での静電容量の簡易検査が不可能な圧電セラミックスの簡易検査が可能になる。所定の温度は50℃以上60℃以下であればさらに好ましい。この温度範囲で検査することで、手作業による検査が可能になり、作業効率が向上する。
【0019】
なお、上記の実施形態では、BNT−BT系圧電セラミックスを例として挙げているが、たとえばBi0.5(Na1−x0.5TiOで表されるような、いわゆるBNT−BKT系圧電セラミックスに対しても本発明の検査方法は好適である。また、常温で分極処理前後の比誘電率が変化しない材料であれば、これらに限らず本発明の適用が可能である。
【0020】
(実験)
BNT−BT系圧電セラミックスについて焼結体ペレットの両主面に銀ペーストを印刷し、焼成することで電極を設けた。そして、60℃で比誘電率を測定した。測定は、インピーダンスゲインフェーズアナライザを用い電極間に1V、1kHzの電圧を印加して行った。100〜150℃、5〜20分、2〜4kV/mmの条件で、電極に電圧を印加して焼結体を厚み方向に分極処理した。次に、60℃で比誘電率を測定した。常温で比誘電率を測定した。その結果、分極前の比誘電率が2000であるのに対し、分極後の比誘電率が1000であることが分かった。以上、60℃で測定された比誘電率は、分極処理前後で明らかに異なっていたため、本発明の方法により分極処理が適正に行われているかどうかを確実に確認できることが実証された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分極の圧電セラミックスの被検査体について、50℃以上100℃以下の所定の温度で比誘電率を測定するステップと、
前記未分極の被検査体を分極処理するステップと、
前記分極処理された被検査体について、前記所定の温度で比誘電率を測定するステップと、を含み、
前記未分極の被検査体の比誘電率と前記分極処理された被検査体の比誘電率との比較結果により前記被検査体の分極処理の成否を判定することを特徴とする圧電セラミックスの検査方法。
【請求項2】
前記被検査体は、BNT−BT系圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする請求項1記載の圧電セラミックスの検査方法。
【請求項3】
前記所定の温度は、50℃以上60℃以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電セラミックスの検査方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−74567(P2012−74567A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218728(P2010−218728)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】