説明

地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法

【課題】地下水位以深における既存杭の先端支持力及び周面摩擦力を既存状態、又は再利用した状態で測定し適正な支持性能を評価する既存杭の鉛直載荷試験方法を提供する。
【解決手段】試験対象の既存杭の杭頭をのみ込んだ基礎部材における杭頭の外周位置又は杭頭の外周位置から離れた近傍位置で杭頭と基礎部材との縁切りを、基礎部材の下端部を一部残して行い、縁切りにより形成した凹部又は切り口を可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイント部材で水密的に遮蔽して止水処理し、既存杭の上端部へ、載荷試験装置を組み立て、既存杭に鉛直荷重を加え、先ず基礎部材の残存部を破断させて既存杭の支持性能を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の建て替えに際し、既存建物に使用された既存杭を、新築建物の杭として再利用できるかどうか、同杭の支持性能を確認するために実施する既存杭の鉛直載荷試験方法(以下、単に載荷試験方法という場合がある。)の技術分野に属し、更に云うと、地下水位以深における既存杭の先端支持力及び周面摩擦力を既存状態若しくは再利用した状態で測定して適正な支持性能の評価が可能な既存杭の鉛直載荷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建物の建て替えに際し、既存建物に使用された既存杭を新築建物の杭として再利用して、工期の短縮やコストの削減、環境負荷低減等が図られている。この際、既存杭に鉛直載荷試験を実施し、同既存杭の先端支持力、周面摩擦力等の支持性能及び総合的な健全性を確認して、利用価値のある既存杭を再利用するか否かを評価している。既存杭の鉛直載荷試験方法としては、例えば以下のような技術が公知である。
【0003】
特許文献1の「既設杭を利用した建物の構築方法」には、既存建物における所定の既存杭(既設杭)の頭部を所定の高さで切断して基礎スラブと縁切りし、該縁切りした基礎スラブと既存杭の間にジャッキを設置し、前記基礎スラブに反力をとって既存杭の鉛直載荷試験を実施する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2の「既存の場所打ちコンクリート杭の利用方法」には、既存建物を解体し既存杭の頭部まで地盤を掘削した後に、前記既存杭の長さ方向の貫通孔を穿設し、更に杭下の地盤まで削孔する。前記貫通孔に除去式アンカーを挿入して杭下の地盤中に固定し、前記アンカー筋を緊張して既存杭の鉛直載荷試験を実施する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−264247号公報
【特許文献2】特許第2851537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2の既存杭の鉛直載荷試験には、以下のような問題点がある。即ち、これらの発明は載荷位置が地下水位以上で実施されるものであり、地下水位以深のレベルである場合についての対策については何ら記載されていない。地下水位以深の場合には載荷装置の組み立て時、また載荷試験最中に湧水を水中ポンプ等により揚水する作業を連続的に行う必要がある。したがって、非常に面倒で手間が掛かるしコストが嵩む。のみならず、既存杭の周辺に湧水の流れが発生してしまうので既存杭の周面摩擦力や先端支持力を実際より小さく測定してしまい支持性能を適正に評価できない。また、特許文献2については、既存杭の頭部まで地盤を掘削するため試験装置が地下水に浸かってしまうことになり機器等を故障させてしまう虞がある。
【0006】
前記湧水の流れを防止するため、既存山留め壁、連壁等を利用する方法や、載荷試験に先行して止水山留め壁を構築し、ディープウェルやウェルポイントを用いて揚水を行い載荷試験実施場所でのドライワークを確保する方法が考えられる。しかし、これらの方法は非常に手間と時間が掛かるだけでなく、杭周面の地盤を締め固めた後に載荷試験をするので、既存杭の周面摩擦力を実際より大きく測定してしまい支持性能を適正に評価できない。
【0007】
上記特許文献1及び2は、既存建物を解体した後、又は既存杭の頭部まで地盤を掘削した後に鉛直載荷試験を行う手順である。そのため、既存杭の先端支持力、周面摩擦力等の支持性能及び総合的な健全性の把握には時間が掛かり設計工程において工期が長期化される問題がある。更に地下水位以深である場合には揚水井戸の掘削や揚水作業が付加されるためその問題は深刻となる。
【0008】
本発明の目的は、既存杭の載荷位置が地下水位以深において、既存杭周辺に湧水の流れを引き起すことを防止して既存杭の先端支持力及び周面摩擦力を既存状態若しくは再利用した状態で測定でき、安価で簡易な構造で実施可能であり、載荷試験を先行して行ない工期の短縮を図れる地下水位以深の既存杭の鉛直載荷試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法は、
建物の建て替えに際し、既存建物に使用された既存杭を再利用するための鉛直載荷試験方法であって、
試験対象の既存杭の杭頭をのみ込んだ基礎部材における杭頭の外周位置又は杭頭の外周位置から離れた近傍位置で杭頭と基礎部材との縁切りを、基礎部材の下端部を一部残して行う工程と、
前記縁切りにより形成した凹部又は切り口を可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイント部材で水密的に遮蔽して止水処理する工程と、
前記既存杭の上端部へ、載荷試験装置を組み立て、既存杭に鉛直荷重を加え、先ず基礎部材の前記残存部を破断させて既存杭の支持性能を測定することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法において、
基礎部材の下端部を一部残して縁切りした凹部又は切り口へ、地下水の噴出に抵抗する補助材を充填することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載した地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法において、
基礎部材の下端部を一部残して縁切りする工程は、基礎部材の下側に位置する捨てコンクリート部分の全部又は一部の厚さを残して縁切りすることを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、地下水位以深の既存杭の鉛直載荷試験方法として、基礎部材の下端部を一部残して縁切りした凹部又は切り口に可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイントを設置する構成としたので、以下のような効果を奏する。
(1)既存杭2周辺に湧水の流れが発生することを防止して先端支持力及び周面摩擦力の低下の因子を排除できる。しかるに、既存状態若しくは再利用した状態での既存杭2aの先端支持力及び周面摩擦力を測定して支持性能を適正に評価し再利用するか否かの正確な判断ができる。
(2)載荷位置に水が及ぶことがないので、ジャッキ90等の載荷試験装置9が水に浸かるなどして機器の故障を招くという問題を低減することができる。
(3)既存建物1の解体作業を待つことなく、また揚水作業をすることなく載荷試験を先行して行えるため設計工程の確保もっては全体の工期の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、建物の建て替えに際し、既存建物1に使用された既存杭2を再利用するための鉛直載荷試験方法である。
試験対象の既存杭2aの杭頭をのみ込んだ基礎部材3における杭頭の外周位置又は杭頭の外周位置から離れた近傍位置で杭頭と基礎部材3との縁切りを、基礎部材3の下端部を一部残して行う。
前記縁切りにより形成した凹部4を可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイント部材5で水密的に遮蔽して止水処理する。
前記既存杭2aの上端部へ、載荷試験装置9を組み立て、既存杭2aに鉛直荷重を加え、先ず基礎部材3の前記残存部Sを破断させて既存杭2aの支持性能を測定する。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。本発明の載荷試験方法は、建物の建て替えに際し、既存建物1に使用された地下水位以深の既存杭2を再利用できるかを、試験対象の既存杭2aの支持性能を確認することにより実施される。
【0015】
先ず、図1に示すように、試験対象の地下水位以深の既存杭2aの杭頭をのみ込んだ基礎部材3における杭頭の外周位置から離れた近傍位置で杭頭と基礎部材3の縁切りを行う。図示例の基礎部材3は、マットスラブ3a又は耐圧板3aとした構成を示した。
具体的には、複数本の既存杭2…の中から試験対象の試験杭2a(以下、単に既存杭2aと云う)を選択し、同杭頭の外周位置から離れた近傍位置で例えば2重管式コアリングを行い縁切りする。この際、前記基礎部材3の下端部を一部を残して残存部Sを形成するようにコアリングを行う。これは基礎部材3(若しくは残存部S)の直下位置に存在する地下水が湧き出る問題を防止するためである。
縁切り箇所はこの限りではなく、杭頭の外周位置に沿う位置としても良い。また、前記縁切りの方法はコアリングに限らず、コンクリートカッター又ははつり機械で切り込みを入れて行う方法でも良い。
【0016】
図2に、前記基礎部材3が基礎梁3b又はフーチング3bを有する構成の場合を示した。この場合、杭頭の外周位置に沿って縁切りすることは施工上行わなず、杭頭の外周位置から離れた近傍位置から縁切りを行う。その縁切り箇所は、図示例の如くフーチング3bの近傍位置とされるが、同フーチング3bの外周面に沿う位置としても良い。
したがって、本発明は基礎部材3の構成に影響されることなく実施することができる。
【0017】
また、上記基礎部材3(マットスラブ3aとフーチング3bの両方の場合を含む)の下端部を一部残して縁切りする他の手段として、図3Aに示すように基礎部材3の下側に位置する捨てコンクリート3cの上面まで縁切りして、同捨てコンクリート3cの全部の厚さを残すこと。また、図3Bに示すように前記捨てコンクリート3cに潜り込みその一部(下端部)の厚さを残すように縁切りすることもなされる(請求項3記載の発明)。図示例では、捨てコンクリート3cを有する場合を示したが、勿論、捨てコンクリート3cを有さない基礎部材においても、同基礎部材の下端部の一部を残して縁切りを行うことがなされる。
【0018】
次に、図4に示すように、前記縁切りにより形成した凹部4(又はコンクリートカッターにより形成された切り口)を水密的に遮蔽する可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイント部材5を設置して止水処理を行う。
図示したジョイント部材5は、例えばクロロプレンゴムや硬いゴム材又は金属製の成形板とされ、断面形状がU字型に突出した中央部5aとその両端の水平部5bとから構成されている。前記ジョイント部材5は凹部4を跨ぎ且つ前記中央部5aが凹部4の上方に位置する配置で、水平部5b、5bが基礎部材3(3a)、3(3a)とボルト6により固定されて凹部4を水密的に遮蔽している。
【0019】
前記中央部5aがU字型に突出されているのは、載荷試験時に荷重段階に応じて可撓性又は伸び縮み性が発揮されて沈下に追従するためである。勿論、形状はこの限りではなく図5に示すような断面形状がM字型のもの又は断面形状が一定していない波状のものをとしてもよい。
止水性を更に向上させるために、図4に示したように、前記縁切りした凹部4へ、地下水の噴出に抵抗する補助材7を充填することが望ましい(請求項2記載の発明)。補助材7としては、例えばウエス(布きれ)、土嚢、水膨張系のゴム材、ウレタン等が好適に使用される。また、ジョイント部材5の水平部5bの両壁面にシーリング処理8を施すことも好適に行われる。
【0020】
前記基礎部材3が基礎梁3b又はフーチング3bを有する構成において、前記凹部4が同フーチング3bの外周面に沿って形成さられている場合、前記ジョイント部材5の水平部5b、5bは、図6に示すように基礎部材3とフーチング3bの外壁面とにボルト接合して設置される。
【0021】
最後に、載荷試験装置9を組み立て、既存杭2aに鉛直荷重を加える。具体的には例えば図1及び図2に示すように既存杭2aの上端部へ、近傍の既存建物躯体1aに反力をとるジャッキ90を含む載荷試験装置9を組み立て、前記ジャッキ90により試験荷重を加え、基礎部材3の前記残存部Sを破断させて支持性能を測定する。載荷試験装置9としては、前記ジャッキ90による方法ではなく、反力杭及び載荷桁を利用する方法又は建物荷重を利用した方法若しくは他の急速載荷試験方法等のいずれの方法でも実施することができる。因みに上記の鉛直載荷試験方法は、既存建物1の解体作業を待つことなく、また地下水の揚水作業をすることなく、最も早い段階で先行して行うことができる。
【0022】
残存部Sの破断時に、地下水を誘引するが前記ジョイント部材5が凹部4を水密的に遮蔽して止水性を十分に発揮して、地下水を止めて載荷面に水が及ばないし、既存杭の周面に湧水の流れが発生することも防止している。この状況は、既存杭を再利用した状況(既存状態)と同様であると見なすことができる。
【0023】
したがって、既存杭の先端支持力、周面摩擦力を既存状態若しくは再利用した状態で測定し再利用するか否かの正確な評価ができるし、ジャッキ等の載荷装置が水に浸かるなどして機器の故障を招くという問題を低減することができる。更には、既存建物1の解体作業を待つことなく、更には揚水作業を行う必要がないため、載荷試験を先行して最も早い段階で行うことができ、設計工程の確保もっては全体の工期の短縮を図ることができるのである。
【0024】
その後、既存建物1を解体し、支持性能を確認した既存杭2aを、新築建物の杭として再利用する。この際、新規建物荷重に対し、既存杭の支持性が小さい場合には、増し杭を打設し合算することにより支持性能を確保しても良い。
【実施例2】
【0025】
図7に前記ジョイント部材5の他の実施例を示した。即ち、縁切りにより形成した凹部4の直上位置から更に同凹部4より口径の広い埋め戻し孔10をコアリングによりその上層に設ける。その後、ジョイントユニット50を前記埋め戻し孔10に嵌入する。前記ジョイントユニット50は、埋め戻し孔10の形状と略同形同大の下地板50aと、その底部に設けられる上記ジョイント部材5とで構成とされている。このジョイントユニット50は載荷試験後に解体することなく前記埋め戻し孔10にコンクリート等を流し込むという簡易な方法で後処理を行える。
【0026】
なお、以上に本発明の実施例を説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】基礎部材が耐圧板又はマットスラブの場合の本発明の地下水以深における既存杭の鉛直載荷試験方法を概念的に示した立面図である。
【図2】基礎部材が基礎梁又はフーチングを有する場合の本発明の地下水以深における既存杭の鉛直載荷試験方法を概念的に示した立面図である。
【図3】A、Bは基礎部材の下端部を一部残して縁切りする他の実施例を示した図である。
【図4】図1にジョイント部材を設置した一例を示した図である。
【図5】ジョイント部材の他の実施形態を示した図である。
【図6】図2にジョイント部材を設置した一例を示した図である。
【図7】止水ジョイントユニットを設置した一実地例を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 既存建物
2 既存杭
2a 試験対象の既存杭(試験杭)
3 基礎部材
3a 耐圧板又はマットスラブ
3b フーチング
4 凹部
5 ジョイント部材
50 ジョイントユニット
6 ボルト
7 補助材
9 載荷試験装置
90 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の建て替えに際し、既存建物に使用された既存杭を再利用するための鉛直載荷試験方法であって、
試験対象の既存杭の杭頭をのみ込んだ基礎部材における杭頭の外周位置又は杭頭の外周位置から離れた近傍位置で杭頭と基礎部材との縁切りを、基礎部材の下端部を一部残して行う工程と、
前記縁切りにより形成した凹部又は切り口を可撓性又は伸び縮み性と止水性を備えたジョイント部材で水密的に遮蔽して止水処理する工程と、
前記既存杭の上端部へ、載荷試験装置を組み立て、既存杭に鉛直荷重を加え、先ず基礎部材の前記残存部を破断させて既存杭の支持性能を測定することを特徴とする、地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法。
【請求項2】
基礎部材の下端部を一部残して縁切りした凹部又は切り口へ、地下水の噴出に抵抗する補助材を充填することを特徴とする、請求項1に記載した地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法。
【請求項3】
基礎部材の下端部を一部残して縁切りする工程は、基礎部材の下側に位置する捨てコンクリート部分の全部又は一部の厚さを残して縁切りすることを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載した地下水位以深における既存杭の鉛直載荷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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