地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭
【課題】 接合時の回転移動量が少なく、継手強度が大きくねじ山どうしが咬み込むおそれのない信頼性の高い地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭を提供すること。
【解決手段】 鋼管杭本体1の端部に設けられた雌ねじ継手部11と、鋼管杭本体2の端部に設けられ雌ねじ継手部11に螺入される雄ねじ継手部21とを有し、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21の外径は鋼管杭本体1,2の外径と実施的に同一に形成され、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔でねじの条数が3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、鋼管杭本体1,2の断面係数と材料強度の積より大であり、ねじ山高さとねじ条数の積が雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部における断面積より大となるようにした。
【解決手段】 鋼管杭本体1の端部に設けられた雌ねじ継手部11と、鋼管杭本体2の端部に設けられ雌ねじ継手部11に螺入される雄ねじ継手部21とを有し、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21の外径は鋼管杭本体1,2の外径と実施的に同一に形成され、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔でねじの条数が3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、鋼管杭本体1,2の断面係数と材料強度の積より大であり、ねじ山高さとねじ条数の積が雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部における断面積より大となるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地すべり地帯に設置される地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地すべり抑止用鋼管杭は、地すべり地帯に設置されるもので、その施工場所は重機等の搬入が困難な急斜地であることが多く、打撃により杭を打ち込むことができないため、オーガーなどによりプレボーリングした孔に杭を建て込んでいる。ところで、地すべり用鋼管杭の全長は、現地の状況によって相違するが、一般に20〜30mに達する場合が多い。しかし、輸送等の制限があるため、5〜8m程度の鋼管杭を現場で継杭しながら施工するのが通常である。
【0003】
この継杭作業は不安定な環境下で行われるため、迅速かつ確実な作業が強く要求される。また、地すべり崩壊面は、どの面で起こるかを予測することが難かしいため、地すべり抑止用鋼管杭は、継杭継手部を含むほぼ全長にわたって、どの部分でも設計上必要な強度以上の断面諸性能を有していなければならないことが多い。
【0004】
従来、地すべり抑止用鋼管杭の継杭は、現場での溶接作業によって行われている。しかしながら、このような作業環境が悪い場所での現場溶接は、次のような問題がある。(1)現在の慣用サイズの鋼管は肉厚が厚いため、1か所の溶接に時間がかかる。(2)作業環境が悪いため溶接品質が落ち易く、継手強度の確保が容易でない。(3)労働条件が悪いため、優れた溶接技能者を確保しにくい。(4)現場溶接では溶接品質を確保することが困難なため、高張力鋼を使用しにくい。
【0005】
このようなことから、現場継杭作業を前提とする地すべり抑止用鋼管杭においては、次のような要件をすべて満すことが要求される。(1)継杭作業が容易で、かつ作業時間が短いこと。(2)鋼管杭どうしの継手部の品質が作業環境及び技量に影響されることなく、良好に確保されること。(3)継手部の強度が鋼管杭本体(以下、杭本体という)と同等以上であること。(4)継手部の外径が杭本体より大きくならないこと。(5)杭本体が高張力鋼の場合でも適用できること。
【0006】
上記のような条件に対応すべく、近年、地すべり用鋼管杭の継ぎ杭方法として、端部に雌ねじ継手部を有する杭本体と、端部にこの雌ねじ継手部の外径と実質的に同じ外径の雄ねじ継手部を有する杭本体とを備え、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部は数回転でねじ込みが完了するように設定された傾斜及びねじ山高さとねじ山間隔を有するテーパー状のねじ継手からなり、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が杭本体の断面係数と材料強度の積より大きくなるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、雄ねじ及び雌ねじはテーパーねじであり、ねじ山形状が台形状で、かつ2条〜3条の多条ねじとした地すべり抑止鋼管杭継手が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特許第2800656号公報(4−5頁、図1−3)
【特許文献2】特開平10−252056号公報(5頁、図1−2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の地すべり抑止用鋼管杭は、前述の条件をほぼ満しているが、ねじ込み完了には上杭を数回転(2〜6回転)させる必要があり、このため、継杭作業が面倒で、作業時間が長くなるという問題がある。
また、特許文献2の地すべり抑止鋼管杭継手もやはりねじ込み完了には上杭を1回転以上させなければならず、従来技術1と同様の問題がある。
【0010】
近年、地すべり抑止用鋼管杭が大型化し、これまで、外径が600mmまでが最大であったが、外径が800mmや1200mmのものまで出現しており、接合に要する作業をさらに簡単にする必要性が生じている。
【0011】
現状のねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭は、図17に示すように、地中に建て込まれた上端部に雌ねじ継手部41を有する鋼管杭40(先行杭)の上に、下端部に雄ねじ継手部43を有する鋼管杭42(後行杭)をクレーン50で吊りながら配置し、後行杭42を回転させながら徐々に下降させてねじ継手部を結合(螺合)させてねじ継杭を行っている。
この際、図18に示すように、後行杭40の周面から半径方向に複数本の腕44(接合施工治具)を出し、その腕44に杭周接線方向へ人力で力を加え、トルクを与えて回転させている。
【0012】
この場合、人力による後行杭42の回転運動と、クレーン50による下降速度がうまく一致すれば、ほとんど力を加えなくてもねじを回転接合させることができるが、うまく一致しないときは、ねじ部が咬み込んで施工が困難になるため、実状は、後行杭42の自重の一部をねじ部に加えながら施工するのが一般的である。このため、後行杭42の重量が大きくなるにしたがって、また、杭径が大きくなるにしたがって、回転に必要なトルクが大きくなる。
【0013】
後行杭42の回転に加える人力の大きさを一定と考えると、接合に必要な腕44の長さは杭の半径に比例し、その長さは一般に杭径と同程度であることが望ましい。このため、接合に必要な人力を加える部分での人の移動量(回転移動量)は、例えば、ねじ継手部の接合回転量が4回転の場合、外径300mmの杭の場合の回転移動量は、(0.3+2×0.3)m×π×4=11.3mとなるが、外径1200mmの杭の場合は、(1.2+2×1.2)m×π×4=45.2mとなり、非常に大きく(長く)なる。人が力を加える回転移動量は短い方が望ましく、経験上、十数m程度以下が望ましい。
【0014】
また、ねじ継手部の施工上、例えば、障害物が片側にある場合や、一方向が谷の場合でも接合回転量(回転移動量)が1回転以内であれば、接合施工治具の組み替えが不要か最少回数で施工できる。接合回転量が少ない方が望ましいが、あまり少ないと施工後緩みに起因してねじ部の耐荷性が低下するおそれがあるので、3分の1回転以上の接合回転量を確保することが望ましい。
さらに、過去の実績によると、現状のねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭の場合、施工の際、ねじ山どうしが咬み込んで施工不良となる例が散見された。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、接合時の回転移動量が少なく、継手強度が大きくねじ山どうしが咬み込むおそれのない信頼性の高い地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造は、鋼管杭本体の端部に設けられた雌ねじ継手部と、鋼管杭本体の端部に設けられ前記雌ねじ継手部に螺入される雄ねじ継手部とを有し、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の外径は前記鋼管杭本体の外径と実施的に同一に形成され、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔で3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、前記鋼管杭本体の断面係数と材料強度の積より大であり、前記ねじ山高さとねじ条数の積が前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面積より大に構成したものである。
【0017】
(2)上記(1)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ山の高さを3mm以上、8mm以下、ねじ山間隔をねじ山高さの2倍以上、テーパーの傾斜を1/4程度、ねじの条数を4条以上、6条以下とした。
(3)また、上記(1)又は(2)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の材料強度を前記鋼管杭本体の材料強度より大きくし、かつ前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における肉厚を前記鋼管杭本体の肉厚より大きくした。
【0018】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体より材料強度の高い円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合した。
(5)また、上記(1)〜(4)のいずれかの雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体の肉厚より大きい肉厚の円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合した。
【0019】
(6)上記(1)又は(2)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、鋼管杭本体の端部をアプセット加工又は遠心力鋳造法により増肉した部分に形成した。
(7)また、上記(1)〜(6)いずれかの雄ねじ継手部のねじ終点部に、ねじ込み完了時に前記雌ねじ継手部の先端部が当接するショルダー部を設けた。
【0020】
(8)本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭は、上記(1)〜(7)のいずれかの継手構造を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1回転以内で先行杭と後行杭を接合することができ、回転移動量も少ないので継杭の作業性を大幅に向上することができ、その上継手強度が大でねじ山どうしが咬み込み接合不良となるおそれのほとんどない信頼性の高い地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
図において、1は地すべり抑止用の鋼管杭(以下、先行杭という)、2は継手構造であるねじ継手部10を介して先行杭1にねじ接合された先行杭1と同じ外径の鋼管杭(以下、後行杭という)である。ねじ継手部10は、先行杭1及び後行杭2の外径と実質的に等しい外径の、例えば鋼管の如き円筒状の部材にねじ加工したもので、複数条のテーパー雌ねじ12が設けられて先行杭1の管端部(上端部)に溶接3により接合された雌ねじ継手部11と、この雌ねじ継手部11に螺入される複数条のテーパー雄ねじ22が設けられ、後行管2の管端部(下端部)に溶接3により接合された雄ねじ継手部21とからなっている。
【0023】
地すべり抑止用鋼管杭は、上記のように、先行杭1の管端部に接合された雌ねじ継手部11に、後行杭2の管端部に接合された雄ねじ継手部21を螺入することにより継杭される。継杭作業にあたっては、先行杭1の雌ねじ継手部11に、後行管2の雄ねじ継手部21を当接し、後行杭2を回転させて雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11にねじ込む(螺入する)ことにより実施される。
【0024】
このように、本発明によれば、雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10を用いることにより、継杭に溶接作業が不要になり、作業環境や作業者の技量に左右されることなく、先行杭1と後行杭2を所定の強度を有する継手部により短時間で継杭することができる。
【0025】
ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21の外径は、先行杭1及び後行杭2(以下、両者を杭本体と記すことがある)の外径と同じか又はほぼ等しく形成されている。雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21の外径を杭本体1,2の外径より大きくすれば、ねじ継手部10の曲げ強度を容易に大きくすることができる。しかしながら、地すべり抑止用鋼管杭の場合、杭本体1,2の外径は、地盤を先行削孔する孔の径(以下、削孔径という)より小さくなければならないので、ねじ継手部10の外径を大きくすれば、削孔径も大きくする必要がある。ねじ継手部10の構造上の都合から削孔径を大きくすることは、削孔量及び費用も増大するため著しく不経済な工法になり、実用上実施困難である。したがって、ねじ継手部10の外径を、杭本体1,2の外径と実質的に同一とした。
【0026】
前述のように、地すべり抑止用鋼管杭の継手構造であるねじ継手部10は、1回転以内でねじ込みが完了し、回転移動量も十数m程度であることが望ましい。本発明は、上記の問題に対処し、かつ従来技術の課題を解決するために、テーパーの傾斜、ねじ山の高さ、ねじ山の間隔(ピッチ)を所定の値に設定した3条以上の多条テーパーねじでねじ継手部10を形成したものである。
すなわち、テーパーの傾斜1/k(テーパーねじ継手部における、(大直径−小直径)/(大直径と小直径間の距離))、ねじ山の高さh、ねじ山のピッチp及びねじ条数Nを適宜設定することにより、人力により1回転で雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11にねじ込むことができる。
【0027】
例えば、ねじ山のピッチpをねじ山の高さhの2倍、テーパーの傾斜を1/4、ねじ条数Nを4とすると、ねじ込みに必要な雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転数は1回となり、上記を実現することができる。
また、ねじ継手部10を接合するための雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転数が1回転であれば、接合時の回転移動量は、杭本体1,2の外径が1200mmの地すべり抑止用鋼管杭の場合、(1.2+2×1.2)m×π×1=11.4mとなり、概ね10mの回転移動量を実現することができる。
【0028】
以上の結果から、
pN≧2hk
とすることにより、ねじ継手部10を接合する場合の雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転を1回転以内とし、回転移動量をほぼ10m程度とすることができる。
【0029】
図2(a)に1条テーパーねじ、図2(b)に2条テーパーねじ接合直前時の咬み合せ状態の断面模式図を示す。ここでは、雌ねじ継手部11、雄ねじ継手部21が理想的な状態で設置されている場合である。ここで、断面図左側の雌ねじ山12aと雄ねじ山22aが接している時、断面図右側の雌ねじ山12aと雄ねじ山22aも接している状態となっている。この時1条テーパーねじの場合は、左右で上下方向の若干のずれeが生じるが、2条テーパーねじの場合は、左右で上下方向のずれeは生じない。このため仮にねじ山接触面に働く力をFとすると、1条テーパーねじの場合、F×eのモーメントが生じるのに対し、2条テーパーねじの場合このようなモーメントは生じない。そして、n条テーパーねじの場合、雌雄ねじ山12a,22aが作るn個の接点は、上下方向のずれeを生じないのでモーメントは生じない。このため、1条テーパーねじよりも2条以上のテーパーねじの方が安定しており、咬み込みによる施工不良が生じるおそれが少なくなる。
【0030】
図3(a)は2条テーパーねじ、図3(b)は3条テーパーねじの横断面を模式的に示したものである。2条テーパーねじの場合、X方向の力Fに対しては雌雄のねじ山12a,22aが接して反力が生じて安定するが、Y方向の力に対しては不安定である。一方、3条テーパーねじの場合は、雌雄のねじ山12a,22aが120°の間隔で3点で接するため、X方向、Y方向の力に対しても安定しており、咬み込みによる施工不良が生じるおそれが少ない。すなわち、この面からみても、多条のテーパーねじは条数が多いほど安定して施工できることがわかる。
【0031】
以上のことから、3条以上の多条のテーパーねじとすることが望ましいが、6条を超えると製作が面倒でありコストも上昇するので、本発明においては3条〜6条のテーパーねじを採用することにした。なお、これによりねじ山どうしの咬み込みによる施工不良を防止することができる。
【0032】
図4はねじ継手部10における力の伝達機構の説明図である。管端部に雌ねじ継手部11を有する杭本体1と、管端部に雄ねじ継手部21を有する杭本体2が、雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11に螺入することにより杭本体1,2が接合される。図の断面G部(ねじ終点部)は、杭本体1,2のA部及びH部と同じ曲げ耐荷力を要求されるが、ほとんど曲げ耐荷力を必要としないF部を薄くすることにより、G部の外径を大きくすることができる。これにより、G部の厚みを杭本体1,2の肉厚より若干大きくするか、又は雄ねじ継手部21(又は、雄ねじ継手部21及び雌ねじ継手部11)の材料強度を上げることにより、容易に杭本体1,2と同じ曲げ強度を確保することができる。
【0033】
図5に本発明外である従来のテーパーねじ継手部を示す。ねじ継手部10aを構成する雌ねじ継手部11a及び雄ねじ継手部21aは、杭本体1,2と同じ強度である(図には、杭本体1,2に直接雌ねじ継手部11a、雄ねじ継手部21aを設けた場合が示してある)。そして、雌ねじ継手部11aのねじ終点部11b、雄ねじ継手部21aのねじ終点部21bの厚みは、杭本体1,2の肉厚よりやや薄くなっている。
このようなねじ継手部10aでは、ねじ終点部11b,21bの双方とも、断面積及び断面係数が杭本体1,2より小さくならざるを得ない。このため、ねじ継手部10aの剪断耐荷力、引張耐荷力及び曲げ耐荷力は、いずれも杭本体1,2より小さくなる。
【0034】
図6は上記の問題点を解決するために、ねじ継手部10を杭本体1,2と別部材で構成し、かつ、ねじ継手部10に杭本体1,2の材料強度より高い、例えば高張力鋼材の如き鋼材を用いたものである。このように構成したことにより、杭本体1,2と同等の曲げ強度を確保することができる。
【0035】
図7はねじ継手部10の他の例の説明図である(図7は、図1の一部を示す)。本例においては、雌ねじ継手部11の終点部13及び雄ねじ継手部21の終点部23の厚みt1,t2を、杭本体1,2の厚みtより大きく形成したものである。
このように、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部13,23の厚みt1,t2を、杭本体1,2の厚みtより大きくするか、あるいは、前述のように、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21の材料強度を、杭本体1,2の材料強度より大きくするかのいずれにするか、又は両者を採用するかは、ねじ継手部10のテーパーの傾斜1/k、ねじ山のピッチp、ねじ山の高さh、ねじ部の長さ等のねじ部の設計条件、加工性及び製作コスト等を勘案して適宜選択することができる。
【0036】
また、図7は、ねじ継手部10において、雄ねじ継手部21の雌ねじ継手部11へのねじ込み完了時に、雄ねじ継手部21のねじ22のつけ根部(終点部)に、雌ねじ継手部11の先端面が当接するショルダー部24を設けたものである。
【0037】
ところで、図8に示すように、ねじ継手部10に鋼材の降伏応力度を超えるような大きな曲げモーメントが作用すると、ねじ継手部10の円環状断面は変形を生じ、図9に示すように、圧縮側では雌ねじ継手部11のねじ山が矢印C方向に動き、雄ねじ継手部21のねじ山は矢印D方向に動いて、互いにねじ山を乗り越えて外れようとし、ついには急激に曲げ耐荷力が低下する。
【0038】
一般用の鋼管杭においては、鋼材の降伏応力度を超えない範囲で設計されるが、地すべり抑止用鋼管杭の場合は、杭に実際に作用する地すべり力を正確に推定することはきわめて難かしいため、設計上設定した値よりも大きな曲げモーメントが杭に発生することがしばしば生じる。このため、地すべり抑止用鋼管杭の継手部には、鋼材が降伏した後も杭本体と同程度の耐荷性能が要求される。
【0039】
そこで、図10に示すように、雌ねじ継手部11の先端部が雄ねじ継手部21のショルダー部24に当接していると、雌ねじ継手部11のねじ山を乗り越えようとする動きが拘束されるので、ねじ継手部10も杭本体1,2と同程度の曲げ耐荷性能を確保することができる。また、施工にあたり雌ねじ継手部11の先端面がショルダー部24に突き当ることで、所定の長さまでねじ込んだことを確認できるので、施工管理上の重要な役割りを果すことができる。
【0040】
また、図11に示すように、雄ねじ継手部21の先端部にねじ22が設けられていない領域(非ねじ部25)を設けた。
鋼管杭を孔中に建込む場合、図12に示すように、その上端部をワイヤで結んで、クレーン50あるいはウインチで吊り上げるため、鋼管杭の下端部が地面上を引きずられる。ねじ継手部10を有する場合、継手部の噛み合わせの都合から、雄ねじ継手部21が下端部になるのが一般的であり、そのため、ねじ22の下端部が損傷するおそれがある。しかし、先端部に非ねじ部25を設けることにより、ねじ22の損傷を防止することができる。また、この非ねじ部25は雌ねじ継手部11に雄ねじ継手部21を螺入する際のガイドとすることができる。
【0041】
以上の説明から明かなように、本発明に係るねじ継手部10は、少なくとも次の条件の全部又は一部を満すことが必要である。
(1)ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21は、多条のテーパーねじで、1回転以内でねじ込みが完了すること。
(2)ねじ継手部10は、その材料強度が抗本体1,2の材料強度より大であること。
(3)ねじ継手部10は、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部の肉厚が杭本体1,2の肉厚より大であること。
上記(1)の条件は必ず必要であり、(2),(3)の条件は、(1)の条件に加えて、両者又はいずれ一方を具備することが必要である。
【0042】
[実施の形態2]
図13は本発明の実施の形態2に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
実施の形態1では、先行杭1と後行杭2の管端部に、先行杭1と後行杭2とは別に設けた雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10を接合し、このねじ継手部10により先行管1と後行管2をねじ接合する場合について説明したが、本実施の形態においては、先行管1と後行管2の管端部に直接雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21を設けたものである。
【0043】
本実施の形態は、図13に示すように、杭本体1,2の管端部を、アプセット加工、遠心力鋳造法等により内径を縮径して増肉部(肉厚部)を形成し、この増肉部に実施の形態1の場合と同様に、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21を設け、かつ、雄ねじ継手部21にショルダー部24を設けると共に、先端部に非ねじ部25を設けたものである。
【0044】
本実施の形態における先行杭1と後行杭2の接合手順、効果は実施の形態1の場合とほぼ同様であるが、杭本体1,2へのねじ継手部10の溶接接合の手間を省くことができる。
【0045】
上述の実施の形態1,2では、先行杭1に雌ねじ継手部11を設け、後行杭2に雄ねじ継手部21を設けた場合を示したが、先行杭1に雄ねじ継手部21を、後行杭2に雌ねじ継手部11を設けてもよい。
また、ねじ継手部10の多条のテーパーねじのねじ山を、断面台形状(四角形状)に形成した場合を示したが、断面三角形状の多条のテーパーねじであってもよい。
【実施例】
【0046】
次に、実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の実施例について説明する。
[施工試験]
本試験においては、外径800mmで4条テーパーねじを設けたねじ継手部10を製作し、その施工性向上効果を確認した。
試験に供した杭本体1,2は外径800mm、板厚33mm(規格降伏点450N/mm2)の鋼管であり、ねじ継手部10は外径800mm、HITEN780材(規格降伏点685N/mm2)により製作し、その雌ねじ継手部11を一方の杭本体1(以下、本実施例では、下杭という)の管端部に、雄ねじ継手部21を他方の杭本体2(以下、本実施例では、上杭という)の管端部に、あらかじめ工場で溶接接合した。
【0047】
ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21のねじ部は、ねじ山の高さ:5mm、ねじ山の間隔(ピッチ):10mm、テーパーの傾斜(1/k):1/4の4条ねじであり、雄ねじ継手部21のショルダー部24の厚みが20mm、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部の板厚はともに40mmで、ねじ部の長さは280mmである。
【0048】
先ず、図14(a)に示すように、地中に埋込んだねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭を模擬して、工場建屋内のピットに雌ねじ継手部11を上にして下杭1を建て込んだ。ついで、図14(b)に示すように、天井クレーンにより雄ねじ継手部21を下にして上杭2を吊下げ、図14(c)に示すように、下杭1の上方に配置して芯合わせを行った。そして、図14(d)に示すように、上杭2を徐々に下降させてその雄ねじ継手部21を下杭1の雌ねじ継手部11に咬み込ませると共に、上杭2の外周に上杭2の回転用バンド5を取付けて、この回転用バンド5に複数本の短管パイプ6を杭半径方向に取付けた。
【0049】
そして、図14(e)に示すように、人力により短管パイプ6に杭外面接線方向に力を加えて、回転させながら上杭2を徐々に下降させて、図14(f)に示すように、ねじ継手部10を介して下杭1と上杭2を一体に接合し、短管パイプ6及び回転用バンド5を取外した。なお、この際、上杭2の吊り荷重が一定値になるように制御した。
以上の試験の結果、接合回転量は1回転以内、回転移動量は約7.5mで、下杭1の建て込みから上杭2の接合完了までの施工時間は、10分以内であった。これは従来の施工時間の1/2〜1/3である。
【0050】
また、下杭1を傾けた(傾き1/50、1/100)状態で上杭2の接合試験を行ったが、下杭1と上杭2の軸心が一致するように、上杭2の雄ねじ継手部21のねじ部を下杭1の雌ねじ継手部に預けながら上杭2の上端部の位置を調整しつつ施工することにより、問題なく接合することができた。
【0051】
[曲げ耐力試験]
地すべり抑止用鋼管杭には、曲げモーメント、剪断力、引張力が作用し、継手部はこれらの力に対して杭本体と同等又はそれ以上の耐荷力を有する必要がある。本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭のように、ねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と実質的に同じ場合には、曲げモーメントに対する耐荷力が最大の問題となる。そこで、ねじ継手部10の曲げ強度について試験を行った。
【0052】
曲げ耐力試験にあたっては、杭本体1,2を外径800mmのねじ継手部10で接合した、前記の施工試験に供した地すべり抑止用鋼管杭を使用した。
先ず、図15に示すように、ねじ継手部10を中心にして両端部を支点7上に載置した。ついで、ねじ継手部10の両側上面の載荷点8から下方に荷重Pをかけることにより、4点載荷曲げ試験を実施し、曲げ耐力を調べた。なお、試験において、支点7,7間の距離Lは10700mm、荷重Pをかける載荷点8,8間の距離L1は1500mmであった。
【0053】
比較のため、本試験に使用した地すべり抑止用鋼管杭と同寸法、同材質の鋼管杭(以下、比較用鋼管杭という)を、上記と同条件で4点載荷曲げ試験を行った。
図16に本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭(破線で示す)と比較用鋼管杭(実線で示す)の試験結果を示す。
【0054】
図から明らかなように、本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭のねじ継手部10は、比較用鋼管と同等以上の曲げ耐力を有することが確認された。この結果、本発明の地すべり抑止用鋼管杭は、ねじ継手部10を含むほぼ全長にわたって、どの部分でも継手部のない鋼管杭の曲げ耐力と同等の耐荷力を均一に有していることがわかった。
【0055】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)ねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と実質的に同じでありながら、ねじ継手部10は杭本体1,2と同等以上の曲げ強度を確保することができるので、ねじ継手部10を含む地すべり抑止用鋼管杭のほぼ全長にわたって、継手部のない鋼管杭と同等の曲げ耐力が得られる。
(2)雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と同じであるため、地盤の削孔径が大きくならず、このため工事費が増大しない。
【0056】
(3)ねじ継手部10は3条以上のテーパーねじで結合するため、1回転以内でねじ込みが完了し、継杭に要する施工時間を大幅に短縮することができる。また、3条以上のテーパーねじであるため、咬み込みによる施工不良のおそれがほとんどなくなる。
(4)ねじ継手部10による杭本体1,2の接合にあたっては、特殊な機械及び高度な技量を必要とせず、天候にも左右されずに作業することができ、信頼性の高い継手構造が得られる。また、ねじ継手部10のねじ込み作業は、一般的な作業員が2〜3人で人力によって実施することができる。
【0057】
(5)杭本体1,2が高張力鋼(例えば、SM570)の場合でも、容易にねじ継手部10を設計、製造することができる。
(6)雄ねじ継手部21に設けたショルダー部24により、大きな曲げモーメントが作用することによりねじ山が互いに相手方のねじ山を乗り越えようとする動きが拘束され、ねじ継手部10も杭本体1,2と同程度の曲げ耐荷性能を有することができる。また、雌ねじ継手部11の先端面がショルダー部24に突き当ることで、所定の長さまでねじ込んだことが確認できるので、施工管理上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
【図2】1条テーパーねじと2条テーパーねじの咬み合わせ状態の説明図である。
【図3】2条テーパーねじと3条テーパーねじの外力に対する安定性の説明図である。
【図4】ねじ継手部における力の伝達機構の説明図である。
【図5】本発明の発明外であるねじ継手部の説明図である。
【図6】本発明に係るねじ継手部の説明図である。
【図7】本発明に係るねじ継手部の説明図である。
【図8】ねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図9】ねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図10】本発明に係るねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図11】ねじ継手部の雄ねじ継手部の他の例の説明図である。
【図12】図11の雄ねじ継手部を有する鋼管杭の建て込み状態の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の説明図である。
【図14】本発明の実施例に係る施工試験の説明図である。
【図15】本発明の実施例に係る曲げ耐力試験の説明図である。
【図16】本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭と比較用鋼管杭の曲げ耐力試験結果を示す線図である。
【図17】ねじ込み式継手部を備えた地すべり抑止用鋼管杭の継杭の施工状態を示す説明図である。
【図18】ねじ込み式継手部を備えた地すべり抑止用鋼管杭の継杭の施工状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 鋼管杭(先行杭)、2 鋼管杭(後行杭)、10 ねじ継手部、11 雌ねじ継手部、13 ねじ終点部、21 雄ねじ継手部、23 ねじ終点部、24 ショルダー部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、地すべり地帯に設置される地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地すべり抑止用鋼管杭は、地すべり地帯に設置されるもので、その施工場所は重機等の搬入が困難な急斜地であることが多く、打撃により杭を打ち込むことができないため、オーガーなどによりプレボーリングした孔に杭を建て込んでいる。ところで、地すべり用鋼管杭の全長は、現地の状況によって相違するが、一般に20〜30mに達する場合が多い。しかし、輸送等の制限があるため、5〜8m程度の鋼管杭を現場で継杭しながら施工するのが通常である。
【0003】
この継杭作業は不安定な環境下で行われるため、迅速かつ確実な作業が強く要求される。また、地すべり崩壊面は、どの面で起こるかを予測することが難かしいため、地すべり抑止用鋼管杭は、継杭継手部を含むほぼ全長にわたって、どの部分でも設計上必要な強度以上の断面諸性能を有していなければならないことが多い。
【0004】
従来、地すべり抑止用鋼管杭の継杭は、現場での溶接作業によって行われている。しかしながら、このような作業環境が悪い場所での現場溶接は、次のような問題がある。(1)現在の慣用サイズの鋼管は肉厚が厚いため、1か所の溶接に時間がかかる。(2)作業環境が悪いため溶接品質が落ち易く、継手強度の確保が容易でない。(3)労働条件が悪いため、優れた溶接技能者を確保しにくい。(4)現場溶接では溶接品質を確保することが困難なため、高張力鋼を使用しにくい。
【0005】
このようなことから、現場継杭作業を前提とする地すべり抑止用鋼管杭においては、次のような要件をすべて満すことが要求される。(1)継杭作業が容易で、かつ作業時間が短いこと。(2)鋼管杭どうしの継手部の品質が作業環境及び技量に影響されることなく、良好に確保されること。(3)継手部の強度が鋼管杭本体(以下、杭本体という)と同等以上であること。(4)継手部の外径が杭本体より大きくならないこと。(5)杭本体が高張力鋼の場合でも適用できること。
【0006】
上記のような条件に対応すべく、近年、地すべり用鋼管杭の継ぎ杭方法として、端部に雌ねじ継手部を有する杭本体と、端部にこの雌ねじ継手部の外径と実質的に同じ外径の雄ねじ継手部を有する杭本体とを備え、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部は数回転でねじ込みが完了するように設定された傾斜及びねじ山高さとねじ山間隔を有するテーパー状のねじ継手からなり、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が杭本体の断面係数と材料強度の積より大きくなるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、雄ねじ及び雌ねじはテーパーねじであり、ねじ山形状が台形状で、かつ2条〜3条の多条ねじとした地すべり抑止鋼管杭継手が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特許第2800656号公報(4−5頁、図1−3)
【特許文献2】特開平10−252056号公報(5頁、図1−2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の地すべり抑止用鋼管杭は、前述の条件をほぼ満しているが、ねじ込み完了には上杭を数回転(2〜6回転)させる必要があり、このため、継杭作業が面倒で、作業時間が長くなるという問題がある。
また、特許文献2の地すべり抑止鋼管杭継手もやはりねじ込み完了には上杭を1回転以上させなければならず、従来技術1と同様の問題がある。
【0010】
近年、地すべり抑止用鋼管杭が大型化し、これまで、外径が600mmまでが最大であったが、外径が800mmや1200mmのものまで出現しており、接合に要する作業をさらに簡単にする必要性が生じている。
【0011】
現状のねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭は、図17に示すように、地中に建て込まれた上端部に雌ねじ継手部41を有する鋼管杭40(先行杭)の上に、下端部に雄ねじ継手部43を有する鋼管杭42(後行杭)をクレーン50で吊りながら配置し、後行杭42を回転させながら徐々に下降させてねじ継手部を結合(螺合)させてねじ継杭を行っている。
この際、図18に示すように、後行杭40の周面から半径方向に複数本の腕44(接合施工治具)を出し、その腕44に杭周接線方向へ人力で力を加え、トルクを与えて回転させている。
【0012】
この場合、人力による後行杭42の回転運動と、クレーン50による下降速度がうまく一致すれば、ほとんど力を加えなくてもねじを回転接合させることができるが、うまく一致しないときは、ねじ部が咬み込んで施工が困難になるため、実状は、後行杭42の自重の一部をねじ部に加えながら施工するのが一般的である。このため、後行杭42の重量が大きくなるにしたがって、また、杭径が大きくなるにしたがって、回転に必要なトルクが大きくなる。
【0013】
後行杭42の回転に加える人力の大きさを一定と考えると、接合に必要な腕44の長さは杭の半径に比例し、その長さは一般に杭径と同程度であることが望ましい。このため、接合に必要な人力を加える部分での人の移動量(回転移動量)は、例えば、ねじ継手部の接合回転量が4回転の場合、外径300mmの杭の場合の回転移動量は、(0.3+2×0.3)m×π×4=11.3mとなるが、外径1200mmの杭の場合は、(1.2+2×1.2)m×π×4=45.2mとなり、非常に大きく(長く)なる。人が力を加える回転移動量は短い方が望ましく、経験上、十数m程度以下が望ましい。
【0014】
また、ねじ継手部の施工上、例えば、障害物が片側にある場合や、一方向が谷の場合でも接合回転量(回転移動量)が1回転以内であれば、接合施工治具の組み替えが不要か最少回数で施工できる。接合回転量が少ない方が望ましいが、あまり少ないと施工後緩みに起因してねじ部の耐荷性が低下するおそれがあるので、3分の1回転以上の接合回転量を確保することが望ましい。
さらに、過去の実績によると、現状のねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭の場合、施工の際、ねじ山どうしが咬み込んで施工不良となる例が散見された。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、接合時の回転移動量が少なく、継手強度が大きくねじ山どうしが咬み込むおそれのない信頼性の高い地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造は、鋼管杭本体の端部に設けられた雌ねじ継手部と、鋼管杭本体の端部に設けられ前記雌ねじ継手部に螺入される雄ねじ継手部とを有し、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の外径は前記鋼管杭本体の外径と実施的に同一に形成され、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔で3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、前記鋼管杭本体の断面係数と材料強度の積より大であり、前記ねじ山高さとねじ条数の積が前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面積より大に構成したものである。
【0017】
(2)上記(1)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ山の高さを3mm以上、8mm以下、ねじ山間隔をねじ山高さの2倍以上、テーパーの傾斜を1/4程度、ねじの条数を4条以上、6条以下とした。
(3)また、上記(1)又は(2)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の材料強度を前記鋼管杭本体の材料強度より大きくし、かつ前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における肉厚を前記鋼管杭本体の肉厚より大きくした。
【0018】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体より材料強度の高い円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合した。
(5)また、上記(1)〜(4)のいずれかの雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体の肉厚より大きい肉厚の円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合した。
【0019】
(6)上記(1)又は(2)の雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、鋼管杭本体の端部をアプセット加工又は遠心力鋳造法により増肉した部分に形成した。
(7)また、上記(1)〜(6)いずれかの雄ねじ継手部のねじ終点部に、ねじ込み完了時に前記雌ねじ継手部の先端部が当接するショルダー部を設けた。
【0020】
(8)本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭は、上記(1)〜(7)のいずれかの継手構造を備えたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、1回転以内で先行杭と後行杭を接合することができ、回転移動量も少ないので継杭の作業性を大幅に向上することができ、その上継手強度が大でねじ山どうしが咬み込み接合不良となるおそれのほとんどない信頼性の高い地すべり抑止用鋼管杭の継手構造及びこれを備えた地すべり抑止用鋼管杭を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
図において、1は地すべり抑止用の鋼管杭(以下、先行杭という)、2は継手構造であるねじ継手部10を介して先行杭1にねじ接合された先行杭1と同じ外径の鋼管杭(以下、後行杭という)である。ねじ継手部10は、先行杭1及び後行杭2の外径と実質的に等しい外径の、例えば鋼管の如き円筒状の部材にねじ加工したもので、複数条のテーパー雌ねじ12が設けられて先行杭1の管端部(上端部)に溶接3により接合された雌ねじ継手部11と、この雌ねじ継手部11に螺入される複数条のテーパー雄ねじ22が設けられ、後行管2の管端部(下端部)に溶接3により接合された雄ねじ継手部21とからなっている。
【0023】
地すべり抑止用鋼管杭は、上記のように、先行杭1の管端部に接合された雌ねじ継手部11に、後行杭2の管端部に接合された雄ねじ継手部21を螺入することにより継杭される。継杭作業にあたっては、先行杭1の雌ねじ継手部11に、後行管2の雄ねじ継手部21を当接し、後行杭2を回転させて雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11にねじ込む(螺入する)ことにより実施される。
【0024】
このように、本発明によれば、雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10を用いることにより、継杭に溶接作業が不要になり、作業環境や作業者の技量に左右されることなく、先行杭1と後行杭2を所定の強度を有する継手部により短時間で継杭することができる。
【0025】
ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21の外径は、先行杭1及び後行杭2(以下、両者を杭本体と記すことがある)の外径と同じか又はほぼ等しく形成されている。雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21の外径を杭本体1,2の外径より大きくすれば、ねじ継手部10の曲げ強度を容易に大きくすることができる。しかしながら、地すべり抑止用鋼管杭の場合、杭本体1,2の外径は、地盤を先行削孔する孔の径(以下、削孔径という)より小さくなければならないので、ねじ継手部10の外径を大きくすれば、削孔径も大きくする必要がある。ねじ継手部10の構造上の都合から削孔径を大きくすることは、削孔量及び費用も増大するため著しく不経済な工法になり、実用上実施困難である。したがって、ねじ継手部10の外径を、杭本体1,2の外径と実質的に同一とした。
【0026】
前述のように、地すべり抑止用鋼管杭の継手構造であるねじ継手部10は、1回転以内でねじ込みが完了し、回転移動量も十数m程度であることが望ましい。本発明は、上記の問題に対処し、かつ従来技術の課題を解決するために、テーパーの傾斜、ねじ山の高さ、ねじ山の間隔(ピッチ)を所定の値に設定した3条以上の多条テーパーねじでねじ継手部10を形成したものである。
すなわち、テーパーの傾斜1/k(テーパーねじ継手部における、(大直径−小直径)/(大直径と小直径間の距離))、ねじ山の高さh、ねじ山のピッチp及びねじ条数Nを適宜設定することにより、人力により1回転で雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11にねじ込むことができる。
【0027】
例えば、ねじ山のピッチpをねじ山の高さhの2倍、テーパーの傾斜を1/4、ねじ条数Nを4とすると、ねじ込みに必要な雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転数は1回となり、上記を実現することができる。
また、ねじ継手部10を接合するための雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転数が1回転であれば、接合時の回転移動量は、杭本体1,2の外径が1200mmの地すべり抑止用鋼管杭の場合、(1.2+2×1.2)m×π×1=11.4mとなり、概ね10mの回転移動量を実現することができる。
【0028】
以上の結果から、
pN≧2hk
とすることにより、ねじ継手部10を接合する場合の雄ねじ継手部21(あるいは雌ねじ継手部11)の回転を1回転以内とし、回転移動量をほぼ10m程度とすることができる。
【0029】
図2(a)に1条テーパーねじ、図2(b)に2条テーパーねじ接合直前時の咬み合せ状態の断面模式図を示す。ここでは、雌ねじ継手部11、雄ねじ継手部21が理想的な状態で設置されている場合である。ここで、断面図左側の雌ねじ山12aと雄ねじ山22aが接している時、断面図右側の雌ねじ山12aと雄ねじ山22aも接している状態となっている。この時1条テーパーねじの場合は、左右で上下方向の若干のずれeが生じるが、2条テーパーねじの場合は、左右で上下方向のずれeは生じない。このため仮にねじ山接触面に働く力をFとすると、1条テーパーねじの場合、F×eのモーメントが生じるのに対し、2条テーパーねじの場合このようなモーメントは生じない。そして、n条テーパーねじの場合、雌雄ねじ山12a,22aが作るn個の接点は、上下方向のずれeを生じないのでモーメントは生じない。このため、1条テーパーねじよりも2条以上のテーパーねじの方が安定しており、咬み込みによる施工不良が生じるおそれが少なくなる。
【0030】
図3(a)は2条テーパーねじ、図3(b)は3条テーパーねじの横断面を模式的に示したものである。2条テーパーねじの場合、X方向の力Fに対しては雌雄のねじ山12a,22aが接して反力が生じて安定するが、Y方向の力に対しては不安定である。一方、3条テーパーねじの場合は、雌雄のねじ山12a,22aが120°の間隔で3点で接するため、X方向、Y方向の力に対しても安定しており、咬み込みによる施工不良が生じるおそれが少ない。すなわち、この面からみても、多条のテーパーねじは条数が多いほど安定して施工できることがわかる。
【0031】
以上のことから、3条以上の多条のテーパーねじとすることが望ましいが、6条を超えると製作が面倒でありコストも上昇するので、本発明においては3条〜6条のテーパーねじを採用することにした。なお、これによりねじ山どうしの咬み込みによる施工不良を防止することができる。
【0032】
図4はねじ継手部10における力の伝達機構の説明図である。管端部に雌ねじ継手部11を有する杭本体1と、管端部に雄ねじ継手部21を有する杭本体2が、雄ねじ継手部21を雌ねじ継手部11に螺入することにより杭本体1,2が接合される。図の断面G部(ねじ終点部)は、杭本体1,2のA部及びH部と同じ曲げ耐荷力を要求されるが、ほとんど曲げ耐荷力を必要としないF部を薄くすることにより、G部の外径を大きくすることができる。これにより、G部の厚みを杭本体1,2の肉厚より若干大きくするか、又は雄ねじ継手部21(又は、雄ねじ継手部21及び雌ねじ継手部11)の材料強度を上げることにより、容易に杭本体1,2と同じ曲げ強度を確保することができる。
【0033】
図5に本発明外である従来のテーパーねじ継手部を示す。ねじ継手部10aを構成する雌ねじ継手部11a及び雄ねじ継手部21aは、杭本体1,2と同じ強度である(図には、杭本体1,2に直接雌ねじ継手部11a、雄ねじ継手部21aを設けた場合が示してある)。そして、雌ねじ継手部11aのねじ終点部11b、雄ねじ継手部21aのねじ終点部21bの厚みは、杭本体1,2の肉厚よりやや薄くなっている。
このようなねじ継手部10aでは、ねじ終点部11b,21bの双方とも、断面積及び断面係数が杭本体1,2より小さくならざるを得ない。このため、ねじ継手部10aの剪断耐荷力、引張耐荷力及び曲げ耐荷力は、いずれも杭本体1,2より小さくなる。
【0034】
図6は上記の問題点を解決するために、ねじ継手部10を杭本体1,2と別部材で構成し、かつ、ねじ継手部10に杭本体1,2の材料強度より高い、例えば高張力鋼材の如き鋼材を用いたものである。このように構成したことにより、杭本体1,2と同等の曲げ強度を確保することができる。
【0035】
図7はねじ継手部10の他の例の説明図である(図7は、図1の一部を示す)。本例においては、雌ねじ継手部11の終点部13及び雄ねじ継手部21の終点部23の厚みt1,t2を、杭本体1,2の厚みtより大きく形成したものである。
このように、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部13,23の厚みt1,t2を、杭本体1,2の厚みtより大きくするか、あるいは、前述のように、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21の材料強度を、杭本体1,2の材料強度より大きくするかのいずれにするか、又は両者を採用するかは、ねじ継手部10のテーパーの傾斜1/k、ねじ山のピッチp、ねじ山の高さh、ねじ部の長さ等のねじ部の設計条件、加工性及び製作コスト等を勘案して適宜選択することができる。
【0036】
また、図7は、ねじ継手部10において、雄ねじ継手部21の雌ねじ継手部11へのねじ込み完了時に、雄ねじ継手部21のねじ22のつけ根部(終点部)に、雌ねじ継手部11の先端面が当接するショルダー部24を設けたものである。
【0037】
ところで、図8に示すように、ねじ継手部10に鋼材の降伏応力度を超えるような大きな曲げモーメントが作用すると、ねじ継手部10の円環状断面は変形を生じ、図9に示すように、圧縮側では雌ねじ継手部11のねじ山が矢印C方向に動き、雄ねじ継手部21のねじ山は矢印D方向に動いて、互いにねじ山を乗り越えて外れようとし、ついには急激に曲げ耐荷力が低下する。
【0038】
一般用の鋼管杭においては、鋼材の降伏応力度を超えない範囲で設計されるが、地すべり抑止用鋼管杭の場合は、杭に実際に作用する地すべり力を正確に推定することはきわめて難かしいため、設計上設定した値よりも大きな曲げモーメントが杭に発生することがしばしば生じる。このため、地すべり抑止用鋼管杭の継手部には、鋼材が降伏した後も杭本体と同程度の耐荷性能が要求される。
【0039】
そこで、図10に示すように、雌ねじ継手部11の先端部が雄ねじ継手部21のショルダー部24に当接していると、雌ねじ継手部11のねじ山を乗り越えようとする動きが拘束されるので、ねじ継手部10も杭本体1,2と同程度の曲げ耐荷性能を確保することができる。また、施工にあたり雌ねじ継手部11の先端面がショルダー部24に突き当ることで、所定の長さまでねじ込んだことを確認できるので、施工管理上の重要な役割りを果すことができる。
【0040】
また、図11に示すように、雄ねじ継手部21の先端部にねじ22が設けられていない領域(非ねじ部25)を設けた。
鋼管杭を孔中に建込む場合、図12に示すように、その上端部をワイヤで結んで、クレーン50あるいはウインチで吊り上げるため、鋼管杭の下端部が地面上を引きずられる。ねじ継手部10を有する場合、継手部の噛み合わせの都合から、雄ねじ継手部21が下端部になるのが一般的であり、そのため、ねじ22の下端部が損傷するおそれがある。しかし、先端部に非ねじ部25を設けることにより、ねじ22の損傷を防止することができる。また、この非ねじ部25は雌ねじ継手部11に雄ねじ継手部21を螺入する際のガイドとすることができる。
【0041】
以上の説明から明かなように、本発明に係るねじ継手部10は、少なくとも次の条件の全部又は一部を満すことが必要である。
(1)ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21は、多条のテーパーねじで、1回転以内でねじ込みが完了すること。
(2)ねじ継手部10は、その材料強度が抗本体1,2の材料強度より大であること。
(3)ねじ継手部10は、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部の肉厚が杭本体1,2の肉厚より大であること。
上記(1)の条件は必ず必要であり、(2),(3)の条件は、(1)の条件に加えて、両者又はいずれ一方を具備することが必要である。
【0042】
[実施の形態2]
図13は本発明の実施の形態2に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
実施の形態1では、先行杭1と後行杭2の管端部に、先行杭1と後行杭2とは別に設けた雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10を接合し、このねじ継手部10により先行管1と後行管2をねじ接合する場合について説明したが、本実施の形態においては、先行管1と後行管2の管端部に直接雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21を設けたものである。
【0043】
本実施の形態は、図13に示すように、杭本体1,2の管端部を、アプセット加工、遠心力鋳造法等により内径を縮径して増肉部(肉厚部)を形成し、この増肉部に実施の形態1の場合と同様に、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21を設け、かつ、雄ねじ継手部21にショルダー部24を設けると共に、先端部に非ねじ部25を設けたものである。
【0044】
本実施の形態における先行杭1と後行杭2の接合手順、効果は実施の形態1の場合とほぼ同様であるが、杭本体1,2へのねじ継手部10の溶接接合の手間を省くことができる。
【0045】
上述の実施の形態1,2では、先行杭1に雌ねじ継手部11を設け、後行杭2に雄ねじ継手部21を設けた場合を示したが、先行杭1に雄ねじ継手部21を、後行杭2に雌ねじ継手部11を設けてもよい。
また、ねじ継手部10の多条のテーパーねじのねじ山を、断面台形状(四角形状)に形成した場合を示したが、断面三角形状の多条のテーパーねじであってもよい。
【実施例】
【0046】
次に、実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の実施例について説明する。
[施工試験]
本試験においては、外径800mmで4条テーパーねじを設けたねじ継手部10を製作し、その施工性向上効果を確認した。
試験に供した杭本体1,2は外径800mm、板厚33mm(規格降伏点450N/mm2)の鋼管であり、ねじ継手部10は外径800mm、HITEN780材(規格降伏点685N/mm2)により製作し、その雌ねじ継手部11を一方の杭本体1(以下、本実施例では、下杭という)の管端部に、雄ねじ継手部21を他方の杭本体2(以下、本実施例では、上杭という)の管端部に、あらかじめ工場で溶接接合した。
【0047】
ねじ継手部10を構成する雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21のねじ部は、ねじ山の高さ:5mm、ねじ山の間隔(ピッチ):10mm、テーパーの傾斜(1/k):1/4の4条ねじであり、雄ねじ継手部21のショルダー部24の厚みが20mm、雌ねじ継手部11及び雄ねじ継手部21のねじ終点部の板厚はともに40mmで、ねじ部の長さは280mmである。
【0048】
先ず、図14(a)に示すように、地中に埋込んだねじ継手式の地すべり抑止用鋼管杭を模擬して、工場建屋内のピットに雌ねじ継手部11を上にして下杭1を建て込んだ。ついで、図14(b)に示すように、天井クレーンにより雄ねじ継手部21を下にして上杭2を吊下げ、図14(c)に示すように、下杭1の上方に配置して芯合わせを行った。そして、図14(d)に示すように、上杭2を徐々に下降させてその雄ねじ継手部21を下杭1の雌ねじ継手部11に咬み込ませると共に、上杭2の外周に上杭2の回転用バンド5を取付けて、この回転用バンド5に複数本の短管パイプ6を杭半径方向に取付けた。
【0049】
そして、図14(e)に示すように、人力により短管パイプ6に杭外面接線方向に力を加えて、回転させながら上杭2を徐々に下降させて、図14(f)に示すように、ねじ継手部10を介して下杭1と上杭2を一体に接合し、短管パイプ6及び回転用バンド5を取外した。なお、この際、上杭2の吊り荷重が一定値になるように制御した。
以上の試験の結果、接合回転量は1回転以内、回転移動量は約7.5mで、下杭1の建て込みから上杭2の接合完了までの施工時間は、10分以内であった。これは従来の施工時間の1/2〜1/3である。
【0050】
また、下杭1を傾けた(傾き1/50、1/100)状態で上杭2の接合試験を行ったが、下杭1と上杭2の軸心が一致するように、上杭2の雄ねじ継手部21のねじ部を下杭1の雌ねじ継手部に預けながら上杭2の上端部の位置を調整しつつ施工することにより、問題なく接合することができた。
【0051】
[曲げ耐力試験]
地すべり抑止用鋼管杭には、曲げモーメント、剪断力、引張力が作用し、継手部はこれらの力に対して杭本体と同等又はそれ以上の耐荷力を有する必要がある。本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭のように、ねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と実質的に同じ場合には、曲げモーメントに対する耐荷力が最大の問題となる。そこで、ねじ継手部10の曲げ強度について試験を行った。
【0052】
曲げ耐力試験にあたっては、杭本体1,2を外径800mmのねじ継手部10で接合した、前記の施工試験に供した地すべり抑止用鋼管杭を使用した。
先ず、図15に示すように、ねじ継手部10を中心にして両端部を支点7上に載置した。ついで、ねじ継手部10の両側上面の載荷点8から下方に荷重Pをかけることにより、4点載荷曲げ試験を実施し、曲げ耐力を調べた。なお、試験において、支点7,7間の距離Lは10700mm、荷重Pをかける載荷点8,8間の距離L1は1500mmであった。
【0053】
比較のため、本試験に使用した地すべり抑止用鋼管杭と同寸法、同材質の鋼管杭(以下、比較用鋼管杭という)を、上記と同条件で4点載荷曲げ試験を行った。
図16に本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭(破線で示す)と比較用鋼管杭(実線で示す)の試験結果を示す。
【0054】
図から明らかなように、本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭のねじ継手部10は、比較用鋼管と同等以上の曲げ耐力を有することが確認された。この結果、本発明の地すべり抑止用鋼管杭は、ねじ継手部10を含むほぼ全長にわたって、どの部分でも継手部のない鋼管杭の曲げ耐力と同等の耐荷力を均一に有していることがわかった。
【0055】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)ねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と実質的に同じでありながら、ねじ継手部10は杭本体1,2と同等以上の曲げ強度を確保することができるので、ねじ継手部10を含む地すべり抑止用鋼管杭のほぼ全長にわたって、継手部のない鋼管杭と同等の曲げ耐力が得られる。
(2)雌ねじ継手部11と雄ねじ継手部21からなるねじ継手部10の外径が杭本体1,2の外径と同じであるため、地盤の削孔径が大きくならず、このため工事費が増大しない。
【0056】
(3)ねじ継手部10は3条以上のテーパーねじで結合するため、1回転以内でねじ込みが完了し、継杭に要する施工時間を大幅に短縮することができる。また、3条以上のテーパーねじであるため、咬み込みによる施工不良のおそれがほとんどなくなる。
(4)ねじ継手部10による杭本体1,2の接合にあたっては、特殊な機械及び高度な技量を必要とせず、天候にも左右されずに作業することができ、信頼性の高い継手構造が得られる。また、ねじ継手部10のねじ込み作業は、一般的な作業員が2〜3人で人力によって実施することができる。
【0057】
(5)杭本体1,2が高張力鋼(例えば、SM570)の場合でも、容易にねじ継手部10を設計、製造することができる。
(6)雄ねじ継手部21に設けたショルダー部24により、大きな曲げモーメントが作用することによりねじ山が互いに相手方のねじ山を乗り越えようとする動きが拘束され、ねじ継手部10も杭本体1,2と同程度の曲げ耐荷性能を有することができる。また、雌ねじ継手部11の先端面がショルダー部24に突き当ることで、所定の長さまでねじ込んだことが確認できるので、施工管理上有利である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態1に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の断面図である。
【図2】1条テーパーねじと2条テーパーねじの咬み合わせ状態の説明図である。
【図3】2条テーパーねじと3条テーパーねじの外力に対する安定性の説明図である。
【図4】ねじ継手部における力の伝達機構の説明図である。
【図5】本発明の発明外であるねじ継手部の説明図である。
【図6】本発明に係るねじ継手部の説明図である。
【図7】本発明に係るねじ継手部の説明図である。
【図8】ねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図9】ねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図10】本発明に係るねじ継手部に大きな曲げモーメントが作用した場合の説明図である。
【図11】ねじ継手部の雄ねじ継手部の他の例の説明図である。
【図12】図11の雄ねじ継手部を有する鋼管杭の建て込み状態の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る地すべり抑止用鋼管杭の継手構造の説明図である。
【図14】本発明の実施例に係る施工試験の説明図である。
【図15】本発明の実施例に係る曲げ耐力試験の説明図である。
【図16】本発明に係る地すべり抑止用鋼管杭と比較用鋼管杭の曲げ耐力試験結果を示す線図である。
【図17】ねじ込み式継手部を備えた地すべり抑止用鋼管杭の継杭の施工状態を示す説明図である。
【図18】ねじ込み式継手部を備えた地すべり抑止用鋼管杭の継杭の施工状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 鋼管杭(先行杭)、2 鋼管杭(後行杭)、10 ねじ継手部、11 雌ねじ継手部、13 ねじ終点部、21 雄ねじ継手部、23 ねじ終点部、24 ショルダー部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭本体の端部に設けられた雌ねじ継手部と、鋼管杭本体の端部に設けられ前記雌ねじ継手部に螺入される雄ねじ継手部とを有し、
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の外径は前記鋼管杭本体の外径と実施的に同一に形成され、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔で3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、前記鋼管杭本体の断面係数と材料強度の積より大であり、
前記ねじ山高さとねじ条数の積が前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面積より大であることを特徴とする地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項2】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ山の高さを3mm以上、8mm以下、ねじ山間隔をねじ山高さの2倍以上、テーパーの傾斜を1/4程度、ねじの条数を4条以上、6条以下としたことを特徴とする請求項1記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項3】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の材料強度を前記鋼管杭本体の材料強度より大きくし、かつ前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における肉厚を前記鋼管杭本体の肉厚より大きくしたことを特徴とする請求項1又は2記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項4】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体より材料強度の高い円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項5】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体の肉厚より大きい肉厚の円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項6】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、鋼管杭本体の端部をアプセット加工又は遠心力鋳造法により増肉した部分に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項7】
前記雄ねじ継手部のねじ終点部に、ねじ込み完了時に前記雌ねじ継手部の先端面が当接するショルダー部を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの継手構造を備えたことを特徴とする地すべり抑止用鋼管杭。
【請求項1】
鋼管杭本体の端部に設けられた雌ねじ継手部と、鋼管杭本体の端部に設けられ前記雌ねじ継手部に螺入される雄ねじ継手部とを有し、
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の外径は前記鋼管杭本体の外径と実施的に同一に形成され、前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ部は、1回転以内でねじ込みが完了するように設定された傾斜、ねじ山高さとねじ山間隔で3条以上、6条以下のテーパー状のねじからなり、
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が、前記鋼管杭本体の断面係数と材料強度の積より大であり、
前記ねじ山高さとねじ条数の積が前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面積より大であることを特徴とする地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項2】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ山の高さを3mm以上、8mm以下、ねじ山間隔をねじ山高さの2倍以上、テーパーの傾斜を1/4程度、ねじの条数を4条以上、6条以下としたことを特徴とする請求項1記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項3】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部の材料強度を前記鋼管杭本体の材料強度より大きくし、かつ前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における肉厚を前記鋼管杭本体の肉厚より大きくしたことを特徴とする請求項1又は2記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項4】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体より材料強度の高い円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項5】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、前記鋼管杭本体の肉厚より大きい肉厚の円筒状の部材にねじ加工して形成し、前記鋼管杭本体の管端部に溶接により接合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項6】
前記雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部を、鋼管杭本体の端部をアプセット加工又は遠心力鋳造法により増肉した部分に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項7】
前記雄ねじ継手部のねじ終点部に、ねじ込み完了時に前記雌ねじ継手部の先端面が当接するショルダー部を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の地すべり抑止用鋼管杭の継手構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの継手構造を備えたことを特徴とする地すべり抑止用鋼管杭。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−283314(P2006−283314A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101826(P2005−101826)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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