説明

圧電体薄膜素子及びこれを用いた超音波センサ、並びにその製造方法

【課題】高感度で、かつ、サイズの小さい圧電体薄膜素子及びこれを用いた超音波センサ、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】対向電極(120,122)を備えた圧電体膜(122)は、凹部(114)を有する基板(112)に支持されている。このダイアフラム構造において、凹部(114)の位置に対応する変位可能部位の対向電極(120,122)及び圧電体膜(122)を除いたダイアフラム部の厚みを0以上1μm以下とする。より好ましくは、ダイアフラム部を圧電体膜(122)と対向電極(120,122)のみで構成する。クラック防止の観点から、圧電体膜(122)の厚みは1μmを超えることが好ましい。圧電体膜(122)は、PZT系材料であって、Pb量(或いはAサイトの材料)が1.0以上1.1未満であることが好ましく、Nbを2%以上含むことが好ましい。製造時には圧電体膜(120)を表面保護部材(150)で覆い、機械的衝撃から保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電体薄膜素子に係り、特に圧電体薄膜を利用したダイアフラム型の薄膜素子、及びこれを用いた超音波センサ並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリコン基板上に形成されるカンチレバー方式の超音波センサが開示されている。この超音波センサは、カンチレバーの基端部がシリコン基板の凹部の二辺と連結されており、基端部にかかる応力の分散により、カンチレバーの破損防止、歩留まり向上が図られている。
【0003】
特許文献2には、シリコン基板上にダイアフラム構造の超音波受信素子を複数配置してなる圧電型超音波センサが開示されている。この構造は、超音波受信部の圧電体膜の全方位(四辺)が基板に固定されているため、超音波を受信して圧電体膜に圧力が加わったときに、大きな変位が得られにくく、圧電体膜から大きな電圧(検知信号)を得ることが難しい。そのため、通常は、ダイアフラムのサイズ(面積)を大きくすることで、感度を確保する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3272141号公報
【特許文献2】特許4228827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ダイアフラム型センサの感度は、ダイアフラムの面積の2乗に比例し、ダイアフラムの厚みの3乗に反比例する。矩形ダイアフラムの場合、以下の関係式で表される。
【0006】
(感度)∝(ダイアフラムの1辺)/(ダイアフラムの厚み)
感度をアップさせるためにダイアフラムの1辺を大きくすると、撓み(変位)が大きくなり、感度は向上するが、素子のサイズが大きくなってしまう。また、高感度化するためには、ダイアフラムの厚みを低減させることが必要となるが、単にダイアフラムを薄くするだけでは、クラック等の発生の問題があり、信頼性や製造歩留まりが低下する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、高感度で、かつ、サイズの小さい圧電体薄膜素子及びこれを用いた超音波センサ、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0009】
(発明1):発明1に係る圧電体薄膜素子は、圧電体膜と、前記圧電体膜を挟んで該圧電体膜の両側に配設される対向電極と、前記対向電極を備えた前記圧電体膜を支持する基板と、前記基板上に設けられた前記圧電体膜の変位可能部位に対応して、前記基板の当該対応位置に形成された凹部と、を備え、前記変位可能部位の前記対向電極及び前記圧電体膜を含んで構成されるダイアフラム部から前記対向電極及び前記圧電体膜を除いた残部分の厚みが0以上1μm以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ダイアフラム型の圧電体薄膜素子において、基板に形成された凹部に対応した変位可能な膜部分(ダイアフラム部)について、対向電極及び圧電体膜以外の膜要素が存在しないか(残部分の厚みがゼロ)、或いは、実質的に変位性能に影響しない程度の厚み(1μm以下)の層しか存在しない。
【0011】
つまり、従来、圧電体膜を保持する機能を有した「振動板」に相当する部材要素が存在しない。したがって、本発明の圧電体膜は、その動き(変位)が阻害・抑制されることなく、大きな変位が得られる。これにより、大きな出力電圧を得ることができ、感度の高い、小サイズのセンサを実現できる。
【0012】
(発明2):発明2に係る圧電体薄膜素子は、発明1において、前記ダイアフラム部は、実質的に前記圧電体膜と前記対向電極のみで構成されている自立膜であることを特徴とする。
【0013】
「実質的に」とは、圧電体膜の変位を阻害・抑制する影響力が殆どないような膜要素の有無は問題にしないという意味である。例えば、製造工程においてエッチングストッパー層として利用した酸化膜の残存部、或いは、対向電極の上に島状のパターンで付加された膜片などは、振動板として実質機能しない。したがって、これら酸化膜や膜片が存在していても、実質的に自立膜であると解釈する。
【0014】
(発明3):発明3に係る圧電体薄膜素子は、発明1において、前記残部分は、前記基板の材料の熱酸化膜であることを特徴とする。
【0015】
(発明4):発明4に係る圧電体薄膜素子は、発明1乃至3のいずれか1項において、
前記残部分の有無による前記圧電体膜の変位量の差が5%以下であることを特徴とする。
【0016】
ダイアフラム部が、圧電体膜と対向電極のみで構成された自立膜である場合(残存部が無い場合)に、ある規定の圧力に対する変位量を基準変位量とし、圧電体膜及び対向電極以外の要素が存在する場合(残部分が有る場合)の同規定圧力に対する変位量を比較したとき、その変位量の差が基準変位量に対して5%以下である場合には、実質的に影響しない程度であるとして取り扱うことができる。
【0017】
(発明5):発明5に係る圧電体薄膜素子は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記圧電体膜の厚みが1μmを超えるものであることを特徴とする。
【0018】
圧電体膜が薄すぎると、クラックが発生しやすくなるため、1μmを超える厚みであることが好ましい。より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。
【0019】
(発明6):発明6に係る圧電体薄膜素子は、発明1乃至5のいずれか1項において、前記圧電体膜がPZT系のペロブスカイト型酸化物であり、ABO型の結晶構造におけるAサイトに入る材料の組成比が1.0以上、1.1未満であることを特徴とする。
【0020】
Aサイトに入る材料(例えば主としてPbであるが、BiなどAサイトに置換されている材料も含む)が少ないと、圧電体膜の表面が荒れてクラックが入りやすい傾向にある。
【0021】
その一方、Aサイトの材料のモル比が1.1以上あると、湿度等によって特性が変化してしまう可能性がある。よって、発明6に記載の条件が好ましい。
【0022】
(発明7):発明7に係る圧電体薄膜素子は、発明1乃至6のいずれか1項において、前記圧電体膜がPZT系のペロブスカイト型酸化物であり、Nbを2%以上含むことを特徴とする。
【0023】
Nb量が多くなると、圧電定数が大きくなる傾向にある。また、Nbを添加することにより、Nbを添加しないものと比較して材料のヤング率が下がるため、クラックが発生しに難くなる。
【0024】
(発明8):発明8に係る圧電体薄膜素子は、発明1乃至7のいずれか1項において、前記基板に複数の前記凹部が形成され、各凹部に対応した前記ダイアフラム部が複数形成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の圧電体薄膜素子は、1つの基板に複数のダイアフラム構造をアレイ状に形成することができ、小型かつ高感度のアレイ型のセンサを実現することができる。
【0026】
(発明9):発明9は前記目的を達成する超音波センサを提供する。すなわち、発明9に係る超音波センサは、発明1乃至8のいずれか1項に記載の圧電体薄膜素子の前記変位可能部位に超音波を受け、前記圧電体膜の変位に応じて発生する電圧の信号を前記対向電極から得ることを特徴とする。
【0027】
(発明10):発明10は前記目的を達成する製造方法を提供する。すなわち、発明10に係る圧電体薄膜素子の製造方法は、基板の第1面上に第1電極、圧電体膜及び第2電極を重ねて形成する工程と、前記第1電極、圧電体膜及び第2電極を形成した前記基板の前記第1面側の上を覆う表面保護部材を前記基板に接合する工程と、前記表面保護部材を接合した前記基板の前記第1面と反対側の第2面側から当該基板をエッチングして凹部を形成する工程と、前記凹部を形成した後に前記表面保護部材を除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0028】
発明10によれば、発明1乃至8の圧電体薄膜素子や発明9の超音波センサを製造することができる。特に、表面保護部材によって圧電体膜を機械的な衝撃から保護することができ、製造時の破損等を防止できるとともに、基板のハンドリング性が向上し、製造効率が高まる。なお、第1電極と第2電極は発明1等でいう「対向電極」に相当する。
【0029】
(発明11):発明11に係る圧電体薄膜素子の製造方法は、発明10において、前記基板の第1面には熱酸化膜が形成されており、前記第1電極は前記熱酸化膜に重ねて形成され、前記エッチングの際に前記熱酸化膜がストッパー層となることを特徴とする。
【0030】
(発明12):発明12に係る圧電体薄膜素子の製造方法は、発明11において、前記凹部に前記熱酸化膜が残されたダイアフラム構造を有する圧電体薄膜素子を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、小型かつ高感度な圧電体薄膜素子を提供することができる。また、本発明によれば、高感度でありながらサイズの小さい超音波センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る圧電体薄膜素子を用いたダイアフラム型センサの断面図
【図2】図1の平面図
【図3】ダイアフラムが電極と圧電体のみからなる自立膜である構成例を示す断面図
【図4】ダイアフラム型センサの製造プロセスの説明図
【図5】比較例のセンサ構造を示す断面図
【図6】シミュレーションの計算に用いたダイアフラム構造の斜視図
【図7】図6の平面図
【図8】シミュレーションにより、振動板の厚みを変化させてダイアフラムの共振周波数と出力電圧を計算した結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明の実施形態に係る圧電体薄膜素子を用いたダイアフラム型センサの断面図、図2はその平面図である。なお、図1は図2中の1−1線に沿う断面図となっている。ここでは、1つの素子要素のみを示したが、同構造の素子が基板上に複数個配列されたアレイ状のセンサが構成される。
【0035】
<センサの構造について>
このダイアフラム型センサ10は、基板12の片側面(図1において上面、以下「表面」という場合がある。)に、下部電極20、圧電体膜22、上部電極24が積層形成された構成を有する。圧電体膜22を挟んで下部電極20と上部電極24とが対向して配置された構成により、圧電体膜22の変位を電圧信号に変換する圧電素子26が形成される。
【0036】
一方、基板12には、圧電素子26が形成されている面と反対側の面(図1において下面、以下「裏面」という場合がある。)から当該基板12の一部が除去されてなる凹部14が形成されている。
【0037】
本例の凹部14は、平面視で略矩形(本例では正方形とした)であるが、矩形に限らず、他の多角形、円形、楕円形なども可能である。凹部14の空隙部の位置に対応した圧電体膜22の部分(符号28)は、その下面が拘束されていない状態(非拘束)となり、変位可能な領域となる。符号28で示した非拘束領域が「変位可能部位」に相当し、超音波センサとして超音波を受信する受信部要素となる。
【0038】
下部電極20は、基板12上の複数の素子について一体的に繋がった共通電極として構成される。上部電極24は、各素子の凹部14に合わせて個別にパターニングされている。圧電体膜22が変位すると、その歪み変形に応じて電圧が発生する。圧電体膜22が図1の下方に撓むと、真ん中付近では圧縮方向に応力がかかり、端の方(拘束部に近い周辺部)では伸びる方向に応力がかかる。したがって、上部電極24は、ダイアフラムの全面に形成するよりはむしろ、真ん中付近のみ、或いは、端の部分のみに設ける構成が好ましい。
【0039】
本例(図1、図2)では、凹部14の開口形状(ダイアフラムの平面形状)の中心部分に、その開口面積(ダイアフラムの面積)よりも小さい面積の上部電極24が形成されている。なお、図1、図2では、配線のための引き出し電極等の図示は省略した。
【0040】
本実施形態によるダイアフラム型センサ10は、凹部14に対応した変位可能部位28において、圧電体膜22の下面を保持するための振動板に相当する部材要素を有していない。図1において、下部電極20の下面に形成されている符号30で示した膜は、基板12の熱酸化膜である。この熱酸化膜30は、製造プロセスにおいて基板12をエッチングして凹部14を形成した際にエッチングストッパー層として用いられたものである。熱酸化膜30の厚みは0.1μm(100nm)程度であり、振動板として実質機能せず、圧電体膜22の変位に殆ど影響しない。
【0041】
圧電体膜22の変位を阻害・抑制しないという観点から、圧電体膜22と電極(20,24)を除いたダイアフラム部の厚み(「残部分」に相当)を1μm未満とする。好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0「ゼロ」とする。
【0042】
残部分の厚みが0「ゼロ」というのは、図3に示すように、ダイアフラムが電極(20,22)と圧電体膜22のみの自立膜であることを意味している。図3に示した構成が最も好ましい。
【0043】
また、圧電体膜22は、クラック防止の観点から、厚みを1μmよりも厚くすることが好ましい。
【0044】
<圧電体の物性について>
圧電体膜22は、PZT系とし、Pb量を1.0以上、1.1未満とする。Pbが少ないと膜の表面が荒れてクラックが入りやすいためのである。なお、Pbが1.0以下であっても、Bi等のAサイトに置換されている材料があればよい。また、Pbが1.1以上あると、温度等によって特性が変化してしまう可能性があるため、1.1未満とすることが好ましい。
【0045】
圧電体材料においてPZTに少なくともNbが2%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは、10%以上であることが好ましい。Nb量を増やすと、圧電定数が大きくなる。また、Nbを添加することによってヤング率が下がり、クラックに対して強い膜となる。例えば、Nbを添加しない材料のヤング率は70〜90GPaであるのに対し、Nbを添加することにより、50GPa程度となる。
【0046】
超音波センサとして好適なダイアフラム構造上の共振周波数を考慮すると、圧電体のヤング率が60GPa以下であることが好ましい。
【0047】
<製造方法について>
図4は本発明の実施形態に係る圧電体薄膜素子を用いたダイアフラム型センサの製造プロセスを示す図である。
【0048】
(工程1):基板表面に熱酸化膜(SiO膜)130が所定厚(例えば、100nm)形成されたシリコン(Si)ウエハ112を基板として用いた(図4(a))。
【0049】
(工程2):このSiウエハ112の片側面(図4において上面)に下部電極120としてTi20nmとIr150nmを積層形成した。その後、当該下部電極120の上にNbを10%添加したPZT膜122を500度の成膜温度で形成した(図4(b))。PZT膜122の膜厚は3μmとした。さらに、このPZT膜1222の上面に、上部電極124としてPtを形成し、所望の構造にパターニングした。上部電極124の膜厚は、下部電極120と同程度の膜厚とし、超音波受光部となるダイアフラム部の平面形状、並びに配列形態に合わせて上部電極124がパターニングされる。
【0050】
(工程3):次に、図4(c)に示すように、PZT膜122の上面に、表面保護部材150を貼り付けた。この表面保護部材150は、PZT膜122の上面との間に空隙152を形成しつつ、PZT膜122の上面を覆うキャップ状の構造を有する。表面保護部材150によってPZT膜122の上部を包囲することにより、後述のエッチング工程(図4(d))の最中やエッチング後において、PZT膜122が機械的なダメージを受けないようになっている。
【0051】
保護部材として特に制限はないが、材質としてSi、ガラス、ステンレス、樹脂などのものを使うことができる。保護部材とセンサ部はレジスト、接着剤、発泡テープなどを用いて貼り合わす事ができる。
【0052】
(工程4):表面保護部材150によってPZT膜122を覆い、PZT膜122を保護した状態でSiウエハ112の裏面側から、ボッシュ法にてシリコンを表面側のSiO膜130までエッチングする(図4(e))。エンチングによって除去形成された凹部114の空間がPZT膜122の変位を許容する空間(空隙部)となる。凹部114の周囲に存在するSi層によってPZT膜122の下面が固定(拘束)され、凹部114が固定され、ダイアフラム構造が形成される。
【0053】
(工程5):その後、表面保護部材150を除去し、ダイアフラム型センサ110を完成させる。
【0054】
除去方法としては、特にこだわらないが、溶剤によって接着部の部材を溶かしたり、機械的に剥離させたり、熱などによって剥離させたりすることができる。
【0055】
なお、工程4において、さらに凹部114のSiO膜を除去して、図3の構造を作製してもよい。
【0056】
<比較例>
比較のために、図5に示すダイアフラム型センサを作成した。図5中、図4(e)の実施例に係るセンサと同一又は類似する要素には同一の符号を付した。図5の比較例は、ダイアフラム部におけるPZT膜122の下面(裏面)側に、振動板165に相当する部材が設けられている。このような構成の製造方法としては、例えば、図4で説明した工程4(図4(d))に代えて、振動板165に相当するシリコン層を残してエッチングを停止させることにより、形成することができる。或いはまた、基板としてSOI(Silicon On Insulator)基板を用い、支持基板層に凹部114を形成し、活性層を振動板165として利用する構成も可能である。
【0057】
<比較評価1>
図5に示した構造において、ダイアフラム部における圧電素子(圧電体と電極)以外の厚み(図5の符号t)を変えて、2つの例(実施例2、比較例1)を作成し、実施例1(図4(e))、実施例2及び比較例1についてセンサ感度を比較評価して、その結果を表1にまとめた。
【0058】
【表1】

【0059】
圧電体及び電極を除いたダイアフラム部の厚み(t)が1μmを超えると、センサの感度が低下する。
【0060】
<比較評価2>
また、別の比較例として、図1に示したセンサ構造におけるPZT膜の厚みを1μmとした構成を作成した(比較例2)。この比較例2と実施例とを対比して表にまとめた。
【0061】
【表2】

【0062】
<比較評価3>
図1に示したセンサ構造おけるPZT膜の形成に際して、Pb量を変えて、PZT膜を形成した場合の実施例3、比較例3〜4を作成した。この比較例3〜4と実施例1とを対比して表にまとめた。
【0063】
【表3】

【0064】
<比較評価4>
図1におけるPZT膜の形成に際して、Nbの添加量を変えて、PZT膜を形成した場合の実施例4〜7と比較例5を作成した。この比較例5と各実施例とを対比して表にまとめた。
【0065】
【表4】

【0066】
<比較評価5>
図4の実施例で記載した表面保護部材150を用いずに、センサを作製すると、途中で破損され、歩留まりが悪かった。
【0067】
<ダイアフラム部の厚みとセンサ性能、共振周波数の関係について>
図6及び図7に示す矩形のダイアフラム構造をモデルとし、ムラタソフトウエア(株)のシミュレーションソフトを用いて計算を行った。図6は斜視図、図7は平面図である。ダイアフラムのサイズを200ミクロン角とし(矩形凹部14の一辺が200μmの正方形)、振動板の厚みを変化させて、ダイアフラムの共振周波数と、出力電圧を計算した。図8にその結果を示す。
【0068】
図8中の太線で示した曲線(■を繋いだ線)は、振動板の厚みに対する出力電圧の変化を示す。図8中の細線で示した曲線(◆を繋いだ線)は、振動板の厚みに対する共振周波数の変化を示す。
【0069】
図8より、振動板の厚みを薄くするほど、大きな出力電圧が得られ、S/Nの大きな信号が得られることがわかる。また、ダイアフラムの共振周波数は、振動板厚みが薄くなるほど小さくなる。
【0070】
感度は、振動板が薄い方が好ましく、電極と圧電体を除くダイアフラム部の厚みは1μm以下が好ましい。その理由として、出力電圧が大きくなることが上げられる。振動板厚が1μmを超えると出力電圧の低下が徐々に著しくなる。また、共振周波数に注目すると、振動板が薄いほど共振周波数は小さくなるので、例えば、振動板厚をゼロとしたときに、共振周波数を大きくするためには、ダイアフラムのサイズを小さくする必要がある。ダイアフラムサイズを小さくすると、製造時の1ウエハ当りの取れ数が増大し、低コスト化につながる。なお、共振周波数と振動板の厚みは互いに関連する設計パラメータであるため、現実には様々な解(組合せ)が存在するが、出力電圧を大きくし、かつ、小型化するという方向性としては、ダイアフラムの厚みを薄くすることが必須となる。
【0071】
既述のとおり、電極と圧電体を除くダイアフラム部の厚みは、より小さい方が好ましい。図4で説明した製造方法であれば、電極と圧電体を除くダイアフラム部の厚みは、ゼロか、若しくは、せいぜい100nmオーダの熱酸化膜(SiO層)30となるため、すべての領域で十分効果を発揮する。また、1μm未満の厚みのSiO層で保護しながら製造することができ、大きな利点がある。
【0072】
<ダイアフラムの面形状について>
上述の実施形態では、ダイアフラムの形状がフラットな形状(平面型の面形状)である場合を例示したが、ダイアフラムの形態はこれに限らず、初期形状として上に凸のドーム型形状や、下に凸の凹面型形状などであってもよい。
【0073】
<圧電体膜の組成について>
本発明の実施形態に用いる圧電材料について説明する。本例で用いる圧電体は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3、俗称「PZT」と呼ばれるもの)をベースとしている。PZTでは、Zr、Tiはいずれも4価のイオンであり、PbTiO3からPbZrO3まで、Ti:Zrは全ての濃度比率を取り得る。このうち、PbTiO3の結晶系である正方晶、PbZrO3の結晶系である菱面体のちょうど間の組成であるZr:Tiが52:48、または53:47である組成が特に圧電特性が良好であり、この特性がアクチュエータ用圧電体として使われている。この組成はMPB組成と呼ばれる。
【0074】
ドーパントを何も添加しない真性PZTに対し、Nb5+などの4価よりも価数の大きいイオンを微量添加して圧電特性を向上させたものを変性PZTと言う。本実施例で用いるPZTでは、10%程度以上のNb添加が可能であり、高特性なPZT(変性PZT)が得られる。例えば、d31=200〜300pm/Vという高い圧電性が得られる。
【0075】
本発明の実施に用いることができる圧電体膜として、下記一般式(P)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる圧電体膜(不可避不純物を含んでいてもよい。)が挙げられる。かかる圧電体膜は、プラズマを用いるスパッタリング法により基板上に成膜することができる。この圧電体膜(一般式(P))は、絶対値の小さい抗電界の極性が負であり、正電界側にPr−Eヒステリシスが偏った圧電特性を有している。
【0076】
一般式A・・・(P)
式中、AはPbを主成分とするAサイト元素、BはBサイトの元素であり、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Sc,Co,Cu,In,Sn,Ga,Zn,Cd,Fe,及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、Oは酸素であるa≧1.0かつb=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。
【0077】
上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等が挙げられる。圧電体膜は、これら上記一般式(P)で表されるペロブスカイト型酸化物の混晶系であってもよい。
【0078】
また、本発明の実施に際しては、特に、下記一般式(P−1)で表される1種又は複数種のペロブスカイト型酸化物からなる(不可避不純物を含んでいてもよい。)圧電体膜がより好ましい。
【0079】
Pb(Zrb1Tib2b3)O・・・(P−1)
式(P−1)中、XはV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素である。a>0、b1>0、b2>0、b3≧0。a≧1.0であり、かつb1+b2+b3=1.0である場合が標準であるが、これらの数値はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。
【0080】
上記一般式(P−1)で表されるペロブスカイト型酸化物は、b3=0のときチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であり、b3>0のとき、PZTのBサイトの一部をV族及びVI族の元素群より選ばれた少なくとも1種の金属元素であるXで置換した酸化物である。
【0081】
Xは、VA族、VB族、VIA族、及びVIB族のいずれの金属元素でもよく、V,Nb,Ta,Cr,Mo,及びWからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0082】
<他の応用例>
上述した実施形態では、超音波センサへの適用を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限らず、超音波探触子や焦電センサなどにも用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
10…ダイアフラム型センサ、12…基板、14…凹部、20…下部電極、22…圧電体膜、24…上部電極、26…圧電素子、28…変位可能部位、30…熱酸化膜、110…ダイアフラム型センサ、112…Siウエハ、114…凹部、120…下部電極、122…PZT膜、124…上部電極、130…熱酸化膜、150…表面保護部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体膜と、
前記圧電体膜を挟んで該圧電体膜の両側に配設される対向電極と、
前記対向電極を備えた前記圧電体膜を支持する基板と、
前記基板上に設けられた前記圧電体膜の変位可能部位に対応して、前記基板の当該対応位置に形成された凹部と、
を備え、
前記変位可能部位の前記対向電極及び前記圧電体膜を含んで構成されるダイアフラム部から前記対向電極及び前記圧電体膜を除いた残部分の厚みが0以上1μm以下であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記ダイアフラム部は、実質的に前記圧電体膜と前記対向電極のみで構成されている自立膜であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項3】
請求項1において、
前記残部分は、前記基板の材料の熱酸化膜であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記残部分の有無による前記圧電体膜の変位量の差が5%以下であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記圧電体膜の厚みが1μmを超えるものであることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記圧電体膜がPZT系のペロブスカイト型酸化物であり、ABO型の結晶構造におけるAサイトに入る材料の組成比が1.0以上、1.1未満であることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記圧電体膜がPZT系のペロブスカイト型酸化物であり、Nbを2%以上含むことを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項において、
前記基板に複数の前記凹部が形成され、各凹部に対応した前記ダイアフラム部が複数形成されていることを特徴とする圧電体薄膜素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の圧電体薄膜素子の前記変位可能部位に超音波を受け、前記圧電体膜の変位に応じて発生する電圧の信号を前記対向電極から得ることを特徴とする超音波センサ。
【請求項10】
基板の第1面上に第1電極、圧電体膜及び第2電極を重ねて形成する工程と、
前記第1電極、圧電体膜及び第2電極を形成した前記基板の前記第1面側の上を覆う表面保護部材を前記基板に接合する工程と、
前記表面保護部材を接合した前記基板の前記第1面と反対側の第2面側から当該基板をエッチングして凹部を形成する工程と、
前記凹部を形成した後に前記表面保護部材を除去する工程と、
を含むことを特徴とする圧電体薄膜素子の製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記基板の第1面には熱酸化膜が形成されており、
前記第1電極は前記熱酸化膜に重ねて形成され、
前記エッチングの際に前記熱酸化膜がストッパー層となることを特徴とする圧電体薄膜素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記凹部に前記熱酸化膜が残されたダイアフラム構造を有する圧電体薄膜素子を得ることを特徴とする圧電体薄膜素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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