説明

地下水のpH調整方法

【課題】土壌及び/又は地下水の処理部を流れることによりpHがアルカリ性化又は酸性化した地下水のpHを原位置にて適正なpHに調整することにより、有害物質の溶出や周辺環境への悪影響を防止し、下水道へも流出可能とする。
【解決手段】土壌及び/又は地下水の処理部10を流れた地下水のpHを調整する方法であって、前記処理部10の下流側に透水性のpH調整壁5を設け、該処理部10から流下した地下水をこのpH調整壁5に通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地下水のpH調整方法に係り、特に、土壌及び/又は地下水の処理部を流れた地下水のpHを原位置にて適正なpHに調整することにより、有害物質の溶出や周辺環境への悪影響を防止するための地下水のpH調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中を流れる地下水は、様々な原因によりアルカリ性化又は酸性化する。例えば、次のような場合には、地下水のアルカリ性化又は酸性化が起こる。
【0003】
(1) 土壌にセメントや消石灰などを添加混練する地盤改良工事を行った場合。
一般的に、土の強度、圧縮性、透水性などの改良を行う地盤改良工事において、安価なセメントや生石灰、消石灰などを土壌に添加混練することが行われている(土質安定工法便覧,松尾新一郎著,日刊工業新聞社,p175,215)。この場合、雨水などがこの改良土壌中に浸透した際、又は地下水がこの改良土壌中に浸透する際に、地下水がアルカリ性化する場合がある。
【0004】
(2) 土壌中の第二種特定有害物質を不溶化するために、アルカリ性の処理剤又は酸性の処理剤で土壌を処理した場合。
土壌汚染対策法の第二種特定有害物質で汚染された土壌の不溶化処理方法として、土壌汚染対策法に基く調査及び措置の技術的手法の解説(平成15年9月初版発行、監修:環境省、編・発行:社団法人土壌環境センター)には、これらの有害物質の不溶化のための様々な薬剤が例示されているが、これらのアルカリ性又は酸性の処理剤で処理した土壌は、その処理方法によっては土壌がアルカリ性化又は酸性化する。そして、このアルカリ性化又は酸性化した土壌に雨水や地下水が浸透することにより、地下水もアルカリ性化又は酸性化する場合がある。
【0005】
(3) 地下水に溶解した土壌汚染対策法の特定有害物質を分解・吸着して地下水から除去する薬剤による浄化壁を設置した場合。
特許第3329456号公報には、汚染地下水を、地下水に溶解した土壌汚染対策法の特定有害物質を分解・吸着して地下水から除去する薬剤により構築した浄化壁を通過させることにより、有害物質を除去する方法が記載されているが、このような浄化壁を通過した地下水は、用いた薬剤の種類によってはpHが変化する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3329456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような地下水のpH変化は、地下水の飲料用水としての利用、地下水の灌漑用水としての利用、農耕地などに影響を及ぼす可能性があり、また、元来土壌に含有されている第二種特定有害物質の溶出を引き起こす可能性もあることから、好ましいことではない。
【0008】
また、地下水を下水道などに流す場合、そのpHは5〜9の範囲である必要がある。
【0009】
従って、本発明は、上述の如く土壌及び/又は地下水の処理部を流れることによりpHがアルカリ性化又は酸性化した地下水のpHを、原位置にて適正なpHに調整することにより、有害物質の溶出や周辺環境への悪影響を防止し、また、下水道へも流出可能とするための地下水のpH調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の地下水のpH調整方法は、土壌及び/又は地下水の処理部を流れた地下水のpHを調整する方法であって、前記処理部の下流側に透水性のpH調整壁を設け、該処理部から流下した地下水を該pH調整壁に通過させることを特徴とする。
【0011】
請求項2の地下水のpH調整方法は、請求項1において、前記pH調整壁は、固形のpH調整剤、或いは、該pH調整剤及び透水性材料で形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項3の地下水のpH調整方法は、請求項2において、前記pH調整剤が、酸性白土、活性白土、珪藻土、腐植土、火山灰土壌、及び弱酸性イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項4の地下水のpH調整方法は、請求項2において、前記pH調整剤が、鉄粉、石灰石、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の地下水のpH調整方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記処理部が地盤改良工事を施した土壌領域であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の地下水のpH調整方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記処理部が汚染地下水浄化壁であることを特徴とする。
【0016】
請求項7の地下水のpH調整方法は、請求項6において、原位置封じ込め工法において、遮水壁と、該遮水壁内側の地下水位が上昇したときに該遮水壁内側の地下水を該遮水壁の外部に流出させる地下水流出部と、汚染地下水の浄化壁とを設け、該汚染地下水浄化壁の下流側であって、前記地下水流出部の上流側に、前記pH調整壁を設けることを特徴とする。
【0017】
請求項8の地下水のpH調整方法は、請求項7において、前記地下水流出部が下水道であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の地下水のpH調整方法によれば、土壌及び/又は地下水の処理部を流れることによりpHがアルカリ性化又は酸性化した地下水を、その下流側に設けた透水性のpH調整壁に通過させることにより、原位置にて容易に適正なpHに調整することができる。このため、pHが変化した地下水による土壌中の有害物質の溶出や周辺環境への悪影響の問題を解消し、また、下水道への流出も問題なく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の地下水のpH調整方法の実施の形態を示す模式図であって、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【図2】本発明の地下水のpH調整方法の他の実施の形態を示す模式図であって、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【図3】実施の形態に係る原位置封じ込め工法における地下水のpH調整方法が適用された地域を示す斜視図である。
【図4】図3の地域の地下構築物を示す平面図である。
【図5】(a)図は図3のVa−Va線断面図、(b)図は図6のVb−Vb線断面図である。
【図6】図3の遮水壁、浄化・pH調整部及び集水路を示す斜視図である。
【図7】別の実施の形態に係る原位置封じ込め工法における地下水のpH調整方法が適用された地域の平面図である。
【図8】図7の地域の地下水流出部付近の拡大平面図である。
【図9】図8のIX−IX線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明の地下水のpH調整方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1,2は、本発明の地下水のpH調整方法の実施の形態を示す模式図であって、各々(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【0022】
図1,2の通り、地表1から所定深さに不透水層3あるいは難透水層が存在し、その上側に帯水層2が存在する。4は地下水位である。
【0023】
地盤改良領域10、地盤改良領域又は汚染領域10Aはこの不透水層3上の帯水層2中に存在するため、この地盤改良領域10、地盤改良領域又は汚染領域10Aの地下水流向Wの下流側にpH調整壁5、或いは汚染地下水浄化壁6とpH調整壁5とを設けると共に、このpH調整壁5、又は汚染地下水浄化壁6とpH調整壁5の両端から羽根状に鋼板等よりなる矢板7,7を設け、上流側からの地下水が確実にこのpH調整壁5、又は汚染地下水浄化壁6とpH調整壁5とを通過するようにする。
【0024】
図1では、地盤改良工事により、セメント、消石灰等のアルカリ物質や、有害物質の不溶化処理薬剤で処理された土壌の存在する地盤改良領域10を通過することにより、アルカリ性化又は酸性化された地下水が、pH調整壁5を通過することによりpH調整される。図2では、このような地盤改良領域又は汚染物質で汚染された土壌が存在する汚染領域10Aを通過した地下水が汚染地下水浄化壁6を通過して浄化され、この汚染地下水浄化壁6を通過することにより、浄化壁6内の薬剤でアルカリ性化又は酸性化された地下水がpH調整壁5を通過することによりpH調整される。
【0025】
pH調整壁5は、地中に多数のボーリング穿孔を連続列状に施して凹部を形成し、この凹部に、或いは地中に形成した穴(トレンチ)に、pH調整剤又はpH調整剤と透水性材料との混合物を投入することにより、透水性の層を設けて形成することができる。なお、pH調整壁はpH調整剤と透水性材料とをそれぞれ層状に設けた積層構造であっても良い。
【0026】
pH調整剤は、pH調整対象地下水のpHや性状により適宜選択され、pH8.7を超えるアルカリ性の地下水のpH調整のためには、酸性白土、活性白土、珪藻土、腐植土、火山灰土壌、及び弱酸性イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらのpH調整剤であれば、アルカリ性の地下水をpH調整剤に含まれる水素イオン交換部との反応により中和することができる。また、pH5.7未満の酸性の地下水のpH調整のためには、鉄粉、石灰石、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらのpH調整剤であれば、酸性の地下水をpH調整剤の酸消費部との反応により中和することができる。
【0027】
これらのpH調整剤と併用し得る透水性材料としては、比較的粒径の大きな砂、砕石等を用いることができる。透水性材料を用いる場合、pH調整剤と透水性材料との使用割合又は混合比は、地下水の流速等を考慮して、適宜決定される。
【0028】
一方、汚染地下水浄化壁6は、地中に多数のボーリング穿孔を連続列状に施して、凹部を形成し、この凹部に、或いは地中に形成した穴(トレンチ)に、地下水浄化のための処理薬剤、即ち、地下水中の有害物質を分解又は吸着し得る処理薬剤、又はこの処理薬剤と透水性材料との混合物を投入することにより透水性の層を設けて形成することができる。この汚染地下水浄化壁もまた、浄化薬剤と透水性材料とをそれぞれ層状に設けた積層構造であっても良い。
【0029】
浄化壁6を形成するための浄化薬剤は、地下水の汚染状況に応じて適宜選択されるが、例えば、鉄粉、活性炭、ハイドロタルサイト、希土類化合物、酸化マグネシウム、アルミナ、アロフェン、イオン交換樹脂、キレート樹脂、及び粘土鉱物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0030】
これらの浄化薬剤と併用し得る透水性材料としては、比較的粒径の大きな砂、砕石等を用いることができる。透水性材料を用いる場合、浄化薬剤と透水性材料との使用割合又は混合比は、地下水の流速等を考慮して、適宜決定される。
【0031】
図2では、汚染地下水浄化壁6の地下水流向下流側に、浄化壁6と隣接してpH調整壁5が設けられているが、pH調整壁5と浄化壁6とは離隔していても良い。ただし、これらは、図示の如く、隣接して設けることにより、ボーリング穿孔作業を共通して行うことができ、好ましい。このように、浄化壁6とpH調整壁5とを隣接して設ける場合、浄化壁6とpH調整壁5との間には透水性の砂、砕石等を設けて、浄化薬剤とpH調整剤との相互の流動を防止しても良いが、このようなもの設けずとも各々の作用を発揮させることができる。
【0032】
なお、pH調整壁5、浄化壁6は、図1(b),図2(b)に示す如く、その下端が不透水層3又は難透水層内に達し、その上端が、地下水位4よりも上方に位置するように設けられている。
【0033】
また、矢板7も、pH調整壁5、浄化壁6と同様に、その下端が不透水層3又は難透水層内に達し、その上端が、地下水位4よりも上方に位置するように設けられるが、矢板7は、その上端が地表1より上方に位置していても良い。なお、矢板の代りに、地中に多数のボーリング穿孔を連続列状に施してコンクリートを流し込むことにより構築した遮水壁を設けても良い。
【0034】
図1,2は本発明の実施の形態の一例であって、本発明は何ら図示の方法に限定されるものではない。例えば、図1,2では、矢板7により遮水壁を形成したfunnel&gate法を採用しているが、このような遮水壁を省略してpH調整壁5、又は浄化壁6とpH調整壁5のみを設けても良い。
【0035】
本発明において、処理対象となる地下水は、各種の土壌及び/又は地下水の処理部を流れることによって、pHが適正pHから外れた地下水、即ち、pHが8.7を超えるアルカリ性であるかpHが5.7未満の酸性の地下水が挙げられる。特に、本発明は、前述の(1)の地盤改良工事を施した改良土壌を流れることによりアルカリ性化した地下水、或いは、前述の(2)の地盤改良工事により、或いは(3)の汚染地下水浄化壁を流れることにより、薬剤によりアルカリ性化又は酸性化した地下水のpH調整に好適である。
【0036】
土壌及び/又は地下水の処理部を流れることによりpH変化した地下水を通過させる透水性のpH調整壁は、図1,2に示す如く、この処理部の地下水の下流側の地中において、地下水の流れに対して遮断方向に壁状に設けられる。
【0037】
なお、本発明においては、処理対象地下水をこのようなpH調整壁に通過させることによりpH5〜9、特に5.7〜8.7に調整することが好ましい。
【0038】
本発明は特に、前述の(3)の汚染地下水浄化壁を通過することによりpHが変化した地下水のpH調整に好適であり、この場合において、特に、汚染地区を囲むように遮水壁を設ける原位置封じ込め工法において、遮水壁と、該遮水壁内側の地下水位が上昇したときに該遮水壁内側の地下水を該遮水の外部に流出させる地下水流出部と、汚染地下水の浄化部壁とを設け、地下水流出部から外部へ流出する地下水を汚染地下水浄化壁で浄化してから外部へ流出させるようにした場合に好適であり、この場合において、汚染地下水浄化壁の下流側であって、地下水流出部の上流側に本発明に係るpH調整壁を設け、汚染地下水浄化壁で浄化した地下水をpH調整剤でpH調整した後、地下水流出部から流出させるようにすることができ、好ましい。このようにすることにより、浄化壁によりpHがアルカリ性化又は酸性化した地下水をpH5〜9の中性領域にpH調整して、この地下水を下水道に流出させることも可能となる。
【0039】
以下に、図3〜10を参照してこのような原位置封じ込め工法に本発明を適用する場合の実施の形態を説明する。
【0040】
図3は実施の形態に係る原位置封じ込め工法が適用された地域を示す断面斜視図、図4はこの地域の地下構築物を土を透視した状態で示す平面図、図5(a)は図3のVa−Va線断面図、図5(b)は図6のVb−Vb線断面図、図6は、土中に設けられた遮水壁、浄化手段及び集水路を示す土中の透視斜視図である。
【0041】
図5(a)の通り、地表1から所定深さに不透水層3あるいは難透水層が存在し、その上側に帯水層2が存在する。
【0042】
この地域の全部又は一部に汚染土壌8が存在しているので、遮水壁9によって該汚染土壌8を周囲8Aから隔離して封じ込める。この遮水壁9は、下端が不透水層3あるいは難透水層内に達し、上端は地下水位4より上位の地表1近くに位置している。なお、遮水壁9の上端は地表1に達してもよい。
【0043】
この遮水壁9は、汚染土壌8の全周を取り囲んでいる。この実施の形態では、平面視形状が方形枠状であるが、これに限定されない。この遮水壁9は、地中に多数のボーリング穿孔を連続列状に施してコンクリートを流し込むことにより構築することができるが、遮水用鋼矢板を打ち込むことにより形成されてもよい。
【0044】
図6に示される通り、この遮水壁9には、上端から下方に凹む低所よりなる方形の地下水流出部11が1箇所又は複数箇所(この実施の形態では3箇所)に設けられている。この地下水流出部11の下縁は地下水位4よりも所定高さ(例えば0〜100cm程度)上位となっている。
【0045】
この地下水流出部11よりも内側(汚染土壌8側)に浄化・pH調整部12が設けられている。浄化・pH調整部12は、集水路14側の前述の浄化薬剤の層12aと、地下水流出部11側のpH調整剤の層12bとで構成され、地下水は浄化薬剤の層12aで浄化された後、pH調整剤の層12bでpH調整された後遮水壁9の外側へ流出するように構成されている。
【0046】
この浄化・pH調整部12の両側及び下部には鋼矢板などよりなる板材13が配置されている。板材13の代りに防水コンクリート壁を設けてもよい。
【0047】
この浄化・pH調整部12の上面は、地下水流出部11の下縁よりも好ましくは0〜200cm程度上位に位置している。また、浄化・pH調整部12の下面は、地下水流出部11の下縁よりも好ましくは50〜500cm下位に位置している。浄化・pH調整部12の両側面は、地下水流出部11の側縁と面一となっているが、浄化・pH調整部12はそれよりも幅大に設けられてもよい。
【0048】
浄化・pH調整部12は遮水壁9の内側面に当接するように設けられている。また、この実施の形態では、浄化・pH調整部12の一部は地下水流出部11内に入り込んでいる。
【0049】
板材13は、浄化・pH調整部12の上面よりも好ましくは0〜500cm上方にまで延在し、また、浄化・pH調整部12の下面よりも好ましくは0〜500cm下方にまで延在している。板材13は遮水壁9の内側面に当接している。この当接部には必要に応じシールが施されてもよい。
【0050】
板材13は、浄化・pH調整部12の両側面及び下部の全体を覆っており、側面から水が浄化・pH調整部12に流入して短絡的に地下水流出部11へ流出することが防止されている。
【0051】
遮水壁9の内側には、遮水壁9と平行方向に且つ地下水位4を含むレベルに集水路14が設けられている。この集水路14は砂、砕石などの透水性材料よりなる。なお、集水路14は孔あき管であってもよい。
【0052】
この集水路14は、浄化・pH調整部12の地下水流出部11と反対側の端面に接するように配置されている。この集水路14は、遮水壁9の内側面に沿って連続して周回するように設けられているが、途中が部分的に途切れていてもよい。また、汚染地区全域にわたって櫛の歯状に集水路14を設けてもよい。
【0053】
図示はしないが、地表1をアスファルト、コンクリート、遮水シート等によって覆い、雨水の地下浸透を防止するようにしてもよい。
【0054】
このように構成された封じ込め構造において、通常は遮水壁9の内側の地下水位は地下水流出部11の下縁と同位か又はそれよりも下位となっているため、汚染区域から周囲8Aへ地下水が流出することはない。
【0055】
降雨など何らかの原因によって遮水壁9の内側の地下水位が上昇すると、この地下水が集水路14を介して又は直接に浄化・pH調整部12に流れ込み、該浄化・pH調整部12で浄化及びpH調整された後、地下水流出部11から周囲8Aへ流出する。この流出水は、浄化・pH調整部12で重金属除去あるいはハロゲン化有機物等の汚染物質の分解ないしは吸着除去処理を受け、その後pH調整されたものであり、周囲8Aを汚染することはない。
【0056】
なお、汚染物質が揮発性有機塩素化合物である場合、地表1をアスファルト等で覆うと、(酸素)の地中への拡散が防止され、該化合物の浄化処理効率が向上する。また、汚染物質が重金属である場合、汚染土壌8や汚染土壌8内の水を空気と接触させてもよく、これにより重金属の浄化処理効率が向上する。
【0057】
図7は別の実施の形態に係る原位置封じ込め工法が適用された地域の平面図、図8はこの地域の地下水流出部付近の拡大平面図、図9は図8のIX−IX線に沿う断面図である。
【0058】
この実施の形態では、遮水壁9に囲まれた内側領域と外側領域とを連通するように、該内側領域に地下水流入口が配置された排水管20が設けられている。
【0059】
図7に示すように、この実施の形態でも、汚染土壌(汚染地域)8の四方を取り囲むようにして方形枠状の遮水壁9が構築されている。前述の通り、この遮水壁9は、下端が不透水層3あるいは難透水層内に達し、上端は地下水位4よりも上位の地表1近くに位置しているが、この遮水壁9の上端は地表1に達してもよい。この実施の形態では、この遮水壁9の上端から下方に凹む低所よりなる流出部11は設けられていない。
【0060】
この実施の形態では、該遮水壁9の内側領域の一コーナー部付近に集水容器21が設置されている。この集水容器21は、この実施の形態では有底筒状の容器であり、底部が地下水位4よりも下位に位置しており、上部は地表1に表出している。この集水容器21の上端には蓋21aが装着されている。ただし、この集水容器21の上部は地表1に表出していなくてもよい。
【0061】
地下水位4よりも下位となる集水容器21の底部付近に、前記排水管20の一端(地下水流入口)が接続されている。この排水管20は、遮水壁9の内側領域から遮水壁9を貫通して遮水壁9の外側領域に延出している。この排水管20は、遮水壁9の内側領域から外側領域に向って下り勾配となるように配設されている。
【0062】
この実施の形態では、この排水管20の他端側(流出口)は、遮水壁9の外側領域を流れる下水道(図示略)に接続されている。なお、下水道がこの排水管20よりも上位となる高さに配設されている場合には、揚水設備(図示略)を介して排水管20と下水道とを接続してもよい。
【0063】
遮水壁9の内側領域において、集水容器21に隣接して浄化・pH調整部12Aが設置されている。この浄化・pH調整部12Aは、図8に示すように、砂や砕石などの透水性材料と、汚染物質の除去ないし分解等による浄化作用を奏する浄化薬剤と、pH調整剤と、これらの透水性材料、浄化薬剤及びpH調整剤を収容した収容体24とを備えている。
【0064】
図示の通り、該収容体24は、この実施の形態では、浄化・pH調整部12Aの3方を取り囲むように略コ字形に配設された、鋼矢板等よりなる3枚の板材24a,24b,24cにより構築されている。各板材24a〜24c同士の接合部には、必要に応じシールが施されている。この収容体24のうち、これらの板材24a〜24cによって塞がれていない側が、該収容体24内への地下水の流入部24dとなっている。この流入部24dと反体側を塞いでいる板材24bには、処理された地下水の流出口24eが設けられている。この流出口24eは、配管25を介して集水容器21内に連通している。なお、上記板材24a〜24cの代りに、コンクリート壁により収容体24を構築してもよい。
【0065】
この収容体24の各板材24a〜24cは、地下水位4よりも好ましくは0〜500cm上方まで延在すると共に、該地下水位4よりも好ましくは0〜500cm下方まで延在している。前記流出口24e及び配管25は、地下水位4を含むレベルに略水平に配設されている。
【0066】
この実施の形態では、収容体24内に、前記流入部24dから流出口24eに向う方向に、第1の透水性材料の層22a、浄化薬剤の層23a、第2の透水性材料の層22b、pH調整剤の層23b及び第3の透水性材料の層22cがこの順に多層状に形成されている。
【0067】
各層22a〜22c,23a,23bは、互いに対向する板材24a,24c同士の一方の内側面から他方の内側面まで、並びに流入部24dからこれと反対側の板材24bの内側面まで、それぞれフルに充填されている。各層22a〜22c,23a,23bは、それぞれ、下面が地下水位4よりも好ましくは50〜500cm下方にまで達し、上面が該地下水位4よりも好ましくは0〜200cm上方にまで達している。
【0068】
なお、この実施の形態では、各層22a〜22c,23a,23bの上面及び下面と各板材24a〜24cの上辺及び下辺とがそれぞれ略同一レベルに位置しているが、各板材24a〜24cは、各層22a〜22c,23a,23bの下面よりも下方にまで延在していてもよく、また各層22a〜22c,23a,23bの上面よりも上方にまで延在していてもよい。
【0069】
浄化薬剤の層23a、pH調整剤の層23bはそれぞれ前述した浄化薬剤、pH調整剤により形成される。
【0070】
第1〜第3の透水性材料の層22a〜22cは、いずれも同じ種類の透水性材料により構成されてもよく、それぞれ種類の異なる透水性材料により構成されてもよい。
【0071】
この実施の形態では、浄化・pH調整部12Aの三方を板材24a〜24cで囲むことにより、水が浄化・pH調整部12Aに流入して短絡的に集水容器21へ流出することが防止されている。なお、必要に応じ、浄化・pH調整部12Aの底面や上面にも板材を設け、浄化・pH調整部12Aの底面や上面から水が浄化・pH調整部12Aに流入することを防止してもよい。
【0072】
この実施の形態では、地下水位4を含むレベルに、遮水壁9の内側の汚染地域全体にわたって櫛の歯状に集水路14Aが設けられている。なお、この実施の形態でも、集水路14Aは砂、砕石などの透水性材料よりなるが、孔あき管等により構成されてもよい。
【0073】
詳しくは、この実施の形態では、図7の通り、遮水壁9によって囲まれた方形の汚染地域8を、集水容器21が設置されたコーナー部付近から対角線状に横切るように、幹集水路14aが延設されている。この幹集水路14aの基端側は、浄化・pH調整部12Aの流入部24dに臨む第1の透水性材料の層22aの端面に接するように配置されている。
【0074】
この幹集水路14aの延在方向の途中の複数箇所から、遮水壁9の直交2方向(図7の上下方向及び左右方向)の各辺と平行に、それぞれ枝集水路14bが延出している。なお、この実施の形態では、幹集水路14aから、図7の左右方向及び上下方向にそれぞれ間隔をおいて6本ずつ枝集水路14bが延出している。
【0075】
図示はしないが、この実施の形態でも、地表1をアスファルト、コンクリート、遮水シート等によって覆い、雨水の地下浸透を防止するようにしてもよい。
【0076】
このように構成された封じ込め構造においても、降雨など何らかの原因によって遮水壁9の内側の地下水位4が上昇すると、この地下水が集水路14Aを介して又は直接に浄化・pH調整部12Aに流れ込む。この際、該集水路14Aから流入部24dを介して地下水が収容体24内に流入し、第1の透水性材料の層22a、浄化薬剤の層23a、第2の透水性材料の層22b、pH調整剤の層23b及び第3の透水性材料の層22cを順次に通過することにより、地下水の汚染物質が除去ないし無害化され、更にその後pH調整される。
【0077】
この地下水は、該浄化・pH調整部12Aで浄化された後、流出口24eから配管25、集水容器21及び排水管20を介して、遮水壁9の外側領域を流れる下水道へ流出する。この流出水は、浄化・pH調整部12Aで汚染物質の分解ないしは吸着除去処理を受け、更にpH調整されたものであり、下水道を汚染したり、周囲環境に悪影響を及ぼすことはない。
【0078】
この実施の形態にあっては、汚染地域8の略全体にわたって集水路14Aが配設されているので、該汚染地域8の略全体にわたって満遍なく地下水を集水することができる。
【0079】
上記の実施の形態では、集水容器21(排水管20の流入口)は遮水壁9の内側領域のコーナー部付近に配置されているが、集水容器21(排水管20の流入口)の配置はこれに限定されない。また、この遮水壁9の内側領域内における集水路の配置も、上記の各実施の形態に限定されない。
【0080】
また、浄化・pH調整部12,12Aは、浄化薬剤の層とpH調整剤の層との積層構造であっても良く、浄化薬剤と透水性材料の混合物の層とpH調整剤と透水性材料の混合物の層との積層構造であっても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 地表
2 帯水層
3 不透水層(又は難透水層)
4 地下水位
5 pH調整壁
6 汚染地下水浄化壁
7 矢板
8 汚染土壌
9 遮水壁
10 地盤改良領域
10A 地盤改良領域又は汚染領域
11 地下水流出部
12,12A 浄化・pH調整部
12a,23a 浄化薬剤の層
12b,23b pH調整剤の層
13 板材
14,14A,14B 集水路
20 排水管
21 集水容器
22a〜22c 透水性材料の層
24 収容体
24d 流入部
24e 流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌及び/又は地下水の処理部を流れた地下水のpHを調整する方法であって、前記処理部の下流側に透水性のpH調整壁を設け、該処理部から流下した地下水を該pH調整壁に通過させることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項2】
請求項1において、前記pH調整壁は、固形のpH調整剤、或いは、該pH調整剤及び透水性材料で形成されることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項3】
請求項2において、前記pH調整剤が、酸性白土、活性白土、珪藻土、腐植土、火山灰土壌、及び弱酸性イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項4】
請求項2において、前記pH調整剤が、鉄粉、石灰石、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及び陰イオン交換樹脂よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記処理部が地盤改良工事を施した土壌領域であることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記処理部が汚染地下水浄化壁であることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項7】
請求項6において、原位置封じ込め工法において、遮水壁と、該遮水壁内側の地下水位が上昇したときに該遮水壁内側の地下水を該遮水壁の外部に流出させる地下水流出部と、汚染地下水の浄化壁とを設け、該汚染地下水浄化壁の下流側であって、前記地下水流出部の上流側に、前記pH調整壁を設けることを特徴とする地下水のpH調整方法。
【請求項8】
請求項7において、前記地下水流出部が下水道であることを特徴とする地下水のpH調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224568(P2011−224568A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140170(P2011−140170)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【分割の表示】特願2005−255207(P2005−255207)の分割
【原出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】