説明

地下水中の特定イオンの濃度推定方法、ヘキサダイヤグラムの作成方法、地盤変位監視対象地の監視方法及び監視装置

【課題】地盤変位監視対象地の監視時において、地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を即座に推定可能とした地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度の推定方法を提供する。
【解決手段】本発明による地下水中の特定イオンの濃度推定方法は、地盤変位監視対象地を監視する前に、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度とを測定し、これら測定データに基づいて、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを求めておき、地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度を測定し、この測定データを回帰直線Aに照合することによって地下水中の特定イオンの濃度を推定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく特定イオンの濃度を即座に推定可能とした特定イオンの濃度の推定方法、この推定された特定イオンの濃度の推定値を用いたヘキサダイヤグラムの作成方法、及び、地盤変位監視対象地の地盤変位に対して事前対策を早期に図れるような地盤変位予測を可能とした地盤変位監視対象地の監視方法及び監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石の風化状態とその進行、および、地すべりや崖崩れ等の斜面崩壊予測を、土や岩石の溶出試験や地下水の水質分析などの化学的な方法で行うに際し、水溶性成分の溶出量とその変化を整理,図化して解析するとともに、地下水や地表の湧水を定期的に採水して電気伝導率を測定し、電気伝導率に大きな変化が生じた場合に、地下水中に存在する水溶性成分のうち特定イオンの濃度を化学的に分析してヘキサダイヤグラムを作成する等の詳細な水質分析を行い、その結果をも解析に加えることにより、斜面の崩壊予測を行うことが知られている(例えば、特許文献1の全文補正内容の段落0013及び0014などを参照)。
地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生するとされる地区(以下、地盤変位監視対象地という)の地下水中に存在する水溶性成分のうち、ナトリウムイオンや硫酸イオン等の特定イオンの濃度を定期的に測定し、該イオンの濃度が急激に上昇する変化が認められた場合、地盤変位監視対象地に地盤変位が発生する可能性があるとして予測する地盤変位の予測方法が知られている(例えば、特許文献2の特許請求の範囲などを参照)。
しかしながら、実際には、特許文献2のように地盤変位監視対象地の特定イオンの濃度について過去から現在に至るまでの経時的な変化を観測しても現在の地盤変位監視対象地の地盤状態を把握できるだけで、将来において当該地盤変位監視対象地に地盤変位が発生するか否かを予測(予知、予兆検知、前兆検知)することはできないことが知られている(例えば、特許文献3の段落0004などを参照)。
【特許文献1】特開2002−138453号公報
【特許文献2】特開2002−339373号公報
【特許文献3】特開2005−345110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では地盤変位監視対象地の地下水を定期的に採水してその地下水の電気伝導度を測定している。特許文献2では地下水中の特定イオンの濃度を定期的に測定している。即ち、特許文献1や文献2では、電気伝導度の測定や特定イオンの濃度の測定を定期的に行うので、監視者が、電気伝導率の大きな変化を確認した時点や特定イオンの濃度の急激上昇を確認した時点において、既に地盤変位監視対象地に地すべりなどの地盤変位が起きていることがあり、地盤変位監視対象地の地盤変位に対して事前に対策を取ることができない場合がある。
また、地盤変位監視対象地の地盤状態等をより詳細に知るためにヘキサダイヤグラムを作成するには、複数種類のイオンの濃度をそれぞれ測定しなければならない。この場合、電気的な測定機器で濃度を測定できるイオンの種類は限られているため、電気的な測定機器で濃度を測定できないイオンについては化学的分析を行うことで当該イオンの濃度を測定していた。従って、ヘキサダイヤグラムの作成に必要な特定イオンの濃度の測定に手間や時間がかかってしまって、特定イオンの濃度に関する情報を即座に得ることができない。よって、ヘキサダイヤグラムも即座に作成することができず、地盤変位監視対象地の地盤状態等を容易かつ即座に知ることができなかった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、地盤変位監視対象地の地盤変位に対して事前に対策を取ることができるような地盤変位予測を可能とした地盤変位監視対象地の監視方法及び監視装置、地盤変位監視対象地の監視時において、地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を即座に推定可能とした地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度の推定方法、及び、この推定された特定イオンの濃度に基づいてヘキサダイヤグラムを即座にかつ容易に作成可能としたヘキサダイヤグラムの作成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明における地下水中の特定イオンの濃度推定方法は、地盤変位監視対象地を監視する前に、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度とを測定し、これら測定データに基づいて、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線を求めておき、地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度を測定し、この測定データを回帰直線に照合することによって地下水中の特定イオンの濃度を推定したことを特徴とする。
特定イオンが、複数の陽イオンの集合である陽イオン群、複数の陰イオンの集合である陰イオン群、単体イオンであることも特徴とする。
本発明におけるヘキサダイヤグラムの作成方法は、上記特定イオンの濃度推定方法により得られた複数の特定イオンの濃度推定値に基づいてヘキサダイヤグラムを作成したことを特徴とする。
地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の単体イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線から地下水の電気伝導度の測定データに対応する単体イオンの濃度の推定値を上記推定方法で算出するとともに、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の上記単体イオンを含む陽イオン群又は陰イオン群の濃度との相関の強さを示す回帰直線から地下水の電気伝導度の測定データに対応する陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値を上記推定方法で算出し、陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値から単体イオンの濃度の推定値を引くことによって陽イオン群又は陰イオン群から単体イオンを除いたイオン又はイオン群の濃度の推定値を求めたことも特徴とする。
本発明における地盤変位監視対象地の監視方法は、地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地に電気伝導度計測器を設置して、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度を電気伝導度計測器で常時測定し、測定された電気伝導度の測定データを監視センターに送信したことを特徴とする。
本発明における地盤変位監視対象地の監視方法に用いる監視装置は、地盤変位監視対象地から地下水を抜くための地下水水抜きパイプと、地下水水抜きパイプを通って地盤変位監視対象地から抜かれた地下水を一時留めた後に排水する地下水測定用貯排水部と、地下水測定用貯排水部を通過する地下水の電気伝導度を常時測定する電気伝導度計測器と、電気伝導度計測器で計測された電気伝導度のデータを監視センターに送信する通信機とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明による地下水中の特定イオンの濃度推定方法によれば、地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく、地盤変位監視対象地の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を即座に推定できるので、ヘキサダイヤグラムを作成するために必要な情報である特定イオンの濃度に関する情報としての濃度推定値を、素早く、かつ、容易に知得できる。
本発明によるヘキサダイヤグラムの作成方法によれば、特定イオンの濃度推定値に基づいてヘキサダイヤグラムを即座に作成することができ、地盤変位監視対象地の地盤状態等を容易かつ即座に知ることができる。
本発明における地盤変位監視対象地の監視方法によれば、地盤変位監視対象地の地盤変位の前兆の可能性を示す地下水の電気伝導度の変化をいち早く確認でき、地盤変位監視対象地の地盤変位に対して事前に対策を取ることができるような地盤変位予測が可能となる。
本発明による監視装置によれば、上記監視方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
最良の形態1
図9は地盤変位監視対象地の監視装置及び監視方法を示す。地盤変位監視対象地の監視方法は、地盤変位監視対象地2の監視の際に、地盤変位監視対象地2に電気伝導度計測器7を設置して、地盤変位監視対象地2の地下水5の電気伝導度(ms/m)を電気伝導度計測器7で常時測定し、通信機8が、その電気伝導度の測定データを、例えば、数秒間隔、数十秒間隔、数分間隔、数十分間隔、数時間間隔、数十時間間隔などの所定時間間隔でサンプリングして所定時間間隔で図外の監視センターに送信する。所定時間間隔は、最大でも1日間隔程度とする。あるいは、通信機が、例えば、半日、一日、数日のような所定期間中に電気伝導度計測器で常時測定された電気伝導度の測定データ群(データ履歴)を、所定期間経過する毎に監視センターに送信する。所定期間は、最大でも数日程度とする。
【0007】
地盤変位監視対象地の監視方法に使用する監視装置1を説明する。図9に示すように、監視装置1は、地盤変位監視対象地2に形成された横穴3に差し込まれた地下水水抜きパイプ4と、地下水水抜きパイプ4を通って地盤変位監視対象地2から抜かれた地下水5を一時留めた後に排水する樋などにより形成された地下水測定用貯排水部6と、地下水測定用貯排水部6を通過する地下水の電気伝導度を常時測定する電気伝導度計測器7と、電気伝導度計測器7で計測された電気伝導度のデータを所定時間間隔でサンプリングして所定時間間隔で図外の監視センターに送信したり、所定期間中に電気伝導度計測器7で常時測定された電気伝導度の測定データ群(データ履歴)を所定期間経過する毎に監視センターに有線9又は無線で送信する通信機8とを備える。電気伝導度計測器7は、計測プローブ7aと計測器本体7bとを備える。通信機8は、電気伝導度計測器7で計測された電気伝導度のデータを所定時間間隔でサンプリングして所定時間間隔で監視センターに送信する場合には、図外のデータ記憶手段及びサンプリング手段を備え、所定期間中に電気伝導度計測器7で常時測定された電気伝導度の測定データ群(データ履歴)を所定期間経過する毎に監視センターに送信する場合には、図外のデータ記憶手段及び所定期間設定用タイマを備える。
【0008】
すなわち、監視装置1によれば、電気伝導度計測器7が、地下水水抜きパイプ4を通って地下水測定用貯排水部6に流れ込んだ地盤変位監視対象地2からの地下水5の電気伝導度を常時計測し、通信機8が、電気伝導度計測器7で計測された電気伝導度のデータを所定時間間隔で監視センターに送信したり、所定期間中に電気伝導度計測器で常時測定された電気伝導度の測定データ群を所定期間経過する毎に監視センターに送信する。
【0009】
最良の形態1による地盤変位監視対象地の監視方法及び監視装置によれば、地盤変位監視対象地2の監視の際に、地盤変位監視対象地2の地下水5の電気伝導度を電気伝導度計測器7で常時測定し、通信機8によってその電気伝導度の測定データを監視センターに送信するので、監視センターの監視員が、地盤変位監視対象地2の地下水5の電気伝導度の変化を、変化が生じた時点から早い時期に確認することができるようになる。このため、監視センターの監視員が、地盤変位監視対象地2の地盤変位の前兆の可能性を示す地下水5の電気伝導度の変化をいち早く確認でき、地盤変位監視対象地2の地盤変位に対して事前に対策を取ることができるようになる。即ち、地盤変位監視対象地2の地盤変位に対して事前に対策を取ることができるような地盤変位予測が可能となる。
【0010】
最良の形態2
図1乃至図6を参照し、地盤変位監視対象地2の地下水5中に含まれる特定イオンの濃度推定方法を説明する。まず、地盤変位監視対象地2を監視する前に、事前に、地盤変位監視対象地2あるいは地盤変位監視対象地2の近傍などの地盤変位監視対象地エリアを掘削して複数の異なる深度地点や複数の異なる場所地点で地下水を採取する。次に、これら採取した複数の地下水毎に、地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度とを測定する。ここでは、複数の地下水の電気伝導度のデータと、この電気伝導度のデータと相関性が強い特定イオンの濃度のデータとを測定する。尚、特定イオンの濃度の測定は、電気的に測定できる特定イオンの場合は電気的な測定器で濃度を測定し、電気的に測定できない特定イオンの場合は化学的な分析により濃度を測定する。地下水の電気伝導度は、最良の形態1と同じ電気伝導度計測器7を用いて測定する。次に、図1乃至図6に示すように、地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを求める。
【0011】
即ち、本発明者は、図1乃至図6に示すように、地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度とが強い相関性を示すことを見出した。地下水の電気伝導度とイオンの濃度とが強い相関性を示す特定イオンは、具体的には、図1に示したCa++、図2に示した陽イオン群(Ca+++Mg++)、図3に示した複数の陽イオン群(Ca+++Na+K+Mg++)、図4に示したSO−−、図5に示したHCO、図6に示した複数の陰イオン群(SO−−+HCO+Cl)である。特に、図3;図6に示すように、複数の陽イオン群(Ca+++Na+K+Mg++)や複数の陰イオン群(SO−−+HCO+Cl)の濃度と電気伝導度との相関性が強いことがわかる。尚、図1乃至図8においては、分子数を大文字で示し、イオンの符号を省略している。
【0012】
例えば、図1乃至図6に示すように、地下水毎の電気伝導度(ms/m)のデータをy座標、地下水中の複数の陽イオン(Ca+++Na+K+Mg++)の濃度(meq/l)のデータをx座標としてxy平面に点表示し、例えばガウスの最小二乗法を用いて点の相関の強さを示す回帰直線Aを求める。尚、図1乃至図6において、yで示した式は回帰直線A、Rで示した値は相関係数である。
【0013】
本形態では、地下水の電気伝導度のデータと地下水中の特定イオンの濃度のデータとが強い相関性を示すことに着目し、事前に、地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを求めておき、地盤変位監視対象地2の監視の際において、上述した監視装置1の通信機8を介して送信されてきた電気伝導度の測定データが回帰直線Aに照合されることにより地下水中の特定イオンの濃度が推定される。
【0014】
最良の形態2によれば、地盤変位監視対象地2の監視の際において、地盤変位監視対象地2の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく、地盤変位監視対象地2の監視の際に測定された地盤変位監視対象地2の地下水の電気伝導度の測定データを、事前に測定した地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度の測定データと地下水中の特定イオンの濃度の測定データとの相関の強さを示す回帰直線Aに照合することによって、地盤変位監視対象地2の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を即座に推定できる。これにより、最良の形態3で述べるヘキサダイヤグラムを作成するために必要な情報である特定イオンの濃度に関する情報としての濃度推定値を素早く(リアルタイムに)、かつ、容易に得ることができる。
【0015】
尚、地盤変位監視対象地2の監視の際において、地盤変位監視対象地2に特定イオンの濃度を電気的に測定できる図外の電気的なイオン濃度測定器を設置して特定イオンの濃度を常時測定することも考えられるが、現在、このような電気的なイオン濃度測定器で測定可能な特定イオンは、ナトリウムイオンや塩化物イオン等のような限られた特定イオンだけであるので、地盤変位監視対象地2に電気的なイオン濃度測定器を設置することによってヘキサダイヤグラムを作成するために必要なすべての特定イオンの濃度を測定することは現状では不可能である。また、地盤変位監視対象地2の監視の際において、電気的なイオン濃度測定器で測定できない特定イオンの濃度を化学的な分析により測定する場合は、時間がかかってしまうので、ヘキサダイヤグラムを作成するために必要なすべての特定イオンの濃度データを即座に得ることができず、地盤変位監視対象地2の地盤状態を知るために必要なヘキサダイヤグラムをリアルタイムに作成できない。
【0016】
一方、最良の形態2によれば、地盤変位監視対象地2の監視の際において、地盤変位監視対象地2の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を実際に測定することなく、ヘキサダイヤグラムを作成するために必要なすべての特定イオンの濃度の推定値を即座に得ることができるので、地盤変位監視対象地2の地盤の状態を知るために必要なヘキサダイヤグラムをリアルタイムに作成できるようになる。
【0017】
最良の形態3
図1乃至図8を参照し、ヘキサダイヤグラムの作成手法を説明する。最良の形態2において、監視装置1の通信機8を介して送信されてきた電気伝導度の測定データを図1乃至図6の回帰直線Aに照合してその電気伝導度の測定データに対応する特定イオンの濃度の値を推定する。そして、この特定イオンの濃度の推定値を用いて図8に示すようなヘキサダイヤグラムを作成する。
【0018】
電気伝導度の測定データに所定値以上の大きな変化が現れた場合、例えば、電気伝導度の測定データが、ある値から大きく変化して60(ms/m)になった場合において、図7を参照しながらヘキサダイヤグラムを作成する方法を説明する。
まず、図1から、電気伝導度60に対するCa++の濃度の推定値は6.02であることがわかる。次に、図2から、電気伝導度60に対する(Ca+++Mg++)の濃度の推定値は7.35であることがわかる。従って、(Ca+++Mg++)の濃度の推定値は7.35からCa++の濃度の推定値は6.02を引くことで、電気伝導度60に対するMg++の濃度の推定値1.33を求めることができる。次に、図3から、電気伝導度60に対する(Ca+++Na+K+Mg++)の推定値は8.23であることがわかる。この(Ca+++Na+K+Mg++)の推定値8.23から(Ca+++Mg++)の濃度の推定値7.35を引くことで、電気伝導度60に対する(Na+K)の濃度の推定値0.88を求めることができる。図4から、電気伝導度60に対するSO−−の濃度の推定値は3.17であることがわかる。図5から、電気伝導度60に対するHCOの濃度の推定値は2.62であることがわかる。図6から、電気伝導度60に対する(SO−−+HCO+Cl)の濃度の推定値は5.79であることがわかる。そして、この(SO−−+HCO+Cl)の濃度の推定値5.79からSO−−の濃度の推定値3.17とHCOの濃度の推定値2.62とを引くことで、電気伝導度60に対するClの濃度の推定値0.00を求めることができる。
【0019】
以上により、電気伝導度60の時の、Ca++の濃度の推定値6.02、+Mg++の濃度の推定値1.33、(Na+K)の濃度の推定値0.88、SO−−の濃度の推定値3.17、HCOの濃度の推定値2.62、Clの濃度の推定値0.00が求まり、これに基づいて、図8(a)に示すような、電気伝導度60の際のヘキサダイヤグラムを作成できる。監視者は、このように作成されたヘキサダイヤグラムを見て地盤変位監視対象地2の地盤状態の詳細を把握できる。
尚、図8(b)のヘキサグラムは、図1乃至図6に基づいて作成した電気伝導度20の際のヘキサダイヤグラムである。
【0020】
即ち、最良の形態3では、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中のCa++、SO−−、HCOのような単体イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線Aから地下水の電気伝導度の測定データに対応する特定の単体イオンの濃度の推定値を算出するとともに、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の上記単体イオンを含む(Ca+++Na+K+Mg++)、(Ca+++Mg++)のような陽イオン群又は(SO−−+HCO+Cl)のような陰イオン群の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aから地下水の電気伝導度の測定データに対応する陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値を算出し、陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値から単体イオンの濃度の推定値を引くことによって陽イオン群又は陰イオン群から単体イオンを除いたイオン又はイオン群の濃度の推定値を求める。
【0021】
最良の形態3によれば、電気伝導度の測定データを、地下水の電気伝導度と地下水中に溶けている特定イオンの濃度との相関の強さを示す、例えば、図1乃至図6に示すような複数の回帰直線Aに照合して複数の特定イオンの濃度を推定し、これら複数の特定イオンの濃度の推定値を用いてヘキサダイヤグラムの作成に必要な特定イオンの濃度の推定値を算出するので、ヘキサダイヤグラムを即座にかつ容易に作成できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
地盤変位監視対象地2の異なる複数箇所に図9に示す監視装置1を設置すれば、異なる複数箇所でのヘキサダイヤグラムを得ることができ、複数のヘキサダイヤグラムを見て、地盤の動いている箇所を特定することも可能となる。
また、最良の形態2;3では、監視装置1の通信機8を介して所定期間間隔で送信されてきた電気伝導度の測定データを回帰直線Aに照合する場合を説明したが、地盤変位監視対象地2の地下水の電気伝導度を不定期的又は上記所定期間間隔より長い間隔で定期的に測定した測定データを回帰直線Aに照合して地盤変位監視対象地2の地下水中に含まれる特定イオンの濃度を推定したり、この推定値を用いてヘキサダイヤグラムを作成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(Ca++)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図2】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(Ca+++Mg++)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図3】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(Ca+++Na+K+Mg++)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図4】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(SO−−)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図5】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(HCO)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図6】地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオン(SO−−+HCO+Cl)の濃度との相関の強さを示す回帰直線Aを示すグラフ(最良の形態2;3)。
【図7】ヘキサダイヤグラムの作成方法を示すフローチャート(最良の形態3)。
【図8】特定イオンの濃度推定値により作成したヘキサダイヤグラムを示す図(最良の形態3)
【図9】地盤変位監視対象地の監視装置を示す断面図(最良の形態1)。
【符号の説明】
【0024】
1 監視装置、2 地盤変位監視対象地、7 電気伝導度計測器、
8 通信機、A 回帰直線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤変位監視対象地を監視する前に、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度とを測定し、これら測定データに基づいて、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度と地下水中の特定イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線を求めておき、地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度を測定し、この測定データを回帰直線に照合することによって地下水中の特定イオンの濃度を推定したことを特徴とする地下水中の特定イオンの濃度推定方法。
【請求項2】
特定イオンが、複数の陽イオンの集合である陽イオン群、複数の陰イオンの集合である陰イオン群、単体イオンであることを特徴とする請求項1に記載の地下水中の特定イオンの濃度推定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の特定イオンの濃度推定方法により得られた複数の特定イオンの濃度推定値に基づいてヘキサダイヤグラムを作成したことを特徴とするヘキサダイヤグラムの作成方法。
【請求項4】
地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の単体イオンの濃度との相関の強さを示す回帰直線から地下水の電気伝導度の測定データに対応する単体イオンの濃度の推定値を請求項2に記載の推定方法で算出するとともに、地盤変位監視対象地エリアの地下水の電気伝導度と地下水中の上記単体イオンを含む陽イオン群又は陰イオン群の濃度との相関の強さを示す回帰直線から地下水の電気伝導度の測定データに対応する陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値を請求項2に記載の推定方法で算出し、陽イオン群又は陰イオン群の濃度の推定値から単体イオンの濃度の推定値を引くことによって陽イオン群又は陰イオン群から単体イオンを除いたイオン又はイオン群の濃度の推定値を求めたことを特徴とする請求項3に記載のヘキサダイヤグラムの作成方法。
【請求項5】
地盤変位監視対象地の監視の際に、地盤変位監視対象地に電気伝導度計測器を設置して、地盤変位監視対象地の地下水の電気伝導度を電気伝導度計測器で常時測定し、測定された電気伝導度の測定データを監視センターに送信したことを特徴とする地盤変位監視対象地の監視方法。
【請求項6】
請求項5に記載された地盤変位監視対象地の監視方法に用いる監視装置であって、地盤変位監視対象地から地下水を抜くための地下水水抜きパイプと、地下水水抜きパイプを通って地盤変位監視対象地から抜かれた地下水を一時留めた後に排水する地下水測定用貯排水部と、地下水測定用貯排水部を通過する地下水の電気伝導度を常時測定する電気伝導度計測器と、電気伝導度計測器で計測された電気伝導度のデータを監視センターに送信する通信機とを備えたことを特徴とする地盤変位監視対象地の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−102841(P2009−102841A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273978(P2007−273978)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(503368214)社団法人東北建設協会 (7)
【出願人】(306046760)有限会社YM企画 (7)
【Fターム(参考)】