説明

圧電素子及び圧電素子の設計検証方法

【課題】 水晶フィルタや水晶共振子などの圧電素子において、製造後の調整処理をしなくても最終的な設計仕様を満足させる改善された圧電素子及び素子の設計検証方法を提供する。
【解決手段】 圧電素子の設計検証法は、圧電素子の応力成分をその圧電素子の第1の素子構成要素のひずみ成分の重み付けとして表す圧電素子モデルを作成することからなる。そのモデルを解析して、圧電素子、もしくはその第2の素子構成要素が設計仕様を満足しているかどうかを検証する。例えば、モデルを解析して圧電素子(或いはその電極)が適切なスチフネスを有するかどうかを検証することができるし、さらに実物大或いはその他の尺度で圧電素子(或いは電極)のスチフネスの質を検証することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は圧電素子の分野に関するものである。より具体的には、本願発明は設計仕様に準拠する圧電素子を設計することに関する。
【0002】
【従来の技術】いろいろなエレクトロニクス用途において様々な圧電素子が幅広く用いられている。広く用いられているタイプの圧電素子の一つが水晶共振子である。典型的な水晶共振子は対向面を有する結晶性圧電材料の層を含み、各面には対応する電極が貼り付けられ、それにより圧電材料を電極間に挟持している。水晶共振子は電極に加えられた電気的刺激により振動する。その振動が電極に高度に安定した電気的発振を引き起こし、その電気的発振は他の素子のタイミングに活用される。広く用いられているもう一つのタイプの圧電素子は水晶フィルタである。一種類の水晶フィルタは対向面を有する結晶性圧電材料層と、その片面に貼り付けられた電極と、他方の面に貼り付けられた一対の電極とを含む。その一対の電極は水晶フィルタの電気伝導率の2つの周波数ピークを引き起こし、そのピーク位置をうまく調整することによって帯域フィルタが形成される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】圧電素子を正しく動作させるには、その弾性が設計仕様の範囲内に収まるようにすることが大切である。例えば、水晶共振子のスチフネスが設計仕様外になると、その水晶共振子は望ましい発振周波数にならないことがある。同様に、水晶フィルタのスチフネスが設計仕様外になると、その水晶フィルタは望ましい振幅応答にならないことがある。残念なことに、精確に決められた弾性を有する圧電素子の実現が非常に難しいことは実証済みである。どうして難しいかというと、その理由の一つは圧電素子の様々な弾性間に相当な相互作用があることである。例えば、加速度感度を下げるために電極質量を上げると、望ましい共振周波数からのシフトアウェイなど好ましくない副作用が生じることがある。
【0004】そうした難しさがあるために、圧電素子は概して最終的な設計仕様内に収まるかどうか保証のない大まかな状態で形成される。そうした圧電素子はその後圧電素子に材料を付加したり除去するなど最終的な設計仕様になる。従来の手法の一つでは、電極に対して材料の追加或いは削除が行なわれる。もう一つの手法では、動作時に圧電素子に対して電界硬化を用いる。3番目の従来手法では、電極或いは圧電材料層のどちらかに一つ以上のブレーシングを付加することによって圧電素子を硬化させて加速度感度を低下させる。
【0005】望ましい弾性を有する圧電素子を提供するそうした従来の手法は好ましいものではない。そうしたやり方は真に設計ベースとは言えず、電極に材料を付け加えたり或いは削除したり余計な製造工程が必要となるか、もしくは電界の適正硬化を図るなど特別な動作環境を必要とする。硬化電界の生成にはさらに別の回路を要することがある。また、従来の手法では上述のごとく適当な大まかな状態の圧電素子を製造する方法を決めるために様々なプロトタイプ素子を作らなければならないのが普通である。さらに、従来の手法は、電極の厚みが素子の全厚みの約2%を超えると動作に問題が起きると考えられている。
【0006】このように、エレクトロニクスの分野では好ましい弾性を有する圧電素子を提供するシステム並びに方法の改善がずっと求めれている。そうしたシステム及び方法は、余計な製造工程及び特別な動作環境が要らないように、設計ベースであることが望まれる。また、そうしたシステム並びに方法は、水晶フィルタや水晶共振子など、多種多様な圧電素子で使えることが望ましい。さらに、素子の製造後の処理をしなくても最終的な設計仕様を満足させる改善された圧電素子に対する継続的なニーズがある。
【0007】本願発明の目的は、製造工程前に行なうことができる圧電素子の設計特性を設計過程で検証する都合のいいシステム及び方法を提供することである。本願発明のもう一つの目的は、設計段階で決められたスチフネスを有するようにすることによって圧電素子製造後の処理の必要性を軽減する改善された圧電素子を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願発明の一つの態様によれば、圧電素子の設計検証法は、圧電素子の応力成分をその圧電素子の第1の素子構成要素のひずみ成分の重み付けとして表す圧電素子モデルを作成することからなる。そのモデルを解析して、圧電素子、もしくはその第2の素子構成要素が設計仕様を満足しているかどうかを検証する。例えば、モデルを解析して圧電素子(或いはその電極)が適切なスチフネスを有するかどうかを検証することができるし、さらに実物大或いはその他の尺度で圧電素子(或いは電極)のスチフネスの質を検証することができる。第1及び第2の素子構成要素は同じでなくてもいい。例えば、電極は圧電材料層のひずみ成分の重み付けを解析することによって適切なスチフネスを検証することができる。こうすると、スチフネスの質など電極に関する有益な情報を保ちながら同時に圧電素子の第1モデルにおける電極のひずみ成分への依存関係の表現を消去することによって、圧電素子のモデルの計算量を減らすことができるので有益である。
【0009】本願発明のもう一つの態様によれば、圧電素子の設計を検証する方法は素子の弾性及び変形の関数として素子における応力を表す圧電素子の第1モデルを形成することからなる。そうした弾性は、例えば、圧電素子或いは圧電材料層のスチフネスである。変形は圧電材料層のひずみによって表現され、そうしたひずみは圧電材料層の面で決められる3つ以上のひずみ成分の重み付けとして表されるのが好ましい。次に第1モデルを操作してその第1モデルに比べ計算量が減った素子の第2モデルを作成する。例えば、全体として圧電素子における応力は圧電材料層のひずみ関数として表すことができる。こうすると、第2モデルにおける電極のひずみ或いはひずみ成分への依存関係の表現を消去することによって第1モデルに比べ第2モデルの計算量を減らすことができる。第2モデルを用いて、素子或いは電極のスチフネスの質といった素子の性質モデルを生成することができるので有益である。また、そのモデル化された性質を解析して素子の設計が設計仕様を満たしているかどうか検証することができる。
【0010】本願発明の好適な実施例において、圧電素子における応力は素子の応力成分Tij(n)で表現され、その際nはゼロ(0)と3の間の整数値とする。本願発明のこの実施例における計算量を軽減するために、初めの4応力成分Tij(0), Tij(1), Tij(2), Tij(3)だけを用いるのが好ましい。応力成分Tij(n)は各々が圧電素子のひずみ成分Skl(m)の重みの付いた和として表され、初めの4ひずみ成分Skl(0), Skl(1), Skl(2), Skl(3)であるのが好ましい。第1のひずみ成分4個Skl(0), Skl(1),Skl(2), Skl(3)だけを用いると、精度の高い結果を得ることができると共に4番目以降のひずみ成分Skl(m)を無視することによって計算量を減らすことができると考えられている。ひずみ成分は全体として圧電素子のひずみ成分であると言って差し支えない。計算量をさらに減らすには、圧電材料層の変位と実質的に等しいとし、圧電材料層の面の変位に実質的に等しいとし、或いは圧電材料層と電極との接合部が実質的に継続しているとして、電極の変位をモデル化することができる。こうすることにより、電極の応力成分を、例えば、圧電材料層のひずみ成分を用いて表すことができるので、重みの付いた和における電極のひずみ成分への依存性の表現を消去することができる。モデルを次に解析して圧電素子或いはその素子の構成要素が設計仕様にかなうかどうかを検証する。
【0011】本願発明のまた別の態様によれば、改善された圧電素子は従来の圧電素子に比べ製造後のしなければならない処理が減るので有益である。改善された圧電素子では電極が圧電材料層に貼り付けられている。電極、圧電材料層、及び圧電素子それぞれのスチフネスは、圧電材料層の変位と実質的に等しくなるように電極の変位をモデル化することにより、圧電素子の設計過程で決定される。これにより電極材料や他のブレーシングを従来のように製造後に付け加えたり削除したりしなくても電極のスチフネスや素子の品質を決めることができるので有益である。従って、改善された圧電素子の例は最終製品の状態でサイズ、形状、外観が従来の圧電素子と比べもっと一様性を有する。
【0012】本願発明のさらに別の態様によれば、本願発明の圧電素子の設計検証法を実行するコンピュータインプリメントシステムは、中央処理ユニットと、入力装置と、出力装置と、主記憶装置と、ストレージ記憶装置と、バスを含む。主記憶装置及びストレージ記憶装置は機械可読媒体で、さらに具体的には、中央処理ユニットが読むことのできる媒体である。ストレージ記憶装置は命令プログラムを格納し、その命令プログラムは中央処理ユニットによって読まれると、本願発明による圧電素子設計検証法を実行するように中央処理ユニットに指示を出すことができる。コンピュータインプリメントシステムは本願発明による改善された圧電素子を製造するための設計段階の作業を実行することができるし、或いは製造前、製造中、及び製造後に任意の圧電素子の設計を検証するのに用いることもできる。なお、機械可読媒体または媒体とは、プログラムやデータが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体とも呼ばれているものである。
【0013】本願発明の好適な実施例によれば、設計段階で圧電素子の各電極は本願発明により検証される。そうした検証により電極が一つ以上の設計仕様を満たすかどうかを判断することができる。電極がスチフネス仕様を満たすか、さらに実物大の電極のスチフネスの質を満たすかどうかなど、電極の様々な性質を検証によって決めることができるので有益である。検証後の性質は素子品質の規準として直接用いることができるし、もしくは更なる解析を行なって素子のキャパシタンス、インダクタンス、抵抗、周波数−温度特性など圧電素子の他の性質を決めることができる。
【0014】本願発明のシステム及び方法は概して、圧電材料層を有すると共にその層の面に電極が少なくとも一つ貼り付けられている圧電素子の設計の検証に用いることができる。このシステム及び方法は、一般の水晶共振子など、複数の面及び又は電極を有する圧電素子の設計を検証するのに用いることができるので有益である。本願発明から精度の高い結果を得るためには、各電極の厚みが圧電素子の厚み合計の約5%以下になるようにしなければならないと考えられている。
【0015】本願発明の様々な特徴及び好適な実施例は以下に述べる説明並びに添付の図面を参照することにより、より細かいところまで理解することができる。図面では類似の要素に類似の参照番号を付けて示してある。以下に述べる説明及び図面の内容はあくまで例として述べてあるだけであって、本願発明の範囲を限定するものとして解釈されてはならない。
【0016】
【発明の実施の形態】本願発明は圧電素子及びその構成要素の設計特性を設計過程で検証するシステム及び方法を提供し、このシステム並びに方法では圧電素子及びその素子構成要素どちらでも製造工程の前に実行できるので便利である。本願発明はまた設計段階で決定されたスチフネスを有する改善された圧電素子を提供するので、従来の圧電素子と比べ製造後にさらに行なわなければならない処理が軽減される。本願発明は、圧電素子の電極それぞれの厚みが素子の総厚みの約5%を超えないようにすれば、精度の高い結果を生み出すと考えられている。
【0017】図1に、圧電素子100の設計の断面図を示す。圧電素子100は一対の電極122、124に取り付けられた圧電材料層110を含む。さらに具体的には、電極122は上面と底面132、133を有し、電極124は上面と底面135、136を有する。電極122の底面133は圧電材料層110の上面112に貼り付けられ、電極124の上面135は圧電材料層110の底面114に貼り付けられる。電極122、124は薄い導電材料層を圧電材料層110の上面112及び底面114に堆積させることによって従来の手法で形成することができる。典型的には、各電極122、124の厚み2b'、2b"は圧電素子110の厚み合計2(b'+b"+b''')の約2%を超えない。しかしながら、本願発明では各電極122、124の厚みが圧電素子100の厚み合計の約5%以下の場合、精度の高い結果を得ることができることに注目している。保護の目的上、圧電素子100は概して封止ケース140の中に実装される。これは、例えば、封止ケース140に圧電材料層110を接着或いは溶接することによって実現することができる。
【0018】動作時、電極122、124及び圧電材料層110は電極122、124に印加された電位に対応して同時に振動する。その振動によって電極122、124に電気的発振が引き起こされる。電気的発振は高度に安定しており、例えば、周波数生成器、或いは他の素子のタイミング又はクロッキング用に用いることができるので有益である。本願発明によれば、圧電素子100の設計を検証して圧電素子100が確実に適正動作するようにすることができる。
【0019】図2に、圧電素子100など圧電素子の設計検証を含み、本願発明の様々な態様を実行するのに適したコンピュータインプリメントシステム200の実施例の機能ブロック図を示す。コンピュータインプリメントシステム200は中央処理ユニット210と、入力装置220と、出力装置230と、主記憶装置240と、ストレージ記憶装置250と、多重ビットバス260を含む。
【0020】コンピュータインプリメントシステム200のハードウェア部品は多種多様な設計を有することができるので有益である。例えば、中央処理ユニット210はカリフォルニア州サンタクララ市所在のIntel Corporationから市販されているPentium(登録商標)又はPentium II(登録商標)マイクロプロセッサなどIntelx86凾互換性を有するマイクロプロセッサか、もしくはカリフォルニア州クパチーノ市所在のApple Computer, Inc.から市販されている従来型のPower PC(登録商標)マイクロプロセッサでいい。中央処理ユニット210は本願発明の方法に応じて実行される様々な計算の性能速度を上げるために浮動小数点数値演算プロセッサを含んでいるのが好ましい。入力装置220は従来からのキーボードやマウスなど中央処理ユニット210に情報を供給するのに適した装置ならどれでもいい。出力装置230には、例えば、伝統的な陰極線管(CRT)モニタやプリンタがある。主記憶及びストレージ記憶装置240、250は中央処理ユニット210が読み取れる機械可読媒体で、伝統的な設計のもので構わない。例えば、主記憶装置240はダイナミックランダムアクセスメモリ機構(DRAM)やスタティックランダムアクセスメモリ機構(SRAM)で、ストレージ記憶装置250はコンパクトディスク(CD)及び対応するドライブ、ディジタルバーサタイルディスク(DVD)及び対応するドライブ、或いは従来型のハードディスク及び対応するドライブでいい。ストレージ記憶装置250は本願発明によるデバイス設計検証法を実行するために中央処理ユニット210に指示を出すことのできる命令プログラムを格納する。多重ビットバス260は伝統的な設計のもので構わない。多重ビットバス260によるコンピュータインプリメントシステム200のハードウェア部品の相互接続は従来のやり方で実現できる。
【0021】動作時、問題の圧電設計のパラメータをユーザが入力装置220を介してコンピュータインプリメントシステム200に入力する。そうしたユーザからの入力に応答して、中央処理ユニット210はストレージ記憶装置250をバス260を介して読み取り、さらに主記憶装置240を読み取って命令プログラムを手に入れる。命令プログラム及びユーザからの入力に応答して、中央処理ユニット210は本願発明による圧電素子設計検証法の実施例を実行する。
【0022】図3に、図1の圧電素子100の設計を検証するために本願発明による方法の第1実施例を実行するコンピュータインプリメントシステム200のオペレーションのフローチャートを示す。この方法では、圧電素子の第1モデルが形成、操作されて第1モデルと比べ計算量が軽減された第2モデルが生成され、その第2モデルを用いて圧電素子の検証が行なわれる。ユーザからの入力及びストレージ記憶装置250から読み取った命令プログラムに応答して、コンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100の第1モデルを形成する301。その第1モデルは圧電素子100における応力を圧電素子100の弾性関数として表す。コンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100における応力を圧電素子100の応力成分Tij(n)の列によって表現する。それにおいてn = 0, 1, 2, ... Nで、Nは大きな整数が適している。また、指数iとjは集合{1, 2, 3}からの整数を記述し、これらの整数1,2, 3は右手デカルト座標系{x1, x2, x3} (a right handed Cartesian coordinate system)の直交方向を表す。図1に戻ると、座標方向x2は圧電材料層110の面112、114に対して直角をなす方向を表す。
【0023】応力成分Tij(n)は圧電素子100における応力の関数である。この応力は従来のように応力テンソルTijで表すことができる。応力テンソルTijに換算して、応力成分Tij(n)は次式で与えられる。


【0024】応力成分Tij(n)の指数nは様々な整数値を有して構わない、また指数iとjはそれぞれ座標方向集合{1, 2, 3}からのいろいろな値をとる。方程式1Aの積分により、応力成分Tij(n)は座標方向x2に沿った積分の境界条件の関数-(b'''+2b'')及び(b'''+2b')となる。従って、応力成分Tij(m)はより具体的には圧電素子100の上面132と底面136(すなわち、電極122の上面132と電極124の底面136)の応力成分として特定することができる。
【0025】同様に、圧電素子100のひずみ成分Skl(m)は圧電素子100のひずみ関数として定義され、そうしたひずみは従来のように圧電素子100のひずみテンソルSklで表現することができる。ひずみテンソルSklとひずみ成分Skl(m)との関係は次式で与えられる。


この関係は圧電素子100の上面132と底面136でのひずみ成分として特定することができる。ひずみ成分Skl(m)の指数mは様々な整数値を有して構わないし、また指数k及びlはそれぞれ座標方向集合{1, 2, 3}からの様々な値をとる。
【0026】応力成分Tij(n)は次の関係によってひずみ成分Skl(m)の関数として表すことができる。


【0027】指数nの値ごとに対して、指数mの値は方程式1Aと2とが全く等価になるようにゼロから無限大までの範囲に渡って差し支えない。指数i, j, k, lは互いに独立で、座標方向集合{1, 2, 3}からの様々な値をとることができる。項Bmn及びcijklはそれぞれ圧電素子100の積分定数と弾性定数テンソルである。 Bmn及びcijklは従来のテンソル記数法で表示され、それぞれm及びnとi, j, k及びlの値ごとに別個の値を有して構わない。
【0028】様々な方程式で、小文字の下付きの添え字が積で繰り返されている場合、そうした繰り返しは従来のように下付き添え字の様々な値の求和を暗に示す。応力とひずみ、及び応力成分やひずみ成分など応力及びひずみを表す量は、圧電素子100の外部的に加えられる力や刺激によって異なり、さらに、例えば、圧電素子100の動作時において時間依存型であるかもしれない。
【0029】方程式1Aの積分における積分領域は3つの積分領域に分けることができる。3つの積分領域はそれぞれが圧電素子100の素子構成要素を表し、-(b'''+2b'')から-b'''までの第1領域は電極124を表し、-b'''からb'''までの第2領域は圧電材料層110を表し、b'''からb'''+2b'までの第3領域は電極122を表す。これらの積分は対応する積分領域で表された素子構成要素のひずみ成分の無限大の和としてそれぞれ書き直すことができる。すなわち、方程式1A及び1Bは次のように書き替えることができる。


【0030】方程式3及び4において、シングルプライム記号(すなわち、')は電極122の性質を指定し、ダブルプライム記号(すなわち、'')は電極124の性質を指定し、トリプルプライム記号(すなわち、''')は圧電材料層110の性質を指定する。方程式4における3番目の和の項B'mnは方程式3の3番目の積分の積分定数で、項c'ijklは電極122の弾性定数テンソル、S'kl(m)は電極122のひずみ成分である。方程式4における2番目の和の項B''mnは方程式3の2番目の積分の積分定数で、項c''ijklは電極124の弾性定数テンソル、S''kl(m)は電極124のひずみ成分である。最後に、方程式4における最初の和の項B'''mnは方程式3の最初の積分の積分定数で、項c'''ijklは圧電材料層110の弾性定数テンソル、S'''kl(m)は圧電材料層110のひずみ成分である。様々なひずみ成分S'kl(m), S''kl(m), S'''kl(m)を電極122の面、圧電材料層110、及び電極124それぞれでのひずみ成分としてより具体的に特定することができる。
【0031】本願発明のこの実施例で、コンピュータインプリメントシステム200は方程式4に示した形式で圧電素子100における応力を表すことによって第1モデルを形成する。積分定数の値B'mn, B''mn, B'''mnは次式で与えられる。


【0032】コンピュータインプリメントシステム200は次に上述の通りに形成された第1モデルを操作して圧電素子100の第2モデルを形成する。第2モデルは圧電素子100における応力を圧電素子100の弾性関数として表す。本願発明のこの実施例で、第2モデルは圧電素子100における応力を素子100の素子構成要素のひずみによって表す。より具体的には、応力成分Tij(n)で表現された圧電素子100における応力は圧電材料層110のひずみ成分列の和として表される。コンピュータインプリメントシステム200は第2モデルにおける電極122、124の変位を圧電素子100のモデル化された動作時の圧電材料層110の変位と実質的に等しいとしてモデル化する。より具体的には、コンピュータインプリメントシステム200は、電極122の変位を電極が貼り付けられている圧電材料層110のその面112の変位と等しいとしてモデル化し、電極124の変位を電極が貼り付けられている圧電材料層110のその面114の変位と等しいとしてモデル化する。電極122、124のひずみ成分S'kl(m)及びS''kl(m)は圧電材料層110の面のひずみ成分S'''kl(m)によって近似値がとられる。圧電素子100が一旦作られると、電極122、124及び圧電材料層110の実際の変位は、例えば、電極122、124或いは圧電材料層110のひずみにより引き起こされた形状の変化によって変位量が異なるかもしれないことに注目している。
【0033】そうした変動を無視して、コンピュータインプリメントシステム200は電極122、124のひずみ成分S'kl(m)及びS''kl(m)への依存関係を対応する圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m)への依存関係で置き換えることによって第1モデルを操作する303。より具体的には、コンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100における応力を次のように表すことによって第2モデルを形成する。


(方程式7)
【0034】電極122、124のひずみ成分S'kl(m)及びS''kl(m)への依存関係の表現を消去することによって、コンピュータインプリメントシステム200は第1モデルと比べ圧電素子100の第2モデルの計算量を有意に減らすことができた。方程式7の1回の無限大の求和は方程式4の3回の無限大の求和より簡単であると考えられる。さらに、第1モデルと比べ計算量が軽減することが第2モデルで実証されているにも係わらず、スチフネスの質など電極122及び124について役に立つ情報は第2モデルによって保持されている。第2モデルは電極122及び124それぞれの厚み2b'及び2b''が圧電素子100の厚み合計2(b'+b''+b''')の約5%を超えない場合正確であると考えられる。
【0035】本願の実施例において第2モデルは素子構成要素のそのサブシステムのひずみ成分(すなわち、電極122及び124のひずみ成分S'kl(m)及びS''kl(m))への依存関係を表すことなく素子構成要素(すなわち、電極122、124)のサブシステムについての情報を表していることに注目している。さらに、本願の実施例において第2モデルは一つ以上の素子構成要素(すなわち、電極122、124)についての情報をもう一つの素子構成要素の弾性(すなわち、圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m))によって表していることに注目している。
【0036】好ましくはコンピュータインプリメントシステム200が圧電素子100の最初の3つの応力成分のみを推定し且つ次数4以上のひずみ成分を無視することによって第2モデルの計算量をさらに軽減することである。3より大きい次数のひずみ成分は最初の4つのひずみ成分S'''kl(0)、 S'''kl(1)、 S'''kl(2)、 S'''kl(3)と比べ役に立つ情報が有意に少ない。従って、代わってコンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100における応力を次のように表すことによって第2モデルを形成することができると好ましい。


【0037】電極2b'及び2b''がそれぞれ素子の厚み合計の約5%に満たないと、第2モデルの計算量をさらに軽減することができる。コンピュータインプリメントシステム200は次のようにB'mn及びB''mnを推定することによってそうした軽減を実現する。


【0038】B'mn及びB''mnにこれらの推定値を用いて、コンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100の応力成分Tij(n)を次式で推定する。


【0039】この式においてMは好ましくは3。対称的な電極122、124の場合、コンピュータインプリメントシステム200はb' = b''及びc'ijkl = c''ijklの関係を用いて第2モデルの計算量をさらに軽減して、次式を得る。


【0040】もしくは、第1モデルを操作して、両電極122、124からなる素子構成要素のサブシステムの応力成分T*ij(n)を表す圧電素子100の第2モデルを形成してもいい。そうした場合、コンピュータインプリメントシステム200は方程式11でB'''mnへの依存関係を表示している項を消去することによって第2モデルを形成し、次式を得ることができる。


【0041】方程式13は方程式11と比べ、B'''mnへの依存関係を表している項がなくなっていることにより、計算量が減っている。コンピュータインプリメントシステム200は次に方程式13の求和を実行して電極122、124のサブシステムの応力成分T*ij(n)の値を決める。ここで電極122、124は対称な場合、コンピュータインプリメントシステム200は代わって関係b' = b''とc'ijkl = c'' ijklを用いて方程式13の計算量をさらに軽減し、次式を得ることができる。


【0042】そして方程式14の求和を実行する。
【0043】コンピュータインプリメントシステム200は第2モデルを用いて305、圧電素子100の性質モデルを生成する。そのようにモデル化された性質は圧電素子100のスチフネス、すなわち素子の電極122、124のスチフネスであると言って差し支えない。モデル化された性質をデバイスの質の尺度として直接用いることができるし、或いは、さらに解析することによって圧電素子100の他の性質を決定することができる。圧電素子100の様々な機械的及び電気的な性質は総体的にその応力成分Tij(n)に依存するか或いは部分的に依存するかいずれかだから、本願の方法によって精度の高い検証を行なうことができる。
【0044】例えば、圧電素子100のスチフネス及び安定発振周波数をその応力成分Tij(n)の関数として表す方程式については、1997年5月28日から30日にフロリダ州オーランド市で開催された「周波数制御に関する1997年IEEE国際シンポジウム(1997International Frequency Control Symposium)」で発表した(同シンポジウムの会報、650~658頁)本願の発明者Ji Wang, Yook-Kong Yong, Tsutomu Imaiの著になる「高次プレート理論を用いた水晶振動子の圧電振動の有限素子解析(Finite Element Analysis of the Piezoelectric Vibrations of Quartz Plate Resonators with Higer-Order Plate Theory)」の中で説明している。この記事は参照することによりその全部が本書に組み込まれているものとする。この記事では圧電素子100の応力成分Tij(n)をどのようにして決定する或いは正確に推定するかについては明らかにしていない。本願によれば、方程式11或いは12を用いて推定された圧電素子100の応力成分Tij(n)の値を応力成分Tij(n)の精確な値として代入する。これにより圧電素子100のスチフネス及び安定発振周波数の推定値を得ることができ、それはコンピュータで解くことができる。普通、圧電材料層110のサイズ、形状、質量、圧電定数、及び電極122、124のサイズ、形状、質量、導電率といった更なる入力値を要することに注目している。
【0045】本願の1実施例において、圧電素子100の応力成分Tij(n)の値は本願では、例えば、方程式11又は12のいずれかを用いて推定される。応力成分Tij(n)のこれら推定値は次の式で与えられる圧電素子100の2次元圧電構造方程式の対におけるその精確な値に等しいと見なされる。


【0046】方程式15及び16において、Tij(n)、Di(n)、Skl(m)、Ek(m)、Bmn、cijkl、ekij、及びeijはそれぞれ応力成分、電気変位成分、ひずみ成分、電界成分、積分定数、弾性定数、圧電定数、及び誘電率である。上記の方程式15、16及び下に示すその応用方程式の積分定数Bmnは方程式5CのB'''mnに等しい。
【0047】2次元構造方程式(方程式15、16)を用いて、一般化されたスチフネス行列Kで表現されている圧電素子100のスチフネスを有限素子解析によって見い出すことができる。第n次の一般変位場u(n) = {u1(n), u2(n), u3(n), f(n)}T4x1から始め、圧電素子100の一般変位ベクトルuを第3次プレート論を用いて形成する。その際、n = 0, 1, 2, 3で、 f(n)は電位を表す。上付け文字Tは従来からの移項演算を指定する。一般変位ベクトルuは次式で与えられる。


【0048】簡略化記法を用いて、一般化された第n次応力ベクトルT(n)及び一般化された第n次ひずみベクトルS(n)を次に定義する。


【0049】ここでDj(n)、Ej(n)はそれぞれ電気変位成分、電界成分である。
【0050】一般化された応力及びひずみベクトルS、Tを次に一般化された第n次のひずみ及び応力ベクトルS(n)、T(n)を用いて定義する。


【0051】構造方程式15、16は次にマトリックス形式で次式で与えられる。
【0052】T = CSで、ここで (方程式22)




【0053】ここで、cは圧電材料の弾性定数マトリックスで、eは圧電材料の圧電定数マトリックス、eは圧電材料の誘電率マトリックスである。従って、一般化されたひずみベクトルSは一般化された応力ベクトルTに対して線形的な関係にある。
【0054】マトリックス形式で書かれた圧電素子100の変分運動方程式は次式で与えられる。


【0055】ここで、Aは圧電素子100の面積を表し、Cは面積Aの境界を表す。項f及びFはそれぞれ表面と面の牽引ベクトルである。マトリックスDは次式で与えられる。


【0056】マトリックスmm(n)は次式で与えられる。


【0057】ここで、r'は上の電極122の密度を表し、r''は下の電極124の密度を表し、r'''はrに等しく、圧電材料110の密度を表し、またRは圧電材料110に対する電極122、124の質量比を表す。
【0058】従来からの打ち切り手続きに従って、構造方程式の有限要素のインプリメンテーションは次式で与えられる。






【0059】マトリックスBは圧電素子100の形状の効果を表す。
【0060】次に一般化されたスチフネスマトリックスKは次式で与えられる。


【0061】ここで、圧電素子100の面積Aに対して積分を行なう。方程式32の積分は従来からの推定法で解くことができる。
【0062】w2の下記の行列方程式を解き、

【0063】さらにそのようにして得たw2の値の平方根をとることによって、マトリックスKを用いて圧電素子100の安定発振周波数wを得ることもできる。ここのマトリックスMは従来からの圧電素子100の質量マトリックスであり、次式で与えられる。


【0064】ここで、mm(n)(m, n = 0, 1, 2, 3)は方程式28において与えられている。方程式33は、恒等行列IでなくマトリックスMUのように見える点を除けば、固有値問題に類似しており、様々なよく知られた技法を用いて解明することができる。安定発振周波数wはラジアン/秒を単位とし、さらに複素数値を有することがある。本願の発明者達による先に引用した記事に表示したように、従来のやり方で有限要素解析の様々な公式を引き出すことができる。
【0065】本願発明によれば、スチフネスマトリックスKや発振周波数wといった圧電素子100の性質モデルが一旦生成される305と、コンピュータインプリメントシステム200によって解析され307、圧電素子100の設計が設計仕様を満たしているかどうかの検証が行なわれる。例えば、そうした設計仕様は実物大の或いはその他の尺度に基づいた電極122、124のスチフネス仕様或いはスチフネスの質である可能性がある。解析の結果はコンピュータインプリメントシステム200によって出力装置230で出力される。そうした結果から製造前に圧電素子100の設計変更の可能性を読み取ることができるかもしれない。そうした変更後の設計を次にコンピュータインプリメントシステム200で検証することができる。そのように繰り返して処理することによって様々な考えられる設計を検証して設計段階で改善することができる。本願発明によれば、設計検証に圧電素子の有形的なプロトタイプ化は不要である。
【0066】本願発明によれば、一つ以上の電極122、124の変位を圧電材料層100の変位と実質的に同等であるとしてモデル化することによって電極122、124のスチフネス、圧電材料層110、及び圧電素子100を総体的に圧電素子100の設計段階で決めることができる。こうすると圧電素子100における応力を電極122、124或いは圧電材料層110など素子構成要素の弾性関数として表すことができる。従来のように電極材料や他のブレーシングを製造後に付け足したり或いは取り除いたりしなくても電極のスチフネス及び素子の質を決めることができるので都合がいい。従って、同じ設計の改善された圧電素子の場合、最終状態では従来の圧電素子と比べサイズ、形状、外観は非常に類似すると言って差し支えない。
【0067】上記の説明を読み、対応する図を見れば、当業者なら上述した方法は様々な変更が可能なことが明白であろう。例えば、本願の別の実施例で、電極122、124或いは圧電材料層110のスチフネスは作業301、303で言及している弾性である。同様に、作業301の弾性は作業303の弾性とは異なるかもしれない。例えば、作業301の弾性は圧電素子100内の位置の関数として表された圧電素子100全体としてのスチフネスであるのに対し、作業303の弾性は圧電材料層110のスチフネス或いはひずみであると言って差し支えない。
【0068】図4は、本願により圧電素子100の設計を検証する方法の別のしかも好適な実施例を示すフローチャートである。この方法では、応力成分をひずみ成分の重み付けとして表す圧電素子のモデルを形成し、そのモデルを解析して素子が設計仕様を満たしているかどうかを検証する。この実施例の方法は先に述べたコンピュータインプリメントシステム200で実行することができる。ステップ401で、コンピュータインプリメントシステム200は第1の素子構成要素或いはサブシステムの応力を同じ素子構成要素或いはサブシステムのひずみ関数として表す圧電素子100の第1モデルを形成する。例えば、コンピュータインプリメントシステムは圧電材料層110の応力成分T'''ij(n)を圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m)として表す第1モデルを形成する401。ステップ403で、コンピュータインプリメントシステム200は別の素子構成要素又は別の素子サブシステムの応力を第1の素子構成要素又はサブシステムのひずみ関数として表す圧電素子100の第2モデルを形成する。これは電極122、124それぞれの変位を距離にして圧電材料層110の対応面112、114の変位と実質的に等しいとしてモデル化することにより実現できる。従って、電極122、124のひずみは圧電材料層110のひずみによって近似値を見出すことができる。上述の例を続けると、コンピュータインプリメントシステムは電極122、124の応力成分T'ji(n)及びT''ij(n)を圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m)の関数として表す第2モデルを形成することができる403。
【0069】ステップ405で、コンピュータインプリメントシステム200は第1及び第2モデルの応力項を組み合わせて第1素子構成要素のひずみ関数として圧電素子100における応力をモデル化する。最後に、その組み合わせた応力項を解析407して設計はモデル化された弾性に関して設計仕様を満たすことを検証する。そのようにモデル化された性質は、例えば、電極122、124や他の素子構成要素のスチフネス質であると言って差し支えない。コンピュータインプリメントシステム200は様々な素子構成要素の応力成分T'ij(n), T''ij(n), T'''ij(n)を方程式7、8、11、12、13、或いは14のように、圧電材料層100のひずみ成分S'''kl(m)の重み付けとして組み合わせ405、次にそうした重み付けを解析407して圧電素子100の設計が電極のスチフネスに関する設計仕様などモデル化された性質に関して所望の設計仕様を満たしているかどうかを検証するのが好ましい。
【0070】図5に示すのは、本願により圧電素子100の設計を検証する方法のまた別の実施例のフローチャートである。この方法では、圧電材料の応力成分及び電極の応力成分が共に圧電材料のひずみ成分関数として表される。この実施例の方法は上述のコンピュータインプリメントシステム200で実行することができる。ステップ501で、コンピュータインプリメントシステム200は圧電素子100における応力を電極122、124のひずみ成分の重み付けのような素子構成要素のひずみ成分の重み付けとして表す圧電素子100のモデルを形成する。例えば、コンピュータインプリメントシステム200は方程式11或いは12を用いて圧電素子100における応力を圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m)の重み付けとして表す。次に、コンピュータインプリメントシステム200はその重み付けを解析して圧電素子100が設計仕様を満たしているかどうかを検証する。例えば、コンピュータインプリメントシステム200は圧電材料層110のひずみ成分S'''kl(m)の重み付けを解析して圧電素子100が電極或いは総体的なスチフネスに関する設計仕様を満たしているかどうかを判断する。本願のこの実施例は圧電素子100のモデルを一つだけ形成すればいいので有益である。
【0071】図6に示すのは、本願発明により圧電素子100の設計を検証する方法のまた別の実施例のフローチャートである。この方法では、圧電素子の第1部分の応力成分がその素子の第2部分のひずみ成分によって表され、その式を解析して圧電素子の設計が設計仕様を満たしているかどうかの検証がなされる。この実施例の方法もまた上述のコンピュータインプリメントシステム200によって実行することができる。ステップ601で、圧電素子100の第1部分の応力成分が圧電素子100の第2部分のひずみ成分を用いて表される。例えば、その第1成分は122、124の両電極が合わせてモデル化されていると好ましく、第2部分は圧電材料層110からなっていても構わない。次にステップ601の式を解析して圧電素子100の設計或いは素子の部分、部分の設計が設計仕様を満たしているかどうか検証が行われる。
【0072】本願発明の圧電素子の設計検証法を用いることにより、改善された圧電素子を製造することができるので有益である。改善された圧電素子はその設計段階で検証されるので、従来の圧電素子と比べ製造後にしなければならない処理が軽減する。従来のように電極の材料やその他のブレーシングを製造後に付け加えたり取り除いたりしなくても電極のスチフネス及び素子の品質を決めることができる。従って、改善された圧電素子の場合、サイズ、形状、外観が最終仕上げの状態でより一様性を有すると言って差し支えない。しかしながら、もしそうしたければ、改善された圧電素子を従来のように製造後にさらに変更することができる。
【0073】上記の説明及び添付の図面において、図2のコンピュータインプリメントシステム200及び図1の圧電素子100をとりあげ具体的に特定の圧電素子100の特定の構成要素素子110、122、124に関して本願の方法を実行する好適なシステム200によって実行される本願の様々な実施例を説明している。上記の説明及び添付の図面は本願の様々な好適な実施例の構造並びに動作を開示するために含まれているのであって、それによって本願の範囲を限定しようとするためではない。本願の様々な変更、変形は上記の説明を読み、添付図面を見れば、当業者には明白になるであろう。例えば、本願のシステム並びに方法は概して圧電材料層を有すると共にそうした圧電材料層面に貼り付けられた電極を少なくとも1個有する圧電素子の設計特性を検証するのに用いることができる。必ずしも電極を2個有する設計だけに限定されるものではない。これらのそしてその他の変更並びに変形を本願では考慮に入れており、記載の請求範囲によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧電材料層の対向面に貼り付けられた2つの電極を有する圧電素子設計の断面図。
【図2】本願発明による圧電素子設計検証法の様々な態様を実行するための本願発明によるコンピュータインプリメントシステムの機能ブロック図。
【図3】本願発明の別の実施例による圧電素子設計検証法を示すフローチャート。この方法では、圧電素子の第1モデルが形成、操作されて第1モデルと比べ計算量が軽減された第2モデルが生成され、その第2モデルを用いて圧電素子の検証が行なわれる。
【図4】本願発明のまた別の実施例による圧電素子設計検証法を示すフローチャート。この方法では、応力成分をひずみ成分の重み付けとして表す圧電素子のモデルを形成し、そのモデルを解析して素子が設計仕様を満たしているかどうかを検証する。
【図5】本願発明のさらに別の実施例による圧電素子設計検証法のフローチャート。この方法では、圧電材料の応力成分及び電極の応力成分が共に圧電材料のひずみ成分関数として表される。
【図6】本願発明による圧電素子設計検証法のフローチャート。この方法では、圧電素子の第1部分の応力成分がその素子の第2部分のひずみ成分によって表され、その式を解析して圧電素子の設計が設計仕様を満たしているかどうかの検証がなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】面を有する圧電材料と、その圧電材料の面に貼り付けられた電極とからなる圧電素子の設計検証方法であって、前記圧電素子の第1部分における応力を、前記圧電素子の前記第1部分とは異なる部分である第2部分におけるひずみ関数として表すモデルを形成し、前記モデルを解析して、前記圧電素子が設計仕様を満足させるかどうかを検証することを特徴とする圧電素子の設計検証方法。
【請求項2】前記圧電素子の前記第1部分及び前記第2部分は、それぞれ前記圧電素子全体に満たないことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項3】前記関数は、前記圧電素子の前記第2部分のひずみ成分の重み付けからなることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項4】前記圧電素子の前記第1部分は電極で、前記第2部分は圧電材料であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項5】面を有する圧電材料と、その圧電材料の面に貼り付けられた電極とからなる圧電素子の設計検証方法であって、圧電素子のモデルを形成し、そのモデルは、前記圧電素子の応力成分を前記圧電素子と電極を含む集合から選択された第1の素子構成要素のひずみ成分の重み付けとして表したものであり、前記モデルを解析して、前記圧電素子が設計仕様を満足させるかどうかを検証することを特徴とする圧電素子の設計検証方法。
【請求項6】前記モデルの解析では、前記圧電素子が電極スチフネスの設計仕様を満たすかどうかを検証することを特徴とする請求項5に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項7】前記素子構成要素は、前記圧電材料であることを特徴とする請求項5に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項8】面を有する圧電材料と、その圧電材料の面に貼り付けられた電極とからなる圧電素子の設計検証方法であって、圧電素子の第1モデルを形成し、その第1モデルは前記圧電素子の応力を、前記圧電素子の弾性関数として表し、前記第1モデルは第1の計算量を有しており、前記第1モデルを操作して、前記第1の計算量に満たない第2の計算量を有する圧電素子の第2モデルを形成し、この第2モデルは前記圧電素子の応力を、前記圧電素子の前記弾性関数として表し、前記第2モデルを用いて素子の性質モデルを生成し、前記性質モデルを解析して、前記圧電素子が設計仕様を満足させるかどうかを検証してなることを特徴とする圧電素子の設計検証方法。
【請求項9】前記弾性は、前記圧電素子のスチフネスであることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項10】前記弾性は、前記圧電素子内の位置の関数としての素子のスチフネスであることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項11】前記弾性は、前記電極のスチフネスであることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項12】前記第2モデルは、前記電極の変位を前記圧電材料の面の変位に実質的に等しいとみなすことを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項13】前記第2モデルは、前記電極の変位を前記圧電材料の面に対する法線に沿った電極内で一様であるとみなすことを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項14】前記第2モデルでは、前記電極の変位を、前記電極の前記圧電材料の面とのボンディング全域で実質的に連続しているとみなすことを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項15】前記圧電素子の前記第1モデルを形成することは、前記圧電材料の第1応力成分を、前記圧電材料における第1のひずみ関数として形成することからなり、前記第1モデルを操作して前記第2モデルを形成することは、前記電極の変位を前記圧電材料の面の変位と実質的に等しいとしてモデル化することによって、前記電極の第2応力成分を前記圧電材料における第2のひずみ関数として形成し、前記第1応力成分及び前記第2応力成分を組み合わせて、前記圧電素子の応力成分を、前記圧電材料における第3のひずみ関数として表し、それにより、前記電極におけるひずみへの依存関係が表されていれば、それを前記圧電素子の前記第2モデルから消去することからなることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項16】前記電極の変位は、前記圧電材料の面の変位に実質的に等しいとして、さらにモデル化されることを特徴とする請求項15に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項17】前記電極の変位は、前記電極内で実質的に一様であるとして、さらにモデル化されることを特徴とする請求項15に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項18】前記圧電素子の前記第1モデルを形成することは、前記電極の第3応力成分を、前記電極における第4のひずみ関数として形成し、前記第1応力成分及び前記第3応力成分を組み合わせて、前記圧電材料におけるひずみ及び前記電極におけるひずみの両方の関数として表し、前記第1モデルを操作して、前記圧電素子の前記第2モデルを形成することは、前記電極におけるひずみへの依存関係が表されていれば、それを前記第2モデルから消去することによって、前記第1モデルに比べ前記第2モデルの計算量を軽減することからなることを特徴とする請求項15に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項19】前記第1モデルを形成することは、前記圧電材料の前記第1応力成分を、前記圧電材料のひずみ成分の第1の重み付けとして形成し、前記第1モデルを操作して、前記第2モデルを形成することは、前記電極の変位を、前記圧電材料の面の変位と実質的に等しいと共に前記電極内で一様であるとしてモデル化することによって、前記電極の前記第2応力成分を、前記圧電材料の前記ひずみ成分の第2の重み付けとして形成し、前記第1応力成分及び前記第2応力成分を組み合わせて、前記圧電素子の前記第2モデルを形成することからなり、前記第2モデルは前記圧電素子の前記第3応力成分を、前記圧電材料の前記ひずみ成分の第3の重み付けとして表すことを特徴とする請求項8に記載の設計検証方法。
【請求項20】前記圧電素子の前記性質モデルを解析することは、前記第3の重み付けを解析して、前記圧電素子が前記性質モデルの設計仕様を満足させるかどうかを検証してなることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項21】前記圧電素子の前記性質モデルを解析することは、前記第3の重み付けを解析して、前記電極が前記圧電素子の前記性質モデルの設計仕様を満足させるかどうかを検証してなることを特徴とする請求項19に記載の圧電素子の設計検証方法。
【請求項22】面を有する圧電材料と、その圧電材料の面に貼り付けられた電極とからなる圧電素子であって、前記圧電素子の製造後にしなければならない処理を軽減するために、少なくとも一つの前記電極、前記圧電材料、及び前記圧電素子のスチフネスは、前記電極の変位を、前記圧電材料の面の変位に実質的に等しいとしてモデル化することにより、前記圧電素子の設計中に決められるものであることを特徴とする圧電素子。
【請求項23】面を有する圧電材料を含んでおり、その圧電材料の面に貼り付けられた電極をさらに含む圧電素子であって、その圧電素子のモデルを形成し、このモデルは前記圧電素子の応力成分を前記圧電素子のひずみ成分の重み付けとして表しているものであり、前記重み付けは、前記圧電素子、前記圧電材料、及び前記電極を含む集合から選択された素子構成要素のスチフネスを示しているものであり、前記モデルを解析して、前記圧電素子の構成要素が、前記圧電素子の設計仕様を満足させるかどうかを検証するものであることを特徴とする圧電素子。
【請求項24】面を有する圧電材料を含んでおり、その圧電材料の面に貼り付けられた電極をさらに含む圧電素子であって、前記圧電素子の第1モデルを形成し、この第1モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第1モデルは第1の計算量を有しており、前記第1モデルを操作して、前記第1計算量に満たない第2計算量を有する圧電素子の第2モデルを形成し、この第2モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第2モデルを用いて素子の性質モデルを生成し、この性質モデルを解析して、前記圧電素子の設計が前記圧電素子の設計仕様を満足させるかどうかを検証するものであることを特徴とする圧電素子。
【請求項25】圧電素子の設計を検証する圧電素子の設計検証装置であって、圧電素子は面を有する圧電材料を含んでおり、前記圧電素子は、さらに前記圧電材料の面に貼り付けられた電極を含むものであり、前記圧電素子のモデルを形成するための手段を具備し、このモデルは前記圧電素子の応力成分を、前記圧電素子のひずみ成分の重み付けとして表しているものであり、前記重み付けは、前記圧電素子と前記圧電材料と前記電極とを含む集合から選ばれた素子構成要素のスチフネスを示しているものであり、前記モデルを解析して、前記素子構成要素が前記圧電素子の設計仕様を満足させるかどうかを検証するものであることを特徴とする圧電素子の設計検証装置。
【請求項26】圧電素子の設計を検証する圧電素子の設計検証装置であって、前記素子は面を有する圧電材料を含んでおり、前記圧電素子は、さらに前記圧電材料の面に貼り付けられた電極を含むものであり、前記圧電素子の第1モデルを形成するための手段を具備しており、この第1モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第1モデルは第1の計算量を有しており、前記第1モデルを操作して前記第1計算量に満たない第2の計算量を有する圧電素子の第2モデルを形成するための手段を有しており、この第2モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第2モデルを用いて前記圧電素子の性質モデルを生成するための手段を具備しており、前記性質モデルを解析して、前記圧電素子の設計が前記圧電素子の設計仕様を満足させるかどうかを検証するための手段を具備することを特徴とする圧電素子の設計検証装置。
【請求項27】機械可読媒体であって、この媒体は当該機械に指示して素子の設計を検証する方法を実行することのできる命令プログラムを格納し、素子は面を有する圧電材料を含み、素子はさらにその圧電材料の面に貼り付けられた電極を含み、当該方法は、素子のモデルを形成し、当該モデルは応力成分を素子のひずみ成分の重み付けとして表し、当該重み付けは素子と圧電材料と電極を含む集合から選ばれた素子構成要素のスチフネスを示し、前記モデルを解析して前記素子構成要素が素子の設計仕様を満たすかどうか検証することからなることを特徴とする媒体。
【請求項28】機械可読媒体であって、この媒体は機械に指示して圧電素子の設計を検証する方法を実行することのできる命令プログラムを格納しており、前記圧電素子は、面を有する圧電材料を含んでおり、前記圧電素子は、さらにその圧電材料の面に貼り付けられた電極を含むものであり、前記命令プログラムは、前記圧電素子の第1モデルを形成し、この第1モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第1モデルは第1の計算量を有しており、前記第1モデルを操作して、前記第1計算量に満たない第2計算量を有する圧電素子の第2モデルを形成し、この第2モデルは、前記圧電素子の応力を前記圧電素子の弾性関数として表しているものであり、前記第2モデルを用いて前記圧電素子の性質モデルを生成し、この性質モデルを解析して、前記圧電素子の設計が前記圧電素子の設計仕様を満足させるかどうかを検証することを実施するものであることを特徴とする媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−183415(P2000−183415A)
【公開日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−357956
【出願日】平成11年12月16日(1999.12.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)