説明

地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法

【課題】 時間や手間、コストをかけずに地下コンクリート構造物に、健全性を調査するための孔を地下コンクリート構造物に形成する。
【解決手段】 地盤内に構築されている地下コンクリート構造物1であって、コンクリート部2内には、健全性を調査する孔4を形成するための生分解性体からなる中抜き部材6が埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健全性を調査するのに好適な、例えば基礎杭等の地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健全性の調査を低コストで迅速且つ簡便に行うため、地盤中に形成された基礎杭等の地下コンクリート構造物に健全性を調査するための孔を形成する方法が提案されている。この方法によれば、地震などにより当該地下コンクリート構造物が被災した場合に、周知の各種非破壊検査方法を用いて孔内を検査することによって、地下コンクリート構造物の健全性を調査することができる。
【0003】
従来、上記した孔を有する基礎杭等の地下コンクリート構造物に構築する場合、先ず、地盤に穴を形成する一方で、地上でゴムシートや防水シート等からなる筒状のチューブを収縮した状態で鉄筋篭に取り付け、次にチューブが取り付けられた鉄筋篭を地盤に形成された穴の中に挿入し、そしてチューブを膨張させた後、穴内にコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後にチューブを再び収縮させて取り除き、孔を有する基礎杭等を構築している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−30244号公報 (第3−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の地下コンクリート構造物の構築方法では、チューブを取り除く時間や手間、コストがかかるという問題が存在する。特に、基礎杭等の場合、杭体の長さが長いほど取り除く作業には時間や手間、コストがかかる。また、コンクリート打設時にチューブが浮き上がってくる場合が多いため、チューブにウエイトを付設させて浮止めする等の措置が必要であるという問題が存在する。
また、孔の径が大きい場合には、地下コンクリート構造物の断面中の孔の配置位置によっては、断面強度が低下する虞があるという問題が存在する。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、時間や手間、コストをかけずに地下コンクリート構造物に、健全性を調査するための孔を形成することができる地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法を提供することを目的としている。
また、孔の径が大きい場合であっても、断面強度が低下することがない地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、地盤内に構築されている地下コンクリート構造物であって、コンクリート部内には、健全性を調査する孔を形成するための生分解性体からなる中抜き部材が埋設されていることを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の発明は、コンクリート部に健全性を調査するための孔が形成された地下コンクリート構造物の構築方法において、前記孔を形成する箇所に生分解性体からなる中抜き部材を配置し、該中抜き部材と一体にコンクリートを打設して前記コンクリート部を形成することを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、生分解性体からなる中抜き部材は、自然界に存在する微生物が分泌する酵素の力によって低分子量の化合物となり、次いでこの分解生成物が微生物の体内に取り込まれ、二酸化炭素(CO)や水(HO)に代謝される。したがって、コンクリート内に埋設された中抜き部材は微生物の力で分解されるので撤去しなくても孔内から取り除かれる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の地下コンクリート構造物において、前記コンクリート部内には、前記中抜き部材の周囲を囲う補強材が埋設されていることを特徴としている。
【0010】
このような特徴により、コンクリート部の孔廻り部分は、孔の周囲に配置された補強材によって補強される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法によれば、健全性を調査する孔を形成するための生分解性体からなる中抜き部材が埋設されており、コンクリート内に埋設された中抜き部材は自然界に存在する微生物の力で分解されるので撤去しなくても孔内から取り除かれるため、時間や手間、コストをかけずに地下コンクリート構造物に、健全性を調査するための孔を形成することができる。
【0012】
また、中抜き部材の周囲に補強材を配置することで、孔の周りのコンクリート部分は補強材によって補強されるため、孔の径が大きい場合に地下コンクリート構造物の断面強度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法の実施の形態について、図面に基いて説明する。以下の実施の形態では、本発明に係る地下コンクリート構造物として場所打ちコンクリート杭(基礎杭)を例に挙げて説明する。
【0014】
図1は基礎杭1の縦断面図であり、図2は基礎杭1の横断面図である。図1,図2に示すように、地盤内に構築される基礎杭(地下コンクリート構造物)1は、略円筒形状に成形されたコンクリート部2と、コンクリート部2内に埋設されて略円筒形状に組み上げられた鉄筋篭3とから概略構成されている。この基礎杭1には、その中心軸線に沿って、杭頭1aから杭下端部1bの所定位置にわたって有底円柱状の孔4が形成されている。孔4は、中空の中抜き部材6によってコンクリート部2の中心軸部分が型抜きされて形成され、この孔4の周りのコンクリート部2内には中抜き部材6の周囲を囲う円筒形状の補強材5が埋設されている。
【0015】
孔4は、基礎杭1の健全性を調査するためのものであり、例えば、地震などによって被災した際には、非破壊検査装置等を孔4内に挿入することで基礎杭1の被災状況を調査することができる。また、基礎杭1が損傷している場合には、この孔4から補修作業を行うこともできる。
【0016】
中抜き部材6は、生分解性樹脂シートを袋状に形成して断面形状を円形にした円筒状のものである。中抜き部材6の内部には、水(充填材)7が充填されている。中抜き部材6は、前記水7によって固化前のコンクリートの圧力による中抜き部材6の変形が防止され、円柱形の形状は保たれるため、孔4を所定形状に形成することができる。
【0017】
生分解性体は、自然界に存在する微生物が分泌する酵素の力によって分解される性質のものであり、2〜3ヶ月程度の期間では所定の防水性や水密性,強度などを有し、その後に水と二酸化炭素に分解されるものである。具体的には、生分解性体は、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート,ポリブチレンサクシネート・アジペート,ポリブチレンサクシネート・カーボネート,カプトラクトン,コポリエステル,ポリエステルアミド,改質ポリエステル,ポリエステルカーボネート,ポリビニルアルコール等の化学合成系のものが望ましいが、ポリヒドロキシブチレート等の微生物産生系のものや、酢酸セルロース等の天然物利用系のものや、酸化触媒系添加物等の添加物配合オレフィン系のものでもよい。
【0018】
補強材5は、目合い1cm〜3cm程度のメッシュ材からなるものであり、例えば金属ネットや繊維ネット,樹脂製ネットからなるものである。補強材5は、鉄筋篭3の断面形状の径よりも小さく形成されており、鉄筋篭3の内側に配置されている。また、補強材5は、中抜き部材6よりも断面形状の径が若干大きくなるように形成されており、補強材5の内側に中抜き部材6が緩挿された状態になっている。
【0019】
次に、上記した孔4を有する基礎杭1の構築方法について説明する。
【0020】
基礎杭1を構築するには、例えばアースドリル工法等の周知の各種の杭構築工法を用いる。まず、地上において、鉄筋篭3を組み立てるとともに、孔4を形成するための中抜き部材6を孔4が形成される箇所である鉄筋篭3の略中心軸部に取り付ける。また、中抜き部材6の中には水7を充填させておき、中抜き部材6の上端部を緊結して塞ぐ。一方、重機を用いて地盤を掘削し、地盤に基礎杭1を構築するための杭孔をあけておき、この杭孔内には所定の粘性を有する杭周固定液を充填しておく。
【0021】
次に、中抜き部材6が取り付けられた鉄筋篭3を杭孔内に挿入し、杭孔内に鉄筋篭3を配置するとともに中抜き部材6を杭孔内に配置する。そして、杭孔内にコンクリートを打設して、中抜き部材6と一体にコンクリート部2を形成する。
【0022】
その後、自然界に存在する微生物が分泌する酵素の力によって中抜き部材6は低分子量の化合物となり、次いでこの分解生成物が微生物の体内に取り込まれ、二酸化炭素(CO)や水(HO)に代謝される。このように、微生物によって中抜き部材6を分解することで、コンクリート部2の中心部分に孔4を形成する。
【0023】
上記した孔4を有する基礎杭1が地震などにより被災した場合、孔4の内周壁面を各種非破壊検査方法を適用して検査することにより、基礎杭1の健全性を検査する。このとき用いる非破壊検査方法としては、例えば音の原理を応用した超音波法や弾性波法等があり、また、光や電磁波の原理を応用した放射線法や電磁誘導法,赤外線法,ボアホールカメラなどによる内部の写真撮影法等がある。さらに、例えば、打撃法等の他の非破壊検査法も適用することができる。
【0024】
そして、健全性の調査の結果、基礎杭1に損傷などが認められ、補修・補強を行う必要がある場合には、孔4の内周壁面からひび割れ等の損傷が発生している部分に、モルタルの圧入やエポキシ剤等の充填材の注入を行う。また、孔4内に、その孔径よりも小径の鋼管または鋼棒等を挿入し、孔4と鋼管等との間にモルタルなどを注入することによって、孔4の内周壁面を補強する方法などを行っても良い。
【0025】
上記した構成からなる基礎杭1および基礎杭1の構築方法によれば、基礎杭1のコンクリート部2内には、健全性を調査する孔4を形成するための生分解性体からなる中抜き部材6が埋設され、中抜き部材6の内部には水7が充填されているため、中抜き部材6は自然界に存在する微生物の力で分解されるので撤去しなくても孔4内から取り除かれる。これによって、時間や手間、コストをかけずに基礎杭1に、健全性を調査するための孔4を形成することができる。
【0026】
また、中抜き部材6が分解されるため、最終的に孔4の内周面は露出されることとなり、地震時における損傷の有無などを直接監視する写真撮影法を用いる場合には、その調査が行い易くなるとともに、その後の補修・補強も容易に行うことができる。
【0027】
また、中抜き部材6の周囲に補強材5を配置することで、孔4の周りのコンクリート部2は補強される。これによって、孔4の径を大きくした場合にも基礎杭1の断面強度の低下を防止することができる。
【0028】
以上、本発明に係る地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記した実施の形態では、地下コンクリート構造物について、基礎杭1を例に挙げて説明しているが、本発明は、基礎杭1以外の地下コンクリート構造物でもよく、例えばフーチングや地中壁、トンネル等でもよい。
【0029】
また、上記した実施の形態では、中抜き部材6は基礎杭4の軸方向に沿って配置されており、孔4は鉛直方向に延在されているが、本発明は、孔の延在方向を何ら限定するものではなく、例えばトンネルであれば、トンネルの軸方向に沿って中抜き部材を配置し、孔を略水平方向に延在させてもよい。
【0030】
また、上記した実施の形態では、中抜き部材6は断面形状が円形の中空部材であるが、本発明では、小さい径の孔を形成する場合では中実の中抜き部材でも分解され得るため、中抜き部材は必ずしも中空にする必要はない。また、中抜き部材の断面形状に限定されるものではなく、中抜き部材の断面形状が矩形でもよいのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法の実施の形態を説明するための縦断面図である。
【図2】本発明に係る地下コンクリート構造物および地下コンクリート構造物の構築方法の実施の形態を説明するための横断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 基礎杭(地下コンクリート構造物)
2 コンクリート部
4 孔
5 補強材
6 中抜き部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に構築されている地下コンクリート構造物であって、
コンクリート部内には、健全性を調査する孔を形成するための生分解性体からなる中抜き部材が埋設されていることを特徴とする地下コンクリート構造物。
【請求項2】
請求項1記載の地下コンクリート構造物において、
前記コンクリート部内には、前記中抜き部材の周囲を囲う補強材が埋設されていることを特徴とする地下コンクリート構造物。
【請求項3】
コンクリート部に健全性を調査するための孔が形成された地下コンクリート構造物の構築方法において、
前記孔を形成する箇所に生分解性体からなる中抜き部材を配置し、該中抜き部材と一体にコンクリートを打設して前記コンクリート部を形成することを特徴とする地下コンクリート構造物の構築方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−2350(P2006−2350A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176872(P2004−176872)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】